説明

再生空間を画定するラウドスピーカアレイのための複数のラウドスピーカ信号の生成装置及びその方法

再生空間を画定するラウドスピーカアレイの幾つかのラウドスピーカ信号(102)を生成するための装置。本装置は、1つ又は複数の仮想位置(114)に関連づけられる1つ又は複数の音響信号(112)を使用しながら複数の出力音響信号(116)を生成するように構成されるプレステージ(110)を備えている。各出力音響信号(116)はプレステージ(110)により指定される1つのラウドスピーカ位置(118)に関連づけられ、プレステージ(110)は、複数の出力音響信号(116)が共同で仮想位置(114)において入力音響信号(112)の再生を行うように構成されている。出力音響信号(116)の個数は、ラウドスピーカアレイのためのラウドスピーカ信号(102)の個数より少ない。本装置は、さらに、複数の出力音響信号(116)を取得するように、かつさらに、各出力音響信号(116)ごとの仮想位置としてプレステージ(110)により指定されるラウドスピーカ位置(118)を取得するように構成されるメインステージ(120)を備えている。メインステージ(120)は、プレステージ(110)により指定されるラウドスピーカ位置(118)がラウドスピーカアレイによって仮想音源として再現されるように、ラウドスピーカアレイのための複数のラウドスピーカ信号(102)を生成するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、フィルム材料やコンサートの再生において、またはコンピュータ及びビデオゲームの分野において発生するような空間音響信号の再生に関する。
【背景技術】
【0002】
空間音響再生の分野では、例えば、波面合成を含む幾つかの方法が先行技術において知られている。波面合成の基本的考案は、波動が到達する任意の点は球面状又は円状に伝搬する素元波の始点であるとするホイヘンスの原理を基礎としている。波面合成は、互いに隣接して配置される多数のラウドスピーカ、所謂ラウドスピーカアレイを基礎とする音響効果に使用され、かつ原則的に、着信するどのような形状の波面も再現することができる。最も単純なケース、即ち、再生されるべき点源が単一でありかつラウドスピーカが線形配列であるケースでは、任意のラウドスピーカの音響信号が時間遅延及び振幅スケーリングを使用して濾波される場合があり、よって結果的に聴取者にとって相応の空間印象が生じ、個々のラウドスピーカにより放射される音場は適宜重ね合わされる。幾つかの音源が存在すれば、各ラウドスピーカへの寄与は音源ごとに別々に計算され、結果として得られる信号が合計される。再生されるべき音源が反射性の壁を有する室内に配置されれば、反射は、ラウドスピーカアレイを使用して個々のフィルタにより補償される可能性もある。
【0003】
波面合成の計算に関しては、再生されるべき音源の数、再生空間の反射特性及びラウドスピーカの数に大きく依存する。ラウドスピーカアレイが大きいほど、即ち、個々のラウドスピーカがより多く装備されるほど、波面合成が活用され得る可能性は高まる。しかしながら、欠点は、使用される個々のラウドスピーカの数が増えるほど、必要とされる計算電力が増大することにある。各仮想音源、即ち再生されるべき各音源について、ラウドスピーカアレイの個々のラウドスピーカごとに対応する信号が計算されかつ伝送されなければならない。具体的には、可動性の仮想音源の場合、計算量の増加は甚大であり、よって、従来システムは可動音波の表現に起因して即座にその限界に達するが、その限定因子は計算電力である。
【0004】
空間音場再生において知られるさらなる技術は、アンビソニックである。この技術は、音場の球面に沿った(3D)、または円の外周に沿った(2D)高調波分解を基礎とする。再生においては、有限数のこれらの高調波部分を使用して、聴取点である1点において原音場が再生される。使用される高調波部分の数(次数と称される)に依存して、音場の最適復元エリアの空間延長は増大する。最も単純で有益なケース(一次)では、トーン情報が、アンビソニックBフォーマットという同義語でも知られる4チャネルに符号化される。これに関して、1チャネルが単一のトーン情報信号を含む。他の3チャネルは、3つの空間次元の空間成分を含む。これらの3信号は球面に沿った音場の高調波分解を基礎とし、音波の瞬間的な圧力分布を反映する。これらの4つの信号は、元来4チャネル方式の競争相手としてレコード盤に適合しなければならなかったものであることから、このケースも商業的に最も有益なケースである。現在では、DVDの媒体を使用し、よってより多いチャネルを許容する仕様を作成する作業が進められている。
【0005】
アンビソニックは、空間音響信号を先に述べた4チャネルに分解し、かつこれを適宜組み立て直すことを可能にする。ここで、信号は、その面上に配置される、それぞれに対応するラウドスピーカを有する球の中心に位置する基準点に関連している。従って、アンビソニック法による空間音響信号の表現は、空間信号を格納しかつ再生するより単純な可能性を提供する。しかしながら、この技術に関する欠点は空間分解能にあり、よって、達成され得るステレオ音声の印象は制限される。
【0006】
実際には、アンビソニックの次数が増大するにつれて、波面合成(WFS)の場合に類似する結果的品質が得られることがある。しかしながら、結果的に複雑さも大幅に増大し、かつこれらのより高い高調波の指向性パターンを示すマイクロホンは存在しない。このケースでは、高性能のマイクロホンアレイが使用されなければならなくなる。
【0007】
WFSは、一定容積内(又は、一定面積内)で復元し、その復元品質は実施にかけられる支出(例えば、LS間隔)に依存する。
【0008】
実際のところ、アンビソニックは高精度で復元するが、その復元は1点で始まってWFSと同様に比較的大きいエリアに及ぶ。アンビソニックによるこの復元は、超高次に限定される。
【0009】
しかしながら、これらの方法は共に、ホロフォニーである共通の理論基盤を有する。
【0010】
これらの信号は、聴取者が理想的に位置づけられる基準点に関するものであり、よってこれは、映画館又はコンサートホール等の比較的広いエリアのカバレージを複雑にする。
【0011】
さらに、如何なる場合も平面の波面が想定され得るように、聴取ポイントに対する再生ラウドスピーカ及び再生ラウドスピーカに対する仮想音声オブジェクトの双方は十分に離隔されることが事前条件である。
【0012】
さらに、空間音源を表すさらなる方法が技術上知られている。例えば、DTS(デジタルシアターシステム)はデジタルマルチチャネルサラウンド音声フォーマットである。
【0013】
DTS、ドルビーサラウンド等の方法は、符号化フォーマットとして見なされることもある。この方法では、5.1再生に適する音響信号が、例えばDVDに格納される場合がある。
【0014】
これは、映画で、及び、例えばDVD等のデータ媒体上の双方で使用されている。再生は、理想的には、円形に配置されるラウドスピーカを介して実行され、円形に配置されるラウドスピーカの中心に、空間音響再生にとって好ましく、「スイートエリア」とも称される再生空間が存在する。様々な変形例で利用可能であるドルビーデジタル信号は、さらなる空間音響信号グループを表す。波面合成以外にも、多くの音響フォーマットは、極めて限定的な空間分解能、延いては限定的な空間音響効果しか達成され得ないという欠点を有する。実際には、波面合成自体は空間分解能を提供するが、この空間分解能は、特に幾つかの可動性の仮想音源が存在するケースにおいて、例えば消費者アプリケーションに関し、コスト因子も利用可能な計算電力に対して一翼を担う場合には、この限定的な計算電力に起因して達成され得ない。さらには、可動音源の可変遅延値から、結果的にドップラーによるアーティファクトが生じる。波面合成は計算支出に依存し、計算支出は仮想音源の数、レンダリングチャネルの数、音源の移動、濾波方法、遅延補間方法等に依存する。
【0015】
アンビソニックサラウンド信号の信号処理に関する限り、AES第116回大会、ベルリン、2004年において提示されたジェローム・ダニエルの「高次アンビソニックを使用する音場符号化の詳細研究」が優れた見解を述べている。アンビソニックによる音場再生品質の評価は、AES第118回大会、バルセロナ、2005年において提示されたマルティン・デヴィルスト、スラヴォミール・ツェリンスキ、フィリップ・ジャクソン、フランシス・ラムジーの「サラウンド音響再生システムの空間定位属性の客観的評価」に見出すことができる。デジタル音響効果に関するCOST G−6会議の議事録、リムリック、2001年において提示されたアーロイス・ゾンターキ、ロベルト・ヘルドリッヒの「距離符号化を使用する3D音場の詳細研究」は、空間音響信号の格納を扱っている。WO2005/015954A2及びWO02/08506Bはアンビソニック信号を論じており、関連する信号処理による空間符号化について記述している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、空間音響信号をより効率的に、かつ向上した空間分解能で再生するための装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、請求項1に記載されている装置、請求項17に記載されている方法又は請求項18に記載されているコンピュータプログラムによって達成される。
【0018】
本発明の核心的考案は、例えば波面合成によって、静的な仮想音波をシミュレートするために活用されてもよい高い空間分解能が達成され得るという発見である。この静的な仮想音波は次に、個々の音響フォーマットに適合化されてもよい。
【0019】
好適には、仮想音波の特性は、点源又は平面波の特性を利用できるように再生フォーマットに適合化されてもよい。
【0020】
例として、例えば円上に配置される5つのラウドスピーカを介して再生される5.1音響信号は、例えば100台のラウドスピーカよりなるラウドスピーカアレイに携わる波面合成によってシミュレートされる5つの音波でエミュレートされてもよい。この方法では、より高い空間分解能である波面合成の利点、及び例えばアンビソニック等の他の空間音響信号処理法の利点が活用されてもよい。従って、本発明による方法を使用することにより、波面合成によって幾つかの可動音源が再生されてもよく、この波面合成は静的フィルタへ戻る静的な音源をシミュレートするだけでよいことから、計算支出を波面合成のために一定に維持することが可能である。
【0021】
本発明による方法の1つの利点は、必要な計算の複雑さを再生に利用可能なリソースへ選択可能的に適合させることも含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態を示す。
【図2】本発明のさらなる実施形態を示す。
【図3】本発明の一実施形態を示す。
【図4】円の外側にラウドスピーカを有する近似解法の例示的な実施を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態をより詳細に説明する。
【0024】
図1は、再生空間を画定するラウドスピーカアレイのための複数のラウドスピーカ信号102を生成する装置100を示す。装置100は、1つ又は複数の仮想位置114に関連する1つ又は複数の入力音響信号112を使用しながら複数の出力音響信号116を生成するように構成されているプレステージ110を備え、各出力音響信号116はプレステージ110により指定されるラウドスピーカ位置118に関連づけられる。プレステージ110は、複数の出力音響信号116が共同で仮想位置114において入力音響信号112の再生を行うように構成され、出力音響信号116の個数は、ラウドスピーカアレイのためのラウドスピーカ信号102の個数より少ない。装置100はさらに、前記複数の出力音響信号116を取得し、かつさらに、各出力音響信号116の仮想位置として、プレステージ110により指定されるラウドスピーカ位置118を取得するメインステージ120を備え、メインステージ120は、プレステージ110により指定されるラウドスピーカ位置118がラウドスピーカアレイにより仮想音源として再現されるように、ラウドスピーカアレイのための前記幾つかのラウドスピーカ信号102を生成するように構成されている。
【0025】
本発明の一実施形態において、メインステージ120は、波面合成によって前記幾つかのラウドスピーカ信号102を生成するように構成され、指定されるラウドスピーカ位置118はプレステージ110によって生成される。これに関連して、ラウドスピーカアレイはメインステージ120によって適宜制御される。この状況においては、指定されるラウドスピーカ位置118は静的に、または別の実施形態では半静的に生成され、よって、ラウドスピーカ位置118の位置変更は仮想位置114の位置変更より低頻度で、またはより遅速で発生する。
【0026】
その結果、波面合成からは静的音源及び/又は半静的音源のみが生成されることになる。必然的に、波面合成の計算支出は大幅に低減するが、それでも可動音源は上流のプレステージ110により、出力音響信号116を適宜制御することによって発生する場合がある。
【0027】
本発明のさらなる実施形態では、メインステージ120は、ラウドスピーカアレイより少ない数のラウドスピーカを備える仮想ラウドスピーカシステムをエミュレートするように構成される。これに関して、仮想ラウドスピーカシステムは、点源によって、または平面波によってエミュレートされてもよい。可動音源がシミュレートされるべきものであれば、これは、プレステージ110によって出力音響信号116を適合化することによって実現されてもよく、ラウドスピーカ位置118は変更されないままにされることが可能である。
【0028】
本発明の実施形態において、入力音響信号112は様々なフォーマットで実現可能である。図1に示す実施形態では、一例として、プレステージが入力音響信号112を、仮想位置114とは別に入手可能であるようにされている。しかしながら、本発明によれば、アンビソニック、4チャネル方式、プロロジック、プロロジックII、ドルビーデジタル、ドルビーデジタルEX、DTS、DTS−ES、SDDS(SDDS=ソニー・ダイナミック・デジタル・サウンド)、THX、IMAX、他等の任意の空間音響フォーマットが実現可能である。本発明によれば、プレステージ110は、図1における入力音響信号112及び仮想位置114等のその入力端子を介して画像領域を音響フォーマットで提供する。前記画像領域は、その後、本発明による装置100によって、ラウドスピーカアレイ及びそのラウドスピーカ信号102に対応する実領域にマッピングされる。この状況において、プレステージ110は画像領域を中間領域に変換し、この中間領域はメインステージ120により実領域へ低支出でマッピングされてもよい。
【0029】
さらなる実施形態において、本発明による装置100はさらに追加の音響信号又は追加の位置を取得するように構成されていてもよく、この信号又は位置はラウドスピーカ信号102及びラウドスピーカアレイにもマッピングされ、かつそのフォーマットは入力音響信号112のフォーマットとは相違するものであってもよい。例えば、静的音源を波面合成によって直に制御し、その仮想音源位置及び出力音響信号をメインステージ120が直に利用できるようにすることは実現可能であろうが、一方で、可動音源はプレステージ110を介して制御される。ラウドスピーカアレイ自体は、例えば円形のラウドスピーカアレイによって実現されてもよい。しかしながら、概して、任意の形式のラウドスピーカアレイが実現可能であり、メインステージ120はランダム形状のラウドスピーカアレイを仮想円にマッピングするように設計されることが可能である。一例として、これは、例えば振幅スケーリング及びラウドスピーカごとの遅延等による個々のラウドスピーカの信号濾波によって発生してもよい。これに関して、本発明の実施形態において、例えば仮想円形アレイにマッピングされる場合もある不規則なラウドスピーカアレイを挙げてもよい。
【0030】
本発明をさらに説明するために、図2は映画館又はコンサートホール200の一実施形態を示す。まずは、ラウドスピーカアレイ210は円215上に配置されることが想定されるものとする。この状況においては、ラウドスピーカアレイ210は、ショーの間、観客が位置する観客席220を取り囲んでいる。仮想音波225は、ラウドスピーカアレイ210を使用して、波面合成により生成されてもよい。これらの仮想音波225は、観客席220内の観客一人一人にとっての空間音響体験のために、低支出で、即ち波面合成の計算要件なしに活用されてもよい。
【0031】
本発明の一実施形態において、波面合成は、既知の利点を有する再生システムとして使用される。この状況においては、波面合成を使用して静的音源のみが表現され、その結果、例えば音源の移動及び動的フィルタに起因して生じる欠点は排除されることになる。これにより、波面合成の計算支出はかなりの度合いで一定に保たれ、仮想音源の数は低減されてもよい。従って、波面合成は、一定の仮想ラウドスピーカシステムを提供する。可動音源は、アンビソニック、5.1、VBAP等で移動を符号化すること等のハイブリッド方法によって、仮想ラウドスピーカシステムを介して実現されてもよい。
【0032】
このようにして、画像領域内の伝送は実現される。波面合成における仮想音源は、動的なシーンが変換されてもよい個々の音響再生方法のための仮想再生装置のラウドスピーカを表現する。波面合成において、これらの仮想ラウドスピーカは点源として、または平面波によって再生されてもよい。所望される現実味に依存して、または利用可能な計算容量に依存して、例えばアンビソニック領域内部の画像領域は、その表現の程度でスケーリングされてもよい。仮想ラウドスピーカシステムにおいては、音源の移動は仮想ラウドスピーカの容積変化として発生する。必要であれば、ある実施形態において、原音の実行時間は、例えば原領域内で直に、または高次アンビソニックの場合に可能であるように画像領域において変更されてもよい。概して、音響シーンのフォーマットは如何なる制限も受けない。一例として、例えばXMT−SAWからの波面合成シーンは、アンビソニックによって、または5.1等の他の任意のマルチチャネル音響再生方法で符号化されることも可能である。このハイブリッド方法の特徴は、原領域及び画像領域の2領域への分離にある。これは、最終的に使用されるラウドスピーカセッティングのシーン生成又は符号化における独立性と等価である。
【0033】
以下、WFS入力データのアンビソニックデータへの好適な変換について述べる。始点は、XMLフォーマットである。個々の音声事象は、オブジェクトとして符号化される。後続情報はオブジェクト記述内、即ち音源の音響信号を有する.wavファイルの位置、音源の存在期間及び音源の移動情報(時間スタンプを有する音源の位置)内に包含される。
【0034】
次に、符号化が下記のように実行される。サンプルごとに、音源の位置(入射の距離及び角度)が正確に計算される。この情報を使用して、単純なアンビソニック及びアンビソニック−WFSハイブリッドのためのアンビソニック信号が直に計算されてもよい。近接場の符号化を含むアンビソニックにより、周波数空間内のアンビソニック重み係数が計算される。高い再生品質を可能にするウィンドウ長さの場合、音源の急な移動のみが可能である。しかしながら、窓の重なり合いによって、効果は減衰される場合がある。アンビソニック−WFSハイブリッド方法を使用する計算では、アンビソニックの対称特性を利用してより効率的な計算が可能となる。ハイブリッド符号化及び近接場符号化アンビソニックの場合、計算において音源及びラウドスピーカ双方の近接場効果が考慮されることから、アンビソニック信号が既定の半径を有する円について有効であることは留意されるべきである。
【0035】
単純なアンビソニック信号の再生においては、さらなる効果を観察する必要はない。再生は、単にアンビソニックプレーヤを介して行われる。
【0036】
再生装置が符号化における想定事項に正確に一致していれば、ハイブリッド及び近接場符号化方法からのアンビソニック信号が直に使用されてもよい。再生装置が正確に一致していなければ、2つの可能性が存在する。即ち、ラウドスピーカの近接場効果が正確に考慮される。これに関して、既に復号化において想定された近接場効果が考慮される。しかしながら、この方法は高価である。
【0037】
第2の可能性は、近似解法である。この目的のために、ラウドスピーカの信号は、円の中心からのそれらの距離に従って遅延されかつ増幅される。シミュレーションは、この手法が第1の(正確な)手法による結果に比肩し得る結果をもたらすことを示している。これに関する事前条件は、符号化のために想定されるラウドスピーカの半径がほぼ再生ラウドスピーカの半径の大きさ(理想的には、平均値)であることである。
【0038】
円の好適な配置を図4に示す。音源が半径内に位置づけられるように半径が設置されると、信号は中心からのそれらの距離に従って減衰され、他のラウドスピーカに照らして「加速」されることになる。これは、例えば、遅延されないラウドスピーカが他のラウドスピーカよりも加速されるように、他の全てのラウドスピーカ信号を遅延することによって達成されてもよい。
【0039】
一般的に言えば、プレステージ110は、好適には、出力音響信号116を適合化することによって可動仮想位置114の位置変化をマッピングし、かつ、ラウドスピーカ位置118を変更されないままにするように構成され、前記適合化は、仮想音源へ戻るラウドスピーカ成分信号の遅延又は増幅を含み、前記遅延又は増幅は、ラウドスピーカ位置が置かれてもよい円の想像上の中心からの仮想音源の距離に対応する。
【0040】
この状況においては、適合化された出力音響信号を生成するために、各ラウドスピーカ位置について、個々の遅延又は増幅後に可動仮想音源のためのラウドスピーカ成分信号を加算することが好適である。
【0041】
例えば、音源の位置が1つのラウドスピーカから離れて別のラウドスピーカへ向かって変化すると、結果的に、その音源が離れていったラウドスピーカに対する音源の成分信号は、その変位又は位置の変化量に依存して遅延され僅かに減衰される。しかしながら、音源が移動した先のラウドスピーカの成分信号は、その変位又は位置の変化量に依存して負に遅延され僅かに増幅される場合がある。負遅延が不可能であれば、その信号は変化し得ないが、他の信号は全て変えられてもよく、よって効果的に、1つの信号の他の信号に対する負遅延又は「加速」が達成される。
【0042】
また本発明の実施形態は、非円又は不規則なラウドスピーカ配置を使用してもよい。この状況においては、信号はそれらの再生位置、即ちそれらの振幅及び位相に従って事前に濾波され、サウンドの領域は、仮想円からのラウドスピーカの距離が補償されるように変更される。従って、この状況においては、不規則なラウドスピーカ配置が再度、仮想円のラウドスピーカ配置にマッピングされる。この効果は、図2にも示されている。例えば、符号230によって示されるように映画館又はコンサートホールが矩形であることが想定されていれば、本発明の実施形態はこれらの不規則に配置されるラウドスピーカを、対応する信号の振幅がスケーリングされ、かつそれらの遅延が適合化される仮想円215へマッピングしてもよい。
【0043】
この状況においては、例えばアンビソニック信号が取得されている方法は無関係である。さらに、本発明の実施形態は、理想の聴覚領域を適合化する可能性も提供する。この可能性は、別の実施形態では適応可能である、または半静的である仮想音源によって間接的に提供される。
【0044】
図3は、この方法を示す。図3は、原領域300と、画像領域310と、波面合成再生320とを示している。例えば原領域300には、ステレオ信号又は他の任意の空間音響フォーマットを有する信号が存在する。この信号は、この時点で画像領域に変換されてもよく、画像領域の次数は音響フォーマットに依存してスケーラブルである。画像領域310は、例えばアンビソニック信号である可能性もある。図1に従って、画像領域310はプレステージ110により提供される。画像領域310から、ラウドスピーカのセットアップへの適合化が実行され、この場合、不規則なラウドスピーカセットアップも考慮され、音響信号が混成される。図3における波面合成再生320は図1のメインステージ120に対応し、最終的に、画像領域を実領域へ、具体的にはラウドスピーカアレイのためのラウドスピーカ信号へマッピングする。
【0045】
従って、波面合成に要求される複雑さ、即ち計算支出は、有限数の静的フィルタに限定されてもよい。従って、ドップラーによるアーティファクト及び時間補間アーティファクトの発生等の可動音波に関連づけられる波面合成の種々の問題点は解決され得る。従って、波面合成に包含される計算支出はほぼ一定に、かつ比肩し得る波面合成レンダリングの場合より大幅に低く維持される場合がある。従って、本発明の実施形態は、DSP(デジタル信号処理)ボードの実現が著しく低コストで実行され得るという利点を提供する。
【0046】
波面合成を実現するためには、例えば符号化に波動方程式の正確な解が使用されてもよい。原領域の信号は、例えば、古典的なアンビソニック理論による指向性の符号化から、かつ距離依存の符号化から結果的に生じる場合もある。距離の符号化は、個々の次数のアンビソニック信号を濾波することによって実行されてもよい。ラウドスピーカアレイのラウドスピーカ及び符号化された音源の近接場効果は結合されてもよく、よって、結果的に生じるアンビソニック信号は限定されて維持されてもよい。波面合成に使用されるフィルタは、入力信号の周波数及びラウドスピーカと再生される音源との距離の双方に依存する。濾波は、周波数領域において実行されてもよく、かつ可変距離において浮動ウィンドウ処理が時間領域で実行されてもよい。距離が変更されれば、フィルタを適宜適応させることが可能である。
【0047】
ハイブリッド手法によって近接場符号化されたアンビソニック信号を計算することにより、自動的に全周波数に有効である時間領域内のフィルタがもたらされる。従って、再生される音源、即ち仮想音源の異なる距離を考慮することも容易に可能である。さらに、高周波数のプロセス誘導減衰をオフセットするように、信号を予め濾波する可能性も存在する。またこの場合、如何なるエイリアシング効果も排除するように、より高い周波数が離散式に再生されてもよい。さらに、計算支出を低減するために、アンビソニックの回転行列が活用されてもよい。その結果、計算支出は、二次元の場合は直接計算に関わる支出の4分の1に、または3次元の場合では8分の1にまで低減される場合がある。
【0048】
従って、本発明の実施形態は、空間音響信号の計算支出が著しく低減される場合がありかつ適応可能なシステムが実現される、という利点を提供する。
【0049】
具体的には、本発明によるスキームは、状況に依存してソフトウェアで実施されてもよいことが指摘されるであろう。具体的には、個々の方法が実行されるようにプログラム可能なコンピュータシステムと協働してもよい電子読取り可能な制御信号を有するディスク又はCDであるデジタル式の記憶媒体として実行されてもよい。従って、本発明は概して、機械読取り可能な媒体上に格納され、コンピュータ上で起動されると本発明による方法を実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品にも存在する。従って言い換えれば、本発明は、コンピュータ上で起動されると本方法を実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラムとして実現されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
100 複数のラウドスピーカ信号を生成するための装置
102 ラウドスピーカ信号
110 プレステージ
112 入力音響信号
114 仮想位置
116 出力音響信号
118 ラウドスピーカ位置
120 メインステージ
200 映画館又はコンサートホール
210 波面合成のためのラウドスピーカアレイ
215 円
220 観客席
225 仮想音源
230 矩形のラウドスピーカ配置
300 原領域
310 画像領域
320 波面合成再生

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生空間を画定するラウドスピーカアレイのための幾つかのラウドスピーカ信号(102)を生成するための装置(100)であって、
1つ又は複数の仮想音源を使用しながら複数の出力音響信号(116)を生成するように構成されているプレステージ(110)を備え、1つの仮想音源は、それぞれ1つの仮想位置(114)に関連づけられる1つの入力音響信号(112)を備え、各出力音響信号(116)は前記プレステージ(110)により指定される1つのラウドスピーカ位置(118)に関連づけられ、前記プレステージ(110)は、前記複数の出力音響信号(116)が共同で前記仮想位置(114)において前記入力音響信号(112)の再生を行うように構成され、出力音響信号(116)の個数は、前記ラウドスピーカアレイのためのラウドスピーカ信号(102)の個数より少なく、
前記複数の出力音響信号(116)を取得するように、かつさらに、各出力音響信号(116)ごとの仮想位置として前記プレステージ(110)により指定される前記ラウドスピーカ位置(118)を取得するように構成されているメインステージ(120)を備え、前記メインステージ(120)は、前記プレステージ(110)により指定される前記ラウドスピーカ位置(118)が前記ラウドスピーカアレイによって仮想音源として再現されるように、前記ラウドスピーカアレイのための前記複数のラウドスピーカ信号(102)を生成するように構成されている。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、
前記プレステージ(110)により使用される前記仮想音源は、可変位置を有する可動仮想音源であり、
前記指定されるラウドスピーカ位置は静的であり、
前記指定される静的なラウドスピーカ位置に対応する前記仮想位置は静的な位置である。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の装置において、
前記プレステージは、可動及び静的な仮想音源を含む入力される複数の仮想音源のうちの前記可動仮想音源を全て処理するように構成され、
前記メインステージは、静的な仮想音源のみを処理するように構成され、
前記静的な仮想音源は、前記静的なラウドスピーカ位置により指定される前記仮想音源を含み、かつ追加的に、前記入力される静的な仮想音源を含む。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の装置において、
前記メインステージ(120)は、波面合成によって、前記複数のラウドスピーカ信号(102)及び前記プレステージ(110)により指定される前記ラウドスピーカ位置(118)を生成するように構成されている。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の装置において、
前記プレステージ(110)は、前記ラウドスピーカ位置(118)の位置変化が前記仮想位置(114)の位置変化より低頻度で、またはより遅速で発生するような方法で、前記指定されるラウドスピーカ位置(118)を静的に、または半静的に発生するように構成されている。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の装置において、
前記メインステージ(120)は、前記ラウドスピーカアレイより少数のラウドスピーカを備える仮想ラウドスピーカシステムをエミュレートするように構成されている。
【請求項7】
請求項6に記載の装置において、
前記仮想ラウドスピーカシステムは点源又は平面波によってエミュレートされる。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の装置において、
前記プレステージ(110)は、前記出力音響信号(116)を適合化することによって前記仮想位置(114)の位置変化をマッピングし、かつ前記ラウドスピーカ位置(118)を変更されないままにするように構成されている。
【請求項9】
請求項8に記載の装置において、
前記プレステージ(110)は、仮想音源へ戻るラウドスピーカ成分信号の遅延又は増幅によって前記出力音響信号(116)の適合化を実行するように構成され、前記遅延又は増幅は、前記ラウドスピーカ位置が配置されてもよい円の想像上の中心からの仮想音源の距離に対応する。
【請求項10】
請求項9に記載の装置において、
前記プレステージ(110)は、適合化された出力音響信号を生成するために、各ラウドスピーカ位置について、前記個々の遅延又は増幅後に前記可動仮想音源のための前記ラウドスピーカ成分信号を加算するように構成されている。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の装置において、
前記プレステージ(110)は、XMT−SAW、オープンAI、5.1、アンビソニック、4チャネル方式、プロロジック、プロロジックII、ドルビーデジタル、ドルビーデジタルEX、DTS、DTS−ES、SDDS、10.2、THX又はIMAXに従って符号化される入力音響信号(112)を処理するように構成されている。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の装置において、
前記入力音響信号(112)及び前記仮想位置(114)を介して、原領域へ前記ラウドスピーカ信号(102)及び前記ラウドスピーカアレイを介してマッピングされる画像領域を提供するように構成されている。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の装置において、
前記メインステージ(120)は、前記ラウドスピーカ信号(102)及び前記ラウドスピーカアレイへマッピングされかつそれらのフォーマットは前記入力音響信号(112)のフォーマットとは異なる音響信号又は位置を追加的に取得するように構成されている。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれかに記載の装置において、
前記メインステージ(120)は、円形のラウドスピーカアレイを制御するように構成されている。
【請求項15】
請求項1ないし請求項14のいずれかに記載の装置において、
前記メインステージ(120)は、不規則なラウドスピーカアレイを、前記個々のラウドスピーカ信号(102)が前記ラウドスピーカアレイの前記不規則形状に適合化されるべく制御するように構成されている。
【請求項16】
請求項15に記載の装置において、
前記メインステージ(120)は、前記ラウドスピーカ信号(102)の前記不規則なラウドスピーカアレイへの前記適合化を、前記ラウドスピーカ信号(102)を個々に遅延しかつ増幅することによって実行するように構成されている。
【請求項17】
再生空間を画定するラウドスピーカアレイのための複数のラウドスピーカ信号(102)を生成する方法であって、
1つ又は複数の仮想音源を使用しながら複数の出力音響信号(116)を生成することを含み、1つの仮想音源は、それぞれ1つ又は複数の仮想位置(114)に関連づけられる1つの入力音響信号(112)を備え、各出力音響信号(116)はプレステージ(110)により指定されるラウドスピーカ位置(118)に関連づけられ、前記複数の出力音響信号(116)は共同で前記仮想位置(114)において前記入力音響信号(112)の再生を行い、出力音響信号(116)の個数は、前記ラウドスピーカアレイのためのラウドスピーカ信号(102)の個数より少なく、
各出力音響信号(116)について、前記複数の出力音響信号(116)及び前記ラウドスピーカ位置(118)を取得することと、
前記プレステージ(110)により指定される前記ラウドスピーカ位置(118)が前記ラウドスピーカアレイによって仮想音源として再現されるように、前記ラウドスピーカアレイのための前記複数のラウドスピーカ信号(102)を生成することを含む。
【請求項18】
コンピュータ又はマイクロコントローラ上で実行された際、請求項17に記載の方法を実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−506521(P2010−506521A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531771(P2009−531771)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008823
【国際公開番号】WO2008/043549
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(500341779)フラウンホーファー−ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デル・アンゲヴァンテン・フォルシュング・アインゲトラーゲネル・フェライン (75)
【Fターム(参考)】