円筒軸の製造方法
【課題】曲げ加工により全長にわたって高い真円度を有する円筒軸20を製造する。
【解決手段】金属板10を、金属板10の幅方向に曲げるプレス成形により加工して、長手方向に直交する断面形状の各々が円形の円筒軸20を製造する方法であって、金属板10の幅の50%以上を円弧状に曲げる予備工程と、互いに接近し予備工程上がりの金属板10を円筒状に成形する一対の金型50を用いて、長手方向に直交する断面における金型50の合わせ方向に平行な径が軸製品の仕上がり径よりも短く、金型50の合わせ方向と直交する金属板10の径が軸製品の仕上がり径よりも長い段階で加工を止める仕上げ前工程と、長手方向に直交する各断面において、軸製品の仕上がり径と同じ内径を有する半円形の内面形状を有して長手方向に延在する溝の内面を加工曲面とする一対の金型60を用い、金属板10の表面に溝の内面が接した状態で加工を終える仕上げ工程とを含む。
【解決手段】金属板10を、金属板10の幅方向に曲げるプレス成形により加工して、長手方向に直交する断面形状の各々が円形の円筒軸20を製造する方法であって、金属板10の幅の50%以上を円弧状に曲げる予備工程と、互いに接近し予備工程上がりの金属板10を円筒状に成形する一対の金型50を用いて、長手方向に直交する断面における金型50の合わせ方向に平行な径が軸製品の仕上がり径よりも短く、金型50の合わせ方向と直交する金属板10の径が軸製品の仕上がり径よりも長い段階で加工を止める仕上げ前工程と、長手方向に直交する各断面において、軸製品の仕上がり径と同じ内径を有する半円形の内面形状を有して長手方向に延在する溝の内面を加工曲面とする一対の金型60を用い、金属板10の表面に溝の内面が接した状態で加工を終える仕上げ工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒軸の製造方法に関する。より詳細には、金属板を曲げ加工して真円度の高い円筒軸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板を曲げ加工して円筒状の製品を製造する技術は数多くある。下記の特許文献1には、そのうちでも比較的薄い金属板を曲げて小径の管円筒を製造する技術が開示されている。特許文献1の記載によると、目的とする円筒状製品の内径に略等しい芯ロールと、芯ロールに押しつけられて連れ回る一対の押付ロールと、独特な経路で各ロールにかけ渡された案内ベルトによって、金属板を芯ロールに密着させながら成形することを提案している。また、これにより、樽型変形のない成形が行える旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−245721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、加工応力の残留分布による変形、加工により生じた肉厚分布等により、回転軸として使用できるまでの高い真円度を有する長尺円筒軸製品はまだ製造されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態によると、金属板を、金属板の幅方向に曲げるプレス成形により加工して、長手方向に直交する断面形状の各々が円筒形の軸製品を製造する方法であって、長手方向に直交する断面において金属板の幅の50%以上を円弧状に曲げる予備工程と、互いに接近し予備工程上がりの金属板を円筒状に加工する一対の金型を用いて、長手方向に直交する断面における金型の合わせ方向の径が軸製品の仕上がり径よりも長く、金型の合わせ方向と直交する予備工程上がりの金属板の径が軸製品の仕上がり径よりも短い段階で加工を止める仕上げ前工程と、互いに接近し仕上げ前工程上がりの金属板を円筒状に加工する一対の金型であって、前記一対の金型を当接させたときに、長手方向に直交する断面における金型の合わせ方向の径が仕上がり径よりも長く、金型の合わせ方向と直交する径が仕上がり径よりも短い加工面溝を形成する金型を用い、仕上げ前工程上がりの金属板の表面に前記溝の内面が接した状態で加工を終える仕上げ工程とを含む円筒軸の製造方法が提供される。
【0006】
また、ひとつの実施形態においては、上記製造方法の仕上げ工程において、金型の合わせ方向の径が軸製品の仕上がり径よりも短く、金型の合わせ方向に直交する径が軸製品の仕上がり径よりも短い金型を用い、金属板のスプリングバックを相殺して仕上げ前工程上がりの長手方向に直交する断面における形状を円筒形に仕上げる。これにより、最終製品における円筒軸の真円率を向上させることができる。
【0007】
また、他の実施形態においては、上記製造方法の仕上げ工程で用いられる金型において、加工曲面と加工曲面に隣接する面との境界が鋭利な角を有する。これにより、曲げ加工時に加工曲面と加工曲面に隣接する面との境界隙間へ金属板の変形が生じることがなく、円筒軸の表面における真円率が向上される。
【0008】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明に係る円筒軸20の材料となる金属板10の形状を示す図。
【図2】金属板10により形成された円筒軸20の形状を部分的に示す図。
【図3】金属板10に対するはじめの曲げ加工で使用する金型30を示す断面図である。
【図4】図3に示す金型30で曲げ加工された金属板10の断面形状を示す図である。
【図5】金属板10に対する次の曲げ加工に使用する金型40を示す断面図である。
【図6】図5に示す金型40で曲げ加工された金属板10の断面形状を示す図である。
【図7】金属板10に対する最後の曲げ加工に使用する金型50を示す断面図である。
【図8】金型50で加工した後の金属板10の形状を示す断面図である。
【図9】仕上げ工程において使用した金型60のダイ62およびパンチ64の形状を示す断面図である。
【図10】金型60に半完成品の円筒軸20をセットした状態を示す図である。
【図11】円筒軸20をセットした金型60においてパンチ64をダイ62に当接するまで降下させた状態を示す図である。
【図12】仕上げ工程を実施した後に、円筒軸20に加工応力が作用しなくなるまでパンチ64を上昇させた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、曲げ加工して円筒軸20にする前の金属板10の形状を示す図である。金属板10には、その端部から突出する凸部16が間隔をおいて複数形成されている。また、他方の端部にも、凹18が間隔をおいて複数形成されている。更に凸部16の各々は凹部18の各々と、金属板10の長手方向に対して直交方向の同じ位置に配置されている。
【0012】
図2は、上記のような金属板10を、後述する加工により円筒軸20としたものを部分的に拡大して示す図である。同図に示すように、円筒軸20に成形された状態では、これら凸部16および凹部18が嵌合して、接合部が開くことを防止している。従って、この円筒軸20は、溶接、接着等の工程なしに、そのまま軸製品として利用できる。
【0013】
図3は、上記金属板10に対するはじめの曲げ加工に使用する金型30の形状を示す。同図に示すように、金型30は、互いに相補的な形状の加工面31、33を有するダイ32とパンチ34とを備えている。ダイ32およびパンチ34の加工面は、中央付近が平坦である一方、両端部は約90度の円弧状断面形状を有する。
【0014】
また、この金型30は、上記の断面形状を保ったまま、紙面の奥行き方向に延在している。更に、このダイ32およびパンチ34の加工面は、金属板10の一方の端部12に形成された凸部16の先端から他方の端部14までの長さと同じ長さを有している。以上のような構造の金型30に対して、前記金属板10は、その長手方向が図面の奥行き方向と一致するように挿入される。
【0015】
図4は、図3に示す金型30で曲げ加工された金属板10の断面形状を示す図である。同図に示すように、金属板10の短辺方向の両端は曲げ加工を受け、内角が約90°の円弧状断面を有する被曲げ加工部22、24を形成している。
【0016】
図5は、図4に示した金属板10に対する次の曲げ加工に使用する金型40の形状を示す図である。同図に示すように、この金型40は、ダイ42とパンチ44とを備えている。ここで、ダイ42は、円弧状の断面を有し、上方に向かって開いた加工面41を備えている。これに対して、パンチ44は、円弧状の断面を有する加工面43を下端に備えている。更に、加工面43の上方には、曲げ加工によって上昇した金属板10の端部14、12を避けるために、加工面43よりも幅の狭い逃げが形成されている。
【0017】
図6は、図5に示した金型40で曲げ加工された金属板10の断面形状を示す図である。同図に示すように、金属板10は、その端部14から凸部16の先端までの中央が、金型40の加工面41、43の中心と一致するように装入されて曲げ加工されている。
【0018】
また、金型30により円弧状に曲げ加工された被曲げ加工部22、24に加え、やはり円弧状に曲げ加工された新規な被曲げ加工部26が形成されている。一方、被曲げ加工部22および被曲げ加工部26の間並びに被曲げ加工部24および被曲げ加工部26の間には、それぞれ、非曲げ加工部21、23が残っている。
【0019】
図7は、図6に示した形状の金属板10に対する仕上げ前工程で使用する金型50に装着されたダイ52およびパンチ54の形状を示す断面図である。同図に示すように、この金型50は、ダイ52およびパンチ54に加えて、芯型56を含んで形成されている。ダイ52は、その上面から僅かに持ち上げられて形成された、円弧状断面形状を有する加工面51を備えている。これに対して、パンチ54は、その下端面から上方に退避した位置に、やはり円弧状断面形状を有する加工面53を備えている。
【0020】
また、加工面51の外側の側部と、パンチ54の加工面53以外の先端部とは、互いに相補的な形状をしており、パンチ54を降下させたときに、両者が衝突しないようになされている。なお、芯型56は、後述するように、最終的に得られる円筒軸20の内径よりも僅かに小さな外径を有する丸棒であり、金型40において曲げ加工された金属板10の内側にセットされる。
【0021】
上記のような金型50に対して、金型40ですでに曲げ加工された金属板10は、まず、被曲げ加工部26の外側が加工面51の内部に当接するように、ダイ52に装入される。次に、金属板10の内部に、芯型56が置かれる。続いて、パンチ54を降下させると、金属板10の端部14および凸部16を含む端部12が互いに近づき、やがて、凸部16が凹部18に嵌入する。更に、パンチ54を圧下すると、凸部16および凹部18を含む端部12、14の近傍は、パンチ54の加工面53と芯型56との間で、全体で円弧をなすように成形される。
【0022】
同時に、芯型56の下側では、芯型56とダイ52の加工面51との間で、非曲げ加工部21、23を含む金属板10が曲げ加工される。従って、金型50による曲げ加工で、金属板10は、全体で環状の断面を有する円筒となる。
【0023】
図8は、上記仕上げ前工程における、金型50による金属板10の加工結果を示す図である。同図に示すように、本実施例では、金属板10の合わせ目28が完全に閉じ切る前に加工を止めている。このため、この円筒軸20の断面形状は、水平方向の径よりも垂直方向の径が大きい。また、水平方向の径は、最終的な軸製品の径よりも短く、垂直方向の径は、最終的な軸製品の径よりも長い。
【0024】
図9は、本実施例の仕上げ工程において使用する金型60の構造を示す断面図であり、軸製品の長手方向に直交する断面における、パンチ64、ダイ62および芯型56の形状を示す。同図に示すように、ここで用いるパンチ64およびダイ62は、加工面61、63の外側に平坦な面を有する。また、各加工面61、63と平坦な面の境界は鋭利な角部を形成している。従って、パンチ64を圧下し切ったときに、平坦面どうしが密着すると共に、加工面61、63は隙間なく閉じた面を形成する。なお、仕上げ工程では、材料のスプリングバックを考慮して若干過剰に加工するので、パンチ64およびダイ62が当接したときに、加工面61、63は、軸製品の仕上がり寸法よりも水平方向に長く垂直方向に短い内径を有する。
【0025】
図10は、図9に示す金型60に、図8に示した仕上げ前工程後の円筒軸20をセットした状態を説明する図である。同図に示すように、この段階では、円筒軸20の径は垂直方向に長く、パンチ64およびダイ62の加工面63、61の最奥部に最初に接触する。
【0026】
図11は、図10に示したようにセットした金型60においてパンチ64を降下させ、仕上げ工程を実施している状態を示す。同図に示すように、パンチ64が降下し切って、パンチ64およびダイ62が相互に当接したとき、円筒軸20は、水平方向の径が垂直方向の径よりも長くなるまで変形されている。
【0027】
図12は、金型60において、円筒軸20に加工応力が作用しなくなるまでパンチ64を上昇させた状態を示す図である。同図に示すように、円筒軸20は自身のスプリングバックにより正円の断面形状を形成している。
【0028】
上記のような一連の工程により、厚さ0.5mmの亜鉛めっき鋼板を用いて、長さ300mm、外径5mmの円筒軸20を作製した。金型50では高精度な真円度を実現させ難いので、金型50を用いた加工は円筒軸20に部分的な膨らみが生じない範囲に止めた。従って、この段階では円筒軸20は完全に閉じ切らない。続いて、金型60を用いて仕上げ工程を実施したところ、局部的な膨らみが生じることなく、真円度の高い円筒軸20を作製できた。また、この円筒軸20は反りも少なく、真直性も高かった。これにより、仕上げ工程の導入が正確な形状の円筒軸20製造に寄与することが確認された。
【0029】
以上詳細に説明した通り、仕上げ加工工程を加えることにより、金属板10を曲げ加工して製造した中空の円筒軸20でありながら、高い真円度と直線性を有するものが製造できる。この円筒軸20は、中実な金属製丸棒材に代替して使用することができる。従って、部品精度の限界から削り出しの丸棒材を使用せざるを得なかった多くの用途において材料コストを低減させることができる。また、この円筒軸20は中実材よりも軽量なので、これを用いることにより、機器の重量はもちろん、動作時のフリクションロスも低減させることができる。
【0030】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0031】
10…金属板、12,14…端部、16…凸部、18…凹部、20…円筒軸、21,23…非曲げ加工部、22,24,26…被曲げ加工部、28…合わせ目、30,40,50,60…金型、32,42,52,62…ダイ、31,33,41,43,51,53,61,63…加工面、34,44,54,64…パンチ、56…芯型。
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒軸の製造方法に関する。より詳細には、金属板を曲げ加工して真円度の高い円筒軸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板を曲げ加工して円筒状の製品を製造する技術は数多くある。下記の特許文献1には、そのうちでも比較的薄い金属板を曲げて小径の管円筒を製造する技術が開示されている。特許文献1の記載によると、目的とする円筒状製品の内径に略等しい芯ロールと、芯ロールに押しつけられて連れ回る一対の押付ロールと、独特な経路で各ロールにかけ渡された案内ベルトによって、金属板を芯ロールに密着させながら成形することを提案している。また、これにより、樽型変形のない成形が行える旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−245721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、加工応力の残留分布による変形、加工により生じた肉厚分布等により、回転軸として使用できるまでの高い真円度を有する長尺円筒軸製品はまだ製造されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態によると、金属板を、金属板の幅方向に曲げるプレス成形により加工して、長手方向に直交する断面形状の各々が円筒形の軸製品を製造する方法であって、長手方向に直交する断面において金属板の幅の50%以上を円弧状に曲げる予備工程と、互いに接近し予備工程上がりの金属板を円筒状に加工する一対の金型を用いて、長手方向に直交する断面における金型の合わせ方向の径が軸製品の仕上がり径よりも長く、金型の合わせ方向と直交する予備工程上がりの金属板の径が軸製品の仕上がり径よりも短い段階で加工を止める仕上げ前工程と、互いに接近し仕上げ前工程上がりの金属板を円筒状に加工する一対の金型であって、前記一対の金型を当接させたときに、長手方向に直交する断面における金型の合わせ方向の径が仕上がり径よりも長く、金型の合わせ方向と直交する径が仕上がり径よりも短い加工面溝を形成する金型を用い、仕上げ前工程上がりの金属板の表面に前記溝の内面が接した状態で加工を終える仕上げ工程とを含む円筒軸の製造方法が提供される。
【0006】
また、ひとつの実施形態においては、上記製造方法の仕上げ工程において、金型の合わせ方向の径が軸製品の仕上がり径よりも短く、金型の合わせ方向に直交する径が軸製品の仕上がり径よりも短い金型を用い、金属板のスプリングバックを相殺して仕上げ前工程上がりの長手方向に直交する断面における形状を円筒形に仕上げる。これにより、最終製品における円筒軸の真円率を向上させることができる。
【0007】
また、他の実施形態においては、上記製造方法の仕上げ工程で用いられる金型において、加工曲面と加工曲面に隣接する面との境界が鋭利な角を有する。これにより、曲げ加工時に加工曲面と加工曲面に隣接する面との境界隙間へ金属板の変形が生じることがなく、円筒軸の表面における真円率が向上される。
【0008】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明に係る円筒軸20の材料となる金属板10の形状を示す図。
【図2】金属板10により形成された円筒軸20の形状を部分的に示す図。
【図3】金属板10に対するはじめの曲げ加工で使用する金型30を示す断面図である。
【図4】図3に示す金型30で曲げ加工された金属板10の断面形状を示す図である。
【図5】金属板10に対する次の曲げ加工に使用する金型40を示す断面図である。
【図6】図5に示す金型40で曲げ加工された金属板10の断面形状を示す図である。
【図7】金属板10に対する最後の曲げ加工に使用する金型50を示す断面図である。
【図8】金型50で加工した後の金属板10の形状を示す断面図である。
【図9】仕上げ工程において使用した金型60のダイ62およびパンチ64の形状を示す断面図である。
【図10】金型60に半完成品の円筒軸20をセットした状態を示す図である。
【図11】円筒軸20をセットした金型60においてパンチ64をダイ62に当接するまで降下させた状態を示す図である。
【図12】仕上げ工程を実施した後に、円筒軸20に加工応力が作用しなくなるまでパンチ64を上昇させた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、曲げ加工して円筒軸20にする前の金属板10の形状を示す図である。金属板10には、その端部から突出する凸部16が間隔をおいて複数形成されている。また、他方の端部にも、凹18が間隔をおいて複数形成されている。更に凸部16の各々は凹部18の各々と、金属板10の長手方向に対して直交方向の同じ位置に配置されている。
【0012】
図2は、上記のような金属板10を、後述する加工により円筒軸20としたものを部分的に拡大して示す図である。同図に示すように、円筒軸20に成形された状態では、これら凸部16および凹部18が嵌合して、接合部が開くことを防止している。従って、この円筒軸20は、溶接、接着等の工程なしに、そのまま軸製品として利用できる。
【0013】
図3は、上記金属板10に対するはじめの曲げ加工に使用する金型30の形状を示す。同図に示すように、金型30は、互いに相補的な形状の加工面31、33を有するダイ32とパンチ34とを備えている。ダイ32およびパンチ34の加工面は、中央付近が平坦である一方、両端部は約90度の円弧状断面形状を有する。
【0014】
また、この金型30は、上記の断面形状を保ったまま、紙面の奥行き方向に延在している。更に、このダイ32およびパンチ34の加工面は、金属板10の一方の端部12に形成された凸部16の先端から他方の端部14までの長さと同じ長さを有している。以上のような構造の金型30に対して、前記金属板10は、その長手方向が図面の奥行き方向と一致するように挿入される。
【0015】
図4は、図3に示す金型30で曲げ加工された金属板10の断面形状を示す図である。同図に示すように、金属板10の短辺方向の両端は曲げ加工を受け、内角が約90°の円弧状断面を有する被曲げ加工部22、24を形成している。
【0016】
図5は、図4に示した金属板10に対する次の曲げ加工に使用する金型40の形状を示す図である。同図に示すように、この金型40は、ダイ42とパンチ44とを備えている。ここで、ダイ42は、円弧状の断面を有し、上方に向かって開いた加工面41を備えている。これに対して、パンチ44は、円弧状の断面を有する加工面43を下端に備えている。更に、加工面43の上方には、曲げ加工によって上昇した金属板10の端部14、12を避けるために、加工面43よりも幅の狭い逃げが形成されている。
【0017】
図6は、図5に示した金型40で曲げ加工された金属板10の断面形状を示す図である。同図に示すように、金属板10は、その端部14から凸部16の先端までの中央が、金型40の加工面41、43の中心と一致するように装入されて曲げ加工されている。
【0018】
また、金型30により円弧状に曲げ加工された被曲げ加工部22、24に加え、やはり円弧状に曲げ加工された新規な被曲げ加工部26が形成されている。一方、被曲げ加工部22および被曲げ加工部26の間並びに被曲げ加工部24および被曲げ加工部26の間には、それぞれ、非曲げ加工部21、23が残っている。
【0019】
図7は、図6に示した形状の金属板10に対する仕上げ前工程で使用する金型50に装着されたダイ52およびパンチ54の形状を示す断面図である。同図に示すように、この金型50は、ダイ52およびパンチ54に加えて、芯型56を含んで形成されている。ダイ52は、その上面から僅かに持ち上げられて形成された、円弧状断面形状を有する加工面51を備えている。これに対して、パンチ54は、その下端面から上方に退避した位置に、やはり円弧状断面形状を有する加工面53を備えている。
【0020】
また、加工面51の外側の側部と、パンチ54の加工面53以外の先端部とは、互いに相補的な形状をしており、パンチ54を降下させたときに、両者が衝突しないようになされている。なお、芯型56は、後述するように、最終的に得られる円筒軸20の内径よりも僅かに小さな外径を有する丸棒であり、金型40において曲げ加工された金属板10の内側にセットされる。
【0021】
上記のような金型50に対して、金型40ですでに曲げ加工された金属板10は、まず、被曲げ加工部26の外側が加工面51の内部に当接するように、ダイ52に装入される。次に、金属板10の内部に、芯型56が置かれる。続いて、パンチ54を降下させると、金属板10の端部14および凸部16を含む端部12が互いに近づき、やがて、凸部16が凹部18に嵌入する。更に、パンチ54を圧下すると、凸部16および凹部18を含む端部12、14の近傍は、パンチ54の加工面53と芯型56との間で、全体で円弧をなすように成形される。
【0022】
同時に、芯型56の下側では、芯型56とダイ52の加工面51との間で、非曲げ加工部21、23を含む金属板10が曲げ加工される。従って、金型50による曲げ加工で、金属板10は、全体で環状の断面を有する円筒となる。
【0023】
図8は、上記仕上げ前工程における、金型50による金属板10の加工結果を示す図である。同図に示すように、本実施例では、金属板10の合わせ目28が完全に閉じ切る前に加工を止めている。このため、この円筒軸20の断面形状は、水平方向の径よりも垂直方向の径が大きい。また、水平方向の径は、最終的な軸製品の径よりも短く、垂直方向の径は、最終的な軸製品の径よりも長い。
【0024】
図9は、本実施例の仕上げ工程において使用する金型60の構造を示す断面図であり、軸製品の長手方向に直交する断面における、パンチ64、ダイ62および芯型56の形状を示す。同図に示すように、ここで用いるパンチ64およびダイ62は、加工面61、63の外側に平坦な面を有する。また、各加工面61、63と平坦な面の境界は鋭利な角部を形成している。従って、パンチ64を圧下し切ったときに、平坦面どうしが密着すると共に、加工面61、63は隙間なく閉じた面を形成する。なお、仕上げ工程では、材料のスプリングバックを考慮して若干過剰に加工するので、パンチ64およびダイ62が当接したときに、加工面61、63は、軸製品の仕上がり寸法よりも水平方向に長く垂直方向に短い内径を有する。
【0025】
図10は、図9に示す金型60に、図8に示した仕上げ前工程後の円筒軸20をセットした状態を説明する図である。同図に示すように、この段階では、円筒軸20の径は垂直方向に長く、パンチ64およびダイ62の加工面63、61の最奥部に最初に接触する。
【0026】
図11は、図10に示したようにセットした金型60においてパンチ64を降下させ、仕上げ工程を実施している状態を示す。同図に示すように、パンチ64が降下し切って、パンチ64およびダイ62が相互に当接したとき、円筒軸20は、水平方向の径が垂直方向の径よりも長くなるまで変形されている。
【0027】
図12は、金型60において、円筒軸20に加工応力が作用しなくなるまでパンチ64を上昇させた状態を示す図である。同図に示すように、円筒軸20は自身のスプリングバックにより正円の断面形状を形成している。
【0028】
上記のような一連の工程により、厚さ0.5mmの亜鉛めっき鋼板を用いて、長さ300mm、外径5mmの円筒軸20を作製した。金型50では高精度な真円度を実現させ難いので、金型50を用いた加工は円筒軸20に部分的な膨らみが生じない範囲に止めた。従って、この段階では円筒軸20は完全に閉じ切らない。続いて、金型60を用いて仕上げ工程を実施したところ、局部的な膨らみが生じることなく、真円度の高い円筒軸20を作製できた。また、この円筒軸20は反りも少なく、真直性も高かった。これにより、仕上げ工程の導入が正確な形状の円筒軸20製造に寄与することが確認された。
【0029】
以上詳細に説明した通り、仕上げ加工工程を加えることにより、金属板10を曲げ加工して製造した中空の円筒軸20でありながら、高い真円度と直線性を有するものが製造できる。この円筒軸20は、中実な金属製丸棒材に代替して使用することができる。従って、部品精度の限界から削り出しの丸棒材を使用せざるを得なかった多くの用途において材料コストを低減させることができる。また、この円筒軸20は中実材よりも軽量なので、これを用いることにより、機器の重量はもちろん、動作時のフリクションロスも低減させることができる。
【0030】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0031】
10…金属板、12,14…端部、16…凸部、18…凹部、20…円筒軸、21,23…非曲げ加工部、22,24,26…被曲げ加工部、28…合わせ目、30,40,50,60…金型、32,42,52,62…ダイ、31,33,41,43,51,53,61,63…加工面、34,44,54,64…パンチ、56…芯型。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を、幅方向に曲げるプレス成形により加工して、長手方向に直交する断面の各々の形状が円筒形の軸製品を製造する方法であって、
長手方向に直交する断面において金属板の幅の50%以上を円弧状に曲げる予備工程と、
互いに接近し予備工程上がりの金属板を円筒状に加工する一対の金型を用いて、長手方向に直交する断面における金型の合わせ方向の径が円筒形の軸製品の仕上がり径よりも短く、金型の合わせ方向と直交する予備工程上がりの金属板の径が仕上がり径よりも長い段階で加工を止める仕上げ前工程と、
互いに接近し仕上げ前工程上がりの金属板を円筒状に加工する一対の金型であって、前記一対の金型を当接させたときに、長手方向に直交する断面における金型の合わせ方向の径が仕上がり径よりも長く、金型の合わせ方向と直交する径が仕上がり径よりも短い加工面溝を形成する金型を用い、仕上げ前工程上がりの金属板の表面に前記溝の内面が接した状態で加工を終える仕上げ工程と
を含む円筒軸の製造方法。
【請求項2】
仕上げ工程において、金型の合わせ方向の径が円筒形の軸製品の仕上がり径よりも長く、金型の合わせ方向に直交する径が円筒形の軸製品の仕上がり径よりも短い加工面を形成する金型を用い、前記金属板のスプリングバックを相殺して仕上げ前工程上がりの金属板の長手方向に直交する断面における形状を円筒形に仕上げる請求項1に記載の円筒軸の製造方法。
【請求項3】
仕上げ工程で用いられる前記金型において、加工曲面と加工曲面に隣接する面との境界が鋭利な角をなす請求項1または請求項2に記載の円筒軸の製造方法。
【請求項4】
仕上げ工程において、前記金型の加工曲面の縁部が相互に密着する請求項1または請求項2に記載の円筒軸の製造方法。
【請求項1】
金属板を、幅方向に曲げるプレス成形により加工して、長手方向に直交する断面の各々の形状が円筒形の軸製品を製造する方法であって、
長手方向に直交する断面において金属板の幅の50%以上を円弧状に曲げる予備工程と、
互いに接近し予備工程上がりの金属板を円筒状に加工する一対の金型を用いて、長手方向に直交する断面における金型の合わせ方向の径が円筒形の軸製品の仕上がり径よりも短く、金型の合わせ方向と直交する予備工程上がりの金属板の径が仕上がり径よりも長い段階で加工を止める仕上げ前工程と、
互いに接近し仕上げ前工程上がりの金属板を円筒状に加工する一対の金型であって、前記一対の金型を当接させたときに、長手方向に直交する断面における金型の合わせ方向の径が仕上がり径よりも長く、金型の合わせ方向と直交する径が仕上がり径よりも短い加工面溝を形成する金型を用い、仕上げ前工程上がりの金属板の表面に前記溝の内面が接した状態で加工を終える仕上げ工程と
を含む円筒軸の製造方法。
【請求項2】
仕上げ工程において、金型の合わせ方向の径が円筒形の軸製品の仕上がり径よりも長く、金型の合わせ方向に直交する径が円筒形の軸製品の仕上がり径よりも短い加工面を形成する金型を用い、前記金属板のスプリングバックを相殺して仕上げ前工程上がりの金属板の長手方向に直交する断面における形状を円筒形に仕上げる請求項1に記載の円筒軸の製造方法。
【請求項3】
仕上げ工程で用いられる前記金型において、加工曲面と加工曲面に隣接する面との境界が鋭利な角をなす請求項1または請求項2に記載の円筒軸の製造方法。
【請求項4】
仕上げ工程において、前記金型の加工曲面の縁部が相互に密着する請求項1または請求項2に記載の円筒軸の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−166133(P2009−166133A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113306(P2009−113306)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【分割の表示】特願2006−26035(P2006−26035)の分割
【原出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【分割の表示】特願2006−26035(P2006−26035)の分割
【原出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]