説明

内視鏡先端フード

【課題】 PDDまたはPDTのときに詳細な観察画像を得ると同時に、PDDとPDTの早急な切替を可能にする。
【解決手段】 内視鏡先端フード10は本体11とレーザ光カットフィルタとを有する。周囲部11aと保持部11bとが本体11を形成する。保持部11bはレーザ光カットフィルタを所定の位置に保持する。内視鏡先端フード10を挿入管に装着するとき、レーザ光カットフィルタは対物光学系を覆う。蛍光観察用内視鏡を用いてPDDを行なう。PDTを行なうときに蛍光観察用内視鏡の挿入管に装着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡の挿入管先端に取り付け可能な内視鏡先端フードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光を用いて癌などの病変部の光化学診断(PDD)及び光化学治療(PDT)が行なわれている(特許文献1)。
【0003】
PDDとは、特定の光感受性薬剤が健常部より病変部において蓄積することを利用して、光感受性薬剤を人体に投与した後、紫外線などの特定の波長の光を励起光として生体組織に照射することにより、光感受性薬剤が発する蛍光に基づいて病巣部の特定を行なう診断方法である。また、PDTとは、癌などに親和性を有しかつ光により励起されるときに殺細胞作用を有する光感受性薬剤を予め人体に投与して病巣部に集積させておき、病巣部に光を照射する治療方法である。
【0004】
通常、PDDを行うことにより病巣部を特定した後に、特定した病巣部に対してPDTが行なわれている。また、内視鏡を用いて、病巣部を観察しながらPDD、PDTが行なわれる。
【0005】
ところで、PDTにおいて癌親和性の光感受性薬剤を励起させるために、強度の強いレーザ光が照射される。そのため,PDTを行なっているときはレーザ光の波長の光をカットするレーザ光カットフィルタを用いて病巣部周囲の観察が行なわれる。
【0006】
一方、レーザ光の波長と略同じ波長の蛍光が、PDDにおいて生体組織から発する。したがって、PDDを行なうときにレーザ光カットフィルタを用いると蛍光が吸収されるため、蛍光画像を表示することが出来ない。
【0007】
従来は図7に示すPDT装置40を用いて、PDD及びPDTを行なっていた。PDT装置40は、アドオンカメラ41とファイバスコープ42とによって構成される。ファイバスコープ42は、挿入管22’の先端から観察窓43まで観察ライトガイド(イメージガイド、図示せず)が挿通される。
【0008】
図8に示すようにアドオンカメラ41には、CCDなどの撮像素子29’及びレーザ光カットフィルタ12’が設けられる。撮像素子29’と観察ライトガイドとは光学的に接続される。なお、レーザ光カットフィルタ12’は、撮像素子29’とファイバスコープ42との間において挿入自在に保持される。
【0009】
PDT装置40を用いてPDDを行なうときは、レーザ光カットフィルタ12’を撮像素子29’とファイバスコープ42との間に挿入せずに病変部周囲の観察が行なわれる。PDTを行なうときには、レーザ光カットフィルタ12’を挿入して、レーザ光をカットした画像が観察される。
【0010】
ところで、PDT装置40によって得られる画像はファイバスコープ42によって伝送される写像によって得られるので、詳細な画像を得ることが難しかった。特に、挿入管先端に撮像素子を備える電子内視鏡によって得られる画像に比べて解像度が落ちていた。
【0011】
よって、詳細な画像でPDD及びPDTを行なうためには、PDD用の蛍光観察用電子内視鏡とPDT用のレーザ光カットフィルタ付きの電子内視鏡を別々に用いる必要があった。
【0012】
しかし、一般的に治療時間が短いほど患者の負担が軽くなるため、PDDとPDTとの切替を早急に行なうことが望ましい。また、複数の内視鏡を用いることは、使用者にとって管理が煩わしく、また金銭的負担も大きなものとなっていた。
【特許文献1】特許第2596221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明ではPDDまたはPDTのときに詳細な観察画像を得ると同時に、PDDとPDTの早急な切替を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の内視鏡先端フードは、被写体像を形成する光を受光する受光手段が設けられる挿入管先端に着脱自在な本体と、本体が挿入管先端に装着されたときに受光手段を覆うレーザ光カットフィルタとを備えることを特徴としている。このような構成により、PDTを行なうときに内視鏡先端フードを用いることにより電子内視鏡を交換することなく、PDDとPDTの切替を行うことが可能になる。
【0015】
本体が、挿入管先端に嵌合する筒体とレーザ光カットフィルタを筒体における第1の位置に保持する保持体とを備えることが好ましい。
【0016】
挿入管先端の端面におけるレーザ光を照射するためのレーザ光照射手段が挿入されるチャンネルと受光手段とレーザ光カットフィルタとの間に設けられる対物光学系との間の第1の距離と、レーザ光照射手段とレーザ光を照射する生体組織との間の距離としてレーザ光の強度に基づいて定められる第2の距離と、対物光学系の画角とに応じて第1の位置が定められることが好ましい。このような構成によれば、容易に生体組織に対するレーザ光照射手段の位置決めを行うことが可能になる。
【0017】
レーザ光カットフィルタの吸収波長のピークが、620〜680nmであることが好ましい。
【0018】
受光手段が、撮像素子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、通常観察に加えて蛍光観察も可能な電子内視鏡である単一の蛍光観察用内視鏡を用いて、PDDとPDTを行うことが可能となる。また、PDTの際に内視鏡を介して生体内に挿入されるレーザ光照射手段の挿入する位置を用意に決めることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
まず、図1を用いて、本発明の一実施形態を適用した内視鏡先端フードが装着される電子内視鏡20について説明する。図1は、本発明の一実施形態を適用した内視鏡先端フードが装着される電子内視鏡20の外観図である。
【0022】
電子内視鏡20は、操作部21、挿入管22、及びコネクタ部23によって構成される。操作部21と挿入管22とが連結される。また、操作部21とコネクタ部23とが連結される。内視鏡先端フード(図1において図示せず)は、挿入管22の先端部24に装着される。
【0023】
コネクタ部23に設けられる照明光コネクタ23Lが、光源装置(図示せず)に光学的に接続される。照明光コネクタ23Lから挿入管22の先端部24まで、ライトガイド(図1において図示せず)が挿通される。光源装置から出射した光は、先端部24側におけるライトガイドの出射端(図1において図示せず)から出射される。
【0024】
先端部24には、対物光学系(図1において図示せず)とCCDなどの撮像素子(図1において図示せず)とが設けられる。対物光学系は先端部24の端面に設けられる。対物光学系は、撮像素子に光学的に接続される。挿入管22は生体内の観察部位(図示せず)に挿入される。
【0025】
ライトガイドの出射端から出射した光が観察部位周辺に照射される。観察部位からの光が対物光学系(図1において図示せず)を介して光学像として撮像素子によって受光される。
【0026】
撮像素子からコネクタ部23の信号コネクタ23Sまで信号線(図示せず)が延びており、撮像素子において撮像した被写体像は画像信号として信号コネクタ23Sに送られる。信号コネクタ23Sは画像信号処理装置(図示せず)に接続される。信号コネクタ23Sを介して画像信号処理装置に出力される画像信号は、所定の信号処理が施された後にモニタ(図示せず)に送られる。所定の信号処理が施された画像信号によって、モニタに被写体像が表示される。
【0027】
操作部21には、電子内視鏡20の所定の操作を行なうための操作ボタン(図示せず)、操作レバー(図示せず)が設けられる。また、操作部21には、鉗子口25が設けられる。挿入管22内には鉗子口25と接続される鉗子チャンネル(図1において図示せず)が設けられている。鉗子チャンネルは先端部24まで延設される。鉗子(図示せず)やレーザプローブ(図1において図示せず)などが鉗子口25から鉗子チャンネルに挿入される。
【0028】
次に、内視鏡先端フード10の構成について図2〜図6を用いて説明する。図2は、本発明の一実施形態を適用した内視鏡先端フードの透視図である。図3は、先端部に内視鏡先端フードを装着させるときの位置関係を示す図である。図4は、図2における方向D1の反対方向から内視鏡先端フードを見た図である。図5は、内視鏡先端フードを装着した電子内視鏡20の図4におけるV―V線に沿う断面図である。図6は、モニタに表示される表示画像を示す図である。
【0029】
図2に示すように、内視鏡先端フード10は本体11とレーザ光カットフィルタ12とによって構成される。本体11は、円筒状の周囲部11aの内周に円板状の保持部11bを設けることによって形成される。保持部11bは、周囲部11aの円筒高さ方向D1に対して垂直になるように形成される。
【0030】
図3に示すように、内視鏡先端フード10は、周囲部11aの円筒高さ方向D1に沿って一方の端である装着端13側から挿入管22に装着される。周囲部11aの装着端13側の内周は、挿入管22の先端部24の外周と略同じ形状となるように形成される。先端部24と周囲部11aの装着端13側とが嵌合することにより、内視鏡先端フード10の挿入管22への装着が実行される。
【0031】
図4に示すように、保持部11bには観察孔15、鉗子孔16、及び照射孔17が形成される。観察孔15には、レーザ光カットフィルタ12が固定される。レーザ光カットフィルタ12は、例えば吸収波長のピークが620〜680nmである光学フィルタが用いられる。
【0032】
内視鏡先端フード10が内視鏡に装着される状態において、観察孔15、鉗子孔16、及び照射孔17はそれぞれ挿入管22の先端部24における対物光学系26、鉗子チャンネル27、及びライトガイド28の出射端28aに重なる位置に形成される(図3参照)。
【0033】
装着端13と反対側の端である観察端14から保持部11bまでの距離は、後述するように所定の距離Hに定められる。したがって、保持部11bに保持されるレーザ光カットフィルタ12の周囲部11aに対する位置は、所定の位置に定められる。観察端14から保持部11bまでの距離について、図5を用いて説明する。
【0034】
所定の距離Hは、鉗子チャンネル27の中心と対物光学系26との間の距離である第1の距離h1と、鉗子孔16から突出するレーザプローブ31に対して定められる生体組織Aからレーザプローブ31の出射端までの間の距離である第2の距離h2と、対物光学系26の画角(2×θ)から、H=h2+h1×cotθによって求められる。したがって、所定の距離Hは、第1、第2の距離h1、h2が長くなるにつれて長くなる。また、画角(2×θ)が大きくなるにつれて短くなる。
【0035】
なお、鉗子チャンネル27の中心と対物光学系26との間の距離とは、対物光学系26の周囲から鉗子チャンネル27の中心に最も近い点と鉗子チャンネル27の中心とを結ぶ距離である。
【0036】
以上のような構成の内視鏡先端フード10を用いたPDD及びPDTについて説明する。まず、PDDを行なうときには内視鏡先端フード10を装着することなく、挿入管22が生体内に挿入される。
【0037】
なお、PDDを行なうときの電子内視鏡20は通常観察および蛍光観察が可能な蛍光観察用内視鏡であり、撮像素子29の受光面側に励起光カットフィルタ30が設けられる(図3、図5参照)。また、ライトガイド28に光学的に接続される光源装置からは、紫外線などの光感受性薬剤に蛍光を発せしめる波長の励起光が発光される。
【0038】
ライトガイド28の出射端28aから、励起光が観察部位に照射される。観察部位の被写体像は、対物光学系26及び励起光カットフィルタ30を介して撮像素子29に撮像される。励起光カットフィルタ30により、被写体像から励起光成分が除去される。励起光成分が除去されることにより、励起光が照射されることによって被写体である生体組織が発する蛍光成分のみが、撮像素子29により撮像される。
【0039】
撮像素子により撮像された被写体の蛍光成分に基づいて、モニタ(図示せず)に蛍光画像が表示される。蛍光画像を使用者が観察することによって、PDDが行なわれる。
【0040】
PDDによって腫瘍などの位置を確認後に、一旦、挿入管22が生体内から引き抜かれる。次に、挿入管22の先端部24に内視鏡先端フード10が装着される。再度、挿入管22が生体内に挿入される。
【0041】
この時、ライトガイド28の出射端28aから、白色光が被写体に照射される。モニタ32に表示される被写体を観察しながら、PDDによって特定した癌などの病巣部が探索される。病巣部(図6符号B参照)が発見された後、内視鏡先端フード10の観察端14が生体組織Aに押し当てられる(図5参照)。なお、観察端14は、発見された病巣部が周囲部11aの内側に入るように押し当てられる。
【0042】
内視鏡先端フード10と生体組織Aによって形成される空間に、鉗子チャンネル27および鉗子孔16を介してレーザプローブ31が挿入される。図6に示すように、モニタ32に表示される表示画像Pを使用者が観察しながら、レーザプローブ31が挿入される。
【0043】
レーザプローブ31の挿入前には、モニタ32には病巣部Bと周囲部11aの内壁が表示される。レーザプローブ31が表示画像Pの端部に現れるまで、レーザプローブ31は挿入される。レーザプローブ31の挿入が完了すると、ピーク波長が620〜680nmのレーザ光が病巣部Bに照射され、PDTが実行される。
【0044】
PDTの後に、一旦、挿入管22が生体内から引き抜かれる。先端部24に装着した内視鏡先端フード10を取り外して、再度、挿入管22が生体内のPDTを行なった周辺領域まで挿入される。
【0045】
PDTを行なった周辺領域において再度PDDが行なわれる。すなわち、周辺領域に励起光が照射され、蛍光画像が観察される。PDT後の蛍光画像を観察することにより、PDTの治療効果が確認される。以上のように、本実施形態の内視鏡先端フード10を用いて、PDDとPDTが行なわれる。
【0046】
以上のように、本実施形態の内視鏡先端フード10を用いることにより、単一の蛍光観察用内視鏡によってPDD及びPDTが可能になる。したがって、複数の電子内視鏡20を用いる必要が無いため電子内視鏡20の切替が不要であり、治療時間の短縮化が図られる。また、使用者が用意する電子内視鏡20が少なくなるため、電子内視鏡の準備及びメンテナンスが容易となる。
【0047】
また、本実施形態の内視鏡先端フード10を用いることにより、レーザプローブ31の位置決めが容易となる。前述のように、PDTに使用されるレーザ光の強度は高い。そこで、患者の安全を確保するために、レーザプローブ31毎に生体組織から離す距離が定められている。
【0048】
前述のように、レーザプローブ31がモニタ32の表示画像Pの端部に表示されたとき(図6参照)に挿入を停止することにより、レーザプローブ31と生体組織Aとの間の距離を前述のレーザプローブ31に定められた距離に合わせることが可能となる。
【0049】
なお、本実施形態において、円筒状の周囲部11aを用いたが、いかなる形状であってもよい。先端部24と嵌合可能であればよい。また、本実施形態では、周囲部11aが先端部24に嵌合することにより本体11が挿入管22に装着されるが、本体11が挿入管22への装着は、いかなる構成によって行われてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、保持部11bは複数の孔15〜17が形成された円板であったが、いかなる形状であってもよい。内視鏡先端フード10を挿入管22に装着したときに、撮像素子29及び対物光学系26を覆う位置にレーザ光カットフィルタ12が保持されればよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態を適用した内視鏡先端フードが装着される電子内視鏡の外観図である。
【図2】本発明の一実施形態を適用した内視鏡先端フードの透視図である。
【図3】挿入管の先端部に内視鏡先端フードを装着させるときの位置関係を示す図である。
【図4】図2における方向D1の反対方向から内視鏡先端フードを見た図である。
【図5】内視鏡先端フードを装着した電子内視鏡の図4におけるV―V線に沿う断面図である。
【図6】モニタに表示される表示画像を示す図である。
【図7】従来のPDT装置の外観図である。
【図8】アドオンカメラの内部構成を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0052】
10 内視鏡先端フード
11 本体
11a 周囲部
11b 保持部
12 レーザ光カットフィルタ
13 装着端
14 観察端
15 観察孔
16 鉗子孔
17 照射孔
20 電子内視鏡
22 挿入管
24 先端部
26 対物光学系
27 鉗子チャンネル
31 レーザプローブ
32 モニタ
A 生体組織
B 病巣部
P 表示画像



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体像を形成する光を受光する受光手段が設けられる挿入管先端に、着脱自在な本体と、
前記本体が前記挿入管先端に装着されたときに、前記受光手段を覆うレーザ光カットフィルタとを備える
ことを特徴とする内視鏡先端フード。
【請求項2】
前記本体が、前記挿入管先端に嵌合する筒体と、前記レーザ光カットフィルタを前記筒体内における第1の位置に保持する保持体とを備えることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡先端フード。
【請求項3】
前記挿入管先端の端面における、レーザ光を照射するためのレーザ光照射手段が挿入されるチャンネルと、前記受光手段と前記レーザ光カットフィルタとの間に設けられる対物光学系との間の第1の距離と、
前記レーザ光照射手段と前記レーザ光を照射する生体組織との間の距離として前記レーザ光の強度に基づいて定められる第2の距離と、
前記対物光学系の画角とに応じて前記第1の位置が定められる
ことを特徴とする請求項2に記載の内視鏡先端フード。
【請求項4】
前記レーザ光カットフィルタの吸収波長のピークが、620〜680nmであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の内視鏡先端フード。
【請求項5】
前記受光手段が、撮像素子であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の内視鏡先端フード。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−20759(P2007−20759A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205190(P2005−205190)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】