説明

内視鏡の照明光学系

【課題】内視鏡先端部の光学系を変更することのない簡便かつ容易な構成により、角度成分の偏った光がライトガイドへ入射することをなくし、照明光のムラが良好に解消できるようにする。
【解決手段】内視鏡先端部では、正レンズ2を用いて光ファイバ束11から伝送された光を照明光として照射する内視鏡において、光源3からの光の量を調整する絞り10、この絞り10からの光を内視鏡先端部へ導くための光ファイバ束11との間に、一方の端面に拡散面12sを設けたガラスロッド12を配置し、角度成分の偏りのない光を光ファイバ束11へ供給することで、照明光ムラをなくす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内視鏡の照明光学系、特に照明光ムラを解消する照明光学系の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
図6(A)には、下記特許文献1,2にも記載される従来の内視鏡先端部の照明光学系が示されており、内視鏡先端部では、光源からの光を内視鏡先端部へ導くライトガイド(光ファイバ束)1の先端(出射端)側に、例えば少なくとも1つの正レンズ2を含む照明レンズが配置される。この正レンズ2は、少なくとも1面が非球面(h=fθ又はh=fsinθ、なお、h:レンズへの入射高、θ:レンズからの射出角、f:焦点距離)となっており、光量ロスが少なく、かつ広角に良好な照度分布が得られるという利点を有する。
【0003】
図6(B)には、内視鏡光源部の構成が示されており、図の光源3の光は、絞り(羽根)4でその光量が調整され、集光レンズ5を介してライトガイド1の入射端へ供給され、このライトガイド1を通った光が照明光として上記正レンズ2を介して被観察体へ照射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−119272号公報
【特許文献2】特開平5−157967号公報
【特許文献3】特開平6−148519号公報
【特許文献4】特開2006−72098号公報
【特許文献5】特開平7−49459号公報
【特許文献6】特開昭61−177416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した正レンズ2を有する照明光学系では、ライトガイド1を構成する光ファイバ束の密度ムラにより、照明光にムラ(網目状のムラ)が生じるという現象があり、この照明光ムラは、特にライトガイド1に入射される光の角度成分が偏ったときに目立つという問題があった。
【0006】
即ち、図6(A)に示されるように、例えば点Pと点Pが共役関係となり、ライトガイド1の出射端が正レンズ2の結像点と共役な位置の近傍にあるため、光ファイバ束の密度ムラが照明光ムラとして現れる。しかも、内視鏡の光源装置では、図6(B)に示されるように、例えば1枚の絞り(羽根)4により光源3からの光束を絞り、光束外周の光成分Laが多くなる場合に、ライトガイド1の入射端には角度成分が偏った光が供給されるため、上記の照明光ムラが強調される。
【0007】
図7(A)には、角度成分が偏った光、図7(B)には角度成分が偏っていない光が示されており、この図7(B)の光によれば、照明光のムラは目立たないが、図7(A)の角度成分が偏った光が多くなると、照明光のムラが目立つことになる。
【0008】
図8には、上述した照明光のムラを解消する目的を持つ従来の照明光学系の構成が示されており、図8(A)は、特許文献3に示されるもので、この文献3には、内視鏡先端部のライトガイド1の出射端と正レンズ2との間に、単ファイバ7を挿入し、ライトガイドファイバ束の網目状のムラを映り難くすることが開示されている。また、図8(B)は、特許文献4に示されるもので、この文献4には、正レンズ8の凸面に砂目8aを加工し、この砂目面の拡散効果により配光ムラを少なくすることが開示されている。
【0009】
しかしながら、図8(A)の構成は、内視鏡先端部において比較的長い単ファイバ7が増え、先端部が長くなる等の不都合があり、図8(B)の構成は、ライトガイド1を介して先端部まで供給した光の利用効率が低下し、正レンズ2等において高効率の非球面レンズを設計しても、そのアドバンテージを失うことになる。また、上記光利用効率が低下することで照明光学系が発熱し、これが先端部での発熱の増加に繋がるという不都合がある。即ち、内視鏡では、患者の苦痛軽減、観察性能向上の観点で、先端部の細径化、撮像素子の高画素化が図られており、これに伴う放熱経路の減少、撮像素子の消費電力の増大等により先端部の発熱が増加する傾向にあり、このような観点からも、上記照明光学系の発熱の抑制が要請される。
【0010】
一方、ライトガイドに対し角度成分が偏った光が供給されないようにする従来の技術として、特許文献5,6に示されように、光源光学系を専用の機構により最適化し、ライトガイドファイバ束に入射する光の角度成分をコントロールするものが存在する。しかしながら、このような従来技術では、最適化のための機構が複雑で高価になるという問題がある。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、内視鏡先端部の光学系を変更することのない簡便かつ容易な構成により、角度成分の偏った光がライトガイドへ入射することをなくし、照明光のムラが良好に解消できる内視鏡の照明光学系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、光源からの光の量を調整する絞りと、この絞りからの光を内視鏡先端部へ導くための光ファイバ束(ライトガイド)と、この光ファイバ束から出射される光を被観察体へ照射する照明レンズとを有する内視鏡の照明光学系において、上記絞りと光ファイバ束との間に、拡散体を配置したことを特徴とする。
請求項2の発明は、上記拡散体として、少なくとも一端に拡散面を設けたガラスロッド又はファイバロッドを配置したことを特徴とする。
請求項3の発明は、上記拡散体として、少なくとも一端に拡散面を形成したカバーガラスを配置したことを特徴とする。
請求項4の発明は、上記拡散体として、拡散作用を持つ材質(例えばオパール)のカバーガラスを配置したことを特徴とする。
請求項5の発明は、光源からの光の量を調整する絞りと、この絞りからの光を内視鏡先端部へ導くための光ファイバ束と、この光ファイバ束から出射される光を被観察体へ照射する照明レンズとを有する内視鏡の照明光学系において、上記光ファイバ束の入射端を拡散面に形成することを特徴とする。上記請求項1及び5の発明においては、上記照明レンズとして正(パワー)レンズを組み合わせることが好ましい。
【0013】
本発明の構成によれば、光源光が絞りにより絞られたときように角度成分の偏った光は、拡散体又は光ファイバ束の入射端拡散面によって角度成分の偏っていない光に変換されることになり、この角度成分の偏りのない光が光ファイバ束に入射されるので、正レンズを通して光照射した場合でも、ムラのない照明光が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の内視鏡の照明光学系によれば、内視鏡先端部の光学系を変更することのない簡便かつ容易な構成によって、角度成分の偏った光がライトガイドへ入射することがなく、照明光のムラが良好に解消できるという効果がある。その結果、内視鏡先端部が長くなることもなく、そして先端部の発熱を増加させることが防止され、また入射光の角度成分をコントロールする機構も必要ないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施例に係る内視鏡の照明光学系の構成を示す図である。
【図2】第1実施例の照明光学系の具体的構成を示し、図(A)は光源装置の構成図、図(B)は内視鏡側のコネクタ部(ライトガイド入射端部)の断面図である。
【図3】第2実施例の照明光学系の内視鏡側コネクタ部(ライトガイド入射端部)の構成を示す断面図である。
【図4】第3実施例の照明光学系のライトガイド入射端の構成を示す図である。
【図5】実施例の照明光学系に用いられる絞りの構成を示す図である。
【図6】従来の内視鏡の照明光学系の構成を示し、図(A)は内視鏡先端部側の図、図(B)は光源装置側の図である。
【図7】ライトガイド入射端に入射する光の内、角度成分が偏った光[図(A)]と角度成分が偏っていない光[図(B)]の強度を示す図(縦軸I:強度、横軸θ:角度)である。
【図8】従来の内視鏡先端部の照明光学系の2つの構成例[図(A),(B)]を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1乃至図3には、本発明の第1実施例に係る内視鏡の照明光学系が示されており、第1実施例では、光源3と集光レンズ5との間に、1枚の絞り羽根10が設けられ、光源3の光を内視鏡先端部へ導くための光ファイバ束11(ライトガイド)の先端には、照明レンズとして、少なくとも正(パワー)レンズ2が設けられる。上記絞り羽根10は、図5に示されるように、円形基部からその下端部を、絞り軸10zを中心とした回動方向へ基部幅が縮小する状態で延出させた形(まが玉形)とされ、羽根先端から円形基部の中心へ向けて幅が小さくなる嘴形の切込み10aが設けられている。
【0017】
そして、図1に示されるように、絞り羽根10(及び集光レンズ5)とライトガイドを構成する光ファイバ束11の入射端との間に、ガラスロッド12が配置され、このガラスロッド12の光ファイバ束(入射端)側端面に砂目を施した拡散面12sが形成される。この拡散面12sは、ガラスロッド12の集光レンズ(5)側端面に形成してもよく、上記光ファイバ束側端面と集光レンズ側端面の両方に設けてもよい。
【0018】
図2には、第1実施例の具体的な構成が示されており、図2(A)の光源装置(これにはプロセッサ装置が一体とされる場合もある)14に、上述した光源3、絞り羽根10及び集光レンズ5が配置され、この光源装置14の光コネクタ受け15に、電子スコープの光コネクタ16が挿入接続される。そして、図2(B)に示される光コネクタ16には、光ファイバ束(ライトガイド)11を収納した円筒状本体18が設けられ、この本体18の取付け部に、拡散面12sを一端に設けたガラスロッド12とカバーガラス19を収納した端部材20が螺合結合される。この端部材20のガラスロッド12は、その外周に空気層21が形成されるようにして取り付けられており、このガラスロッド12に入射する光は全反射(多重反射)しながら通過する。
【0019】
第1実施例は以上の構成からなり、光源3からの光は、絞り羽根10で絞られ、集光レンズ5を介して光コネクタ16へ出射される。この光コネクタ16では、カバーガラス19を通った光源光が、ガラスロッド12及び拡散面12sを介して光ファイバ束11に入射される。実施例では、上記絞り羽根10で絞られた光源光は、図5の切込み10aからも分かるように、空間的強度分布の偏った光が多くなるが、ガラスロッド12を通過するときに、その外周の空気層21との屈折率差によって全反射を繰り返しながら伝送されることで、光の偏った空間的強度分布が平均化される。
【0020】
また、拡散面12sを通過することで光の角度が更にランダムとなり、ガラスロッド12の全反射による空間光強度分布均一効果と拡散面12sの光角度拡散効果の両方によって、角度成分の偏りが解消された、即ち光強度分布が平均化された光源光をランダムな角度で光ファイバ束11へ出力することができる。これにより、内視鏡先端部の図1の正レンズ2において、その結像点の共役位置近傍に光ファイバ束11の出力端が存在することで生じていた照明光ムラが解消される。
【0021】
図3には、第2実施例の構成が示されており、この第2実施例の光コネクタ22も、第1実施例と同様に、光源装置14のコネクタ受け15に挿入されるものである。この光コネクタ22では、円筒状本体23の中に光ファイバ束11とカバーガラス24が設けられ、このカバーガラス24の例えば光ファイバ束側端面(反対側の光入射側端面でもよい)に砂目を施した拡散面24sが設けられる。
また、このカバーガラス24として、例えばオパールのような拡散作用を持つ材質のカバーガラスを用いてもよい。
【0022】
このような第2実施例の構成によれば、光源装置14の絞り羽根10を介して光源光の角度成分が偏った場合でも、カバーガラス24の拡散面24sにより、その角度成分が平均化され、角度の偏りのない光(光強度分布が平均化された光)が光ファイバ束11へ供給されることになり、この結果、照明光ムラが解消される。
【0023】
上述した第1及び第2実施例では、拡散体としてのガラスロッド12及びカバーガラス24を電子スコープ側の光コネクタに配置したが、上記ガラスロッド12と同等のもの又はカバーガラス24に相当する光学部材を、図2(A)に示す光源装置14側に、例えば集光レンズ5の集光位置近傍の位置26に配置してもよい。また、実施例ではガラスロッドと空気層での全反射を利用したが、コア・クラッド構造のファイバロッドを用いても良い。
【0024】
図4には、第3実施例の構成が示されており、この第3実施例では、第2実施例の図3の構成において、カバーガラス24では拡散面24sを設けず、光ファイバ束11と同様に配置した光ファイバ束26において、その入射端面を砂目とした拡散面26sを設けている。このような第3実施例でも、光ファイバ束26には角度の偏りのない光が入射され、照明光ムラが解消される。
【0025】
なお、上記拡散面12s,24s,26sは、ガラスロッド12、カバーガラス24及び光ファイバ束26の端面に直接加工してもよいし、フィルム状のものを張り付ける等のその他の方法で設けるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0026】
1…ライトガイド、 2…正レンズ、
3…光源、 10…絞り羽根、
11,26…光ファイバ束、 12…ガラスロッド、
14…光源装置、 16,22…光コネクタ、
21…空気層、 19,24…カバーガラス、
12s,24s,26s…拡散面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光の量を調整する絞りと、この絞りからの光を内視鏡先端部へ導くための光ファイバ束と、この光ファイバ束から出射される光を被観察体へ照射する照明レンズとを有する内視鏡の照明光学系において、
上記絞りと光ファイバ束との間に、拡散体を配置したことを特徴とする内視鏡の照明光学系。
【請求項2】
上記拡散体として、少なくとも一端に拡散面を設けたガラスロッド又はファイバロッドを配置したことを特徴とする請求項1記載の内視鏡の照明光学系。
【請求項3】
上記拡散体として、少なくとも一端に拡散面を形成したカバーガラスを配置したことを特徴とする請求項1記載の内視鏡の照明光学系。
【請求項4】
上記拡散体として、拡散作用を持つ材質のカバーガラスを配置したことを特徴とする請求項1記載の内視鏡の照明光学系。
【請求項5】
光源からの光の量を調整する絞りと、この絞りからの光を内視鏡先端部へ導くための光ファイバ束と、この光ファイバ束から出射される光を被観察体へ照射する照明レンズとを有する内視鏡の照明光学系において、
上記光ファイバ束の入射端を拡散面に形成することを特徴とする内視鏡の照明光学系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−120627(P2011−120627A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278506(P2009−278506)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】