説明

再生使用可能な摩擦帯電濾材

【課題】本発明は優れた粉塵の捕集効率を発揮し、低圧力損失かつ再生可能な摩擦帯電濾材を提供する。
【解決手段】少なくとも二種類の合成繊維の混繊濾材から成る摩擦帯電濾材を用いることにより、再生使用可能な摩擦帯電濾材を作製可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にガス中の粉塵やミストを高い効率で捕集し、かつ使用後に洗浄し再荷電することで再び使用可能な摩擦帯電濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、比較的長寿命の静電荷が付与された誘電材料を帯電濾材と称し、一般に気体浄化用フィルター等の分離材料、マスク等の衛生材料、マイクロフォン等の電子材料に利用されている。
【0003】
かかる帯電濾材は、気体浄化用等の分野でその静電気により通常の繊維材料では除去しにくいサブミクロンサイズやナノサイズの微細塵を高効率で除去する事ができるという特徴を有するため、多くの検討がなされている。しかし、帯電濾材は、タバコ煙、オイルミスト等が負荷されることにより、帯電が消失する問題を有していたため、帯電濾材は使い捨てとなっていた。
【0004】
このような問題に対して、それぞれ正、負に帯電する繊維状誘電体材料を層状に組み合わせる集塵フィルターが開示されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、繊維状誘電体材料を層状に組み合わせる場合は繊維同士の接触が十分に行えず、更に、通風などの摩擦帯電では、帯電効果が非常に小さいという問題を有していた。
【0005】
また、熱可塑性樹脂にイミダゾール化合物または脂肪族アマイド化合物を配合した樹脂組成物からなる洗浄可能なフィルターが開示されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、洗浄後の性能が初期性能より大幅に低下する問題を有していた。
【0006】
【特許文献1】特開平5−154318号公報
【特許文献2】特開2005−13148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたもので、優れた粉塵の捕集効率を発揮し、低圧力損失かつ再生使用可能な摩擦帯電濾材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、遂に本発明を完成するに至った。即ち本発明は以下の通りである。
【0009】
1.少なくとも二種類の合成繊維の混繊濾材からなることを特徴とする再生使用可能な摩擦帯電濾材。
2.前記合成繊維の少なくとも一種類の繊維は表面同士が固着化されていないことを特徴とする上記1に記載の摩擦帯電濾材。
3.前記合成繊維の少なくとも一種類が短繊維からなることを特徴とする上記1又は2に記載の摩擦帯電濾材。
4.前記合成繊維がポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリオレフィン系繊維であることを特徴とする上記1乃至3のいずれかに記載の摩擦帯電濾材。
5.前記合成繊維に付着している繊維油剤量が0.1%以下であることを特徴とする上記1乃至4のいずれかに記載の摩擦帯電濾材。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、優れた粉塵の捕集効率を発揮し、低圧力損失かつ再生使用可能な摩擦帯電濾材を供給することができ、更に多様な素材に対応できるという有利な効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を説明する。まず、帯電濾材に関して説明する。
本発明の摩擦帯電濾材は、繊維同士の摩擦帯電にて帯電処理を行うため、合成繊維は少なくとも二種類で、合成繊維を混合した混繊濾材であることが重要である。
【0012】
混繊濾材の混繊比率は、一種類の繊維が重量比で少なくとも20%以上含まれていることが好ましい。例えば、二種類の場合は混合比率が質量比として20:80〜80:20であり、好ましくは40:60〜60:40である。かかる範囲であれば、有効に荷電することができるからである。
【0013】
本発明の摩擦帯電濾材に用いる合成繊維は、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリオレフィン系繊維が用いられる。具体的には、ポリアミド系繊維は、ナイロン、アラミド等が挙げられる。ポリエステル系繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、芳香族ポリエステルが挙げられる。アクリル系繊維は、ポリアクリルニトリルが挙げられる。ポリオレフィン系繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。このような単一繊維やポリプロピレンとポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレン等の複合繊維でも同様の効果が得られる。好ましくは、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリルニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン等である。
【0014】
本発明によって用いられる合成繊維の径は、3〜30μmとするのが好ましく、より好ましくは5〜25μmである。かかる範囲であれれば、低圧力損失であって、且つ十分な粉塵保持量を確保できるからである。
【0015】
繊維の断面は円形、三角形、矩形、異形など種々の形状のものを使用出来る。また、その繊維長はシート化の方法にもよるが10〜100mmが好ましく、30〜80mmであると更に好ましい。かかる範囲であれば、カーディングによるウェブが均一となるからである。
【0016】
本発明の摩擦帯電濾材は、摩擦帯電を有効に行うために、少なくとも一種類の繊維が、他繊維と固着していないことが好ましい。固着とは熱融着性繊維、接着剤等による固定化を意味する。
【0017】
本発明の摩擦帯電濾材は、摩擦帯電を有効に行うために、少なくとも一種類の繊維が、短繊維からなることが好ましく、合成繊維全てが短繊維であることがより好ましい。
【0018】
合成繊維を混合してシート化する手段としては特に限定しないが、それらの繊維を混繊してカーディングによりウェブを作製し、ウェブにニードルパンチやウォーターパンチ等の手段を施して繊維同士を交絡させるのが好ましい。得られた濾材の目付は5〜1000g/mが好ましく、10〜500g/mが更に好ましい。かかる範囲であれば、実用上要求される濾材の圧力損失と微細塵除去効率や粉塵保持量を満足することができるからである。
【0019】
本発明に用いられる摩擦帯電濾材の帯電方法は、カーディングやニードルパンチ等を使用した濾材化工程で繊維同士を摩擦する方法、濾材化した後に機械や手等で揉み加工やブラシ等で叩き加工を施す方法等がある。二種類以上の繊維が十分に摩擦できる方法であれば、摩擦帯電することができる。
【0020】
また、一般に短繊維は加工性を良好にする為に潤滑剤や帯電防止剤など各種の油剤が塗布されているが、繊維上に油剤が付着したままでは繊維同士を摩擦させても十分に帯電することが困難となる。したがって摩擦帯電工程の前に繊維から油剤を除去しておくことが有効である。洗浄の方法としては、水、温水、アルコール等の溶剤を用いる方法、更にノニオン系の洗浄剤等を併用する手段がある。油剤除去の程度に関しては、JIS L−1015化学ステープル試験方法に記載されているメタノール抽出方法で測定して0.1%未満が好ましい。0.1%以上であれば帯電に影響を及ぼす可能性がある。
【0021】
前記合成繊維は、難燃剤、抗菌剤、抗黴剤等などが付与された繊維であってもかまわない。
【0022】
次に、再生処理方法に関して説明する。
実際に帯電濾材を一般環境で使用した場合、微粒子、タバコ煙、オイルミスト、自動車排ガスを捕集して、帯電性能は低下する。使用済みの帯電濾材を洗浄、水洗、乾燥、摩擦帯電を行うことで再帯電が行え、再利用が可能となる。
なお、本発明では、再荷電後の粒子捕集効率の値が初期荷電後の粒子捕集効率の値に対し90%以上、すなわち回復率が90%以上である摩擦帯電濾材のことを再利用可能な摩擦帯電濾材とする。
【0023】
再生方法に関して、まず、使用済みの帯電濾材の洗浄方法としては、水や温水やアルコール等の溶剤を用いる方法、更にノニオン系等の界面活性剤を用いる方法、超音波、高圧水による洗浄方法がある。帯電濾材の洗浄効果を高めるためには、界面活性剤の併用が好ましい。洗浄の目安は、使用前の帯電濾材の色に近づけることである。
【0024】
洗浄後に行う水洗は、水、温水等で十分に洗浄する。界面活性剤除去の程度に関しては、JIS L−1015化学ステープル試験方法に記載されているメタノール抽出方法で測定して0.1%未満が好ましい。0.1%以上であれば帯電に影響を及ぼす可能性がある。
【0025】
乾燥は、帯電濾材を構成する繊維の中で、一番低融点の繊維の20℃以下の乾燥温度で乾燥することが好ましい。融点付近で乾燥すれば、繊維が溶融し、繊維が固着化する可能性がある。
【0026】
摩擦帯電は、ニードルパンチを使用して繊維同士を摩擦する方法、機械や手等で揉み加工する方法、ブラシ等で叩き加工を施す方法等がある。二種類以上の繊維が十分に摩擦できる方法であれば、摩擦帯電することができる。
【0027】
帯電濾材に基材を構成させることにより、再生処理時の形状を維持することが可能となる。基材としては、洗浄、水洗、乾燥、摩擦帯電に耐えうるシート状物であれば使用可能である。特に、織物、不織布、ネットが好適である。
【実施例】
【0028】
以下本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定するものではなく、前・後記の趣旨に沿って設計変形することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0029】
(濾過特性の評価)
圧力損失(PD)は、帯電濾材試料をダクト内に設置し、濾材通過線速度が10cm/秒になるようにコントロールし、濾材上流、下流の静圧差を圧力計で読み取り求めた。また粒子捕集効率E(%)の評価は、面に垂直方向に大気塵を含む空気を線速10cm/秒で通過させ、上流側と下流側の空気をサンプリングし、パーティクルカウンターを用い0.3〜0.5μmの粒径の粒子数をカウントした。粒子捕集効率(E)は下記の式を用いて算出した。
【0030】
【数1】

【0031】
(摩擦帯電濾材の油剤量、界面活性剤量)
摩擦帯電濾材の油剤量、界面活性剤量に関しては、JIS L−1015化学ステープル試験方法に記載されているメタノール抽出方法で測定した。
【0032】
(実施例1)
ポリエステル繊維(1.7dtex×44mm) 50重量%と、ポリプロピレン繊維(2.2dtex×51mm)50重量%を混繊してカードウェブを形成し、ウォーターパンチで50g/mの不織布を作製して乾燥した。得られた不織布の油剤量は0.1%未満であった。手もみにより摩擦帯電させた。この帯電濾材を喫煙所に置き、一ヶ月間タバコ煙を負荷させた。その後、中性洗剤を用いて洗浄し十分に流水ですすいだ後、乾燥した。この濾材を手もみで再荷電した。
【0033】
(実施例2)
ポリエステル繊維(1.7dtex×44mm) 50重量%と、ポリプロピレン繊維(2.2dtex×51mm)50重量%を混繊してカードウェブを形成し、ウォーターパンチで50g/mの不織布を作製して乾燥した。得られた不織布の油剤量は0.1%未満であった。ブラシを用いて摩擦帯電させた。この帯電濾材を喫煙所に置き、一ヶ月間タバコ煙を負荷させた。その後、中性洗剤を用いて洗浄し十分に流水ですすいだ後、乾燥した。この濾材をブラシで再荷電した。
【0034】
(比較例1)
ポリプロピレン繊維(2.2dtex×51mm)100重量%のカードウェブを形成し、ウォーターパンチで50g/mの不織布を作製して乾燥した。得られた不織布の油剤量は0.1%未満であった。ブラシを用いて摩擦帯電させた。この帯電濾材を喫煙所に置き、一ヶ月間タバコ煙を負荷させた。その後、中性洗剤を用いて洗浄し十分に流水ですすいだ後、乾燥した。この濾材をブラシで再荷電した。
【0035】
(比較例2)
ポリエステル繊維(1.7dtex×44mm) 100重量%のカードウェブを形成し、ウォーターパンチで50g/mの不織布を作製して乾燥した。得られた不織布の油剤量は0.1%未満であった。ブラシを用いて摩擦帯電させた。この帯電濾材を喫煙所に置き、一ヶ月間タバコ煙を負荷させた。その後、中性洗剤を用いて洗浄し十分に流水ですすいだ後、乾燥した。この濾材をブラシで再荷電した。
【0036】
(比較例3)
ポリエステルスパンボンド(1.7dtex、25g/m)と、ポリプロピレンスパンボンド(2.2dtex、25g/m)を重ねてブラシにより摩擦帯電させた。この帯電濾材を喫煙所に置き、一ヶ月間タバコ煙を負荷させた。その後、中性洗剤を用いて洗浄し十分に流水ですすいだ後、乾燥した。この濾材をブラシで再荷電した。
【0037】
上述した摩擦帯電濾材の使用前、洗浄後、再荷電後の各状態において、先に説明した方法により0.3〜0.5μmの粒子の捕集性能、圧力損失、QFの測定を実施した。圧力損失は、初期荷電、除電、再荷電の工程中ほとんど変化しなかった。粒子捕集効率と圧力損失の測定結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1〜2は二種類の合成繊維から成る混繊不織製の濾材においては、手もみまたはブラシ等で摩擦させることにより、ほぼ100%性能が回復し、再生できることを示している。
【0040】
比較例1、2は単一繊維からなる濾材を同じくブラシで摩擦帯電させたものである。異種繊維間の摩擦がないため、混繊させたものよりは性能の回復率が低い。また、長繊維不織布同士を重ねて荷電した濾材は、繊維同士の摩擦が効果的に起こらないため、再荷電がさらに起こりにくい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上述べたように、本発明における帯電濾材及び空気清浄化用フィルターは特に空気清浄機や空調設備での使用条件において優れた性能を発揮することが可能であると同時に環境負荷も小さく、多様な素材に対応することが可能であり、本発明の産業上の利用性は大である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二種類の合成繊維の混繊濾材からなることを特徴とする再生使用可能な摩擦帯電濾材。
【請求項2】
前記合成繊維の少なくとも一種類の繊維は表面同士が固着化されていないことを特徴とする請求項1に記載の摩擦帯電濾材。
【請求項3】
前記合成繊維の少なくとも一種類が短繊維からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦帯電濾材。
【請求項4】
前記合成繊維がポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリオレフィン系繊維であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の摩擦帯電濾材。
【請求項5】
前記合成繊維に付着している繊維油剤量が0.1%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の摩擦帯電濾材。


【公開番号】特開2008−93501(P2008−93501A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274776(P2006−274776)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】