説明

内視鏡及び硬度調整装置

【課題】内視鏡挿入部の軟性部の硬度可変機構の操作性を向上させること、特に、硬度可変機構を片手で軽い力で容易に操作可能とする。
【解決手段】内視鏡挿入部の軟性部内に配置された該軟性部の可撓性を変更することが可能な密着コイルばねと、前記密着コイルばねの先端部と固定され、前記密着コイルばねを挿通するように設けられたワイヤと、前記密着コイルばねの後端部を固定する固定手段と、前記ワイヤを牽引し、その外周面に前記ワイヤを巻き付けて巻き上げる、偏心した巻き上げ回転体と、前記巻き上げ回転体と前記密着コイルばねの後端部の間の所定位置に配置され、前記所定位置と前記密着コイルばねの後端部との間における前記ワイヤの牽引方向が前記密着コイルばねの軸線と一致するように前記ワイヤを位置規制するワイヤ位置規制手段と、を備えたことを特徴とする硬度調整装置を提供することにより前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡及び硬度調整装置に関し、特に、内視鏡挿入部における軟性部の可撓性を変更可能とした内視鏡及び硬度調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療分野において、内視鏡を利用した医療診断が広く行われており、特に、体腔内に挿入される内視鏡の挿入先端部にCCDなどの撮像素子を内蔵して体腔内の画像を撮影し、プロセッサ装置で信号処理を施してモニタに表示し、これを医者が観察して診断に用いたり、あるいは、処置具挿通用のチャンネルから処置具を挿入して、例えば試料の採取やポリープの切除等の処置を行うようにしている。
【0003】
内視鏡は、一般に、施術者(以下単に術者という)が把持して操作する本体操作部と、この本体操作部に対して体腔内等へ挿入される挿入部を連接するとともに、本体操作部からコネクタ部等に接続するためのユニバーサルケーブルを引き出すことにより大略構成され、ユニバーサルケーブルは本体操作部から延在させて、その他端部は光源装置(光源装置およびプロセッサ)に着脱可能に接続される。
【0004】
内視鏡の挿入部は、複雑に屈曲した挿入経路内にも挿入できるように、可撓性を有する軟性部を有している。しかし、この可撓性のために挿入部の先端側の方向が定まらず、目標とする方向に挿入することが難しいという問題がある。また、体腔内に挿入している際、何らかの処置や観察を行うために、挿入部がその時の形状で固定されていることが望ましい場合がある。
【0005】
そこで、圧縮されることにより硬度(曲げに対する硬さ)を変えるコイルパイプを内視鏡挿入部の軟性部内に配置して、コイルパイプ内に牽引用ワイヤを挿通し、このワイヤ先端をコイルパイプに連結するとともにコイルパイプの後端側を固定して、操作部に取り付けられた可撓性調整操作ノブを回すことにより牽引用ワイヤを牽引操作することにより、コイルパイプの圧縮状態を変えて挿入部の軟性部の可撓性を調整可能とする硬度可変機構が考えられている。
【0006】
しかし、コイルパイプ(密着コイルばね)を用いた硬度可変機構において必要なワイヤ牽引力は数十kgfに達する。このとき、牽引機構の減速機能によって、できる限り術者の操作力は小さくした方が望ましいが、例えば上記のように操作ノブを回してワイヤを牽引しているような場合に、操作ノブの操作量とワイヤに発生する牽引力との関係が直線的であると、コイルパイプの硬度が上がるに従って操作力量が重くなり、相対的に操作ストロークが増大し、操作の煩雑さが増すという懸念がある。
【0007】
これに対して、例えば、特許文献1においては、コイルパイプを用いた硬度可変機構のワイヤ牽引機構に操作ノブによって操作されるカム機構を用い、カム機構のカム溝のピッチを途中で変化させることにより、比較的ワイヤ牽引力が小さい牽引初期には、減速比を小さくして同じ操作ストロークでの牽引長さを大きくするとともに、ワイヤ牽引力が増大する(硬度が大となる)牽引後半では、減速比を大きくして同じ操作ストロークでの牽引長さを小さくするようすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来内視鏡操作者(術者)は、左手に操作部を持つとともに右手に軟性部を持ち、挿入・診断・治療等の作業を行っているが、上記従来のもののように、操作ノブによってカム機構を操作するものでは、右手を軟性部から一度離して操作ノブを回さなければならず、術者は片手で操作することができない。
【0010】
そこで、コイルパイプ(密着コイルばね)に挿通された牽引用ワイヤを牽引してコイルパイプの硬度(曲げ硬度)を変更する硬度可変機構において、ワイヤ牽引力が小さく硬度も小さい牽引初期においては、ワイヤの牽引長さを大きくするとともに、ワイヤ牽引力が大きく硬度も大きい牽引後半になるにつれてワイヤ牽引長さを小さくして操作力を小さくし、硬度可変機構の操作性を向上させるとともに、ワイヤ牽引機構を片手で軽い力で容易に操作できることが望ましい。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、内視鏡挿入部の軟性部の硬度可変機構の操作性を向上させること、特に、硬度可変機構を片手で軽い力で容易に操作可能とすることのできる内視鏡及び硬度調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、内視鏡挿入部の軟性部内に配置された該軟性部の可撓性を変更することが可能な密着コイルばねと、前記密着コイルばねの先端部と固定され、前記密着コイルばねを挿通するように設けられたワイヤと、前記密着コイルばねの後端部を固定する固定手段と、前記ワイヤを牽引し、その外周面に前記ワイヤを巻き付けて巻き上げる、偏心した巻き上げ回転体と、前記巻き上げ回転体と前記密着コイルばねの後端部の間の所定位置に配置され、前記所定位置と前記密着コイルばねの後端部との間における前記ワイヤの牽引方向が前記密着コイルばねの軸線と一致するように前記ワイヤを位置規制するワイヤ位置規制手段と、を備えたことを特徴とする硬度調整装置を提供する。
【0013】
これにより、牽引力が小さい牽引初期と牽引力が大きい牽引後半とで操作ストロークを変えることにより、内視鏡挿入部の軟性部の硬度可変機構の操作性を向上させることを可能とするとともに、ワイヤの牽引方向を密着コイルばねの軸線と一致させることにより、ワイヤが断線するのを防止すること可能とする。
【0014】
また、請求項2に示すように、前記偏心した巻き上げ回転体は、偏心プーリであることを特徴とする。
【0015】
このように、偏心プーリを用いることにより、簡単な構成で牽引力が小さい牽引初期と牽引力が大きい牽引後半とで操作ストロークを変えることが可能となる。
【0016】
また、請求項3に示すように、前記ワイヤ位置規制手段は、前記巻き上げ回転体による前記ワイヤの最大牽引時に、前記ワイヤが前記ワイヤ位置規制手段に接触しない位置に配置されたことを特徴とする。
【0017】
これにより、最大牽引時の牽引力の増加を防止することができる。
【0018】
また、請求項4に示すように、前記ワイヤ位置規制手段は、滑らかに摺動するガイド溝、穴または回転体のいずれかであることを特徴とする。
【0019】
このようにワイヤ位置規制手段としては、様々な構成を用いることができる。
【0020】
また、請求項5に示すように、請求項1〜4のいずれかに記載の硬度調整装置であって、さらに、前記巻き上げ回転体に回転駆動力を与えるとともに前記巻き上げ回転体に自己制動力を与えるウォームギヤを有する減速機構を備えたことを特徴とする。
【0021】
これにより、ワイヤを任意の牽引位置で固定することができ、軟性部を任意の硬度状態に保持することができる。
【0022】
また、請求項6に示すように、前記減速機構には、内視鏡手元操作部に回動自在に設けられた操作レバーが連結されていることを特徴とする。
【0023】
このように、操作レバーを設けたことにより、減速機構を手動で操作することができる。
【0024】
また、請求項7に示すように、前記減速機構と前記操作レバーとは、一方向クラッチを介して連結され、前記一方向クラッチは、前記巻き上げ回転体による、前記ワイヤの牽引及び弛緩を選択的に操作するために、前記操作レバーの往路方向の回動で前記減速機構に動力伝達し、前記操作レバーの復路方向の回動で前記減速機構に対して前記操作レバーを空回りさせる一方向クラッチであることを特徴とする。
【0025】
これにより、ワイヤを牽引する場合、操作レバーを往路方向に回動させると、その回動操作力が一方向クラッチを介して減速機構に伝達されるので、ワイヤがプーリに牽引される。また、操作レバーを復路方向に回動させると操作レバーは一方向クラッチの作用によって減速機構に対して空回りし、プーリは回転しない。また、操作レバーの復路方向の操作時にはプーリはウォームギヤの自己制動力によって回転せず、ワイヤはプーリに巻き上げられた状態が保持され、術者の負担が軽減される。
【0026】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項8に記載の発明は、内視鏡挿入部の軟性部内に配置された該軟性部の可撓性を変更することが可能な密着コイルばねと、前記密着コイルばねの先端部と固定され、前記密着コイルばねを挿通するように設けられたワイヤと、前記密着コイルばねの後端部を固定する固定手段と、前記ワイヤを牽引し、その外周面に前記ワイヤを巻き付けて巻き上げる、偏心した巻き上げ回転体と、前記巻き上げ回転体と前記密着コイルばねの後端部の間の所定位置に配置され、前記所定位置と前記密着コイルばねの後端部との間における前記ワイヤの牽引方向が前記密着コイルばねの軸線と一致するように前記ワイヤを位置規制するワイヤ位置規制手段とから成る硬度調整装置を備えたことを特徴とする内視鏡を提供する。
【0027】
これにより、牽引力が小さい牽引初期と牽引力が大きい牽引後半とで操作ストロークを変えることにより、内視鏡挿入部の軟性部の硬度可変機構の操作性を向上させることを可能とするとともに、ワイヤの牽引方向を密着コイルばねの軸線と一致させることにより、ワイヤが断線するのを防止すること可能とする。
【0028】
また、請求項9に示すように、前記偏心した巻き上げ回転体は、偏心プーリであることを特徴とする。
【0029】
これにより、偏心プーリを用いることにより、簡単な構成で牽引力が小さい牽引初期と牽引力が大きい牽引後半とで操作ストロークを変えることが可能となる。
【0030】
また、請求項10に示すように、請求項8または9に記載の内視鏡であって、さらに、前記巻き上げ回転体を駆動する操作レバーを、内視鏡の手元操作部の上部の、該手元操作部を把持する術者の片方の手で操作することが可能な範囲に設けたことを特徴とする。
【0031】
これにより、硬度可変機構を片手で軽い力で容易に操作可能とすることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、牽引力が小さい牽引初期と牽引力が大きい牽引後半とで操作ストロークを変えることにより、内視鏡挿入部の軟性部の硬度可変機構の操作性を向上させることを可能とするとともに、ワイヤの牽引方向を密着コイルばねの軸線と一致させることにより、ワイヤが断線するのを防止すること可能とする。また、ワイヤ牽引機構を操作する操作レバーを手元操作部上部に設けた場合には、硬度可変機構を片手で軽い力で容易に操作可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る硬度調整装置を備えた内視鏡の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】内視鏡の内部構造を示す、長手方向に沿った断面図である。
【図3】ワイヤ牽引部の構成を示す、手元操作部の断面図である。
【図4】偏心プーリを示す説明図であり、(A)はワイヤ位置規制部材がない場合、(B)はワイヤ位置規制部材を入れた場合で硬度0の場合、(C)はワイヤ位置規制部材を入れた場合で最大硬度の場合を示す。
【図5】牽引機構部の構成を示した斜視図である。
【図6】一方向クラッチの一例を示した組立斜視図である。
【図7】図6に示した一方向クラッチの側面図である。
【図8】一方向クラッチの他の例を示した構造図である。
【図9】長さ調整部材を備えた牽引機構部の構成を示した斜視図である。
【図10】(A)、(B)はともに長さ調整部材の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る内視鏡及び硬度調整装置について詳細に説明する。
【0035】
図1は、本発明に係る硬度調整装置を備えた内視鏡の一実施形態を示す概略構成図である。
【0036】
図1に示すように、内視鏡10は、手元操作部12と、手元操作部12に基端部が連結された挿入部14とを備えている。術者は、手元操作部12を左手で把持して操作しつつ、右手で挿入部14を把持して挿入部14を被検者の体腔内に挿入することによって観察を行う。
【0037】
手元操作部12には、ユニバーサルケーブル16が接続され、ユニバーサルケーブル16の先端にはLGコネクタ17が設けられている。このLGコネクタ17を図示を省略した光源装置に接続することによって、挿入部14の先端部に配設された照明光学系に照明光が送られるようになっている。また、同様に図示を省略するが、ユニバーサルケーブル16には、電気コネクタが接続されており、電気コネクタは内視鏡プロセッサに接続される。これにより、内視鏡10で得られた観察画像の信号が内視鏡プロセッサに出力され、内視鏡プロセッサに接続されたモニタ装置に画像が表示される。術者はこの画像を観察しながら内視鏡10を操作する。
【0038】
挿入部14は、手元操作部12の先端部に接続され、その(手元操作部12側の)基端部から(体腔内に挿入される側の)先端に向けて、軟性部26、湾曲部24、及び先端硬質部22の各部によって構成されている。湾曲部24は、手元操作部12に設けられたアングルノブ30を回動することによって遠隔的に湾曲操作される。これによって、先端硬質部22の先端面を所望の方向に向けることができる。
【0039】
また、手元操作部12には、図示を省略した送気・送水チャンネルを介して先端硬質部22の送気/送水口から検査部位等に送気及び送水を行うための送気・送水ボタン32、同様に図示を省略した鉗子チャンネルを介して先端硬質部22の鉗子口から吸引を行うための吸引ボタン34、及び鉗子チャンネルと連通し、術者が鉗子を挿入するための開口である鉗子挿入口36等が設けられている。
【0040】
また、内視鏡10は、軟性部26の可撓性を調整する硬度調整装置(可撓性調整装置)を備えている。その詳しい構成は後述するが、軟性部26内に密着コイルばねが配置され、軟性部先端側で密着コイルばねと固着されるとともに手元操作部12側で固定部材に固定された密着コイルばね内を挿通されたワイヤを牽引することにより、密着コイルばねを圧縮して、密着コイルばねの硬度を硬くすることにより、軟性部26の硬度を硬くするようになっている。
【0041】
手元操作部12の上部には、軟性部26の硬度を調整する硬度調整手段の操作レバー40が設けられている。操作レバー40を操作すると、ワイヤ牽引部を介してワイヤが牽引される。特に、この操作レバー40は、図1に二点鎖線で示したように、手元操作部12を把持する左手の指が届く範囲に設けられている。さらに、詳しくは後述するが、本実施形態においては、硬度調整装置のワイヤ牽引部も手元操作部12の上部に設けるようにしている。ここで前記上部とは、内視鏡10の使用形態時における上部を指し、構造的には、手元操作部12の基端部側を指す。
【0042】
図2に、内視鏡10の構造を長手方向に沿った断面図で示す。
【0043】
図2に示すように、挿入部14の湾曲部24は、環状に形成された多数の湾曲駒42、42…を連設することによって構成されている。隣接する湾曲駒42は、互いに回動可能に連結されており、手元操作部12のアングルノブ30(図1参照)を操作することによって、湾曲部24が上下左右に湾曲して、先端硬質部22の先端面23を任意の方向に向けることができる。
【0044】
また、図2に示すように、軟性部26の内部には、可撓性調整装置を構成する密着コイルばね44(以下、単に密着ばね44と言う)と、密着ばね44の内部に挿通されるワイヤ46が配置されている。
【0045】
密着ばね44は、軟性部26の先端部側に一端がロウ付け等によって固定されるとともに、他端は手元操作部12の後述する密着ばね44の固定部材50(図3参照)にロウ付け等によって固定される。
【0046】
図2の如くワイヤ46は、密着ばね44の内部に挿通され、一端が密着ばね44の一端及び軟性部26の先端側にロウ付け等によって固定されるとともに、他端が手元操作部12に設けられた牽引機構部に連結される。そして、前述したように、手元操作部12の上部に設けられた操作レバー40を操作すると、牽引機構部によってワイヤ46が牽引され、その結果、密着ばね44が圧縮される。これにより、密着ばね44は、可撓性が低く硬い状態に変化するので、軟性部26の硬度(曲げ硬度)が硬く調整される。
【0047】
図3に、ワイヤ牽引部の構成を示す。図3の左側に手元操作部12の断面図を示し、図3の右側にワイヤ牽引機構を図の手元操作部12を右側から見た側面図を示す。
【0048】
図3の左側に示すように、手元操作部12の上部に、密着ばね44内を挿通されたワイヤ46を牽引するための、ワイヤ牽引部のワイヤ巻き上げプーリ74(以下、単にプーリ74と言う)が配置されている。 プーリ74には、ワイヤ46が巻き掛けられており、ワイヤ46は、その端点48をプーリ74に固定されている。また、プーリ74は、同軸でウォームホイール(プーリ駆動ギヤ)58と連結されている。
【0049】
また、プーリ74付近を図の右側から見た側面図を図の右側に示すように、ウォームホイール58は、ウォーム60と係合し、ウォームホイール58とウォーム60とでウォームギヤを構成している。ウォーム60には、同軸で平歯車62が連結されており、この平歯車62は、操作レバー40と結合された歯車64と係合している。
【0050】
また、図3の左側に示すように、手元操作部12の上部に配置されたプーリ74のすぐ近くに、密着ばね44を固定する固定部材50が設けられている。
【0051】
そして、術者によって操作レバー40が操作されると、操作レバー40と結合した歯車64が駆動し、これによって平歯車62が駆動される。その結果、平歯車62と同軸で結合されたウォーム60が駆動される。そして、ウォーム60によってウォームホイール58が駆動し、プーリ74が回動して、ワイヤ46が牽引されるようになっている。
【0052】
また、ワイヤ46の先端は密着ばね44の先端に固定され、また密着ばね44の一端は固定部材50に固定されているため、ワイヤ46が牽引されると、密着ばね44は、ワイヤ牽引部のプーリ74側に引っ張られ固定部材50との間で圧縮されて、その硬度(曲げ硬度)が硬くなるようになっている。
【0053】
このように、本実施形態においては、密着ばね44を固定する固定部材50を手元操作部12の上部側に設け、密着ばね44を手元操作部12上部まで延長している。
【0054】
また、操作レバー40の2つの操作位置を図3に破線で示し、矢印で操作方向を示したように、上方向と下方向に操作可能に構成されている。操作レバー40を上方向に操作すると、歯車64により平歯車62が駆動され、平歯車62とともにウォーム60が駆動し、ウォーム60によってウォームホイール58が駆動されることによりプーリ74がワイヤ46を巻き上げる方向に回動し、ワイヤ46が牽引され密着ばね44が圧縮されて密着ばね44の硬度が増し、軟性部26の硬度が硬く(可撓性が低く)なる。また、操作レバー40を下方向に操作すると、各歯車が上と逆方向に駆動されてプーリ74がワイヤ46を巻き戻す方向に回動し、ワイヤ46が弛緩して密着ばね44の圧縮が解除されて密着ばね44の硬度が減少し、軟性部26の硬度も減少する(可撓性が高くなる)。
【0055】
ここで、操作レバー40からの操作力は、操作レバー40の歯車64を介してウォーム60に伝達され、さらにウォームホイール58を介してプーリ74に伝達されるが、ワイヤ46は密着ばね44の先端に固定されており、挿入部14(軟性部26)が湾曲すると密着ばね44も湾曲して長さが長くなる。そのため、操作レバー40を操作しなくとも、ワイヤ46は相対的にプーリ74側に引き込まれ、密着ばね44の硬度が変化してしまう。そこで、操作レバー40を操作していなくて、硬度が0の場合に、挿入部14を湾曲してもその硬度が変化しないようにするために、図3中符号46Aで示すように、ワイヤ46に初期たるみ(初期余長)を持たせている。
【0056】
なお、術者が操作レバー40を操作して軟性部26の硬度を硬くしているとき、術者が操作レバー40から手指を離しても、ウォーム60とウォームホイール58の歯面の摩擦によって、ウォームホイール58がその位置で固定されるようになっている。このように、ウォーム60によってウォームホイール58を固定することにより、プーリ74を任意の位置で固定し、ワイヤ46の牽引状態を保持することができる。このようにウォーム60は、ワイヤ牽引状態を保持するブレーキ機能(セルフロック機能)を有している。また、ウォーム60は、減速機能を有しており、ワイヤ46に係る数十kgfに達するワイヤ牽引力をより小さい操作力に軽減するために組み込まれたものである。
【0057】
なお、操作レバー40からの操作力をウォーム60に伝達してワイヤを牽引するワイヤ牽引機構については、後でさらに詳しく説明する。
【0058】
このように、ワイヤ46を牽引することにより、密着ばね44の硬度を硬くするようにしているが、ワイヤ46の先端は軟性部26先端側で密着ばね44と固着されているため、ワイヤ46の牽引力は、密着ばね44の圧縮力として、手元操作部12上部の密着ばね44の固定部材50に働く。
【0059】
また、図3の右側に示すように、本実施形態においては、プーリ74の回転中心74Cを偏心させている。このように、硬度調整用のワイヤ46のプーリ巻き上げ牽引において、プーリ74を偏心することにより、牽引初期は巻き上げ長さが大きく、牽引後半において硬度が大きくなるに従って巻き上げ長さが小さくなるような牽引機構を実現している。
【0060】
すなわち、図3の右側の図に示すように、牽引を開始するときには、ワイヤ46に初期たるみ46Aが存在しており、回転中心74Cをプーリ74の本来の中心よりも(図において)左側に偏心させ、回転半径を大きくして、この初期たるみ46Aをまず吸収するようにしている。
【0061】
しかし、偏心したプーリ74を用いる場合において、プーリ74の回転軸(回転中心74C)とワイヤ46の牽引位置(ワイヤ46がプーリ74から離間する位置)の距離である回転半径は、プーリ74の回転角度に依存して変化する。硬度可変機構において、密着ばね44は動かないように固定されているため、ワイヤ46の牽引位置が変化すると、ワイヤ46を密着ばね44の軸に対して斜めに牽引する場合が必ず発生する。
【0062】
例えば、図4(A)に示すように、密着ばね44の軸に対してワイヤ46が斜めに牽引されると、密着ばね44の固定部材50とワイヤ46との摺動が繰り返されるため、ワイヤ46の断線を引き起こす虞がある。
【0063】
そこで、この問題を解決するために、図4(B)に示すように、プーリ74と密着ばね後端部の間にワイヤ位置規制部材76を設ける。ワイヤ位置規制部材76は、プーリ74と密着ばねの後端部の間でワイヤ46を押圧して、ワイヤ位置規制部材76と密着ばねの後端部との間におけるワイヤ46の牽引方向が密着ばね44の軸と一直線となるようにする。これにより、ワイヤ46が密着ばねの後端部または固定部材50と接触しないようにすることができ、ワイヤ46の断線を防止することができる。
【0064】
また、ワイヤ位置規制部材76とワイヤ46との間では、摺動または回転抵抗が牽引力に比例して少なからず働くため、図4(C)に示すように、牽引力最大時にワイヤ46が密着ばね44と同軸で一直線となり、余分な抵抗が働かない構成とする。特に、牽引力最大時に、ワイヤ46がワイヤ位置規制部材76に接しない位置に、ワイヤ位置規制部材76を配置することが好ましい。
【0065】
これにより、ワイヤ46の断線を防止するとともに、最大牽引時の牽引力の増加を防止することができる。
【0066】
なお、ワイヤ位置規制部材76として、図4では、プーリ(ワイヤ位置規制プーリ、第2プーリ)が用いられているが、ワイヤ位置規制部材はプーリに限定されるものではない。プーリ以外の回転体、あるいは、滑らかに摺動するガイド溝や穴などでもよい。
【0067】
図5は、牽引機構部の構成を示した斜視図である。
【0068】
同図に示す牽引機構部は、ワイヤ46から操作レバー40に向けて、密着ばね44の固定部材50、内部にプーリ74を格納するプーリハウジング56、ウォームホイール58、ウォーム60、平歯車62、及び歯車64から構成される。
【0069】
ウォームホイール58とウォーム60とによってウォームギヤが構成され、このウォームギヤ、平歯車62、及び歯車64によって減速機構部が構成されている。なお、減速機構部は、ギヤからなる構成に限定されず、チェーン、ベルトによる減速機構部であってもよい。
【0070】
図5において密着ばね44の他端は、密着ばね固定部材50にロウ付け等で固定される。ワイヤ46の端部は、密着ばね44の固定部材50に挿通され、プーリハウジング56内のプーリ74に連結されている。
【0071】
プーリ74は、同軸で図3に示したウォームホイール58と連結され、このウォームホイール58はウォーム60に噛合されている。ウォーム60には、同軸で平歯車62が連結され、この平歯車62は、操作レバー40と同軸上に連結された歯車64に噛合されている。
【0072】
ウォーム60のねじれ角は安息角(摩擦角)よりも小さくされており、これによって、ウォームホイール58からウォーム60への逆駆動が阻止されて、自己制動力が図5のプーリ74に与えられている。さらに、前記減速機構部の減速比は例えば、50:1に設定されており、操作レバー40の操作力に対して50倍のトルクがプーリ74に伝達されるようになっている。これにより、数十キロに達するワイヤ牽引力を、より小さい操作力に軽減できるので、操作レバー40を指で容易に操作することができる。
【0073】
すなわち、本実施形態の牽引機構部によれば、操作レバー40の小ストロークの繰り返し回動操作によってプーリ74に駆動を与えることができる。この牽引機構部では、減速機構部を介してプーリ74を回動させるため、操作レバー40の操作量は増加するが、その減速比に相当するトルクを得ることができるので、ワイヤ46の牽引操作力を軽減できる。よって、術者の指で操作レバー40を容易に操作することができる。また、減速機構部を使用することにより、操作レバーの1ストロークの回動でワイヤを牽引するような牽引機構部よりも機構部が大型にならず、また、操作レバー40も小型で済むので、牽引機構部を小型化することができる。さらに、牽引されたワイヤ46は、ウォームギヤの自己制動力によってプーリ74に巻き上げられた状態を保持するので、軟性部26の可撓性を容易に保持することができる。
【0074】
術者によって操作レバー40が回動操作されると、操作レバー40に連結された歯車64が駆動し、これによって平歯車62が駆動される。その結果、ウォーム60及びウォームホイール58が駆動し、プーリ74が回動してワイヤ46がワイヤ54を介して牽引、弛緩される。そして、ワイヤ46の先端は、図2の如く密着ばね44の先端部に固定され、また密着ばね44の他端は、図3の如く密着ばね固定部材50に固定されているため、ワイヤ46が牽引されると、密着ばね44は、プーリ74側に引っ張られて、密着ばね固定部材50との間で圧縮されて、その硬度を増す。
【0075】
操作レバー40を上方向に操作すると、歯車64、平歯車62、ウォーム60、及びウォームホイール58を介してプーリ74がワイヤ54を巻き上げる方向に回動する。これにより、ワイヤ46が牽引されて密着ばね44が圧縮されるので、密着ばね44の硬度が増して軟性部26の可撓性が低く(つまり曲げ難く)なる。
【0076】
また、操作レバー40を下方向に操作すると、歯車64、平歯車62、ウォーム60、及びウォームホイール58を介してプーリ74がワイヤ54を巻き戻す方向に回動する。これにより、ワイヤ46が弛緩されて密着ばね44の圧縮が解除されるので、密着ばね44の硬度が減少して軟性部26の可撓性が高く(つまり曲げ易く)なる。
【0077】
また、施術者が操作レバー40を操作して軟性部26の可撓性を硬くしているときに、術者が操作レバー40から手指を離しても、ウォームホイール58とウォーム60との歯面の摩擦力によって、すなわち、自己制動力によってウォームホイール58がその位置で固定される(セルフロック)。このようにウォームホイール58の回動を制動することにより、プーリ74を任意の位置で固定でき、ワイヤ46の牽引状態を保持することができる。
【0078】
以上の如く、実施の形態の内視鏡10によれば、ワイヤ46を牽引し、弛緩するプーリ74と、プーリ74に回転駆動力を与えるとともにプーリ74に自己制動力を与えるウォームギヤを有する減速機構部とによって牽引機構部を構成したので、牽引機構部の小型化を図るとともにワイヤ46の牽引操作力を低減することができる。
【0079】
次に、操作レバー40と減速機構部とを接続する一方向クラッチの基本機能について説明する。
【0080】
一方向クラッチは、プーリ74によるワイヤ46の牽引、及びプーリ74によるワイヤ46の弛緩を選択的に操作する。このため、一方向クラッチは、操作レバー40の往路方向の回動で減速機構部に動力伝達し、操作レバー40の復路方向の回動で減速機構部に対して操作レバー40を空回りさせ機能を備える。
【0081】
したがって、ワイヤ46を牽引する場合、操作レバー40を往路方向に回動させると、その回動操作力が一方向クラッチを介して減速機構部に伝達されるので、ワイヤ46がプーリ74に牽引される。そして、操作レバー40を復路方向に回動させると、操作レバー40は一方向クラッチの作用によって減速機構部に対して空回りする。よって、減速機構部に動力が伝達されず、プーリ74は回転しない。
【0082】
すなわち、操作レバー40を往路方向と復路方向とに繰り返し回動させることにより、ワイヤ46がプーリ74に牽引されていく。また、操作レバー40の復路方向の操作時には、プーリ74はウォームギヤの自己制動力によって回転しない。これにより、ワイヤ46は、プーリ74に巻き上げられた状態が保持されるので、施術者の指で保持する必要はなく、施術者の負担が軽減される。なお、ワイヤ46を弛緩する場合も基本的な機能は同一である。
【0083】
次に、図6、図7を参照して一方向クラッチ80について説明する。
【0084】
同図に示す一方向クラッチ80は、牽引用ラッチばね82、弛緩用ラッチばね84、駆動板88、及び操作方向仕切り板90から構成される。
【0085】
牽引用ラッチばね82と弛緩用ラッチばね84は、操作レバー40の円盤状基端部41に一体的に固着されるとともに、操作レバー40の回転軸40Aから異なる距離に配置されている。牽引用ラッチばね82は、操作レバー40によるワイヤ46の矢印Aで示す牽引方向のみ、駆動板88に動力を伝える板ばねであり、弛緩用ラッチばね84は、ワイヤ46の矢印Bで示す弛緩方向のみ、駆動板88に動力を伝える板ばねである。
【0086】
駆動板88は、歯車64と同軸上に固定されており、牽引用ラッチばね82が動力伝達可能に係合する第1の突起92、92…が等間隔に形成されている。これらの第1の突起92、92…は、駆動板88の回転軸を中心に放射状に形成されており、牽引方向における牽引用ラッチばね82の往路方向の移動で、牽引用ラッチばね82に当接される当接面が駆動板88に対して略直角に形成されている。また、前記当接面に対向する面は傾斜面であり、牽引方向における牽引用ラッチばね82の復路方向の移動で牽引用ラッチばね82が前記傾斜面に乗り上げて空回りするようになっている。
【0087】
また、駆動板88には、弛緩用ラッチばね84が動力伝達可能に係合する第2の突起94、94…が等間隔に形成されている。これらの第2の突起94、94…は、駆動板88の回転軸を中心に放射状に形成されており、弛緩方向における弛緩用ラッチばね84の往路方向の移動で、弛緩用ラッチばね84に当接される当接面が駆動板88に対して略直角に形成されている。また、前記当接面に対向する面は傾斜面であり、弛緩方向における弛緩用ラッチばね84の復路方向の移動で弛緩用ラッチばね84が前記傾斜面に乗り上げて空回りするようになっている。
【0088】
操作方向仕切り板90は、手元操作部12に回動不能に固定されている。この操作方向仕切り板90には、牽引用ラッチばね82を貫通させて牽引用ラッチばね82の牽引方向の移動範囲を規制する第1の窓96が開口されるとともに、弛緩用ラッチばね84を貫通させて弛緩用ラッチばね84の弛緩方向の移動範囲を規制する第2の窓98が開口されている。第1の窓96、及び第2の窓98は、操作レバー40の回転軸40Aを中心とした同心円上に沿って開口されている。
【0089】
また、操作レバー40は、図6の一点鎖線で示す基準位置Pに対して矢印Aで示す牽引方向の所定の回動範囲が牽引用操作範囲に設定される。また、操作レバー40は、基準位置Pに対して矢印Bで示す弛緩方向の所定の回動範囲が弛緩用操作範囲に設定される。そして、牽引用ラッチばね82は、前記牽引用操作範囲においてのみ、操作方向仕切り板90の第1の窓96を介して駆動板88の第1の突起92に係合され、また、弛緩用ラッチばね84は、前記弛緩用操作範囲においてのみ、操作方向仕切り板90の第2の窓98を介して駆動板88の第2の突起94に係合される。すなわち、第1の窓96によって牽引用操作範囲が設定され、第2の窓98によって弛緩用操作範囲が設定されている。
【0090】
この一方向クラッチ80によれば、第1の窓96によって制限された牽引用操作範囲において、操作レバー40を矢印Aで示すワイヤ牽引方向(往路方向)に回動させると、牽引用ラッチばね82が第1の窓96から第1の突起92に係合していることから、駆動板88が回動され、その回動力が歯車64を有する減速機構部を介してプーリ74に伝達され、ワイヤ46がプーリ74に牽引される。この時、弛緩用ラッチばね84は、操作方向仕切り板90に当接されて第2の突起94に係合されていないため、弛緩用ラッチばね84は駆動板88に対して空回りする。
【0091】
そして、操作レバー40を牽引用操作範囲において復路方向に回動させると、牽引用ラッチばね82が第1の突起92の傾斜面に乗り上げて空回りする。よって、操作レバー40の前記復路方向での回動では、プーリ74に動力は伝達されない。
【0092】
そして、操作レバー40を往路方向に再び回動させると、前述の如く駆動板88が回動するので、プーリ74に動力が伝達されてワイヤ46がプーリ74に牽引される。このように操作レバー40を牽引用操作範囲において繰り返し回動させることにより、ワイヤ46がプーリ74に徐々に牽引されていく。この場合、操作レバー40の操作量は増えるが、減速機構部によって軽い操作力でワイヤ46を牽引することができる。
【0093】
次に、ワイヤ46を弛緩させる場合には、第2の窓98によって制限された弛緩用操作範囲において、操作レバー40を矢印Bで示すワイヤ弛緩方向(往路方向)に回動させると、弛緩用ラッチばね84が第2の窓98から第2の突起94に係合していることから、駆動板88が先とは逆方向に回動され、その回動力が歯車64を有する減速機構部を介してプーリ74に伝達され、ワイヤ46がプーリ74から巻き戻されて弛緩される。この時、牽引用ラッチばね82は、操作方向仕切り板90に当接されて第1の突起92に係合されていないため、牽引用ラッチばね82は駆動板88に対して空回りする。
【0094】
そして、操作レバー40を弛緩用操作範囲において復路方向に回動させると、弛緩用ラッチばね84が第2の突起94の傾斜面に乗り上げて空回りする。よって、操作レバー40の前記復路方向での回動では、プーリ74に動力は伝達されない。
【0095】
そして、操作レバー40を往路方向に再び回動させることにより、前述の如く駆動板88が回動するので、ワイヤ46がプーリ74から巻き戻されて弛緩される。このように操作レバー40を弛緩用操作範囲において繰り返し回動させることにより、ワイヤ46が徐々に弛緩されていく。
【0096】
以上の如く、第1の窓96、第2の窓98を使用して操作レバー40の回動範囲を規制することにより、操作レバー40による牽引、弛緩操作を安定して行うことができる。
【0097】
次に、図8の(A)、(B)を参照して一方向クラッチ100の他の例について説明する。
【0098】
同図に示す一方向クラッチ100は、牽引操作用の一方向クラッチ102と弛緩操作用の一方向クラッチ104とを有する。また、操作レバー106は、ワイヤ46を牽引する第1のレバー108と、ワイヤ46を弛緩させる第2のレバー110とを備え、第1のレバー108は、一方向クラッチ102を介して歯車64に連結され、第2のレバー110は、一方向クラッチ104を介して歯車64に連結されている。
【0099】
このレバー構成によれば、第1のレバー108を牽引方向に回動操作すると、ワイヤ46が牽引され、この時、第2のレバー110は歯車64に対して空回りする。第2のレバー110を回動操作してワイヤ46を弛緩する場合には、第1のレバー108は歯車64に対して空回りする。
【0100】
このレバー構成においても、第1及び第2のレバー108、110による往路方向の繰り替えし回動操作によってワイヤ46が牽引されるとともに弛緩される。
【0101】
上述した実施形態では、減速機構部を操作レバーによって回動操作する例について述べたが、モータによって減速機構部に動力を与える構造であってもよい。この場合、上述した手動式の操作レバーと同様に、手元操作部12の上部の左手(例えば親指)のみで操作可能な位置に設置されるシーソレバーによってモータを操作するようにすることが好ましい。
【0102】
また、経時により、ワイヤ伸び等によってワイヤ46の余長が増加すると初期の硬度可変性能が劣化する。このように、劣化した硬度可変性能を初期状態に回復するために、ワイヤ46をプーリ74と密着ばね44の固定部材50の間で2つに分けて、その間に余長調整機構(長さ調整部材)を設ける。
【0103】
次に、この長さ調整部材52について、図9、図10を用いて説明する。
【0104】
図9は、長さ調整部材52を備えた牽引機構部の構成を示した斜視図である。
【0105】
図9に示すように、ワイヤ46を、密着ばね44の固定部材50とプーリ74(図ではプーリハウジング56内に収納されている)との間で、密着ばね44側のワイヤ(硬度可変側ワイヤ)46とプーリ74側のワイヤ(牽引ワイヤ)の2つに分断して、その間に長さ調整部材52を設けている。
【0106】
すなわち、同図に示す牽引機構部は、ワイヤ(硬度可変側のワイヤ)46から操作レバー40に向けて、密着ばね44の固定部材50、長さ調整部材52、牽引ワイヤ54、プーリハウジング56(中にプーリ74を有する)、ウォームホイール58、ウォーム60、平歯車62、及び歯車64から構成される。
【0107】
ウォームホイール58とウォーム60とによってウォームギヤが構成され、このウォームギヤ、平歯車62、及び歯車64によって減速機構部が構成されている。なお、減速機構部は、ギヤからなる構成に限定されず、チェーン、ベルトによる減速機構部であってもよい。
【0108】
図9において、前述の如く密着ばね44の他端は、密着ばね44の固定部材50にロウ付け等で固定される。ワイヤ46の端部は、固定部材50に挿通され、長さ調整部材52を介して牽引ワイヤ54に連結されている。
【0109】
長さ調整部材52は図10の(A)、(B)に示すように、筒状の雄ねじ66とスリーブナット68等から構成される。ワイヤ46は雄ねじ66に挿入され、その端部には抜け止め部材であるカシメ玉70が固着されている。一方、牽引ワイヤ54はスリーブナット68に挿入され、その端部には抜け止め部材であるカシメ玉72が固着されている。図10(A)に示すように雄ねじ66とスリーブナット68とを螺合させ、その螺合量を調整することにより、ワイヤ46の長さを調節することができる。なお、スリーブナット68は、ワイヤ46の牽引弛緩動作によって摺動するが、その軌道が不安定となりワイヤ46に不慮の力がかかることによる断線を防止するために、前記摺動を案内するスリーブガイド(図示省略)を設け、ワイヤ46の牽引弛緩軌道に沿って動作するようにすることが好ましい。また、ワイヤ46と雄ねじ66、ワイヤ54とスリーブナット68のそれぞれの接続部は、剛性が急激に変化するためにワイヤ46、54に断線が発生しやすく、これを防止するために、ゴム管などの折れ止め部材を設けることが好ましい。
【0110】
図9において、長さ調整部材52以外の構成要素については、図5で説明したものと同様であるので、その動作等の詳細な説明は省略する。
【0111】
なお、このように、長さ調整部材52を設けた場合においても、偏心したプーリ74でワイヤ46を牽引する際の密着ばねの後端部または固定部材50との接触摺動による断線を防止するために、ワイヤ位置規制部材76を設ける必要がある。図9の場合、長さ調整部材52と密着ばねの後端部との間のワイヤ46(図に表されたワイヤ46では、この部分の長さが短いがこれをもう少し長くとることにして)に対してワイヤ位置規制部材76を設けるようにするとよい。
【0112】
以上説明したように、本実施形態によれば、円形のプーリの回転中心を偏心させる等により、偏心した巻き上げ回転体を設けるようにしたため、牽引力が小さい牽引初期には、操作ストロークに対して牽引長さを大きくし、また牽引力が大きい牽引後半には、操作ストロークに対して牽引長さを小さくすることができ、牽引機構(硬度可変機構)の操作性を向上させることができる。
【0113】
また、硬度調整手段のワイヤ牽引部を内視鏡の手元操作部の上部に設け、操作レバーを、例えば図1に示すように、手元操作部上部の手元操作部を把持する片手の指が届く範囲に配置するようにしたことにより、片手(例えば左手)のみで、軽い力により容易に操作可能とすることができる。
【0114】
また、牽引機構(プーリによる巻き上げ機構)と密着ばねの固定部材の間に、最大牽引時に、固定部材から引き出された直後のワイヤの牽引方向が、密着ばねと同軸で一直線となるようにワイヤの位置規制をするワイヤ位置規制部材を設けるようにしたことにより、ワイヤの断線を防止し、最大牽引時の牽引力の増加を防止することができる。
【0115】
また、硬度可変調整部、ワイヤ牽引部、及び密着ばね固定部を、手元操作部の上部にまとめて配置することにより、例えば、図3に矢印で示したように、密着ばね固定部材よりも上側の手元操作部を機能拡張モジュールとして、独立モジュールとして扱うようにすることで、これらを手元操作部と軟性部の間に配置する場合に比べて、メンテナンスが容易になる。
【0116】
以上、本発明に係る内視鏡及び硬度調整装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0117】
10…内視鏡、12…手元操作部、14…挿入部、16…ユニバーサルケーブル、22…先端硬質部、24…湾曲部、26…軟性部、30…アングルノブ、32…送気・送水ボタン、34…吸引ボタン、40…操作レバー、44…密着コイルばね(密着ばね)、46…ワイヤ、50…(密着ばねの)固定部材、56…プーリハウジング、58…ウォームホイール、60…ウォーム、74…プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡挿入部の軟性部内に配置された該軟性部の可撓性を変更することが可能な密着コイルばねと、
前記密着コイルばねの先端部と固定され、前記密着コイルばねを挿通するように設けられたワイヤと、
前記密着コイルばねの後端部を固定する固定手段と、
前記ワイヤを牽引し、その外周面に前記ワイヤを巻き付けて巻き上げる、偏心した巻き上げ回転体と、
前記巻き上げ回転体と前記密着コイルばねの後端部の間の所定位置に配置され、前記所定位置と前記密着コイルばねの後端部との間における前記ワイヤの牽引方向が前記密着コイルばねの軸線と一致するように前記ワイヤを位置規制するワイヤ位置規制手段と、
を備えたことを特徴とする硬度調整装置。
【請求項2】
前記偏心した巻き上げ回転体は、偏心プーリであることを特徴とする請求項1に記載の硬度調整装置。
【請求項3】
前記ワイヤ位置規制手段は、前記巻き上げ回転体による前記ワイヤの最大牽引時に、前記ワイヤが前記ワイヤ位置規制手段に接触しない位置に配置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の硬度調整装置。
【請求項4】
前記ワイヤ位置規制手段は、滑らかに摺動するガイド溝、穴または回転体のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の硬度調整装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の硬度調整装置であって、さらに、前記巻き上げ回転体に回転駆動力を与えるとともに前記巻き上げ回転体に自己制動力を与えるウォームギヤを有する減速機構を備えたことを特徴とする硬度調整装置。
【請求項6】
前記減速機構には、内視鏡手元操作部に回動自在に設けられた操作レバーが連結されていることを特徴とする請求項5に記載の硬度調整装置。
【請求項7】
前記減速機構と前記操作レバーとは、一方向クラッチを介して連結され、
前記一方向クラッチは、前記巻き上げ回転体による、前記ワイヤの牽引及び弛緩を選択的に操作するために、前記操作レバーの往路方向の回動で前記減速機構に動力伝達し、前記操作レバーの復路方向の回動で前記減速機構に対して前記操作レバーを空回りさせる一方向クラッチであることを特徴とする請求項6に記載の硬度調整装置。
【請求項8】
内視鏡挿入部の軟性部内に配置された該軟性部の可撓性を変更することが可能な密着コイルばねと、前記密着コイルばねの先端部と固定され、前記密着コイルばねを挿通するように設けられたワイヤと、前記密着コイルばねの後端部を固定する固定手段と、前記ワイヤを牽引し、その外周面に前記ワイヤを巻き付けて巻き上げる、偏心した巻き上げ回転体と、前記巻き上げ回転体と前記密着コイルばねの後端部の間の所定位置に配置され、前記所定位置と前記密着コイルばねの後端部との間における前記ワイヤの牽引方向が前記密着コイルばねの軸線と一致するように前記ワイヤを位置規制するワイヤ位置規制手段とから成る硬度調整装置を備えたことを特徴とする内視鏡。
【請求項9】
前記偏心した巻き上げ回転体は、偏心プーリであることを特徴とする請求項8に記載の内視鏡。
【請求項10】
請求項8または9に記載の内視鏡であって、さらに、前記巻き上げ回転体を駆動する操作レバーを、内視鏡の手元操作部の上部の、該手元操作部を把持する術者の片方の手で操作することが可能な範囲に設けたことを特徴とする内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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