説明

円筒状傾斜機能材料製造方法およびその製造装置

【課題】1種類または複数種類の充填剤の添加により、特性が径方向に任意に傾斜分布した円筒状傾斜機能材料を作製可能な円筒状傾斜機能材料製造方法およびその製造装置を提供する。
【解決手段】熱硬化性エポキシ樹脂および硬化剤に、その特性を変更可能なアルミナを任意の割合で混合した3種類の部分層用材料a〜cを作製し、これらを、回転ドラム11中に円筒状傾斜機能材料11の最外層形成用のものから順に分割して投入する。その際、各部分層用材料a〜cのドラム投入時期を、直前にドラム投入された材料の熱硬化が略完了後とする。また、ドラム回転速度を、ドラム投入された部分層用材料a〜c中のアルミナが、その材料中で略均一に保持される速度とする。これにより、特性が径方向に任意に傾斜分布した円筒状傾斜機能材料Aが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円筒状傾斜機能材料製造方法およびその製造装置、詳しくは電気的特性、機械的特性、熱的特性などが半径方向の位置で異なり、かつ熱硬化性高分子材料と充填剤(セラミックス、金属など)との複合材料からなる円筒状傾斜機能材料の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱硬化性高分子材料と充填剤との複合材料からなり、材料の特性が外周側から内周側に向かう半径方向の位置で異なるように構成された円筒状傾斜機能材料が開発されている。円筒状傾斜機能材料は、例えば各種の電気部品および各種の電子部品の材料など、多様な産業分野で利用されている。一例を挙げれば、高電圧機器(ガス絶縁開閉装置に使用される絶縁スペーサ、ポリマー碍管およびケーブル接続部など)の高電圧が加わる部位など)に用いられる円筒状傾斜機能材料がそれである。
【0003】
従来、このような円筒状傾斜機能材料を製造する方法として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。これは、遠心分離法により、内周側から外周側に向かって充填剤の密度を連続的に大きくするようにした円筒状傾斜機能材料の製造方法である。ここでは、単一の充填剤が使用されている。
しかしながら、この特許文献1に開示された単一の充填剤を利用した遠心分離法では、使用される全ての充填剤の粒子の比重が略同じであった。そのため、半径方向に任意に特性を変化させた円筒状傾斜機能材料を製作することは困難であった。
【0004】
そこで、従来、これを解決するものとして、例えば特許文献2が提案されている。特許文献2は、比重が異なる2種類以上の充填剤を使用し、遠心分離法により円筒状傾斜機能材料を製造するものである。
【特許文献1】特開2002−129028号公報
【特許文献2】特開2004−273394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2により円筒状傾斜機能材料を製造すれば、(1)複数の組成が異なる充填剤を用意する必要があった。また、(2)各種の充填剤を比重差で円筒状傾斜機能材料の半径方向の任意位置にそれぞれ分布させるため、各種の充填剤の粒度調整および温度に依存する液状熱硬化性高分子材料の粘度調整を厳密に行わなければならなかった。さらに、(3)各充填剤の傾斜分布の正否は各充填剤の組み合わせによって決定される。そのため、最適の傾斜特性を有する円筒状傾斜機能材料得ることは、非常に困難であるといった課題があった。
【0006】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、予め、液状熱硬化性高分子材料と所定の充填剤とを個別に攪拌混合して特性が異なる複数の部分層用材料を作製し、その後、これらの部分層用材料を、円筒状傾斜機能材料の最外層形成用のものから順に回転ドラムに投入すれば、上述した課題を全て解消することができることを知見し、この発明を完成させた。ただし、最外層形成用のものを除く各部分層用材料のドラム投入時期は、その直前に回転ドラムに投入された部分層用材料の硬化が完了した時点およびその前後とし、また回転ドラムの回転速度は、ドラム投入された部分層用材料中の充填剤が、その部分層用材料の全域で略均一に保持される速度としなければならない。
【0007】
この発明は、組成が異なる複数の充填剤の使用だけでなく1種類の充填剤を使用しても、特性が半径方向に任意に傾斜した円筒状傾斜機能材料を容易かつ安価に製造することができ、しかも充填剤の粒度調整の許容度が大きくなり、さらに最適な傾斜特性を有した円筒状傾斜機能材料を容易に製造することができる円筒状傾斜機能材料製造方法およびその製造装置を提供することも目的としている。
また、この発明は、回転ドラムに投入された部分層用材料を、その投入順に安定かつ確実に熱硬化させることができる円筒状傾斜機能材料製造方法およびその製造装置を提供することを目的としている。
さらに、この発明は、製造時間の短縮化を図ることができる円筒状傾斜機能材料製造方法およびその製造装置を提供することを目的としている。
そして、この発明は、各周方向において、各部分層用材料の厚さの均一性と充填剤の密度の均一性とをそれぞれ高めることができる円筒状傾斜機能材料製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、液状熱硬化性高分子材料の特性を変更可能な充填剤を含む前記液状熱硬化性高分子材料を回転ドラムに投入後、該回転ドラムを回転させながら前記液状熱硬化性高分子材料を加熱して硬化させることで、半径方向の位置で特性が異なった円筒状傾斜機能材料を製造する円筒状傾斜機能材料製造方法であって、添加量および組成のうち、少なくとも1つが異なった複数の前記充填剤から選出されたものを、前記液状熱硬化性高分子材料に個別に攪拌混合することで、特性が異なる複数の部分層用材料を作製し、前記回転ドラムに、前記円筒状傾斜機能材料の最外層形成用のものから該円筒状傾斜機能材料の最内層形成用のものへと順に各部分層用材料を投入し、その際の前記最外層形成用のものを除く各部分層用材料のドラム投入時期は、直前に前記回転ドラムに投入された部分層用材料の熱硬化が完了した時点およびその前後とし、前記回転ドラムの回転速度は、該回転ドラムに投入された部分層用材料中の充填剤が、前記部分層用材料に略均一に分散した状態で保持される速度である円筒状傾斜機能材料製造方法である。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、各部分層用材料の熱硬化時には、投入(注入)された部分層用材料中の充填剤が部分層用材料に略均一に分散した状態で保持される速度で回転ドラムを回転させる。これにより、各部分層用材料中の充填剤の粒子には、遠心力の影響がほとんどない。その結果、組成が異なる複数の充填剤を使用した場合だけでなく、仮に1種類だけの充填剤を使用した場合でも、特性が半径方向に任意に傾斜した円筒状傾斜機能材料を、容易かつ安価に製造することができる。
また、回転中の回転ドラム内では、充填剤により特性を異ならせた複数の部分層用材料を、最外層形成用のものから最内層形成用のものへと順に熱硬化させる。そのため、従来のように各組成(各種類)からなる充填剤の粒度調整を厳密に行った上で、比重差を利用し、各充填剤を円筒状傾斜機能材料の半径方向の任意位置にそれぞれ分布させる必要はない。その結果、充填剤の粒度調整の許容度が大きくなる。
しかも、円筒状傾斜機能材料は、充填剤が各層中で略均一に分布された複数の部分層を半径方向に連続的に作製することで得られる。よって、各充填剤の傾斜分布の正否が各組成の充填剤の組み合わせで決定される従来法に比べて、最適な傾斜特性を有する円筒状傾斜機能材料を容易に製造することができる。
【0010】
円筒状傾斜機能材料とは、半径方向の任意の位置での材料特性が異なる円筒体である。円筒状傾斜機能材料は、高電圧機器のうち、高電圧が加わる部位などに使用される。液状熱硬化性高分子材料は主剤と硬化剤とを含み、このうちの主剤としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、要素樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、珪素樹脂などを採用することができる。
液状熱硬化性高分子材料の硬化剤は、液状熱硬化性高分子材料の主剤の素材に応じて適宜変更される。例えば、フェノール樹脂に対しては、ヘキサメチレンテトラミン、エポキシ樹脂に対しては、ポリメチレンジアミン、ポリエーテルジアミンなどの脂肪族ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、アミノエチルエタノールアミンなどの直鎖または分枝脂肪族ポリアミン、N−アミノメチルピペラジンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの脂肪族芳香族アミン、テトラメチルグアミジン、トリエタノールアミンおよびトリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの第2または第3アミン類、アミンアダクトなどの変成アミン、ポリアミド硬化剤、ポリアミドアダクト、ポリメチカプタン硬化剤、ポリスルフィド樹脂などが挙げられる。
【0011】
充填剤は、熱硬化性合成樹脂の主剤に混合するだけでなく、その硬化剤に混合してもよいし、その両方に混合してもよい。その際の混合比率は任意である。主剤、硬化剤またはその両方は、充填剤の混合後、攪拌機などにより攪拌されて脱気が行われる。攪拌時において、熱硬化性合成樹脂の主剤または硬化剤の温度は、充填剤が分散し易いように高温(熱硬化性合成樹脂の硬化温度など)でもよい。または、常温でもよい。
充填剤としては、液状熱硬化性高分子材料の特性を変更可能な、例えば各種の金属微粉末、各種のセラミックス微粉末などを採用することができる。
部分層用材料に対する充填剤の添加量は任意である。また、充填剤を含む部分層用材料が複数存在する場合、各部分層用材料に添加される充填剤の組成は任意である。
【0012】
変更される円筒状傾斜機能材料の特性としては、例えば、電気的特性(誘電性、導電性など)、機械的特性(強度、磨耗性など)、磁気的特性、熱的特性(熱伝導性、耐熱性など)を採用することができる。
例えば誘電性を与えるセラミックス微粉末として、酸化チタン、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、ガリウム酸塩、アルミナ(Al)、ムライト、ステアタイト、石英ガラスなどを採用することができる。
導電性を与えるものとしては、例えばZrB、TiBなどのホウ化物、C、TiC、SiCなどの炭化物、TiNなどの窒化物、SnO、TiO、CrO、RuO、ReO、WO、SrFeO、SrTiO、Inなどの酸化物、Fe、Cuなどの金属を採用することができる。
磁性を与える金属微粉末としては、例えばMn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、Cu−Znフェライトなどの各種のフェライト、Nd−Fe−B系磁石、KS鋼、MK鋼、OP磁石、アルニコ、Sm−Co磁石などを採用することができる。
【0013】
熱伝導性を与えるものとしては、例えば高熱伝導セラミックスとしてベリリア、アルミナ、ダイヤモンド、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウムを採用することができる。また、高熱伝導金属としてはFe、Cuなどを採用することができる。
これらの金属微粉末およびセラミックス微粉末の平均粒径は、使用される液状熱硬化性高分子材料の粘度および硬化特性により適宜変更される。
半径方向の位置で円筒状傾斜機能材料の特性が異なるとは、円筒状傾斜機能材料の外周側から内周側に向かって(またはこれとは反対の円筒状傾斜機能材料の内周側から外周側に向かって)連続的または断続的に、円筒状傾斜機能材料の特性が異なることをいう。
回転ドラムとしては、回転軸が水平な横型の回転ドラムを採用する。
【0014】
ドラム投入された部分層用材料中の充填剤が、部分層用材料の全域で略均一に保持される回転ドラムの回転速度とは、回転ドラムの遠心力により、充填剤が部分層用材料の外周側に移動することで発生する部分層用材料中の充填剤の密度の偏りがなく、かつドラム周方向における部分層用材料の厚さの均一性が保持される速度である。
複数の充填剤から選出されたもの(充填剤)を、液状熱硬化性高分子材料に個別に攪拌混合するとは、選出された充填剤と液状熱硬化性高分子材料とを、例えば1対1の関係で攪拌して混ぜ合わせることをいう。ただし、充填剤と液状熱硬化性高分子材料との混合割合は1:1に限定されない。充填剤と液状熱硬化性高分子材料との混合物の特性が意図したものとなるように適宜変更することができる。
【0015】
各部分層用材料の回転ドラムへの投入順序(円筒状傾斜機能材料の半径方向への特性変更プロファイル)は、例えば円筒状傾斜機能材料の用途に応じて適宜変更することができる。
最外層形成用のものを除く各部分層用材料のドラム投入時期が、直前に回転ドラムに投入された部分層用材料の熱硬化が完了した時点およびその前後とは、ドラム投入しようとする部分層用材料の1つ前にドラム投入された部分層用材料の熱硬化が完了したと同時、またはその直前もしくはその直後をいう。最外層形成用のものを除いたのは、それより前には回転ドラムに投入された部分層用材料が存在しないためである。
【0016】
円筒状傾斜機能材料(円筒状高分子複合材料)の製造に用いる高分子材料は、短時間(数分程度)に硬化し、かつ加熱時の充填剤との混合粘度が1mPa・s以上であることが望ましい。ただし、最も望ましいのは、特性を変化させるために用いられる充填剤粒子径および密度から最適な硬化特性を有する液状熱硬化性高分子材料を選定することである。
特性を変化させるために用いられる充填剤は、液状熱硬化性高分子材料に最大充填された状態で必要とする特性値以上となるように選定される必要がある。充填剤の最大充填率は、使用する液状熱硬化性高分子材料の粘度(加熱時)、充填剤の粒子径および粒子のアスペクト比により変化する。また、充填剤を最大充填させるには、遠心力の強制力を用いない限り実現不可能であることから、この発明においては、充填剤の最大充填率の2/3以下で特性変化を十分に満足する充填剤を選定することが望ましい。
この発明は、電気的特性向上のみを目指したものでなく、特性変化が充填剤により支配されるものであることから、液状熱硬化性高分子材料における熱的、機械的特性などを向上させることも可能とする。
【0017】
請求項2に記載の発明は、前記回転ドラムは、前記液状熱硬化性高分子材料が投入される前に加熱され、前記各部分層用材料の硬化は、個々の硬化特性に適した加熱温度および加熱時間にそれぞれ調整して行われる請求項1に記載の円筒状傾斜機能材料製造方法である。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、各部分層用材料を硬化する際には、個々の硬化特性に適した加熱温度および加熱時間に加熱条件を調整し、それぞれの部分層用材料の熱硬化を行う。そのため、回転ドラムに投入された部分層用材料を、その投入順に安定かつ確実に熱硬化させることができる。
【0019】
各部分層用材料は、混入された充填剤の添加量およびその組成が異なるため、硬化特性がそれぞれ異なる。よって、各部分層用材料の熱硬化は、個々の硬化特性に適合した加熱温度および加熱時間で調整される必要がある。
【0020】
請求項3に記載の発明は、各部分層材料は、対応する前記液状熱硬化性高分子材料の主剤と硬化剤とを分けた状態で、前記回転ドラムに投入される前に、予熱、攪拌および脱気される請求項1または請求項2に記載の円筒状傾斜機能材料製造方法である。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、各部分層材料を、回転ドラムへの投入前に予熱、攪拌および脱気するので、ドラム投入された部分層材料の硬化時間を短縮することができる。
【0022】
各部分層用材料の予熱温度は、液状熱硬化性高分子材料の組成により変更される。例えば、100〜150℃である(例えば140℃、5分で硬化する液状熱硬化性高分子材料の使用時に、回転ドラムへの注入後、3〜10分で硬化するように調整)。
各部分層用材料は同じ温度で予熱してもよいし、それぞれの硬化温度に合わせて温度差を付けてもよい。
液状熱硬化性高分子材料の主剤と硬化剤およびこれに充填剤を混合した混合物を攪拌、脱気、予熱する方法としては、例えば、液状熱硬化性高分子材料が全く硬化しない温度または円筒状傾斜機能材料の作製時まで硬化しない温度を保持し、これらの攪拌、脱気を行う。その後、この脱気された混合物を円筒状傾斜機能材料の作製時までは硬化しない温度で予熱する。これとは別の方法として、充填剤が添加された主剤と充填剤が添加された硬化剤とを別々に攪拌、脱気し、これらを別々に予熱する。予熱後の主剤と硬化剤との混合物は、その後、円筒状傾斜機能材料の作製工程で回転ドラムに投入される。
液状熱硬化性高分子材料の主剤と硬化剤との攪拌、脱気は、公知の攪拌、公知の真空脱気装置を使用してもよい。
【0023】
請求項4に記載の発明は、液状熱硬化性高分子材料の特性を変更可能な充填剤を含む前記液状熱硬化性高分子材料が投入される回転ドラムと、該回転ドラムを回転させる回転手段と、添加量および組成のうち、少なくとも1つが異なる充填剤を均一に分散させることで特性がそれぞれ異なった複数の部分層用材料を、前記円筒状傾斜機能材料の最外層形成用のものから該円筒状傾斜機能材料の最内層形成用のものへと順に前記回転ドラムに投入する部分材料投入手段と、前記回転ドラムに投入された各部分層用材料を、それぞれ加熱して硬化させる加熱手段とを備え、前記円筒状傾斜機能材料の最外層形成用のものを除く各部分層用材料のドラム投入時期を、それより1つ前に前記回転ドラムに投入された部分層用材料の熱硬化が完了した時点およびその前後とし、前記回転手段による前記回転ドラムの回転速度を、該回転ドラムに投入された部分層用材料中の充填剤が、該部分層用材料に略均一に分散した状態で保持される速度とした円筒状傾斜機能材料製造装置である。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、各部分層用材料の熱硬化時には、各部分層用材料の充填剤がドラム円周方向に均一な密度で分布される速度で、ドラム回転手段により回転ドラムを回転させる。これにより、各部分層用材料中の充填剤の粒子には、遠心力の影響がほとんどない。その結果、組成が異なる複数の充填剤の使用だけでなく、仮に1種類だけの充填剤を使用した場合でも、特性が半径方向に任意に傾斜した円筒状傾斜機能材料を、容易かつ安価に製造することができる。
【0025】
また、回転中の回転ドラム内では、充填剤により特性を異ならせた複数の部分層用材料を、最外層形成用のものから最内層形成用のものへと順に加熱手段により熱硬化させる。そのため、従来のように各組成の充填剤の粒度調整を厳密に行った上で、比重差を利用し、各充填剤を円筒状傾斜機能材料の半径方向の任意位置にそれぞれ分布させる必要はない。これにより、充填剤の粒度調整の許容度は大きくなる。
しかも、円筒状傾斜機能材料は、このように充填剤が各層全域で略均一に分布された複数の部分層を半径方向に連続して作製することで得られる。よって、各充填剤の傾斜分布の正否が各組成の充填剤の組み合わせで決定される従来法に比べて、最適な傾斜特性を有する円筒状傾斜機能材料を容易に製造することができる。
【0026】
ドラム回転手段としては、例えば電動モータ、油圧モータなどの各種のアクチュエータを採用することができる。
加熱手段としては、例えば電気ヒータ、誘導加熱装置、誘電加熱装置などを採用することができる。また、加熱手段は、回転ドラムの外周板に接触させてもよいし(ブラシ式)、その近傍に若干離間して配置してもよいし、回転ドラムの回転軸に沿って配置してもよい。加熱手段は、回転ドラムに投入された部分層用材料に適応した温度で、かつドラム周方向に均一に加熱することができるものでなければならない。
【0027】
部分材料投入手段としては、真空ポンプにより回転ドラム内に各部分層用材料を吸引して投入するものを採用することができる。その他、各種のアクチュエータ(電動シリンダ、油圧シリンダ、エアシリンダなど)を利用し、各部分層用材料を回転ドラム内に圧入するものを採用してもよい。さらに、定量注入ポンプなどにより各部分層用材料を回転ドラム内に注入するものを採用してもよい。
回転ドラムの軸部は、回転ドラムを軸線に沿った貫通状態で固定されたものでもよい。その場合、軸部を管体とし、かつ軸部の一端部に各部分層用材料の材料導入口を形成するとともに、軸部のドラム内の部分に各部分層用材料の投入孔を形成してもよい。こうすれば、回転ドラムを回転させながら、各部分層用材料を材料導入口から軸部内に導入し、その後、投入孔を通して各部分層用材料を回転ドラムに投入させることができる。また、回転ドラムと軸部との間にベアリングを介在させることで、回転ドラムが回転しても軸部は回転しないように構成してもよい。
【0028】
液状熱硬化性高分子材料の主剤とその硬化剤とを混合すると、その混合物の温度により硬化時間が変化する。短時間で硬化させるには高温とする。液状熱硬化性高分子材料は常温では硬化せず、温度を高めると硬化する。例えば、60℃では1時間、70℃では30分、80℃では15分となる。
また、充填剤は、主剤にのみ混合攪拌してもよいし、硬化剤にのみ混合攪拌してもよいし、主剤と硬化剤との両方に混合、攪拌してもよい。なお、この状態で予熱することも可能である。ただし、硬化剤はドラム投入直前に混合、攪拌、脱気を行い、ドラム投入前の予熱により硬化しないように注意しなければならない。また、充填剤の混合比は任意である。例えば、主剤100重量部に対して充填剤を40重量部、硬化剤100重量部に対して充填剤を60重量部でもよい。
【0029】
各部分層用材料を作製する方法は限定されない。例えば、各部分層用材料を手作業で作製してもよいし、機械的に大量生産してもよい。機械による場合には、例えば各部分層用材料用の充填剤と液状熱硬化性高分子材料とを1つの混合用タンクに投入(挿填)し、これらをタンク内に組み込まれた回転羽根により攪拌して混合する方法などを採用することができる。また、混合タンク内に空気などのガスをバブリングし、これらを攪拌混合する方法でもよい。
部分材料投入手段としては、例えば、各部分層用材料を個別に収納する複数の部分材料タンクと、各部分材料タンクから部分層用材料を回転ドラムに個別に移送する複数台の部分材料移送装置とを有したものなどを採用することができる。なお、部分材料移送装置の使用台数を1台とし、切り替え弁付きの部分材料供給管を各部分材料タンクと回転ドラムとにより連通し、各部分層用材料を回転ドラムに投入するようにしてもよい。
【0030】
請求項5に記載の発明は、前記回転ドラムには、該回転ドラムに投入された各部分層用材料の温度を測定する複数の温度センサが配設され、各温度センサからの検出信号に基づき、前記加熱手段による各部分層用材料の加熱温度、加熱時間をそれぞれ制御する請求項4に記載の円筒状傾斜機能材料製造装置である。
【0031】
請求項5に記載の発明によれば、回転ドラム内に投入された各部分層用材料の反応熱を温度センサによりそれぞれ測定する。液状熱硬化性高分子材料は硬化時に反応熱が発生し、温度が上昇する。この反応熱を各温度センサにより検出し、それらの検出信号に基づき、例えば次に投入される部分層用材料の投入時期を制御する。具体的には、予め液状熱硬化性高分子材料の硬化特性を、加熱温度と加熱時間の関係を調べる試験を行って把握しておく。各温度センサによる温度検出は、その検出温度から、液状熱硬化性高分子材料が未硬化状態または硬化状態であるかを把握するものである。例えば、最外層(第1層)形成用の部分層用材料の硬化特性を考慮し、最外層形成用の部分層用材料の温度調整を行う。その後の層(第2層以降)は、各温度センサからの検出温度により、次に投入される部分用材料の投入タイミングを順次図る。その結果、回転ドラムに投入された部分層用材料を、その投入順に安定かつ確実に熱硬化させることができる。
【0032】
温度センサとしては、例えば熱伝対などを採用することができる。温度センサの使用個数および回転ドラム内での設置位置は限定されない。ただし、回転ドラム内に投入された各部分層用材料の温度を測定可能な個数および設置位置でなければならない。
加熱手段により制御される各部分層用材料の加熱(加熱条件)とは、例えば加熱温度、加熱時間などが挙げられる。
温度センサは、部分層用材料の温度を直接検出してもよいし、回転ドラム内の気中温度(回転ドラムの内部空間の温度)を検出してもよい。また、試験的に部分層用材料または気中の温度を検出してもよい。加熱手段による制御は、これらの1つまたは2つ以上の検出信号に基づいて行うことができる。
【0033】
請求項6に記載の発明は、前記加熱手段は、前記回転ドラムの周側板を加熱するものである請求項4または請求項5に記載の円筒状傾斜機能材料製造装置である。
【0034】
請求項6に記載の発明によれば、回転ドラムの周側板を加熱手段により加熱し、ドラム内の各部分層用材料を熱硬化させる。これにより、例えば回転ドラムの軸線上に配置された加熱体を用いて加熱する場合に比べて、各部分層用材料の周方向において、各部分層用材料の厚さの均一性と充填剤の密度の均一性とをそれぞれ高めることができる。
加熱手段により加熱されるのは、回転ドラムの周側板の全部でもよい。
【0035】
請求項7に記載の発明は、各部分層材料を、前記回転ドラムへの投入前に予熱する予熱手段を有した請求項4〜請求項6のうち、何れか1項に記載の円筒状傾斜機能材料製造装置である。
【0036】
請求項7に記載の発明によれば、各部分層材料を、予熱手段により回転ドラムへの投入前に予熱するので、ドラム投入された部分層材料の硬化時間を短縮することができる。
予熱手段を設ける場合には、各部分層用材料が熱硬化し易い温度まで昇温されて、管状の回転軸体を通過して回転ドラムの中央部に投入されるため、回転ドラムの両端板に断熱板を配設した方が好ましい。これにより、各部分層用材料が回転軸体を通過中に熱硬化することを防止できる。
予熱手段としては、回転ドラムの外部に配置された例えば電気ヒータ、誘導加熱装置、誘電加熱装置などを採用することができる。1台の予熱手段により、各部分層用材料の全てを予熱してもよいし、複数台の予熱手段により、各部分層用材料を個別に予熱してもよい。
【発明の効果】
【0037】
請求項1に記載された円筒状傾斜機能材料製造方法および請求項4に記載された円筒状傾斜機能材料製造装置によれば、部分層用材料中に充填剤が略均一に保たれる速度で回転ドラムを回転させるので、組成が異なる複数の充填剤を使った場合だけでなく1種類の充填剤を使った場合でも、特性が半径方向に任意に傾斜した円筒状傾斜機能材料を、容易かつ安価に製造することができる。
また、特性が異なる複数の部分層用材料を、円筒状傾斜機能材料の最外層形成用のものから最内層形成用のものへと順に熱硬化させるので、充填剤の比重差を利用した従来技術の場合のように、予め各組成の充填剤の粒度調整を厳密に行う必要がない。その結果、充填剤の粒度調整の許容度が大きくなる。しかも、最適な傾斜特性を有した円筒状傾斜機能材料を容易に製造することができる。
【0038】
特に、請求項2に記載の円筒状傾斜機能材料製造方法および請求項5に記載の円筒状傾斜機能材料製造装置によれば、各温度センサによる温度信号に基づき、回転ドラム内の部分層用材料が未硬化状態または硬化状態であるかを把握する。そして、最外層の部分層用材料に対してはその硬化特性を考慮し、ドラム投入されたその部分層用材料の温度調整を行う。その他の部分層用材料については、前記各検出温度に基づき、部分層用材料のドラム内への投入タイミングを図る。その結果、回転ドラムに投入された部分層用材料を、その投入順に安定かつ確実に熱硬化させることができる。
【0039】
また、請求項3に記載の円筒状傾斜機能材料製造方法および請求項7に記載の円筒状傾斜機能材料製造装置によれば、各部分層材料を、回転ドラムに投入される前に予熱、攪拌、脱気するので、ドラム投入された部分層材料の硬化時間を短縮することができる。
【0040】
そして、請求項6に記載の円筒状傾斜機能材料製造装置によれば、回転ドラムの周側板を加熱手段により加熱し、ドラム内の各部分層用材料を熱硬化させるので、例えば回転ドラムの軸線上に配置された加熱体を用いて加熱する場合に比べて、各部分層用材料の周方向において、各部分層用材料の厚さの均一性と充填剤の密度の均一性とをそれぞれ高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0042】
図1〜図5において、10はこの発明の実施例1に係り、半径方向の位置で特性が異なった円筒状傾斜機能材料Aを製造する円筒状傾斜機能材料製造装置(以下、傾斜材料製造装置)である。
この傾斜材料製造装置10は、材料の特性を変更可能なアルミナ(充填剤)を含む液状熱硬化性高分子材料が投入される回転ドラム11と、回転ドラム11を回転させる電動モータ(回転手段)12と、回転ドラム11に投入された液状熱硬化性高分子材料を加熱する電気ヒータ(加熱手段)13と、液状熱硬化性高分子材料を特性が異なる3つの部分層用材料a〜cから構成し、これらを円筒状傾斜機能材料Aの最外層形成用のものから最内層形成用のものへと順に回転ドラム11に投入する真空ポンプ(部分材料投入手段)とを備えている。
【0043】
以下、各構成部品を詳細に説明する。
液状熱硬化性高分子材料は、熱硬化性エポキシ樹脂(以下、主剤)と硬化剤とからなる2液混合タイプである。
各部分層用材料a〜cは、主剤100重量部に対して硬化剤が80重量部添加され、さらに必要により所定量の充填剤が添加されたものである。
具体的には、(1)主剤およびこの主剤100重量部に対して80重量部の硬化剤からなる最外層用材料aと、(2)前記主剤、最外層用材料aの場合と同量の硬化剤、前記主剤100重量部に対して50重量部のアルミナからなる中間層用材料bと、(3)前記主剤、最外層用材料aの場合と同量の硬化剤、主剤100重量部に対して100重量部のアルミナからなる最内層用材料cという3種類の部分層用材料である。
【0044】
主剤としてはナガセケムテックス社製の「EPOXY RESINCY225」を採用し、硬化剤としてはナガセケムテックス社製の「HARDENER HY925」を採用している。ゲル化時間は3〜8分(140℃)である。さらに、充填剤としては、日本軽金属社製のアルミナである「A−32」を採用している。その平均粒径は0.8μmである。
【0045】
各部分層用材料a〜cは、図示しない各層専用の混合用ドラム内で攪拌羽根を電動モータにより回転させ、主剤、硬化剤および必要により所定量のアルミナを略均一に攪拌混合させたものである。
これらの部分層用材料a(a1,a2)、b(b1,b2)、c(c1,c2)は、電気式の予熱ヒータ(予熱手段)15をそれぞれ有した最外層用タンクA1,A2、中間層用タンクB1,B2および最内層用タンクC1,C2に別々に貯蔵されている。
前記最外層用材料a1は最外層用材料aの主剤で、最外層用タンクA1に収納されている。最外層用材料a2は最外層用材料aの硬化剤で、最外層用タンクA2に収納されている。中間層用材料b1は中間層用材料bの主剤と充填剤で、中間層用タンクB1に収納されている。中間層用材料b2は中間層用材料bの硬化剤と充填剤で、中間層用タンクB2に収納されている。最内層用材料c1は最外層用材料cの主剤と充填剤で、最内層用タンクC1に収納されている。最内層用材料c2は最内層用材料cの硬化剤と充填剤で、最内層用タンクC2に収納されている。各予熱ヒータ15による予熱温度は、何れも110℃である。
【0046】
回転ドラム11は水平な軸線を有した横型ドラムで、周側板(CrCu製)16とこの周側板16の両開口部を塞ぐ1対の端板(鉄系金属製)17,18とを、組み立て分解自在にボルト連結したものである。一方の端板17の中央部には、各部分層用材料a〜cをドラム内に投入する投入孔17aが形成されている。回転ドラム11の他方の端板18の中央部には、ドラム内の空気を真空ポンプ14の負圧力により外部へ強制排気し、これによりドラム内空間を負圧化することで、各部分層用材料a〜cを回転ドラム11内に吸引する空気抜き孔18aが形成されている。
【0047】
一方の端板17の中央部の外側には、軸受19を介して、各部分層用材料a〜cのドラム導入管を兼ねた一方の軸部20が突設されている。一方の端板17の外側と一方の軸部20の元部側とは、互いに接触状態ではあるが固定されていない。前記投入孔17aと一方の軸部20の管路とは連通されている。また、一方の軸部20は、その長さ方向の略中間部が、架台板21に立設された支柱22の上端部に固定されている。一方の軸部20の先端部の上側には、すり鉢形状を有した材料投入部23が固着されている。材料投入部23の底側の中央部には、短尺な孔23aが形成されている。この孔23aが前記一方の軸部20の管路と連通されている。
【0048】
材料投入部23には、上流側部に、前記各材料タンクA1〜C1,A2〜C2に連通された6本の分岐管24a〜24fを有した材料導入管24の下流部が連通されている。各分岐管24a〜24fには開閉弁25が1つずつ設けられている。また、材料導入管24の下流部には、圧送ポンプPと攪拌・脱気装置50とが、下流に向かって順に設けられている。各開閉弁25を開閉操作し、圧送ポンプPを作動させることにより、材料導入管24を介して、各部分層用材料a〜cが所定順序で、攪拌・脱気装置50内で攪拌混合および脱気されてから材料投入部23に導入される。
前記軸受19のうち、外筒ケーシングのドラム側の端部には、一方の端板17と略同じ外径のフランジ19aが一体形成されている。フランジ19aは、ドーナツ形状を有した断熱板26を挟み込んだ状態で、一方の端板17に着脱自在にボルト連結されている。
【0049】
前記他方の端板18の中央部の外側には、フランジ27a付きの連結管27を介して、管路が各部分層用材料a〜cの吸引路となった管形状の他方の軸部28が突設されている。連結管27は、他方の軸部28の元部に固定状態で外嵌されている。また、連結管27のフランジ27aは、ドーナツ形状の別の断熱板26を挟み込んだ状態で、他方の端板18に着脱自在にボルト連結されている。他方の軸部28の長さ方向の略中間部とその先端部とは、各軸受29を介して、架台板21上で互いに離間した1対の支柱30の上端部にそれぞれ回転自在に支持されている。
他方の軸部28のうち、両支柱30の間の部分には、従動側のスプロケット31が固着されている。これに対応する主動側のスプロケット32が、回転ドラム11の一側方に設けられた電動モータ12の出力軸に固着されている。両スプロケット31,32間には、無端チェーン33が掛け渡されている。主動側のスプロケット32を電動モータ12により回転させると、その回転力が無端チェーン33、従動側のスプロケット31を経て他方の軸部28に伝達される。これにより、一方の軸部20に軸支された回転ドラム11が、両軸部20,28を中心にして所定速度で回転される。
【0050】
また、他方の軸部28の先部側の開口部には、ロータリージョイント34を介して、ホース35の先端部が連通されている。ホース35の元部は、真空ポンプ14の吸引部に連通されている。よって、真空ポンプ14を作動して負圧力を発生させることで、材料投入部23に貯留された各部分層用材料a〜cが、前記短尺な孔23a、一方の軸部20の管路、投入孔17aを順次通過し、回転ドラム11内に投入される。
回転ドラム11の周側板16の外側には、若干の隙間をあけて前記電気ヒータ13が周設されている。そのため、回転ドラム11と電気ヒータ13とは非接触状態にある。電気ヒータ13としては、周方向に2分割されたバンドヒータが採用されている(図2)。ただし、図示しない円筒形状の電気ヒータでもよい。電気ヒータ13は、幅広な支柱36により下方から支持されている。電気ヒータ13の熱は、電気ヒータ13と周側板16との間の空気を熱し、その後、周側板16に伝達されてドラム内の各部分層用材料a〜cを加熱する。
【0051】
また、回転ドラム11には、回転ドラム11に投入された部分層用材料aの温度を直接測定する4つの熱電対(温度センサ)37が配設されている(図1および図4)。具体的な各熱電対37の位置は、回転ドラム11の周側板16の長さ方向の中間部において、ドラム内側の上,下端部と、ドラム内側の左,右端部とである。各熱電対37からの検出信号に基づき、電気ヒータ13による部分層用材料aの加熱を制御する。また、一方の軸部20を通してドラム内に挿入され、回転中の回転ドラム11内の気中温度を検出する図示しない別の熱電対も使用される。この別の熱電対により、部分層用材料b,cのドラム投入タイミングがそれぞれ制御される。具体的には、ドラム内の気中温度を測定することで、例えば各部分層用材料a,bの硬化時反応熱(温度上昇)を検出し、次に投入する材料の投入タイミングを図る。この硬化時反応熱(温度上昇)の検出には、KEYENCE製の「WAVE THERMO 1000」を用いる。
【0052】
次に、この発明の実施例1に係る傾斜材料製造装置10を用いた円筒状傾斜機能材料製造方法を説明する。
図1〜図3に示すように、あらかじめ6つの開閉弁25をそれぞれ閉じておき、各予熱ヒータ15の加熱温度を110℃とし、電気ヒータ13の加熱温度を150℃とし、回転ドラム11の内壁温度を約125℃とする。よって、回転ドラム11は使用前に加熱される。また、中間層用材料bおよび最内層用材料cを作製する。具体的には、図示しない各層専用の混合用ドラム内で、攪拌羽根により主剤と所定量のアルミナ、または、硬化剤と所定量のアルミナとを略均一な分散状態で攪拌混合、脱気させる。脱気方法は真空脱気である。次に、主剤のみからなる最外層用材料a1と、硬化剤のみからなる最外層用材料a2と、得られた中間層用材料b1,b2と、最内層用材料c1,c2とを、それぞれ対応する最外層用タンクA1,A2、中間層用タンクB1,B2、最内層用タンクC1,C2に個別に貯蔵する。貯蔵中、各予熱ヒータ15により各部分層用材料a〜cは110℃に予熱される。両最外層用材料a1,a2と、中間層用材料b1,b2と、最内層用材料c1,c2とは、ドラム注入の直前に攪拌・脱気装置50内で、それぞれ混合攪拌および脱気される。
【0053】
次に、最外層用材料a側の分枝管24a,24bの開閉弁25だけを開くと、最外層用材料a1,a2が、最外層用タンクA1,B1から材料導入管24を通って材料投入部23に導入される。その後、真空ポンプ14を作動させることで、材料投入部23内の最外層用材料aが、短尺な孔23a、一方の軸部20の管路、投入孔17aを順次通過し、回転ドラム11の内部空間に吸引される。このとき、最外層用材料aの粘度は1mPa・s以下もしくは約1mPa・sで、電動モータ12による回転ドラム11の回転速度は400rpmである。この回転速度は、ドラム投入当初の粘度が1mPa・sで、かつ回転ドラム11の周側板16の内周側に付着した最外層用材料aに対して、ドラム周方向の厚さが12mmで略均一化する速度である。最外層用材料aは、回転ドラム11内で電気ヒータ13により加熱される。加熱時間が約10分を経過したとき、各熱電対37により検出された最外層用材料aの温度は約180℃で、かつ別の熱電対により検出された回転ドラム11内の気中温度は約140℃であり、熱硬化が略完了したと確認できる。
【0054】
続いて、一方の軸部20を通してドラム内に挿入された熱電対により、回転中の回転ドラム11内の気中温度を検出しながら、その検出温度に基づき、部分層用材料bのドラム内への投入タイミングを図る。すなわち、KEYENCE製の「WAVE THER MO 1000」を用いて、回転中のドラム内の気中温度を測定することで、部分層用材料aの硬化時反応熱を検出し、次に投入する中間層用材料bの投入タイミングをとる。
そして、所定の投入タイミングで部分層用材料bをドラム内に投入できる時期に、以下の操作を行う。具体的には、まず最外層用材料a1,a2側の分枝管24a,24bの開閉弁25を閉じ、中間層用材料b1,b2側の分岐管24c,24dの開閉弁25だけを開く。これにより、中間層用材料b1,b2が、中間層用タンクB1,B2から材料導入管24を通り、攪拌・脱気装置50を経て材料投入部23に導入される。
【0055】
その後、真空ポンプ14の作動で材料投入部23内の中間層用材料bが、短尺な孔23a、一方の軸部20の管路、投入孔17aを順次通過し、回転ドラム11の内部空間に吸引される。このとき、中間層用材料bの粘度は1mPa・s以上で、回転ドラム11の回転速度は450rpmである。この回転速度は、ドラム投入当初の粘度が1mPa・s以上で、かつ略硬化が終了した最外層用材料aの内周側に付着した中間層用材料bに対して、ドラム周方向の厚さが10mmで略均一化し、かつ中間層用材料b中のアルミナの微粉末が中間層用材料bの全域において略均一に分散した状態で保持される速度である。中間層用材料bは、回転ドラム11内で電気ヒータ13により加熱される。加熱時間が約5分を経過したとき、回転ドラム11内の気中温度は約160℃であり、材料の基礎実験データから最内層用材料cの熱硬化が略完了したと確認することができる。
【0056】
次いで、熱電対により回転中のドラム内の気中温度を測定しながら、部分層用材料bの硬化時反応熱を検出し、最内層用材料cの投入タイミングを図る。
そして、所定の投入タイミングで部分層用材料cを回転ドラム11内に投入できるように、以下の操作を行う。すなわち、まず中間層用材料b1,b2側の分枝管24e,24fの開閉弁25を閉じ、最内層用材料c1,c2側の分岐管24e,24fの開閉弁25だけを開く。これにより、最内層用材料c1,c2が、最内層用タンクC1,C2から材料導入管24を通り、攪拌・脱気装置50を経て材料投入部23に導入される。その後、真空ポンプ14を作動すると、材料投入部23内の最内層用材料cが回転ドラム11の内部空間に吸引される。
【0057】
このとき、最内層用材料cの粘度は1mPa・s以上、回転ドラム11の回転速度は500rpmである。この回転速度は、ドラム投入当初の粘度が1mPa・s以上で、かつ略硬化が終了した中間層用材料bの内周側に付着した最内層用材料cに対して、ドラム周方向の厚さが9mmで略均一化し、かつ最内層用材料c中のアルミナの微粉末が最内層用材料cの全域において略均一に分散した状態で保持される速度である。最内層用材料cは、回転ドラム11内で電気ヒータ13により加熱される。加熱時間が約10分経過したとき、最内層用材料cの温度は反応熱で160℃まで上昇し、熱硬化が略完了する。
こうして、半径方向の位置で特性(誘電性および熱伝導性)が異なる3層構造の円筒状傾斜機能材料Aが得られる(図5)。この円筒状傾斜機能材料Aは、全ての工程が短時間で行われ、かつ硬化時(反応熱を含む)温度にほとんど差がないため、一体構造と見なされる。
【0058】
以上説明したように、この実施例1では、まず液状熱硬化性高分子材料からなるマトリックスにセラミックスおよび金属などからなる充填剤の粒子(ここではアルミナ)を任意の割合で混合したものを含む部分層用材料a〜cを3つ作製する。その後、各部分層用材料a〜cがドラム内壁に均一に分布しかつ短時間で熱硬化するように加熱および回転が制御された回転ドラム11に各部分層用材料a〜cを順次注入し、回転ドラム11の内壁から回転ドラム11の回転中心軸方向へ連続的に熱硬化させる。こうして、意図的に特性傾斜範囲および特性傾斜分布が与えられた円筒状傾斜機能材料Aを製造するものである。
【0059】
このように、両部分層用材料b,cの全域で充填剤(アルミナ)が略均一に保たれる速度で回転ドラム11を回転させるように構成したので、複数種類の充填剤を使った場合だけでなく1種類の充填剤を使った場合でも、特性が半径方向に任意に傾斜した円筒状傾斜機能材料Aを、容易かつ安価に製造することができる。
また、特性が異なる各部分層用材料a〜cを、円筒状傾斜機能材料Aの最外層形成用のものから最内層形成用のものへと順に熱硬化させるようにしたので、充填剤の比重差を利用した従来法の場合のように、予め各種類の充填剤の粒度調整を厳密に行う必要がない。その結果、充填剤の粒度調整の許容度は大きくなる。しかも、最適な傾斜特性を有した円筒状傾斜機能材料Aを容易に製造することができる。
【0060】
さらに、傾斜材料製造装置10では、このように熱電対による温度信号に基づき、回転ドラム11内の各部分層用材料a〜cが未硬化状態または硬化状態であるかを把握する。そして、最外層用材料aに対してはその硬化特性を考慮し、各熱電対37によりドラム投入されたその最外層用材料aの温度調整を行う。その他の部分層用材料b,cについては、別の熱電対によるドラム内の気中の検出温度に基づき、部分層用材料b,cのドラム内への投入タイミングを図る。その結果、回転ドラム11に投入された部分層用材料a〜cを、その投入順に安定かつ確実に熱硬化させることができる。
さらにまた、回転ドラム11の周側板16を電気ヒータ13により加熱し、ドラム内の各部分層用材料a〜cを熱硬化させるように構成したので、例えば回転ドラム11の軸線上に配置された加熱体により加熱する場合に比べて、各部分層用材料a〜cの周方向において、各部分層用材料a〜cの厚さの均一性と、部分層用材料b,cにおけるアルミナの密度の均一性とをそれぞれ高めることができる。
【0061】
そして、回転ドラム11の一方の端板17とフランジ19aとの間、および、回転ドラム11の他方の端板18と連結管27のフランジ27aとの間に、それぞれ断熱板26を介在させたので、回転ドラム11の両端板17,18を通しては電気ヒータ13の熱が外部に伝達され難い。そのため、実施例1のように予熱ヒータ15を用いて予め熱硬化し易い温度(110℃)まで各部分層用材料a〜cを高めても、一方の軸部20の管路を通過中に各部分層用材料a〜cが熱硬化されてしまい、この管路を詰まらせるといったおそれが低減する。
【実施例2】
【0062】
次に、図6および図7を参照して、この発明の実施例2に係る円筒状傾斜機能材料製造方法およびその製造装置を説明する。
図6に示すように、実施例2に係る円筒状傾斜機能材料製造装置(以下、傾斜材料製造装置)10Aは、真空ポンプ14に代わる部分材料投入手段として、電動シリンダ14Aを採用し、その長尺なロッド14aを一方の軸部20の管路に出し入れさせることで、各部分層用材料a〜cを回転ドラム11内に圧入するものを採用した例である。
【0063】
また、実施例2では、最外層用材料aとして主剤100重量部に対してアルミナを100重量部混合した材料を使用し、ドラム投入後、最外層用材料aが硬化する前に、主剤100重量部に対してアルミナを20重量部混合した中間層用材料bを連続して注入し、さらに中間層用材料bの熱硬化が略完了した時に、主剤100重量部に対してアルミナが100重量部混合された材料を注入した例である。こうして得られた円筒状傾斜機能材料Xを図7に示す。
その他の構成、作用および効果は、実施例1から推測可能な範囲であるので、説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の実施例1に係る円筒状傾斜機能材料製造装置の縦断面図である。
【図2】図1のS2−S2断面図である。
【図3】この発明の実施例1に係る円筒状傾斜機能材料製造装置の斜視図である。
【図4】この発明の実施例1に係る円筒状傾斜機能材料製造装置に組み込まれた回転ドラムの拡大縦断面図である。
【図5】この発明の実施例1に係る円筒状傾斜機能材料製造装置により作製された円筒状傾斜機能材料の斜視図である。
【図6】この発明の実施例2に係る円筒状傾斜機能材料製造装置の縦断面図である。
【図7】この発明の実施例2に係る円筒状傾斜機能材料製造装置により作製された円筒状傾斜機能材料の斜視図である。
【符号の説明】
【0065】
10,10A 円筒状傾斜機能材料製造装置、
11 回転ドラム、
12 回転手段、
13 電気ヒータ(加熱手段)、
14 部分材料投入手段、
15 予熱ヒータ(予熱手段)、
16 周側板、
37 熱電対(温度センサ)、
A,X 円筒状傾斜機能材料、
a 最外層用材料(部分層用材料)、
b 中間層用材料(部分層用材料)、
c 最内層用材料(部分層用材料)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状熱硬化性高分子材料の特性を変更可能な充填剤を含む前記液状熱硬化性高分子材料を回転ドラムに投入後、該回転ドラムを回転させながら前記液状熱硬化性高分子材料を加熱して硬化させることで、半径方向の位置で特性が異なった円筒状傾斜機能材料を製造する円筒状傾斜機能材料製造方法であって、
添加量および組成のうち、少なくとも1つが異なった複数の前記充填剤から選出されたものを、前記液状熱硬化性高分子材料に個別に攪拌混合することで、特性が異なる複数の部分層用材料を作製し、
前記回転ドラムに、前記円筒状傾斜機能材料の最外層形成用のものから該円筒状傾斜機能材料の最内層形成用のものへと順に各部分層用材料を投入し、その際の前記最外層形成用のものを除く各部分層用材料のドラム投入時期は、直前に前記回転ドラムに投入された部分層用材料の熱硬化が完了した時点およびその前後とし、
前記回転ドラムの回転速度は、該回転ドラムに投入された部分層用材料中の充填剤が、前記部分層用材料に略均一に分散した状態で保持される速度である円筒状傾斜機能材料製造方法。
【請求項2】
前記回転ドラムは、前記液状熱硬化性高分子材料が投入される前に加熱され、
前記各部分層用材料の硬化は、個々の硬化特性に適した加熱温度および加熱時間にそれぞれ調整して行われる請求項1に記載の円筒状傾斜機能材料製造方法。
【請求項3】
各部分層材料は、対応する前記液状熱硬化性高分子材料の主剤と硬化剤とを分けた状態で、前記回転ドラムに投入される前に、予熱、攪拌および脱気される請求項1または請求項2に記載の円筒状傾斜機能材料製造方法。
【請求項4】
液状熱硬化性高分子材料の特性を変更可能な充填剤を含む前記液状熱硬化性高分子材料が投入される回転ドラムと、
該回転ドラムを回転させる回転手段と、
添加量および組成のうち、少なくとも1つが異なる充填剤を均一に分散させることで特性がそれぞれ異なった複数の部分層用材料を、前記円筒状傾斜機能材料の最外層形成用のものから該円筒状傾斜機能材料の最内層形成用のものへと順に前記回転ドラムに投入する部分材料投入手段と、
前記回転ドラムに投入された各部分層用材料を、それぞれ加熱して硬化させる加熱手段とを備え、
前記円筒状傾斜機能材料の最外層形成用のものを除く各部分層用材料のドラム投入時期を、それより1つ前に前記回転ドラムに投入された部分層用材料の熱硬化が完了した時点およびその前後とし、
前記回転手段による前記回転ドラムの回転速度を、該回転ドラムに投入された部分層用材料中の充填剤が、該部分層用材料に略均一に分散した状態で保持される速度とした円筒状傾斜機能材料製造装置。
【請求項5】
前記回転ドラムには、該回転ドラムに投入された各部分層用材料の温度を測定する複数の温度センサが配設され、
各温度センサからの検出信号に基づき、前記加熱手段による各部分層用材料の加熱温度、加熱時間をそれぞれ制御する請求項4に記載の円筒状傾斜機能材料製造装置。
【請求項6】
前記加熱手段は、前記回転ドラムの周側板を加熱するものである請求項4または請求項5に記載の円筒状傾斜機能材料製造装置。
【請求項7】
各部分層材料を、前記回転ドラムへの投入前に予熱する予熱手段を有した請求項4〜請求項6のうち、何れか1項に記載の円筒状傾斜機能材料製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−268988(P2007−268988A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100664(P2006−100664)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000196565)西日本電線株式会社 (57)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【Fターム(参考)】