説明

再生多層ポリエステルシート

【課題】 市場回収ポリエステル系樹脂(「回収PS樹脂」という)を原料としつつ、優れた透明性、成形性及び耐熱性を備えた再生多層ポリエステルシートを提供する。
【解決手段】 回収PS樹脂をシート全体の25質量%以上使用してなる再生ポリエステルシートを、回収PS樹脂1〜60質量%とポリカーボネート樹脂(「PC樹脂」という)、或いは、PC樹脂とポリエステル系樹脂とのポリマーアロイ樹脂を99〜40質量%含有する基体層(A)と、所定量の共重合ポリエステル系樹脂及び所定量の屈折率1.4〜1.7の不活性粒子を含有する被覆層(B)と、を積層して形成した。自動販売機内に配設されるタバコや飲料缶などのディスプレイ体、バックライト付き広告表示板などの成形用シートとして好適に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、市場から回収される市場回収ポリエステル系樹脂を原料としてなる再生ポリエステルシートに関する。特に自動販売機内に配設されるタバコなどのディスプレイケースや飲料缶などのディスプレイ缶、バックライト付き広告表示板などに好適に使用される、2次加工性の優れた再生ポリエステルシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系樹脂、中でもポリエチレンテレフタレート(以下PETともいう)は本来的には結晶性であるため、シ−ト形成時の加熱条件・冷却条件などによって結晶化することがあり、熱成形などの二次加工が困難となったり、機械的強度が低下したり、透明性を失ったりすることがある。特に市場から回収された使用済みPET樹脂は、品質にばらつきがあることがあるため、結晶化に由来する諸問題がより顕著に生じることになる。
また、PET樹脂は、溶融粘度が低くメルトテンシヨンが低いため、溶融押出によってシ−トを成形することが容易ではないが、使用済みPET樹脂の場合、加水分解によってさらに低粘度となっているため、溶融押出によるシート成形はより一層難しいものとなる。
【0003】
従来、市場から回収した使用済みポリエステル系樹脂をシート原料とする際の諸問題を解決するため、次のような提案が為されている。
【0004】
例えば特許文献1(特開平7−268113号公報)には、市場回収PET樹脂を原料とするポリエステルシートは、高度に結晶化していて弾性に乏しく、衝撃性が小さくなるため、この点を改善すべく、市場回収PET樹脂50〜90質量%に、加熱時に結晶化するPETの傾向を小さくするための添加剤としてゴム5〜20質量%、さらに不活性充填剤10〜45質量%を含有させてなる成形シートが提案されている。
【0005】
特許文献2(特開平8−302170号公報)には、使用済みPET樹脂単独では、溶融状態での粘度、メルトテンシヨンが非常に低く、それ単独では厚めのシートに押し出すことが困難なので、メルトフローレート(JISK6760、g/10分)が0.1以下のポリエチレン樹脂を10〜50質量部、相溶化剤を1〜10質量部、および非晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂を10〜50質量部混合してなる再生ポリエステル系樹脂組成物をシート状に溶融押出してロールによりニップしながら冷却することを特徴とする熱成形用シートが提案されている。
【0006】
特許文献3(特開2000−297162号公報)には、使用済みPETに耐熱性及び耐衝撃性を付与するため、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする再生品原料57〜96質量%に対して、ポリオレフィン樹脂1〜8質量%と、ポリエステル系エラストマー樹脂3〜35質量%と、変性ポリオレフィン樹脂1質量%未満とを添加して成るポリエステル系シートが提案されている。
【0007】
特許文献4(特開2003−119355号公報)には、加熱成形時に結晶化が殆ど進行しないことにより成形性に優れ、機械的強度に優れた成形体を得るため、(A)ポリエチレンテレフタレートを主成分とする再生樹脂と、(B)グリコール成分の10モル%以上がネオペンチルグリコールによって変性されているポリエチレンテレフタレート樹脂とを含有するポリエステル系樹脂シートが提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開平7−268113号公報
【特許文献2】特開平8−302170号公報
【特許文献3】特開2000−297162号公報
【特許文献4】特開2003−119355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自動販売機内に配設されるタバコや飲料缶などのディスプレイ体、バックライト付き広告表示板などを形成するために用いる成形用シートには、一般的に、透明性及び成形性と共に、太陽光やバックライトや飲料の加熱ヒーターなどの熱に耐え得る耐熱性が要求される。
【0010】
従来、この種の用途にはポリカーボネート樹脂が多く使用されてきた。また、一部ではあるが、2軸延伸PETフィルムやAPETシート(非結晶性エチレンテレフタレート系の樹脂シート)なども使われている。
しかし、ポリカーボネート樹脂を用いた場合、ガラス転移温度が高くなるために成形温度域を高くする必要があり、シート成形が容易でなく、熱成形に要する時間や成形サイクルが長くなるという課題があった。また、滑り性に劣るため、印刷機や加工機への給紙性が充分でないという課題も抱えていた。さらにまた、2軸延伸PETフィルムの場合には特に成形性が問題となり、APETシートの場合には特に耐熱性が問題となることが多かった。
【0011】
そこで本発明は、市場から回収される市場回収ポリエステル系樹脂を原料としつつ、優れた透明性及び成形性(特に2次加工性)を備え、しかも自販機内の熱に耐え得る耐熱性を備えた再生多層ポリエステルシートを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、市場から回収された市場回収ポリエステル系樹脂をシート全体の25質量%以上使用してなり、基体層(A)と当該基体層(A)の少なくとも片面に積層してなる被覆層(B)とを備えた再生多層ポリエステルシートであって、
基体層(A)は、市場回収ポリエステル系樹脂1〜60質量%と、ポリカーボネート樹脂を、或いは、ポリカーボネート樹脂とポリエステル系樹脂とのポリマーアロイ樹脂を99〜40質量%含有してなり、
被覆層(B)は、ジオール成分、ジカルボン酸成分及び共重合成分からなる共重合ポリエステル系樹脂と、屈折率1.4〜1.7の不活性粒子とを含有し、被覆層(B)を構成する樹脂の合計量に対して前記共重合成分を4モル%以上含有し、且つ被覆層(B)の全質量100質量部に対して前記不活性粒子を0.05〜1質量部含有してなることを特徴とする再生多層ポリエステルシートを提案する。
【0013】
本発明の再生多層ポリエステルシートは、市場から回収した使用済みPET樹脂を原料としつつも、優れた透明性と熱成形性などの2次加工性を備え、しかも自販機内の熱に耐え得る耐熱性を備えている。さらに、共重合ポリエステル系樹脂に不活性粒子を配合してなる層を被覆層として備えているから、シート表面に凹凸が形成され給紙性に優れ、しかもブロッキングが防止されてインキの裏写りも無いから、自動販売機内に配設されるタバコや飲料缶などのディスプレイ体、バックライト付き広告表示板などの成形用シートとして好適に用いることができる。
【0014】
本発明の再生多層ポリエステルシートは、シート表面に絵柄層を形成することにより広告表示用シートとしたり、シート表面に絵柄層を形成しこれを折り曲げ加工してディスプレイ用ケースとしたり、シート表面に絵柄層を形成しこれを熱成形してディスプレイ用成形加工品を形成したりすることができ、上記の如く透明性及び耐熱性に優れているため、特に自動販売機内に配設するディスプレイ用ケースやディスプレイ用成形加工品、例えばバックライト付き広告表示板や、タバコなどのディスプレイケース、飲料缶などのディスプレイ缶などに好適に利用することができる。但し、これらの用途に限定するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係る再生多層ポリエステルシートは、市場から回収された市場回収ポリエステル系樹脂をシート全体の25質量%以上使用してなる再生多層ポリエステルシートであり、その具体的構成は、市場回収ポリエステル系樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂組成物、或いは市場回収ポリエステル系樹脂とポリカーボネート樹脂及びポリエステル系樹脂からなるポリマーアロイ樹脂との混合樹脂組成物を主成分としてなる基体層(A)と、当該基体層(A)の少なくとも片面に積層してなる被覆層(B)であって、共重合ポリエステル系樹脂と不活性粒子とを含有してなる樹脂組成物を主成分としてなる被覆層(B)と、を備えた再生多層ポリエステルシートである。
【0017】
なお、本発明において「主成分」の意味は、その成分がその機能を発揮し得る限り、主成分以外の成分が含まれることを許容する意を包含するものであり、具体的に含有量範囲を限定するものではないが、質量或いはモル比率において50%以上、好ましくは70%以上、中でも好ましくは90〜100%を占める成分であることが一つの目安となる。
【0018】
(基体層(A))
基体層(A)は、市場回収ポリエステル系樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂組成物、或いは、市場回収ポリエステル系樹脂とポリカーボネート樹脂及びポリエステル系樹脂からなるポリマーアロイ樹脂との混合樹脂組成物から形成することができる。
【0019】
基体層(A)において、市場回収ポリエステル系樹脂とポリカーボネート樹脂との割合は、質量比率で1:99〜60:40の範囲にあることが重要であり、好ましくは1:99〜50:50、特に好ましくは1:99〜40:60の範囲内である。ポリカーボネート樹脂の配合割合が50質量%以上であれば、熱変形などの耐熱性がより一層優れたものとなり、さらに60質量%以上であれば透明性がより一層優れたものとなる。
【0020】
[市場回収ポリエステル系樹脂]
市場回収ポリエステル系樹脂は、市場から回収されたプラスチックボトル、プラスチックシート、カップやトレイを含むプラスチック容器など、使用済プラスチック製品として市場から回収されたプラスチック製品から得られるポリエステル系樹脂であり、その樹脂組成としては、ジカルボン酸成分とジオール成分とが等モルで縮重合してなる樹脂であればよい。
【0021】
市場回収ポリエステル系樹脂のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸が代表例であるが、テレフタル酸の一部が他のジカルボン酸で置換されたものでも良い。この他のジカルボン酸の成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ネオペンチル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、p−オキシ安息香酸などが挙げられる。なお、用いられる他のジカルボン酸成分は、これらのうちの一種でも、或いは二種類以上の組合せからなる混合物であってもよく、また、置換される他のジカルボン酸の量は任意である。
【0022】
市場回収ポリエステル系樹脂のジオール成分としては、エチレングリコールが代表例であるが、エチレングリコールの一部が他のジオール成分で置換されたものでもよい。この他のジオール成分としては、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロール、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。なお、用いられる他のジオール成分は、これらのうちの一種でも、或いは二種類以上の組合せからなる混合物であってもよく、また、置換される他のジオール成分の量は任意である。
【0023】
市場回収ポリエステル系樹脂の好ましい例としては、テレフタル酸とエチレングリコールとが縮合重合してなるポリエチレンテレフタレートのほか、ポリエチレンテレフタレートのテレフタル酸の一部が上記の如き他のジカルボン酸成分に変更されたエチレンテレフタレート系共重合ポリエステル系樹脂、或いはポリエチレンテレフタレートのエチレングリコールの一部が上記の如き他のジオール成分に変更されたエチレンテレフタレート系共重合ポリエステル系樹脂などのエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルを挙げることができる。
中でも好ましいエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルとしては、ジカルボン酸成分の60モル%以上がテレフタル酸であり、残りのジカルボン酸成分が他のジカルボン酸成分で置換されたジカルボン酸成分と、ジオール成分の60モル%以上がエチレングリコールで、残りのジオール成分が他のジオール成分で置換されたジオール成分とが縮合重合してなるポリエステルが挙げられる。
【0024】
なお、基体層(A)に用いる市場回収ポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレートと上記のエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルとの混合物であってもよいし、又、複数種類のエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルの混合物であってもよい。
【0025】
上記のような市場回収ポリエステル系樹脂の中でも、固有粘度が0.4以上のもの、特に0.5以上のものが、基体層(A)に用いる市場回収ポリエステル系樹脂として好ましい。この数値範囲の固有粘度の市場回収ポリエステル系樹脂を用いることにより、最終製品の機械的強度が高くなり、特に低温状態における衝撃強度がより一層優れたものとなるため、実用上好ましい。
【0026】
市場回収ポリエステル系樹脂の多くは、市場にて販売されている食品や飲料などの容器として使用されているPET製の透明容器、カップ、トレイやPETボトルなどの使用済み容器から回収される再生材料である。この際、市場回収ポリエステル系樹脂の再生方法は特に制限されるものではない。一般的には、例えば全国各地の自治体やスーパーなどで分別収集された回収製品、或いは廃品回収業者やリサイクル業者等の専門業者が収集した回収製品などから異種の樹脂や樹脂以外の異種材料等を除去(分別)し、粉砕、洗浄、乾燥して得られたフレーク状或いはそれを押出機等を用いて再ペレット化した物等を用いることができる。
【0027】
なお、市場回収ポリエステル系樹脂は、市場からの回収過程を経る性質上、上記のようなポリエステル系樹脂以外の樹脂、例えばPETボトルであればラベルやキャップが他の樹脂製であったり、容器の一部が他の樹脂製であったり、PETシートに非樹脂性材料が混入されていたりするなど、目的とする樹脂以外の樹脂が混入していることがある。特に最近では、ホット飲料用の容器などのように異種材料からなる樹脂層を積層してなるPETボトルなども市場に出回っており、異種樹脂や異種材料が少量混入していることは市場回収ポリエステル系樹脂の特徴とも言える。ただし、好ましくはこれら異種樹脂及び異種材料の混入割合は3%未満、より好ましくは1%未満であるものを使用するのがよい。
【0028】
[ポリカーボネート樹脂]
ポリカーボネート樹脂は、例えばビスフェノール化合物を原料として周知の方法で製造されたものを使用することができるが、その平均分子量は15000〜30000の範囲のものが好ましい。
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、市場回収ポリエステル系樹脂より20℃以上高いもの、特に25℃以上高いものが好ましい。
また、ポリカーボネート樹脂の熱変形温度(荷重たわみ温度ともいう)は、市場回収ポリエステル系樹脂より20℃以上高いもの、中でも25℃以上高いものが好ましい。この際のガラス転移温度又は熱変形温度の測定方法は、ガラス転移温度についてはJIS K7121に準拠し、熱変形温度については、荷重たわみ温度JIS K7191に準拠して測定することができる。
【0029】
[ポリカーボネート樹脂及びポリエステル系樹脂からなるポリマーアロイ樹脂]
基体層(A)は、市場回収ポリエステル系樹脂と、ポリカーボネート樹脂及びポリエステル系樹脂からなるポリマーアロイ樹脂とを混合して得られる樹脂組成物から形成することもできる。ただし、ポリカーボネート樹脂成分が基体層(A)の40質量%、特に50質量%以上、中でも特に60質量%以上を占めるようにポリマーアロイ樹脂を配合するのが好ましい。
このようなポリマーアロイ樹脂は、市場回収PET樹脂との相性が良いため、通常のポリエステル系樹脂の押出温度である270℃前後で溶融押出しても透明性を良好にすることができる。
【0030】
なお、本発明において「ポリマーアロイ」とは、異種ポリマーの相溶性を高めたポリマーブレンドを意味し、成分ポリマー間の界面に何らかの親和力が働いて均質微細で安定な分散構造を形成している状態、具体的には1μm以下の大きさの分散相からなるミクロ相分離構造を呈するポリマーブレンドを言う。
【0031】
(被覆層(B))
被覆層(B)は、基体層(A)のいずれか一方の片面又は両面に積層してなる層であって、ジオール成分、ジカルボン酸成分及び共重合成分からなる共重合ポリエステル系樹脂と不活性粒子とを含有する樹脂組成物から形成することができる。例えば、共重合ポリエステル系樹脂及び不活性粒子からなる樹脂組成物から被覆層(B)を形成してもよいし、また、共重合ポリエステル系樹脂、市場回収ポリエステル系樹脂及び不活性粒子からなる樹脂組成物から被覆層(B)を形成してもよい。
【0032】
[共重合ポリエステル系樹脂]
被覆層(B)の主成分をなす共重合ポリエステル系樹脂としては、ジオール成分、ジカルボン酸成分及び共重合成分(前記ジオール成分及びジカルボン酸成分とは異なる成分)からなる共重合ポリエステル系樹脂を用いることができる。
【0033】
上記ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、テレフタル酸の一部が他のジカルボン酸で置換されたものを挙げることができる。当該他のジカルボン酸の成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ネオペンチル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、p−オキシ安息香酸などを挙げることができ、これらのうちの一種或いは二種類以上の組合せからなる混合成分であればよい。但し、これらに限定するものではない。
【0034】
上記ジオール成分としては、例えばエチレングリコール、エチレングリコールの一部が他のジオール成分で置換されたものを挙げることができる。当該他のジオール成分としては、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロール、メトキシポリアルキレングリコールなどを挙げることができ、これらのうちの一種或いは二種類以上の組合せからなる混合成分であればよい。但し、これらに限定するものではない。
【0035】
上記共重合成分としては、共重合ポリエステル系樹脂を構成するジオール成分及びジカルボン酸成分以外の成分であって、上記ジカルボン酸成分で挙げたジカルボン酸、及び、上記ジオール成分で挙げたジオールのうちのいずれか、或いは、それらのうちの二種類以上の組合わせを挙げることができる。
この場合、二種類以上のジオールを含有するか、或いは、二種類以上のジカルボン酸を含有することになるが、本発明においては、二種類以上のうちの含有量の多い成分をジオール成分又はジカルボン酸成分とし、残りの成分を共重合成分とするものである。
【0036】
被覆層(B)の主成分をなす共重合ポリエステル系樹脂の好ましい例としては、ジカルボン酸成分としてのテレフタル酸と、ジオール成分してのエチレングルコールと、共重合成分のテレフタル酸及びエチレングルコール以外のジカルボン酸又はジオール、例えば1,4−シクロヘキサンジメタノールやイソフタル酸、とからなる共重合ポリエステル系樹脂を挙げることができる。
【0037】
本発明の被覆層(B)においては、被覆層(B)を構成する樹脂に占める前記共重合成分の割合が4モル%以上であることが重要である。共重合成分によって結晶性が低下するので、共重合成分の含有量を4モル%以上とすることにより、熱成形加工を行う際に結晶化による白化を防ぎ、印刷を行う際にインキのなじみを良くすることができる。
【0038】
また、被覆層(B)の構成成分としての共重合ポリエステル系樹脂は、その固有粘度が0.4dl/g以上であるのが好ましく、より好ましくは0.5dl/g以上である。固有粘度が0.4dl/g以上であれば、使用した製品の機械的強度が充分得られ、特に低温状態での衝撃強度を維持することができて実用上好ましい。
この共重合ポリエステル系樹脂の分子量は10000以上、特に15000以上であるのが好ましい。
【0039】
[不活性粒子]
不活性粒子としては、例えばシリカ、アルミノシリケート、タルクなどの無機系粒子やスチレン系樹脂の架橋粒子などを使用することができる。
不活性粒子の平均粒径は2μm〜15μm、特に5μm〜10μmであるのが好ましい。平均粒径2μm以上であれば、シート表面の凹凸が小さ過ぎることがなく、印刷等などの2次加工時の給紙性を良好に維持することができる。また、15μm以下であれば、シート表面の凹凸が大きくなり過ぎることがなく、シートの外観や透明性を悪くすることがない。なお、不活性粒子の平均粒径とは、コールカウンター(日本化学機械社製)を使用して計測し、累積質量分率が50%なる時の平均粒径である。
【0040】
また、不活性粒子には、屈折率が1.4〜1.7の範囲にあるものを選択して用いるのが好ましい。ポリエステル系樹脂の屈折率が1.57前後であるから、ポリエステル系樹脂の屈折率と差が大きな不活性粒子を使用すると、シートの外観や透明性が悪くなるため好ましくない。不活性粒子の屈折率は、屈折率が既知の液体中に不活性粒子を浸して算出する。すなわち、不活性粒子と液体との混合物の屈折率は、それぞれの成分自体の屈折率と不活性粒子の割合に依存するので、不活性粒子を浸した液体の屈折率をアッベの屈折率計で測定し、不活性粒子と液体の割合から屈折率を算出することができる。
【0041】
不活性粒子の配合量は、被覆層(B)全体(100質量部)に対して0.05〜1質量部とするのが好ましい。0.05質量部以上であればシート滑りの改良効果を十分に得ることができ、1質量部以下であればシートの外観や透明性を悪化させることもない。
なお、複数種類の不活性粒子を組み合わせて使用することもできる。
【0042】
ポリエステル系樹脂に不活性粒子を配合する方法としては、種々の方法が挙げられ、特に限定するものではない。例えば、重合時に添加したり、重合後の樹脂にブレンダーを使用して混合したり、不活性粒子等の高濃度のマスターバッチを予め作成し希釈して樹脂に混合したりすることができる。
【0043】
[市場回収ポリエステル系樹脂]
被覆層(B)には、共重合ポリエステル系樹脂及び不活性粒子のほかに、市場回収ポリエステル系樹脂を配合することもできる。この際、市場回収ポリエステル系樹脂は、基体層(A)の成分として説明した市場回収ポリエステル系樹脂を好ましく用いることができる。
被覆層(B)において、市場回収ポリエステル系樹脂は、質量割合で上記共重合ポリエステル系樹脂:市場回収ポリエステル系樹脂=100:0〜15:85、好ましくは100:0〜30:70の割合となるように配合するのが好ましい。
【0044】
(他の成分)
基体層(A)及び被覆層(B)のいずれの層においても、上記の成分を主成分とし、それらの機能を妨げない範囲において、他の成分を配合してもよい。
好ましい一例を挙げれば、基体層(A)、被覆層(B)の何れか或いは両方の層に、酸化防止剤、エステル交換防止剤のいずれか或いは両方を配合することができる。本発明のシートは、ポリエステル系樹脂とポリカーボネート樹脂から成る層を有するため、押出条件や熱履歴によっては、ポリエステル系樹脂とポリカーボネート樹脂がエステル−カーボネート交換反応を起こし、着色したり、分子量が低下したりするおそれがある。これに対し、酸化防止剤やエステル交換防止剤を添加することで、例えばシートの耳を粉砕して原料として練り返し使用する際などに特に効果がある。
この際、酸化防止剤及びエステル交換防止剤の種類は、特に規定はしないが、リン系又はフェノール系の物が好ましく、2種類以上の物を併用しても構わない。
【0045】
そのほか、例えば安定剤、有機系の滑剤、ワックス、帯電防止剤、紫外線吸収剤、衝撃改良剤を配合するようにしてもよい。また、特に被覆層(B)に帯電防止剤、シリコーン、ワックスなどをコーティングしても差し支えない。
【0046】
(シート厚さ)
本実施形態の再生ポリエステル多層シートの厚さは、用途により異なるから特に規定するものではないが、例えば50μm〜2000μm、用途により100μm〜1000μmの範囲で選択するのが好ましい。
但し、基体層(A)の厚さは、シート全体の厚さに対して30%以上、中でも50%以上、その中でも特に70%以上を占めるように設計するのが好ましい。該基体層の厚さが30%以上であれば、どのような使用環境下であってもシートの変形を生じ難くすることができる。
【0047】
本実施形態の再生多層ポリエステルシートは、実質的に結晶化してない状態の無延伸シートとすることが重要である。ここで、「無延伸シート」とは、シートの強度を高める目的で積極的に延伸しないシートを意味し、例えば、押出成形の際に延伸ロールによって2倍未満に延伸されたものは、無延伸シートに含まれるものとする。また、「実質的に結晶化していない状態」とは、結晶化度の観点から言えば結晶化度が10%以下のものであればよい。
【0048】
(製法)
本実施形態の再生多層ポリエステルシートの各層は、例えば、押出機に供給しTダイより押出し、キャストロールで急冷固化することにより得ることができる。
また、各層を積層する方法としては、(1)予め各層をシート成形した後、熱又は接着剤により貼り合わせる方法、(2)予めシート成形した表面被覆層を、基体層シートを押出機のTダイから押出した直後に熱接着する方法、(3)各層をそれぞれ別の押出機で溶融押出し、ニップロールで溶融接着する方法、(4)各層をそれぞれ別の押出機で溶融し、多層ダイを用いて、溶融積層し複層シートとして押し出す方法などの方法により行うことができる。
なお、透明性をより高めるためには、押出機として2軸押出機等を使用して混練、分散をより十分に行うことが好ましい。
【0049】
シートの耳や製造上発生したスクラップシートを練り返ししてもよい。多層シートとする場合、いずれの層へ練り返しても構わないが、基体層(A)へ練り返す場合は、ポリカーボネート樹脂の配合量が少なくならない様に配合量を増やすことが必要である。耳やスクラップの練り返し量は、特に規定はしないが、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下にする方がよい。
こうして得られた再生多層ポリエステルシートは、カット装置を通して枚葉状にカットしてもよいし、コイル状に巻き取っても良い。
【0050】
(用途)
以上のようにして得られた再生多層ポリエステルシートは、シート表面(被覆層の表面)に絵柄層を形成して広告表示用シート、例えば、耐熱性が要求される自動販売機内の電飾POP用の広告用基材シートを形成することができる。
また、再生多層ポリエステルシートのシート表面に絵柄層を形成し、折り曲げ加工してディスプレイ用ケースとすることができる。
また、再生多層ポリエステルシートのシート表面に絵柄層を形成し、熱成形してディスプレイ用成形加工品とすることができる。但し、熱成形する際、シート厚さにより条件も異なるが、一般にシート表面温度が120℃〜160℃となるような予熱条件範囲で真空成形または圧空成形する。シートの加熱はできるだけ短時間とし、シートの結晶化が著しくならないよう配慮することが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明の範囲が以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1〜18、比較例1〜8)
以下に示す原料を用意し、押出温度270℃に設定した1台又は2台の2軸ベント式押出機にて、それぞれの原料を溶融混合して、2種3層のTダイを用いて押出した後、40℃の鏡面のキャストロールで急冷し、無延伸の非結晶性樹脂シートを得た。その後、カット装置へ供給し枚葉状のシートを作製した。
各シートの構成、各層の組成、厚さ、並びに各シートについての各種評価結果を表1に示した。
【0053】
「原料樹脂」
a:市場回収PETボトル再生原料(再生リサイクル業者にて、粉砕洗浄した再生原料) (固有粘度0.68)
b:テレフタル酸(:ジカルボン酸成分)と、エチレングリコール(:ジオール成分)7 0モル%及び1,4−シクロヘキサンジメタノール(:共重合成分)30モル%の混 合物と、を縮重合させて得られた共重合ポリエステル(固有粘度0.8)
c:ポリカーボネート樹脂成分50重量%と、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸と、 ジオール成分としてエチレングリコール30モル%及び1,4−シクロヘキサンジメ タノール70モル%であるポリエステル樹脂成分50重量%とからなるポリマーアロ イ樹脂
d:ポリカーボネート樹脂 (平均分子量25,000)
e:テレフタル酸(:ジカルボン酸成分)80モル%及びイソフタル酸(:共重合成分) 20モル%の混合物と、エチレングリコール(:ジオール成分)と、を縮重合させて 得られた共重合ポリエステル (固有粘度0.72)
【0054】
「不活性粒子」
ア:アルミノシリケート (屈折率1.50 平均粒径 8μm)
イ:アルミノシリケート (屈折率1.50 平均粒径 1.5μm)
ウ:アルミノシリケート (屈折率1.50 平均粒径18μm)
エ:シリカ (屈折率1.46 平均粒径 8μm)
オ:スチレン架橋粒子 (屈折率1.59 平均粒径 8μm)
【0055】
【表1】

【0056】
表1において、「基体層比率」は、シート全体の厚さに対する基体層厚さの比率であり、「PET樹脂の質量%」は、基体層全体の質量に対するPET樹脂(市場回収PET)の質量割合であり、「PC系樹脂の質量%」は、基体層全体の質量に対するPC系樹脂(ポリカーボネート系樹脂、原料樹脂c又は原料樹脂d)の質量割合であり、「PC成分の%」は、基体層全体の質量に対するPC成分(ポリカーボネート成分、原料樹脂系樹脂cにあってはその50質量%)の質量割合である。
「被覆層における樹脂種類の比率(例えば実施例1のa/b)」は、樹脂のモル比率であり、「被覆層における共重合成分のモル%」とは、被覆層を構成する樹脂のモル数に対する共重合成分のモル数割合である。例えば実施例1においては、被覆層中に、共重合成分を含む樹脂bが30モル%含まれ、当該樹脂bには30モル%の1,4−シクロヘキサンジメタノール(:共重合成分)が含まれているから、被覆層における共重合成分のモル%は30%×30%で9%となる。
また、「被覆層における不活性粒子の添加部数」は、被覆層を構成する樹脂の質量100部に対しての不活性粒子の添加部数である。
【0057】
(評価方法)
1.環境性
シート全体に対する再生原料の質量割合を計算し(表1)、25%以上のものを環境性「○」、それ未満のものを環境性「×」と評価した。
【0058】
2.シートの透明性
得られたシートの透明性をJIS K−7105に準拠し、ヘーズメーターにより確認し、下記基準で評価した。
「○」・・・ ヘーズ15%未満
「△」・・・ ヘーズ15%以上30%未満
「×」・・・ ヘーズ30%以上
なお、「○」及び「△」の評価レベルは、実用可能レベルである。
【0059】
3.印刷適性評価
得られたシートを印刷機へのUVオフセット印刷の自動機にかけ、自動給紙性を下記基準で評価した。なお、「○」及び「△」の評価レベルは、実用可能レベルである。
【0060】
=給紙性=
「○」・・・印刷機への給紙がスムーズで、給紙トラブルが発生しなかった。
「△」・・・印刷前に入念にシートを捌けば、給紙がスムーズであった。
「×」・・・印刷前に入念にシートを捌いても、スムーズな給紙ができないか、給紙ト ラブルが頻発した。
【0061】
=インキ密着性(テープ剥離試験)=
「○」・・・テープ剥離試験で、インキが全く剥がれないか、剥離試験面の10%未満
が剥がれた。
「△」・・・テープ剥離試験で、インキが剥離試験面の10%以上、30%未満が剥が
れた。
「×」・・・テープ剥離試験で、インキが剥離試験面の30%以上が剥がれた。
【0062】
4.熱成形性評価
真空成形機において、ディスプレイ缶状に熱成形を行い下記基準で評価した。
「○」及び「△」の評価レベルは、実用可能レベルである。
シートの予熱は、170℃にして行った。
【0063】
=成形性=
「○」・・・成形に問題がなかった。
「△」・・・ドローダウンはあるが、成形可能であった。
「×」・・・ドローダウンが大きく成形が困難であった。
【0064】
=シートの白化=
「○」・・・成形後、シートの透明性に変化がなかった。
「△」・・・成形後、シートの透明性がやや低下した。
「×」・・・成形後、シートが白濁し、透明性が低下した。
【0065】
5.耐熱性
ディスプレイ缶状の半円筒の成形品を100℃に保持したオーブンに8時間放置し、変形度合いを下記基準で評価した。
「○」の評価レベルは、実用可能レベルである。
「○」・・・変形なし。
「×」・・・変形あり。
【0066】
フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を樹脂成分に対し、それぞれ0.25重量部づつ添加して基体層を形成し、その他の点は実施例1と同様にシートを作製した。
この際、シート耳の練り返しをしながら、長時間の製膜を行ったところ、エステル−カーボネート交換反応による、着色や発泡もなく良好なシートが採取可能であった。また、このシートの評価結果も全ての項目で、良好な結果であった。
さらに、実施例1以外の実施例においても行ったが、同等な結果が得られた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
市場から回収された市場回収ポリエステル系樹脂をシート全体の25質量%以上使用してなり、基体層(A)と当該基体層(A)の少なくとも片面に積層してなる被覆層(B)とを備えた再生多層ポリエステルシートであって、
基体層(A)は、市場回収ポリエステル系樹脂1〜60質量%と、ポリカーボネート樹脂を、或いは、ポリカーボネート樹脂とポリエステル系樹脂とのポリマーアロイ樹脂を99〜40質量%含有してなり、
被覆層(B)は、ジオール成分、ジカルボン酸成分及び共重合成分からなる共重合ポリエステル系樹脂と、屈折率1.4〜1.7の不活性粒子とを含有し、被覆層(B)を構成する樹脂の合計量に対して前記共重合成分を4モル%以上含有し、且つ被覆層(B)の全質量100質量部に対して前記不活性粒子を0.05〜1質量部含有してなることを特徴とする再生多層ポリエステルシート。
【請求項2】
被覆層(B)の不活性粒子の平均粒径が2μm〜15μmであることを特徴とする請求項1に記載の再生多層ポリエステルシート。
【請求項3】
基体層(A)の厚さは、シート全体の厚さの30%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の再生多層ポリエステルシート。
【請求項4】
基体層(A)及び被覆層(B)の少なくともいずれかの層は、酸化防止剤又はエステル交換防止剤を含有してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の再生多層ポリエステルシート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の再生多層ポリエステルシートのシート表面に絵柄層を形成してなる広告表示用シート。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の再生多層ポリエステルシートのシート表面に絵柄層を形成し、折り曲げ加工してなるディスプレイ用ケース。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の再生多層ポリエステルシートのシート表面に絵柄層を形成し、熱成形してなるディスプレイ用成形加工品。

【公開番号】特開2006−130882(P2006−130882A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325413(P2004−325413)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】