説明

再生可能原料を使用するメチルメルカプトプロピオンアルデヒドおよびメチオニンの製造方法

本発明は、(a)酸性触媒の存在下でグリセロールの水溶液からのグリセロールをアクロレインに脱水する工程;(b)工程(a)からの水性フラックスを精製して、アクロレインに対して少なくとも15重量%の水を含有するアクロレインのフラックスを得る工程;(c)工程(b)で得たアクロレインフラックスとメチルメルカプタンとの反応を触媒の存在下で生じさせる工程;(d)工程(c)で得た生成物を任意に精製する工程を少なくとも含む、メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)の製造方法に関する。本発明の方法は、工程(c)または(d)で得た生成物とシアン化水素酸またはシアン化ナトリウムとの工程(e)中の反応、続いて、メチオニンまたはメチオニンヒドロキシ類似体を生成させためのその後の転化も含むことがあり、メチオニンまたはメチオニンヒドロキシ類似体を、その後、任意に精製することができる。本発明の方法における原料として、バイオマスに由来するメチルメルカプタンおよび/またはシアン化水素酸の追加の使用は、再生可能資源からの有機炭素100%で構成されたMMP、メチオニンまたはメチオニンヒドロキシ類似体の獲得を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能な出発原料からの、メチオニンの生産および動物飼料サプリメントとして使用される合成タンパク質に関する。より正確には、本発明は、メチオニンの合成のための重要な中間体であるメチルメルカプトプロピオンアルデヒド、およびメチオニンを、再生可能な出発原料から生産するための工業的方法に関する。
【0002】
化学式HC−S−(CH−CH(NH)−COOHのメチオニン、即ち2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸は、メチオニン要求量が大きい配給食、特に家禽のもの、への添加剤として必要な、動物によって合成されない、必須アミノ酸である。化学合成によって得られるメチオニンは、動物用飼料のための天然起源の供給物(魚粉、大豆粉など)の代用品として定着している。主たる市場は、家禽用飼料のものである。
【0003】
他のアミノ酸とは対照的に、メチオニンは、右旋性形態(dまたは+)ででも、左旋性形態(lまたは−)ででも生体同化可能であり、このことが、ラセミ体製品をもたらす化学合成の発展を可能にした。従って、合成メチオニン市場は、主としてdl−メチオニンのもの、DLMと一般に呼ばれる固体製品である。化学式HC−S−(CH−CH(OH)−COOHに対応するメチオニンの液体誘導体、α−ヒドロキシ酸も存在し、この誘導体は、インビボで実質的に定量的にメチオニンに転化される特別な特性を有する。88質量%の水溶液の形態で市販されているこの液体製品は、メチオニンのヒドロキシ類似体と一般に呼ばれる。
【0004】
メチオニンまたはこのヒドロキシル化誘導体に関する非常に多数の合成が記載されているが、工業的に利用されている化学方法は、同じ主出発原料および同じ重要中間体、即ち、
−3−(メチルチオ)プロパノールまたはメチルチオプロピオン酸アルデヒド(MTPA)としても公知のメチルメルカプトプロピオンアルデヒドHC−S−CH−CH−CHO(MMP)を反応によってもたらす、アクロレインHC=CH−CHOおよびメチルメルカプタンHCSH(MSH)、
−MMPとの反応後、最終的にメチオニンをまたはメチオニンのヒドロキシ類似体をもたらす、シアン化水素(HCN)またはシアン化ナトリウム(NaCN)、
に本質的に基づく。
【0005】
中間生成物としてメルカプトプロピオンアルデヒドを経由してメチオニンを合成するための方法についての工業的実施条件が記載されている、Techniques de l’lngenieur,traite Genie des Procedes,J 6−410−1 to 9における論文を参照することができる。
【0006】
メチルメルカプトプロピオンアルデヒドを生産するための出発原料として使用されるアクロレインは、モリブデン酸ビスマスに基づく触媒を用いる約350℃でのプロピレンの大気中気相酸化により主として得られる。
【0007】
メチオニンを生産するために使用されるシアン化水素は、アンモニアとメタン、メタノールまたは炭化水素、例えばプロパンもしくはプロピレンとを、任意に空気および/または酸素の存在下で、反応させることによって得られる。
【0008】
結果として、メチルメルカプトプロピオンアルデヒドおよび従ってメチオニンは、温室効果を増加させる一因となる化石または石油起源の出発原料に強く依存する合成製品である。具体的には、プロピレンは、石油留分の接触分解または気相分解によって得られる。アンモニアは、大気中の窒素と、ナフサ中または天然ガス中に存在する炭化水素の水蒸気改質から得られる水素とを反応させることによって得られる。メタンは、天然ガス、気体形態で多孔質岩石中に自然に存在する炭化水素の混合物からなる化石燃料、の主成分である。プロパンは、精製操作中に原油から、または天然ガスおよび油田における随伴ガスから抽出される。
【0009】
石油埋蔵量の世界的減少を考えれば、これらの出発原料源は徐々に減るであろう。植物または動物起源の出発原料は、再生可能資源であり、環境に対する影響が少ない。これらは、石油由来の製品の(非常にエネルギー集約的な)精製工程を一切必要としない。これらは、これらの生合成中に光合成により大気中のCOを消費するので、気候温暖化の一因にまったくならない。
【0010】
従って、化石起源の出発原料に依存するのではなく再生可能な起源の出発原料を使用する、利用可能な合成方法を有することが必要であるようである。
【0011】
従って、本発明の目的は、再生可能な出発原料の使用に基づくメチルメルカプトプロピオンアルデヒド合成方法およびメチオニン合成方法を提供することである。詳細には、これらの方法に出発原料として含まれるアクロレインを、植物油のメタノリシスからこれ自体が誘導されるグリセロールの脱水生成物として、このメチルエステルと同時に得ることができ、前記メチルエステルは、特に、燃料として、またはジーゼルおよび家庭用燃料油中の可燃物として、使用される。
【0012】
従って、本発明による方法は、石油の消費を不要にすること、エネルギー消費を減少させること、および大量に入手できる天然産物を利用することを可能にする。
【背景技術】
【0013】
グリセロールがアクロレインの生産につながり得ることは、かなり以前から公知である。
【0014】
US5387720には、これらのハメット(Hammett)酸性度によって定義される酸性固体触媒を用いて、液相または気相で、グリセロールの脱水によりアクロレインを生産する方法が記載されている。前記特許の著者によると、気相反応のほうが好ましい。100%に近いグリセロールの転化率の獲得を可能にするからである。しかし、これは、大量の副生成物、例えばヒドロキシプロパノンを含有するアクロレイン水溶液をもたらす。
【0015】
WO2006/087084およびWO2006/087083は、非常に酸性の触媒を選択するかグリセロール脱水反応中に酸素を導入するかの方法の改善を提案している。これらの方法では、プロピオンアルデヒドおよびアセトアルデヒドが大量に併産される。
【0016】
US2008/0119663には、トリグリセリドからのアクロレインの調製が記載されており、得られたアクロレイン水溶液を、メチオニン調製のための出発原料として使用することができる。
【0017】
これらの文献のいずれにも、メチルメルカプタンとの反応によりメチルメルカプトプロピオンアルデヒドを生産するためのユニットを直接供給するために、およびメチオニンを生産するためのユニットを直接供給するために、生産されたアクロレインをどのように精製するかが記載されていない。
【0018】
メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)を形成するためのアクロレインとメチルメルカプタン(MSH)との反応は、このアクロレインの液体形態での生産、精製および単離後、液相で行うことができる。この反応は、一般に、塩基性触媒の存在下、溶剤の不在下、約40から50℃で、わずかに過剰なMSHを用いて行われる。使用されるアクロレインは、一般に、数%水を含有する市販のアクロレインである。液相反応に用いることができる触媒は、例えば、有機酸と任意に併用される、有機塩基である。挙げることができる例としては、WO1996/40631に記載されているものなどのアミンから選択される有機塩基、EP1556343に記載されているN−アルキルモルホリンタイプの有機塩基、またはEP1408029に記載されている0.3/1未満のモル比の塩基性化合物と酸性化合物から系が挙げられる。最も従来的な触媒は、酢酸と併用されるピリジンである。収量は、実質的に定量的である。その後、得られたMMPは蒸留によって精製される。軽質不純物と重質亜硫酸生成物がこのようにして分離されて、焼却される。
【0019】
液体アクロレインとメチルメルカプタンとの反応を行うための方法は、多くの文献に記載されている。FR1526355について言及することができ、この文献には、飽和脂肪族アルデヒドおよび飽和脂肪族ケトンから選択される少なくとも1つのカルボニル化合物を含有するが不飽和有機酸のないアクロレイン水溶液とMSHを反応させることによるMMPの合成が記載されている。アクロレイン水溶液は、プロピレンから、またはホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの縮合、およびアクロレインの沸点より高い沸点を有する成分の除去による部分精製によって得られる。従って、MSHとの反応後、MMPの精製中に、アクロレイン溶液中に存在する副生成物、主としてアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドおよびアセトンを分離しなければならない。
【0020】
FR1520328には、生成される熱の発生が完了するまでMSHをMMPと接触させることおよびその後、結果として生じた反応生成物をアクロレインと接触させることに存する二工程で、アクロレインからのMMPの合成を行うことが提案されている。この方法は、反応温度の有効な制御を可能にする。
【0021】
プロピレンの触媒による酸化から生ずるアクロレイン含有気体流出物をこの流れの部分精製後にメチルメルカプタンと反応させることによる直接合成により、MMPこれ自体をアクロレイン吸収溶剤としても、MSHと共に試薬としても使用して、MMPを得ることもできる(FR2314917、EP022697、EP889029、WO94/29254、WO97/00858)。
【0022】
FR2314917およびEP022697の場合、アクロレインを含有する気体混合物から、メチルメルカプタンとの反応前に、低温での凝縮によってこれが含有するアクリル酸および水を除去する。このようにして精製されたガス流のMMPでの吸収を、メチルメルカプタンとの反応前に行うことができる。
【0023】
WO94/29254およびWO97/00858の場合、アクロレイン、蒸気および非凝縮性ガスを含有する気体流出物を、MMP、メチルメルカプタンおよびアクロレインとメチルメルカプタンの反応のための触媒を含有する反応媒体と接触させて、MMPを含有する液体反応生成物を形成する。気体流出物中に存在する蒸気とアクロレインとのモル比は、好ましくは0.3未満である。酸素、窒素、一酸化炭素および二酸化炭素を含む非凝縮性ガスは、60%から80%であり得る比率で気体流出物中に存在し、従って、該ガスを液体反応生成物から分離しなければならない。この方法は、これらの分離中にこの媒体からのメチルメルカプタンの損失を招くことがあり、また、硫黄化合物で汚染された非凝縮性物質の流れを生じさせることがある、非凝縮性ガスの大きな流れを反応媒体に送る欠点を有する。
【0024】
WO97/36848では、希釈剤としてのプロパンの存在下でのプロピレンと酸素の反応から誘導された気体アクロレイン流を分縮して、0.5重量%と3.5重量%の間の含有量でアセトアルデヒドおよび2重量%と8重量%の間の含有量で水を含有するアクロレイン流を得る。このアクロレイン流は、メチルメルカプタンとの反応後、アセトアルデヒドの高い含有量を含むMMPをもたらすから、このアセトアルデヒドを蒸留により分離しなければならない。
【0025】
さらに、プロピレンの酸化から誘導されたアクロレインを含有する気体流を、MMPを合成するための反応にこれを使用する目的で、処理および精製するための方法が提案されている。例えば、EP751110について言及することができ、この文献には、アクロレイン、水および酸(アクリル酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸)と非凝縮性物質(N、O、空気の他のガス、CO、CO、プロピレン)とを含む気体混合物を精製するための方法が記載されており、この方法は、アクロレインの分解の危険を最少にし、その上、同時に、この方法で使用される装置の汚損を回避する。この方法は、水および蒸気中に存在する酸の大部分の低温凝縮、ならびに精製されたアクロレインを回収するための凝縮された水性相のストリッピングに、本質的に基づく。水の重量含有率が2%未満であり、酸の重量含有率が100ppm未満である、アクロレインと非凝縮物質とを含有する精製された気体留分が得られる。しかし、この技術的解決は、メチルメルカプタンとの反応後に硫黄化合物で汚染された非凝縮性化合物の大きな流れをもたらす非凝縮性ガスを大量に含有する気体アクロレイン流を生じさせる欠点を有する。この場合、生成されたMMPの精製が難しいことはわかるだろう。
【0026】
アクロレインの保管および取扱いに付随する危険を減少させる、中間体アクロレインの単離を伴わずに、プロピレンで出発してMMPを合成するための完全一貫方法も存在する。しかし、これらの方法は、プロピレンの酸化から誘導された気体流を吸収およびストリッピングするための様々な工程を必要とする。WO03/068721では、プロピレンの触媒による酸化の粗生成物中に存在する非凝縮性ガスがメチルメルカプタンとの反応の上流で分離され、従って、メチルメルカプタンまたはMMPによって生成されるいずれの硫黄生成物によっても汚染されていない該ガスをプロピレン酸化に再循環させることができる。吸収およびストリッピング工程から誘導された気体アクロレイン流は、水を含有するが、MMPの合成に気体形態で直接使用することができる。しかし、この方法は、化石起源の出発原料に依然として依存している。
【0027】
さらに最近では、US2006/0183945に、グリセロールからのMMPの直接合成が記載されている。この方法は、酸性固体触媒存在下および任意に溶剤の存在下、液相または気相で、グリセロールをメチルメルカプタンと接触させることに存する。この液相反応は、50℃と500℃の間の温度で、1から300barにわたる圧力で、および溶剤または希釈剤、例えば水、アルコール、アセトン、トルエンまたはMMPこれ自体を用いて行われる。グリセロール濃度は、溶剤または希釈剤に対して1%から100%、および好ましくは5%から40%である。グリセロールとMSHとのモル比を、0.2と50の間、および好ましくは0.8と10の間に調整される。気相で合成を行うとき、反応温度は、1から100barおよび好ましくは1から30barにわたる圧力で、200℃と550℃の間、および特に250℃と350℃の間である。例えば窒素、空気または蒸気で、気相混合物を希釈することができる。使用することができる触媒は、+2未満、および好ましくは−3未満のハメット酸性度を有する酸性不均質系触媒である。反応開始時に直ちに添加するのではなく、反応実施条件下でグリセロールが一部転化された後にメチルメルカプタンを添加することができる。この方法は、シングルゾーン反応器において、または2つの反応ゾーンを有する反応器において、回分方式で、またはメチルメルカプタンの連続導入を伴う半連続方式で行われる。この方法を用いて得られるMMP収率は、実施例によると、グリセロールに対して29mol%および4mol%である。これらの収率は、この方法に基づくMMPの工業生産を構想するには不十分である。さらに、このような収率は、エネルギーの過剰消費を余儀なくさせるであろうし、再生可能な出発原料を使用する生産方法に対する環境的関心を著しく低下させるであろう。
【0028】
US2008/0183019にも、単一工程でグリセロールおよびMSHから直接MMPを生産するための方法が記載されており、この方法は、タングステンと1つ以上の助触媒とを含む+2未満のハメット酸性度を有する触媒を使用する。単一工程で方法を行うことにより、MMPがあまり安定でない温度ゾーンで反応を行うことが必要になり、このことが収率を大いに制限する。
【0029】
メチオニンについて言えば、MMPをCOおよびNHの存在下でシアン化ナトリウム(NaCN)と反応させ、続いて、形成されたヒダントイン水溶液を強塩基で鹸化し、その後、酸性化すること(ブヘラ(Bucherer)合成)によるかMMPをシアン化水素(HCN)と反応させて中間体シアノヒドリンを形成し、その後、これをアミノニトリルに転化させ、その後、メチオニンに加水分解すること(ストレッカー(Strecker)合成)によって得られる。
【0030】
これらの方法の変形例は、例えばUS5990349に記載されている、MMPおよびHCNからの中間体ヒダントインの合成、続いて、炭酸カリウムでの鹸化、および酸性化(デグッサ(Degussa)方法)に存する。
【0031】
メチオニンのヒドロキシ類似体の合成も中間体シアノヒドリンの合成経由で進行し、その後、この中間体を、二工程(低温で行ってアミドを形成する第一工程、より高い温度で行って重質副生成物がない所望の生成物をもたらす第二工程)で加水分解する。
【0032】
メチオニンのヒドロキシ類似体を生産するための方法が記載されている、次の文献について言及することができる:US2745745;EP142448およびEP333527。
【0033】
さらに最近では、WO2008/002053により、グリセロールの発酵によってアミノ酸、例えばメチオニンを生産するための方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】米国特許第5387720号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/087084号
【特許文献3】国際公開第2006/087083号
【特許文献4】米国特許第2008/0119663号明細書
【特許文献5】国際公開第1996/40631号
【特許文献6】欧州特許第1556343号明細書
【特許文献7】欧州特許第1408029号明細書
【特許文献8】仏国特許第1526355号明細書
【特許文献9】仏国特許第1520328号明細書
【特許文献10】仏国特許第2314917号明細書
【特許文献11】欧州特許第022697号明細書
【特許文献12】欧州特許第889029号明細書
【特許文献13】国際公開第94/29254号
【特許文献14】国際公開第97/00858号
【特許文献15】国際公開第97/36848号
【特許文献16】欧州特許第751110号明細書
【特許文献17】国際公開第03/068721号
【特許文献18】米国特許出願公開第2006/0183945号明細書
【特許文献19】米国特許出願公開第2008/0183019号明細書
【特許文献20】米国特許第5990349号明細書
【特許文献21】米国特許第2745745号明細書
【特許文献22】欧州特許第142448号明細書
【特許文献23】欧州特許第333527号明細書
【特許文献24】国際公開第2008/002053号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0035】
本出願人の会社は、メチルメルカプタンのアクロレインへの付加によるメチルメルカプトプロピオンアルデヒドを製造するための方法であって、この反応に用いられるアクロレインおよびメチルメルカプタンのうちの少なくとも1つが、バイオマスから出発する反応または一連の反応によって得られることを特徴とする方法を見出した。
【0036】
本発明の主題は、メチルメルカプタンをアクロレインに添加させることによって得られたものであるメチルメルカプトプロピオンアルデヒドとシアン化水素またはシアン化水素のナトリウム塩とを反応させることによってメチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体を製造するための方法であって、用いられるアクロレイン、メチルメルカプタンおよびシアン化水素のうちの少なくとも1つが、バイオマスから出発する反応または一連の反応によって得られることを特徴とする方法でもある。
【0037】
本発明は、MMPおよびメチオニンの製造中に、これらの製造に付随する温室効果ガスの放出を減少させることにより、世界的温暖化を減少させる効果を有する。さらに、本発明に記載の方法に用いる化合物のすべてに再生可能な出発原料を使用することにより、これらの方法の「グリーン」性の強化が可能となり、さらにまた、得られる製品、MMPおよびメチオニンは、再生可能資源に由来する有機炭素から、ことによると100%生成されることになるだろう。
【0038】
本発明の主題は、少なくとも以下の工程を含む、メチルメルカプトプロピオンアルデヒドを製造するための方法でもある:
(a)酸性触媒の存在下でグリセロール水溶液を使用するアクロレインへのグリセロールの脱水、
(b)アクロレインに対して15質量%未満、好ましくは7質量%未満およびさらに好ましくは4重量%未満の水を含有するアクロレイン流を得るための、工程(a)から得た水性流の精製、
(c)工程(b)で得たアクロレイン流とメチルメルカプタンとの触媒の存在下での反応、
(d)任意に、工程(c)で得た生成物の精製。
【0039】
本発明の前記方法は、高い収量をもたらし、および上述の現行方法の欠点の克服を可能にする。
【0040】
本発明の主題は、少なくとも以下の工程を含む、メチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体を製造するための方法でもある:
(a)酸性触媒の存在下でグリセロール水溶液を使用するアクロレインへのグリセロールの脱水、
(b)アクロレインに対して15質量%未満、好ましくは7質量%未満およびさらに好ましくは4質量%未満の水を含有するアクロレイン流を得るための、工程(a)から得た水性流の精製、
(c)工程(b)で得たアクロレイン流とメチルメルカプタンとの触媒の存在下での反応、
(d)任意に、工程(c)で得た生成物の精製、
(e)工程(c)または(d)で得た生成物とシアン化水素またはシアン化ナトリウムとの反応、
(f)工程(e)で得た生成物のメチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体への転化、およびこの精製。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、出発原料としてバイオマスを使用する。用語「バイオマス」は、植物または動物起源の自然に産出される出発原料を意味する。この植物材料は、この植物が、この成長のために、酸素を生産しながら同時に大気中のCOを消費したことを特徴とする。動物は、これらの一部については、これらの成長のために、この植物出発原料を消費しており、従って、大気中のCOに由来する炭素を同化している。
【0042】
従って、本発明は、メチルメルカプトプロピオンアルデヒドおよびメチオニンであって、これらの炭素の少なくとも一部が再生可能資源に由来するものであるメチルメルカプトプロピオンアルデヒドおよびメチオニンを得ることにより、一定の永続的開発の懸念に対処する。
【0043】
再生可能出発原料は、人間の時間の尺度で短期間に備蓄量を再構成することができる天然の動物または植物資源である。詳細には、この備蓄量をこれが消費されるのと同じくらい早く再生する必要がある。
【0044】
化石物質に由来する材料とは異なり、再生可能な出発原料は、大気中のCOと同じ比率で14Cを含有する。生体(動物または植物)から抽出されるすべての炭素サンプルは、実際には、3つの同位体の混合物である:12C(約98.892%に相当する。)、13C(約1.108%)および14C(微量、1.2×10−10%)。生体組織の14C/12C比は、大気のものと同一である。この環境では、14Cは、2つの主形態で:無機形態、即ち二酸化炭素(CO)で、および有機形態、即ち有機分子に組み込まれた炭素で存在する。
【0045】
生体内では、炭素がこの環境と継続的に交換されているので、14C/12C比は、代謝によって一定に維持される。大気中の14Cの比率は一定であるので、生物もまた、生きている間はそうである。生物は、12Cを吸収するのとまさしく同様にこの14Cを吸収するからである。平均14C/12C比は、再生可能な起源の材料については1.2×10−12に等しいが、化石出発原料は、ゼロ比を有する。炭素−14は、大気中の窒素(14)の衝突から生じ、大気中の酸素で自発的に酸化してCOをもたらす。人類の歴史の中で、14COレベルは、大気圏での核爆発後に増加し、以来、これらの試験の停止後、減少が止まらない。
【0046】
12Cは安定している。即ち、所与のサンプル中の12C原子の数は、経時的に不変である。14Cは、これ自体、放射性であり(生物の炭素の各1グラムが、毎分13.6の崩壊をもたらすために十分な14C同位体を含有する。)、サンプル中のこのような原子の数は、次の法則に従って、時間(t)の経過とともに減少する:n=no exp(−at)(この場合、
−noは、(生物、動物または植物、の死亡時の)14Cの元の数であり、
−nは、時間tの後に残存している14C原子の数であり、
−aは、崩壊定数(または放射性崩壊定数)であり;これは、この半減期に関係づけられる。)。
【0047】
半減期(または周期)は、所与の化学種の任意の数の放射性核または不安定粒子が、崩壊により半減される前の時間であり、半減期T1/2は、式aT1/2=ln2によって崩壊定数aに関係づけられる。14Cの半減期は、5730年である。50000年間で、14C含有量は、初期含有量の0.2%未満であり、従って、検出が難しくなる。従って、石油製品、天然ガスおよび石炭は、14Cを含有しない。
【0048】
14Cの半減期(T1/2)を考えると、14C含有量は、再生可能出発原料の抽出から、これらの出発原料から誘導される「バイオマテリアル」の製造まで、およびこれらの使用終了まででさえ、実質的に不変である。
【0049】
再生可能な起源の材料の14C含有量は、例えば以下技術に従って、測定することができる:
−液体シンチレーション分光光度法によるもの:この方法は、14Cの崩壊によって放出される「ベータ」粒子をカウントすることに存する。一定の期間にわたって既知質量(既知炭素原子数)のサンプルによって放出されたベータ放射線を測定する。
【0050】
この「放射能」は、14C原子数に比例し、従って、これを決定することができる。サンプル中に存在する14Cはβ線を放出し、このβ線は、シンチレーション液(シンチラント)と接触すると、光子を生じさせる。これらの光子は、異なるエネルギー(0KeVと156KeVの間)を有し、14Cスペクトルとして公知であるものを形成する。この方法の2つの変形例による分析は、適する吸収剤溶液中での炭素サンプルの燃焼によって事前に生じさせたCO、または最初に炭素サンプルをベンゼンに転化させた後のベンゼン、いずれかに関する;
−質量分析によるもの:サンプルをグラファイトまたは気体COにし、質量分析計で分析する。この技術は、12Cイオンから14Cイオンを分離するために、およびこのようにして2つの同位体の比を決定するために、加速器および質量分析装置を用いる。
【0051】
材料の14C含有量を測定するためのこれらの方法は、規格ASTM D6866(特に、D6866−06)におよび規格ASTM D7026(特に7026−04)に正確に記載されている。これらの方法は、分析サンプルを用いて測定したデータと100%再生可能起源の基準サンプルについてのデータとを比較して、このサンプル中の再生可能な起源の炭素の相対百分率をもたらす。
【0052】
優先的に用いられる測定方法は、規格ASTM D6866−06(「加速器質量分析」)に記載されている質量分析である。
【0053】
本発明において、メチルメルカプトプロピオンアルデヒドおよびメチオニンは、少なくとも一部はバイオマスに由来し、これらは、再生可能な出発原料に由来する有機炭素を含有し、およびその結果、14Cを含有することを特徴とする。詳細には、MMPの炭素の少なくとも25質量%および好ましくは少なくとも50質量%は、再生可能な起源のものであり、ならびにメチオニンの炭素の少なくとも20質量%および好ましくは少なくとも50質量%は、再生可能な起源のものである。使用される出発原料すべてが、再生可能な起源のものであるとき、MMPおよびメチオニンは、再生可能な起源の炭素を100%含んでもよい。
【0054】
本発明の1つの好ましい実施形態に従って、アクロレインをグリセロールから得た。このグリセロールは、産油性植物、例えばナタネ、ヒマワリ、ダイズ、アブラヤシ、ジャトロファ属(jatropha)もしくはヒマ(castor)からのまたは動物脂肪からのバイオ燃料または石鹸または脂肪エステルもしくは酸もしくはアルコールの製造の副生成物として得られる。
【0055】
1つの実施形態に従って、メチルメルカプタンを、触媒の存在下、硫化水素HSおよびメタノールから、反応:
【0056】
【化1】

に従って得た。メタノールは、おそらく、木材の熱分解から、またはバイオマスの発酵、例えば発酵性産物をもたらす小麦、サトウキビもしくはビートの根などの植物作物の発酵、から生ずるものである。
【0057】
メタノールは、任意の動物性または植物性物質を気化させて一酸化炭素および水素から本質的になる合成ガスをもたらし、この合成ガスを水と反応させることから生ずることもある。動物由来の物質の非限定的な例としては、魚油および脂肪、例えばタラ肝油、鯨油、マッコウ鯨油、イルカ油、アザラシ油、イワシ油、ニシン油、サメ油、ウシ属、豚、ヤギ、馬および家禽の油および脂肪、例えば獣脂、ラード、乳脂肪、鶏脂、豚脂、馬脂およびこれらに類するものが挙げられる。植物起源の物質の例としては、植物油、穀物わら飼料、例えば小麦わらもしくはトウモロコシわら;穀物残渣、例えばトウモロコシ残渣;穀物粉、例えば小麦粉;穀物、例えば小麦、大麦、モロコシ属、トウモロコシ;木材、木くずおよび不合格品;穀粒;サトウキビ、サトウキビ残渣;豌豆苗および茎;ビートの根、糖蜜、例えばビート根糖蜜;ジャガイモ、ジャガイモの茎、ジャガイモ残渣;デンプン;セルロースとヘミセルロースとリグニンの混合物;または製紙黒液が挙げられる。
【0058】
反応:CO+2H→CHOH
によるメタノールへの合成ガスの転化に関しては、「Procedes de petrochimie,IFP,ENSPM」,1985,第2版,90−104頁および「Fundamentals of Industrial Catalytic Processes」,Wiley,第2版,6.4.8を参照することができる。
【0059】
バイオマスから生産されたメタンの直接(制御)酸化:
バイオマス(発酵)→CHおよびCH+1/2O→CHOH
の結果としてエタノールを得ることもできる。
【0060】
バイオマスからのメタンの生産は公知である。メタンは、バイオマスから得られる。バイオマスは、酸素不在下での動物および/または植物有機物質の発酵によって生産されるガスである。メタン発酵としても公知のこの発酵は、有機廃棄物を収容している廃棄場において自然にまたは自発的に起こるが、例えば、精製スラッジ、工業もしくは農業有機廃棄物、豚の寝わらまたは家庭ごみを処理するために、ダイジェスタの中で行われることがある。好ましくは、使用するバイオマスは、バイオマスのメタンへの発酵を確実にする微生物の成長に必要な窒素投入量として役立つ動物排泄物を含有する。バイオガスは、メタンおよび二酸化炭素から本質的に成り、従って、この二酸化炭素は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムもしくはアミンの塩基性水溶液を使用して洗浄することにより、またはこの代わり的に、加圧下で水で、またはメタノールなどの溶剤への吸収により除去される。この経路に従って、一貫した品質の純粋なメタンを得ることができる。先行技術の様々なメタン発酵技術を参照することができ、論文「Review of Current Status of Anaerobic Digestion Technology for Treatment of Municipal Solid Waste」,November 1998,RISE−ATを参照することができ、および排水処理のための既存の様々な生物学的方法、例えば、LindeからのLaran(登録商標)方法を参照することができる。
【0061】
メタノールからメチルメルカプタンを合成するための方法について言えば、例えば、2.5barと25barの間および好ましくは7barと12barの間の圧力で、280℃と450℃の間および好ましくは320℃と370℃の間の温度で、この反応塊の任意の箇所で、メタノールとHSとの気相反応によってMSHの合成を行うことに存する、特許FR7343539およびFR2477538に記載されている方法を参照することができ、この反応は、少なくとも3つの連続触媒層に試薬を通すことによって行われ、HSのすべてが第一の層に導入され、全メタノールの小部分がそれぞれの層に導入され、HSの全メタノールに対する総合モル比は、1.10と2.5の間である。この反応に用いられる触媒は、好ましくは、100m/gと400m/gの間の比表面積を有する、例えば直径2mmから5mmのビーズの形態の、活性アルミナである。
【0062】
本発明の1つの実施形態によると、一酸化炭素および水素から本質的に構成されるバイオマス由来の合成ガスと、硫化水素との触媒方法でメタノール経由で進行しない直接反応:
CO+2H+HS→CHSH+H
によって、メチルメルカプタンを得た。
【0063】
本発明の1つの実施形態に従って、アンモニアとメタンまたはメタノールを、任意に空気および/または酸素の存在下で、反応させることによって、シアン化水素を得た(アンモニア、メタンおよびメタノールから選択される試薬の少なくとも1つは、バイオマスから得たものである。)。
【0064】
シアン化水素HCNの現行の工業生産は、反応:
CH+NH+3/2O→HCN+3HO+熱
に従って、空気および任意に酸素の存在下でロダン酸処理白金網からなる触媒を用いて1050℃から1150℃にわたる温度でアンモニアをメタンと反応させるメタンのアンモ酸化からなる、1930年代から始まるアンドリュッソー(Andrussow)方法に主として基づく。
【0065】
一般に、モル比CH/NHは、1.0から1.2にわたり、(CH+NH)/全Oは、1.6から1.9にわたり、圧力は、一般に、1から2barである。
【0066】
HCNを生産するためのもう1つの方法(デグッサ)は、酸素または空気の不在下、約1300℃の温度でのアンモニアとメタンの反応に基づく。白金を内張りした焼結アルミナ管の中でこの反応を行う。炉の中で管の束をガスで加熱する。
【0067】
メタンの代わりにメタノールを使用して、反応
CHOH+NH+O→HCN+3H
に従ってHCNを生成することもできる。
【0068】
とりわけ1950から1960年代にDistillers Companyからの特許GB718112およびGB913836に記載されたこの方法は、340℃から450℃にわたる温度で酸化モリブデンに基づく触媒を使用する、または350℃から600℃にわたる温度でアンチモンおよびスズに基づく触媒を使用する。
【0069】
バイオマスの気化の結果として生じる(一酸化炭素および水素から本質的に構成される)合成ガスに由来する水素から、アンモニアを得ることができる。気化は、バイオマスおよび気体試薬、例えば空気、酸素もしくは蒸気、から水素の豊富なガスを精製するための熱化学方法である。高温(800から1000℃)で、一般に大気圧または弱い正圧で、転化が起こる。(空気または水中の)酸素濃度は、気化中、完全酸化をもたらすには十分でない。従って、大量のCOおよびHが、以下の反応に従って生成される。
C+HO→CO+H
C+CO→2CO
【0070】
バイオマスとして、前述した動物または植物起源の任意の物質を使用することができる。
【0071】
合成ガスから生成された一酸化炭素の蒸気での転化後、水素を精製し、その後、高圧(100から250bar)の触媒アンモニア合成反応器に導入する。
【0072】
アンモニアの調製に使用される水素は、セルロースパルプの合成からの残留液の回収から生ずることもある。セルロース製造からの残留液の気化を特に記載している、Chemrecからの文献FR2544758、EP666831またはUS7294225を参照することができる。
【0073】
メタンは、上述したように、酸素の不在下での動物または植物有機物質の発酵によって生産されるバイオガス(CH/CO)から、このバイオガスを水酸化ナトリウム、水酸化カリウムもしくはアミンの塩基性水溶液で洗浄することにより、またはこの代わりに、加圧下で水で、または溶剤への吸収により、このCOを除去することによって得ることができる。
【0074】
メタノールは、上述したように、バイオマスの発酵によって、または木材の熱分解によって、または動物もしくは植物起源の任意の物質を気化させて一酸化炭素および水素から本質的に構成される合成ガスをもたらし、このガスを水と反応させることによって、またはバイオマスから生産されたメタンの直接酸化によって得ることができる。
【0075】
本発明の主題は、少なくとも以下の工程を含む、メチルメルカプトプロピオンアルデヒドを製造するための方法でもある:
(a)酸性触媒の存在下でグリセロール水溶液を使用するアクロレインへのグリセロールの脱水、
(b)アクロレインに対して15質量%未満、好ましくは7質量%未満およびさらに好ましくは4重量%未満の水を含有するアクロレイン流を得るための、工程(a)から得た水性流の精製、
(c)工程(b)で得たアクロレイン流とメチルメルカプタンとの触媒の存在下での反応、
(d)任意に、工程(c)で得た生成物の精製。
【0076】
本発明の方法に従って生産されたMMPを、工程(c)または(d)の後、工程(e)の間にシアン化水素またはシアン化ナトリウムとの反応に付し、続いて、後続の転化に付して、メチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体を生成することもでき、その後、これらを任意に精製することができる。
【0077】
グリセロールの脱水の第一工程(a)は、反応器内の気相中で触媒の存在下、150℃から500℃にわたるおよび好ましくは250℃と350℃の間の温度で、および10Paと5×10Paの間の圧力で行うことができる。
【0078】
グリセロールの脱水を液相中で行うことができ、この場合、温度は、5×10Paから100×10Paにわたる圧力で150℃と350℃の間である。
【0079】
好ましくは、第一工程を気相で行う。
【0080】
使用する反応器は、固定層として、流動層として、循環流動層として、またはモジュール構造(プレートもしくはバスケット)で、固体酸性触媒の存在下で機能することができる。
【0081】
使用に適している触媒は、均質または多相材料であって、反応媒体に不溶性である、およびK.Tanabeら、in「Studies in Surface Science and Catalysis」,Vol.51,(1989),第1章、2章を参照する、特許US 5387720に示されているような、+2未満の、Hと示される、ハメット酸性度を有するものある。ハメット酸性度は、指示薬を使用してアミン滴定により、または塩基の気相吸収により決定される。+2未満の酸性度判定基準Hを満たす触媒は、天然または合成シリカ含有材料または酸性ゼオライト;一、二、三または多酸の無機酸で被覆された無機支持体、例えば酸化物;酸化物もしくは混合酸化物、または代替的にヘテロポリ酸から選択することができる。
【0082】
これらの触媒は、ヘテロポリ酸の塩によって構成されることもあり、前記ヘテロポリ酸の塩は、ヘテロポリ酸のプロトンが、元素周期表のI族からXVI族に属する元素から選択される少なくとも1つのカチオンと交換されているものであり、これらのヘテロポリ酸の塩は、W、MoおよびVを含む群から選択される少なくとも1つの元素を含有する。
【0083】
混合酸化物には、鉄およびリンに基づくもの、セシウム、リンおよびタングステンに基づくものも挙げることができる。
【0084】
有利には、触媒は、ゼオライト、Nafion(登録商標)複合材(フルオロポリマーのスルホン酸に基づく。)、塩素化アルミナ、リンタングステンおよびケイタングステン酸および酸塩、ならびにボラートBO、スルファートSO、タングスタートWO、ホスファートPO、シリカートSOまたはモリブダートMoOなどの酸官能基を入れた、酸化タンタルTa、酸化ニオブNb、アルミナAl、酸化チタンTiO、酸化ジルコニウムZrO、酸化スズSnO、シリカSiOまたはアルミノケイ酸塩SiO−Alなどの金属酸化物タイプの様々な固体から選択される。文献データによると、これらの触媒は、すべて、+2未満のハメット酸性度Hを有する。
【0085】
好ましい触媒は、硫酸化ジルコニア、リン酸化ジルコニア、タングステン酸化ジルコニア、シリカ含有ジルコニア、酸化チタンもしくは酸化スズ、またはリン酸化もしくはリンタングステン酸化アルミナもしくはシリカである。
【0086】
本発明の方法は、粗グリセロール、即ち、80から90%グリセロール、1%から10%の塩、1%から4%の非グリセロール性有機物質および3%から15%の水を概して含有するもので一般に出発する。方法は、有利には脱塩グリセロールで出発し、この脱塩グリセロールは、当業者に公知の任意の手段、例えば、減圧下での蒸留、または減圧下でのフラッシュ蒸留、または例えば特許出願EP1978009に記載されているようなイオン交換樹脂を使用する分離によって、粗グリセロールから得ることができる。方法は、不均質触媒で触媒される油エステル交換方法によって得られる無塩グリセロールで出発することもできる。方法は、98%、99%または99.5%より高い純度を有する精製グリセロールで出発することもできる。
【0087】
反応器入口では、20%から99%にわたるおよび好ましくは30%と80%の間のグリセロール質量濃度を有するグリセロールと水の混合物を、一般に使用する。
【0088】
グリセロール/水混合物を液体形態または気体形態で、好ましくは気体形態で使用することができる。
【0089】
本発明の1つの好ましい実施形態は、150℃と500℃の間の反応温度に維持された、前に定義したとおりの触媒系の層を通して、気相内に、少なくともグリセロール、水、酸素または酸素を含有するガス、ならびに適切な場合には不活性ガスおよび/または再循環ガスを含有する混合物を送ることに存する。
【0090】
この設備内のいずれの箇所を可燃性領域外になるように酸素の量を選択する。酸素分子とグリセロールとのモル比は、一般に約0.1から1.5および好ましくは0.3から1.0である。
【0091】
有利には、グリセロール脱水反応を酸素の不在下で行うこともできるが、この反応混合物に対して0.1容量%から10容量%にわたる水素の量の存在下、および特許出願US 2008/018 319に記載されているものから選択される触媒の存在下で行うことができる。
【0092】
反応器に送られる投入材料を、約150℃から350℃の予熱温度に予熱することができる。
【0093】
この方法を、ほぼ大気圧の圧力で、および好ましくは、さらに具体的には、わずかに高い圧力で行う。
【0094】
秒で表される接触時間は、触媒層の容量と秒あたりの供給される気体試薬の容量の間の比である。層内に存在する平均温度および圧力条件は、触媒の性質、触媒層の性質、および触媒の寸法に従って変わり得る。一般に、接触時間は、0.1から20秒、および好ましくは0.3から15秒である。
【0095】
工程(a)の後、所望のアクロレイン、水、未反応グリセロール、および副生成物、例えばヒドロキシプロオパノン、プロパンアルデヒド、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、アクリル酸、プロピオン酸、酢酸、ギ酸、アセトン、フェノール、アクロレインとグリセロールの付加体、グリセロール重縮合生成物、環状グリセロールエーテル、ならびに軽質化合物、例えば窒素、酸素、一酸化炭素および二酸化炭素を含有する、水蒸気が得られ、この水蒸気は、液体である場合もあり、または気体である場合もある。これらの生成物の一部は重質化合物であるが、他のものは凝縮性軽質化合物である。他のものについては、これらは、通常用いられる温度および圧力条件下で非凝縮性である軽質化合物である。
【0096】
本発明による方法における工程(b)は、アクロレインに対して15質量%未満、好ましくは7質量%未満およびさらに好ましくは4質量%未満の水を含有するアクロレイン流、即ち0.15未満、好ましくは0.07未満およびさらに好ましくは0.04未満の水/アクロレイン質量比を得るように水性流を精製することに存する。
【0097】
第一の代案によると、工程(b)は、アクロレインを含有する流れの精製に存し、この精製は、非凝縮性物質を塔頂留分として通過させるためおよびアクロレイン希薄水溶液を塔テール留分として回収するために、水または再循環水性流への吸収、その後、80質量%より多くのアクロレインおよび該アクロレインに対して15質量%未満の水、好ましくは90質量%より多くのアクロレインおよび該アクロレインに対して7質量%未満の水、ならびにさらに好ましくは95質量%より多くのアクロレインおよび該アクロレインに対して4質量%未満の水を含む気体または液体流を塔頂留分として得るために、蒸留による水/アクロレイン分離を含む。
【0098】
工程(a)を出て行く水性流を、1つ以上の熱交換器によって冷却することができる。
【0099】
その後、これを水または再循環水性流に吸収して、7質量%未満のアクロレインを通常含有するアクロレイン希薄水溶液を形成する。この吸収は、充填塔またはプレート塔において、好ましくは向流式で行うことができる。有利には、非凝縮性軽質化合物、例えば窒素、酸素、一酸化炭素および二酸化炭素を塔の頂部から除去する。
【0100】
その後、アクロレイン水溶液を蒸留によって分離する。これを行うために、例えば特許US3433840に記載されているような、一連の蒸留塔を使用することができ、または例えば文献EP1300384およびEP1474374に記載されているような、単一塔を使用することができる。この蒸留は、一方では、主として水からなる流れの回収、および他方では、75%より高いアクロレインの質量含有率および該アクロレインに対して15%未満の水の質量含有率、ならびに好ましくは82%より多いアクロレインおよび該アクロレインに対して7%未満の水、ならびに好ましくは95%より多いアクロレインおよび該アクロレインに対して4%未満の水を有する気体または液体流の回収を可能にする。この最終流を工程(c)に送る。
【0101】
主として水からなる流れは、アクロレインの沸点より高い沸点を有する重質不純物も含有する。この水性流の大部分を吸収工程に再循環させ、この流れの小部分を除去して、この水ループの重質化合物を分散する。アクロレインの沸点より低い沸点を有する軽質副生成物、例えばアセトアルデヒドは、蒸留の際に塔頂留分として除去されるか、工程(c)に送られるアクロレイン流内に残存し、MMPの精製の工程(d)の間に除去される。軽質副生成物を蒸留塔の塔頂留分として除去するとき、75%より高いアクロレインの質量含有率および該アクロレインに対して15%未満の水の質量含有率、ならびに好ましくは82%より多いアクロレインよび該アクロレインに対して7%未満の水、ならびに好ましくは95%より多いアクロレインおよび該アクロレインに対して4%未満の水を有する気体または液体流を、例えば文献EP1300384に記載されているように塔供給材料と塔頂の間に位置する中間プレートで取り出しによって有利に回収することができる。
【0102】
任意に、工程(a)を出て行く水性流が気体であるとき、工程(a)を出て行く水性流に対して行われる冷却は、アクロレインが主として気体形態のままであるような、およびこれが、水一部分と、例えばアクリル酸およびグリセロールをはじめとする水の沸点より高い沸点を有する化合物大部分とを含有する液相を形成するような温度で行うことができる。この温度は、概して50℃と100℃の間である。その後、この液相を、アクロレインの大部分を含有する気相から分離する。この冷却工程を充填塔またはプレートカラム内で行うこともできる。液体、例えば水溶液の小さな流れをこの塔の頂部に注入することができる。重質不純物、例えばグリセロールおよびアクリル酸を含有する液体の流れをこの底部で回収する。アクロレインの大部分を含有する水性気体流が、この塔の頂部から出て行く。その後、アクロレインを含有する気体流は、前に説明したように、水に吸収される。
【0103】
第二の代案によると、工程(b)は、工程(a)において得たアクロレインを含有する気体水性流の部分精製からなり、この部分精製は、前記気体流の冷却、ならびに多量の水とアクロレインとからなる液体流と、アクロレインに対して15質量%未満の水、好ましくはアクロレインに対して7質量%未満の水および好ましくはアクロレインに対して4質量%未満の水を含有する気体流との分離を含む。特許EP022697に記載されているように、洗浄塔において少量の水で工程(a)を出て行く気体水性流の第一洗浄を行ってアクリル酸を除去し、その後、この流れを一般に0℃から50℃にわたる温度に冷却して水性相を凝縮し(アクロレインの大部分は気体形態のままである。)、その後、この水性相をストリッピングして、水に捕捉されたアクロレインを除去することができる。
【0104】
特許EP751110に記載されているような冷却塔を使用することもできる。工程(a)を出て行く気体流を塔の底部に導入し、この底部で、温度が気体供給混合物の露点より数度低い液体を取り出し、この液体を一部冷却してこの塔の頂部に注入し、この液体の他の部分をストリッピング塔に送って、アクロレインを回収する。ストリッピング塔の頂部で得た気体流を気体供給流と共に冷却塔に戻す。冷却塔の頂部を出て行く気体流を一般に0℃から50℃の温度に冷却し、凝縮された液体を冷却塔の頂部に戻す。
【0105】
これらの2つの装置は、アクロレインに対して15質量%未満の水、好ましくはアクロレインに対して7質量%の水および好ましくはアクロレインに対して4質量%の水を含有する、アクロレインと軽質不純物と非凝縮性ガスとの混合物の獲得を可能にする。アクロレインが、非凝縮性ガスからまたは軽質不純物から分離されていない限り、工程(c)において非凝縮性物質の分離を行い、および工程(d)において軽質不純物の分離を行う。
【0106】
第三の代案によると、工程(b)は、工程(a)を出て行くアクロレイン流の蒸留による精製からなる。この第三の代案は、有利には、工程(a)を出て行く流れが非凝縮性ガスを殆ど含有しないときに行う。
【0107】
工程(a)を出て行く気体流を、1つ以上の熱交換器を使用して一部冷却する。その後、これを蒸留塔に注入し、この蒸留塔は、この蒸留塔の頂部から出て行く流れを1から3barの圧力で−10℃から20℃の温度に冷却するための凝縮器と、100℃から130℃の塔底温度をもたらすためのリボイラとを具備する。この塔の還流レベルは、有利には2から30である。水および重質不純物からなる流れをこの底部で回収する。塔頂凝縮器の出口で、非凝縮性物質(窒素、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素)からなる気相を回収し、除去し、ならびに75質量%より多くのアクロレインおよび該アクロレインに対して15質量%の水、好ましくは82質量%より多くのアクロレインおよび該アクロレインに対して7質量%未満の水、ならびにさらに好適には95%より多くのアクロレインおよび該アクロレインに対して4質量%未満の水からなる液相を回収する。この液相の大部分を還流のために塔に戻し、および一部は取り出して工程(c)に供給する。または、蒸留塔の塔頂凝縮器は、より高温で、30℃から80℃で、機能することができる。この場合、この凝集器を出て行く液体流を還流のために塔に戻し、アクロレインおよび非凝縮性物質を含む気体流を、−10℃から+20℃の温度で機能する第二凝縮器において冷却して、非凝縮成分(窒素、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素)からなる気相を回収し、これを除去し、ならびに75質量%より多くのアクロレインおよび該アクロレインに対して15質量%の水、好ましくは82質量%より多くのアクロレインおよび該アクロレインに対して7質量%未満の水、ならびにさらに好適には95%より多くのアクロレインおよび該アクロレインに対して4質量%未満の水からなる液相を回収する。任意に前記液相を、追加の精留に付してこの含水量を減少させることができ、および/またはトッピングに付して、この軽質留分含有量を減少させることができる。
【0108】
本発明による方法における工程(c)は、工程(b)において得た液体または気体アクロレインを触媒の存在下でメチルメルカプタンと反応させることに存する。この反応は、液相において、塩基性触媒の存在下、一般には溶剤の不在下、好ましくは20℃から60℃にわたる温度で、わずかに過剰なMSHを用いて行う。使用することができる触媒の例としては、有機酸と任意に併用される有機塩基が挙げられる。挙げることができる例としては、特許出願WO96/40631に記載されているものなどのアミン、文献EP1556343に記載されているN−アルキルモルホリンタイプの有機塩基、または文献EP1408029に記載されている、0.3/1未満のモル比の塩基性化合物と酸性化合物からなる系が挙げられる。好ましくは、酢酸と併用されるピリジンを触媒として使用する。
【0109】
この反応を様々な方法で、回分または連続方式で行うことができる。液体または気体アクロレインおよびメチルメルカプタンを反応器または反応塔に同時に(一時的にもしくは空間的に)または逐次的に導入する。有利には、これらを、先行のバッチから生ずるMMPの供給原料に導入し、または反応を連続的に行う場合には再循環MMP流に導入する。多くの方法が記載されており、この工程(c)を行うために用いることができる。
【0110】
メチルメルカプタンとの反応を行うために使用するアクロレイン流の精製の結果として、グリセロールからMMPを製造するための直接方法で得られるものより一般に高い、MMPの高い収量を得ることができる。
【0111】
このようにして得たMMPをこの形態で使用することができ、または工程(d)において、例えば蒸留により、精製することができる。軽質不純物および重質硫黄生成物をこのようにして分離し、その後、焼却する。
【0112】
文献「Techniques de l’lngenieur,Traite Genie des procedes」,J 6 410−1 to 9に記載されているように、任意に精製されたMMPとシアン化水素またはシアン化ナトリウムとの反応を、ブヘラまたはストレッカー合成に従って、当業者に周知の条件下で行って、反応生成物の転化後、メチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体のいずれかを得る。
【0113】
本発明の方法の1つの好ましい実施形態によると、工程(e)を、炭酸アンモニウムの存在下でMMPとシアン化水素を反応させることによって行って、ヒダントイン化合物を形成し、その後、炭酸水素カリウムまたは炭酸カリウムで鹸化してメチオニン酸カリウムをもたらし、炭酸での酸性化後、結晶化するD,L−メチオニンをもたらす。
【0114】
本発明の方法のもう1つの実施形態によると、工程(e)を、ピリジン触媒またはピリジンと酢酸の併用物のもとでMMPとHCNを反応させることによって行って、ヒダントイン化合物をもたらし、その後、これを、第一の低温(約50℃)および第二のより高い温度(約100℃)を用いる2つの連続工程で、硫酸媒体中で加水分解する。その後、メチオニンのヒドロキシ類似体を、例えばメチルイソブチルケトンもしくはメチルエチルケトンなどの溶剤での抽出によって、または硫酸で酸性化し、その後、デカントして硫酸アンモニウムを除去し、その後、メチオニンのヒドロキシ類似体を結晶化させることによって単離する。
【0115】
本発明の方法に従って得られるメチオニン(またはメチオニンのヒドロキシ類似体)を、家禽用飼料または動物用飼料のための組成物を調製するために使用する。
【0116】
以下の実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。以下の実施例は、単に例証のために与えるものであり、いかなる点においても限定的ではない。
【0117】
実施例
【実施例1】
【0118】
20質量%のグリセロール(742g/時)を含有する水溶液を、350℃の表面温度を有する交換器にこれを通すことによって気化させ、その後、320℃に維持したおよび537gのタングステン酸化ジルコニア(バッチZ1044 Dai Ichi Kigenso)を含有する、30mmの内径を有する管形固定層式反応器に、大気圧で空気流と共に1時間につき100標準リットルの流量で注入する。
【0119】
742g/時の水を頂部に注入して循環させる、および塔頂温度が20℃になるように外部交換器を具備する吸収塔に、吸収した熱ガスを送る。その後、約5%アクロレインを含有する液体流を、大気圧で機能する蒸留塔に注入する。気相を凝縮し、約85%アクロレイン、2.4%ホルムアルデヒド、8%アセトアルデヒド、1.2%プロピオンアルデヒド、0.2%アセトン、0.2%アリルアルコールおよび3%水を含有する87g/時の液体を回収する。
【0120】
50gのMMP供給材料を500mL反応器に導入し、その後、酢酸中48質量%でのピリジンの混合物1.7gを導入する。60℃の反応温度で、上で得た85%アクロレイン溶液200gと、99.5%メチルメルカプタン149.8gとを攪拌しながら30分にわたって同時に導入し、その後、この混合物をさらに10分間、この温度で放置して反応させ、その後、15mmHgの減圧下でこれを精留する。99%の推定純度を有するMMPの約65℃で沸騰する留分353gを回収する。アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アセトンおよびアリルアルコールをより低い温度で蒸留除去する。MMPへのグリセロールの転化についての化学収率は78%である。バイオマスに由来するメチルメルカプタンを使用することにより、100%の再生可能炭素を含有するMMPを得ることができる。
【実施例2】
【0121】
7.8%アンモニアと12.4%二酸化炭素とを含有する炭酸アンモニウム水溶液860gを密閉型反応器に導入する。激しく攪拌しながら90℃に加熱した後、実施例1において生成した105gのMMPおよび28.5gのシアン化水素を徐々に注入する。この混合物を110℃で1時間維持する。この反応器を80℃に冷却し、ゆっくりと脱気して、5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを含有する混合物を大気圧にする。900gの40%炭酸水素カリウム溶液を添加し、この混合物を8bar下、180℃で20分間維持する。その後、この混合物を大気圧に徐々に脱気し、水の一部を蒸発させて、この混合物が約20%メチオニン酸カリウムを含有するようにする。その後、これを約25℃に冷却し、二酸化炭素を2から3barの圧力で注入して、このpHを5.6に低下させる。懸濁液を得、これを濾過する。回収した固体を洗浄し、その後、乾燥させる。98gのD,L−メチオニンを回収する。濾液を回収し、濃縮し、これを、5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを含有する溶液に再循環させることができる。
【実施例3】
【0122】
実施例1において生成した420gのMMPと、酢酸中48%でのピリジンの混合物1.7gとを攪拌反応器に導入する。温度を35℃と40℃の間に保持しながら111gのシアン化水素を45分間にわたって注入し、その後、30分間、45℃で加熱する。2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸から主としてなる、この得られた混合物を、66%硫酸を含有する591gの水溶液に、45分間にわたって60℃で添加する。この混合物を10分間、65℃で攪拌し、その後80℃の380gの熱水を添加し、この混合物を2時間、90℃で攪拌する。その後、この反応混合物を1480gのメチルイソブチルケトンで抽出する。その後、上の相を真空下、70℃で蒸発させて、水中88%で637gの2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸(メチオニンのヒドロキシ類似体)を得る。
【実施例4】
【0123】
33%グリセロール(450g/時)を含有する水溶液を、これを350℃の表面温度を有する交換器に通すことによって気化させ、その後、320℃に維持したおよび537gのタングステン酸ジルコニア(バッチZ1044 Dai Ichi Kigenso)を含有する、30mmの内径を有する管形固定層式反応器に、1時間につき100標準リットルの空気流および1時間の50標準リットルの二酸化炭素流と共に、大気圧で注入する。
【0124】
再循環によって外から冷却しながら、特許EP751110に記載されているものに類似した冷却塔の底部にこの熱ガスを送る。この塔底温度は65℃である。このテール水溶液を90℃にし、緩やかな窒素流でストリッピングして、150ppmのアクロレインを含有する水溶液を底部で得る。このストリッピングから得たガス(窒素、アクロレインおよび水を含む)を冷却塔に送る。
【0125】
窒素、CO、CO、アセトアルデヒドおよびOの混合物中に16mol%のアクロレインと、1.5mol%の水(即ち、0.035の水/アクロレイン質量比)を含む、冷却塔頂部から出てくるガスを、−10℃に冷却したMMPを頂部に供給した吸収塔の底部に送る。この塔テール留分を連続攪拌反応器に送り、これに、64.5g/時のメチルメルカプタンと、酢酸中48質量%のピリジンの混合物0.8g/時とを注入する。液相で反応を行う。生成されたMMPを15mmHgの減圧下で精留し、約65℃で沸騰する留分を得る。
【0126】
グリセロールのMMPへの転化についての化学収率は76%である。
【実施例5】
【0127】
25%グリセロール(742g/時)を含有する水溶液を、これを350℃の表面温度を有する交換器に通すことによって気化させ、その後、320℃に維持したおよび500gのタングステン酸ジルコニア(バッチZ1044 Dai Ichi Kigenso)を含有する、30mmの内径を有する管形固定層式反応器に、1時間につき10標準リットルの酸素流と共に、2.8絶対barで注入する。
【0128】
この反応器を放れる熱ガスを150℃に冷却し、その後、2絶対barで67℃に冷却する凝縮用頂部を具備する10プレート蒸留塔の上部1/3に送る。この塔の底部で、水と重質不純物を含有する630g/時の流れを回収する。頂部凝縮器の出口で、液相(1540g/時)を回収し、全部をこの塔に再注入し、気体流を回収する。前記気体流を第二凝縮器によって5℃に冷却し、これによって非凝縮性物質(CO、COおよびO)を脱出させ、83%アクロレインと5.5%水とを含有する液体108g/時を回収することができる。
【0129】
このアクロレイン流、およびメチルメルカプタン80g/時と酢酸中10質量%でのピリジンの混合物0.8g/時の流れを、30℃に冷却したおよび底部を放れる液体の一部の頂部への再循環を備えた充填塔に注入する。その後、底部から放れる液体の上部をトッピングし、15mmHgの減圧下で精留して、98%の純度を有するMMPからなる約65℃で沸騰する留分を回収する。
【0130】
グリセロールのMMPへの転化についての化学収率は75%である。
【実施例6】
【0131】
(比較例)
20質量%のグリセロール(742g/時)を含有する水溶液を、350℃の表面温度を有する交換器にこれを通すことによって気化させ、その後、320℃に維持したおよび537gのタングステン酸化ジルコニア(バッチZ1044 Dai Ichi Kigenso)を含有する、30mmの内径を有する管形固定層式反応器に、大気圧で空気流と共に1時間につき100標準リットルの流量で注入する。
【0132】
742g/時の水を頂部に注入して循環させる、および塔頂温度が20℃になるように外部交換器を具備する吸収塔に、吸収した熱ガスを送る。その後、約5%アクロレインを含有する液体流を、実施例1の場合より数枚少ないプレートを具備する、大気圧で機能する蒸留塔に注入する。気相を凝縮し、約73.5%アクロレイン、2.0%ホルムアルデヒド、6.9%アセトアルデヒド、1.0%プロピオンアルデヒド、0.2%アセトン、0.2%アリルアルコールおよび16.2%水(即ち、アクロレインに対して22質量%の含水量)を含有する101g/時の液体を回収する。
【0133】
50gのMMP供給材料を500mL反応器に導入し、その後、酢酸中48質量%でのピリジンの混合物1.7gを導入する。60℃の反応温度で、上で得た73.5%アクロレイン溶液200gと、99.5%メチルメルカプタン139gとを攪拌しながら30分にわたって同時に導入し、その後、この混合物をさらに10分間、この温度で放置して反応させ、その後、15mmHgの圧力下でこれを精留する。98%の推定純度を有するMMPの約65℃で沸騰する留分161gを回収する。グリセロールのMMPへの転化についての化学収率は33%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクロレインにメチルメルカプタンを付加させることによりメチルメルカプトプロピオンアルデヒドを製造するための方法であって、この反応に用いられるアクロレインおよびメチルメルカプタンのうちの少なくとも1つが、バイオマスから出発する反応または一連の反応によって得られることを特徴とする方法。
【請求項2】
メチルメルカプタンをアクロレインに添加させることによって得られたものであるメチルメルカプトプロピオンアルデヒドとシアン化水素またはシアン化水素のナトリウム塩とを反応させることによってメチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体を製造するための方法であって、用いられるアクロレイン、メチルメルカプタンおよびシアン化水素のうちの少なくとも1つが、バイオマスから出発する反応または一連の反応によって得られることを特徴とする方法。
【請求項3】
アクロレインが、グリセロールを脱水することによって得られることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
メチルメルカプタンが、硫化水素をメタノールと反応させることによって得られ、メタノールが、木材の加水分解によってもしくはバイオマスの発酵によって、または動物もしくは植物起源の任意の物質を気化させて一酸化炭素および水素から本質的に構成される合成ガスをもたらし、これを水と反応させることによって、またはバイオマスから生産されるメタンの直接酸化によって得られたものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
メチルメルカプタンが、バイオマスに由来する合成ガスCO/Hと硫化水素との直接反応によって得られることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
シアン化水素が、アンモニアとメタンまたはメタノールとを、任意に空気および/または酸素の存在下で、反応させることによって得られ、試薬の少なくとも1つが、バイオマスから得られたアンモニア、メタンおよびメタノールから選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
アンモニアが、バイオマスの気化の結果として生ずる合成ガスCO/H由来する水素から得られることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
メタンが、酸素の不在下で動物または植物性有機物の発酵によって生産されるCH/COから得られ、COが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムもしくはアミンの塩基性水溶液を使用して洗浄することによって、またはこの代わりに、加圧下で水で、もしくは溶剤への吸収によって、除去されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
メタノールが、バイオマスの発酵によって、または木材の加水分解によって、または動物もしくは植物起源の任意の物質を気化させて一酸化炭素および水素から本質的に構成される合成ガスをもたらし、これを水と反応させることによって、またはバイオマスから生産されたメタンの直接酸化によって得られることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
以下の工程を少なくとも含む、請求項1に記載のメチルメルカプトプロピオンアルデヒドを製造するための方法:
(a)酸性触媒の存在下でグリセロール水溶液を使用するアクロレインへのグリセロールの脱水、
(b)アクロレインに対して15質量%未満、好ましくは7質量%未満およびさらに好ましくは4重量%未満の水を含有するアクロレイン流を得るための、工程(a)から得た水性流の精製、
(c)工程(b)で得たアクロレイン流とメチルメルカプタンとの触媒の存在下での反応、
(d)任意に、工程(c)で得た生成物の精製。
【請求項11】
以下の工程を少なくとも含む、請求項2に記載のメチオニンまたはメチオニンのヒドロキシル類似体を製造するための方法:
(a)酸性触媒の存在下でグリセロール水溶液を使用するアクロレインへのグリセロールの脱水、
(b)アクロレインに対して15質量%未満、好ましくは7質量%未満およびさらに好ましくは4質量%未満の水を含有するアクロレイン流を得るための、工程(a)から得た水性流の精製、
(c)工程(b)で得たアクロレイン流とメチルメルカプタンとの触媒の存在下での反応、
(d)任意に、工程(c)で得た生成物の精製、
(e)工程(c)または(d)で得た生成物とシアン化水素またはシアン化ナトリウムとの反応、
(f)工程(e)で得た生成物のメチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体への転化、およびこの精製。
【請求項12】
工程(b)が、非凝縮性物質を塔頂留分として去らせるためおよびアクロレイン希薄水溶液を塔底留分として回収するために、水または再循環水性流への吸収、その後、80質量%より多くのアクロレインおよび該アクロレインに対して15質量%未満の水を含む気体または液体流を塔頂留分として得るために、蒸留による水/アクロレイン分離を含むことを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
工程(b)が、工程(a)で得たアクロレインを含有する気体水性流を部分精製することに存し、この精製が、前記気体流の冷却、ならびに多量の水およびアクリル酸からなる液体流と、アクロレインに対して15質量%未満、好ましくは7質量%未満およびさらに好ましくは4質量%未満の水を含有するガス流との分離を含むことを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項14】
工程(b)が、工程(a)を出て行くアクロレイン流を蒸留によって精製することに存することを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項15】
工程(c)が、液相中、塩基性触媒の存在下、溶剤の不在下で、好ましくは20℃から60℃にわたる温度で、わずかに過剰なMSHを用いて行われることを特徴とする、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項10および12から15のいずれか一項に記載の方法に従って得ることができる、メチルメルカプトプロピオンアルデヒド。
【請求項17】
請求項11から15のいずれか一項に記載の方法に従って得ることができる、メチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体。
【請求項18】
家禽用飼料または動物用飼料のための組成物における、請求項17に記載のメチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体の使用。

【公表番号】特表2012−509304(P2012−509304A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536928(P2011−536928)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052220
【国際公開番号】WO2010/058129
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】