説明

円板マグネットチャックとその支持装置

【課題】
小型軽量で強力な円板型マグネットチャック構造をつくること。そして自在な作業姿勢がとれるように支持構造を工夫することである。
【解決手段】
半円2枚型と扇8枚型の2種類の小型軽量で強力が達成できる円板マグネットチャック構造を提案した。円板マグネットチャックはそのままでも有用であるが、自由度1の支持装置、自由度2の支持装置、自由度3の支持装置の構造をあわせて提案した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精密な金型などのミガキ作業、肉盛溶接作業における工作物を簡便操作で自在の方位に支持できる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金型などの鉄系の精密工作物を簡便操作で支持する装置としてマグネットチャックがある。特に最近の技術進歩が目覚しい分野で、レアメタルを用いた強力磁石によって今まで考えられなかったほどの良い装置が提供されうる環境になり、マグネットチャックの構造(例えば、特許文献1)に大きな変化をもたらし、理想ではあったが実現できなかった小型軽量の円板型を可能にするに至った。
【0003】
また、従来のマグネットチャックで肉盛溶接作業をしようとすると高温スパッターが飛んで表面を傷つけてしまう事がしばしばあった。マグネットチャックの特質としてシートで覆っても支持が出来る事である。
被覆シートとしては、炭素繊維、不ねん紙さらにはサランラップで済ますこともあるが、吸着力(現場用語)が大きく、平面であることが最良である。マグネットチャックは重く、作業姿勢がとりにくく、能率がよくないというのが通説になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−101446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の問題点であった小型軽量で強力な円板型マグネットチャック構造をつくること。そして自在な作業姿勢がとれるように支持構造を工夫することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
半円板形磁性材2枚の互いの弦位置に黄銅板を挟んで銀ろう付けして真円テーブル筐体を形成し、前記真円テーブル筐体の前記黄銅板に沿って筐体側面に開孔する円筒孔を設け、前記円筒孔に円柱状でその片側面にN極を、他の片側面にS極を磁化した磁性スイッチ体を回動可能に対偶させ、前記円柱状の磁性スイッチ体の端面に設けた溝孔を工具でON、OFF操作する円板マグネットチャックとすることで小型軽量で強力が達成できる。以下この種を半円2枚型と呼ぶ事にする。
【0007】
さらに、扇形磁性材8枚の互いの直線位置に黄銅板を挟んで銀ろう付けして上真円テーブルを形成し、前記上真円テーブルにはねじで締結される非磁性材の下真円テーブルを設けて筐体となし、前記上真円テーブルと下真円テーブルの間には、8個の円盤状でその盤片面にN極を、他の盤片面にS極を磁化した磁性体大を円周大に等間隔でしかも相隣なる極性を異にするよう配置し、前記円周内側には8個の円盤状でその盤片面にN極を、他の盤片面にS極を磁化した磁性体小を円周小に等間隔でしかも相隣なる極性を異にするようしかも最寄の磁性体大とは極性を同一にするよう配置して保持した非磁性材のスイッチ板を回動可能に対偶させ、前記下真円テーブルの外則部のノブでON、OFF操作する円板マグネットチャックとすることで小型軽量で強力が達成できる。以下この種を扇8枚型と呼ぶ事にする。
【0008】
円板マグネットチャックの下面には、フランジによってねじ締結される自由度1シャフトを設け、自由度1シャフトは軸受けを介して自由度1ベースに対偶し、前記自由度1ベースには、前記自由度1シャフトを制御可能な自由度1摩擦ブレーキノブが設けられた円板マグネットチャックの支持装置で1自由度の作業姿勢がとれるようになる。加えて、2自由度、3自由度と自在性を増すことで作業性を良くすることができる。
【発明の効果】
【0009】
発明者は、直径100mm、厚さ20mmの半円2枚型と扇8枚型の2種類の円板マグネットチャックをつくり、吸着力を測定した。(本来吸着力の語は、マグデブルグの半球での真空吸着力から発したものらしく、チャックの力を現場ではこのように呼んでいる。単位は真空吸着力に対しての%、またはNである。)
半円2枚型では、31.8%、245N。扇8枚型では、65%、500Nであった。これは従来のマグネットチャックの2〜4倍の効果が でた。よって、小型軽量で強力な円板型マグネットチャック構造をつくることができた。
【0010】
吸着力が増大した事は、軽量化したことであり、多自由度機構がかのうになり、自在な作業姿勢がとれるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明の半円2枚型円板マグネットチャックの実施例を示した3面図で、(a)は平面図、(b)はII−II断面図、(c)はIII−III断面図である。
【図3】本発明の扇8枚型円板マグネットチャックの実施例を示した4面図で、(a)は平面図、(b)はVI−VI断面図、(c)はIV−IV断面図、(d)はV-V断面図である。
【図4】本発明の半円2枚型円板マグネットチャックの作用説明図で、(a)はON状態、(b)はOFF状態を示している。
【図5】本発明の扇8枚型円板マグネットチャックの作用説明図で、(a)はON状態、(b)はOFF状態を示している。
【図6】本発明の自由度1支持装置の実施例を示す部分断面図である。
【図7】本発明の自由度2支持装置の実施例を示す部分断面図である。
【図8】本発明の自由度2支持装置の別の実施例を示す部分断面図である。
【図9】本発明の実施例で、図8のVII−VII部分断面図である。
【図10】本発明の自由度3支持装置の実施例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の円板マグネットチャックは半円2枚型と扇8枚型の2種類があり、前者は比較的安価に製造でき、後者は強力な吸引力が得られる特徴がある。
【0013】
円板マグネットチャックはそのままでも使用できるが、支持装置をつけることによって作業性は向上する。また、支持には自由度を上げるにしたがって作業性は向上するが、高価なものとなる。
【実施例】
【0014】
図1により、本発明のあらましを説明する。図1は図9を斜視図にしたもので、フルセット構成である。
【0015】
図2により、半円2枚型円板マグネットチャックを説明する。半円板形磁性材21、2枚の互いの弦位置に黄銅板22を挟んで銀ろう付けして真円テーブル筐体26を形成し、前記真円テーブル筐体26の前記黄銅板22に沿って筐体側面に開孔する円筒孔23を設け、前記円筒孔23に円柱状でその片側面にN極を、他の片側面にS極を磁化した磁性スイッチ体24を回動可能に対偶させ、前記円柱状の磁性スイッチ体24の端面に設けた溝孔を工具でON、OFF操作する構造をとる。
【0016】
半円2枚型円板マグネットチャックのON、OFF作用を説明する。図4のように、(a)はON状態で磁性スイッチ体24のN極、S極は左右になっているから、黄銅板22を境にして真円テーブル筐体26の外に磁力線が発生する。ここに鉄鋼系の工作物Wがあれば吸着する。(b)はOFF状態で磁性スイッチ体24のN極、S極は上下になっているから、黄銅板22を境にして真円テーブル筐体26の内に磁力線が止まる。従って、鉄鋼系の工作物Wがあっても吸着はない。
【0017】
半円2枚型円板マグネットチャックは具体例として、前述したように、真円テーブル筐体26の直径100mm、厚さ20mmとして、磁性スイッチ体24は直径16mm、長さ60mmを用い、円筒孔23との隙間は0.2mmとした。また磁性スイッチ体24の材質は強力なネオジウム系磁石材とした。磁性スイッチ体24の端面に設けた操作溝孔は六角孔とし、工具は六角L型レンチでON、OFF操作できるようにした。
【0018】
図3により、扇8枚型円板マグネットチャックを説明する。扇形磁性材8枚の互いの直線位置に黄銅板32を挟んで銀ろう付けして上真円テーブル36を形成し、前記上真円テーブル36にはねじで締結される非磁性材の下真円テーブル37を設けて筐体となし、前記上真円テーブル36と下真円テーブル37の間には、8個の円盤状でその盤片面にN極を、他の盤片面にS極を磁化した磁性体大34aを円周大に等間隔でしかも相隣なる極性を異にするよう配置し、前記円周内側には8個の円盤状でその盤片面にN極を、他の盤片面にS極を磁化した磁性体小34b を円周小に等間隔でしかも相隣なる極性を異にするようしかも最寄の磁性体大とは極性を同一にするよう配置して保持した非磁性材のスイッチ板38を回動可能に対偶させ、前記下真円テーブル37の外則部のノブ39でON、OFF操作する構造をとる。
【0019】
扇8枚型円板マグネットチャックのON、OFF作用を説明する。図5のように、(a)はON状態で磁性スイッチ体34(磁性体大34aと磁性体小34b)は円盤形でN極、S極は上下になっていて、しかも扇形内にあるから、黄銅板32を境にして上真円テーブル36の外に磁力線が発生する。ここに鉄鋼系の工作物Wがあれば吸着する。(b)はOFF状態で磁性スイッチ体34のN極、S極は黄銅板32をまたいでいるから、上真円テーブル36の内に磁力線が止まる。従って、鉄鋼系の工作物Wがあっても吸着はない。
【0020】
扇8枚型円板マグネットチャックは具体例として、前述したように、上真円テーブル36の直径100mm、厚さ20mmとして、磁性体大34aの直径20mm、厚さ5mm、個数8と、磁性体小34bの直径10mm、厚さ5mm、個数8用い、上下真円テーブルの隙間は0.2mmとした。また磁性スイッチ体34の材質は強力なネオジウム系磁石材とした。非磁性材の下真円テーブル37と非磁性材のスイッチ板38の材質はオーステナイト系ステンレス材とし、ノブ39でON、OFF操作できるようにした。ノブ39の作用角は45度にとり、中間の22.5度をON、両端をOFFとするのが好ましい。
【0021】
図6により、円板マグネットチャック10の自由度1支持を説明する。
円板マグネットチャック10の下面には、フランジ41によってねじ締結される自由度1シャフト43を設け、自由度1シャフト43はボール軸受け45を介して自由度1ベース40に対偶し、前記自由度1ベース40には、前記自由度1シャフト43を制御可能な自由度1摩擦ブレーキノブ44を設けることで、中心線41まわりの自由度とその抑制装置が得られる。
【0022】
図7により、円板マグネットチャック10の自由度2支持を説明する。
自由度1ベース40には、自由度2フランジアーム52によってねじ締結される自由度1シャフト43と直角方向に回動可能な自由度2シャフト53を設け、自由度2シャフト53は平軸受けを介して自由度2ベース50に対偶し、前記自由度2ベース50には、前記自由度2シャフト53を制御可能な自由度2摩擦ブレーキノブ54を設けることで、中心線51まわりの自由度とその抑制装置が得られる。
【0023】
追加機能として、図8と図9により、ピンクランプを説明する。自由度1ベース40と自由度2ベース50を可及的結合するため、自由度2フランジアーム52にピン孔55を設け、自由度2ベース50には自在に抜き差し可能なクランプピン56を設けて待遇させる。自由度2フランジアーム52にピン孔55は中心線51の回転中心57から15度等間隔の7個があれば左右45度の可及的結合が可能となる。
【0024】
図10により、円板マグネットチャック10の自由度3支持を説明する。自由度2ベース50には、自由度3フランジアーム62によってねじ締結される自由度2シャフト53と直角方向に回動可能な自由度3シャフト63を設け、自由度3シャフト63はボール軸受65を介して自由度3ベース60に対偶し、前記自由度3ベース60には、前記自由度3シャフト63を制御可能な自由度3摩擦ブレーキノブ64を設けることで、中心線61まわりの自由度とその抑制装置が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は精密な金型などの工作物Wを小型で強力にチャックでき、しかも工作物Wを簡便操作で自在の方位に支持でき、フィルム保護も可能になるから、ミガキ作業、肉盛溶接作業などにおける能率向上に寄与する事が出来る。
【符号の説明】
【0026】
10 円板マグネットチャック
21 半円板形磁性材
22、32 黄銅板
23 円筒孔
24 磁性スイッチ体
26 真円テーブル筐体
31 扇形磁性材
34 磁性体
34a 磁性体大
34b 磁性体小
36 上真円テーブル
37 下真円テーブル
38 スイッチ板
39 外則部のノブ
40 自由度1ベース
41、51、61 中心線
42 自由度1フランジ
43 自由度1シャフト
44 自由度1摩擦ブレーキノブ
45、65 ボール軸受
50 自由度2ベース
52 自由度2フランジアーム
53 自由度2シャフト
54 自由度2摩擦ブレーキノブ
55 ピン孔
56 クランプピン
57 回転中心
60 自由度3ベース
62 自由度3フランジアーム
63 自由度3シャフト
64 自由度3摩擦ブレーキノブ
W 工作物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半円板形磁性材2枚の互いの弦位置に黄銅板を挟んで銀ろう付けして真円テーブル筐体を形成し、前記真円テーブル筐体の前記黄銅板に沿って筐体側面に開孔する円筒孔を設け、前記円筒孔に円柱状でその片側面にN極を、他の片側面にS極を磁化した磁性スイッチ体を回動可能に対偶させ、前記円柱状の磁性スイッチ体の端面に設けた溝孔を工具でON、OFF操作する円板マグネットチャック。
【請求項2】
請求項1において、円柱状の磁性スイッチ体の端面に設けた操作溝孔は六角孔で、工具は六角L型レンチである円板マグネットチャック。
【請求項3】
扇形磁性材8枚の互いの直線位置に黄銅板を挟んで銀ろう付けして上真円テーブルを形成し、前記上真円テーブルにはねじで締結される非磁性材の下真円テーブルを設けて筐体となし、前記上真円テーブルと下真円テーブルの間には、8個の円盤状でその盤片面にN極を、他の盤片面にS極を磁化した磁性体大を円周大に等間隔でしかも相隣なる極性を異にするよう配置し、前記円周内側には8個の円盤状でその盤片面にN極を、他の盤片面にS極を磁化した磁性体小を円周小に等間隔でしかも相隣なる極性を異にするようしかも最寄の磁性体大とは極性を同一にするよう配置して保持した非磁性材のスイッチ板を回動可能に対偶させ、前記下真円テーブルの外則部のノブでON、OFF操作する円板マグネットチャック。
【請求項4】
請求項3において、非磁性材の下真円テーブルと非磁性材のスイッチ板の材質はオーステナイト系ステンレス材である円板マグネットチャック。
【請求項5】
請求項1において、磁性スイッチ体の材質はネオジウム系磁石材である円板マグネットチャック。
【請求項6】
請求項3において、磁性体大と磁性体小の材質はネオジウム系磁石材である円板マグネットチャック。
【請求項7】
請求項1または請求項2の円板マグネットチャックの下面には、フランジによってねじ締結される自由度1シャフトを設け、自由度1シャフトは軸受けを介して自由度1ベースに対偶し、前記自由度1ベースには、前記自由度1シャフトを制御可能な自由度1摩擦ブレーキノブが設けられた円板マグネットチャックの支持装置。
【請求項8】
請求項7の自由度1ベースには、自由度2フランジアームによってねじ締結される自由度1シャフトと直角方向に回動可能な自由度2シャフトを設け、自由度2シャフトは軸受けを介して自由度2ベースに対偶し、前記自由度2ベースには、前記自由度2シャフトを制御可能な自由度2摩擦ブレーキノブが設けられた円板マグネットチャックの支持装置。
【請求項9】
請求項8の自由度2ベースには、自由度3フランジアームによってねじ締結される自由度2シャフトと直角方向に回動可能な自由度3シャフトを設け、自由度3シャフトは軸受けを介して自由度3ベースに対偶し、前記自由度3ベースには、前記自由度3シャフトを制御可能な自由度3摩擦ブレーキノブが設けられた円板マグネットチャックの支持装置。
【請求項10】
請求項8において、自由度1ベースと自由度2ベースを可及的ピン結合可能な円板マグネットチャックの支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−177797(P2011−177797A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41573(P2010−41573)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.サランラップ
【出願人】(595002937)株式会社双輝 (5)
【Fターム(参考)】