説明

再懸濁による底質浄化工法

【課題】底質を再懸濁して比表面積の大きい細かい粒子を分級し、該細かい粒子に吸着した汚染物質を除去することで大掛かりな設備を不要として効率的に底質改善を行うようにした再懸濁による底質浄化工法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は上記目的を達成するために、汚染された閉鎖水域で底質2を再懸濁させ、粒径の大きさによる沈降速度の差を利用した分級を行い、前記底質2に含まれる粒子のうち小さい方から粒径分布と汚染状況に応じた所要%の質量を除去することにより、汚染の原因となる有害物質を80〜90%除去する再懸濁による底質浄化工法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再懸濁による底質浄化工法に関するものであり、特に、底質を再懸濁して比表面積の大きい細かい粒子を分級し、該細かい粒子に吸着した汚染物質を除去することで大掛かりな設備を不要として効率的に底質改善を行うようにした再懸濁による底質浄化工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
閉鎖水域(湖沼等)の汚染が顕在化している現状において、その対策が進まないのは社会的ニーズが無いわけではなく、技術的に効果のある工法が無いためと思われる。その証拠としては、これまで問題視されてきた多くの閉鎖水域における浄化対策が必ずしも成果を上げていないことが挙げられる。これまで行われた対策は、浚渫、覆砂、エアレーションによる好気化、菌植え付けによる有機物分解、水生植物による栄養塩吸収、貝類などによる栄養塩消費等である。これらについて、一定の効果があったとも思われるが、莫大な経費を要する工法にしては、必ずしも顕著な効果があったとは言えない。
【0003】
これに関連する従来技術として、例えば次のような浚渫底泥の処理方法が知られている。この従来技術は、浚渫底泥に対して、かかる底泥の1リットル当り、5mg/min以上の割合でオゾンを接触させることにより底泥中に含まれるフミン物質(有機物質)を分解し、この後、オゾン処理が施された底泥を固液分離し、得られた固形物を水底に戻す一方、分離液に対してはさらにオゾン処理を施し、水底ないしは水域に戻すようにしている。
【0004】
そして、このような浚渫底泥の処理方法を行うために次のような構成の浚渫底泥の処理装置を使用している。即ち、船舶上の前後に第1と第2の2つのオゾン処理装置が設置され、該第1と第2のオゾン処理装置の間に固液分離装置が設置されている。前記各オゾン処理装置には、オゾン発生器及び攪拌機等が装備され、さらに第1のオゾン処理装置に対しては、水底から浚渫によって揚泥するための揚泥ポンプが付設されている。また、前記固液分離装置には、改質泥貯留槽と分離液槽とが併設され、該改質泥貯留槽内に改質泥攪拌機が設けられるとともに前記分離液槽上に固液分離装置本体が設置されている。この固液分離装置本体に対しては、改質泥から生じた反応処理物を交互に供給するための2基の反応槽が設けられ、さらに該2基の反応槽のそれぞれに凝集固化剤を供給するための凝集固化剤供給機が各別に設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−18223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の従来技術においては、オゾン処理が施された底泥を固液分離し、得られた固形物(浚渫土)は水底に戻す一方、分離液に対してはさらにオゾン処理を施して水域に戻すようにしている。しかしながら、浚渫底泥の処理にかなり大掛かりな装置を必要としている。
【0007】
そこで、底質中の汚染物質の除去を比表面積が大きく吸着できる汚染物質の量が多い細かい粒子を除去することで効率的に底質改善を行い、底質を再懸濁し粒子の大きさによる水中での沈降速度差を用いて除去する細かい粒子の分級を行うことで大掛かりな設備を不
要とし、細かい粒子に吸着した汚染物質を除去することで底質の90%程度は元に戻すことにより経済性を有し、底質の再懸濁を基本的にはエアーを混合した水ジェットにより行うことで細かい粒子を除去した後の再堆積物はエアレーション効果により好気化の促進が行われて覆砂と同じ効果を奏するとともに水質改善(好気化)も同時に行えるようにし、浚渫に比べて再懸濁による底質の除去土量は1/10程度であることから浚渫土の処分費を大幅に低減することを可能とし、騒音や振動を伴う装置の使用を不要として無振動・低騒音にて施工を可能とするために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、汚染された閉鎖水域で底質を再懸濁させ、粒径の大きさによる沈降速度の差を利用した分級を行い、前記底質に含まれる粒子のうち小さい方から粒径分布と汚染状況に応じた所要%の質量を除去することにより、汚染の原因となる有害物質を80〜90%除去する再懸濁による底質浄化工法を提供する。
【0009】
この構成によれば、底質には沈降した有機物主体の細粒土が多く含まれ、これに前記細粒土よりも粗粒な砂や礫等も含まれるが、これらの粗粒には吸着物が少なく汚染も殆どない。このため、底質改善の上で問題となるのは有機物主体の細粒土といえる。この細粒土、即ち細かい粒子は比表面積(例えば1g当たりの表面積)が大きく、その分吸着できる有害物質の量が多い。また、粘土の範疇にある粘土鉱物はその表面に電荷を有しており、重金属などの陽イオンを電気的に吸着する性質を持っている。このため、一般に粘土鉱物を多く含む細粒土は多量の有害物質を含んでいる。このことから、底質から有機物を含む細かい粒子を取り除くことで底質改善を行うことが可能である。
【0010】
前述のように、細かい粒子は比表面積が大きいことから、ある粒径分布を有する底質について、細かい方から質量で10〜15%程度の所要%の細粒土全体の表面積は、その底質が持つ総面積の約80〜90%の表面積を占めることになる。即ち、吸着や付着が表面積に依存すると考えると、底質に含まれる粒子のうち小さい方から粒径分布と汚染状況に応じて10〜15%程度の所要%の質量を除去することで、吸着物質の80〜90%が取り除けることになる。
【0011】
そこで、底質にエアーを取り込んだジェット水を吹付ける等の再懸濁操作により、該底質を攪乱する。このとき、エアーリフター効果により粒径が細かい粒子や比重が小さい有機粒子は上部まで動き、大きな粒径を持つ粒子は動く高さが限られる。このような沈降速度の差を利用した分級を行い、分級された細粒分をポンプで吸い上げ、水上で濾過する等の手段により汚染の原因となる有害物質を除去する。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、上記底質に含まれる粒子のうち小さい方から除去する上記質量は、ほぼ10〜15%である再懸濁による底質浄化工法を提供する。
【0013】
この構成によれば、底質には粒径が0.005mm程度の有機物主体の細粒土が多く含まれ、この他に該有機物主体の細粒土よも粒径の大きい砂や礫等が含まれる。細かい粒子は比表面積が大きいことから、ある粒径分布を有する底質について、質量で小さい方から10〜15%程度の有機物主体の細粒土全体の表面積は、その底質が持つ総面積の約80〜90%の表面積を占める。したがって、吸着や付着が表面積に依存すると考えると、底質に含まれる粒子のうち小さい方からほぼ10〜15%の質量を除去することで、吸着物質の80〜90%が取り除けることになる。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、水中で分級された細粒分をポンプで吸い上げ、水上にて砂濾過、フィルター濾過、袋濾過のうちの少なくともいずれかの濾過手段により除去すべき質量分を濾過し、濾過後の水分は上記閉鎖水域に戻す再懸濁による底質浄化工法を提供する。
【0015】
この構成によれば、水中で沈降速度の差を利用して分級された細粒分はポンプで吸い上げられ、水上で濾過手段により濾過されて除去される。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1,2又は3記載の発明において、上記底質の再懸濁は、インジェクターによりエアーを取込んだジェット水を前記底質に吹付け該底質の攪乱を行う再懸濁による底質浄化工法を提供する。
【0017】
この構成によれば、再懸濁は、底質に対しエアーを取り込んだジェット水を吹付けることで該底質が攪乱され、エアーリフター効果により有機物を多く含む細粒分が上方に浮遊することで行われる。このとき、ジェット水に取り込まれたエアーは嫌気化している底質を好気化(底質改善)することにも寄与する。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、上記底質の再懸濁の際に、機械式攪拌翼による底質の攪拌を併用する再懸濁による底質浄化工法を提供する。
【0019】
この構成によれば、底質に対しエアーを取り込んだジェット水を吹付けて再懸濁を行う際に、機械式攪拌翼により底質を掘削・攪拌することで、エアーリフター効果により有機物を多く含む細粒分が、より一層効果的に上方に浮遊する。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項4記載のの発明において、上記底質の再懸濁の際に、リッパーの索引による底質の攪拌を併用する再懸濁による底質浄化工法を提供する。
【0021】
この構成によれば、底質に対しエアーを取り込んだジェット水を吹付けて再懸濁を行う際に、リッパーの索引により底質を掘削・攪拌することで、エアーリフター効果により有機物を多く含む細粒分が、より一層効果的に上方に浮遊する。
【発明の効果】
【0022】
請求項1記載の発明は、底質に含まれる粒子のうち小さい方から10〜15%程度の所要%の質量を除去することで、汚染物質の80〜90%を取り除くことができて効率的に低質改善を行うことができる。底質にエアーを取り込んだジェット水を吹付ける等の再懸濁操作により該底質を攪乱し沈降速度の差を利用した分級を行うことで、大掛かりな設備を不要として有害物質を除去することができる。細かい粒子に吸着した汚染物質を除去するのみで底質の90%程度は元に戻すことから経済的である。また、浚渫に比べて再懸濁による底質の除去土量は1/10程度であることから浚渫土の処分費を大幅に低減することができる。さらには騒音や振動を伴う装置の使用を不要として無振動・低騒音にて施工することができるという利点がある。
【0023】
請求項2記載の発明は、底質には粒径が0.005mm程度の有機物主体の細粒土が多く含まれ、この細粒土は比表面積が大きいことから、ある粒径分布を有する底質について、質量で小さい方から10〜15%程度の有機物主体の細粒土全体の表面積は、その底質が持つ総面積の約80〜90%の表面積を占める。したがって、底質に含まれる粒子のうち小さい方からほぼ10〜15%の質量を除去することで、有害物質の80〜90%を取り除くことができるという利点がある。
【0024】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明の効果に加えてさらに、水中で沈降
速度の差を利用して分級した細粒分を水上で濾過することで、大掛かりな設備を不要として有害物質を除去することができるという利点がある。
【0025】
請求項4記載の発明は、請求項1,2又は3記載の発明の効果に加えてさらに、再懸濁をエアーを取り込んだジェット水により行うことで、エアレーション効果により、有害物質を除去した後の再堆積物に対し好気化を促進させることができるという利点がある。
【0026】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の効果に加えてさらに、機械式攪拌翼により底質を掘削・攪拌することで、有機物を多く含む細粒分を、より一層効果的に上方に浮遊させることができるという利点がある。
【0027】
請求項6記載の発明は、請求項4記載の発明の効果に加えてさらに、リッパーの索引により底質を掘削・攪拌することで、有機物を多く含む細粒分を、より一層効果的に上方に浮遊させることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図は本発明の実施例に係る再懸濁による底質浄化工法を示すものである。
【図1】再懸濁させるための粒径と上向き流速の関係を示す特性図。
【図2】再懸濁による懸濁粒子の動きを示す図。
【図3】再懸濁装置例を示す図であり、(a)は再懸濁装置としてインジェクターを用いた例を示す図、(b)は再懸濁装置としてインジェクターに機械式攪拌翼を併用した例を示す図、(c)再懸濁装置としてインジェクターにリッパーを併用した例を示す図。
【図4】再懸濁法を概略的に示す図。
【図5】再懸濁工法底質浄化船を示す図であり、(a)は側面図、(b)は平面図。
【図6】再懸濁拡散防止機構を備えた再懸濁工法底質浄化船を示す図であり、(a)は側面図、(b)は図(a)におけるA部の再懸濁拡散防止機構を詳細に示す拡大側面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、底質中の汚染物質の除去を比表面積が大きく吸着できる汚染物質の量が多い細かい粒子を除去することで効率的に底質改善を行い、底質を再懸濁し粒子の大きさによる水中での沈降速度差を用いて除去する細かい粒子の分級を行うことで大掛かりな設備を不要とし、細かい粒子に吸着した汚染物質を除去することで底質の90%程度は元に戻すことにより経済性を有し、底質の再懸濁を基本的にはエアーを混合した水ジェットにより行うことで細かい粒子を除去した後の再堆積物はエアレーション効果により好気化の促進が行われて覆砂と同じ効果を奏するとともに水質改善(好気化)も同時に行えるようにし、浚渫に比べて再懸濁による底質の除去土量は1/10程度であることから浚渫土の処分費を大幅に低減することを可能とし、騒音や振動を伴う装置の使用を不要として無振動・低騒音にて施工を可能にするという目的を達成するために、汚染された閉鎖水域で底質を再懸濁させ、粒径の大きさによる沈降速度の差を利用した分級を行い、前記底質に含まれる粒子のうち小さい方から粒径分布と汚染状況に応じた所要%の質量を除去することにより、汚染の原因となる有害物質を80〜90%除去することで実現した。
【実施例1】
【0030】
以下、本発明の実施例に係る再懸濁による底質浄化工法を図1乃至図5を参照して説明する。底質とは有機物を多く含み、基本的には沈降した懸濁物質と同じ成分である。底質には懸濁物質と異なって、それより粗粒な砂や礫等も含まれ、また、一次鉱物である石英や長石粒子のように不活性のものも含まれている。しかし、これらの粗粒な粒子はどちらかといえば吸着物が少なく汚染も殆どない。このため、底質改善の上で問題となるのは有機物主体の細粒土である。
【0031】
細かい粒子は比表面積(例えば1g当たりの表面積)が大きく、その分吸着できる汚染物質の量が多い。例えば、砂より粘土の方がより多くの有害物質を吸着できる。同時に粘土の範疇にある粘土鉱物はその表面に電荷を有しており、重金属などの陽イオンを電気的に吸着する性質を持っている。このため、一般に粘土鉱物を多く含む細粒土の方が砂や礫より多量の有害物質を含んでいる。このことから、底質から有機物や細かい粒子を取り除くことで、底質改善を行うことが可能である。
【0032】
ここで、粒子を取り除くことで、この粒子への吸着・付着物質を取り除く場合、効果的な方法は細かい粒子から取り除くことである。これは、細かい粒子ほど、前述のように比表面積が大きいためである。比表面積は1m3当たり又は1g当たりの全表面積で表す。この比表面積は粒子の大きさと形状で決まる。粒子が球の場合、粒径が半分になれば、面積は2倍、体積は1/8になる。したがって、比表面積は16倍になる。
【0033】
したがって、代表的な粒径として、砂、:シルト:粘土=1:0.01:0.001(mm)とすれば、その比表面積は砂の場合を1とすれば、砂、:シルト:粘土の比表面積の比は1:100:1000となる。これより、ある粒径分布を有する底質について、細かい方から質量で10〜15%程度の細粒土全体の表面積は、その底質が持つ総面積の約80〜90%の表面積を占めることになる。即ち、吸着や付着が表面積に依存すると考えると、底質に含まれる粒子のうち小さい方から粒径分布と汚染状況に応じて10〜15%程度の質量を除去することで、吸着物質の80〜90%が取り除けることになる。
【0034】
そこで、底質に含まれる粒子のうち小さい方からほぼ10〜15%の質量を除去する手段として、底質部を再懸濁により浮遊させ除去対象の粒径を分級する。この分級の原理を説明する。底質に堆積している粒子の比重は、閉鎖水域における海水の比重1.03以上でなければならない。実際、普通の無機粒子の比重は約2.6であり、有機物が混じることでその値が下がり、砂鉄など重鉱物が混入すると高くなる。粒子が流体中を沈降する速度は、比重、流体の粘性係数(温度依存)、粒子の大きさと形などに関係する。
【0035】
沈降速度vを表す式は、理想的な条件下(例えば、粒子は球と仮定)で、ストークスの法則として知られている。一つの粒子に作用する重力fは、
【0036】
【数1】

【0037】
ここに、Gsは粒子比重、ρwは水の密度、gnは重力加速度、dは粒子直径である。一方、その粒子が流体中を沈降するとき受ける抵抗Rは、
【0038】
【数2】

【0039】
ここに、ηは水の粘性係数、vは沈降速度である。もし、この粒子が上向きのVupの流速の場にあるとすれば、抵抗力R´は、
【0040】
【数3】

【0041】
ある粒径の粒子が懸濁したまま沈降しないと考えると、次の条件となる。
【0042】
【数4】

【0043】
したがって、沈降・堆積しない粒径範囲は次のようになる。
【0044】
【数5】

【0045】
つまり、Vupより大きな上向きの流れがあるところでは、沈降しない又は上向きに動く粒子が存在する。これから、Gs=2.65、水の粘性係数=0.000188Pa・m、重力加速度gn=9.8m/s2、海水の密度ρw=1030kg/m3を用いて計算すると、得られる粒径dと上向き流速Vupの関係は図1のようになる。即ち、両対数の関係を取れば直線によって沈降領域と懸濁領域とが分けられる。この図1の特性から、粒径dが0.005mm程度の有機物主体の細粒土には、0.01(cm/s)を超えた上向き流速Vupが生じて浮遊することが分かる。なお、図1の特性計算では、粒子は無機物と仮定してある。もし、有機物とするなら、Gs<2.0にする必要がある。これからも分かるように、底質を再懸濁させておいて、有機物を含む細かい粒子を分級により除去することが可能である。
【0046】
この底質を再懸濁により浮遊させ除去対象の粒子を分級する原理を図2に示す。この図2から、上向き流速Vupの上向き噴流により比重が小さい有機物粒子を含む粒径が細かい粒子は上部まで動き、大きな粒径を持つ粒子は動く高さが限られる。したがって、上部から排出される水には有機物粒子を含む細かい粒子が存在する。それらの粒子の除去には、後述するようにフィルター等による除去が相応しい。
【0047】
上記の底質を再懸濁する方法を図3の(a)、(b)、(c)を用いて説明する。底質の堆積物を再懸濁させ、上方に浮遊した有機物を含む細かい粒子を除去できる装置であるなら、どのようなものでも適用できる。再懸濁には空気又は水噴射が適用できるであろうし、また、それを上層へ移動させるには上向き流又は泡沫などの適用が考えられる。
【0048】
図3(a)は、再懸濁装置としてインジェクター(Injector)を用いた例を示している。この例では、シルトフェンス1で囲った閉鎖水域の底質2に対しインジェクター3によりエアーを取り込んだジェット水を吹付けることで該底質2が攪乱され、エアーリフター効果により有機物を多く含む細粒分が上方に浮遊することで再懸濁が行われる。このとき、ジェット水に取り込まれたエアーは嫌気化している底質2を好気化(底質改善)することにも寄与する。なお、この例では、インジェクター3におけるジェット水出口に図示しないキャビテーションノズルを取付けることで、底質2に対する掘削効果が向上して一層効果的に再懸濁を行わせることができる。
【0049】
図3(b)は、再懸濁装置として、上記図3(a)のインジェクター3に機械式攪拌翼4を併用した例を示している。この併用例では、底質2に対しインジェクター3によりエアーを取り込んだジェット水を吹付けて再懸濁を行う際に、機械式攪拌翼4により底質を掘削・攪拌することで、エアーリフター効果により有機物を含む細粒分が、より一層効果
的に上方に浮遊する。
【0050】
図3(c)は、再懸濁装置として、上記図3(a)のインジェクター3にリッパー5を併用した例を示している。この併用例では、底質2に対しインジェクター3によりエアーを取り込んだジェット水を吹付けて再懸濁を行う際に、リッパー5の索引により底質2を掘削・攪拌することで、エアーリフター効果により有機物を含む細粒分が、より一層効果的に上方に浮遊する。
【0051】
図4は、上記再懸濁装置による再懸濁法を概略的に示している。台船6上に濾過手段としての砂濾過槽7及びポンプ8等が設置されている。図の例では、砂濾過槽7が適用されているが、濾過には、該砂濾過の他にフィルター濾過、袋濾過等も適用可能である。また、砂濾過槽7の濾過面積は、濾過対象水域の大きさ、工期、濾過手段の設置面積等から決定される。なお、濾過という概念から離れれば、有機物を含む細粒分の濾過には、遠心分離器やフィルタープレス等の機械式濾過も適用可能である。
【0052】
そして、前記インジェクターによりエアーを取り込んだジェット水が底質2に吹付けられて該底質2が攪乱され、エアーリフター効果により有機物を多く含む細粒分が上方に浮遊する。該有機物を多く含む細粒分は沈降速度の差を利用して水中で分級され、ポンプ8で台船6上に吸い上げられた後、砂濾過槽7で濾過されて除去される。また濾過後の水分は閉鎖水域に戻される。
【0053】
このとき、細粒分を除去した後の再堆積物はエアレーション効果による好気化の促進が行われ、また底質改善と同時に水質改善(好気化)も同時に行われる。さらに、閉鎖水域において、栄養塩であるリンはリン酸イオンとして懸濁物質(細粒分)に付着している。したがって再懸濁法により懸濁物質を除去する際にリンの除去も可能である。
【0054】
図5の(a)、(b)は、再懸濁工法底質浄化船9の構成例を示している。台船6の長手方向中央部からやや一方に偏った位置に砂濾過槽7が設置され、該砂濾過槽7の側部位置にポンプ8が設置されている。台船6の前部にインジェクター3が突き出して設けられ、台船6の前方側スペース位置に高圧エアーを送り出すコンプレッサ10、ジェット水を送り出すタービンポンプ11、砂濾過槽7用の砂を水底から吸い上げるサンドポンプ12及び動力源である電力を発生する発電機13等が設置されている。
【0055】
前記コンプレッサ10からの高圧エアーと前記タービンポンプ11からのジェット水とで、再懸濁時にインジェクター3から底質に対して吹付けるためのエアーを取り込んだジェット水が作り出される。沈降速度の差を利用して水中で分級されポンプ8で吸い上げられた有機物を多く含む細粒分は砂濾過槽7にシャワーリングされて濾過され除去される。また濾過後の水分は排水管14を介して閉鎖水域に戻される。
【0056】
図6の(a)、(b)は、再懸濁拡散防止機構を備えた再懸濁工法底質浄化船15の構成例を示している。該再懸濁工法底質浄化船15は、有害物質であるダイオキシン、水銀、PCB等が含まれる底質部を周囲への再懸濁物質の拡散を防止しつつ再懸濁して底質浄化工法を実行する場合に使用されるものであり、台船16上には、前記図5に示した再懸濁工法底質浄化船9における各設備とほぼ同様の機能を有する各設備が設置されている。そして、台船16の前部に、図6(b)にその詳細を示すような再懸濁拡散防止機構17が設けられている。
【0057】
該再懸濁拡散防止機構17は、底質2に対向する下方に所要の内容積を持つフード状の再懸濁拡散防止ケーシング18が設けられ、その天井側に複数個のエアー海水ジェット注入ノズル19が取付けられている。該再懸濁拡散防止ケーシング18の上部には再懸濁水
誘導ケーシング20が接続されており、該再懸濁水誘導ケーシング20内で沈降速度の差を利用した分級が行われる。再懸濁水誘導ケーシング20の側方には細粒分回収ケーシング21が平行して立設され、該再懸濁水誘導ケーシング20と細粒分回収ケーシング21とは再懸濁水の上昇速度を調整するための2個の開閉弁22a,22bで連結されている。各開閉弁22a,22bには、それぞれ開閉板23a,23bが傾動可能に内装されている。また、細粒分回収ケーシング21の内底部にはポンプ24が装備され、該ポンプ24で細粒分回収ケーシング21内に回収された細粒分が細粒分回収管25を介して台船16上に吸い上げられる。
【0058】
そして、ダイオキシン、水銀、PCB等の有害物質が含まれる底質2の再懸濁工法による浄化の際は、再懸濁拡散防止ケーシング18内下方の底質2に対し、複数個のエアー海水ジェット注入ノズル19からエアーを混合した海水ジェットが吹付けられて該底質2が攪乱されて再懸濁される。このとき、再懸濁拡散防止ケーシング18により、ケーシング外への再懸濁物質の拡散が防止されて周囲への拡散が顕著に低減する。再懸濁拡散防止ケーシング18内の再懸濁水は、再懸濁水誘導ケーシング20内を上昇して分級が行われ、分級された細粒分は開閉弁22a又は22bを介して細粒分回収ケーシング21内に移行する。この後、細粒分はポンプ24で台船16上に吸い上げられ、前記と同様にして、有害物質を含む細粒分は濾過されて除去される。
【0059】
上述したように、本実施例に係る再懸濁による底質浄化工法においては、底質2に含まれる粒子のうち小さい方からほぼ10〜15%の質量を除去することで、汚染物質の80〜90%を取り除くことができて効率的に低質改善を行うことができる。
【0060】
底質2に対しインジェクター3によりエアーを取り込んだジェット水を吹付ける再懸濁操作により該底質2を攪乱し沈降速度の差を利用した分級を行うことで、大掛かりな設備を不要として有害物質を除去することができる。
【0061】
細かい粒子に吸着した汚染物質を除去するのみで底質2の90%程度は元に戻すことから経済的である。
【0062】
浚渫に比べて再懸濁による底質2の除去土量は1/10程度であることから浚渫土の処分費を大幅に低減することができる。
【0063】
騒音や振動を伴う装置の使用を不要として無振動・低騒音にて施工することができる。
【0064】
再懸濁をエアーを取り込んだジェット水により行うことで、エアレーション効果により、有害物質を除去した後の再堆積物に対し好気化を促進させることができる。
【0065】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
底質を再懸濁して比表面積の大きい細かい粒子を分級し、該細かい粒子に吸着した汚染物質を除去することで大掛かりな設備を不要として効率的に底質改善を行うことが不可欠な港湾等の底質浄化にも適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 シルトフェンス
2 底質
3 インジェクター
4 機械式攪拌翼
5 リッパー
6 台船
7 砂濾過槽
8 ポンプ
9 再懸濁工法底質浄化船
10 コンプレッサ
11 タービンポンプ
12 サンドポンプ
13 発電機
14 排水管
15 再懸濁拡散防止機構を備えた再懸濁工法底質浄化船
16 台船
17 再懸濁拡散防止機構
18 再懸濁拡散防止ケーシング
19 エアー海水ジェット注入ノズル
20 再懸濁水誘導ケーシング
21 細粒分回収ケーシング
22a,22b 開閉弁
23a,23b 開閉板
24 ポンプ
25 細粒分回収管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染された閉鎖水域で底質を再懸濁させ、粒径の大きさによる沈降速度の差を利用した分級を行い、前記底質に含まれる粒子のうち小さい方から粒径分布と汚染状況に応じた所要%の質量を除去することにより、汚染の原因となる有害物質を80〜90%除去することを特徴とする再懸濁による底質浄化工法。
【請求項2】
上記底質に含まれる粒子のうち小さい方から除去する上記質量は、ほぼ10〜15%であることを特徴とする請求項1記載の再懸濁による底質浄化工法。
【請求項3】
水中で分級された細粒分をポンプで吸い上げ、水上にて砂濾過、フィルター濾過、袋濾過のうちの少なくともいずれかの濾過手段により除去すべき質量分を濾過し、濾過後の水分は上記閉鎖水域に戻すことを特徴とする請求項1又は2記載の再懸濁による底質浄化工法。
【請求項4】
上記底質の再懸濁は、インジェクターによりエアーを取込んだジェット水を前記底質に吹付け該底質の攪乱を行うことを特徴とする請求項1,2又は3記載の再懸濁による底質浄化工法。
【請求項5】
上記底質の再懸濁の際に、機械式攪拌翼による底質の攪拌を併用することを特徴とする請求項4記載の再懸濁による底質浄化工法。
【請求項6】
上記底質の再懸濁の際に、リッパーの索引による底質の攪拌を併用することを特徴とする請求項4記載の再懸濁による底質浄化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−52428(P2011−52428A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201665(P2009−201665)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(000172961)あおみ建設株式会社 (21)
【Fターム(参考)】