冠形保持器及び転がり軸受
【課題】変形が生じにくく高速回転,高温条件下での使用に好適な冠形保持器、及び、高速回転,高温条件下で使用されても損傷が生じにくい転がり軸受を提供する。
【解決手段】冠形保持器4は、円環状の主部11と、この主部11の軸方向一端面に設けられ玉を転動可能に収容する複数のポケット12と、を備えている。各ポケット12は、主部11の前記端面に設けられた凹部13と、凹部13の縁に互いに間隔をあけ対向して配置され凹部13を周方向両側から挟む一対のつの14,14と、で構成されている。そして、この一対のつの14,14の互いに対向する面と凹部13の内面とは、連続して1つの球状凹面を形成している。この冠形保持器4は、120℃での曲げ弾性率が3500MPa以上である材料で構成されている。また、ポケット底部厚さtが、玉の直径の13%以上となっている。
【解決手段】冠形保持器4は、円環状の主部11と、この主部11の軸方向一端面に設けられ玉を転動可能に収容する複数のポケット12と、を備えている。各ポケット12は、主部11の前記端面に設けられた凹部13と、凹部13の縁に互いに間隔をあけ対向して配置され凹部13を周方向両側から挟む一対のつの14,14と、で構成されている。そして、この一対のつの14,14の互いに対向する面と凹部13の内面とは、連続して1つの球状凹面を形成している。この冠形保持器4は、120℃での曲げ弾性率が3500MPa以上である材料で構成されている。また、ポケット底部厚さtが、玉の直径の13%以上となっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に組み込まれる冠形保持器に関する。また、本発明は、冠形保持器が組み込まれた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、転がり軸受は、高速回転,高温等の過酷な条件下で使用される場合が多くなっている。例えば、ハイブリッド車用の駆動モータやオルタネータの回転支持部分に組み込まれる転がり軸受の場合は、高速回転(回転速度10000min-1以上又はdmN値80万以上) 且つ高温(100℃以上)で使用される場合が多い。なお、dmN値とは、軸受ピッチ円直径dm(単位はmm)と転がり軸受の回転速度N(単位はmin-1) との積である。
【0003】
転がり軸受が高速回転条件で使用されると、転がり軸受内の保持器は、内輪の外周面と外輪の内周面との間に存在する潤滑油,グリース等の潤滑剤と共に高速で回転する。高速回転時の保持器には遠心力が加わるので、この遠心力の作用によって保持器が弾性変形又は塑性変形するおそれがあった。保持器に変形(例えば径方向外方への変形)が生じると、転がり軸受の円滑な回転の妨げになるおそれがあるとともに、転がり軸受に損傷が生じるおそれもあった。そして、高温条件下では、変形が促進される傾向がある。
【0004】
このような保持器の変形を抑制するためには、保持器の剛性を向上させることが有効である。例えば特許文献1には、剛性が高いため、高速回転,高温条件で使用される転がり軸受に適用されても前述のような変形が生じにくい冠形保持器が開示されている。すなわち、冠形保持器は、円環状の主部と、主部の軸方向一端面に設けられ転動体を転動可能に収容する複数のポケットと、を備え、これらポケットは、主部の前記端面に設けられた凹部と、その凹部を周方向両側から挟む一対のつのと、で構成されているが、特許文献1に開示の冠形保持器は、主部の径方向長さを従来の一般的な冠形保持器の場合よりも大きくすることにより、保持器の剛性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−291662号公報
【特許文献2】特許第3666536号公報
【特許文献3】特開昭58−102823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の冠形保持器は、主部の径方向長さを大きくしたため、主部以外の部分、すなわちつのの部分も大きくなる。よって、従来の一般的な冠形保持器と比較して、主部が大きくなることによる質量増加に加えて、つのの部分が大きくなることによる質量増加も生じるので、保持器全体の質量増加が大きくなり、高速回転には不利になるおそれがあった。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、変形が生じにくく高速回転,高温条件下での使用に好適な冠形保持器を提供することを課題とする。また、本発明は、高速回転,高温条件下で使用されても損傷が生じにくい転がり軸受を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明の態様は次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係る冠形保持器は、円環状の主部と、前記主部の軸方向一端面に設けられ転動体を転動可能に収容する複数のポケットと、を備え、前記ポケットが、前記主部の前記端面に設けられた凹部と、該凹部を周方向両側から挟む一対のつのと、で構成された冠形保持器であって、120℃での曲げ弾性率が3500MPa以上である材料で構成されているとともに、前記ポケットの底部と前記主部の軸方向他端面との間の軸方向距離が、前記転動体の直径の13%以上であることを特徴とする。
【0008】
この冠形保持器においては、前記ポケットの底部と前記主部の軸方向他端面との間の軸方向距離は、前記転動体の直径の17%以上であることが好ましい。また、120℃での曲げ弾性率が4000MPa以上である材料で構成されていることが好ましい。
さらに、前記材料は、ポリアミド46及びガラス繊維を含有する樹脂組成物であり、ガラス繊維の含有量は前記樹脂組成物の25質量%以上40質量%未満であることが好ましい。
【0009】
さらに、前記材料は、ポリアミド46及び炭素繊維を含有する樹脂組成物であり、炭素繊維の含有量は前記樹脂組成物の10質量%以上20質量%未満であることが好ましい。このポリアミド46及び炭素繊維を含有する樹脂組成物を材料として用いた場合には、前記樹脂組成物の溶融物を金型内に射出する射出成形法により冠形保持器を製造してもよく、前記主部のうち前記ポケットの底部の近傍部分にはウェルドが存在しないことが好ましい。前記近傍部分は、前記ポケットの球状内面の曲率中心と前記ポケットの底部とを結ぶ第一仮想直線を軸として、前記第一仮想直線と30°の角度をなして前記曲率中心において交わる第二仮想直線を回転させることにより形成される仮想円錐面の内側に位置する部分である。
【0010】
また、本発明の他の態様に係る転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に前記転動体を保持する保持器と、を備え、前記保持器が上記の冠形保持器であることを特徴とする。
この転がり軸受は、温度100℃以上且つdmN値80万以上の条件で使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る冠形保持器は、120℃での曲げ弾性率が3500MPa以上である材料で構成されているとともに、ポケットの底部と主部の軸方向他端面との間の軸方向距離が転動体の直径の13%以上であるため、剛性が高く変形が生じにくい。よって、高速回転,高温条件下での使用に好適である。また、本発明に係る転がり軸受は、剛性が高く変形が生じにくい保持器を備えているので、高速回転,高温条件下で使用されても損傷が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。
【図2】図1の深溝玉軸受に組み込まれた冠形保持器の斜視図である。
【図3】ポケットの底部の近傍部分を示す部分拡大図である。
【図4】ゲート位置とウェルド位置の関係を示す図である。
【図5】ゲート位置とウェルド位置の関係を示す図である。
【図6】変形量を説明する冠形保持器の部分側面図である。
【図7】冠形保持器を構成する樹脂組成物の曲げ弾性率と冠形保持器の変形量との関係を示すグラフである。
【図8】ポケット底部厚さと冠形保持器の変形量との関係を示すグラフである。
【図9】樹脂組成物中のガラス繊維の含有量と樹脂組成物の曲げ弾性率との関係を示すグラフである。
【図10】樹脂組成物中の炭素繊維の含有量と樹脂組成物の曲げ弾性率との関係を示すグラフである。
【図11】樹脂組成物中の炭素繊維の含有量とウェルド強度との関係を示すグラフである。
【図12】強度比とウェルド位置のズレ量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る冠形保持器及び転がり軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。また、図2は、図1の深溝玉軸受に組み込まれた冠形保持器の斜視図である。
図1の深溝玉軸受は、内輪1と、外輪2と、内輪1の軌道面1aと外輪2の軌道面2aとの間に転動自在に配された複数の玉3と、内輪1及び外輪2の間に複数の玉3を保持する冠形保持器4と、内輪1及び外輪2の間に介在されたシール5,5と、を備えている。なお、シール5,5は備えていなくてもよい。また、内輪1と外輪2とシール5,5とで囲まれた軸受内部空間に、潤滑油,グリース等の潤滑剤を配して、内輪1及び外輪2の軌道面1a,2aと玉3の転動面とを潤滑してもよい。
【0014】
次に、冠形保持器4について、図2を参照しながら説明する。冠形保持器4は、円環状の主部11と、この主部11の軸方向一端面に設けられ玉3を転動可能に収容する複数のポケット12と、を備えている。各ポケット12は、主部11の前記端面に設けられた凹部13と、凹部13の縁に互いに間隔をあけ対向して配置され凹部13を周方向両側から挟む一対のつの14,14と、で構成されている。そして、この一対のつの14,14の互いに対向する面と凹部13の内面とは、連続して1つの球状凹面を形成している。
【0015】
このような冠形保持器4は、つの14,14の間隔を弾性的に押し広げつつ、一対のつの14,14の間に玉3を押し込むことにより、各ポケット12内に玉3を転動自在に保持することができる。
この冠形保持器4は、120℃での曲げ弾性率が3500MPa以上である材料で構成されている。また、ポケット12の底部(すなわち凹部13の底部であり、主部11の軸方向長さが最も小さい部分)と主部11の軸方向他端面との間の軸方向距離t(以下「ポケット底部厚さt」と記すこともある)が、玉3の直径の13%以上となっている(図1,2を参照)。
【0016】
このように、高弾性の材料で構成されているとともに、ポケット底部厚さtが大きいので、冠形保持器4は剛性が高く変形しにくい。そのため、冠形保持器4が組み込まれた深溝玉軸受が高速回転,高温条件下(例えば、温度100℃以上且つdmN値80万以上)で使用されたとしても、回転の遠心力による変形(例えば径方向外方への変形)が冠形保持器4に生じにくい。
よって、本実施形態の深溝玉軸受は、高速回転,高温条件下(例えば、温度100℃以上且つdmN値80万以上)で使用されても回転性能が良好であるとともに、冠形保持器4の変形に起因する損傷が生じにくい。このような本実施形態の深溝玉軸受は、ハイブリッド車用の駆動モータやオルタネータの回転支持部分に組み込まれる転がり軸受として好適である。
【0017】
なお、ポケット底部厚さtは、玉3の直径の17%以上とすることがより好ましい。そうすれば、冠形保持器4の剛性がより高くなるので、本実施形態の冠形保持器4及び深溝玉軸受を、より厳しい回転条件,温度条件で使用することが可能となる。また、冠形保持器4は、120℃での曲げ弾性率が4000MPa以上である材料で構成することが、より好ましい。そうすれば、冠形保持器4の剛性がより高くなるので、本実施形態の冠形保持器4及び深溝玉軸受を、温度120℃以上且つdmN値100万以上の条件で使用することが可能となる。
【0018】
また、ポケット底部厚さt、すなわち主部11の軸方向長さを大きくした方が、主部の径方向長さを大きくするよりも、冠形保持器4の剛性を向上させる作用が大きい。そのため、本実施形態の冠形保持器4は、前述した特許文献1に開示の冠形保持器と比較して、剛性が高い。
さらに、ポケット底部厚さt、すなわち主部11の軸方向長さを大きくしたため、主部11以外の部分、すなわちつの14の部分については大きさに変化はない。よって、従来の一般的な冠形保持器と比較して、主部11が大きくなることによる質量増加は生じるものの、その他の質量増加は生じない。そのため、本実施形態の冠形保持器4は、前述した特許文献1に開示の冠形保持器と比較して、高速回転での使用に好適である。
ここで、冠形保持器4を構成する材料について説明する。冠形保持器4を構成する材料は特に限定されるものではないが、樹脂と繊維状充填材(補強材)を含有する樹脂組成物が好ましい。
【0019】
樹脂の種類は特に限定されるものではないが、射出成形可能なエンジニアリングプラスチックが好ましい。具体的には、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルニトリル(PEN)等があげられる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
ただし、冠形保持器4及び深溝玉軸受のコストを考慮すると、ポリアミド樹脂が好ましい。ポリアミド樹脂の例としては、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612等の脂肪族ポリアミド樹脂や、変性ポリアミド6T、ポリアミド9T等の芳香族ポリアミド樹脂があげられる。そして、これらのポリアミド樹脂の中でも、比較的安価なポリアミド66とポリアミド46がより好ましい。
【0021】
また、繊維状充填材の種類は特に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、芳香族ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ウォラストナイト、炭化ケイ素ウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、アルミナウィスカー、窒化アルミニウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、酸化マグネシウムウィスカー、ムライトウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、グラファイトウィスカー、マグネシウムオキシサルフェートウィスカー等があげられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
ただし、これらの繊維状充填材の中でもガラス繊維と炭素繊維は、補強性が良好で好ましい。なお、繊維状充填材の添加量は、冠形保持器の機械的性質(例えば曲げ弾性率、剛性)、成形性、組立性等を考慮して適宜選択すればよいが、通常は10質量%以上50質量%以下である。また、樹脂組成物には、潤滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤等の各種添加剤をさらに添加してもよい。
【0023】
以上のように、冠形保持器4を構成する樹脂組成物の種類は特に限定されるものではないが、コスト、機械的性質(例えば曲げ弾性率、剛性)等を考慮すると、ガラス繊維又は炭素繊維で強化されたポリアミド樹脂がより好ましい。例えば、ポリアミド46及びガラス繊維を含有し、ガラス繊維の含有量が25質量%以上40質量%未満である樹脂組成物や、ポリアミド46及び炭素繊維を含有し、炭素繊維の含有量が10質量%以上20質量%未満である樹脂組成物が好ましい。
【0024】
ガラス繊維又は炭素繊維の含有量が前記下限値よりも少ないと、十分な補強効果が得られないため、樹脂組成物の曲げ弾性率が低くなり、冠形保持器4の剛性が不十分となるおそれがある。一方、ガラス繊維又は炭素繊維の含有量が前記上限値よりも多いと、樹脂組成物の成形性が不十分となるおそれがある。
このような冠形保持器4を製造する方法は特に限定されるものではなく、慣用の樹脂成形方法を採用可能である。例えば、射出成形法等の溶融成形法や機械加工による成形法や焼結成形法があげられる。
【0025】
射出成形法によって冠形保持器4を製造する場合、金型からの離型時や転がり軸受への組み込み時につの14が破損することを防止するためには、ポケット12の入り口の広さ(すなわち、凹部13を周方向両側から挟む一対のつの14,14の先端間の距離)を玉3の直径の0.91〜0.98倍に設定するとよい。なお、転がり軸受へ冠形保持器を組み込む際には、冠形保持器に水分を含ませたり、常温よりも高い温度に加熱したりした上で組み込むことにより、冠形保持器の破損を抑制することができる。
【0026】
また、射出成形法によって冠形保持器4を製造する場合は、一点ゲート、多点ゲートにかかわらず、冠形保持器4の使用時に大きな応力が作用しない位置に、ウェルド位置を設定することが好ましい。例えば、回転による遠心力が加わった際に、最も応力が作用する位置(一般的にはポケットの底部)には、ウェルド位置を設定しないことが好ましい。
例えば、ポリアミド46及び炭素繊維を含有し、炭素繊維の含有量が10質量%以上20質量%未満である樹脂組成物の溶融物を金型内に射出する射出成形法により冠形保持器4を製造する場合は、繊維状充填材の添加によりウェルド強度の低下が顕著となることから、主部11のうちポケット12の底部の近傍部分にはウェルドが存在しないように成形することが好ましい。
【0027】
ここで、ポケット12の底部の近傍部分とは、図3に示すように、ポケット12の球状内面の曲率中心Cとポケット12の底部Bとを結ぶ第一仮想直線Xを軸として、第一仮想直線Xと30°の角度θをなして曲率中心Cにおいて交わる第二仮想直線Yを回転させることにより形成される仮想円錐面の内側に位置する部分(図3においてハッチングを施した部分)である。
この底部の近傍部分にウェルドが存在しなければ、ウェルド位置は特に限定されるものではなく、例えば、隣接するポケット12同士の間の部分(柱部)にウェルド位置を設定してもよい。
【0028】
特許文献2に開示の技術では、金型のキャビティでのウェルド位置に対応して樹脂溜めを設けて、注入樹脂材料の先頭部分がキャビティから出て樹脂溜めに流入するようにすることで、ウェルドの発生を防止している。また、特許文献3に開示の技術では、金型のキャビティ内に樹脂材料を注入するためのゲートの位置を、隣接する2つのポケットの間の部分(柱部)の周方向中央部からずらすことにより、ポケットの最も肉厚の薄い部分にウェルドが発生することを防止している。
【0029】
しかしながら、特許文献2に開示のように樹脂溜めを設けるだけでは、ウェルドが発生してしまう場合があった。また、特許文献3には、ポケットの最も肉厚の薄い部分からウェルド位置をどの程度ずらすのかは開示されていない。
本実施形態の冠形保持器4のように、主部11のうちポケット12の底部の近傍部分にはウェルドが存在しないように成形してあれば、回転による遠心力が加わった際に最も応力が作用する位置にウェルドが存在しないため、冠形保持器4は高速回転,高温条件下で使用されても損傷が生じにくい。
【0030】
主部11のうちポケット12の底部の近傍部分にウェルドが存在しないように冠形保持器4を成形する方法は、特に限定されるものではない。例えば、金型のキャビティ内に樹脂組成物の溶融物を注入するためのゲートの位置を調整することにより、ウェルドの生成位置を前記近傍部分からずらしてもよい。また、金型のキャビティでのウェルド位置に対応して樹脂溜めを設けて、注入した樹脂組成物の溶融物の先頭部分がキャビティから出て樹脂溜めに流入するようにすることで、ウェルドの発生を防止してもよい。
【0031】
図4,5は、金型のキャビティ内に樹脂組成物の溶融物を注入するためのゲートの位置を、隣接する2つのポケットの間の部分の周方向中央部から周方向にずらして、前記周方向中央部よりもポケット寄りの位置とすることにより、ウェルド位置をずらして前記近傍部分にはウェルドが存在しないようにした例を説明する概念図である。
図4は、冠形保持器4の外径側から樹脂組成物の溶融物を注入するように金型にゲートを設けた例であり、(a)の部分斜視図及び(b)の端面図ともに、冠形保持器4にゲート位置とウェルド位置を表示することにより、ゲート位置とウェルド位置の関係を説明している。
【0032】
また、図5は、冠形保持器4の内径側から樹脂組成物の溶融物を注入するように金型にゲートを設けた例であり、図4と同様に、(a)の部分斜視図及び(b)の端面図ともに、冠形保持器4にゲート位置とウェルド位置を表示することにより、ゲート位置とウェルド位置の関係を説明している。
図4,5いずれの例においても、前述した樹脂溜めを併せて設けてもよい。すなわち、上記のようにしてずらしたウェルド位置に対応する位置に樹脂溜め(図示せず)を有する金型を用意し、注入した樹脂組成物の溶融物の先頭部分がキャビティから出て樹脂溜めに流入するようにすることで、ウェルドの発生を抑制してもよい。樹脂溜めは、冠形保持器の外径側に設けてもよいし内径側に設けてもよい。
【0033】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、一対のつの14,14の互いに対向する面と凹部13の内面とは、連続して1つの球状凹面を形成していたが、球状凹面に限定されるものではなく、円筒面でもよいし、その他の形状の面でもよい。円筒面の場合は、その中心軸が冠形保持器4の径方向に沿う円筒面でもよいし、その中心軸が冠形保持器4の軸方向に沿う円筒面でもよい。
また、本実施形態においては、転がり軸受として深溝玉軸受を例示して説明したが、本発明の転がり軸受は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受や自動調心玉軸受である。
【0034】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。まず、下記に示す4種の樹脂組成物を用意した。
(1)ポリアミド66及びガラス繊維からなる樹脂組成物であり、ガラス繊維の含有量は25質量%である。また、この樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率は3003MPaである。
(2)ポリアミド46及びガラス繊維からなる樹脂組成物であり、ガラス繊維の含有量は25質量%である。また、この樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率は4000MPaである。
【0035】
(3)ポリアミド46及び炭素繊維からなる樹脂組成物であり、炭素繊維の含有量は15質量%である。また、この樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率は5720MPaである。
(4)ポリアミド46及び炭素繊維からなる樹脂組成物であり、炭素繊維の含有量は30質量%である。また、この樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率は11175MPaである。
これら4種の樹脂組成物を材料として用いて、図2に示す冠形保持器4と同様の冠形保持器を射出成形法により製造した。なお、ポケット底部厚さは、転動体である玉の直径の10.9%、13.8%、16.7%、19.6%、23.5%、及び28.3%のいずれかとした。
【0036】
これらの冠形保持器を用いて、呼び番号6011の深溝玉軸受を組み立てた。この深溝玉軸受の軸受ピッチ円直径dmは72.5mmであり、玉の直径は10.319mmである。そして、これらの深溝玉軸受を温度120℃、dmN値100万という高速回転且つ高温条件で10時間回転させ、回転中の外輪の急発熱の有無と、回転後の冠形保持器の永久変形量を評価した。なお、冠形保持器の永久変形量とは、図6に示すように、回転前の冠形保持器の外径(半径)と回転後の冠形保持器の外径(半径)との差である。評価結果を表1,2に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表1,2から分かるように、剛性が不十分である冠形保持器は、永久変形量が大きく、外輪に急発熱が生じた。
次に、樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率と冠形保持器の永久変形量との関係を、図7のグラフに示す。このグラフの左側の縦軸は、永久変形量の絶対値(単位はmmである)を示し、右側の縦軸は、永久変形量の玉の直径に対する比率(単位は%である)を示している。
図7のグラフから、ポケット底部厚さにかかわらず、樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率が3500MPa以上であると、冠形保持器の永久変形量が小さく抑えられ、4000MPa以上であると、冠形保持器の永久変形量がさらに小さく抑えられることが分かる。
【0040】
次に、ポケット底部厚さの玉の直径に対する比率と冠形保持器の永久変形量との関係を、図8のグラフに示す。図7のグラフと同様に、図8のグラフの左側の縦軸は、永久変形量の絶対値(単位はmmである)を示し、右側の縦軸は、永久変形量の玉の直径に対する比率(単位は%である)を示している。
図8のグラフから、樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率が4000MPa以上である場合は、ポケット底部厚さの玉の直径に対する比率が13%以上であると、冠形保持器の永久変形量が小さく抑えられ、17%以上であると、冠形保持器の永久変形量がさらに小さく抑えられることが分かる。さらに、ポケット底部厚さの玉の直径に対する比率が30%超過であると、冠形保持器の永久変形量がほぼゼロに抑えられるので、ポケット底部厚さの玉の直径に対する比率は、30%以下とすることが好ましく、25%以下とすることがより好ましい。これにより、冠形保持器の製造に使用する樹脂組成物の量を抑制することができる。
【0041】
一方、樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率が3003MPaである場合は、ポケット底部厚さの玉の直径に対する比率を大きくすることによって、ある程度は冠形保持器の永久変形量を抑えることはできるものの、外輪の急発熱が生じた。
次に、ポリアミド46及びガラス繊維からなる樹脂組成物におけるガラス繊維の含有量と該樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率との関係を、図9のグラフに示す。図9のグラフから、120℃における曲げ弾性率を4000MPa以上とするためには、樹脂がポリアミド46である場合には、ガラス繊維の含有量を25質量%以上とする必要があることが分かる。
【0042】
なお、ガラス繊維の含有量を40質量%以上としても、120℃における曲げ弾性率はほとんど向上しないため、ガラス繊維の含有量は40質量%未満とすることが好ましい。ガラス繊維の含有量を40質量%以上とした場合には、剛性の向上が期待できないだけでなく、冠形保持器の成形時や転がり軸受への組み込み時に、冠形保持器がアンダーカット部から破損するおそれがある。
【0043】
次に、ポリアミド46及び炭素繊維からなる樹脂組成物における炭素繊維の含有量と該樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率との関係を、図10のグラフに示す。図10のグラフから、炭素繊維の含有量が多いほど曲げ弾性率が大きく、高速回転時の冠形保持器の変形を抑制可能であり、120℃における曲げ弾性率を4000MPa以上とするためには、樹脂がポリアミド46である場合には、炭素繊維の含有量を10質量%以上とする必要があることが分かる。
【0044】
次に、ポリアミド46及び炭素繊維からなる樹脂組成物における炭素繊維の含有量と冠形保持器のウェルド強度との関係を、図11のグラフに示す。なお、図11のグラフに示したウェルド強度は、非ウェルド部の強度に対するウェルド部の強度の比率である。図11のグラフから、樹脂組成物における炭素繊維の含有量が20質量%以上であると、ウェルド強度が著しく低下するため、炭素繊維の含有量は20質量%未満とすることが好ましく、15質量%以下とすることがより好ましいことが分かる。また、炭素繊維の含有量が10質量%以上であると、ウェルド強度の低下が見られるため、炭素繊維の含有量にかかわらず、冠形保持器のウェルド強度を向上させることが好ましいことが分かる。
【0045】
次に、ポケットの底部からウェルド位置をずらした冠形保持器を種々用意して、ウェルド位置のズレ量と冠形保持器の強度との関係を調査した。ポリアミド46及び炭素繊維からなり、炭素繊維の含有量が15質量%である樹脂組成物を射出成形して、呼び番号6011の深溝玉軸受用の冠形保持器(内径:68mm、外径:77mm、ポケット数:13個)を製造した。
【0046】
そして、冠形保持器の主部のうちウェルドが形成されている部分の引張破断強度(円環部強度)を測定し、冠形保持器の主部のうちウェルドが形成されていない部分の引張破断強度(円環部強度)に対する比率を算出した。算出した強度比とウェルド位置のズレ量との関係を、図12のグラフに示す。なお、図12のグラフの横軸に示すウェルド位置のズレ量は、前述した第一仮想直線Xと第二仮想直線Yとのなす角度θである。
図12のグラフから、角度θを30°以上とすれば、十分に優れた強度を有する冠形保持器が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0047】
1 内輪
2 外輪
3 玉
4 冠形保持器
11 主部
12 ポケット
13 凹部
14 つの
t ポケット底部厚さ
B ポケットの底部
C ポケットの球状内面の曲率中心
X 第一仮想直線
Y 第二仮想直線
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に組み込まれる冠形保持器に関する。また、本発明は、冠形保持器が組み込まれた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、転がり軸受は、高速回転,高温等の過酷な条件下で使用される場合が多くなっている。例えば、ハイブリッド車用の駆動モータやオルタネータの回転支持部分に組み込まれる転がり軸受の場合は、高速回転(回転速度10000min-1以上又はdmN値80万以上) 且つ高温(100℃以上)で使用される場合が多い。なお、dmN値とは、軸受ピッチ円直径dm(単位はmm)と転がり軸受の回転速度N(単位はmin-1) との積である。
【0003】
転がり軸受が高速回転条件で使用されると、転がり軸受内の保持器は、内輪の外周面と外輪の内周面との間に存在する潤滑油,グリース等の潤滑剤と共に高速で回転する。高速回転時の保持器には遠心力が加わるので、この遠心力の作用によって保持器が弾性変形又は塑性変形するおそれがあった。保持器に変形(例えば径方向外方への変形)が生じると、転がり軸受の円滑な回転の妨げになるおそれがあるとともに、転がり軸受に損傷が生じるおそれもあった。そして、高温条件下では、変形が促進される傾向がある。
【0004】
このような保持器の変形を抑制するためには、保持器の剛性を向上させることが有効である。例えば特許文献1には、剛性が高いため、高速回転,高温条件で使用される転がり軸受に適用されても前述のような変形が生じにくい冠形保持器が開示されている。すなわち、冠形保持器は、円環状の主部と、主部の軸方向一端面に設けられ転動体を転動可能に収容する複数のポケットと、を備え、これらポケットは、主部の前記端面に設けられた凹部と、その凹部を周方向両側から挟む一対のつのと、で構成されているが、特許文献1に開示の冠形保持器は、主部の径方向長さを従来の一般的な冠形保持器の場合よりも大きくすることにより、保持器の剛性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−291662号公報
【特許文献2】特許第3666536号公報
【特許文献3】特開昭58−102823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の冠形保持器は、主部の径方向長さを大きくしたため、主部以外の部分、すなわちつのの部分も大きくなる。よって、従来の一般的な冠形保持器と比較して、主部が大きくなることによる質量増加に加えて、つのの部分が大きくなることによる質量増加も生じるので、保持器全体の質量増加が大きくなり、高速回転には不利になるおそれがあった。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、変形が生じにくく高速回転,高温条件下での使用に好適な冠形保持器を提供することを課題とする。また、本発明は、高速回転,高温条件下で使用されても損傷が生じにくい転がり軸受を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明の態様は次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係る冠形保持器は、円環状の主部と、前記主部の軸方向一端面に設けられ転動体を転動可能に収容する複数のポケットと、を備え、前記ポケットが、前記主部の前記端面に設けられた凹部と、該凹部を周方向両側から挟む一対のつのと、で構成された冠形保持器であって、120℃での曲げ弾性率が3500MPa以上である材料で構成されているとともに、前記ポケットの底部と前記主部の軸方向他端面との間の軸方向距離が、前記転動体の直径の13%以上であることを特徴とする。
【0008】
この冠形保持器においては、前記ポケットの底部と前記主部の軸方向他端面との間の軸方向距離は、前記転動体の直径の17%以上であることが好ましい。また、120℃での曲げ弾性率が4000MPa以上である材料で構成されていることが好ましい。
さらに、前記材料は、ポリアミド46及びガラス繊維を含有する樹脂組成物であり、ガラス繊維の含有量は前記樹脂組成物の25質量%以上40質量%未満であることが好ましい。
【0009】
さらに、前記材料は、ポリアミド46及び炭素繊維を含有する樹脂組成物であり、炭素繊維の含有量は前記樹脂組成物の10質量%以上20質量%未満であることが好ましい。このポリアミド46及び炭素繊維を含有する樹脂組成物を材料として用いた場合には、前記樹脂組成物の溶融物を金型内に射出する射出成形法により冠形保持器を製造してもよく、前記主部のうち前記ポケットの底部の近傍部分にはウェルドが存在しないことが好ましい。前記近傍部分は、前記ポケットの球状内面の曲率中心と前記ポケットの底部とを結ぶ第一仮想直線を軸として、前記第一仮想直線と30°の角度をなして前記曲率中心において交わる第二仮想直線を回転させることにより形成される仮想円錐面の内側に位置する部分である。
【0010】
また、本発明の他の態様に係る転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に前記転動体を保持する保持器と、を備え、前記保持器が上記の冠形保持器であることを特徴とする。
この転がり軸受は、温度100℃以上且つdmN値80万以上の条件で使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る冠形保持器は、120℃での曲げ弾性率が3500MPa以上である材料で構成されているとともに、ポケットの底部と主部の軸方向他端面との間の軸方向距離が転動体の直径の13%以上であるため、剛性が高く変形が生じにくい。よって、高速回転,高温条件下での使用に好適である。また、本発明に係る転がり軸受は、剛性が高く変形が生じにくい保持器を備えているので、高速回転,高温条件下で使用されても損傷が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。
【図2】図1の深溝玉軸受に組み込まれた冠形保持器の斜視図である。
【図3】ポケットの底部の近傍部分を示す部分拡大図である。
【図4】ゲート位置とウェルド位置の関係を示す図である。
【図5】ゲート位置とウェルド位置の関係を示す図である。
【図6】変形量を説明する冠形保持器の部分側面図である。
【図7】冠形保持器を構成する樹脂組成物の曲げ弾性率と冠形保持器の変形量との関係を示すグラフである。
【図8】ポケット底部厚さと冠形保持器の変形量との関係を示すグラフである。
【図9】樹脂組成物中のガラス繊維の含有量と樹脂組成物の曲げ弾性率との関係を示すグラフである。
【図10】樹脂組成物中の炭素繊維の含有量と樹脂組成物の曲げ弾性率との関係を示すグラフである。
【図11】樹脂組成物中の炭素繊維の含有量とウェルド強度との関係を示すグラフである。
【図12】強度比とウェルド位置のズレ量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る冠形保持器及び転がり軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。また、図2は、図1の深溝玉軸受に組み込まれた冠形保持器の斜視図である。
図1の深溝玉軸受は、内輪1と、外輪2と、内輪1の軌道面1aと外輪2の軌道面2aとの間に転動自在に配された複数の玉3と、内輪1及び外輪2の間に複数の玉3を保持する冠形保持器4と、内輪1及び外輪2の間に介在されたシール5,5と、を備えている。なお、シール5,5は備えていなくてもよい。また、内輪1と外輪2とシール5,5とで囲まれた軸受内部空間に、潤滑油,グリース等の潤滑剤を配して、内輪1及び外輪2の軌道面1a,2aと玉3の転動面とを潤滑してもよい。
【0014】
次に、冠形保持器4について、図2を参照しながら説明する。冠形保持器4は、円環状の主部11と、この主部11の軸方向一端面に設けられ玉3を転動可能に収容する複数のポケット12と、を備えている。各ポケット12は、主部11の前記端面に設けられた凹部13と、凹部13の縁に互いに間隔をあけ対向して配置され凹部13を周方向両側から挟む一対のつの14,14と、で構成されている。そして、この一対のつの14,14の互いに対向する面と凹部13の内面とは、連続して1つの球状凹面を形成している。
【0015】
このような冠形保持器4は、つの14,14の間隔を弾性的に押し広げつつ、一対のつの14,14の間に玉3を押し込むことにより、各ポケット12内に玉3を転動自在に保持することができる。
この冠形保持器4は、120℃での曲げ弾性率が3500MPa以上である材料で構成されている。また、ポケット12の底部(すなわち凹部13の底部であり、主部11の軸方向長さが最も小さい部分)と主部11の軸方向他端面との間の軸方向距離t(以下「ポケット底部厚さt」と記すこともある)が、玉3の直径の13%以上となっている(図1,2を参照)。
【0016】
このように、高弾性の材料で構成されているとともに、ポケット底部厚さtが大きいので、冠形保持器4は剛性が高く変形しにくい。そのため、冠形保持器4が組み込まれた深溝玉軸受が高速回転,高温条件下(例えば、温度100℃以上且つdmN値80万以上)で使用されたとしても、回転の遠心力による変形(例えば径方向外方への変形)が冠形保持器4に生じにくい。
よって、本実施形態の深溝玉軸受は、高速回転,高温条件下(例えば、温度100℃以上且つdmN値80万以上)で使用されても回転性能が良好であるとともに、冠形保持器4の変形に起因する損傷が生じにくい。このような本実施形態の深溝玉軸受は、ハイブリッド車用の駆動モータやオルタネータの回転支持部分に組み込まれる転がり軸受として好適である。
【0017】
なお、ポケット底部厚さtは、玉3の直径の17%以上とすることがより好ましい。そうすれば、冠形保持器4の剛性がより高くなるので、本実施形態の冠形保持器4及び深溝玉軸受を、より厳しい回転条件,温度条件で使用することが可能となる。また、冠形保持器4は、120℃での曲げ弾性率が4000MPa以上である材料で構成することが、より好ましい。そうすれば、冠形保持器4の剛性がより高くなるので、本実施形態の冠形保持器4及び深溝玉軸受を、温度120℃以上且つdmN値100万以上の条件で使用することが可能となる。
【0018】
また、ポケット底部厚さt、すなわち主部11の軸方向長さを大きくした方が、主部の径方向長さを大きくするよりも、冠形保持器4の剛性を向上させる作用が大きい。そのため、本実施形態の冠形保持器4は、前述した特許文献1に開示の冠形保持器と比較して、剛性が高い。
さらに、ポケット底部厚さt、すなわち主部11の軸方向長さを大きくしたため、主部11以外の部分、すなわちつの14の部分については大きさに変化はない。よって、従来の一般的な冠形保持器と比較して、主部11が大きくなることによる質量増加は生じるものの、その他の質量増加は生じない。そのため、本実施形態の冠形保持器4は、前述した特許文献1に開示の冠形保持器と比較して、高速回転での使用に好適である。
ここで、冠形保持器4を構成する材料について説明する。冠形保持器4を構成する材料は特に限定されるものではないが、樹脂と繊維状充填材(補強材)を含有する樹脂組成物が好ましい。
【0019】
樹脂の種類は特に限定されるものではないが、射出成形可能なエンジニアリングプラスチックが好ましい。具体的には、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルニトリル(PEN)等があげられる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
ただし、冠形保持器4及び深溝玉軸受のコストを考慮すると、ポリアミド樹脂が好ましい。ポリアミド樹脂の例としては、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612等の脂肪族ポリアミド樹脂や、変性ポリアミド6T、ポリアミド9T等の芳香族ポリアミド樹脂があげられる。そして、これらのポリアミド樹脂の中でも、比較的安価なポリアミド66とポリアミド46がより好ましい。
【0021】
また、繊維状充填材の種類は特に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、芳香族ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ウォラストナイト、炭化ケイ素ウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、アルミナウィスカー、窒化アルミニウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、酸化マグネシウムウィスカー、ムライトウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、グラファイトウィスカー、マグネシウムオキシサルフェートウィスカー等があげられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
ただし、これらの繊維状充填材の中でもガラス繊維と炭素繊維は、補強性が良好で好ましい。なお、繊維状充填材の添加量は、冠形保持器の機械的性質(例えば曲げ弾性率、剛性)、成形性、組立性等を考慮して適宜選択すればよいが、通常は10質量%以上50質量%以下である。また、樹脂組成物には、潤滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤等の各種添加剤をさらに添加してもよい。
【0023】
以上のように、冠形保持器4を構成する樹脂組成物の種類は特に限定されるものではないが、コスト、機械的性質(例えば曲げ弾性率、剛性)等を考慮すると、ガラス繊維又は炭素繊維で強化されたポリアミド樹脂がより好ましい。例えば、ポリアミド46及びガラス繊維を含有し、ガラス繊維の含有量が25質量%以上40質量%未満である樹脂組成物や、ポリアミド46及び炭素繊維を含有し、炭素繊維の含有量が10質量%以上20質量%未満である樹脂組成物が好ましい。
【0024】
ガラス繊維又は炭素繊維の含有量が前記下限値よりも少ないと、十分な補強効果が得られないため、樹脂組成物の曲げ弾性率が低くなり、冠形保持器4の剛性が不十分となるおそれがある。一方、ガラス繊維又は炭素繊維の含有量が前記上限値よりも多いと、樹脂組成物の成形性が不十分となるおそれがある。
このような冠形保持器4を製造する方法は特に限定されるものではなく、慣用の樹脂成形方法を採用可能である。例えば、射出成形法等の溶融成形法や機械加工による成形法や焼結成形法があげられる。
【0025】
射出成形法によって冠形保持器4を製造する場合、金型からの離型時や転がり軸受への組み込み時につの14が破損することを防止するためには、ポケット12の入り口の広さ(すなわち、凹部13を周方向両側から挟む一対のつの14,14の先端間の距離)を玉3の直径の0.91〜0.98倍に設定するとよい。なお、転がり軸受へ冠形保持器を組み込む際には、冠形保持器に水分を含ませたり、常温よりも高い温度に加熱したりした上で組み込むことにより、冠形保持器の破損を抑制することができる。
【0026】
また、射出成形法によって冠形保持器4を製造する場合は、一点ゲート、多点ゲートにかかわらず、冠形保持器4の使用時に大きな応力が作用しない位置に、ウェルド位置を設定することが好ましい。例えば、回転による遠心力が加わった際に、最も応力が作用する位置(一般的にはポケットの底部)には、ウェルド位置を設定しないことが好ましい。
例えば、ポリアミド46及び炭素繊維を含有し、炭素繊維の含有量が10質量%以上20質量%未満である樹脂組成物の溶融物を金型内に射出する射出成形法により冠形保持器4を製造する場合は、繊維状充填材の添加によりウェルド強度の低下が顕著となることから、主部11のうちポケット12の底部の近傍部分にはウェルドが存在しないように成形することが好ましい。
【0027】
ここで、ポケット12の底部の近傍部分とは、図3に示すように、ポケット12の球状内面の曲率中心Cとポケット12の底部Bとを結ぶ第一仮想直線Xを軸として、第一仮想直線Xと30°の角度θをなして曲率中心Cにおいて交わる第二仮想直線Yを回転させることにより形成される仮想円錐面の内側に位置する部分(図3においてハッチングを施した部分)である。
この底部の近傍部分にウェルドが存在しなければ、ウェルド位置は特に限定されるものではなく、例えば、隣接するポケット12同士の間の部分(柱部)にウェルド位置を設定してもよい。
【0028】
特許文献2に開示の技術では、金型のキャビティでのウェルド位置に対応して樹脂溜めを設けて、注入樹脂材料の先頭部分がキャビティから出て樹脂溜めに流入するようにすることで、ウェルドの発生を防止している。また、特許文献3に開示の技術では、金型のキャビティ内に樹脂材料を注入するためのゲートの位置を、隣接する2つのポケットの間の部分(柱部)の周方向中央部からずらすことにより、ポケットの最も肉厚の薄い部分にウェルドが発生することを防止している。
【0029】
しかしながら、特許文献2に開示のように樹脂溜めを設けるだけでは、ウェルドが発生してしまう場合があった。また、特許文献3には、ポケットの最も肉厚の薄い部分からウェルド位置をどの程度ずらすのかは開示されていない。
本実施形態の冠形保持器4のように、主部11のうちポケット12の底部の近傍部分にはウェルドが存在しないように成形してあれば、回転による遠心力が加わった際に最も応力が作用する位置にウェルドが存在しないため、冠形保持器4は高速回転,高温条件下で使用されても損傷が生じにくい。
【0030】
主部11のうちポケット12の底部の近傍部分にウェルドが存在しないように冠形保持器4を成形する方法は、特に限定されるものではない。例えば、金型のキャビティ内に樹脂組成物の溶融物を注入するためのゲートの位置を調整することにより、ウェルドの生成位置を前記近傍部分からずらしてもよい。また、金型のキャビティでのウェルド位置に対応して樹脂溜めを設けて、注入した樹脂組成物の溶融物の先頭部分がキャビティから出て樹脂溜めに流入するようにすることで、ウェルドの発生を防止してもよい。
【0031】
図4,5は、金型のキャビティ内に樹脂組成物の溶融物を注入するためのゲートの位置を、隣接する2つのポケットの間の部分の周方向中央部から周方向にずらして、前記周方向中央部よりもポケット寄りの位置とすることにより、ウェルド位置をずらして前記近傍部分にはウェルドが存在しないようにした例を説明する概念図である。
図4は、冠形保持器4の外径側から樹脂組成物の溶融物を注入するように金型にゲートを設けた例であり、(a)の部分斜視図及び(b)の端面図ともに、冠形保持器4にゲート位置とウェルド位置を表示することにより、ゲート位置とウェルド位置の関係を説明している。
【0032】
また、図5は、冠形保持器4の内径側から樹脂組成物の溶融物を注入するように金型にゲートを設けた例であり、図4と同様に、(a)の部分斜視図及び(b)の端面図ともに、冠形保持器4にゲート位置とウェルド位置を表示することにより、ゲート位置とウェルド位置の関係を説明している。
図4,5いずれの例においても、前述した樹脂溜めを併せて設けてもよい。すなわち、上記のようにしてずらしたウェルド位置に対応する位置に樹脂溜め(図示せず)を有する金型を用意し、注入した樹脂組成物の溶融物の先頭部分がキャビティから出て樹脂溜めに流入するようにすることで、ウェルドの発生を抑制してもよい。樹脂溜めは、冠形保持器の外径側に設けてもよいし内径側に設けてもよい。
【0033】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、一対のつの14,14の互いに対向する面と凹部13の内面とは、連続して1つの球状凹面を形成していたが、球状凹面に限定されるものではなく、円筒面でもよいし、その他の形状の面でもよい。円筒面の場合は、その中心軸が冠形保持器4の径方向に沿う円筒面でもよいし、その中心軸が冠形保持器4の軸方向に沿う円筒面でもよい。
また、本実施形態においては、転がり軸受として深溝玉軸受を例示して説明したが、本発明の転がり軸受は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受や自動調心玉軸受である。
【0034】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。まず、下記に示す4種の樹脂組成物を用意した。
(1)ポリアミド66及びガラス繊維からなる樹脂組成物であり、ガラス繊維の含有量は25質量%である。また、この樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率は3003MPaである。
(2)ポリアミド46及びガラス繊維からなる樹脂組成物であり、ガラス繊維の含有量は25質量%である。また、この樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率は4000MPaである。
【0035】
(3)ポリアミド46及び炭素繊維からなる樹脂組成物であり、炭素繊維の含有量は15質量%である。また、この樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率は5720MPaである。
(4)ポリアミド46及び炭素繊維からなる樹脂組成物であり、炭素繊維の含有量は30質量%である。また、この樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率は11175MPaである。
これら4種の樹脂組成物を材料として用いて、図2に示す冠形保持器4と同様の冠形保持器を射出成形法により製造した。なお、ポケット底部厚さは、転動体である玉の直径の10.9%、13.8%、16.7%、19.6%、23.5%、及び28.3%のいずれかとした。
【0036】
これらの冠形保持器を用いて、呼び番号6011の深溝玉軸受を組み立てた。この深溝玉軸受の軸受ピッチ円直径dmは72.5mmであり、玉の直径は10.319mmである。そして、これらの深溝玉軸受を温度120℃、dmN値100万という高速回転且つ高温条件で10時間回転させ、回転中の外輪の急発熱の有無と、回転後の冠形保持器の永久変形量を評価した。なお、冠形保持器の永久変形量とは、図6に示すように、回転前の冠形保持器の外径(半径)と回転後の冠形保持器の外径(半径)との差である。評価結果を表1,2に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表1,2から分かるように、剛性が不十分である冠形保持器は、永久変形量が大きく、外輪に急発熱が生じた。
次に、樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率と冠形保持器の永久変形量との関係を、図7のグラフに示す。このグラフの左側の縦軸は、永久変形量の絶対値(単位はmmである)を示し、右側の縦軸は、永久変形量の玉の直径に対する比率(単位は%である)を示している。
図7のグラフから、ポケット底部厚さにかかわらず、樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率が3500MPa以上であると、冠形保持器の永久変形量が小さく抑えられ、4000MPa以上であると、冠形保持器の永久変形量がさらに小さく抑えられることが分かる。
【0040】
次に、ポケット底部厚さの玉の直径に対する比率と冠形保持器の永久変形量との関係を、図8のグラフに示す。図7のグラフと同様に、図8のグラフの左側の縦軸は、永久変形量の絶対値(単位はmmである)を示し、右側の縦軸は、永久変形量の玉の直径に対する比率(単位は%である)を示している。
図8のグラフから、樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率が4000MPa以上である場合は、ポケット底部厚さの玉の直径に対する比率が13%以上であると、冠形保持器の永久変形量が小さく抑えられ、17%以上であると、冠形保持器の永久変形量がさらに小さく抑えられることが分かる。さらに、ポケット底部厚さの玉の直径に対する比率が30%超過であると、冠形保持器の永久変形量がほぼゼロに抑えられるので、ポケット底部厚さの玉の直径に対する比率は、30%以下とすることが好ましく、25%以下とすることがより好ましい。これにより、冠形保持器の製造に使用する樹脂組成物の量を抑制することができる。
【0041】
一方、樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率が3003MPaである場合は、ポケット底部厚さの玉の直径に対する比率を大きくすることによって、ある程度は冠形保持器の永久変形量を抑えることはできるものの、外輪の急発熱が生じた。
次に、ポリアミド46及びガラス繊維からなる樹脂組成物におけるガラス繊維の含有量と該樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率との関係を、図9のグラフに示す。図9のグラフから、120℃における曲げ弾性率を4000MPa以上とするためには、樹脂がポリアミド46である場合には、ガラス繊維の含有量を25質量%以上とする必要があることが分かる。
【0042】
なお、ガラス繊維の含有量を40質量%以上としても、120℃における曲げ弾性率はほとんど向上しないため、ガラス繊維の含有量は40質量%未満とすることが好ましい。ガラス繊維の含有量を40質量%以上とした場合には、剛性の向上が期待できないだけでなく、冠形保持器の成形時や転がり軸受への組み込み時に、冠形保持器がアンダーカット部から破損するおそれがある。
【0043】
次に、ポリアミド46及び炭素繊維からなる樹脂組成物における炭素繊維の含有量と該樹脂組成物の120℃における曲げ弾性率との関係を、図10のグラフに示す。図10のグラフから、炭素繊維の含有量が多いほど曲げ弾性率が大きく、高速回転時の冠形保持器の変形を抑制可能であり、120℃における曲げ弾性率を4000MPa以上とするためには、樹脂がポリアミド46である場合には、炭素繊維の含有量を10質量%以上とする必要があることが分かる。
【0044】
次に、ポリアミド46及び炭素繊維からなる樹脂組成物における炭素繊維の含有量と冠形保持器のウェルド強度との関係を、図11のグラフに示す。なお、図11のグラフに示したウェルド強度は、非ウェルド部の強度に対するウェルド部の強度の比率である。図11のグラフから、樹脂組成物における炭素繊維の含有量が20質量%以上であると、ウェルド強度が著しく低下するため、炭素繊維の含有量は20質量%未満とすることが好ましく、15質量%以下とすることがより好ましいことが分かる。また、炭素繊維の含有量が10質量%以上であると、ウェルド強度の低下が見られるため、炭素繊維の含有量にかかわらず、冠形保持器のウェルド強度を向上させることが好ましいことが分かる。
【0045】
次に、ポケットの底部からウェルド位置をずらした冠形保持器を種々用意して、ウェルド位置のズレ量と冠形保持器の強度との関係を調査した。ポリアミド46及び炭素繊維からなり、炭素繊維の含有量が15質量%である樹脂組成物を射出成形して、呼び番号6011の深溝玉軸受用の冠形保持器(内径:68mm、外径:77mm、ポケット数:13個)を製造した。
【0046】
そして、冠形保持器の主部のうちウェルドが形成されている部分の引張破断強度(円環部強度)を測定し、冠形保持器の主部のうちウェルドが形成されていない部分の引張破断強度(円環部強度)に対する比率を算出した。算出した強度比とウェルド位置のズレ量との関係を、図12のグラフに示す。なお、図12のグラフの横軸に示すウェルド位置のズレ量は、前述した第一仮想直線Xと第二仮想直線Yとのなす角度θである。
図12のグラフから、角度θを30°以上とすれば、十分に優れた強度を有する冠形保持器が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0047】
1 内輪
2 外輪
3 玉
4 冠形保持器
11 主部
12 ポケット
13 凹部
14 つの
t ポケット底部厚さ
B ポケットの底部
C ポケットの球状内面の曲率中心
X 第一仮想直線
Y 第二仮想直線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状の主部と、前記主部の軸方向一端面に設けられ転動体を転動可能に収容する複数のポケットと、を備え、前記ポケットが、前記主部の前記端面に設けられた凹部と、該凹部を周方向両側から挟む一対のつのと、で構成された冠形保持器であって、120℃での曲げ弾性率が3500MPa以上である材料で構成されているとともに、前記ポケットの底部と前記主部の軸方向他端面との間の軸方向距離が、前記転動体の直径の13%以上であることを特徴とする冠形保持器。
【請求項2】
前記ポケットの底部と前記主部の軸方向他端面との間の軸方向距離が、前記転動体の直径の17%以上であることを特徴とする請求項1に記載の冠形保持器。
【請求項3】
120℃での曲げ弾性率が4000MPa以上である材料で構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の冠形保持器。
【請求項4】
前記材料は、ポリアミド46及びガラス繊維を含有する樹脂組成物であり、ガラス繊維の含有量は前記樹脂組成物の25質量%以上40質量%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の冠形保持器。
【請求項5】
前記材料は、ポリアミド46及び炭素繊維を含有する樹脂組成物であり、炭素繊維の含有量は前記樹脂組成物の10質量%以上20質量%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の冠形保持器。
【請求項6】
前記樹脂組成物の溶融物を金型内に射出する射出成形法により製造されたものであり、前記主部のうち前記ポケットの底部の近傍部分にはウェルドが存在せず、前記近傍部分は、前記ポケットの球状内面の曲率中心と前記ポケットの底部とを結ぶ第一仮想直線を軸として、前記第一仮想直線と30°の角度をなして前記曲率中心において交わる第二仮想直線を回転させることにより形成される仮想円錐面の内側に位置する部分であることを特徴とする請求項5に記載の冠形保持器。
【請求項7】
内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に前記転動体を保持する保持器と、を備え、前記保持器が請求項1〜6のいずれか一項に記載の冠形保持器であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項8】
温度100℃以上且つdmN値80万以上の条件で使用されることを特徴とする請求項7に記載の転がり軸受。
【請求項1】
円環状の主部と、前記主部の軸方向一端面に設けられ転動体を転動可能に収容する複数のポケットと、を備え、前記ポケットが、前記主部の前記端面に設けられた凹部と、該凹部を周方向両側から挟む一対のつのと、で構成された冠形保持器であって、120℃での曲げ弾性率が3500MPa以上である材料で構成されているとともに、前記ポケットの底部と前記主部の軸方向他端面との間の軸方向距離が、前記転動体の直径の13%以上であることを特徴とする冠形保持器。
【請求項2】
前記ポケットの底部と前記主部の軸方向他端面との間の軸方向距離が、前記転動体の直径の17%以上であることを特徴とする請求項1に記載の冠形保持器。
【請求項3】
120℃での曲げ弾性率が4000MPa以上である材料で構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の冠形保持器。
【請求項4】
前記材料は、ポリアミド46及びガラス繊維を含有する樹脂組成物であり、ガラス繊維の含有量は前記樹脂組成物の25質量%以上40質量%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の冠形保持器。
【請求項5】
前記材料は、ポリアミド46及び炭素繊維を含有する樹脂組成物であり、炭素繊維の含有量は前記樹脂組成物の10質量%以上20質量%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の冠形保持器。
【請求項6】
前記樹脂組成物の溶融物を金型内に射出する射出成形法により製造されたものであり、前記主部のうち前記ポケットの底部の近傍部分にはウェルドが存在せず、前記近傍部分は、前記ポケットの球状内面の曲率中心と前記ポケットの底部とを結ぶ第一仮想直線を軸として、前記第一仮想直線と30°の角度をなして前記曲率中心において交わる第二仮想直線を回転させることにより形成される仮想円錐面の内側に位置する部分であることを特徴とする請求項5に記載の冠形保持器。
【請求項7】
内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に前記転動体を保持する保持器と、を備え、前記保持器が請求項1〜6のいずれか一項に記載の冠形保持器であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項8】
温度100℃以上且つdmN値80万以上の条件で使用されることを特徴とする請求項7に記載の転がり軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−36608(P2013−36608A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−99148(P2012−99148)
【出願日】平成24年4月24日(2012.4.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月24日(2012.4.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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