内視鏡保持装置
【課題】内視鏡保持装置の触覚センサの素子部におけるセンサ特性調節機構を提供し、センサ素子の検知特性の校正を容易に行えるようにする。
【解決手段】患者の体腔に挿入される内視鏡を保持するための内視鏡保持装置であって、手術台に近接して、患者の患部上方付近に内視鏡の先端を臨ませ得るアームと、前記アームの先端近傍に配設され、内視鏡が体腔に挿入される部位を中心として、平面状の円弧を描いて左右方向に移動可能な第1保持部と、第1保持部に配設され、体腔挿入部位を中心として、垂直面上の円弧を描いて上下方向に移動可能な第2保持部と、第2保持部に配設され、斜め前後方向に移動可能な第3保持部とからなり、第3保持部に対しコイル状炭素繊維を含有する触覚センサ56を介して前後方向の軸線に沿って移動可能に保持されるとともに、該触覚センサに対するセンサ特性調整部材80が具備されていることを特徴とする。
【解決手段】患者の体腔に挿入される内視鏡を保持するための内視鏡保持装置であって、手術台に近接して、患者の患部上方付近に内視鏡の先端を臨ませ得るアームと、前記アームの先端近傍に配設され、内視鏡が体腔に挿入される部位を中心として、平面状の円弧を描いて左右方向に移動可能な第1保持部と、第1保持部に配設され、体腔挿入部位を中心として、垂直面上の円弧を描いて上下方向に移動可能な第2保持部と、第2保持部に配設され、斜め前後方向に移動可能な第3保持部とからなり、第3保持部に対しコイル状炭素繊維を含有する触覚センサ56を介して前後方向の軸線に沿って移動可能に保持されるとともに、該触覚センサに対するセンサ特性調整部材80が具備されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下手術において内視鏡が患者の体腔および臓器に与える負荷を検知することができる触覚センサを有する内視鏡保持装置において、該触覚センサを校正するための部材に関するものである。さらに詳しくは、コイル状炭素繊維を配合した触覚センサを内視鏡と密着させて、内視鏡に加えられる他からの触圧を感度良く検知することができるものである。
【背景技術】
【0002】
低侵襲手術は、患者の身体的負担が少なく、とりわけ幼児や高齢者等の回復力に不安のある患者には効果的な手術法であり、患者の早期回復や医療費削減の面からも有効である。なかでも、内視鏡手術は、腹腔、胸腔(以下、体腔という)にかぎらず殆どの部位に適用でき、侵襲が小さく、胸部等深い部位での視野の確保、手術時間の短縮が可能で、術後の創部の疼痛が少ないなど患者のQOL(Quality of Life)の面からも、発展、普及が期待されている。この内視鏡手術は、医者自身の高度な技術を必要とすることは無論、手術中に常に最適な視野を確保することが最も重要であると言われる。
【0003】
このため、術中の充分な視野情報等を提供する高機能内視鏡、内臓諸器官の映像を提供する撮像系、術者の意のままに動かすことのできる高操作性を有する器具・装置、そして術中の手術機器の位置や画像情報等を統合管理する手術安全支援システムの開発が精力的に進められている。
【0004】
内視鏡下手術は、例えば全身麻酔の後、仰臥している患者の患部を切り開くことなく小さな穴を数カ所にあけて、そこから体腔内に、CCDセンサを取り付けた電子内視鏡や手術鉗子などの器具を挿入し、該内視鏡により得られる疾患部位等の映像をモニタに映し出すと共に、執刀医は該モニタ映像を視認しながら手術を行うものである。通常、視野および内視鏡の動きの自由を確保するため、気腹(腹腔内にガスを送り込んで腹を膨らませること)が行われる。
【0005】
内視鏡がとらえる術野の調整は執刀医自身が行うことが望ましいのであるが、その場合には、内視鏡と鉗子等の手術具とを持ち替える必要があるため、従来、内視鏡の視野操作は助手が行うことが一般的であった。しかし、執刀医が確認したい部位の画像を即時に表示することが困難であること、どうしても人の手により保持しようとするとブレが生じ、これがすなわちモニタ映像のブレとして現れるので、手術の遂行に悪影響を及ぼすなどの理由から、機械的に内視鏡を保持する装置が開発され、本発明者らも、その具体的な保持装置について既に提案を行っている(特許文献1)。係る内視鏡保持装置は、内視鏡が体腔に挿入される部位を中心として左右方向に移動可能な第1保持部と、体腔に挿入される部位を中心として上下方向に移動可能な第2保持部と、体腔に挿入される部位を通過点とする斜め前後方向に移動可能な第3保持部とを備え、内視鏡は第3保持部に保持されている。すなわち、内視鏡は左右方向、上下方向、斜め前後方向に移動可能に構成されているのである。
【0006】
また、前記内視鏡保持装置に、内視鏡が体腔に挿入される部位に加わる負荷及び内視鏡端部の臓器への接触を検知することができるように、第3保持部に対してコイル状炭素繊維を含有する触覚センサを介して斜め前後方向の軸線に沿って移動可能に保持されるように構成した装置についても提案している(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−129956号公報
【特許文献2】特開2008−17903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かくして、前記触覚センサの導入により内視鏡の位置情報、周囲臓器への接触情報などが詳細に検出可能となり、内視鏡下手術の普及に貢献するところが大きい。しかし、本発明者らはその後も継続的に改良・改善を試みたところ、次のような課題が考慮されるべきであることが判明した。すなわち、前記触覚センサは、コイル状炭素繊維が樹脂又はゴムに分散されて形成されたもので、製造方法の容易さ、製造コストの低減化、検出感度の高さなどは十分であると思われるものの、製造方法が簡易であるが故に、得られるセンサの各ロットごとの均質性、保持装置に適用したときのセンサ検出感度の調整などに、さらなる改善の余地が認められたのである。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するために成されたもので、その目的とするところは、内視鏡保持装置の触覚センサの素子部におけるセンサ特性調節機構を提供し、センサ素子の検知特性の校正を容易に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の触覚センサを有する内視鏡保持装置は、以下の構成よりなる。手術台に近接して位置調節自在に配置され、患者の患部上方付近に内視鏡の先端を臨ませ得るアームと、前記アームの先端近傍に配設され、前記内視鏡が体腔に挿入される部位を中心として、平面状の円弧を描いて左右方向に移動可能な第1保持部と、前記第1保持部に配設され、前記内視鏡の体腔挿入部位を中心として、垂直面上の円弧を描いて上下方向に移動可能な第2保持部と、前記第2保持部に配設され、前記内視鏡の体腔挿入部位を通過点とする斜め前後方向に移動可能な第3保持部とからなり、前記内視鏡は、第3保持部に対しコイル状炭素繊維を含有する触覚センサを介して前後方向の軸線に沿って移動可能に保持される内視鏡保持装置において、前記触覚センサに対して予め圧力を負荷して該触覚センサを校正するセンサ特性調整部材を有することを特徴とする。
【0010】
前記センサ特性調整部材は、仮に触覚センサごとに多少の検出感度に幅がある、あるいは保持装置に固定する際の保持力に差異があるとしても、予めセンサに負荷を与えて検出のゼロ点調整を行うことにより、センサの感度が高い領域・範囲でセンシングすることを可能にするものである。
【0011】
前記センサ特性調整部材は触覚センサにある程度の触圧で接触させられるものであれば、どんなものでもよいが、例えば螺進によりセンサ素子に接近するようなものである場合などには、センサ特性調整部材と触覚センサとの間に該触覚センサを圧縮するためのセンサ圧縮板をさらに挟装することができる。つまり、センサ特性調整部材が螺進する際にセンサ特性調整部材と触覚センサとが直接面接触すると、センサ素子に対してセンサ特性調整部材の進行方向に対する触圧だけでなく、接触面同士の摩擦力により捻れ方向へも力が加えられるおそれがあり、そのような場合にも間に別部材として圧縮板が存在することにより、余分な力(前記のように接触面近傍の捻れ)の作用を防止することができるからである。
【0012】
また、前記センサ特性調整部材が触覚センサを内視鏡に向けて押圧するように、触覚センサの周囲を押圧する構造を有することもできる。触覚センサの内視鏡に対する密着度を高め、検出感度を向上させることができるからである。また、同様の理由から、前記センサ特性調整部材が触覚センサと内視鏡との間に介挿される構造を有することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の内視鏡保持装置は、触覚センサにより内視鏡が体腔に挿入される部位に加わる負荷及び内視鏡の臓器への接触を検知することができるので、挿入部位や臓器への負荷を軽減することができる。本発明の触覚センサには、予めセンサ特性調整部材が接触してセンサに若干の負荷をかけている。これはセンサのダイナミックレンジの閾値外、特に検出が開始される側において、全く負荷の無い状態をゼロ点とするのではなく、センサが変化を感知し始める直後位をゼロ点に調整することによって、僅かな変化を見逃すことなく検出することができるようになる。これによって、センサ毎のダイナミックレンジの相違や、触覚センサを介した内視鏡の固定時における保持力の相違などを気にすることなく常に鋭敏な検出状態に維持できる効果がある。
【0014】
前記センサ特性調整部材と触覚センサの間に挟装させるセンサ圧縮板はセンサ特性調整部材からの応力を触覚センサに均一に伝達することができる。これによってセンサの場所による感度調整のバラツキを抑え、またセンサ特性調整部材からの不要な応力の伝播を制限する効果もある。さらに、触覚センサを内視鏡により密着させるために、触覚センサを周囲から内視鏡方向に向けて押圧するような構造、或いは触覚センサと内視鏡との間に介挿するような構造を有することで、僅かな変化を見逃すことなく検出することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明について添付図面に基づいて具体的に説明する。
(内視鏡保持装置の全体構成)
内視鏡保持装置の全体構成については本発明者が先に提案した、特開2004−129956号公報または特開2008−17903号公報に詳細に記載されているので、参考としてここに引用する。
図7に示すように、内視鏡を用いる手術は、手術台に仰臥している患者の体腔に、CCDセンサが組み込まれた電子内視鏡11を挿入し、該内視鏡11により得られる内臓諸器官の映像をモニタに映し出すと共に、執刀医が該モニタ上の映像を視認しながら行なわれる。助手は執刀医を補助しながら、術野の確保、機器の調整を行う。電子内視鏡11による手術に際しては、患部に該内視鏡11を挿通させるに必要な最小限の切開を行ない、その開口に挿入されたカニューレを介して電子内視鏡11を差し込み、また炭酸ガスを必要量注入して体腔を膨満させることで電子内視鏡11の視野及び動きの自由が確保される。また、患部の近傍位置には、別の開口に挿入されたカニューレに鉗子15などが差し込まれる。
【0016】
係る手術においては、手術が終了するまで電子内視鏡11が本実施形態の内視鏡保持装置10によって保持され、また内視鏡保持装置10により、手術の進行に伴なう執刀医の指示に即応して電子内視鏡11が患部の前後、左右、上下の各方向、又はこれらの合成方向に適宜移動される。
【0017】
図6に示すように、内視鏡保持装置10は、手術台の傍らに設置されたアームに取付けられている。すなわちアームは、手術台に近接する所要の位置に立設された直立支柱と、該直立支柱の上部に枢支されて所要中心角で水平に旋回可能な第1アーム13と、該第1アーム13に枢支されて所要中心角で水平に旋回可能な第2アーム14とから構成されている。図5に示すように、前記直立支柱は、その側部に設けられたラックにピニオンギヤが噛合し、そのピニオンギヤにはモータが接続され、該モータによるピニオンギヤの回転駆動が直立支柱の上下運動に変換される。これにより前記第2アーム14に取付けられた内視鏡保持装置10は、患者の患部との間に所要の高さを設定することができる。
【0018】
内視鏡保持装置10は、第1保持部20、第2保持部21及び第3保持部22とにより構成されている。第1保持部20は、電子内視鏡11が体腔に挿入される部位、すなわち体腔挿入部位Pを中心として、水平面上の円弧を描く左右方向の動きを行なう。第2保持部21は、電子内視鏡11の体腔挿入部位Pを中心として、垂直面上の円弧を描いて上下方向の動きを行なう。第3保持部22は、電子内視鏡11の体腔挿入部位Pを通過点とする斜め前後方向の動きを行なう。そして、電子内視鏡11は斜め前後方向の軸線に沿うように第3保持部22に保持されている。
(第1保持部20の構成)
図4に示すように、第1保持部20は、前記第2アーム14の先端近傍に枢着ピン24を介して略水平に枢支された第1円弧板25と、この第1円弧板25上の第1レール26に案内されて制御下に円弧状の左右移動を行なう第1スライダ27とから構成されている。ここで第1円弧板25は、体腔挿入部位Pを中心とする平面上の円弧を描く板体であって、その半径は実際に使用される電子内視鏡11の長さに応じて適宜の寸法に設定される。また、第1円弧板25の円弧長は、これに搭載されて左右の円弧状移動を行なう第1スライダ27に要求される移動量に依存し、本実施形態では円弧角が略100°となるよう設定されている。
【0019】
第1円弧板25は、内周部に円弧状の第1レール26が突設されると共に、外周部に円弧状のギヤ列からなる円弧状ラック28を備えている。そして、第1スライダ27は、第1レール26を跨いで該第1レール26に案内されつつ移動可能なサドル部29を備えている。すなわち、第1スライダ27はサドル部29を介して第1円弧板25上に支持され、第1レール26に沿って円弧状の左右移動を行なうようになっている。また、第1スライダ27は水平に延びるブラケットを備え、このブラケットの所要箇所に第1モータが倒立配置されている。係る第1モータの回転軸には第1ピニオンギヤが設けられ、該第1ピニオンギヤは前記円弧状ラック28と噛合している。従って、図示しない制御装置からの指令により第1モータを正逆回転させることにより、第1ピニオンギヤも正逆回転し、第1円弧板25の円弧状ラック28及び第1レール26を介して第1スライダ27に体腔挿入部位Pを中心とする平面上の左右円弧移動を付与するように構成されている。
(第2保持部21の構成)
図4に示すように、第2保持部21は、前記第1保持部20における第1スライダ27の上面に直立的に配設される第2円弧板33と、該第2円弧板33上を案内されつつ遠隔制御下に上下への円弧移動を行なう第2スライダ34とから構成されている。ここで、第2円弧板33は電子内視鏡11の体腔挿入部位Pを中心とする垂直面上の円弧を描く板体であり、その半径は電子内視鏡11の長さに応じて適宜の寸法に設定される。また、第2円弧板33の円弧長はこれに搭載されて上下の円弧状移動を行なう第2スライダ34に要求される移動量に依存し、本実施形態では略100°の円弧角となるように設定されている。
【0020】
第2円弧板33は、その内側の円弧状側面に第2レール35が突設されると共に、外側の円弧状側面に円弧状のギヤ列からなる円弧状ラック36を備えている。そして、第2スライダ34は、第2レール35を跨いで該第2レール35に案内されるサドル部38を備えている。すなわち、第2スライダ34はサドル部38を介して第2円弧板33に搭載され、第2レール35に沿って円弧状の上下移動を行なうようになっている。また、第2スライダ34は鉤状のブラケット39を備え、該ブラケット39の所要箇所に第2モータが水平に配置されている。この第2モータの回転軸には第2ピニオンギヤ41が設けられ、該第2ピニオンギヤ41は前記円弧状ラック36と噛合している。従って、制御装置からの指令により第2モータを正逆回転させれば、第2ピニオンギヤ41も正逆回転し、円弧状ラック36を介して第2スライダ34に体腔挿入部位Pを中心とする垂直面上の上下円弧移動を付与するように構成されている。
(第3保持部22の構成)
前記第2スライダ34には一対の保持ピン43が突設されている。これら一対の保持ピン43には、該保持ピン43が挿通されるガイド孔44を有するリニアスライダ45が前後動可能に保持されている。
【0021】
図1〜3に示すように、リニアスライダ45の底面には直線状ラック46が設けられ、第3モータによって回転するピニオンギヤ48が噛合され、一対の保持ピン43に支持された状態で斜め前後方向に移動可能に構成されている。リニアスライダ45の前端部には、水平軸としての支持軸49が支持され、該支持軸49を中心にして回転可能に構成された逆コの字状をなすナックル部50が支持されている。ナックル部50の開口端部には、上下一対の雌ねじ孔51が形成され、一対の垂直軸を構成するボールプランジャー52が螺入されるようになっている。
【0022】
(図2A)には先行技術のセンサ部断面図を示す。電子内視鏡11を保持するためのホルダー部53の中心部には円孔54が貫通形成され、該円孔54には断面T字状をなすパイプサポート55がその外周に円筒状の触覚センサ56を介装した状態で装着されている。パイプサポート55の中心には貫通孔57が形成され、その貫通孔57には円筒状の電子内視鏡11が挿通されている。図3に示すように、ホルダー部53の上下両面の中央部には円錐状の支持穴58が穿設され、前記ナックル部50の雌ねじ孔51に螺合されたボールプランジャー52のボール59が支持されるようになっている。そして、このボールプランジャー52によりホルダー部53がナックル部50に対して垂直軸を中心として回転可能に構成されている。従って、ホルダー部53さらには電子内視鏡11は、水平軸及び垂直軸の回りに回転でき、電子内視鏡11が斜め前後方向以外の応力を受けたときにその応力に追従できるようになっている。
【0023】
前記触覚センサ56は、コイル状炭素繊維を含有するセンサ素子により構成され、好ましくはコイル状炭素繊維がマトリクスとしての樹脂又はゴムに分散されて形成され、いずれの方向から受けた応力も検知可能に構成されている。センサ素子は、単層又は2層、3層等の複数の層が積層されて構成されている。積層構造の場合、各層はマトリクスの種類、硬度等、又はコイル状炭素繊維の種類、含有量等が異なるように構成され、各層の相乗的作用によって触覚センサ56の検知感度を高め、広範囲にわたる触圧(応力)を検知することが可能となる。
【0024】
この触覚センサ56は、前記センサ素子と、基準信号を発振する発振回路と、検知手段及び信号調整手段としての移相部と、検知手段としての検波部とを備えている。発振回路はセンサドライバ回路を介してセンサ素子に接続され、センサ素子は移相部を介して検波部に接続されている。
【0025】
そして、センサ素子に加わる応力の微小な変化により、センサ素子のインダクタンス(L)、静電容量(C、キャパシタンス)及び電気抵抗(R、レジスタンス)が変化し、その変化によりセンサ出力信号が変化する。センサ出力信号の変化は、検波部における直交検波により検知される。このため、インダクタンス、静電容量及び電気抵抗の変化傾向や変化量が求められる。従って、触覚センサ56により、センサ素子に加わる応力の微小な変化を検知することができる。
【0026】
前記マトリクスは誘電体であって静電容量(C)を有し、コンデンサとして作用する。マトリクスとしての樹脂としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、スチレンと熱可塑性エラストマーとの共重合樹脂等が用いられる。ゴムとしては、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が用いられる。マトリクスの硬さは触覚センサ56の感度を向上させる上で重要であり、マトリクスとして弾性力の優れたシリコーン樹脂、シリコーンゴム等を用いた場合には、微小な触圧でも伸縮してその触圧を高感度で検知することができる。一方、硬いシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、スチレンと熱可塑性エラストマーとの共重合樹脂等を用いた場合には、大きな触圧でないと伸縮せず、触覚センサ素子の感度は低いが、幅広い触圧範囲を検知することができる。
【0027】
以上の構成は、前記の様に特開2004−129956号公報または特開2008−17903号公報に記載の通りであり、本発明ではここまでの構成を同じくする関係で公報記載の内容を引用した。
先の発明(特開2008−17903号公報)からの改良点は、(図2B)に示すように、センサ素子としてのコイル状炭素繊維とマトリクスからなる触覚センサ56に対して、ホルダー部53の内側にネジ部を設けてセンサ特性調整部材80により触覚センサ56に圧縮力を加えることである。これによって、触覚センサ56の製造に多少のバラツキが生じたとしても、内視鏡から伝えられる変化を感知するためのゼロ点を、各触覚センサのダイナミックレンジ内に調整することができるのである。すなわち触覚センサ56の製造方法としては後に詳述するように非常に簡易的な方法により製造することができる反面、もしこれを常に一定の検知感度・検知幅・検知速度・定量性のセンサ素子を製造しなければならないとすると、コイル状炭素繊維の製造から、マトリクスとの混合比、混合方法などを全て制御管理する必要があり、せっかく簡易な方法により製造することができるという利点が没却されかねない。従って、多少の規格幅を有するセンサが製造されるとしても、これをセンサの組込方などによって補正できれば、充分高感度なセンサ素子としての利用ができるのである。
【0028】
また、仮にセンサ素子として完璧な一定品質のものが製造できるとしても、触覚センサを内視鏡保持装置に組み立てる際の固定方法、保持方法によっては、検知感度を充分に発揮することができない場合も想定される。このような観点から、本発明のセンサ特性調整部材は、触覚センサを組み込んだ後の構成において触覚センサに適度な圧縮力を加えることにより、センサのダイナミックレンジのゼロ点補正を調整し、基本感度及びクリープ等のセンサ特性を調節・校正し、検知感度を最大限発揮することができるようにしたものである。
【0029】
前記センサ特性調整部材80は(図2B)に示すようにネジの螺合により取り付けるものに限定されず、例えば、嵌合させるものや捻合させるものなどがあり、触覚センサに対して若干の触圧を与えられる機構であれば良い。また例示のセンサ特性調整部材は直接触覚センサの端面に接触しているが、この接触面の滑りを良くするためにセンサ特性調整部材の端面に球面状の凸部を複数設けても良い。これによりセンサ特性調整部材の螺進により触覚センサのセンサ特性調整部材側と対向側との間で捻れ・歪みを生じ難くすることができる。
【0030】
センサ特性調整部材の他の例として、(図2C)に示すようなホルダー部53と触覚センサ56の間に介挿部82を設け、触覚センサ56がパイプサポート55に密着し結果として電子内視鏡11への触圧を感度良く検知することができる。介挿部82はセンサ特性調整部材と一体成形されていてもよく、或いは円筒状の別部材であってもよい。この部材を用いると、触覚センサ56を電子内視鏡11が挿通されたパイプサポート55の外周面全体に対して押しつけるような面圧力が作用する。介挿部は先端に行くほど厚みが薄くなるように構成されているので、触覚センサ56とホルダー部53との間に挿入し易い形状である。この介挿部により、触覚センサを内視鏡の挿入軸と並行方向に単純に圧縮するだけでなく前記挿入軸と垂直方向にも圧縮するので、センサ全体により均一な負荷をかけることができ、部位による負荷の偏りを解消することができる。
【0031】
さらに、センサ特性調整部材80と触覚センサ56との間に該触覚センサを圧縮するためのセンサ圧縮板84を挟装させることもできる。この圧縮板84は、センサ特性調整部材を螺合する際に回転面が触覚センサに直接接触することを防止し、圧縮力をセンサに均等に加えるものである。センサ特性調整部材は内視鏡を中心軸としてネジを締めるように回動させるために、触覚センサとの接触面で摩擦力によって余分な応力・歪みが作用することを、該センサ圧縮板によって防止することができるからである。
【0032】
センサ特性調整部材は図に示すような螺合によって接続する場合、接続部分に使用されるネジ部の長さは5〜10mm程度である。この長さが短すぎると簡単に外れたり、斜めに螺合されるなどの不都合があり、一方長すぎると固定するまでに何回転も必要となって操作性に劣るからである。また前記圧縮板を使用する場合には、該圧縮板の厚さは1〜5mm程度であることが好ましい。厚みが薄すぎると取扱に不便なだけでなく容易に変形して触覚センサに均一な圧力を作用させることが困難になり、厚みが厚すぎるとセンサ調整部材を接続するためにネジ部の長さを確保するのが難しくなるからである。
【0033】
センサ特性調整部材およびセンサ圧縮板は、共にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、アクリル樹脂などの汎用プラスチックの他、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィンなどのエンジニアプラスチックから成形することができ、特にネジ部などの耐性を考慮してポリアセタールなどのエンジニアプラスチックが好ましい。
【0034】
前記センサ特性調整部材(およびセンサ圧縮板)によって触覚センサを構成するマトリクスを圧縮する。該マトリクスの硬さはJISA硬度(JIS K6301)で10〜100が好ましく、15〜90がより好ましい。JISA硬度で10未満の場合には、マトリクスが軟らかくなり過ぎて、ノイズの検出が大きくなって好ましくない。一方、JIS A硬度が100を越える場合には、マトリクスが硬くなり過ぎて、触圧の伝播性が悪く、検知感度が低下する。
【0035】
本発明の触覚センサに使用するコイル状炭素繊維としては、1本の炭素繊維で螺旋構造を形成するものや、2本の炭素繊維で二重螺旋構造を形成するものが知られており、さらに炭素繊維の巻き方向には、螺旋軸を中心として右巻きと左巻きがあるため、合計4種類の形態のいずれかの形態を有している。本発明では一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用してもよい。コイル状炭素繊維は伸縮性(弾力性)があり、その伸縮により電気特性であるインダクタンス(L)、静電容量(C)及び電気抵抗(R)が変化するため、それらの変化量に基づいて触圧を検知することができる。例えば、コイル状炭素繊維を伸ばすと上記L、C及びRが増加し、収縮させるとL、C及びRが減少する。具体的には、コイル状炭素繊維を4mm伸ばすと、Lは0.1mH増加し、Cは600pF増加し、Rは4.5kΩ増加する。そして、コイル状炭素繊維を収縮させて元の長さに戻すと、L、C及びRは元の値まで再現性良く戻る。コイル状炭素繊維をマトリクス中に分散させたときには、外部から触圧が加わったとき、まずマトリクスが伸縮し、次いでコイル状炭素繊維が伸縮するため、マトリクスを介してコイル状炭素繊維に加わる触圧に基づいて前記L、C及びRの値が変化する。
【0036】
コイル状炭素繊維は、どのような製法で製造されたものであってもよいが、例えば触媒活性化CVD(化学気相成長)法等により得られる。この気相成長法は、Ni粉末触媒を塗布したグラファイト基板上に、チオフェン又は硫化水素を不純物として含有するアセチレン、水素ガス、アルゴンを流入させ、600〜3000℃に加熱して、気相中でアセチレンを分解してコイル状炭素繊維を得る方法である。この方法により得られるコイル状炭素繊維は非晶質であり、その大半が繊維の中心部分まで微細な炭素粒が詰まった状態で形成されている。また、一部には中空状に形成されたものも観察される。
【0037】
前記方法により得られるコイル状炭素繊維は、コイルの直径が20nm〜100μmであり、コイルの長さは10nm〜50mmである。コイルの直径が20nm未満では、コイル状炭素繊維の製造が困難であり、100μmを超えるとコイル状炭素繊維により構成されているセンサ素子が大きくなるために、センサとしたときの小型化にとって好ましくない。またコイル長さが10nm未満であるとインダクタンス成分としての機能を充分に発揮し難くなる。一方、コイル長さは50mmを超えて形成しても良く、センサの厚みに合わせて適当な長さに裁断すればよい。さらに、炭素繊維の繊維の直径は好ましくは1nm〜10μmである。繊維の直径が1nm未満では、コイル状炭素繊維の製造が困難であり、10μmを超えると、コイルの直径を前記範囲に設定することが困難になるからである。なお繊維は断面が真円のものに限らず、楕円形、矩形、不定形になっていてもよい。また、マトリクス内に配列されているコイル状炭素繊維は、コイルの直径がそれぞれ異なるものであっても良いし、同じものであってもよい。
【0038】
また、さらに加熱処理を施すことにより、非晶質のコイル状炭素繊維をグラファイト化(六方晶系)することができる。加熱条件としては、ヘリウム又はアルゴンなどの不活性雰囲気下で、処理温度を700〜3000℃、好ましくは1500〜3000℃、最も好ましくは2000〜3000℃である。また処理時間は、0.1〜100時間、好ましくは1〜20時間、最も好ましくは3〜10時間である。このような処理を経ることにより、グラファイト層において炭素繊維を構成する炭素粒が規則正しく配列されることにより磁場の変動などを検知する際に生じる電気抵抗の変動が著しくなるために、共振特性が顕著となる。すなわちLCR共振回路におけるR成分などの変動が顕著となるので、センサの検出感度を向上させることができる。
【0039】
なお、前記方法以外にもコイル状炭素繊維の製造方法としては、遷移金属触媒を設けた基板上に5b族化合物または6b族化合物よりなる不純物ガスと炭素原料ガスを600〜900℃の温度下において反応領域に静磁場を与えながら熱分解させて製造する方法(特開平11−124740号公報)や、鎖状飽和炭化水素などを原料として400〜900℃の温度範囲で、0.3〜60.0MPaの絶対圧力範囲で、触媒として遷移金属と酸化物半導体を共存させて製造する方法(特開2004−352592号公報)、インジウム・スズ・鉄系触媒を用いることを特徴とする方法(特開2004−261630号公報)などがあり、これらの製造方法により得られるコイル状炭素繊維を用いることも勿論可能である。
【0040】
こうして得られたコイル状炭素繊維は、センサに圧力(すなわち接触圧)が加えられたときにはコイル状炭素繊維の伸縮に伴って内部ひずみ量が変化し、単位長さあたりのコイルの巻き数も変化して交番電磁界が変調され、コイル内を流れる電流値も変化し、LCRパラメータが変化する。したがって、センサに刺激が加えられた場合に、LCR回路間で複合共振的共鳴が起こると考えられる。さらに、マトリクスが誘電体により形成されてキャパシタンス(C)成分を有するものであるときには、各センサ素子の相互間に存在するマトリクスはコンデンサとして作用する。そして、マトリクス内に配置されたセンサ素子の相互間に存在するマトリクスを介して互いに接続されることにより、複合共振回路である電気的等価回路として構成され、センサ素子全部をまとめて一つのLCR共振回路として作用することができる。
【0041】
コイル状炭素繊維の含有量は、マトリクス中に0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。この含有量が0.1質量%未満の場合には、マトリクス中におけるコイル状炭素繊維の割合が少なく、コイル状炭素繊維に基づく触覚センサ56の感度が低下する。その一方、含有量が50質量%を越える場合には、マトリクス中におけるコイル状炭素繊維の割合が多くなり過ぎて硬くなり、触覚センサ56の感度が低下すると共に、成形性等も悪くなる傾向を示す。
【0042】
マトリクスにコイル状炭素繊維を分散させる方法としては、マトリクス前駆体としてのシリコーン樹脂にコイル状炭素繊維を添加し、撹拌して均一に分散させた後、脱泡し、鋳型に充填して成形する方法や、ポリスチレンや熱可塑性エラストマーのペレットを加熱溶融し、それにコイル状炭素繊維を添加し、撹拌して均一に分散させた後、鋳型に流し込み、加圧成形する方法などがある。この方法で、使用されるマトリクス前駆体としては他に、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリイミド、ポリサルホン、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。さらに、可塑剤、充填剤、有機繊維、無機繊維、セルロース、安定剤、着色剤などを必要に応じて添加してもよい。またコイル状炭素繊維を均一に分散させるために有機溶剤や水を添加することもできる。なお、マトリクス前駆体とは、コイル状炭素繊維を混合する際には、液状(低粘度が好ましい)であって、均一に混合後、適当な鋳型に充填して室温または加熱等により固化し、コイル状炭素繊維を機械的に保持するものである。
【0043】
上述の方法によりコイル状炭素繊維が分散されたマトリクスを触覚センサ56の形状に成形し、これを(図2C)に示すような構造に組み込み、さらにセンサ圧縮板、センサ特性調整部材を取り付けて本発明の内視鏡保持装置を組み立てる。内視鏡保持装置の第1保持部20に左右方向に移動する自由度を与える第1モータ、第2保持部21に垂直面上の円弧を描いて上下方向に移動する自由度を与える第2モータ及び第3保持部22に斜め前後方向に移動する自由度を与える第3モータは、何れも図示しない電源及び制御装置に接続されている。また、電子内視鏡11はケーブルを介してディスプレー14に接続され、電子内視鏡11により得られた内臓諸器官の映像は、モニター画面に映し出される。そして、内視鏡下手術に際し執刀医による指示は、ハンド操作やフット操作その他音声操作等によって、前記制御装置を介して第1モータ、第2モータ及び第3モータに与えられるようになっている。
【0044】
(実施形態の作用)
次に、本実施形態に係る内視鏡保持装置を使用する場合の作用について説明する。装置の自体は先の公報(特開2004−129956号公報、特開2008−17903号公報に記載の通りであるので、ここに引用する。
電子内視鏡11を使用して手術を行う際には、手術台上の患者の例えば腹部に電子内視鏡11や鉗子15を挿入するのに必要な切開を行ない、切開部の一つにカニューレを介して電子内視鏡11を挿入する。そして、電子内視鏡11を介してモニタに映し出された腹腔内の映像を、執刀医が視覚で確認しつつ助手に指示を行なうことで、制御装置を介して第1モータ、第2モータ及び第3モータが単独で又は同期的に駆動され、第1保持部20、第2保持部21及び第3保持部22に所期の動作が付与される。
【0045】
すなわち、第1モータが作動されると、第1保持部20は体腔挿入部位Pを中心として平面上の円弧を描いて左右方向に移動する。また、第2モータが作動されると、第2保持部21は体腔挿入部位Pを中心として垂直面上の円弧を描いて上下方向に移動する。さらに、第3モータが作動されると、第3保持部22は体腔挿入部位Pを通過点として斜め前後方向に前進移動又は後退移動する。
【0046】
従って、第1保持部20、第2保持部21及び第3保持部22における各動きを合成した動きは、そのまま電子内視鏡11に左右、上下及び斜め前後方向の合成運動として与えられる。この場合、電子内視鏡11は第3保持部22におけるホルダー部53に対しコイル状炭素繊維を含有する触覚センサ56を介して保持されている。このため、電子内視鏡11の動作設定において左右方向、上下方向又は斜め前後方向のいずれかの方向でずれが生じたときには、電子内視鏡11の斜め前方への移動に際し、体腔挿入部位Pに負荷が加えられると同時に、電子内視鏡11を経て触覚センサ56にも応力が加えられる。
【0047】
触覚センサ56に加えられた応力は、触覚センサ56のマトリックスに伝播されマトリックスが伸縮して静電容量(C)が変化すると共に、マトリックス中のコイル状炭素繊維が伸縮してインダクタンス(L)、静電容量(C)及び電気抵抗(R)が変化する。その結果、マトリックス及びコイル状炭素繊維が共振的に作用し、触覚センサ56全体の電気特性が顕著に変動して前記応力が検知される。そして、触覚センサ56によって検知された信号が制御装置に伝達され、第3モータが停止されて電子内視鏡11の移動が止められる。前記応力が過剰な場合には、ナックル部50に対してボールプランジャー52で支持されているホルダー部53が電子内視鏡11と共にナックル部50から外れる構造となっている。従って、電子内視鏡11が開放されるので、その後に助手または執刀医の手により手術が継続可能となる。
【0048】
本発明では前記応力の検知に際して、触覚センサに予め所定の触圧が加えられている結果、わずかな応力の変化を見逃すことなく、内臓諸器官に対して損傷を及ぼすような接触が起きる前に、内視鏡の動きを制御することができる。
【0049】
また、各触覚センサのロットまたは個体毎のダイナミックレンジに多少の相違があったとしても、センサ特性調整部材やセンサ圧縮板によって基本特性、検出感度を調整・校正することができるので、常に最適な検出感度に設定することができる。従って、触覚センサの製造の簡便さを維持しつつ、内視鏡保持装置に組み込まれたのちのキャリブレーションが容易である。
【0050】
なお、触覚センサは、内視鏡とパイプサポートとの間に設けることも、あるいは他の部分、例えばボールプランジャー52によるホルダー部53の支持部や、ナックル部50の支持部に設けることもできる。さらに触覚センサを複数箇所に設けて検知感度を高めるように校正することもできる。
【0051】
また、コイル状炭素繊維は、その外周面に導電性の物質よりなるコーティング層が形成することもできる。この場合、コイル状炭素繊維の導電性を向上させることができる。コイル状炭素繊維は、マトリクス内で均一に配置されるだけであり、各コイル状炭素繊維の一本一本を導線によって接続する訳ではない。従って、マトリクス内に電極を通して電流を流す際のマトリクス全体の抵抗を下げることができ、触覚センサ56の感度及び安定性を向上させるように構成することができる。導電性の物質の具体例としては、金、銀、銅、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン等の金属又はそれらの化合物や合金等が挙げられる。これらは単独で、または二種以上を組み合わせてコーティング層を形成することもできる。
【0052】
(実施例)以下、実施例及び比較例により、前記実施形態をさらに具体的に説明する。
コイル状炭素繊維として、コイルの長さが90μm下、コイルの直径が平均5μm程度のものを二液型RTVゴム(商品名:KE103;信越化学工業製)中に5.0重量%添加して、内径14mm、外径20mm、長さ10mmの円筒形のセンサ素子を得た。このセンサ素子を図8に示す内視鏡保持装置のセンサ素子試験系に組み込み、図に示す模擬内視鏡(320×10Φ)先端に上方向に引っ張り荷重をかけたときのセンサ出力電圧の変化を記録した。
【0053】
すなわち、ホルダ内のセンサ素子をセンサ特性調節部材を締めて圧縮し、無圧縮状態を感度増幅率1としたときの素子圧縮率−感度増幅率をプロットした図9にその結果を示す。図中、感度増幅率は感度調整後のセンサ出力電圧変化量(V)/感度調整前のセンサ出力電圧変化量(V)で表す。素子圧縮率は、圧縮後の素子体積(cm3)/圧縮前の素子体積(cm3)で表す。
【0054】
図9より理解できるように素子圧縮率が高いと増幅率が大きくなるが特に、0.98までが飛躍的に増大していることが判る。
【0055】
次に、前記と同じ方法で別々に作成したセンサ素子を3本用意して、前記同様の試験系に組み込み、上方向の引っ張り荷重をかけたときのセンサ出力電圧の変化量を記録した(図10)。出力電圧の違いを確認し、素子圧縮率−感度増幅率曲線に従いセンサ素子を校正し、再度センサ出力電圧の変化量を測定した(図11)。このときの素子1〜素子3の圧縮率は、それぞれ0.996、1.000、0.998である。
【0056】
図10および図11の結果より、本発明のセンサ特性調整部材により各センサの校正が容易に、しかも非常に高精度に行うことができることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の内視鏡保持装置の第3保持部を示す分解斜視図である。
【図2A】従来の内視鏡保持装置の内視鏡保持部の部分断面図である。
【図2B】本発明の内視鏡保持装置の内視鏡保持部の部分断面図である。
【図2C】本発明の内視鏡保持装置の内視鏡保持部の部分断面図である。
【図3】本発明の内視鏡保持装置の内視鏡保持部の部分側断面図である。
【図4】本発明の内視鏡保持装置における内視鏡を保持する部分を一部破断して示す部分平面図である。
【図5】本発明の内視鏡保持装置の直立支柱の部分を示す部分平面図である。
【図6】本発明の内視鏡保持装置の全体を示す斜視図である。
【図7】本発明の内視鏡保持装置に保持された内視鏡を用いて手術を行う状態を示す平面図である。
【図8】本発明の効果の試験系を示す模式図である。
【図9】素子圧縮率と感度増幅率の関係を示す図である。
【図10】感度校正前の出力電圧を示す図である。
【図11】感度校正後の出力電圧を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
10 内視鏡保持装置
11 内視鏡
20 第1保持部
21 第2保持部
22 第3保持部
49 水平軸としての支持軸
50 ナックル部
52 垂直軸としてのボールプランジャー
53 ホルダー部
56 触覚センサ
80 センサ特性調整部材
84 センサ圧縮板
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下手術において内視鏡が患者の体腔および臓器に与える負荷を検知することができる触覚センサを有する内視鏡保持装置において、該触覚センサを校正するための部材に関するものである。さらに詳しくは、コイル状炭素繊維を配合した触覚センサを内視鏡と密着させて、内視鏡に加えられる他からの触圧を感度良く検知することができるものである。
【背景技術】
【0002】
低侵襲手術は、患者の身体的負担が少なく、とりわけ幼児や高齢者等の回復力に不安のある患者には効果的な手術法であり、患者の早期回復や医療費削減の面からも有効である。なかでも、内視鏡手術は、腹腔、胸腔(以下、体腔という)にかぎらず殆どの部位に適用でき、侵襲が小さく、胸部等深い部位での視野の確保、手術時間の短縮が可能で、術後の創部の疼痛が少ないなど患者のQOL(Quality of Life)の面からも、発展、普及が期待されている。この内視鏡手術は、医者自身の高度な技術を必要とすることは無論、手術中に常に最適な視野を確保することが最も重要であると言われる。
【0003】
このため、術中の充分な視野情報等を提供する高機能内視鏡、内臓諸器官の映像を提供する撮像系、術者の意のままに動かすことのできる高操作性を有する器具・装置、そして術中の手術機器の位置や画像情報等を統合管理する手術安全支援システムの開発が精力的に進められている。
【0004】
内視鏡下手術は、例えば全身麻酔の後、仰臥している患者の患部を切り開くことなく小さな穴を数カ所にあけて、そこから体腔内に、CCDセンサを取り付けた電子内視鏡や手術鉗子などの器具を挿入し、該内視鏡により得られる疾患部位等の映像をモニタに映し出すと共に、執刀医は該モニタ映像を視認しながら手術を行うものである。通常、視野および内視鏡の動きの自由を確保するため、気腹(腹腔内にガスを送り込んで腹を膨らませること)が行われる。
【0005】
内視鏡がとらえる術野の調整は執刀医自身が行うことが望ましいのであるが、その場合には、内視鏡と鉗子等の手術具とを持ち替える必要があるため、従来、内視鏡の視野操作は助手が行うことが一般的であった。しかし、執刀医が確認したい部位の画像を即時に表示することが困難であること、どうしても人の手により保持しようとするとブレが生じ、これがすなわちモニタ映像のブレとして現れるので、手術の遂行に悪影響を及ぼすなどの理由から、機械的に内視鏡を保持する装置が開発され、本発明者らも、その具体的な保持装置について既に提案を行っている(特許文献1)。係る内視鏡保持装置は、内視鏡が体腔に挿入される部位を中心として左右方向に移動可能な第1保持部と、体腔に挿入される部位を中心として上下方向に移動可能な第2保持部と、体腔に挿入される部位を通過点とする斜め前後方向に移動可能な第3保持部とを備え、内視鏡は第3保持部に保持されている。すなわち、内視鏡は左右方向、上下方向、斜め前後方向に移動可能に構成されているのである。
【0006】
また、前記内視鏡保持装置に、内視鏡が体腔に挿入される部位に加わる負荷及び内視鏡端部の臓器への接触を検知することができるように、第3保持部に対してコイル状炭素繊維を含有する触覚センサを介して斜め前後方向の軸線に沿って移動可能に保持されるように構成した装置についても提案している(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−129956号公報
【特許文献2】特開2008−17903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かくして、前記触覚センサの導入により内視鏡の位置情報、周囲臓器への接触情報などが詳細に検出可能となり、内視鏡下手術の普及に貢献するところが大きい。しかし、本発明者らはその後も継続的に改良・改善を試みたところ、次のような課題が考慮されるべきであることが判明した。すなわち、前記触覚センサは、コイル状炭素繊維が樹脂又はゴムに分散されて形成されたもので、製造方法の容易さ、製造コストの低減化、検出感度の高さなどは十分であると思われるものの、製造方法が簡易であるが故に、得られるセンサの各ロットごとの均質性、保持装置に適用したときのセンサ検出感度の調整などに、さらなる改善の余地が認められたのである。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するために成されたもので、その目的とするところは、内視鏡保持装置の触覚センサの素子部におけるセンサ特性調節機構を提供し、センサ素子の検知特性の校正を容易に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の触覚センサを有する内視鏡保持装置は、以下の構成よりなる。手術台に近接して位置調節自在に配置され、患者の患部上方付近に内視鏡の先端を臨ませ得るアームと、前記アームの先端近傍に配設され、前記内視鏡が体腔に挿入される部位を中心として、平面状の円弧を描いて左右方向に移動可能な第1保持部と、前記第1保持部に配設され、前記内視鏡の体腔挿入部位を中心として、垂直面上の円弧を描いて上下方向に移動可能な第2保持部と、前記第2保持部に配設され、前記内視鏡の体腔挿入部位を通過点とする斜め前後方向に移動可能な第3保持部とからなり、前記内視鏡は、第3保持部に対しコイル状炭素繊維を含有する触覚センサを介して前後方向の軸線に沿って移動可能に保持される内視鏡保持装置において、前記触覚センサに対して予め圧力を負荷して該触覚センサを校正するセンサ特性調整部材を有することを特徴とする。
【0010】
前記センサ特性調整部材は、仮に触覚センサごとに多少の検出感度に幅がある、あるいは保持装置に固定する際の保持力に差異があるとしても、予めセンサに負荷を与えて検出のゼロ点調整を行うことにより、センサの感度が高い領域・範囲でセンシングすることを可能にするものである。
【0011】
前記センサ特性調整部材は触覚センサにある程度の触圧で接触させられるものであれば、どんなものでもよいが、例えば螺進によりセンサ素子に接近するようなものである場合などには、センサ特性調整部材と触覚センサとの間に該触覚センサを圧縮するためのセンサ圧縮板をさらに挟装することができる。つまり、センサ特性調整部材が螺進する際にセンサ特性調整部材と触覚センサとが直接面接触すると、センサ素子に対してセンサ特性調整部材の進行方向に対する触圧だけでなく、接触面同士の摩擦力により捻れ方向へも力が加えられるおそれがあり、そのような場合にも間に別部材として圧縮板が存在することにより、余分な力(前記のように接触面近傍の捻れ)の作用を防止することができるからである。
【0012】
また、前記センサ特性調整部材が触覚センサを内視鏡に向けて押圧するように、触覚センサの周囲を押圧する構造を有することもできる。触覚センサの内視鏡に対する密着度を高め、検出感度を向上させることができるからである。また、同様の理由から、前記センサ特性調整部材が触覚センサと内視鏡との間に介挿される構造を有することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の内視鏡保持装置は、触覚センサにより内視鏡が体腔に挿入される部位に加わる負荷及び内視鏡の臓器への接触を検知することができるので、挿入部位や臓器への負荷を軽減することができる。本発明の触覚センサには、予めセンサ特性調整部材が接触してセンサに若干の負荷をかけている。これはセンサのダイナミックレンジの閾値外、特に検出が開始される側において、全く負荷の無い状態をゼロ点とするのではなく、センサが変化を感知し始める直後位をゼロ点に調整することによって、僅かな変化を見逃すことなく検出することができるようになる。これによって、センサ毎のダイナミックレンジの相違や、触覚センサを介した内視鏡の固定時における保持力の相違などを気にすることなく常に鋭敏な検出状態に維持できる効果がある。
【0014】
前記センサ特性調整部材と触覚センサの間に挟装させるセンサ圧縮板はセンサ特性調整部材からの応力を触覚センサに均一に伝達することができる。これによってセンサの場所による感度調整のバラツキを抑え、またセンサ特性調整部材からの不要な応力の伝播を制限する効果もある。さらに、触覚センサを内視鏡により密着させるために、触覚センサを周囲から内視鏡方向に向けて押圧するような構造、或いは触覚センサと内視鏡との間に介挿するような構造を有することで、僅かな変化を見逃すことなく検出することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明について添付図面に基づいて具体的に説明する。
(内視鏡保持装置の全体構成)
内視鏡保持装置の全体構成については本発明者が先に提案した、特開2004−129956号公報または特開2008−17903号公報に詳細に記載されているので、参考としてここに引用する。
図7に示すように、内視鏡を用いる手術は、手術台に仰臥している患者の体腔に、CCDセンサが組み込まれた電子内視鏡11を挿入し、該内視鏡11により得られる内臓諸器官の映像をモニタに映し出すと共に、執刀医が該モニタ上の映像を視認しながら行なわれる。助手は執刀医を補助しながら、術野の確保、機器の調整を行う。電子内視鏡11による手術に際しては、患部に該内視鏡11を挿通させるに必要な最小限の切開を行ない、その開口に挿入されたカニューレを介して電子内視鏡11を差し込み、また炭酸ガスを必要量注入して体腔を膨満させることで電子内視鏡11の視野及び動きの自由が確保される。また、患部の近傍位置には、別の開口に挿入されたカニューレに鉗子15などが差し込まれる。
【0016】
係る手術においては、手術が終了するまで電子内視鏡11が本実施形態の内視鏡保持装置10によって保持され、また内視鏡保持装置10により、手術の進行に伴なう執刀医の指示に即応して電子内視鏡11が患部の前後、左右、上下の各方向、又はこれらの合成方向に適宜移動される。
【0017】
図6に示すように、内視鏡保持装置10は、手術台の傍らに設置されたアームに取付けられている。すなわちアームは、手術台に近接する所要の位置に立設された直立支柱と、該直立支柱の上部に枢支されて所要中心角で水平に旋回可能な第1アーム13と、該第1アーム13に枢支されて所要中心角で水平に旋回可能な第2アーム14とから構成されている。図5に示すように、前記直立支柱は、その側部に設けられたラックにピニオンギヤが噛合し、そのピニオンギヤにはモータが接続され、該モータによるピニオンギヤの回転駆動が直立支柱の上下運動に変換される。これにより前記第2アーム14に取付けられた内視鏡保持装置10は、患者の患部との間に所要の高さを設定することができる。
【0018】
内視鏡保持装置10は、第1保持部20、第2保持部21及び第3保持部22とにより構成されている。第1保持部20は、電子内視鏡11が体腔に挿入される部位、すなわち体腔挿入部位Pを中心として、水平面上の円弧を描く左右方向の動きを行なう。第2保持部21は、電子内視鏡11の体腔挿入部位Pを中心として、垂直面上の円弧を描いて上下方向の動きを行なう。第3保持部22は、電子内視鏡11の体腔挿入部位Pを通過点とする斜め前後方向の動きを行なう。そして、電子内視鏡11は斜め前後方向の軸線に沿うように第3保持部22に保持されている。
(第1保持部20の構成)
図4に示すように、第1保持部20は、前記第2アーム14の先端近傍に枢着ピン24を介して略水平に枢支された第1円弧板25と、この第1円弧板25上の第1レール26に案内されて制御下に円弧状の左右移動を行なう第1スライダ27とから構成されている。ここで第1円弧板25は、体腔挿入部位Pを中心とする平面上の円弧を描く板体であって、その半径は実際に使用される電子内視鏡11の長さに応じて適宜の寸法に設定される。また、第1円弧板25の円弧長は、これに搭載されて左右の円弧状移動を行なう第1スライダ27に要求される移動量に依存し、本実施形態では円弧角が略100°となるよう設定されている。
【0019】
第1円弧板25は、内周部に円弧状の第1レール26が突設されると共に、外周部に円弧状のギヤ列からなる円弧状ラック28を備えている。そして、第1スライダ27は、第1レール26を跨いで該第1レール26に案内されつつ移動可能なサドル部29を備えている。すなわち、第1スライダ27はサドル部29を介して第1円弧板25上に支持され、第1レール26に沿って円弧状の左右移動を行なうようになっている。また、第1スライダ27は水平に延びるブラケットを備え、このブラケットの所要箇所に第1モータが倒立配置されている。係る第1モータの回転軸には第1ピニオンギヤが設けられ、該第1ピニオンギヤは前記円弧状ラック28と噛合している。従って、図示しない制御装置からの指令により第1モータを正逆回転させることにより、第1ピニオンギヤも正逆回転し、第1円弧板25の円弧状ラック28及び第1レール26を介して第1スライダ27に体腔挿入部位Pを中心とする平面上の左右円弧移動を付与するように構成されている。
(第2保持部21の構成)
図4に示すように、第2保持部21は、前記第1保持部20における第1スライダ27の上面に直立的に配設される第2円弧板33と、該第2円弧板33上を案内されつつ遠隔制御下に上下への円弧移動を行なう第2スライダ34とから構成されている。ここで、第2円弧板33は電子内視鏡11の体腔挿入部位Pを中心とする垂直面上の円弧を描く板体であり、その半径は電子内視鏡11の長さに応じて適宜の寸法に設定される。また、第2円弧板33の円弧長はこれに搭載されて上下の円弧状移動を行なう第2スライダ34に要求される移動量に依存し、本実施形態では略100°の円弧角となるように設定されている。
【0020】
第2円弧板33は、その内側の円弧状側面に第2レール35が突設されると共に、外側の円弧状側面に円弧状のギヤ列からなる円弧状ラック36を備えている。そして、第2スライダ34は、第2レール35を跨いで該第2レール35に案内されるサドル部38を備えている。すなわち、第2スライダ34はサドル部38を介して第2円弧板33に搭載され、第2レール35に沿って円弧状の上下移動を行なうようになっている。また、第2スライダ34は鉤状のブラケット39を備え、該ブラケット39の所要箇所に第2モータが水平に配置されている。この第2モータの回転軸には第2ピニオンギヤ41が設けられ、該第2ピニオンギヤ41は前記円弧状ラック36と噛合している。従って、制御装置からの指令により第2モータを正逆回転させれば、第2ピニオンギヤ41も正逆回転し、円弧状ラック36を介して第2スライダ34に体腔挿入部位Pを中心とする垂直面上の上下円弧移動を付与するように構成されている。
(第3保持部22の構成)
前記第2スライダ34には一対の保持ピン43が突設されている。これら一対の保持ピン43には、該保持ピン43が挿通されるガイド孔44を有するリニアスライダ45が前後動可能に保持されている。
【0021】
図1〜3に示すように、リニアスライダ45の底面には直線状ラック46が設けられ、第3モータによって回転するピニオンギヤ48が噛合され、一対の保持ピン43に支持された状態で斜め前後方向に移動可能に構成されている。リニアスライダ45の前端部には、水平軸としての支持軸49が支持され、該支持軸49を中心にして回転可能に構成された逆コの字状をなすナックル部50が支持されている。ナックル部50の開口端部には、上下一対の雌ねじ孔51が形成され、一対の垂直軸を構成するボールプランジャー52が螺入されるようになっている。
【0022】
(図2A)には先行技術のセンサ部断面図を示す。電子内視鏡11を保持するためのホルダー部53の中心部には円孔54が貫通形成され、該円孔54には断面T字状をなすパイプサポート55がその外周に円筒状の触覚センサ56を介装した状態で装着されている。パイプサポート55の中心には貫通孔57が形成され、その貫通孔57には円筒状の電子内視鏡11が挿通されている。図3に示すように、ホルダー部53の上下両面の中央部には円錐状の支持穴58が穿設され、前記ナックル部50の雌ねじ孔51に螺合されたボールプランジャー52のボール59が支持されるようになっている。そして、このボールプランジャー52によりホルダー部53がナックル部50に対して垂直軸を中心として回転可能に構成されている。従って、ホルダー部53さらには電子内視鏡11は、水平軸及び垂直軸の回りに回転でき、電子内視鏡11が斜め前後方向以外の応力を受けたときにその応力に追従できるようになっている。
【0023】
前記触覚センサ56は、コイル状炭素繊維を含有するセンサ素子により構成され、好ましくはコイル状炭素繊維がマトリクスとしての樹脂又はゴムに分散されて形成され、いずれの方向から受けた応力も検知可能に構成されている。センサ素子は、単層又は2層、3層等の複数の層が積層されて構成されている。積層構造の場合、各層はマトリクスの種類、硬度等、又はコイル状炭素繊維の種類、含有量等が異なるように構成され、各層の相乗的作用によって触覚センサ56の検知感度を高め、広範囲にわたる触圧(応力)を検知することが可能となる。
【0024】
この触覚センサ56は、前記センサ素子と、基準信号を発振する発振回路と、検知手段及び信号調整手段としての移相部と、検知手段としての検波部とを備えている。発振回路はセンサドライバ回路を介してセンサ素子に接続され、センサ素子は移相部を介して検波部に接続されている。
【0025】
そして、センサ素子に加わる応力の微小な変化により、センサ素子のインダクタンス(L)、静電容量(C、キャパシタンス)及び電気抵抗(R、レジスタンス)が変化し、その変化によりセンサ出力信号が変化する。センサ出力信号の変化は、検波部における直交検波により検知される。このため、インダクタンス、静電容量及び電気抵抗の変化傾向や変化量が求められる。従って、触覚センサ56により、センサ素子に加わる応力の微小な変化を検知することができる。
【0026】
前記マトリクスは誘電体であって静電容量(C)を有し、コンデンサとして作用する。マトリクスとしての樹脂としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、スチレンと熱可塑性エラストマーとの共重合樹脂等が用いられる。ゴムとしては、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が用いられる。マトリクスの硬さは触覚センサ56の感度を向上させる上で重要であり、マトリクスとして弾性力の優れたシリコーン樹脂、シリコーンゴム等を用いた場合には、微小な触圧でも伸縮してその触圧を高感度で検知することができる。一方、硬いシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、スチレンと熱可塑性エラストマーとの共重合樹脂等を用いた場合には、大きな触圧でないと伸縮せず、触覚センサ素子の感度は低いが、幅広い触圧範囲を検知することができる。
【0027】
以上の構成は、前記の様に特開2004−129956号公報または特開2008−17903号公報に記載の通りであり、本発明ではここまでの構成を同じくする関係で公報記載の内容を引用した。
先の発明(特開2008−17903号公報)からの改良点は、(図2B)に示すように、センサ素子としてのコイル状炭素繊維とマトリクスからなる触覚センサ56に対して、ホルダー部53の内側にネジ部を設けてセンサ特性調整部材80により触覚センサ56に圧縮力を加えることである。これによって、触覚センサ56の製造に多少のバラツキが生じたとしても、内視鏡から伝えられる変化を感知するためのゼロ点を、各触覚センサのダイナミックレンジ内に調整することができるのである。すなわち触覚センサ56の製造方法としては後に詳述するように非常に簡易的な方法により製造することができる反面、もしこれを常に一定の検知感度・検知幅・検知速度・定量性のセンサ素子を製造しなければならないとすると、コイル状炭素繊維の製造から、マトリクスとの混合比、混合方法などを全て制御管理する必要があり、せっかく簡易な方法により製造することができるという利点が没却されかねない。従って、多少の規格幅を有するセンサが製造されるとしても、これをセンサの組込方などによって補正できれば、充分高感度なセンサ素子としての利用ができるのである。
【0028】
また、仮にセンサ素子として完璧な一定品質のものが製造できるとしても、触覚センサを内視鏡保持装置に組み立てる際の固定方法、保持方法によっては、検知感度を充分に発揮することができない場合も想定される。このような観点から、本発明のセンサ特性調整部材は、触覚センサを組み込んだ後の構成において触覚センサに適度な圧縮力を加えることにより、センサのダイナミックレンジのゼロ点補正を調整し、基本感度及びクリープ等のセンサ特性を調節・校正し、検知感度を最大限発揮することができるようにしたものである。
【0029】
前記センサ特性調整部材80は(図2B)に示すようにネジの螺合により取り付けるものに限定されず、例えば、嵌合させるものや捻合させるものなどがあり、触覚センサに対して若干の触圧を与えられる機構であれば良い。また例示のセンサ特性調整部材は直接触覚センサの端面に接触しているが、この接触面の滑りを良くするためにセンサ特性調整部材の端面に球面状の凸部を複数設けても良い。これによりセンサ特性調整部材の螺進により触覚センサのセンサ特性調整部材側と対向側との間で捻れ・歪みを生じ難くすることができる。
【0030】
センサ特性調整部材の他の例として、(図2C)に示すようなホルダー部53と触覚センサ56の間に介挿部82を設け、触覚センサ56がパイプサポート55に密着し結果として電子内視鏡11への触圧を感度良く検知することができる。介挿部82はセンサ特性調整部材と一体成形されていてもよく、或いは円筒状の別部材であってもよい。この部材を用いると、触覚センサ56を電子内視鏡11が挿通されたパイプサポート55の外周面全体に対して押しつけるような面圧力が作用する。介挿部は先端に行くほど厚みが薄くなるように構成されているので、触覚センサ56とホルダー部53との間に挿入し易い形状である。この介挿部により、触覚センサを内視鏡の挿入軸と並行方向に単純に圧縮するだけでなく前記挿入軸と垂直方向にも圧縮するので、センサ全体により均一な負荷をかけることができ、部位による負荷の偏りを解消することができる。
【0031】
さらに、センサ特性調整部材80と触覚センサ56との間に該触覚センサを圧縮するためのセンサ圧縮板84を挟装させることもできる。この圧縮板84は、センサ特性調整部材を螺合する際に回転面が触覚センサに直接接触することを防止し、圧縮力をセンサに均等に加えるものである。センサ特性調整部材は内視鏡を中心軸としてネジを締めるように回動させるために、触覚センサとの接触面で摩擦力によって余分な応力・歪みが作用することを、該センサ圧縮板によって防止することができるからである。
【0032】
センサ特性調整部材は図に示すような螺合によって接続する場合、接続部分に使用されるネジ部の長さは5〜10mm程度である。この長さが短すぎると簡単に外れたり、斜めに螺合されるなどの不都合があり、一方長すぎると固定するまでに何回転も必要となって操作性に劣るからである。また前記圧縮板を使用する場合には、該圧縮板の厚さは1〜5mm程度であることが好ましい。厚みが薄すぎると取扱に不便なだけでなく容易に変形して触覚センサに均一な圧力を作用させることが困難になり、厚みが厚すぎるとセンサ調整部材を接続するためにネジ部の長さを確保するのが難しくなるからである。
【0033】
センサ特性調整部材およびセンサ圧縮板は、共にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、アクリル樹脂などの汎用プラスチックの他、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィンなどのエンジニアプラスチックから成形することができ、特にネジ部などの耐性を考慮してポリアセタールなどのエンジニアプラスチックが好ましい。
【0034】
前記センサ特性調整部材(およびセンサ圧縮板)によって触覚センサを構成するマトリクスを圧縮する。該マトリクスの硬さはJISA硬度(JIS K6301)で10〜100が好ましく、15〜90がより好ましい。JISA硬度で10未満の場合には、マトリクスが軟らかくなり過ぎて、ノイズの検出が大きくなって好ましくない。一方、JIS A硬度が100を越える場合には、マトリクスが硬くなり過ぎて、触圧の伝播性が悪く、検知感度が低下する。
【0035】
本発明の触覚センサに使用するコイル状炭素繊維としては、1本の炭素繊維で螺旋構造を形成するものや、2本の炭素繊維で二重螺旋構造を形成するものが知られており、さらに炭素繊維の巻き方向には、螺旋軸を中心として右巻きと左巻きがあるため、合計4種類の形態のいずれかの形態を有している。本発明では一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用してもよい。コイル状炭素繊維は伸縮性(弾力性)があり、その伸縮により電気特性であるインダクタンス(L)、静電容量(C)及び電気抵抗(R)が変化するため、それらの変化量に基づいて触圧を検知することができる。例えば、コイル状炭素繊維を伸ばすと上記L、C及びRが増加し、収縮させるとL、C及びRが減少する。具体的には、コイル状炭素繊維を4mm伸ばすと、Lは0.1mH増加し、Cは600pF増加し、Rは4.5kΩ増加する。そして、コイル状炭素繊維を収縮させて元の長さに戻すと、L、C及びRは元の値まで再現性良く戻る。コイル状炭素繊維をマトリクス中に分散させたときには、外部から触圧が加わったとき、まずマトリクスが伸縮し、次いでコイル状炭素繊維が伸縮するため、マトリクスを介してコイル状炭素繊維に加わる触圧に基づいて前記L、C及びRの値が変化する。
【0036】
コイル状炭素繊維は、どのような製法で製造されたものであってもよいが、例えば触媒活性化CVD(化学気相成長)法等により得られる。この気相成長法は、Ni粉末触媒を塗布したグラファイト基板上に、チオフェン又は硫化水素を不純物として含有するアセチレン、水素ガス、アルゴンを流入させ、600〜3000℃に加熱して、気相中でアセチレンを分解してコイル状炭素繊維を得る方法である。この方法により得られるコイル状炭素繊維は非晶質であり、その大半が繊維の中心部分まで微細な炭素粒が詰まった状態で形成されている。また、一部には中空状に形成されたものも観察される。
【0037】
前記方法により得られるコイル状炭素繊維は、コイルの直径が20nm〜100μmであり、コイルの長さは10nm〜50mmである。コイルの直径が20nm未満では、コイル状炭素繊維の製造が困難であり、100μmを超えるとコイル状炭素繊維により構成されているセンサ素子が大きくなるために、センサとしたときの小型化にとって好ましくない。またコイル長さが10nm未満であるとインダクタンス成分としての機能を充分に発揮し難くなる。一方、コイル長さは50mmを超えて形成しても良く、センサの厚みに合わせて適当な長さに裁断すればよい。さらに、炭素繊維の繊維の直径は好ましくは1nm〜10μmである。繊維の直径が1nm未満では、コイル状炭素繊維の製造が困難であり、10μmを超えると、コイルの直径を前記範囲に設定することが困難になるからである。なお繊維は断面が真円のものに限らず、楕円形、矩形、不定形になっていてもよい。また、マトリクス内に配列されているコイル状炭素繊維は、コイルの直径がそれぞれ異なるものであっても良いし、同じものであってもよい。
【0038】
また、さらに加熱処理を施すことにより、非晶質のコイル状炭素繊維をグラファイト化(六方晶系)することができる。加熱条件としては、ヘリウム又はアルゴンなどの不活性雰囲気下で、処理温度を700〜3000℃、好ましくは1500〜3000℃、最も好ましくは2000〜3000℃である。また処理時間は、0.1〜100時間、好ましくは1〜20時間、最も好ましくは3〜10時間である。このような処理を経ることにより、グラファイト層において炭素繊維を構成する炭素粒が規則正しく配列されることにより磁場の変動などを検知する際に生じる電気抵抗の変動が著しくなるために、共振特性が顕著となる。すなわちLCR共振回路におけるR成分などの変動が顕著となるので、センサの検出感度を向上させることができる。
【0039】
なお、前記方法以外にもコイル状炭素繊維の製造方法としては、遷移金属触媒を設けた基板上に5b族化合物または6b族化合物よりなる不純物ガスと炭素原料ガスを600〜900℃の温度下において反応領域に静磁場を与えながら熱分解させて製造する方法(特開平11−124740号公報)や、鎖状飽和炭化水素などを原料として400〜900℃の温度範囲で、0.3〜60.0MPaの絶対圧力範囲で、触媒として遷移金属と酸化物半導体を共存させて製造する方法(特開2004−352592号公報)、インジウム・スズ・鉄系触媒を用いることを特徴とする方法(特開2004−261630号公報)などがあり、これらの製造方法により得られるコイル状炭素繊維を用いることも勿論可能である。
【0040】
こうして得られたコイル状炭素繊維は、センサに圧力(すなわち接触圧)が加えられたときにはコイル状炭素繊維の伸縮に伴って内部ひずみ量が変化し、単位長さあたりのコイルの巻き数も変化して交番電磁界が変調され、コイル内を流れる電流値も変化し、LCRパラメータが変化する。したがって、センサに刺激が加えられた場合に、LCR回路間で複合共振的共鳴が起こると考えられる。さらに、マトリクスが誘電体により形成されてキャパシタンス(C)成分を有するものであるときには、各センサ素子の相互間に存在するマトリクスはコンデンサとして作用する。そして、マトリクス内に配置されたセンサ素子の相互間に存在するマトリクスを介して互いに接続されることにより、複合共振回路である電気的等価回路として構成され、センサ素子全部をまとめて一つのLCR共振回路として作用することができる。
【0041】
コイル状炭素繊維の含有量は、マトリクス中に0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。この含有量が0.1質量%未満の場合には、マトリクス中におけるコイル状炭素繊維の割合が少なく、コイル状炭素繊維に基づく触覚センサ56の感度が低下する。その一方、含有量が50質量%を越える場合には、マトリクス中におけるコイル状炭素繊維の割合が多くなり過ぎて硬くなり、触覚センサ56の感度が低下すると共に、成形性等も悪くなる傾向を示す。
【0042】
マトリクスにコイル状炭素繊維を分散させる方法としては、マトリクス前駆体としてのシリコーン樹脂にコイル状炭素繊維を添加し、撹拌して均一に分散させた後、脱泡し、鋳型に充填して成形する方法や、ポリスチレンや熱可塑性エラストマーのペレットを加熱溶融し、それにコイル状炭素繊維を添加し、撹拌して均一に分散させた後、鋳型に流し込み、加圧成形する方法などがある。この方法で、使用されるマトリクス前駆体としては他に、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリイミド、ポリサルホン、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。さらに、可塑剤、充填剤、有機繊維、無機繊維、セルロース、安定剤、着色剤などを必要に応じて添加してもよい。またコイル状炭素繊維を均一に分散させるために有機溶剤や水を添加することもできる。なお、マトリクス前駆体とは、コイル状炭素繊維を混合する際には、液状(低粘度が好ましい)であって、均一に混合後、適当な鋳型に充填して室温または加熱等により固化し、コイル状炭素繊維を機械的に保持するものである。
【0043】
上述の方法によりコイル状炭素繊維が分散されたマトリクスを触覚センサ56の形状に成形し、これを(図2C)に示すような構造に組み込み、さらにセンサ圧縮板、センサ特性調整部材を取り付けて本発明の内視鏡保持装置を組み立てる。内視鏡保持装置の第1保持部20に左右方向に移動する自由度を与える第1モータ、第2保持部21に垂直面上の円弧を描いて上下方向に移動する自由度を与える第2モータ及び第3保持部22に斜め前後方向に移動する自由度を与える第3モータは、何れも図示しない電源及び制御装置に接続されている。また、電子内視鏡11はケーブルを介してディスプレー14に接続され、電子内視鏡11により得られた内臓諸器官の映像は、モニター画面に映し出される。そして、内視鏡下手術に際し執刀医による指示は、ハンド操作やフット操作その他音声操作等によって、前記制御装置を介して第1モータ、第2モータ及び第3モータに与えられるようになっている。
【0044】
(実施形態の作用)
次に、本実施形態に係る内視鏡保持装置を使用する場合の作用について説明する。装置の自体は先の公報(特開2004−129956号公報、特開2008−17903号公報に記載の通りであるので、ここに引用する。
電子内視鏡11を使用して手術を行う際には、手術台上の患者の例えば腹部に電子内視鏡11や鉗子15を挿入するのに必要な切開を行ない、切開部の一つにカニューレを介して電子内視鏡11を挿入する。そして、電子内視鏡11を介してモニタに映し出された腹腔内の映像を、執刀医が視覚で確認しつつ助手に指示を行なうことで、制御装置を介して第1モータ、第2モータ及び第3モータが単独で又は同期的に駆動され、第1保持部20、第2保持部21及び第3保持部22に所期の動作が付与される。
【0045】
すなわち、第1モータが作動されると、第1保持部20は体腔挿入部位Pを中心として平面上の円弧を描いて左右方向に移動する。また、第2モータが作動されると、第2保持部21は体腔挿入部位Pを中心として垂直面上の円弧を描いて上下方向に移動する。さらに、第3モータが作動されると、第3保持部22は体腔挿入部位Pを通過点として斜め前後方向に前進移動又は後退移動する。
【0046】
従って、第1保持部20、第2保持部21及び第3保持部22における各動きを合成した動きは、そのまま電子内視鏡11に左右、上下及び斜め前後方向の合成運動として与えられる。この場合、電子内視鏡11は第3保持部22におけるホルダー部53に対しコイル状炭素繊維を含有する触覚センサ56を介して保持されている。このため、電子内視鏡11の動作設定において左右方向、上下方向又は斜め前後方向のいずれかの方向でずれが生じたときには、電子内視鏡11の斜め前方への移動に際し、体腔挿入部位Pに負荷が加えられると同時に、電子内視鏡11を経て触覚センサ56にも応力が加えられる。
【0047】
触覚センサ56に加えられた応力は、触覚センサ56のマトリックスに伝播されマトリックスが伸縮して静電容量(C)が変化すると共に、マトリックス中のコイル状炭素繊維が伸縮してインダクタンス(L)、静電容量(C)及び電気抵抗(R)が変化する。その結果、マトリックス及びコイル状炭素繊維が共振的に作用し、触覚センサ56全体の電気特性が顕著に変動して前記応力が検知される。そして、触覚センサ56によって検知された信号が制御装置に伝達され、第3モータが停止されて電子内視鏡11の移動が止められる。前記応力が過剰な場合には、ナックル部50に対してボールプランジャー52で支持されているホルダー部53が電子内視鏡11と共にナックル部50から外れる構造となっている。従って、電子内視鏡11が開放されるので、その後に助手または執刀医の手により手術が継続可能となる。
【0048】
本発明では前記応力の検知に際して、触覚センサに予め所定の触圧が加えられている結果、わずかな応力の変化を見逃すことなく、内臓諸器官に対して損傷を及ぼすような接触が起きる前に、内視鏡の動きを制御することができる。
【0049】
また、各触覚センサのロットまたは個体毎のダイナミックレンジに多少の相違があったとしても、センサ特性調整部材やセンサ圧縮板によって基本特性、検出感度を調整・校正することができるので、常に最適な検出感度に設定することができる。従って、触覚センサの製造の簡便さを維持しつつ、内視鏡保持装置に組み込まれたのちのキャリブレーションが容易である。
【0050】
なお、触覚センサは、内視鏡とパイプサポートとの間に設けることも、あるいは他の部分、例えばボールプランジャー52によるホルダー部53の支持部や、ナックル部50の支持部に設けることもできる。さらに触覚センサを複数箇所に設けて検知感度を高めるように校正することもできる。
【0051】
また、コイル状炭素繊維は、その外周面に導電性の物質よりなるコーティング層が形成することもできる。この場合、コイル状炭素繊維の導電性を向上させることができる。コイル状炭素繊維は、マトリクス内で均一に配置されるだけであり、各コイル状炭素繊維の一本一本を導線によって接続する訳ではない。従って、マトリクス内に電極を通して電流を流す際のマトリクス全体の抵抗を下げることができ、触覚センサ56の感度及び安定性を向上させるように構成することができる。導電性の物質の具体例としては、金、銀、銅、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン等の金属又はそれらの化合物や合金等が挙げられる。これらは単独で、または二種以上を組み合わせてコーティング層を形成することもできる。
【0052】
(実施例)以下、実施例及び比較例により、前記実施形態をさらに具体的に説明する。
コイル状炭素繊維として、コイルの長さが90μm下、コイルの直径が平均5μm程度のものを二液型RTVゴム(商品名:KE103;信越化学工業製)中に5.0重量%添加して、内径14mm、外径20mm、長さ10mmの円筒形のセンサ素子を得た。このセンサ素子を図8に示す内視鏡保持装置のセンサ素子試験系に組み込み、図に示す模擬内視鏡(320×10Φ)先端に上方向に引っ張り荷重をかけたときのセンサ出力電圧の変化を記録した。
【0053】
すなわち、ホルダ内のセンサ素子をセンサ特性調節部材を締めて圧縮し、無圧縮状態を感度増幅率1としたときの素子圧縮率−感度増幅率をプロットした図9にその結果を示す。図中、感度増幅率は感度調整後のセンサ出力電圧変化量(V)/感度調整前のセンサ出力電圧変化量(V)で表す。素子圧縮率は、圧縮後の素子体積(cm3)/圧縮前の素子体積(cm3)で表す。
【0054】
図9より理解できるように素子圧縮率が高いと増幅率が大きくなるが特に、0.98までが飛躍的に増大していることが判る。
【0055】
次に、前記と同じ方法で別々に作成したセンサ素子を3本用意して、前記同様の試験系に組み込み、上方向の引っ張り荷重をかけたときのセンサ出力電圧の変化量を記録した(図10)。出力電圧の違いを確認し、素子圧縮率−感度増幅率曲線に従いセンサ素子を校正し、再度センサ出力電圧の変化量を測定した(図11)。このときの素子1〜素子3の圧縮率は、それぞれ0.996、1.000、0.998である。
【0056】
図10および図11の結果より、本発明のセンサ特性調整部材により各センサの校正が容易に、しかも非常に高精度に行うことができることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の内視鏡保持装置の第3保持部を示す分解斜視図である。
【図2A】従来の内視鏡保持装置の内視鏡保持部の部分断面図である。
【図2B】本発明の内視鏡保持装置の内視鏡保持部の部分断面図である。
【図2C】本発明の内視鏡保持装置の内視鏡保持部の部分断面図である。
【図3】本発明の内視鏡保持装置の内視鏡保持部の部分側断面図である。
【図4】本発明の内視鏡保持装置における内視鏡を保持する部分を一部破断して示す部分平面図である。
【図5】本発明の内視鏡保持装置の直立支柱の部分を示す部分平面図である。
【図6】本発明の内視鏡保持装置の全体を示す斜視図である。
【図7】本発明の内視鏡保持装置に保持された内視鏡を用いて手術を行う状態を示す平面図である。
【図8】本発明の効果の試験系を示す模式図である。
【図9】素子圧縮率と感度増幅率の関係を示す図である。
【図10】感度校正前の出力電圧を示す図である。
【図11】感度校正後の出力電圧を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
10 内視鏡保持装置
11 内視鏡
20 第1保持部
21 第2保持部
22 第3保持部
49 水平軸としての支持軸
50 ナックル部
52 垂直軸としてのボールプランジャー
53 ホルダー部
56 触覚センサ
80 センサ特性調整部材
84 センサ圧縮板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡下手術において患者の体腔に挿入される内視鏡に加わる触圧をセンシングするための触覚センサを有する内視鏡保持装置であって、
手術台に近接して位置調節自在に配置され、患者の患部上方付近に内視鏡の先端を臨ませ得るアームと、
前記アームの先端近傍に配設され、前記内視鏡が体腔に挿入される部位を中心として、平面状の円弧を描いて左右方向に移動可能な第1保持部と、
前記第1保持部に配設され、前記内視鏡の体腔挿入部位を中心として、垂直面上の円弧を描いて上下方向に移動可能な第2保持部と、
前記第2保持部に配設され、前記内視鏡の体腔挿入部位を通過点とする斜め前後方向に移動可能な第3保持部とからなり、
前記内視鏡は、第3保持部に対しコイル状炭素繊維を含有する触覚センサを介して前後方向の軸線に沿って移動可能に保持される内視鏡保持装置において、
前記触覚センサに対して予め圧力を負荷して該触覚センサを校正するセンサ特性調整部材を有することを特徴とする内視鏡保持装置。
【請求項2】
前記センサ特性調整部材が、前記触覚センサに圧力を負荷するためのセンサ圧縮板を有し、該センサ圧縮板を押圧することを特徴とする請求項1記載の内視鏡保持装置。
【請求項3】
前記センサ特性調整部材が、前記触覚センサを内視鏡に向けて押圧するように、触覚センサの周囲に介挿される構造を有することを特徴とする請求項1記載の内視鏡保持装置。
【請求項1】
内視鏡下手術において患者の体腔に挿入される内視鏡に加わる触圧をセンシングするための触覚センサを有する内視鏡保持装置であって、
手術台に近接して位置調節自在に配置され、患者の患部上方付近に内視鏡の先端を臨ませ得るアームと、
前記アームの先端近傍に配設され、前記内視鏡が体腔に挿入される部位を中心として、平面状の円弧を描いて左右方向に移動可能な第1保持部と、
前記第1保持部に配設され、前記内視鏡の体腔挿入部位を中心として、垂直面上の円弧を描いて上下方向に移動可能な第2保持部と、
前記第2保持部に配設され、前記内視鏡の体腔挿入部位を通過点とする斜め前後方向に移動可能な第3保持部とからなり、
前記内視鏡は、第3保持部に対しコイル状炭素繊維を含有する触覚センサを介して前後方向の軸線に沿って移動可能に保持される内視鏡保持装置において、
前記触覚センサに対して予め圧力を負荷して該触覚センサを校正するセンサ特性調整部材を有することを特徴とする内視鏡保持装置。
【請求項2】
前記センサ特性調整部材が、前記触覚センサに圧力を負荷するためのセンサ圧縮板を有し、該センサ圧縮板を押圧することを特徴とする請求項1記載の内視鏡保持装置。
【請求項3】
前記センサ特性調整部材が、前記触覚センサを内視鏡に向けて押圧するように、触覚センサの周囲に介挿される構造を有することを特徴とする請求項1記載の内視鏡保持装置。
【図9】
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−226011(P2009−226011A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75444(P2008−75444)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜20年度、文部科学省、地域科学技術振興施策、委託研究(知的クラスター創成事業、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(593222805)アスカ株式会社 (11)
【出願人】(399054000)シーエムシー技術開発 株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜20年度、文部科学省、地域科学技術振興施策、委託研究(知的クラスター創成事業、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(593222805)アスカ株式会社 (11)
【出願人】(399054000)シーエムシー技術開発 株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
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