説明

冷凍機用潤滑油組成物

【解決手段】本発明は、冷凍機用潤滑油中に、酸捕捉剤として、2価又は3価金属の水酸化物,酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物を組成物中の全質量に対して0.005〜10質量%含有することを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物を提供する。
【効果】本発明によれば、潤滑油の酸価上昇を抑えることができ、酸性成分や水による劣化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気冷蔵庫やカーエアコン用冷凍機用冷媒に使用される冷凍機用潤滑油組成物に関し、特に、冷媒としてR−1234yf(2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン)を用いる系に使用される冷凍機用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒サイクルの中で温度の移動を媒介とする冷媒には、自然冷媒(CO2)のほか各種のフロンガス、即ち、クロロフルオロカーボン(CFC)が多く使用されている。フロンガスはオゾンを破壊する危険性が指摘されており、近年、地球環境の面において、温暖化を防止するため地球環境に配慮した冷媒への移行が検討されている。例えば、カーエアコンシステム等の車両用空調装置に用いられる冷媒としては、地球温暖化係数が低く現行システムの適用可能な冷媒としてR1234yf(2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン)のような不飽和フッ化炭化水素化合物が開発されている。
【0003】
また、冷凍機中の圧縮器(コンプレッサー)内での油と冷媒との相溶性や潤滑特性の点から、使用する新規冷媒に適した潤滑油を選定する必要がある。冷凍機用潤滑剤には、冷凍機中のコンプレッサーの駆動部分等の可動部の焼き付きを防止するために、通常、極圧低下剤が適宜添加されている。極圧低下剤は、減圧条件下で生じる発熱で接触面と反応することにより金属同士の接触を減少させ、摩擦や摩耗を低減させ焼き付けを防止するものとして知られている。また、冷凍機用潤滑剤には、水分や酸素の存在による基油の酸化劣化などによる酸価上昇を抑制するために、エポキシ化合物等の酸捕捉剤が使用されている。
【0004】
しかしながら、新冷媒としてR1234yfを使用した場合、R1234yfは高温条件下では水分や金属と反応してしまうことや、極圧低下剤の分解を促進させ、潤滑油中の酸価を上昇させてしまい、その結果としてポリアミド樹脂等の有機材料を攻撃,劣化させることが判明してきた。これまでは、酸捕捉剤として使用されてきたエポキシ化合物では、酸性成分との反応が遅いため、R1234yfを適用した際には、特に、発生した酸性成分のよる攻撃,劣化の抑制が不十分であった。
【0005】
特開2008−266423号公報や特開平05−105896号公報などの特許文献には、冷凍機用潤滑油組成物として、下記の成分を含むものが提案されている。
(i)ポリアルキレングリコール系やポリオールエステル系化合物を主成分とする基油
(ii)リン酸トリエステルに代表される極圧低下剤
(iii)グリシジルエステルやα−オレフィンオキシドなどのエポキシ化合物等の酸捕捉剤
(iv)BHT(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン)などの酸化防止剤
【0006】
しかしながら、いずれの技術文献に提案された潤滑油組成物を新冷媒R1234yfに適用した場合、酸捕捉剤による潤滑油の酸価上昇を十分に抑えることができず、未だ上記課題を解決することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−266423号公報
【特許文献2】特開平05−105896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、潤滑油の酸価上昇を抑えることができ、酸性成分や水による劣化を抑制することができる冷凍機用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、潤滑油の酸価上昇を抑えることができ、酸性成分や水による劣化を抑制することができるような潤滑油組成物の成分の調整を検討したところ、冷凍機用潤滑油中に配合される酸捕捉剤として、従来使用してきたエポキシ化合物に代えて、2価又は3価金属の水酸化物,酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物を、潤滑油組成物中の全質量に対して特定量含有させることにより上記課題を解決することができ、R1234yf等の新冷媒に最適な潤滑油組成物であることを知見し、本発明をなすに至ったものである。その原因は定かではないが、冷凍機用潤滑油組成物に含まれる上記特定の金属化合物が受酸剤、受ハロゲン剤として機能し、冷媒やオイルに含まれる酸成分やハロゲン成分等の劣化要因物質を上記金属化合物がトラップすることにより、潤滑油組成物のグレードを高く維持し得るものと推定される。また、冷凍機用潤滑油中に配合される上記特定の金属化合物の作用により、ポリアミド樹脂材料等からなる冷媒輸送用ホースが酸性成分により劣化することが抑止され、その結果、冷媒輸送用ホースの実用的な耐久性を維持することができることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
従って、本発明は、下記の冷凍機用潤滑油組成物を提供する。
[1]冷凍機用潤滑油中に、酸捕捉剤として、2価又は3価金属の水酸化物,酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物を組成物中の全質量に対して0.005〜10質量%含有することを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
[2]上記金属化合物の粒子径が1μm以下である[1]記載の冷凍機用潤滑油組成物。
[3]上記金属化合物がハイドロタルサイトである[1]又は[2]記載の冷凍機用潤滑油組成物。
[4]上記冷凍機用潤滑油の基油が、ポリアルキレングリコール類又はポリオールエステル類である[1]、[2]又は[3]記載の冷凍機用潤滑油組成物。
[5]冷凍機用潤滑油中に、リン酸トリエステル及び亜リン酸トリエステルから選ばれる極圧低下剤が添加される[1]〜[4]のいずれか1項記載の冷凍機用潤滑油組成物。
[6]冷凍機用潤滑油中に、グリシジルエーテル、グリシジルエステル及びα−オレフィンオキシドの群から選ばれるエポキシ化合物が添加される[1]〜[5]のいずれか1項記載の冷凍機用潤滑油組成物。
[7]冷凍機用潤滑油の対象となる冷媒が2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(R1234yf)である[1]〜[6]のいずれか1項記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の冷凍機用潤滑油組成物によれば、潤滑油の酸価上昇を抑えることができ、酸性成分や水による劣化を抑制することができる。特に、R1234yf等の地球温暖化係数が低い新冷媒を適用する場合、現行冷媒R134aよりも水分等の影響を受け易く、潤滑油やシステム部材への悪影響も大きくなるため、従来から汎用されている潤滑油では不十分であったが、本発明潤滑油組成物を使用することにより、かかる悪影響がない。従って、本発明の潤滑油組成物は新冷媒R−1234yfに対して有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明の冷凍機用潤滑油組成物には、基油を主成分とし、極圧低下剤、酸化捕捉剤、酸化防止剤、消泡剤、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。上記の「主成分」とは、冷凍機用潤滑油組成物の全質量を基準として60質量%以上とするものであり、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0013】
基油としては、ポリオールエステル類、ポリアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリオキシアルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、その他のポリエステル類、ポリカーボネート類、α−オレフィンオリゴマーの水素化物、更には鉱油、脂環式炭化水素化合物、アルキル化芳香族炭化水素化合物などを挙げることができる。
【0014】
上記ポリオキシアルキレングリコールとしては、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。また、ポリオキシアルキレングリコールの変性物も挙げることができ、具体例としては、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールジアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールモノエステル、ポリオキシアルキレングリコールジエステルアルキレンジアミンのアルキレンオキサイド付加物等を例示することができる。
【0015】
極圧低下剤としては、特に制限はないが、リン酸トリエステル、亜リン酸トリエステル等のリン系添加剤を挙げることができる。
【0016】
上記リン酸トリエステルとしては、例えば、トリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート、トリアルキルアリールホスフェート、トリアリールアルキルホスフェート、トリアルケニルホスフェートなどが挙げられ、具体的にはトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジ(エチルフェニル)フェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジ(プロピルフェニル)フェニルホスフェート、トリス(エチルフェニル)ホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジ(ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス(ブチルフェニル)ホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリスデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェートなどを挙げることができる。
【0017】
上記の亜リン酸トリエステルとしては、例えば、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリスデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイトなどを挙げることができる。
【0018】
極圧低下剤の添加量は、組成物全量を基準として、好ましくは0.1〜3質量%、より好ましくは0.3〜2質量%である。
【0019】
酸捕捉剤としては、2価又は3価金属の水酸化物,酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる金属化合物を用い、これらの1種を単独で、又は2種以上併用してもよい。
【0020】
ここで、2価又は3価の金属としては、マグネシウム、鉄、亜鉛、カルシウム、ニッケル、コバルト、銅等の2価金属や、アルミニウム、鉄、マンガン等の3価金属などが挙げられる。金属化合物の具体例としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ハイドロタルサイトなどが挙げられ、特に受酸効果に優れたハイドロタルサイトを好適に使用することができる。
【0021】
ハイドロタルサイトは天然に産出する粘土鉱物の一種であり、下記一般式(1)で表される複水酸化物である。
18-x2x(OH)16CO2・nH2O ・・・・(1)
上記式(1)中、M1は、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Li2+、Ni2+、Co2+、Cu2+等、M2は、Al3+、Fe3+、Mn3+等であり、5≦x≦2程度、n≧0である。
【0022】
ハイドロタルサイトとしては、結晶水を含む形で、例えば、Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O、Mg4.5Al2(OH)13CO3、Mg4Al2(OH)12CO3・3.5H2O、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O、Mg5Al2(OH)14CO3・4H2O、Mg3Al2(OH)10CO3・1.7H2O、Mg3ZnAl2(OH)12CO3・wH2O、Mg3ZnAl2(OH)12CO3等が挙げられる。これらのハイドロタルサイトの市販品としては、商品名「DHT−4A」,「DHT−6」(いずれも協和化学工業社製)などを挙げることができる。
【0023】
金属化合物の配合量は、組成物全質量に対して0.005〜10質量%含有することが必要であり、好ましくは0.5〜5質量%である。この金属化合物の配合量が上記範囲よりも少なすぎると、金属化合物による受酸効果を有効に発揮することができず本発明の目的を達成できなくなるおそれがある。逆に、金属化合物の配合量が多くなり過ぎると、潤滑油としての機能を阻害するおそれがある。
【0024】
また、上記金属化合物の粒子径は、特に制限されるものではないが、エアコンシステム内の摺動部に影響を与えないよう、またエクスパンションバルブに詰まらないように、特に1μm以下であることが好ましい。ここで言う「粒子径」とは、レーザー回析/散乱式粒度分布測定装置等により測定したものである。
【0025】
酸化防止剤としては、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のフェノール系、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N’−ジ−フェニル−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤を配合するのが好ましい。酸化防止剤は、効果及び経済性などの点から、組成物中に通常0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜3質量%配合する。
【0026】
消泡剤としては、シリコーン油やフッ素化シリコーン油等を挙げることができる。また、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記以外の各種添加剤を添加することができる。
【0027】
上記潤滑油組成物中には、上述したように、極圧低下剤、酸化防止剤、消泡剤などを含有することができるが、特に、エポキシ化合物と併用することにより、酸捕捉剤による効果が更に向上させることができる。
【0028】
上記の場合、エポキシ化合物としては、グリシジルエーテル、グリシジルエステル、α−オレフィンオキシドなどが挙げられる。
【0029】
具体的には、2−エチルヘキサン酸グリシジルエステル、3,5,5−トリメチルヘキサン酸グリシジルエステル、カプリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、バーサチック酸グリシジルエステル、ミリスチン酸グリシジルエステルなどの飽和/不飽和の脂肪族カルボン酸又は芳香族カルボン酸のグリシジルエステルや、2−エチルエチルグリシジルエーテル、イソノニルグリシジルエーテル、カプリノイルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ミリスチルグリシジルエーテルなどの飽和/不飽和のグリシジルエーテルが挙げられる。α−オレフィンオキシドとしては、炭素数が好ましくは4〜50、より好ましくは4〜24、更に好ましくは6〜16のものが用いられる。酸捕捉剤は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スラッジ発生の抑制の点から、組成物全量に基づき、通常0.005〜10質量%、特に0.05〜6質量%の範囲が好ましい。
【0030】
上記潤滑油組成物の対象となる冷媒としては、フロン系冷媒、例えば、ペンタフルオロエタン(R−125)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R−134a)、ジフルオロエタン(R−32)、トリフルオロエタン(R−23)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(R−134)、1,1,1−トリフルオロエタン(R−143a)、1,1−ジフルオロエタン(R−152a)、2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(R1234yf)などが挙げられるが、これらを1種単独で又は2種以上を併用することができる。特に、R−1234yfを適用する場合、現行冷媒R134aよりも水分等の影響を受け易く、潤滑油やシステム部材への悪影響が大きいため、従来より汎用されている潤滑油では不十分であったが、本発明の潤滑油組成物を使用することにより悪影響がない。従って、本発明の潤滑油組成物はR−1234yfに対しても好適に適用し得る。
【0031】
本発明の冷凍機用潤滑油組成物の酸価については、特に制限はないが、15mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは12mgKOH/g以下、より好ましくは10mgKOH/g以下である。酸価が上記範囲を超えると、システム内に用いられている有機材料、特に縮合系高分子材料の影響が大きくなるおそれがある。
【0032】
本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、各種の冷媒圧縮式冷凍装置の装置内に使用される。通常、冷媒圧縮式冷凍装置は、圧縮器(コンプレッサー)、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を具備し、冷媒が上記装置内を循環するように構成される。例えば、ルームエアコン等の空調機器、産業用冷凍機、電気冷蔵庫やカーエアコン等が該当する。冷媒圧縮式冷凍装置内には、冷媒輸送用ホースが配備されており、このホースの内側層の主材料としては、各種の樹脂材料が例示されるが、特に、ナイロン6,ナイロン66,ナイロン610,ナイロン46,ナイロン11,ナイロン12及びこれらの共重合体から選ばれるポリアミド樹脂を基材とした樹脂組成物を使用することが好ましい。その理由としては、ポリアミド樹脂(ナイロン)が現行のホースの主流であり、ガスバリア性,耐久性及び加工性等の面で最適な材料であり、酸による劣化はナイロンのような縮合系高分子材料に対して特に顕著である。上述したように、本発明では、潤滑油組成物中の酸性成分が抑制されるので、ナイロン等の有機樹脂材料からなるホースを傷めることなくホースの強度や耐久性を維持することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0034】
〔実施例1〜5,比較例1〕
各実施例の冷凍機用潤滑油、及びシステム中の部材に用いられている有機材料(ナイロン6を主材とするポリアミド樹脂組成物)の安定性を評価するために、下記のシールドチューブ試験を実施するとともに、ポリアミド樹脂組成物よりなる試験片について下記方法で特性評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0035】
1.安定性(シールドチューブ試験)
シールドチューブ試験は、JIS K2211「冷凍機油」の評価方法に基づく。冷媒と冷凍機油の化学的安定性を評価する試験である。片端を封じたガラス管に、触媒として、鉄、銅、及びアルミニウムの棒を入れ、液体窒素で冷却した状態で、冷媒(R1234yf)、冷凍機油及び銅管抽伸油を重量比で1:1:0.01を注入後、密封する。次に、この密封ガラス管を175℃で40日間加熱後、この混合液を評価する。評価項目は、油外観及びスラッジを目視観察し、酸価を測定した。酸価(mgKOH/g)については、JIS K2501に準拠した。
【0036】
【表1】

【0037】
上記表中の組成物の各成分の内容は以下のとおりである。
(1)基油:ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル
(商品名「スマックMP−40」花王(株)製)
(2)極圧低下剤:トリクレジルホスフェート
(商品名「TCP」大八化学工業(株)製)
(3)エポキシ化合物/C14 α−オレフィンオキシド
(1,2−エポキシテトラデカン;東京化成工業(株)製)
(4)酸化防止剤/3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン
(商品名「ノクラック200」大内新興化学工業(株)製)
(5)酸化マグネシウム
協和化学工業(株)製の「キョーワマグ30」
(6)ハイドロタルサイト
協和化学工業(株)製の「ハイドロタルサイトDHT−4A」
組成式:Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2
【0038】
2.ポリアミド試験片の物性評価
次に、上記表1に示した各実施例,比較例の冷凍機用潤滑油及び冷媒を使用して冷媒輸送用ホースの材料であるポリアミド試験片の引張り物性について、以下の1〜6の手順により評価した。
手順1:耐圧容器に水(1cc)とポリアルキレングリコール(100cc)とを入れる。
手順2:巾10×長さ50mm×厚み0.1mmサイズのポリアミド試験片を入れる。なお、ポリアミド試験片としては、宇部興産(株)製のナイロン6「1022B」を使用する。
手順3:耐圧容器を−40℃程度で15分冷凍した後、耐圧容器を5分間真空引きする。
手順4:冷媒としてR1234yfを100cc入れる。
手順5:高温槽に150℃で2週間放置する。
手順6:容器からポリアミド試験片を取り出して、以下の引張り物性(強度保持率,破断伸び保持率)を測定し、その結果を下記表に示した。
【0039】
〈老化後の強度保持率(%)〉
東洋精機社製引張り試験機を用い、以下の老化試験前後の各試験片について、引張り速度50mm/minで伸張して破断強力を測定し、老化試験前の値に対する老化試験後の値の百分率で表記した。
【0040】
〈老化後の破断伸び保持率(%)〉
東洋精機社製引張り試験機を用い、以下の老化試験前後の各試験片について、引張り速度50mm/minで伸張して破断伸びを測定し、老化試験前の値に対する老化試験後の値の百分率で表記した。
【0041】
【表2】

【0042】
表1,2に示されるように、本実施例の冷凍機用潤滑油組成物は、比較例1と比べて、新冷媒R1234yfを使用したシールドチューブ試験においてグレードが高く安定しており、また、冷媒輸送用ホース材料であるポリアミド試験片の耐久性も良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍機用潤滑油中に、酸捕捉剤として、2価又は3価金属の水酸化物,酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物を組成物中の全質量に対して0.005〜10質量%含有することを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項2】
上記金属化合物の粒子径が1μm以下である請求項1記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項3】
上記金属化合物がハイドロタルサイトである請求項1又は2記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項4】
上記冷凍機用潤滑油の基油が、ポリアルキレングリコール類又はポリオールエステル類である請求項1、2又は3記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項5】
冷凍機用潤滑油中に、リン酸トリエステル及び亜リン酸トリエステルから選ばれる極圧低下剤が添加される請求項1〜4のいずれか1項記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項6】
冷凍機用潤滑油中に、グリシジルエーテル、グリシジルエステル及びα−オレフィンオキシドの群から選ばれるエポキシ化合物が添加される請求項1〜5のいずれか1項記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項7】
冷凍機用潤滑油の対象となる冷媒が2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(R1234yf)である請求項1〜6のいずれか1項記載の冷凍機用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2011−236314(P2011−236314A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108273(P2010−108273)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】