説明

内面螺旋溝付管の製造方法および製造装置

【課題】寸法精度が高く、且つフィン高さの高い内面螺旋溝付管が得られるとともに、細管に対応でき、捻れ角の大きい内面螺旋溝を形成することが可能な生産性に優れる内面螺旋溝付管の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】内面に長さ方向に沿う複数の直線溝が周方向に間隔をおいて形成された管材11を、送りフィーダ21を用いて送り出しながら、管材11の外径と略同寸法の内径のガイド孔24(管材11の外径と略同寸法の内径の少なくとも半円状断面のガイド溝)を有し、且つ螺旋の一部を構成するように円弧状に設けられたガイドレール23に挿入することにより、コイルばね状に形成するコイルばね形成工程と、そのコイルばね状に形成された管材11のコイル軸線26の延長線に沿って一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取ることにより、管材11に捻りを加える抜取り工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器の伝熱管に用いられる内面螺旋溝付管を連続的に製造する方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコン用熱交換器などでは、アルミニウムフィン材に冷媒を通すために伝熱管を挿入し、熱交換を行っている。近年の空調機等の開発においては、省エネに伴うユニット性能の向上、あるいは作動媒体であるHCFC22の代替化などの要請により、その構成要素の一つである伝熱管も更なる高性能化が求められている。現在は内面に連続した螺旋溝を設けた内面溝付管が主流となっており、熱交換効率の向上が図られている。
内面溝付管の製法として、製造ライン上で巻取り方向を軸に、その管の円周方向に回転ダイスを用いて捻りを加えながら引き抜く方法(特許文献1及び特許文献2)や、高速回転するボールベアリングで管を管内溝付きプラグに押付け、管の内面に捻れ溝を転造しながら引抜く溝転造法(特許文献3)が採用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−240108号公報
【特許文献2】特許第3489359号公報
【特許文献3】特開平6−190476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2では、回転ダイスの部分で、ダイスと試料との間で試料が滑ってしまい、回転を制御しても一定の捻れ角を生じさせることが難しく、長手方向での捻れ角のバラツキが大きい。
また、特許文献3では、管の内側に溝付きプラグを入れて、その内壁に転造を行うが、捻れ角を大きくした場合に、プラグと内壁との摩擦により変形抵抗が増加し、試料引抜き時に試料が破断しやすく、高さの高いフィンの転造も困難である等の問題がある。さらに、径の細い管への対応が難しくなっている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、寸法精度が高く、且つフィン高さの高い内面螺旋溝付管が得られるとともに、細管に対応でき、捻れ角の大きい内面螺旋溝を形成することが可能な生産性に優れる内面螺旋溝付管の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内面螺旋溝付管の製造方法は、内面に長さ方向に沿う複数の直線溝が周方向に間隔をおいて形成された管材を、送りフィーダを用いて送り出しながら、該管材の外径と略同寸法の内径の少なくとも半円状断面のガイド溝を有し、且つ螺旋の一部を構成するように円弧状に設けられたガイドレールに挿入することにより、コイルばね状に形成するコイルばね形成工程と、そのコイルばね状に形成された管材のコイル軸線の延長線に沿って一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取ることにより、該管材に捻りを加える抜取り工程とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、螺旋の一部を構成するように円弧状に設けられたガイドレールによってコイルばね状に形成された管材を、そのコイル軸線の延長線に沿って張力を加えながら抜き取ることで、管材に一定の捻りを生じさせることが可能である。また、管材をガイドレールに送り込むことによりコイルばね状に成形しているので、管材が潰れ難く、その後の直管状の抜き取り時にくびれ等の欠陥が生じ難い。
管材が1周分捻れたときの長手方向の長さを、ここでは捻り周期と記すが、捻り周期の制御は、コイルばね状に形成された管材の巻き径(コイル径)と、その送りピッチに依存する。すなわち、管材を一定の送りピッチでコイルばね状に形成した場合は、管材の巻き径が小さくなるにつれて、抜き取り時に形成されるスパイラル状に流動した管材の径が小さくなり、その結果、捻り周期が短くなる。そして、管材の捻れ角は、捻り周期が短くなるとともに大きくなる。
また、本発明による製造方法では、管材の捻れ形成のため、主流である溝転造法のように、特に内部にプラグ等を入れて機械的に加工を行う必要がないため、予め、捻り前の押出時に管材の内壁に深い溝を形成しておくことで、そのまま寸法精度の高い内面溝が形成された細い内面螺旋状溝付管を得ることができる。
【0008】
本発明の内面螺旋溝付管の製造方法は、前記コイルばね形成工程と前記抜取り工程とを交互に複数回繰り返して行われる。
コイルばね形成工程と抜取り工程とを交互に複数回繰り返すことにより、管材の内面に捻れ角の大きい螺旋溝を有する内面螺旋溝付管を容易に製造することができる。
また、コイルばね形成工程と抜取り工程とを繰り返すだけなので、製造方法が比較的シンプルであり、それらの送り速度および抜取り速度に応じて製造速度を速くすることが可能となり、生産性に優れている。
【0009】
本発明の内面螺旋溝付管の製造方法において、前記抜取り工程は、前記コイル軸線の延長線に沿って送り出された複数巻分の前記コイルばね状の管材をチャッキングし、該コイル軸線の延長線に沿って引き延ばすチャッキング工程の後に張力を負荷して直管状に形成するとよい。
コイルばね状の管材を予めある程度引き延ばしておくことで、スムーズに張力を負荷することができる。
【0010】
また、ガイドレールのガイド溝は、半円以下の円弧長さに設けられているとよい。
このようなガイド溝を有するガイドレールを用いて管材をコイルばね状に形成することで、管材を扁平または座屈させることなく、管材の巻き径を小径にして形成することができる。
また、ガイドレールの材質は、特に限定されるものではないが、例えばMCナイロンのような潤滑性の高い素材を用いた場合には、無潤滑で製造できるため適している。
なお、管材をコイルばね状に形成するには、単純に円柱状のロールに巻き取ることによっても可能であるが、その場合、管材とロールが接する部分に応力が集中して管材が座屈しやすい。その結果、管材の巻き径を小径化するには限界がある。
しかし、上記のガイドレールを用いた場合には、ロールに巻き取る場合と比べて、管材の巻き径を2/3まで縮径化することが可能であり、1回のコイルばね形成工程と抜取り工程の実施において形成される管材の捻れ角を1.5倍に高めることができる。
【0011】
本発明の内面螺旋溝付管の製造方法において、前記抜取り工程後に、管材の断面形状を矯正する中空孔を有する引抜きダイスによる少なくとも1回の引抜き工程と、矯正後の管材を加熱する熱処理工程とを有するとよい。
コイルばね形成工程と抜取り工程とを繰り返すことで、管材の捻れ角は加算され大きくなっていくが、これら工程を複数回繰り返すと、わずかにその管材の断面形状が扁平に潰される。これは、管材を送り出す際に、送りフィーダの上下ロール間に管材を挟む等して送り出すことから、その管材の断面形状が徐々に扁平に潰されるためである。断面形状の扁平率が大きくなった管材は、コイルばね形成の際に、一部に応力が集中しやすく、その結果、座屈を生じやすくなる傾向にある。一端、座屈を生じると、その後の抜取りによる捻り加工の際、その部分にネッキングを生じ、管材の長手方向に均一に捻りを加えられなくなる。なお、ここで言う、ネッキングとは局部的に屈曲したようによじれが発生してしまうことを示す。そのため、工程を一定回数繰り返す毎に引抜き工程を行うことで、扁平した管材の真円度を回復させ、座屈が生じることを防止することができる。また、真円度の矯正後の管材を加熱することで、ひずみを除去することができ、繰り返し抜取り加工ができる。
【0012】
本発明の内面螺旋溝付管の製造装置は、内面に長さ方向に沿う複数の直線溝が周方向に間隔をおいて形成された管材を送り出しながらコイルばね状に形成するコイルばね形成手段と、そのコイルばね状に形成された管材のコイル軸線の延長線に沿って一定の張力を負荷しながら該コイルばね状の管材を直管状に抜き取る抜取り手段とを備えることを特徴とする。
本発明の内面螺旋溝付管の製造装置において、前記コイルばね形成手段は、前記管材を送り出す送りフィーダと、前記管材の外径と略同寸法の内径の少なくとも半円状断面のガイド溝を有し、且つ螺旋の一部を構成するように円弧状に設けられたガイドレールとを備えており、前記管材を、前記送りフィーダを用いて前記ガイド溝に挿入することにより、該管材をコイルばね状に形成することを特徴とする。
また、前記ガイドレールのガイド溝は、半円以下の円弧長さに設けられているとよい。
本発明の内面螺旋溝付管の製造装置において、前記管材の断面形状を矯正する引抜き手段と、矯正後の管材を加熱する熱処理手段とを有しているとよい。
本発明の内面螺旋溝付管の製造装置において、前記抜取り手段は、前記コイル軸線の延長線に沿って間隔をおいて配置された少なくとも二対のピンチロールにより前記管材を挟持し、一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取る構成とされているとよい。
本発明の内面螺旋溝付管の製造装置において、前記抜取り手段には、前記コイルばね形成手段により送り出された複数巻分の前記コイルばね状の管材をチャッキングし、前記コイル軸線の延長線に沿って引き延ばすストレッチャーが設けられているとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、寸法精度が高く、且つフィン高さの高い内面螺旋溝付管が得られるととともに、細管(細径化)に対応でき、捻れ角の大きい内面螺旋溝を形成することが可能な生産性に優れる内面螺旋溝付管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る内面螺旋溝付管の製造装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】内面に直線溝が形成された管材を説明する図であり、(a)が正面図、(b)が側断面図である。
【図3】内面螺旋溝付管を示す側断面図である。
【図4】コイルばね形成手段を説明する図であり、図1に示すZ矢視図である。
【図5】内面螺旋溝付管の製造工程を説明する模式図である。
【図6】内面螺旋溝付管の製造工程を説明するフローチャートである。
【図7】扁平率を説明する図である。
【図8】捻り周期を説明する図である。
【図9】捻れ角の算出方法を説明する図である。
【図10】コイルばね状の管材の巻き径と捻れ角との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る内面螺旋溝付管の製造装置を用いた内面螺旋溝付管の製造方法の実施形態を図面を参照しながら説明する。
本実施形態の内面螺旋溝付管の製造装置100は、内面に長さ方向に沿う複数の直線溝11aが周方向に間隔をおいて形成された管材11(図2参照)に、一定の捻りを生じさせ、内面に螺旋溝を有する内面螺旋溝付管11R(図3)を製造する装置である。
製造装置100は、図1又は図5に示すように、内面に直線溝11aによりフィン11bが形成された管材11を送り出しながらコイルばね状に形成するコイルばね形成手段20と、そのコイルばね状に形成された管材11のコイル軸線26の延長線に沿って一定の張力を負荷しながら管材11を直管状に抜き取る抜取り手段30と、管材11の断面形状を矯正する引抜き手段40と、矯正後の管材11を加熱する熱処理手段50とを有している。
【0016】
コイルばね形成手段20は、図1及び図4に示すように、管材11を送り出す送りフィーダ21と、円柱状のガイドロール22と、ガイドロール22の円周形状に沿って配置され、管材11の外径と略同寸法の内径に設けられたガイド孔24(本発明でいう、ガイド溝)を有するガイドレール23とを備えている。
送りフィーダ21は、間隔をおいて配置された二対の上下ロール25により構成されており、直管状の管材11を、上下ロール25で挟持してガイドレール23内に挿入するものである。
また、ガイドレール23及びそのガイド孔24は、ガイドロール22の外周面に沿う螺旋の一部を構成するように円弧状に設けられており、その円弧形状は、半円以下の長さに形成されている。なお、管材11は、送りフィーダ21を用いてガイドレール23のガイド孔24内に送り込まれ、一定の周期を有するコイルばね状の管材に加工される。
【0017】
抜取り手段30には、コイルばね形成手段20のガイドロール22上から、コイル軸線26の延長線に沿って送り出された複数巻分のコイルばね状の管材11をチャッキングし、そのコイル軸線26の延長線に沿って引き延ばすストレッチャー31が設けられている。また、コイル軸線26の延長線に沿って間隔をおいて配置された二対のピンチロール32が設けられており、ストレッチャー31で引き延ばされた管材11を、これらピンチロール32の間で挟持し、一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取る。
また、引抜き手段40は、中空孔を有する引抜きダイスに管材を通して引抜くことにより、管材の断面形状を矯正する構成とされている。熱処理手段50は、真円度の矯正後の管材の中間焼鈍を行う。
【0018】
次に、このように構成した製造装置100を用いて、内面螺旋溝付管を製造する方法について説明する。
内面に直線溝が形成された管材11を、送りフィーダ21により送り出しながらガイドレール23のガイド孔24に挿入する。ガイドレール23に挿入された管材11は、ガイドレール23のガイド孔24を通過することにより螺旋状に形成され、ガイドロール22の表面に沿って、そのガイドロール22の一端側から他端側に向けてコイル軸線26に沿って案内され、同一径のコイルばね状となるように送り出される。このとき、ガイドロール22の他端側(図1では上側)から解放された管材11は、コイルばね状に形成されている。
次に、ガイドロール22上から解放されたコイルばね状の管材11の複数巻分の一部を、ストレッチャー31でチャッキングし、コイル軸線26の延長線に沿って予備的な矯正を加える。直管状に近い状態まで矯正された管材は、二対のピンチロール32間を通過し、これらピンチロール32間で0.3kN以上の張力を負荷されながら、直管状に形成される。
なお、ストレッチャー31はコイルばね状の管材11に予備矯正を加えた後、図1に二点鎖線で示すように元の位置に移動し、順次送り出されてくるコイルばね状の管材の端部をチャッキングし、予備矯正を繰り返し行う。
【0019】
このようにして直管状に形成された管材11の内面には、その管材11の巻き径と、送りピッチにより定まる捻れ角を有する螺旋溝が形成される。この捻れ角は、管材の巻き径を小さくする程大きくなり、また送りピッチを小さくする程大きくなる。捻れ角は、管材の巻き径の大きさに依存するため、径の小さいガイド孔のガイドレールを使用すれば、一度に大きな捻れ角を生じさせることが可能であるが、管材の材質によっては、小径のガイド孔を通して送り出すことが難しい。この場合、径の大きいガイド孔を有するガイドレールにより、大径の巻き径の管材を形成し、コイルばね形成工程と抜取り工程とを複数回繰り返すことにより管材への捻れを加算して、大きい捻れ角を有する管材を得ることができる。
【0020】
また、より捻れ角の大きい内面螺旋溝付管を製造する際には、例えば、図6のフローチャートに示すように、コイルばね形成工程および抜取り工程を一定回数繰り返す毎に、引抜き工程および熱処理工程を行う。
図6のフローチャートでは、S101〜S103に示すように、コイルばね形成工程と抜取り工程との組合せからなる工程を3回繰り返した後、引抜き工程(S104)と熱処理工程(S105)を挟み、合計8回のコイルばね形成工程と抜取り工程とが行われる(S101〜S112)。そして、コイルばね形成工程と抜取り工程とを繰り返す毎に、管材11には一定の捻りが加算され、捻れ角を徐々に大きくしていくことができる。
【0021】
コイルばね形成工程と抜取り工程とを複数回繰り返すと、管材11を送り出す際に、送りフィーダ21の上下ロール25間で挟持されることから、図7に示すように、その管材の断面形状が徐々に扁平に潰される。断面形状の扁平率が大きくなった管材は、ガイドレール23からコイルばね状に送り出される際に座屈を生じることがあり、その座屈を生じた管材に抜取り工程を行うと、座屈した部分で局所的に折れ曲がり(ネッキング)、管材全体に均一な捻れ角が形成された管材を得ることができない。そのため、コイルばね形成工程と抜取り工程とを繰り返す中で、少なくとも1回の引抜き工程と、矯正後の管材を加熱する熱処理工程とを行うことが好ましい。
【0022】
引抜き工程は、引抜き手段40により引抜きダイスの中空孔に管材を通して引抜くことにより行われ、1回の引抜き工程は、管材の扁平率が120%以内のうちに、もとの管材の径に対し5%以上の縮小が図れるように行う。そして、熱処理工程により、真円度の矯正後の管材を加熱し、ひずみを除去する。熱処理工程は、例えば前述と同様の熱処理が行われ、矯正された管材に200〜350℃で0.5〜4時間の中間焼鈍を行う。
このように、コイルばね形成工程と抜取り工程とを繰り返して、管材の扁平率が大きくなった場合には、引抜き工程により真円度を回復させ、座屈が生じることを防止することができる。抜取り工程後に、管材の断面形状を矯正する少なくとも1回の引抜き工程を設けることで、管材の潰れを抑制し、コイルばね形成工程と抜取り工程とを複数回工程を繰り返すことが可能となり、管材の捻れ角を大きくすることができる。
なお、扁平率とは、管材の最小径Yに対する最大径Xの比率をいう。
【0023】
本実施形態の内面螺旋溝付管の製造方法によれば、送りフィーダで管材を送り出しながらガイドレールによりコイルばね状に形成するとともに、同一径のコイルばね状に形成された管材を、そのコイル軸線の延長線に沿って張力を加えながら抜き取ることで、管材に一定の捻りを生じさせることができる。また、管材をガイドレールに送り込むことによりコイルばね状に成形しているので、管材が潰れ難く、その後の直管状の抜き取り時にくびれ等の欠陥が生じ難い。
また、管材の捻れ形成のため、特に内部にプラグ等を入れて機械的に加工を行う必要がないため、予め、捻り前の押出時に管材の内壁に深い溝を形成しておくことで、そのまま寸法精度の高い内面溝が形成された細い内面螺旋状溝付管を得ることができる。さらに、このようなコイルばね形成工程と抜取り工程を複数回繰り返すことにより、捻れ角の大きい、例えば20°以上の捻れ角を有し、生産性に優れる内面螺旋溝付管を製造することができる。
なお、本実施形態においては、ガイドレールのガイド溝を、孔状のガイド孔として形成したが、ガイド溝は、少なくとも半円状断面の凹溝に形成されていればよく、その凹溝の底部を螺旋の外周線に沿うようにして設けることで、ガイド孔を形成した場合と同様に、コイルばね状の管材を容易に形成することができる。
【実施例】
【0024】
外径10mm、内径9mm、内面に直線溝が形成された3003アルミニウム合金管材を用いて内面螺旋溝付管の製造を行った。
管材は、内面の直線溝の数は45個(8°/1山)で、これら直線溝により形成されるフィンの高さが0.28mmに形成されたものを用いた。この管材を用いて、図4に示すガイドレール(ガイド孔)の円弧半径Rを10mm〜380mmの範囲で変量し、コイルばね状の管材の送りピッチを15mmで形成した後に、その管材のコイル軸線方向に抜取りを行った。円弧半径Rは、ガイド孔の横断面において、円の中心を通る螺旋状の円弧の曲率半径を示す。
また、抜取りは、ガイドロールから3巻分送り出されたコイルばね状の管材の下側端部をストレッチャーにより矯正を加えた後、ある程度、直管状に伸ばした後に、管材を二対のピンチロール間で1〜2kNの張力を負荷しながら直管状に矯正した。また、管材の外周面には、予め、その長手方向に沿って直線状のマーキングを行い、図8に示すように、マーキングラインLが1周分捻れた時の長手方向の長さ(捻り周期B)を計測した。捻れ角θは、図9に示すように、管材の内周の長さAと捻り周期Bとにより算出した。図10に、以上のように実施して得られたコイルばね状の管材の巻き径と捻れ角との関係を示す。
図10に示すように、例えば、φ160mmの巻取り径では、1回に約3°の捻れ角を生じさせることができる。巻き径が小さくなるにつれて捻れ角は増加し、巻き径に応じた捻れ角を有する内面螺旋溝付管の製造が可能である。また、製造された各内面螺旋溝付管について、管の長手方向に切り開いて内面に形成された螺旋溝の周期を確認したところ、内面の螺旋溝の周期と、マーキングラインの捻り周期Bとは一致していた。
【0025】
次に、上記の管材と円弧半径Rが60mmのガイドレールを用いて、コイルばね形成工程と抜取り工程とを5回繰り返すことにより内面螺旋溝付管の製造を行った。
先ず、ガイドレールにより送りピッチ15mmでコイルばね状に形成した後に抜取りを行い、これらコイルばね形成工程と抜取り工程とを3回ずつ繰り返した後に、φ8mmの中空孔を有する引抜きダイスで引抜きし、扁平率114%まで潰れた管材を再び扁平率102%の真円に回復させた(引抜き工程)。その後、350℃で4時間の中間焼鈍を行い(熱処理工程)、再度、円弧半径Rが60mmのガイドレールにより送りピッチ12mmでコイルばね状の管材を形成した。そして、コイルばね形成工程と抜取り工程とを2回ずつ行った後、φ7mmの中空孔の引抜きダイスで引抜きを行い、最終的に捻れ角20°の内面螺旋溝付管を製造した。
管材の送り速度および抜取り速度は40m/minとした。また、抜取り工程は、ガイドロール上から送り出された3巻分のコイルばね状の管材の下側端部をストレッチャーにより矯正を加え、ある程度、直管状に伸ばした後、二対のピンチロール間で1〜2kNの張力を負荷しながら直管状に矯正した。
【0026】
コイルばね形成工程と抜取り工程とを3回ずつ繰り返す毎に、引抜き工程を行うことで、扁平した管材の真円度を回復させ、また、真円度の矯正後の管材を加熱することで、ひずみを除去することができる。これにより、さらに繰り返してコイルばね形成工程と抜取り工程とを実施することができ、最終的に捻れ角20°の内面螺旋溝付管を製造することができた。
【0027】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
100 内面螺旋溝付管の製造装置
11 管材
11a 直線溝
11b フィン
11R 内面螺旋溝付管
20 コイルばね形成手段
21 送りフィーダ
22 ガイドロール
23 ガイドレール
24 ガイド孔(ガイド溝)
25 上下ロール
26 コイル軸線
30 抜取り手段
31 ストレッチャー
32 ピンチロール
40 引抜き手段
50 熱処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に長さ方向に沿う複数の直線溝が周方向に間隔をおいて形成された管材を、送りフィーダを用いて送り出しながら、該管材の外径と略同寸法の内径の少なくとも半円状断面のガイド溝を有し、且つ螺旋の一部を構成するように円弧状に設けられたガイドレールに挿入することにより、コイルばね状に形成するコイルばね形成工程と、そのコイルばね状に形成された管材のコイル軸線の延長線に沿って一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取ることにより、該管材に捻りを加える抜取り工程とを有することを特徴とする内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項2】
前記コイルばね形成工程と前記抜取り工程とを交互に複数回繰り返して行われることを特徴とする請求項1記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項3】
前記抜取り工程は、前記コイル軸線の延長線に沿って送り出された複数巻分の前記コイルばね状の管材をチャッキングし、該コイル軸線の延長線に沿って引き延ばすチャッキング工程の後に張力を負荷して直管状に形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項4】
前記抜取り工程後に、管材の断面形状を矯正する中空孔を有する引抜きダイスによる少なくとも1回の引抜き工程と、矯正後の管材を加熱する熱処理工程とを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造方法。
【請求項5】
内面に長さ方向に沿う複数の直線溝が周方向に間隔をおいて形成された管材を送り出しながらコイルばね状に形成するコイルばね形成手段と、そのコイルばね状に形成された管材のコイル軸線の延長線に沿って一定の張力を負荷しながら該コイルばね状の管材を直管状に抜き取る抜取り手段とを備えることを特徴とする内面螺旋溝付管の製造装置。
【請求項6】
前記コイルばね形成手段は、前記管材を送り出す送りフィーダと、前記管材の外径と略同寸法の内径の少なくとも半円状断面のガイド溝を有し、且つ螺旋の一部を構成するように円弧状に設けられたガイドレールとを備えており、前記管材を、前記送りフィーダを用いて前記ガイド溝に挿入することにより、該管材をコイルばね状に形成することを特徴とする請求項5記載の内面螺旋溝付管の製造装置。
【請求項7】
前記ガイド溝は、半円以下の円弧長さに設けられていることを特徴とする請求項6記載の面螺旋溝付管の製造装置。
【請求項8】
前記管材の断面形状を矯正する引抜き手段と、矯正後の管材を加熱する熱処理手段とを有することを特徴とする請求項6から7のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造装置。
【請求項9】
前記抜取り手段は、前記コイル軸線の延長線に沿って間隔をおいて配置された少なくとも二対のピンチロールにより前記管材を挟持し、一定の張力を負荷しながら直管状に抜き取る構成とされていることを特徴とする請求項6から8のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造装置。
【請求項10】
前記抜取り手段には、前記コイルばね形成手段により送り出された複数巻分の前記コイルばね状の管材をチャッキングし、前記コイル軸線の延長線に沿って引き延ばすストレッチャーが設けられていることを特徴とする請求項6から9のいずれか一項に記載の内面螺旋溝付管の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−111605(P2013−111605A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259497(P2011−259497)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】