説明

冷凍庫用のギヤモータ

【課題】冷凍庫内でそのまま運転することを可能とすると共に、運転効率が高く、且つ低コストで寿命を大きく伸ばすことのできる冷凍庫用のギヤモータを得る。
【解決手段】モータ12及び減速機14を一体化したギヤモータであって冷凍庫内で運転する冷凍庫用のギヤモータ10において、当該冷凍庫内において前記減速機14の入力軸16をシールし得る温度特性を有する極低温用オイルシール(第1オイルシール)30と、該極低温用オイルシール30の減速機内側に組み込まれ、低温側限界温度が、第1オイルシールよりも高い温度特性を有する準低温用(あるいは常温用)オイルシール(第2オイルシール)32との、少なくとも2種のオイルシールを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍庫内で使用するギヤモータに関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮食品等を保管する冷凍庫の内部は、極低温に設定されているため、該冷凍庫の内部において移動可能に設置される保管棚や搬送台は、その駆動源たるギヤモータの良好な作動を何らかの形で確保する必要がある。なお、本発明における「ギヤモータ」には、モータ及び減速機を設計の段階から直接的に一体化したもの、及びカップリング等を用いて事後的に一体化したものの双方を含んでいる。
【0003】
特許文献1においては、加熱手段付きの保温ボックス内にギヤモータを収容した保温装置を提供している。この保温装置では、保温ボックス内の温度が所定の制御温度まで低下すると加熱手段を作動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−300085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような保温装置を備える手法は、ギヤモータのほかに保温ボックスや加熱制御装置を別途必要とする。また、ギヤモータを長期に使用しないときに保温装置を常時稼働させ、いつでもギヤモータを直ちに使用できるようにしておくには、多くの無駄な電力を必要とする。勿論、ギヤモータを長期使用しないことが明らかなときは保温装置の電源をその都度切るようにすることも可能である。しかし、この場合には、ギヤモータを使用するに当たって、加熱手段により保温装置を介してギヤモータを暖め、グリース等が良好に機能し得るようになるまで待ってからでなければ、運転自体を開始できないという問題もあった。
【0006】
そこで、より低温まで使用できるように開発されたな潤滑剤とオイルシールを用いて、冷凍庫の中でもそのまま使用可能とするギヤモータを設計することが考えられる。しかし、このような低温シール性能の優れたオイルシールを用いて、加熱・保温や暖機をすることなくギヤモータを冷凍庫内で直接使用する手法を採用した場合、実際には、まれにオイルシール部から潤滑剤が漏れることがある、という不具合が発生することが確認された。
【0007】
本発明は、このような状況において、当該オイル漏れの原因を精査したことによって得られた知見に基づいてなされたものであって、保温装置や加熱手段等を設置したりすることなく、冷凍庫内でそのまま運転することを可能とすると共に、運転効率が高く、且つ低コストで寿命を大きく伸ばすことのできる冷凍庫用のギヤモータを得ることをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、モータ及び減速機を一体化したギヤモータであって冷凍庫内で運転する冷凍庫用のギヤモータにおいて、当該冷凍庫内において前記減速機の回転軸をシールし得る温度特性を有する第1オイルシールと、該第1オイルシールの前記減速機内側に組み込まれ、低温側限界温度が、前記第1オイルシールより高い温度特性を有する第2オイルシールとの、少なくとも2種のオイルシールを備えたことにより、上記課題を解決したものである。
【0009】
本発明者が、冷凍庫用のギヤモータでのオイル漏れの原因を精査したところ、いくつか考えられる原因の一つとして、減速機内の歯車の摩耗粉(ダスト)によるオイルシールの耐久性の低下があることが確認された。この対策として、本発明では、敢えて、当該冷凍庫内で減速機の回転軸をシールし得る温度特性を有する第1オイルシールに対して、低温側限界温度が、第1オイルシールより高い温度特性を有する第2オイルシールを減速機内側に併設する。
【0010】
この理由は、更なる原因探求の結果、当該冷凍庫用のギヤモータの場合、この摩耗粉発生の主因が、「常温での試験運転」にある可能性が高いことが確認できたためである。この種の冷凍庫用のギヤモータでは、導入時、或いはメンテナンス時に冷凍庫外で(即ち常温下で)試験運転を行うという作業を行わざるを得ないことが多い。常温でなくとも、冷凍庫内で本来の冷凍温度にまで下げない状態で、試運転を行うこともある。この過程で大量に発生する摩耗粉(ダスト)が原因であるならば、ダスト除けとして併設するのは、極低温下(冷凍庫の目標冷凍温度)で良好な特性を有するオイルシールよりも、むしろ、低温側限界温度が、第1オイルシールより高い温度特性を有するオイルシールの方が相応しい。
【0011】
即ち、このような第1オイルシールより高い温度環境で使用可能なオイルシールが併設されることにより、第1オイルシールによって、冷凍庫内での極低温下での運転時のシール機能を基本的に確保した上で、第2オイルシールによって、例えば冷凍庫外で試験運転等を行う場合であっても、(ダスト排除を含む)第2オイルシール本来の良好なシール性能を発揮させることができるようになる。しかも、低温側限界温度が極低温でないオイルシールは、一般に低コストである。更には、第2オイルシールは、低温側限界温度が第1オイルシールよりも高いという特性を有するため、(冷凍庫内での極低温状態下の)運転時には、硬化して緊迫力が第1オイルシールより低下する傾向を持つ。このため、冷凍庫内での運転時では、事実上第1オイルシールの緊迫力のみが軸に作用する状態となり、緊迫・摺動によるエネルギーロスが低減され、(第2オイルシール自体の存在により)ダストの多くを捉えながら、運転効率を高く維持できるという非常に有益な利点も得られる。
【0012】
この意味で、「緊迫力」という観点で見た場合には、本発明は、『モータ及び減速機を一体化したギヤモータであって冷凍庫内で運転する冷凍庫用のギヤモータにおいて、当該冷凍庫内において前記減速機の回転軸をシールし得る緊迫力特性を有する第1オイルシールと、該第1オイルシールの前記減速機内側に組み込まれ、当該冷凍庫内において該第1オイルシールより小さな緊迫力特性を有する第2オイルシールとの、少なくとも2種のオイルシールを備えたことを特徴とする冷凍庫用のギヤモータ』と捉えることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冷凍庫内でそのまま運転することを可能とすると共に、運転効率が高く、且つ低コストで寿命を大きく伸ばすことのできる冷凍庫用のギヤモータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る運転方法が適用される冷凍庫用のギヤモータの一例を示す断面図
【図2】上記冷凍庫用のギヤモータの入力側のオイルシールの拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の例について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る冷凍庫用のギヤモータの断面図である。図2は、オイルシール部の拡大断面図である。なお、冷凍庫(図示略)の目標冷凍温度は、この例では、−25℃である。
【0017】
この冷凍庫用のギヤモータ10は、モータ12及び減速機14をモータケーシング12Aと減速機ケーシング14Aとをボルト11で締結することにより一体化したものである。なお、「ギヤモータ」と称する場合、一般的には、この実施形態のように、モータ12及び減速機14を(設計の段階から)一体化したものを指すことが多いが、本発明に係るギヤモータは、例えば、独立して設計されたモータと減速機とをカップリングや連結ボルトを介して一体化したようなものであっても良い。減速機外(例えばカップリング内)にオイルを漏出させたくない事情等があるときには、本発明を同様に適用できる。
【0018】
減速機14は、モータ12のモータ軸兼用の入力軸(回転軸)16と、該入力軸16に一体形成されたハイポイドピニオン18と、該ハイポイドピニオン18と噛合するハイポイドギヤ20と、を備える。該ハイポイドギヤ20は中間軸22に組み込まれており、該中間軸22に一体形成された中間ピニオン24が、出力ギヤ26と噛合している。そして、出力ギヤ26の回転が出力軸27の回転として外部に出力される。
【0019】
この実施形態に係るギヤモータ10では、減速機14の入力軸16が、シリコーンゴムで構成された極低温用オイルシール(第1オイルシール)30と、アクリルゴムで構成された常温用オイルシール(第2オイルシール)32の2種のオイルシールによって密閉されている(詳細は後述)。なお、減速機14の出力側は、出力軸27の軸受34に隣接して配置された(入力側と同じ素材の)極低温用オイルシール36のみによって密封されている。即ち、この例では、減速機14の出力側には、本発明は適用されていない。これは、出力側は、回転速度が遅く、摩耗粉による損傷が殆ど問題とならないことから、コスト低減を図ったためである。但し、出力軸(回転軸)のシールに、本発明を適用しても勿論よく、相応のシール性能の向上、及びオイルシール寿命の増大効果が得られる。
【0020】
図2に拡大して示されるように、極低温用オイルシール30、常温用オイルシール32とも、(補助リップを持たない)主リップ30A、32Aを主体として有する簡素な構造であり、低コスト化が図られている。もっとも、本発明では、第1、第2オイルシールの具体的な構造は、この例に限定されるものではなく、例えば、補助リップを有する構造は、ダスト排除という点では、より有効である。
【0021】
入力側の極低温用オイルシール30は、入力軸16の軸受28に隣接して配置され、この実施形態では、前述したように、シリコーンゴムで形成されている。シリコーンゴムは、当該冷凍庫の目標冷凍温度で前記減速機をシールし得る温度特性を有する(当該冷凍庫の目標冷凍温度において前記減速機をシールし得る緊迫力特性を有する)。ここで、敢えて「極低温用」と称したのは、以下の理由に因る。即ち、当初発明者は、当該−25℃の目標冷凍温度の冷凍庫用のギヤモータの第1オイルシールに使用する目的で、アクリルゴムのオイルシールを用いた。しかし、運転の初期において硬さが残っており、このため軸の微妙なゆれや振動等に良好に追随できていないと推察されるようなオイル漏れが生じることがまれにあった。このため、アクリルゴムよりも更に低温シール性能の良好な極低温用のシリコーンゴムを採用したためである。この点は、単なるOリング等と異なる冷凍庫用のギヤモータ独特の事情と言える。本実施形態のように、特に高速で回転する入力軸のオイルシールに適用する場合においては、例えば、目標冷凍温度が−T℃のときに、少なくとも−(T+10)℃での使用が保障された極低温用オイルシールを採用するのが望ましい。シリコーンゴムは、目標冷凍温度−25℃に対して十分過ぎるほどの低温シール特性(緊迫力特性)を有しており、暖機運転無しで直接運転を開始しても、初期硬さ等の問題は発生しない。
【0022】
オイルシールの低温側限界温度(低温シール特性)は、主材料が同一でも、該オイルシールの構造やリップの形状、あるいは添加剤の種類や量等で微妙に(ときには大きく)異なる。このため、各社で独自の特定の材料に対して、それぞれ許容温度を設定あるいは指定しているというのが実情である。この観点で、各社のカタログを見る限り、シリコーンゴムのほか、ニトリルゴムも、鉱油系のオイルの耐性があり、耐摩耗性もあるため、冷凍庫用のギヤモータの用途として相応しい。このほか、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、4ふっ化エチレン樹脂、ファブリック等も、本発明の極低温用オイルシールの素材として良好な低温特性を有している。
【0023】
一方、常温用オイルシール32は、この実施形態では、上述したようにアクリルゴムを使用している。それは、例えば、NOK株式会社でのカタログに依れば、アクリルゴムは、−25℃が、仕様上指定されている低温側の限界温度であるが、この実施形態のように、シリコーンゴムの極低温用オイルシール30と併用する場合には、(極低温用オイルシールを2つ並べるのに比べて)むしろ良好な特性が得られるためである。換言するならば、アクリルゴムは、低温側限界温度が、シリコーンゴム(同カタログによる低温側の限界温度は−60℃)よりも高く、ギヤモータを本来の冷凍庫以外の温度環境下で稼働させるときにむしろシリコーンゴムよりも良好な緊迫力特性や摺動特性が得られるためである。
【0024】
次に、このギヤモータ10の作用を説明する。
【0025】
ギヤモータ10は、通常の冷凍庫内での極低温下での運転では、極低温用オイルシール30が有効に機能し、良好なシール性能が得られる。このとき、常温用オイルシール32は、ダストの多くを捉えるが、(極低温下である故)硬度が高くなってオイルシールとしては本来の機能を十分には発揮しない分、摺動ロスが殆ど発生せず、オイルシールが2つ設置されているにも拘わらず、運転効率を高く維持でき、且つ発熱量も少なく維持することができる。
【0026】
そして、ギヤモータ10の導入時、或いはメンテナンス時の試験運転等において、常温用オイルシール32は、摩耗粉等のダストが極低温用オイルシール30側に移動するのを確実に防止することができる。また、極低温用オイルシール30を2つ並べる構成に対し、コスト低減も図れる。
【0027】
常温用オイルシール32によってダストが極低温用オイルシール30の摺動面に潜り込んで連れ廻るのを効率的に防止できるという効果は、該極低温用オイルシール30の寿命増大に大きく寄与する。特に、シールする対象が減速機の回転軸、特に高速で回転する入力軸12である場合、その効果は顕著となる。
【0028】
なお、本実施形態では、第2オイルシールとして、常温用オイルシールであるアクリルゴムを使用し、良好にダストを排除すると共に、高効率(低ロス)の運転を実現し、合わせて低コスト化を図るようにしていたが、本発明では第2オイルシールは、必ずしも「常温用」である必要はなく、要はメインの極低温用オイルシール(第1オイルシール)よりも、低温側限界温度が高い温度特性、あるいはより小さな緊迫力特性を有しているならば、その種類は特に限定されるものではない。例えば、極低温用の第1オイルシールとしてシリコーンゴム(例えば、前述のNOK株式会社のカタログによれば低温側限界温度が、−60℃)、第2オイルシールとしてニトリルゴム(同社の同じカタログによれば低温側限界温度が、−40℃)の組み合わせとしてもよい。
【0029】
また、上記実施形態においては、第1、第2オイルシールとも、それぞれ1個ずつ(計2個)配置されていたが、3個以上、或いは3種以上であってもよい。組み合わせに関しても、例えば、A)「極低温用」「準低温用」「準低温用」でもよく、或いは、B)「極低温用」「準低温用」「常温用」でも、更には、C)「極低温用」「常温用」「常温用」の組み合わせであっても良い。この例では、A)→C)の順に、「冷凍庫内での運転のダスト排除を含むシール性能重視」から、より「常温等の試験運転時のダスト排除&冷凍庫内での運転効率向上&低コスト」へと変化する作用効果が得られる。なお、この中では、特に、B)の組み合わせが、ユーザの冷凍庫の目標冷凍温度が不明であっても(どんな目標冷凍温度であっても)柔軟に対応できる点で、好ましい。勿論、いずれの例でも、上記2個の例よりは、冷凍庫内運転、試験運転ともシール性能は高まる。
【0030】
また、前述したように、第1、第2オイルシールの構成も上記例に限定されず、例えば、主リップのほか、ダスト排除用の補助リップの備えられた複数リップの構成であってもよい。
【符号の説明】
【0031】
10…冷凍庫用のギヤモータ
12…モータ
14…減速機
30…極低温用オイルシール(第1オイルシール)
32…常温用オイルシール(第2オイルシール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ及び減速機を一体化したギヤモータであって冷凍庫内で運転する冷凍庫用のギヤモータにおいて、
当該冷凍庫内において前記減速機の回転軸をシールし得る温度特性を有する第1オイルシールと、
該第1オイルシールの前記減速機内側に組み込まれ、低温側限界温度が、前記第1オイルシールより高い温度特性を有する第2オイルシールとの、少なくとも2種のオイルシールを備えた
ことを特徴とする冷凍庫用のギヤモータ。
【請求項2】
モータ及び減速機を一体化したギヤモータであって冷凍庫内で運転する冷凍庫用のギヤモータにおいて、
当該冷凍庫内において前記減速機の回転軸部分をシールし得る緊迫力特性を有する第1オイルシールと、
該第1オイルシールの前記減速機内側に組み込まれ、当該冷凍庫内において該第1オイルシールより小さな緊迫力特性を有する第2オイルシールとの、少なくとも2種のオイルシールを備えた
ことを特徴とする冷凍庫用のギヤモータ。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1オイルシールが、シリコーンゴム、ニトリルゴムのうちから選択される
ことを特徴とする冷凍庫用のギヤモータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記第2オイルシールの低温側限界温度が、当該冷凍庫の目標冷凍温度よりも高い
ことを特徴とする冷凍庫用のギヤモータ。
【請求項5】
請求項4において、
前記第2オイルシールが、常温用オイルシールである
ことを特徴とする冷凍庫用のギヤモータ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記第2オイルシールが、アクリルゴム、ニトリルゴムのうちから選択される
ことを特徴とする冷凍庫用のギヤモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−130650(P2011−130650A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289820(P2009−289820)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】