説明

冷凍イカ

【課題】イカ類は死後急速に表皮が赤色発色し、その後時間の経過とともに白濁し、さらに時間が経過すると再び赤色発色するが、2度目の赤色発色以降は生食に適さなくなる。そこで、活魚に近い鮮度維持を達成するための、安価な凍結方法およびそれにより得られる冷凍イカを提供する。
【解決手段】イカ類2を滅菌処理した概略海水の塩分濃度の塩水3に浸漬した状態で、塩水の共晶点−21.1℃の以下で急速凍結させることで最大氷結晶生成帯の幅を狭くし、体内の水分の結晶が成長するのを抑制する。また、イカを氷中に閉じ込めることで外気とイカが直接触れ合うことがないために、冷凍保存中の冷凍焼けや乾燥後が防止ができて、解凍後も活魚と変わらない食感と食味を維持できる。冷凍機は、冷凍マグロの保存などのために量産されている−50℃前後の安価なフリーザーが使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグロブロックの凍結用に量産されている冷却温度が−50℃前後の安価な冷凍装置を用い、魚類の血液内塩分濃度0.9%と概略浸透圧が平衡する塩水濃度の塩水中で、凍結処理したアオリイカ、ヤリイカ、スルメイカなどの食用の冷凍イカに係るものである。
【背景技術】
【0002】
イカは活魚の生食が好まれるが、活魚の生食を供するには流通ならびにストックのためのコストがかかり、消費者が支払う対価が高くなるため、限られた市場規模に止まっている。
【0003】
そのため、より活魚に近い食感と食味を維持できる急速凍結による鮮度維持の手段がいくつか提案されている。
例えば、冷凍装置に冷凍対象物の構成分子の磁気モーメントを一方向に揃えて冷気の伝達速度を上げ、かつ冷凍ムラを防ぐ効果のある磁場発生装置を備え、庫内温度を−100℃近くまで冷却可能な冷却能力を持つ冷凍庫で瞬間凍結する方法が提案されている。
【0004】
あるいは、冷凍食品の製造工程において、冷凍食品本体の表面に、ゼリー剤と加熱凝固性物質を主体とした混合物の溶液によりコーティングを施し、食品本体表面に皮膜を形成することにより、冷凍保管および解凍時の低温状態では、混合物内のゼリー剤がゲル化して食品全体を包み込んでドリップ等の流出を抑える方法が提案されている。
【0005】
また、水揚げした魚体を解体して各種の形態に切断、整形された魚肉は、まず、冷風による予備的乾燥によって表面部が軽度の脱水処理を受けた後、食塩水に短時間浸漬されて魚肉表面がゲル化によるコーティング状態になり、その状態で真空包装され、さらに包装内に酸素等の清浄気体が注入されて含気包装された後、ブライン法による凍結処理を受け、その状態で保存するという一連の処理により、魚肉解凍時のドリップ量を低減させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4041673号
【特許文献2】特願平5−267934
【特許文献3】WO2009/019960
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
イカ類は死後急速に表皮が赤色発色し、その後時間の経過とともに白濁し、さらに時間が経過すると再び赤色発色するが、2度目の赤色発色以降は生食には適さなくなる。そのため、最初の赤色発色の状態で冷凍されるが、活魚の食味、食感には到底及ばない。それらの来る原因としては、魚体内外の浸透圧の差に起因する水分の移動と、0℃〜−5℃の温度範囲にある最大結晶生成帯を凍結時に通過する際のイカの細胞内外の氷の結晶の成長にともなって発生する細胞の破壊、ならびに冷凍保管中の魚体表面の酸化、乾燥があげられる。
また、活魚の場合でも、調理後10〜15分で死後硬直が始まり、身が白濁し、透明感が急速に失われるので、調理後は顧客に速やかに供する必要があった。
【0008】
背景技術で述べた冷凍装置に冷凍対象物の構成分子の磁気モーメントを一方向に揃えて冷気の伝達速さを上げ、かつ冷凍ムラを防ぐ効果のある磁場発生装置を備え、庫内温度を−100℃近くまで冷却可能な冷却能力を持つ冷凍庫で急速冷凍する方法は、0℃〜−5℃の温度範囲にある最大結晶生成帯を瞬時に通過することで氷の結晶成長を阻止し、細胞の破壊を止める方法で、それなりの効果が認められている。
しかし、実用に供する能力の装置価格が1億円を越すことなどから、中小零細の漁業者には導入不可能な手段であった。
【0009】
また、魚体表面にグレーズを形成し、酸化と乾燥を防ぐ方法も提案されているが、浸透圧と最大結晶生成帯通過の時の課題がクリアされていないために、活魚に近い鮮度維持は不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、課題解決のために、マグロブロックの凍結用に量産されている冷却温度が−50℃前後の安価な冷凍装置を用い、魚類の血液内塩分濃度0.9%と概略浸透圧が平衡する塩水濃度の塩水中でイカ類を凍結処理する。イカ類は、凍結前に墨袋を除去し、取扱中に墨袋を破いて魚体を汚さないようにする。スルメイカなどのように死後皮目が濃い茶褐色を呈したり、大きな内臓を有するイカ類については、長期貯蔵期間中に周辺部位に色が染みだすことがあるため、それらを凍結前に除去することもある。
【0011】
また、凍結時には塩水中に魚体を浸漬し、凍結後には魚体表面全体が少なくとも3〜5mm程度の氷の層で覆われるようにする。
【0012】
さらに、本発明で使用される塩水は滅菌された塩水で、滅菌された海水あるいは滅菌された淡水に精製塩を溶かした塩水、あるいはそれらの混合物でもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、魚類の血液内塩分濃度0.9%と概略平衡する塩水中で凍結処理をすることで魚体への水分の流出、流入を抑え、かつ塩水中の塩分濃度1.7〜5.2%と浸透圧的に平衡する魚体内塩分濃度による氷点降下により、0℃〜−5℃の温度範囲にある最大結晶生成帯の幅を狭くする効果が生じ、氷の結晶成長にともなう細胞破壊の程度を軽減せしめることが可能となる。
【0014】
また、凍結時には塩水中に魚体を浸漬し、凍結後には魚体表面を少なくとも3〜5mm程度の氷の層で覆われるようにすることで、魚体表面が直接外気と触れ合うことがなくなり、冷凍保存中の酸化と乾燥が防止でき、2〜5年の長期保存が可能になる。
【0015】
本発明の凍結法によれば、活魚ならば15分程度で死後硬直が始まり身も白濁して透明感が失われるが、死後硬直前の色素細胞が未だ生きていて体色が連続的に変化しているような高鮮度の状態で凍結したものは、解凍後50分前後は死後硬直が開始せず、それまでは身も透明状態を維持している。また、保存中の自己発酵によりアミノ酸などの旨味成分が増すことで、活魚に比べて食味が勝るようになる。
【0016】
さらに、塩水中で凍結させて最大結晶生成帯の幅を狭くすることで、マグロブロックの凍結用に量産されている冷却温度が−50℃前後の安価な冷凍装置の使用が可能になり、中小零細の漁業者でも高鮮度の付加価値の高い冷凍イカを出荷できるようになる。
【0017】
また、イカの種類によって漁獲時期が決まっていて、活魚、鮮魚の状態では周年の供給が難しいが、本発明によれば任意のイカを周年市場に供給することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】 イカと塩水を容器に封じ込めた状態図
【図2】 凍結したイカを容器から取り出した状態図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、図1にあるように容器1中にイカ2と塩水3を封じ込めて急速凍結させるものである。図1は、2尾単位の包装になっているが、イカ2の尾数は2尾より多くても少なくてもよい。容器1はガスバリア機能を有している方がより好ましい。
【実施例】
【0020】
活魚状態にあるか、死後でも体表の色素細胞が点滅している程度に鮮度が保たれているイカ2を、図1はガスバリア機能を有する容器1に塩水3が完全にイカ2の体表を覆うように詰め込み、内容物が外部に漏れださず、外気の侵入もないように密閉する。
【0021】
図1の塩水3はイカ2の血液内の塩分濃度0.9%と浸透圧的に平衡状態に近くなる塩分濃度が好ましく、イカ2と塩水3の量的な比率や貯蔵期間などを考慮して調整されるが、1.7〜5.2%が好ましい。また、塩水3は雑菌の繁殖による食中毒や腐敗、分解を避けるために、滅菌された海水あるいは滅菌された淡水に精製塩を混合したもの、あるいは両者を混合したものが好ましい。
密閉後は、市販の−50℃前後の冷凍能力のあるマグロブロック用冷凍庫などを用い、少なくとも食塩水の共晶点−21.1℃以下まで急速冷凍させる。
【0022】
図2は、凍結後に容器1からイカ2を取り出した状態を示す。イカの体表を覆うようにグレーズ4が形成されている。グレーズの厚さは少なくとも3〜5mmするが、保存条件を考慮して、さらに厚くグレーズが形成されるように塩水1とイカ2の量的な配分を変えることもある。
【産業上の利用可能性】
【0023】
イカは活魚の生食が好まれるが、活魚の生食を供するには流通ならびにストックのためのコストがかさみ、消費者価格が高くなり、限られた市場規模に止まっている。そのため、漁獲されたイカの大部分は鮮魚や干物などの加工品として流通するが、魚価は活魚に比べて数分の1程度の安値で取引され、漁師の操業意欲を失わせ、沿岸漁業の後継者難を引き起こしている。
また、活魚に近い品質の冷凍イカが提供可能な、磁場を印加しながら瞬間凍結する高度な冷凍技術も開発され、装置も販売されているが、価格が1億円を越すなど、限られた需要家しか導入できない状況にある。
本発明によれば、中小零細の漁業従事者が数十万円程度の市販のマグロブロック用冷凍庫を設置するだけで、活魚に近い品質の冷凍イカが出荷可能で、イカ漁師の操業意欲の向上が期待でき、沿岸漁業の復興にもつながる。
また、ヤリイカなどの高級なイカは、概して大消費地から離れた僻地や離島が漁獲場所になるので、大消費地に鮮度のよいイカをリーズナブルな値段で提供するには輸送コストや時間経過に伴う鮮度の劣化の問題もあり、困難であった。本発明は、それらの問題も解決可能である。
活魚は時化やシーズンに左右されるために、周年コンスタントに市場に供給することは不可能であるが、本発明によればストックが可能で、周年消費者に活魚に匹敵する冷凍イカを提供できるようになる。
【符号の説明】
【0024】
1 容器
2 イカ
3 塩水
4 グレーズ(氷の層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルメイカ、ケンサキイカ、アオリイカなどのイカ類の冷凍保存を行う時、容器の中にイカとイカを氷中に閉じ込めるに足る量の塩水を入れ、その塩水中に閉じ込めた状態で概略食塩水の共晶点−21.1℃以下で急速凍結したことを特徴する冷凍イカ
【請求項2】
請求項1で、イカの体表面に少なくとも3〜5mmのグレーズが形成されることを特徴とする冷凍イカ
【請求項3】
請求項1のイカで、冷凍前に予め墨袋を除去してあることを特徴とする冷凍イカ
【請求項4】
請求項1の塩水で、いわゆる滅菌処理された海水と滅菌処理された淡水と精製塩の混合液、あるいは滅菌処理された淡水と精製塩の混合液であることを特徴とする冷凍イカ。
【請求項4】
請求項1および請求項2の塩水の塩分濃度を1.7%〜5.2%の範囲とする事を特徴とする冷凍イカ

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−90615(P2013−90615A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248046(P2011−248046)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(511271731)
【出願人】(511271742)
【Fターム(参考)】