説明

円筒状リチウムイオンキャパシタ

【課題】容器の内圧が予め定めた圧力以上に上昇すると開く開裂溝を備えることができる円筒状リチウムイオンキャパシタを提供する。
【解決手段】電極群が収納された容器の開口部を密閉状態で塞ぐ容器蓋を、金属製の蓋本体13と金属製の蓋キャップとから構成する。蓋本体13は平板部の中央に膨出部13bを一体に備えている。膨出部13bは円筒部と外周部が該円筒部の他端とつながる円板部13dとを備えている。円板部13dを円板部13dの中心を通る仮想中心線L1と直交し円板部13dに沿って延びる仮想線L2によって二分割して第1の分割領域R1及び第2の分割領域R2と定めたときに、第1の領域R1に開裂溝16を形成し、第2の分割領域に一方の極板と電気的に接続される端子部を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器の内圧が予め定めた圧力以上に上昇すると開く開裂溝を備えた金属製の蓋本体を有する円筒状リチウムイオンキャパシタに係る。
【背景技術】
【0002】
大容量キャパシタ(例えば、500F以上)として、リチウムイオン電池の利点と電気二重層キャパシタの利点とを組み合わせたリチウムイオンキャパシタが開発されている。最近開発が進められているリチウムイオンキャパシタは、一般に、正極活物質に活性炭、負極活物質にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材が用いられている。リチウムイオンキャパシタは、予め負極板にリチウムイオンが吸蔵ないしドープされていることにより、負極電位が通常の電気二重層キャパシタ(およそ2.2〜3.8V)より低く保たれるため(およそ0〜2.5V)、使用電圧範囲を広くとることができ(およそ2.5V幅)、また、正極充放電機構として、通常の電気二重層キャパシタで利用される陰イオンの吸着に加え、陽イオンの吸着も利用できるため、容量を原理的に倍取り出すことができる。さらにリチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン電池に比べて容量は小さいものの、内部抵抗が小さく出力特性の点で優れるとともに、長寿命であるという利点がある。
【0003】
このようなリチウムイオンキャパシタの構造として、巻回された電極群を用いる円筒状リチウムイオンキャパシタが知られている(特許文献1)。円筒状リチウムイオンキャパシタでは、有底円筒状の金属製の容器の内部に電極群が収納されている。そして容器の開口部は、容器蓋により密閉状態で塞がれている。容器蓋は、金属製の蓋本体と金属製の蓋キャップとが組み合わされて構成されている。このような円筒状リチウムイオンキャパシタでは、電解液の分解により発生するガスにより容器の内圧が極端に上昇するおそれがある。そこで、電解液の分解により発生するガスを放出するために、蓋本体には容器の内圧が予め定めた圧力以上に上昇すると開く開裂溝を設ける必要がある。このような開裂溝としては、密閉型リチウム二次電池の例であるが、容器及び容器蓋に形成したものがある(特許文献2)。この例では、容器蓋は、金属製のダイアフラムと金属製の蓋キャップとが組み合わされて構成されている。ダイアフラムは、通常、電極群の一方の極板と電気的に接続された接続板と接触している。そして、容器の内圧が上昇するとダイアフラムが反転して、ダイアフラムを含む容器蓋と電極群の一方の極板との電気的接続が遮断される。この密閉型リチウム二次電池では、ダイアフラムと容器の底部の2箇所に開裂溝を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−67105号公報
【特許文献2】特開2006−99977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、密閉型リチウム二次電池では、開裂溝を備えたものがあるが、円筒状リチウムイオンキャパシタでは、容器蓋等の構造が異なるため、開裂溝を設け難い問題があった。
【0006】
本発明は、容器の内圧が予め定めた圧力以上に上昇すると開く開裂溝を備えた円筒状リチウムイオンキャパシタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が改良の対象とする円筒状リチウムイオンキャパシタは、有底円筒状の金属製の容器と、容器の内部に収納された電極群と、電極群が収納された容器の開口部を密閉状態で塞ぐ容器蓋を備えている。そして、容器蓋が、電極群の一方の極板と電気的に接続され且つ容器の内圧が予め定めた圧力以上に上昇すると開く開裂溝を備えた金属製の蓋本体と、蓋本体との間に外部と連通する空隙部を形成するように蓋本体に組み合わされる金属製の蓋キャップとから構成されている。本発明では、蓋本体が円板状の平板部の中央に蓋キャップから離れる方向に膨出する膨出部を一体に備えている。この膨出部は一端が平板部とつながった円筒部と外周部が該円筒部の他端とつながる円板部とを備えている。そして、円板部を円板部の中心を通る仮想中心線と直交し円板部に沿って延びる仮想線によって二分割して第1の分割領域及び第2の分割領域と定めたときに、第1の領域に開裂溝が形成され、第2の分割領域に一方の極板と電気的に接続される端子部が固定されている。
【0008】
本発明のように、蓋本体の第1の領域に開裂溝を形成し、第2の分割領域に端子部を固定すれば、端子部が固定された蓋本体に開裂溝を設けることができる。そのため、蓋本体に端子部を固定する円筒状リチウムイオンキャパシタにおいても、蓋本体に開裂溝を簡単に設けることができる。また、膨出部を設けたことにより空間を確保でき、蓋キャップの緩衝効果で、液飛散領域が狭くなる。
【0009】
円板部には該円板部と同心になるように円環状の溝部を形成できる。この場合、円環状の溝部の径方向内側に開裂溝及び端子部を配置すればよい。このような円環状の溝部の位置を適宜に定めることにより、円板部の撓みを調整し、開裂に必要な内圧の設定を調整することが可能になる。
【0010】
開裂溝は、円環状の溝部と同心的に形成された円弧状溝部と、該円弧状溝部から径方向外側に延びる1以上の直線状溝部とから構成することができる。開裂溝をこのような形状に形成すれば、円弧状溝部と直線状溝部との境界部は機械的強度が低いため、円弧状溝部と直線状溝部との交点を起点として、開裂を開始させることができる。そして起点から円弧状溝部がスムーズに開くようになる。そのため、容器の内圧が予め定めた圧力以上に上昇すると、開裂溝を確実に開けることができる。
【0011】
1以上の直線状溝部は、円弧状溝部の両端から径方向外側に延びる第1及び第2の直線状溝部と、円弧状溝部の中央部から径方向外側に延びる第3の直線状溝とから構成できる。このようにすれば、3つの直線状溝部が円弧状溝部に沿って分散して位置することになり、開裂溝をより広い範囲で確実に開けることができる。
【0012】
第1の直線状溝部が円弧状溝部から延びる位置を、円弧状溝部の一端から円弧状溝部の中央部側に所定の距離離れた位置とし、第2の直線状溝部が円弧状溝部から延びる位置を、円弧状溝部の他端から円弧状溝部の中央部側に所定の距離離れた位置としてもよい。このように構成すると、円弧状溝部と第1の直線状溝部との交点及び円弧状溝部と第2の直線状溝部との交点では、3方向からの溝部が交わることとなる。そのため、第1及び第2の直線状溝部が円弧状溝部の両端からそれぞれ延びる場合よりも、円弧状溝部と直線状溝部との境界部の機械的強度が低くなる。そのため、交点が開裂の起点となりやすくなり、容器の内圧が予め定めた圧力以上に上昇したときに、早期に開裂溝を開けることができる。
【0013】
円弧状溝部の端部と第1及び第2の直線状溝部との間の距離は任意であるが、第1の直線状溝部が円弧状溝部から延びる位置を、円弧状溝部の一端に隣接する位置とし、第2の直線状溝部が円弧状溝部から延びる位置を、円弧状溝部の他端に隣接する位置とすれば、円弧状溝部全体を確実に開けることができる。
【0014】
端子部は、仮想線に沿う方向と径方向外側に向かう方向に延びて円板部に溶接される基部と、該基部の仮想線寄りの端部から円板部から離れる方向に延びる起立部とから構成することができる。このようにすれば、蓋本体の第2の分割領域に確実且つ容易に端子部を固定できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蓋本体の第1の領域に開裂溝を形成し、第2の分割領域に正極端子部を固定するので、端子部が固定された蓋本体にも確実に開裂溝を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用可能な実施形態の円筒状リチウムイオンキャパシタの平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】(A)は実施形態の円筒状リチウムイオンキャパシタの極板の捲回前の平面図であり、(B)は極板を構成する集電体の平面図である。
【図4】極板のリード片形成部近傍を模式的に示す拡大断面図である。
【図5】電極群を捲回する前の状態を模式的に示す説明図である。
【図6】電極群を模式的に示す外観斜視図である。
【図7】図6のM部を模式的に表す部分拡大図である。
【図8】カーリング加工(かしめる)前の蓋本体及び正極端子部の平面図である。
【図9】図8のIX−IX線断面図である。
【図10】図8のX−X線断面図である。
【図11】カーリング加工(かしめる)前の蓋本体及び正極端子部の他の例の平面図である。
【図12】図1に示す円筒状リチウムイオンキャパシタの正極端子部を備えた蓋本体の正面図である。
【図13】図1に示す円筒状リチウムイオンキャパシタの正極端子部を備えた蓋本体の背面図である。
【図14】図1に示す円筒状リチウムイオンキャパシタの正極端子部を備えた蓋本体の右側面図である。
【図15】図1に示す円筒状リチウムイオンキャパシタの正極端子部を備えた蓋本体の左側面図である。
【図16】図1に示す円筒状リチウムイオンキャパシタの正極端子部を備えた蓋本体の平面図である。
【図17】図1に示す円筒状リチウムイオンキャパシタの正極端子部を備えた蓋本体の底面図である。
【図18】図12のA−A線断面図である。
【図19】図18のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明を円筒状リチウムイオンキャパシタに適用した実施の形態について説明する。
【0018】
(構成)
<全体構成>
図1及び図2(図1のII−II線断面図)に示すように、本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ30(以下、キャパシタ30と略称する。)は、ニッケルメッキが施されたスチール製有底円筒状の容器(缶)8を有している。容器8内には、電極群7が収容されている。図5に示すように、電極群7は、中空円筒状で縦方向に複数本(本例では3本)のスリットが形成されたポリプロピレン製軸芯1に帯状の正極板2および負極板3が第1のセパレータ4Aまたは第2のセパレータ4Bを介して捲回されて構成されている。ドーピング前の電極群7内には、1枚の金属リチウム板W5が配置されている。正極板2は、2枚の分割正極板2A,2Bから構成されている。第1及び第2のセパレータ4A,4Bとしては、クラフト紙等の多孔質基材を用いることができる。
【0019】
<正極板>
前述のように、正極板2は、捲回方向に並ぶ2枚の分割正極板2A,2Bから構成されている。分割正極板2A,2Bは、長さ寸法を除いて同じ構造を有している。図3及び図4に示すように、分割正極板2A,2Bは、例えば、アルミニウム箔(正極集電体)W1の両面に、正極活物質合剤W2が塗着されて構成されている。正極活物質合剤W2は、例えば、活性炭と、アクリル系バインダからなる結着剤と、カルボキシメチルセルロース(CMC)からなる分散剤との混合物を用いることができる。アルミニウム箔W1は、長手方向に沿う一側が櫛状に切り欠かれており、この切り欠き残部からなる正極リード片2aと、正極リード片2aに隣接して多数の貫通孔が形成された孔明き形成部とで構成されている。また、孔明き形成部は、長手方向に沿ってリード片形成部に隣接する箇所に貫通孔が形成されていない貫通孔未形成部を有している。この孔明き形成部に該孔明き形成部の幅方向の長さに満たない長さで上述した正極活物質合剤W2が塗着されている。
【0020】
また、正極活物質合剤W2が塗着された孔明き形成部の正極リード片2a側の端部の断面は、図4に示すように、正極活物質合剤W2が乾燥する前のスラリ状態で最も外側の(貫通孔未形成部に最も近い)貫通孔まで流動して該貫通孔に入り込むことで、塗工表面に対して鈍角状(σ)に傾斜している。
【0021】
<負極板>
一方、負極板3も図3及び図4に示すように、正極板2とほぼ同じ構造を有している。すなわち、負極板3は、例えば、銅箔(負極集電体)W3の両面に負極活物質合剤W4が塗着されている。負極活物質合剤W4としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な非晶質炭素と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる結着剤と、アセチレンブラック等の導電助材との混合物を用いることができる。銅箔W3は、長手方向に沿う一側が櫛状に切り欠かれており、この切り欠き残部からなる負極リード片3aと、負極リード片3aに隣接して配置され多数の貫通孔が形成された孔明き形成部とで構成されている。また、孔明き形成部は、長手方向に沿ってリード片形成部に隣接する箇所に貫通孔が形成されていない貫通孔未形成部を有している。この孔明き形成部に該孔明き形成部の幅方向の長さに満たない長さで上述した負極活物質合剤W4が塗着されている。
【0022】
また、正極板2と同様に、負極活物質合剤W4が塗着された孔明き形成部の負極リード片3a側の端部の断面は、図4に示すように、負極活物質合剤W4が乾燥する前のスラリ状態で最も外側の(貫通孔未形成部に最も近い)貫通孔まで流動して該貫通孔に入り込むことで、塗工表面に対して鈍角状(σ)に傾斜している。
【0023】
<金属リチウム板>
金属リチウム板W5の総充填量は、負極板3の負極活物質合剤にリチウムイオンを十分ドーピング可能な量に設定されるが、このような総充填量は負極活物質の材質、量を考慮して論理計算を行うとともに、実際にリチウムイオンのドーピングを行って十分にドーピングされたかを確認することで設定することができる。本実施形態では、金属リチウム板W5をそのまま電極群7の中央領域において、負極板3上に配置する(図5〜図7参照)。
【0024】
<電極群>
図5〜図7に示すように、電極群7は、正極板2(分割正極板2A,2B)と負極板3とが、両極板が直接接触しないように、厚さ2枚の第1のセパレータ4Aまたは第2のセパレータ4Bを介して、軸芯1を中心として断面渦巻き状に捲回されて構成されている。そして、電極群7の径方向の中央領域において、金属リチウム板W5の捲回層が位置するように金属リチウム板W5が負極板3上に配置されている。なお、金属リチウム板W5は圧力を加えると粘性を持つため、負極板3に予め圧接により固定することもできる。図5及び図7(図6のM部の部分拡大図)に示すように、正極板2を構成する分割正極板2A,2Bは、金属リチウム板W5の上に第1及び第2のセパレータ4A,4Bが直接重なるように捲回方向に所定の間隔をあけて配置されており、第1及び第2のセパレータ4A,4Bの間に順次挿入されて捲回されている。このようにすることにより、金属リチウム板W5は、セパレータ4A,4Bを介して正極板2(分割正極板2A,2B)と対向することはない。上述した正極リード片2aと負極リード片3aとは、それぞれ電極群7の互いに反対側に配置されており、セパレータ4A,4Bの端から所定長さはみ出している。電極群7は、正極板2、負極板3、セパレータ4A,4B等の長さを調整することで、所定の内直径および所定の外直径に設定されている。なお、電極群7の捲回終端部は、巻き解けを防止するために、粘着テープを貼り付けることで固定されている。
【0025】
<電極群の収納構造>
前述したように、電極群7は、ニッケルメッキが施されたスチール製有底円筒状の容器8の内周部に収容されている。そして、図2に示すように、電極群7の下側には、電極群7の下端側端面に対向するように、負極板3からの電位を集電するための銅製の負極集電リング6が配置されている。負極集電リング6の内周面には軸芯1の下端部外周面が嵌着されている。負極集電リング6の外周縁には、負極板3から導出された負極リード片3aの先端部が超音波溶接で接合されている。
【0026】
一方、電極群7の上側には、電極群7の上端面と対向するように、軸芯1のほぼ延長線上に分割正極板2A,2Bからの電位を集電するためのアルミニウム製の正極集電リング5が配置されている。正極集電リング5は軸芯1の上端部に嵌着されている。正極集電リング5の周囲から一体に張り出している周縁には、分割正極板2A,2Bから導出された正極リード片2aの先端部が超音波溶接で接合されている。
【0027】
正極集電リング5の上方には、正極端子を構成する容器蓋12が配置されている。容器蓋12は、電極群7の上に配置された蓋本体13と、この蓋本体13と組み合わされる蓋キャップ14とから構成されている。蓋本体13は、アルミニウムにより形成されており、蓋キャップ14は、容器8と同様にニッケルメッキが施されたスチールにより形成されている。蓋キャップ14は、環状の平坦部14aと、平坦部14aの中央部から突出する凸部14bとを有している。容器蓋12は、蓋キャップ14の平坦部14aの外周部が蓋本体13の縁部にカーリング加工されて(かしめられて)構成されている。蓋キャップ14の凸部14bと蓋本体13との間には、空隙部15が形成されている。そして、凸部14bと平坦部14aとに跨る部分には、容器蓋12の空隙部15と外部とを連通する4つの貫通孔14cが形成されている。4つの貫通孔14cは、凸部14bの周方向に等しい間隔をあけて形成されている。
【0028】
蓋本体13には、容器8の内圧が予め定めた圧力以上に上昇すると開く開裂溝16(図8)が形成されている。蓋キャップ14に形成された4つの貫通孔14cは、蓋本体13の開裂溝16が開いた際に容器内部の気体を外部に放出する役割を果たしている。正極集電リング5の上面には、リボン状のアルミニウム箔を積層した2本の正極端子部のうち1本の正極端子部10Aの一端が接合されている。正極端子部のもう1本の正極端子部10Bは、容器蓋12を構成する蓋本体13の外底面に溶接されている。また、2本の正極端子部10A,10Bの他端同士も接合されている。これにより、蓋本体13は、電極群7の一方の極板(正極板)と電気的に接続される。蓋本体13、開裂溝16及び正極端子部10Bについては、後に詳細に説明する。
【0029】
容器蓋12は、絞り加工が施されて開口部近傍に円環状の段部8bが形成された容器8の開口部内に挿入され、段部8bの上に配置されている。そして容器8の開口端部8aが、透湿性及び耐熱性を有する電気絶縁材料により形成されたゴム系材料のガスケット17を介して、容器蓋12に近づくようにカーリング加工(かしめ加工)されている。その結果、カーリング加工された開口端部8aと段部8bとの間に、容器蓋12がガスケット17を介して挟まれた状態で固定されている。これにより、キャパシタ30の内部は密封される。
【0030】
そして、容器8の開口端部8aと容器蓋12との間から露出するガスケット17の露出部分17a並びにガスケット17の露出部分17aと容器8の開口端部8aとの間に形成される境界部18及びガスケット17の露出部分17aと容器蓋12との間に形成される境界部19が、防水性シール部21によって覆われている。防水性シール部21は、エポキシ樹脂、パーフロロエラストマー等からなる防水シール材料を用いて形成されている。防水性シール部21は、貫通孔14cを塞ぐことがないように形成されている。
【0031】
容器8内には、電極群7全体を浸潤可能な量の非水電解液(不図示)が注液されている。非水電解液には、例えば、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比30:50:20の割合で混合した溶媒中にリチウム塩として6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解した溶液を用いることができる。
【0032】
<蓋本体及び開裂溝の構造>
図8及び図9に示すように、蓋本体13は、円板状の平板部13aの中央に蓋キャップ14から離れる方向に膨出する膨出部13bを一体に備えている。なお、図8は、正極端子部10Bが固定されたカーリング加工(かしめる)前の蓋本体13の平面図であり、図9は、図8のIX−IX線断面図である。平板部13aの縁部から立ち上がる筒部13gは、キャパシタの製造工程において、カーリング加工(かしめ加工)される。
【0033】
膨出部13bは一端が平板部13aとつながった円筒部13cと外周部が該円筒部13cの他端とつながる円板部13dとを備えている。円板部13dには、蓋キャップ14側に突出する突状部13eが円板部13dと同心的に形成されている。この突状部13eが形成された結果、円板部13dにおける突状部13eの反対側には、円板部13dと同心になるように円環状の溝部13fが形成されることになる。また、円板部13dは、該円板部13dを円板部13dの中心を通る仮想中心線L1と直交し円板部13dに沿って延びる仮想線L2によって二分割された第1の分割領域R1及び第2の分割領域R2とを有している。第1の領域R1の円環状の突状部13e(円環状の溝部13f)の径方向内側には、開裂溝16が形成され、第2の分割領域R2の円環状の突状部13e(円環状の溝部13f)の径方向内側には、一方の極板(正極板2)と電気的に接続される正極端子部10Bが固定されている。正極端子部10Bは、仮想線L2に沿う方向と径方向外側に向かう方向に延びて円板部13dに溶接される基部10cと、該基部10cの仮想線L2寄りの端部から円板部13dから離れる方向に延びる起立部10dとを有している。
【0034】
第1の分割領域R1に形成された開裂溝16は、図8及び図10(図8のX−X線断面図)に示すように、蓋キャップ14に向って所定の角度θで広がるように開口しており、平坦な底面16eを有している。この開裂溝16は、円弧状溝部16aと第1〜第3の直線状溝部16b〜16dとを有している。円弧状溝部16aは、円環状の溝部13fと同心的に形成されている。第1及び第2の直線状溝部16b,16cは、円弧状溝部16aの両端から溝部13fの径方向外側に延びている。第3の直線状溝部16dは、円弧状溝部16aの中央部から溝部13fの径方向外側に延びている。
【0035】
本例の円筒状リチウムイオンキャパシタでは、容器8の内圧が予め定めた圧力(本例では1.8MPa)以上に上昇すると、円弧状溝部16aと直線状溝部16b〜16dの交点16f〜16hを起点として、開裂が開始し、円弧状溝部16a及び直線状溝部16b〜16dの全体が開く。これにより、電解液の分解により発生するガスが放出される。
【0036】
図11は、正極端子部10Bが固定されたカーリング加工(かしめる)前の蓋本体13の他の例の平面図である。図11に示す開裂溝16では、第1の直線状溝部16bは円弧状溝部16aの一端から円弧状溝部16aの中央部側に所定の距離離れた位置から延びており、第2の直線状溝部16cは、円弧状溝部16aの他端から円弧状溝部16aの中央部側に所定の距離離れた位置から延びている。具体的には、第1の直線状溝部16bは円弧状溝部16aの一端に隣接する部分から延びており、第2の直線状溝部16cは円弧状溝部16aの他端に隣接する部分から延びている。図11における円弧状溝部と第1直線状溝部との交点16f及び円弧状溝部と第2の直線状溝部との交点16gでは、3方向からの溝部が交わっている。そのため、第1及び第2の直線状溝部が円弧状溝部の両端からそれぞれ延びている図8の場合よりも、円弧状溝部16aと直線状溝部16bまたは16gとの境界部の機械的強度は低くなり、交点が開裂の起点となりやすくなり、容器の内圧が予め定めた圧力以上に上昇したときに、早期に開裂溝16を開けることができる。図11では特に、第1の直線状溝部16bが円弧状溝部16aから延びる位置は円弧状溝部16aの一端に隣接する位置であり、第2の直線状溝部16cが円弧状溝部16aから延びる位置は円弧状溝部16aの他端に隣接する位置となっている。そのため、円弧状溝部全体を確実に開裂させることができ、電解液の分解により発生するガスを放出することができる。
【0037】
本実施の形態では、3本の直線状溝部を設けているが、中央の1本の直線状溝部16dだけを設けるようにしてもよく、また両端の2本の直線状溝16b及び16cだけを設けるようにしても良い。また開裂溝16の形状は、本実施の形態の形状に限定されるものではなく、他の形状の開裂溝を用いても良い。
【0038】
なお図12〜図19は、正極端子部10Bを備えた蓋本体13の正面図、背面図、右側面図、左側面図、平面図、底面図、図12のA−A線断面図、図18のB−B線断面図である。
【0039】
(作用)
本実施の形態によれば、蓋本体13の第1の領域R1に開裂溝16を形成し、第2の分割領域R2に正極端子部10Bを固定するので、正極端子部10Bが固定された蓋本体13に開裂溝16を備えることができる。そのため、蓋本体13に正極端子部10Bを固定する円筒状リチウムイオンキャパシタにおいても、蓋本体13に開裂溝16を容易に備えることができる。
【符号の説明】
【0040】
7 電極群
8 容器(缶)
10A,10B 正極端子部
10c 基部
10d 起立部
12 容器蓋
13 蓋本体
13d 円板部
13e 突状部
13f 溝部
13g 筒部
14 蓋キャップ
16 開裂溝
16a 円弧状溝部
16b〜16d 第1〜第3の直線状溝部
L1 仮想中心線
L2 仮想線
R1 第1の分割領域
R2 第2の分割領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状の金属製の容器と、
前記容器の内部に収納された電極群と、
前記電極群が収納された前記容器の開口部を密閉状態で塞ぐ容器蓋を備え、
前記容器蓋が、前記電極群の一方の極板と電気的に接続され且つ前記容器の内圧が予め定めた圧力以上に上昇すると開く開裂溝を備えた金属製の蓋本体と、前記蓋本体との間に外部と連通する空隙部を形成するように前記蓋本体に組み合わされる金属製の蓋キャップとから構成されている円筒状リチウムイオンキャパシタであって、
前記蓋本体は、円板状の平板部の中央に前記蓋キャップから離れる方向に膨出する膨出部を一体に備えており、
前記膨出部は一端が前記平板部とつながった円筒部と外周部が該円筒部の他端とつながる円板部とを備えており、
前記円板部を前記円板部の中心を通る仮想中心線と直交し前記円板部に沿って延びる仮想線によって二分割して第1の分割領域及び第2の分割領域と定めたときに、前記第1の領域に前記開裂溝が形成され、前記第2の分割領域に前記一方の極板と電気的に接続される端子部が固定されていることを特徴とする円筒状リチウムイオンキャパシタ。
【請求項2】
前記円板部には該円板部と同心になるように円環状の溝部が形成されており、
前記円環状の溝部の径方向内側に前記開裂溝及び前記端子部が配置されている請求項1に記載の円筒状リチウムイオンキャパシタ。
【請求項3】
前記開裂溝は、前記円環状の溝部と同心的に形成された円弧状溝部と、該円弧状溝部から径方向外側に延びる1以上の直線状溝部とからなる請求項1または2に記載の円筒状リチウムイオンキャパシタ。
【請求項4】
前記1以上の直線状溝部は、前記円弧状溝部の両端から前記径方向外側に延びる第1及び第2の直線状溝部と、前記円弧状溝部の中央部から前記径方向外側に延びる第3の直線状溝部とからなる請求項3に記載の円筒状リチウムイオンキャパシタ。
【請求項5】
前記1以上の直線状溝部は、前記円弧状溝部の一端から前記円弧状溝部の中央部側に所定の距離離れた位置から前記径方向外側に延びる第1の直線状溝部と、前記円弧状溝部の他端から前記円弧状溝部の中央部側に所定の距離離れた位置から前記径方向外側に延びる第2の直線状溝部と、前記円弧状溝部の中央部から前記径方向外側に延びる第3の直線状溝部とからなる請求項3に記載の円筒状リチウムイオンキャパシタ。
【請求項6】
前記第1の直線状溝部は、前記円弧状溝部の一端に隣接する部分から前記径方向外側に延びており、前記第2の直線状溝部は、前記円弧状溝部の他端に隣接する部分から前記径方向外側に延びている請求項5に記載の円筒状リチウムイオンキャパシタ。
【請求項7】
前記端子部は、前記仮想線に沿う方向と径方向外側に向かう方向に延びて前記円板部に溶接される基部と、該基部の前記仮想線寄りの端部から前記円板部から離れる方向に延びる起立部とからなる請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の円筒状リチウムイオンキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−26414(P2013−26414A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159274(P2011−159274)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】