説明

冷凍醗酵種生地、該冷凍醗酵種生地を用いたパン生地、該冷凍醗酵種生地を用いたパン生地の製造方法、及び該パン生地を用いたパン

【課題】流通・保管時の取り扱いが容易な液状発酵種の提供。
【解決手段】液状醗酵種に少なくとも小麦粉を混合して非流動状の醗酵種生地を作成し冷凍する。
【効果】従来の液状醗酵種が有する流通・保管上の弊害を高額な費用をかけることなく解消することができ、流通・保管時の取り扱いが容易な冷凍醗酵種生地を得ることができる。さらに、醗酵種生地を添加したパン生地は、従来の液状醗酵種生地を添加したパン生地と同様、伸展性の良好なものだった。また、該醗酵種生地を用いたパンは、従来の液状醗酵種を添加して製造されたパンよりも、風味が向上し、老化遅延効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍醗酵種生地、該冷凍醗酵種生地を用いたパン生地、及び該パン生地を用いたパン、並びにこれらの製造方法に関する。より具体的には、液状醗酵種に少なくとも小麦粉を混合して作成した醗酵種生地を冷凍した冷凍醗酵種生地、該冷凍醗酵種生地を用いたパン生地、及び該パン生地を用いたパン、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パンの風味改善やパン生地の製パン性向上を目的として、醗酵種が用いられているが、従来の醗酵種は、液状でパン生地の製造に用いられていた(特許文献1参照)。しかし、常温で液状の醗酵種を流通および保管する場合、醗酵種の変敗、醗酵過多、或いは活性の喪失等のおそれがあるため、冷蔵温度帯で流通および保管する必要があった。しかしながら、冷蔵温度帯での流通、保管には、高額の費用がかかるのはもちろん、冷蔵温度帯であっても、上述の弊害を完全に防止することはできないため、長期間に渡る流通、保管は不可能であった。
【0003】
このような理由から、醗酵種は凍結乾燥して用いられるのが一般的であった(特許文献2参照)。しかし、凍結乾燥させた醗酵種には、醗酵種本来の風味が減少したり、高額の費用がかかるといった問題があった。また、凍結乾燥技術は通常の製パンメーカーには無い特殊な技術であり、製パンメーカーが独自に醗酵種の凍結乾燥物を製造することができないため、専門の業者に製造を頼らざるを得ず、製パンメーカーが納得できる性質を有する醗酵種の凍結乾燥物を得ることが困難であった。
【0004】
なお、サワーブレッドの製造方法として、液状の乳酸菌醗酵種をパンの第一次原料粉に添加混合し、イースト菌不存在下で乳酸醗酵のみ先行させ、これに第二次原料粉、イースト、その他の原料を加えてパン生地として、その後はイースト醗酵を主とする醗酵工程等、常法通りの工程により製造するものがある(特許文献3参照)。しかし、ここで用いられる液状醗酵種は、生米等の乳酸菌醗酵物を磨砕して得られた特殊なものであって、しかも、先行させる乳酸醗酵に長時間を要するものである。
【0005】
また、冷凍パン生地を用いるパンの製造方法として、所定のパン生地原料に製パン用酵母を含まない状態でラクトバチルス・パネックス等の乳酸菌醗酵生成物を添加・混合して、冷凍し、これを解凍した後製パン用酵母を添加、混合し、醗酵させて焼成するものがある(特許文献4参照)。これは、まず、イースト以外のパン生地原料で冷凍生地を作成しておいて、冷凍生地解凍後、イーストを添加、混合するものであり、本発明とは全く別の技術である。
【特許文献1】特公昭57−17496号公報
【特許文献2】特許第2766374号公報
【特許文献3】特許第3180900号公報
【特許文献4】特開2003−79307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、従来の液状醗酵種の流通・保管は、変敗、醗酵過多、活性喪失等を防止するため、冷蔵温度帯での流通・保管の必要があった。しかし、冷蔵温度帯での流通および保管には多額の費用がかかるとともに、冷蔵温度でも上述の弊害は完全に防止できないため、長期の流通・保管は不可能であった。従って、一般的には、凍結乾燥させた醗酵種が用いられていたが、凍結乾燥させた醗酵種は高額で、しかも醗酵種本来の風味が減少してしまう、等の問題があった。
【0007】
本発明は、上述の従来技術の欠点を解消すべくなされたもので、流通・保管時の取り扱いが容易な冷凍醗酵種生地を提供するものである。また、本発明は、従来の液状醗酵種を添加したパン生地と同様の生地物性を有するパン生地を提供するものである。さらに、本発明は、従来の液状醗酵種を添加して製造されたパンよりも風味が向上した、老化遅延効果を有するパンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来の技術に関する上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の事項に関する。
(1)液状醗酵種に少なくとも小麦粉を混合して非流動状の醗酵種生地を作成し、冷凍することを特徴とする冷凍醗酵種生地。
(2)前記混合して作成した醗酵種生地を、極力醗酵させないように、速やかに冷凍することを特徴とする(1)に記載の冷凍醗酵種生地。
(3)前記混合して作成した醗酵種生地を、分割及び丸め整形してから、冷凍することを特徴とする(1)又は(2)に記載の冷凍醗酵種生地。
(4)前記液状醗酵種が、少なくとも、小麦粉、水並びに乳酸菌及び/又はイーストから構成されることを特徴とする、(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の冷凍醗酵種生地。
(5)前記液状醗酵種が、醗酵種として直ちにパンの製造に使用できる程度に醗酵させたものであることを特徴とする、(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の冷凍醗酵種生地。
(6)前記液状醗酵種が、糖類を含むことを特徴とする、(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の冷凍醗酵種生地。
(7)前記液状醗酵種が、種継ぎをしたものであることを特徴とする、(1)乃至(6)のいずれか一項に記載の冷凍醗酵種生地。
(8)前記液状醗酵種が、該液状醗酵種を構成する小麦粉に対し50〜150質量%の水から作成されることを特徴とする、(4)乃至(7)のいずれか一項に記載の冷凍醗酵種生地。
(9)前記醗酵種生地が、前記液状醗酵種に対して40〜50質量%の小麦粉を混合して作成することを特徴とする、(1)乃至(8)のいずれか一項に記載の冷凍醗酵種生地。
(10)前記(1)乃至(9)のいずれか一項に記載の冷凍醗酵種生地を解凍してからパン生地の混捏工程で添加することを特徴とするパン生地。
(11)前記冷凍醗酵種生地を、前記パン生地を構成する小麦粉に対して3〜30質量%添加することを特徴とする、(10)に記載のパン生地。
(12)前記(10)又は(11)に記載のパン生地を焼成することを特徴とするパン。
(13)前記(1)乃至(9)のいずれか一項に記載の冷凍醗酵種生地を解凍してからパン生地の混捏工程で添加することを特徴とするパン生地の製造方法。
(14)前記冷凍醗酵種生地を、前記パン生地を構成する小麦粉に対して3〜30質量%添加することを特徴とする、(13)に記載のパン生地の製造方法。
(15)前記(13)又は(14)に記載の方法により製造されたパン生地を焼成することを特徴とするパンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、従来の液状醗酵種が有する流通・保管上の弊害を高額な費用をかけることなく解消して、流通・保管時の取り扱いが容易な冷凍醗酵種生地が得られた。本発明の醗酵種生地を添加したパン生地は、従来の液状醗酵種生地を添加したパン生地同様、伸展性の良好なものだった。該醗酵種生地を用いたパンは、従来の液状醗酵種を添加して製造されたパンよりも、風味が向上し、老化遅延効果を有するものだった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
はじめに、本発明の冷凍醗酵種生地は、液状醗酵種に少なくとも小麦粉を混合して非流動状の醗酵種生地を作成し、冷凍したものである。
本発明において、液状醗酵種とは、流動性があり、かつ保形性および可塑性に欠ける性状の醗酵種を意味し、少なくとも小麦粉、水並びに乳酸菌及び/又はイーストから構成されるものである。
【0011】
該液状醗酵種を構成する小麦粉としては、強力粉、中力粉、薄力粉、荒挽粉、全粒粉、デュラム粉等を使用することができ、複数種の小麦粉を併用することもできる。
本発明において、液状醗酵種を構成する乳酸菌及び/又はイーストを添加する形態としては、乳酸菌及び/又はイーストからなる、又はこれを含む単離培養菌体(例えば、集菌した菌を寒天培地で培養して複数のコロニーを得、それぞれのコロニーを寒天培地での培養を繰り返すことにより得られる菌体)、醗酵液、醗酵物、これらの乾燥粉末、元種、その他のうち1種又は2種以上を添加する形態のようにスターターとしての乳酸菌及び/又はイーストそのものを人為的に添加することであるが、これには限られず、小麦粉やライ麦粉等の小麦粉以外の穀粉を添加することに伴い、これらの穀粉に付着している自然菌を液状醗酵種中に取り込むことにより、このような自然菌を利用することをも包含する。
【0012】
ここで、本明細書において「種起こし」とは、最初の醗酵種(当業界において、初種、親種、一番種などと呼ばれることがあり、本明細書においては初種ともいう)の調製を意味する。さらに、本明細書において「種継ぎ」とは、種起こしした初種を用いた醗酵種の調製と、種継ぎした醗酵種を用いた1回又は複数回の醗酵種の調製とのそれぞれを含む意味である。具体的には、例えば、種継ぎを行わないで、醗酵種を調製する場合、初めの種起こしのみを行って醗酵種を調製することになる。また、種起こし及び種継ぎを合計5回行って醗酵種を調製する場合、初めの種起こしを行った後に、種継ぎを4回行うことになる。さらに、種起こし及び種継ぎを合計10回行って醗酵種を調製する場合、初めの種起こしを行った後に、種継ぎを9回行うことになる。
【0013】
より具体的には、最初の醗酵種を調製する場合(すなわち、種起こしする場合)、乳酸菌及び/又はイーストを添加する形態としては、乳酸菌及び/又はイーストからなる、又はこれを含む単離培養菌体、醗酵液、醗酵物、これらの乾燥粉末、その他のうちの1種又は2種以上を添加してもよく、また、このような乳酸菌及び/又はイーストそのものを添加することなく、醗酵種を構成する小麦粉や小麦粉以外の穀粉に付着している自然菌を利用することもできる。
【0014】
また、初種を基礎として(元種として)1回、又は初種から出発して(初種の少なくとも一部を最初の元種として)複数回、若しくは繰り返し無数に種継ぎを行う場合、それぞれの種継ぎにおいて、乳酸菌及び/又はイーストを添加する形態として、元種に含有される乳酸菌及び/又はイーストや、種継ぎの際に添加する醗酵種を構成する小麦粉や小麦粉以外の穀粉に付着している自然菌を利用することができ、さらに必要に応じて、前記単離培養菌体、醗酵液、醗酵物、これらの乾燥粉末、その他のうちの1種又は2種以上を添加することもできる。
【0015】
種起こしにおいても、種継ぎにおいても、前記単離培養菌体、醗酵液、醗酵物、これらの乾燥粉末、その他の乳酸菌及び/又はイーストそのものを添加しない場合には、通常、菌の増殖を図るため、比較的長時間の醗酵が必要とされる。
【0016】
例えば、単離培養菌体などの乳酸菌及び/又はイーストそのものを添加しなければ、必要時間醗酵させたとしても、必要な、又は十分な菌の増殖を図ることができないことがある。この場合、単離培養菌体などの乳酸菌及び/又はイーストそのものを添加することにより、増殖菌数の不足分を補足することができる。この場合、通常、著しく長時間の醗酵を必要としない。
【0017】
従って、本発明において、種起こし及び/又は種継ぎで前記単離培養菌体その他の乳酸菌及び/又はイーストそのものを添加するとしても、液状醗酵種中の菌数、醗酵条件、菌の増殖の早さ、求める最終醗酵状態等の事情に応じて、種起こし時だけに添加してもよいし(種継ぎには添加しない)、これに対して、種起こし時には添加せずに、種継ぎだけに添加するようにしてもよい。また、種起こし及び種継ぎの両者で添加するようにしてもよい。さらには、種継ぎで添加する際も、それぞれの種継ぎごとに毎回添加するようにしてもよいし、種継ぎの1回おき、2回おき、3回おき、というように間隔をあけて定期的に添加してもよく、若しくは、任意に不規則的に時々添加してもよい。
【0018】
同じく乳酸菌の菌種としては、本発明の目的・効果を妨げるものでなければ、特に制限はなく、いずれのものも使用できる。好適には、グルコース等の糖類から多量の乳酸を生成する菌で、ラクトバチルス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属等に属するものである。具体的には、例えば、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・アシドフィラス、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ブルガリカス、ラクトバチルス・サンフランシスコ、ラクトバチルス・イタリカス、ラクトバチルス・ヒルガルディ、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・デルブルッキー、ラクトバチルス・ライヒマニ、ラクトバチルス・パストリアヌス、ラクトバチルス・ブヒネリ、ラクトバチルス・フルクティボランス、ラクトバチルス・ルテリ、ラクトバチルス・パラアリメンタリウス、ロイコノストック・オイアノス、ロイコノストック・デキストラニクム、ロイコノストック・クレモリス、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ストレプトコッカス・クレモリス、ストレプトコッカス・ラクティス、ストレプトコッカス・ジアセチラクチス、ストレプトコッカス・サリバリウス、ストレプトコッカス・フェカリス、ペディオコッカス・ペントサシウス、ペディオコッカス・ハロフイラス、ペディオコッカス・アシディラクティシ、エンテロコッカス・フェカリス、テトラゲノコッカス・ハロフィラス、ラクトコッカス・ラクティス等が挙げられる。これらの乳酸菌を単独で、又は複数種を組み合わせて使用することができる。
【0019】
同じくイーストの菌種としては、本発明の目的・効果を妨げるものでなければ、特に制限はなく、いずれのものも使用できる。具体的には、例えば、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・ロゼイ、サッカロミセス・クルバータス、サッカロミセス・シュバリエリ、サッカロミセス・フロレンティナス、サッカロミセス・エグジグアス、サッカロミセス・バイリイ、クルイベロマイセス・ラクティス、トルラスポラ・デルブルッキー、キャンディダ・ユティリス、キャンディダ・ケフィア等があげられる。これらのイーストを単独で、又は複数種を組み合わせて使用することができる。さらに、これらのイーストと上述の乳酸菌を併用することも可能である。
【0020】
該小麦粉と水の構成割合も従来使用されてきた割合を用いることができる。具体的には、例えば、小麦粉に対して50〜150質量%の水を使用することができる。
また、乳酸菌及び/又はイーストの使用割合も従来使用されてきた割合を用いることができる。具体的には、例えば、該液状醗酵種中に1×10〜1010CFU/gの菌が存在するように添加することができる。
【0021】
該液状醗酵種には糖類を含むことが望ましく、該糖類としては、添加する乳酸菌及び/又はイーストが資化できる糖であればよく、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、はちみつ、その他のものを用いることができる。そして、これらの糖類を1種又は複数種組み合わせて用いることもできる。該糖類の含有量は、該液状醗酵種を構成する小麦粉に対して1〜10質量%が望ましい。
【0022】
該液状醗酵種を構成するその他の原料としては、従来醗酵種に使用されてきたものを用いることができる。具体的には、例えば、ライ麦等の小麦粉以外の穀粉、乳製品、油脂、塩、モルト、増粘剤等、本発明の目的・効果を妨げないものであれば、いずれのものも用いることができる。
【0023】
本発明では、該液状醗酵種として、種起しにより最初に調製して醗酵させた醗酵種(初種)を使用することができるし、又は該初種から出発し、この初種の少なくとも一部を最初の元種にして種継ぎを1回又は複数回若しくは無数に行って作成する醗酵種(以下継ぎ種という)を使用することができる。
【0024】
該液状醗酵種の調製も初種及び種継ぎともに、従来の方法を用いることができる。具体的には、例えば、初種は前記原料を10〜30分間攪拌した後、27〜33℃で6〜48時間培養することができる。そして、該培養中には、定期的に間欠攪拌することが好ましい。以下の種継ぎをしないときには、攪拌後の元種を長時間、好ましくは40〜48時間培養したものを使用することが望ましい。
【0025】
種継ぎの方法としても、従来の方法を用いることができる。具体的には、例えば、前記液状醗酵種と同様の原料及び使用割合、即ち、小麦粉100質量%、水50〜150質量%、前記元種10〜50質量%、必要に応じて乳酸菌及び/又はイースト1×10〜1×1010CFU/g、糖類1〜10質量%とを混合・攪拌し、27〜33℃で6〜48時間培養するようにする。
【0026】
本発明の液状醗酵種は、初種でも、又は初種から出発して種継ぎをした継ぎ種でも、醗酵種として直ちにパンの製造に使用することができる程度まで培養して醗酵させておくことが望ましい。このためには、初種及び継ぎ種ともに、液状醗酵種の醗酵終了後のpHを4.0以下となるまで醗酵させることが望ましく、3.8以下となるまで醗酵させることがより望ましく、3.5〜3.7となるまで醗酵させることがより一層望ましい。
【0027】
これにより、醗酵終了後の液状醗酵種中の乳酸菌及び/又はイーストの数量が著しく増大することにより、後述する通り、該液状醗酵種に小麦粉を混合して作成した醗酵種生地を冷凍して解凍した後には、該醗酵種生地中には、著しく増量した乳酸菌及び/又はイーストの死滅菌体から多量のアミノ酸等の風味成分が放出されることになる。このように多量の風味成分を含有する醗酵種生地を使用して製造した焼成後のパンは、より一層良好な強い風味を有する。
【0028】
次に、このようにして調製し、培養して醗酵させた液状醗酵種に、少なくとも小麦粉を混合して非流動状の醗酵種生地を作成する。ここで液状醗酵種と小麦粉との割合は、非流動状の醗酵種生地を形成できる割合であれば良い。具体的には、例えば、液状醗酵種に対し30〜150質量%、好ましくは40〜50質量%の小麦粉を用いることができる。
【0029】
該醗酵種生地を作成するにあたり、通常小麦粉以外の原料は必要でないが、小麦粉以外に、塩、糖類、油脂、脱脂粉乳等の乳由来原料、その他の通常の製パン用原料をそれぞれ適宜量添加することができる。
【0030】
ここで、「非流動状」とは、例えば、パン生地のように、醗酵作用を加えない状態では、ある程度の保形性と可塑性を有する粘弾性のある状態をいう。より具体的には、少なくとも通常のパン生地の製造に用いる分割機や丸目機で分割や丸目ができる程度の状態である。
【0031】
前記液状醗酵種と小麦粉との混合は、小麦粉と液状醗酵種とが均一に練り込まれて、醗酵種生地が非流動状になるまで攪拌すれば良い。
更に、本発明においては、冷凍するにあたり、該醗酵種生地を極力醗酵させないで、該醗酵種生地の混合後速やかに冷凍するようにすることが可能であるし、望ましい。なぜなら、本発明は、後述する通り、乳酸菌及び/又はイーストが醗酵種生地中で醗酵して生成する物質によってパンに風味を付与することは従であり、むしろ主に醗酵種生地中で醗酵した乳酸菌及び/又はイーストの死滅した菌体から放出される風味成分によってパンに風味を付与するものであるから、ここでの醗酵は必要ではないのである。
【0032】
ここで「速やかに」冷凍するとは、該混合後の醗酵種生地を、例えば、温湿度が管理された醗酵室を用いたりして、意図して醗酵させたり、熟成させたりしないで冷凍するという意味である。これに対し、混合後に醗酵種生地の捏上温度を測定したり、重量を測定したり、分割機に投入するために待機し、分割機がホッパー付きディバイダーである場合においてホッパーに投入してから実際に分割されるまでに待機し、及び/又は分割若しくは分割・丸め整形後ベルトコンベアー等の搬送装置で冷凍機まで搬送され、その他の該醗酵種生地の実際の工業的製造現場における製造工程上及び管理上不可避な時間の経過まで排除するという意味まではなく、このような時間の経過は許容される。具体的には、例えば、液状醗酵種と小麦粉との混合後、好ましくは50分以内に、より好ましくは40分以内に、さらに好ましくは30分以内に、さらにより好ましくは20分以内に、最も好ましくは10分以内に冷凍を開始することである。
【0033】
これに対し、醗酵種生地の長時間醗酵は、液状醗酵種の醗酵と同様、不安定なものであるため、醗酵条件の厳格な管理が必要である。このための設備も必要となる。さもなければ、醗酵が醗酵種生地の分割工程の前でも後でも、該醗酵種生地の醗酵が不安定になり、焼成したパンの品質の安定性に影響するおそれがある。また、醗酵種生地の分割前に醗酵種生地を醗酵させ過ぎてしまうと、該醗酵種生地は半流動状となってしまい、機械的な分割・丸目がしにくくなる。更に、醗酵種生地の分割後に醗酵種生地を醗酵させ過ぎてしまうと、該醗酵種生地がイーストを含有している場合には、該醗酵種生地は膨張して流通や保管の際にスペースのロスになったり、また、膨張した該醗酵種生地の表皮は弱くなり、冷凍保管や配送中に表皮が破れたり、崩れたりして旨味成分を逃がす等の弊害が生じる。
【0034】
また、該醗酵種生地を冷凍するにあたり、混合後の該醗酵種生地を小さく、例えば、具体的には、50〜500gに分割し、丸め整形をすることが望ましい。こうすることにより、冷凍効率、取り扱いや保管の容易性、更には、製パン時の作業性が向上する。なお、上述の丸め整形とは、丸めて球状に整形することだけでなく、なまこ状、板状、棒状、その他本発明の目的・効果を妨げるものでなければ、いずれの形状に整形することをも含む意味である。
【0035】
そして、該混合後の醗酵種生地を分割するにあたり、該醗酵種生地を混合後直ちに分割するようにする。ここでも「直ちに」分割するとは、該混合後の醗酵種生地を、例えば、温湿度が管理された醗酵室を用いたりして、意図して醗酵させたり、熟成させたりしないで、可及的速やかに分割するという意味である。これに対し、上述した通り、捏上温度、重量の測定、分割の待機、その他の次工程までの不可避的な時間の経過まで排除するという意味まではない。該経過時間は、好ましくは30分程度以下であり、より好ましくは20分以下であり、さらに好ましくは10分以下である。
【0036】
なお、該混合後の醗酵種生地を直ちに分割する理由は、上述した通りである。また、さらには、該醗酵種生地を分割前に醗酵させると、該醗酵時間が長ければ長いほど、該醗酵種生地中に当初から含有されている乳酸菌以外の菌種の乳酸菌や酵母が増殖し、この結果、該醗酵種生地が当初の目的としているパンの風味や製パン性を得ることが妨げられるおそれがある。
【0037】
このようにして製造した冷凍醗酵種生地は、解凍することにより直ちにパン生地の混捏工程で添加することができる。
冷凍した醗酵種生地は、使用時まで、その製造場所で冷凍保管されたり、使用場所まで冷凍配送されたり、または第三者の冷凍倉庫や物流施設に冷凍保管されたりする。
【0038】
また、本発明は、上述した冷凍醗酵種生地を解凍してからパン生地の混捏工程で添加するパン生地であり、また該パン生地を焼成するパンである。
該冷凍醗酵種生地の解凍方法は、常温解凍、高温短時間解凍、低温長時間解凍、その他いずれの方法も採用可能である。解凍の程度は、パン生地の混捏工程でその他のパン生地原料と均一に混合できる程度であれば良いが、該冷凍醗酵種生地全体が完全に解凍されるまで解凍するのが望ましい。
【0039】
前記醗酵種生地は、含有する乳酸菌及び/又はイースト菌体が液状醗酵種の培養中に多量の水分を吸収して大きく膨潤していることから、これを冷凍することにより、該菌体の容積が拡大して破裂し崩壊した状態で冷凍される。これにより、乳酸菌及び/又はイーストは全て又はほとんどが死滅してしまい活性を示さないようになる。そして、該冷凍醗酵種生地を解凍したときに、崩壊した菌体からアミノ酸、酵母エキス等の風味成分が解凍後の醗酵種生地中に放出される。このため、該醗酵種生地を使用して焼成したパンは、従来の醗酵種を添加して焼成したパンよりも良好で強い風味を有するようになる。
【0040】
このためには、前記解凍後の醗酵種生地中におけるアミノ酸の含有量が500ppm以上であることが望ましく、600ppm以上であることがより望ましく、700ppm以上であることがより一層望ましい。
【0041】
前記醗酵種生地は、パン生地を構成する小麦粉に対し1〜40質量%添加することが望ましく、3〜30質量%添加することがより望ましく、5〜20質量%添加することがより一層望ましい。
【0042】
本発明の冷凍醗酵種生地を用いるパン生地の製法としては、中種法、ストレート法、ノータイム法、短時間製法等、特に制限なく各種製法を採用することができる。
また、本発明の冷凍醗酵種生地を解凍した醗酵種生地は、パン生地の混捏工程のどの段階で添加してもよい。例えば、中種法によりパン生地を作成する場合には、該醗酵種生地を中種の混捏工程と本捏工程のどちらか一方又は両方で添加することができる。
【0043】
そして、本発明は、食パン、フランスパン、菓子パン、バンズ、コーヒーケーキ、蒸しパン、ピザ、ドーナツ、スイートロール、ロール、ペストリー、デニッシュペストリー等の各種パンの製造にも用いることができる。好適には、食パンやフランスパン等のリーンな配合のパンの製造に用いられる。
【0044】
本発明は、液状醗酵種に小麦粉を混合して非流動状の醗酵種生地を作成し、冷凍することによって製造した冷凍醗酵種生地に関する。該冷凍醗酵種生地は、従来の液状醗酵種に比べ、配送、保管等の流通時における管理および取り扱い、また、製造ラインにおけるミキサー担当者の作業性が容易である。
【0045】
また、本発明においては、その醗酵種生地内に含有される乳酸菌及び/又はイースト菌体が、液状醗酵種の培養中に多量の水分を吸収して大きく膨潤していることから、これを冷凍すると、該菌体の容積が拡大して破裂し、該菌体が崩壊した状態で冷凍される。これにより、乳酸菌及び/又はイーストは全て又はほとんどが死滅してしまい活性を示さないようになる。そして、該冷凍醗酵種生地を解凍したときに、崩壊した菌体からアミノ酸、酵母エキス等の風味成分が解凍後の醗酵種生地中に放出される。このため、該醗酵種生地を使用して焼成したパンは、従来の醗酵種を添加して焼成したパンよりも良好で強い風味を有するものとなる。
【0046】
一般に、パン生地に従来の液状醗酵種を添加して製造されたパン生地は、液状醗酵種を添加しないで製造されたパン生地と比較して、伸展性が良くなる傾向にある。これは、液状醗酵種中の乳酸又はイーストがグルテニンの弾性を改変させるためであると推測される。本発明の冷凍醗酵種生地を用いて製造したパン生地も、従来の液状醗酵種を添加して製造したパン生地同様の伸展性の改善されたものとなる。
【0047】
また、従来の液状醗酵種をパン生地に添加して製造されたパンは、液状醗酵種を添加しないで製造されたパンと比較して、老化が遅くなる傾向にある。これは、液状醗酵種中の乳酸又はイーストが有する老化抑制・保湿性向上効果によるものであると推測される。本発明の冷凍醗酵種生地を用いて製造したパン生地を焼成して得たパンは、従来の液状醗酵種をパン生地に添加して製造されたパンよりも、老化遅延効果が大きいものである。
【実施例】
【0048】
[実施例1−1]
冷凍醗酵種生地の調製
表1に示した原料を20分間攪拌した後、27℃で45時間培養した。培養中、定期的に間欠攪拌し、液状醗酵種を得た。該液状醗酵種のpHは3.7であり、酸味を有するものであった。
【0049】
該液状醗酵種に対し、小麦粉(強力粉)45質量%を添加し、ミキサーで80rpmにて2分間ミキシングを行い、非流動状の醗酵種生地を得た。
該醗酵種生地を速やかに100gに分割して丸めて、該分割後の醗酵種生地を−40℃の雰囲気下に24分間置き、冷凍醗酵種生地とし、該冷凍醗酵種生地を包装した。このようにして得られた冷凍醗酵種生地は、冷凍されているため、長期保管しても過醗酵、変敗、活性の喪失等の心配がなく、長期保管が可能であるとともに、取り扱いが容易であった。しかも、該冷凍醗酵種生地は、従来の冷凍パン生地と同様の冷凍配送・保管設備が利用できる利点を有する。そして、使用する際には、解凍して使用する。
【0050】
【表1】

【0051】
[実施例1−2]
表2に示す配合からなる原料を混合し、該混合物を27℃で27時間醗酵させて液状醗酵種(初種)の種起こしを行った。
【0052】
【表2】

【0053】
該液状醗酵種の一部を元種として、以下の配合からなる原料を混合し、該混合物を27℃で24時間醗酵させて液状醗酵種(継ぎ種)を調製した。
【0054】
【表3】

【0055】
該継ぎ種の一部を元種として、同一の配合からなる原料を混合し、該混合物を27℃で24時間、定期的に攪拌しながら、醗酵させて液状醗酵種(継ぎ種)を調製した。
該継ぎ種の一部を元種として、同一の配合からなる原料を混合し、該混合物を27℃で12時間、定期的に攪拌しながら、醗酵させて液状醗酵種(継ぎ種)を調製し、10℃で12時間保存した。
【0056】
該保存後の継ぎ種の一部を元種として、以下の配合からなる原料を混合し、該混合物を27℃で8時間醗酵させて液状醗酵種(継ぎ種)を調製して、10℃で保存する。これを何回も繰り返す。
【0057】
【表4】

【0058】
このように繰り返し種継ぎをして得た液状醗酵種100質量%に対し、小麦粉(強力粉40質量%を添加し、ミキサーで80rpmにて4分間ミキシングを行い、非流動状の醗酵種生地を得た。
【0059】
該醗酵種生地を速やかに100gに分割し、該分割後の醗酵種生地を−40℃の雰囲気下に24分間置き、冷凍醗酵種生地とした。
このようにして得られた冷凍醗酵種生地は、冷凍されているため、長期保管においても過醗酵、変敗、活性の喪失等の心配がなく、よって長期保管が可能となるとともに、取り扱いが容易であった。しかも、該冷凍醗酵種生地は、従来の冷凍パン生地と同様の冷凍配送・保管設備が利用できる利点を有する。そして、使用するときには、解凍して使用する。
[実施例1−3]
表5に示す配合からなる原料を混合し、該混合物を27℃で27時間醗酵させて液状醗酵種(初種)の種起こしを行った。
【0060】
【表5】

【0061】
該液状醗酵種の一部を元種として、以下の配合からなる原料を混合し、該混合物を27℃で24時間醗酵させて液状醗酵種(継ぎ種)を調製した。
【0062】
【表6】

【0063】
該継ぎ種の一部を元種として、同一の配合からなる原料を混合し、該混合物を27℃で24時間、定期的に攪拌しながら、醗酵させて液状醗酵種(継ぎ種)を調製した。
該継ぎ種の一部を元種として、同一の配合からなる原料を混合し、該混合物を27℃で12時間、定期的に攪拌しながら、醗酵させて液状醗酵種(継ぎ種)を調製し、10℃で12時間保存した。
【0064】
該保存後の継ぎ種の一部を元種として、表7の配合からなる原料を混合し、該混合物を27℃で8時間醗酵させて液状醗酵種(継ぎ種)を調製して、10℃で保存する。これを何回も繰り返す。
【0065】
【表7】

【0066】
このように繰り返し種継ぎをした継ぎ種を元種として、以下の配合からなる原料を混合し、該混合物を27℃で8時間醗酵させて液状醗酵種(継ぎ種)を調製した。このような種継ぎを2回繰り返した。該調製後の液状醗酵種のpHは3.8だった。該液状醗酵種を10℃にて保管した。
【0067】
【表8】

【0068】
このように2回の種継ぎをして得た液状醗酵種100質量%に対し、小麦粉(強力粉)45質量%を添加し、ミキサーで80rpmにて4分間ミキシングを行い、非流動状の醗酵種生地を得た。
【0069】
該醗酵種生地を速やかに100gに分割して丸め、該分割後の醗酵種生地を−40℃の雰囲気下に24分間置き、冷凍醗酵種生地とし、該冷凍醗酵種生地を包装した。このようにして得られた冷凍醗酵種生地は、冷凍されているため、長期保管においても過醗酵、変敗、活性の喪失等の心配がなく、よって長期保管が可能となるとともに、取り扱いが容易であった。しかも、該冷凍醗酵種生地は、従来の冷凍パン生地と同様の冷凍配送・保管設備が利用できる利点を有する。そして、使用するときには、解凍して使用する。
[実施例1−4]
表9に示した原料を20分間攪拌した後、27℃で45時間培養した。培養中、定期的に間欠攪拌し、液状醗酵種を得た。該液状醗酵種のpHは3.7であり、酸味を有するものであった。
【0070】
該液状醗酵種に対し、小麦粉(強力粉)40質量%を添加し、ミキサーで80rpmにて2分間ミキシングを行い、非流動状の醗酵種生地を得た。
該醗酵種生地を速やかに100gに分割して丸めて、該分割後の醗酵種生地を−40℃の雰囲気下に24分間置き、冷凍醗酵種生地とし、該冷凍醗酵種生地を包装した。このようにして得られた冷凍醗酵種生地は、冷凍されているため、長期保管しても過醗酵、変敗、活性の喪失等の心配がなく、長期保管が可能であるとともに、取り扱いが容易であった。しかも、該冷凍醗酵種生地は、従来の冷凍パン生地と同様の冷凍配送・保管設備が利用できる利点を有する。そして、使用する際には、解凍して使用する。
【0071】
【表9】

【0072】
[実施例2]
前記実施例1−2において製造した冷凍醗酵種生地を27℃で約2時間解凍し、該解凍された醗酵種生地を用いて、表10および表11に示す原料配合・工程により全粒粉入りフランスパンを作成した。
【0073】
【表10】

【0074】
【表11】

【0075】
成形後の実施例2のパン生地は、伸展性が良く伸びやすい良好な生地物性であった。そして、実施例2のパンは、形状が安定していて良好で、焼色は明るい黄金色であった。そして、内相は伸びが有り、膜が薄く良好であった。また、香りは全粒粉由来の穀物臭が僅かに残存しているものの、香ばしく、食感は軽く良好であった。しかも、老化の抑制されたものであった。
[実施例3]
本発明の実施例3−1及び3−2として、前記実施例1−3の冷凍醗酵種生地を27℃で約2時間解凍し、該解凍された醗酵種生地を用いて以下の原料配合・工程によりフランスパンを作成した。
【0076】
【表12】

【0077】
【表13】

【0078】
成形後の実施例3−1及び3−2のパン生地は、伸展性が良く伸びやすい良好な生地物性であった。そして、実施例3−1及び3−2のパンは、形状が良好で、焼色は明るく、内相は伸びが有り、膜が薄く良好であった。また、両者とも甘い香りがして、良好な食感であった。実施例3−1のパンは、ややコクが感じられる味であった。実施例3−2のパンは、実施例3−1のパンよりもコクが強く感じられ、更に旨味の有る味であった。実施例3−1及び3−2のパンともに老化の抑制されたものであった。
[実施例4]
実施例4として、前記実施例1−4の冷凍醗酵種生地を27℃で約2時間解凍し、該解凍された醗酵種生地を用いて、表14および表15の原料配合・工程によりフランスパンを作成した。
【0079】
【表14】

【0080】
【表15】

【0081】
成形後の実施例4のパン生地は、伸展性が良く伸びやすい良好な生地物性であった。そして、実施例4のパンは、形状が良好で、焼色は明るく、内相は伸びが有り、膜が薄く良好であった。また、実施例4のパンは、甘い香りがして、良好な食感であった。しかも、コクが強く感じられ、更に旨味の有る味であった。実施例4のパンは、老化の抑制されたものであった。
[実施例5−1]
前記実施例1−2における醗酵種生地30質量%を、前記実施例1−3の冷凍醗酵種生地を5℃で約20時間解凍して得られた醗酵種生地10質量%(実施例5−1)、同じく前記実施例1−3の冷凍醗酵種生地を5℃で約20時間解凍して得られた醗酵種生地20質量%(実施例5−2)に代えて、それ以外は実施例2と同様の原料配合・工程により全粒粉入りフランスパンを作成した。
【0082】
実施例5−1及び5−2のパンは、焼色が明るい黄金色で良好であった。そして、全粒粉由来の穀物臭がマスキングされており香ばしい良好な風味を有していた。食べてみるとやや甘みが感じられ、コクが有るとともに、軽くてサクい、しかもソフトな食感であった。
[実施例6]
本発明の実施例6として、前記実施例1−1で作成した冷凍醗酵種生地を27℃で約2時間解凍して得た醗酵種生地を使用して、以下の配合及び工程によりフランスパンを作成した。
【0083】
【表16】

【0084】
【表17】

【0085】
このようにして焼成したフランスパンは、焼色が明るく良好であり、香りは香ばしく、また味・風味もフランスパン独特の塩味が強く感じられ、旨味があった。
[実施例7]
本発明の実施例7として、前記実施例6と同様に前記実施例1−1で作成した冷凍醗酵種生地を27℃で約2時間解凍して得た醗酵種生地を使用して、今度は以下の配合及び工程により食パンを作成した。
【0086】
【表18】

【0087】
【表19】

【0088】
【表20】

【0089】
【表21】

【0090】
このようにして焼成した食パンは、形状はケーブインが少なくて良好であり、焼色も明るく良好である。また、食感は比較的軽くて良好であり、香りは中種法で作成した食パンに特徴的なツンと鼻をつくイースト醗酵臭(アルコール臭)がなく、香ばしい小麦粉醗酵臭があり、味・風味もやや酸味を有する旨味を感じさせるものであった。
【実験例】
【0091】
【実験例1】
【0092】
実施例1−4で得た冷凍醗酵種生地を27℃で約2時間解凍した醗酵種生地と、実施例1−4で得た液状醗酵種で冷凍前のもの(比較例1)のアミノ酸分析を日本電子社製アミノ酸自動分析器JEOL−500/Vを用いて行い、各種アミノ酸量を比較・検討した。分析結果を図1に示す(なお、醗酵種生地は、液状醗酵種に小麦粉を添加したものであるため、分析項目の成分値は実際の分析値から該小麦粉がもたらす成分量を差し引いた値に換算した)。
【0093】
実施例1−4で得た冷凍醗酵種生地を解凍して得た醗酵種生地は、比較例1の液状醗酵種と比較すると、分析した全アミノ酸項目で値が増加していた。特に、酸味及び旨味の呈味を有するアスパルギン酸(Asp)及びグルタミン酸(Glu)、甘味及び旨味の呈味を有するセリン(Ser)及びリジン(Lys)並びに甘味の呈味を有するスレオニン(Thr)の増加率が大きかった。各項目の分析値の合計は、比較例1の液状醗酵種が461ppmであったのに対し、実施例1−4で得た冷凍醗酵種生地を解凍して得た醗酵種生地は714ppmと、253ppm増加していた。これは、液状醗酵種中の乳酸菌体が培養中に水分を吸収して大きく膨潤しているところ、これを冷凍することにより菌体の容積が拡大して破裂し崩壊した状態となって冷凍され、次いで解凍すると、崩壊した菌体からアミノ酸が醗酵種生地中に放出されたためであると推測された。アミノ酸は、食品の呈味成分として知られており、従って、アミノ酸、特に、旨味及び甘味を有するアミノ酸量が増加した本発明の醗酵種生地は、パンの旨味・風味の向上・増強効果を有するものといえる。
【実験例2】
【0094】
本発明として前記実施例3−2のパンと、比較例として該実施例3−2において醗酵種生地を添加しないようにして、それ以外は該実施例3−2と同様の原料配合・工程によって得たフランスパン(比較例3)とを用いて官能評価試験を行った。試験方法は、官能評価試験の訓練を受けた男女32名のパネラーによる7段階評価で、平均値を求めるとともに、t−検定により、総合嗜好、味嗜好、味識別及び香識別を比較した。試験結果を表22に示す。
【0095】
【表22】

【0096】
上記官能評価試験の結果によれば、実施例3−2のパンは、比較例3のパンに比べ、全ての比較項目において平均点が高く、特に総合嗜好で有意に好まれ、また味識別及び香識別で有意に強くなっていると評価された。この結果から、本発明の冷凍醗酵種生地を用いたパンは、味及び香が著しく改良・増強されたものであることがわかった。
【実験例3】
【0097】
本発明として前記実施例4のパンと、比較例4−1として、実施例4における冷凍醗酵種生地を解凍した醗酵種生地の代わりに、前記実施例1−4で作成した液状醗酵種を用いる(パン生地の小麦粉に対して20質量%)ようにして、それ以外は実施例4と同等の原料配合・工程により得たフランスパンと、比較例4−2として、実施例4における冷凍醗酵種生地を解凍した醗酵種生地も、また実施例1−4で作成した液状醗酵種も添加しないようにして、それ以外は実施例4と同等の原料配合・工程により得たフランスパンを用いて、クラム応力測定試験を行い、経時的なパンのクラムの柔らかさを比較・検討した。なお、ベンチタイムは、それぞれの検体において、20分間とった場合と40分間とった場合の2パターンについて、パンを作成した。また、クラム応力として、プランジャーを針入距離だけ一定速度で検体(スライスしたパンクラム)に押圧していったときのパンクラムの応力を測定した。応力が小さいほど、パンクラムが柔らかいことを意味する。
【0098】
【表23】

【0099】
測定条件及び測定結果を表23及び図2に示す。図2は、各検体のクラム応力の経時変化を示すものである。実施例4の応力は、製造日の1日後〜3日後のいずれの時点においても最も小さかった。比較例4−1の応力は、製造日の1日後〜3日後のいずれの時点においても実施例4のそれよりもわずかに大きく、この間の応力値の変化は、実施例4のそれと同様の傾向を示した。比較例4−2の応力は、製造日の1日後〜3日後のいずれの時点においても最も大きく、特に、製造日の1日後以降急激に応力の値が大きくなった。
【0100】
この結果から、醗酵種を添加していない比較例4−2のパンが一番硬化が早く進んだのに対し、本発明の醗酵種生地を添加した実施例4のパン及び液状醗酵種を添加した比較例4−1のパンは硬化が遅くなることがわかった。この理由は、乳酸菌醗酵生成物の有する老化抑制及び保湿性向上効果によるものと推測される。本発明の醗酵種生地を添加したパン生地を用いて製造したパンも同様に乳酸菌醗酵生成物の持つ老化抑制及び保湿性向上効果を有することが確認でき、さらに本発明によるパンは、従来の液状醗酵種を添加したパンよりも老化抑制効果が大きいことが確認できた。
【実験例4】
【0101】
実施例4、比較例4−1及び比較例4−2のパン生地の抗張力及び伸長力をブラベンダー社製エクステンソグラフを用いて測定し、生地物性への影響を比較・検討した。その結果を以下に示す。
【0102】
【表24】

【0103】
上記Fは抗張力を、Eは伸張度を表すものである。図3縦軸は、これらの比であるF/E値であり、これは、その値が大きいほどパン生地の抗張力が強いか伸展性が少ないことを示すものである。また、図3の横軸は、フロアタイムを20分間とった場合と40分間とった場合の値である。
【0104】
この結果から、実施例4及び比較例4−1のパン生地は、比較例4−2のパン生地に比べ、抗張力が小さく、特にフロアタイムを長くとった場合には、この傾向はより顕著となることが確認された。換言すると、醗酵種を添加するとパン生地の伸展性が向上し、伸びやすい生地になるといえる。この理由は、醗酵種中の乳酸がグルテニンの弾性を改変させたためと推測される。この効果は、本発明の冷凍醗酵種生地を用いた場合にも、冷凍しない液状醗酵種を用いる場合と同等であることが確認できた。
【実験例5】
【0105】
(生地ファーモグラフ試験)
実施例4、比較例4−1、及び比較例4−2の本捏ミキシング後のパン生地について、それぞれ、ガス発生量をアトー社製ファーモグラフにより測定した。
測定結果を図4に示す。この測定結果から、ガス発生量は、実施例4、比較例4−1及び比較例4−2のパン生地のいずれもほぼ同量であった。従って、本発明の冷凍醗酵種生地を解凍してパン生地に添加しても、パン生地のガス発生量には影響を与えないことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、種生地に含まれるアミノ酸の量を示すグラフである。
【図2】図2は、パンのクラム応力の経時変化を示すグラフである。
【図3】図3は、パン生地の抗張力及び伸長力を示すグラフである。
【図4】図4は、パン生地のガス発生量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状醗酵種に少なくとも小麦粉を混合して非流動状の醗酵種生地を作成し、冷凍することを特徴とする冷凍醗酵種生地。
【請求項2】
前記混合して作成した醗酵種生地を、極力醗酵させないように、速やかに冷凍することを特徴とする請求項1記載の冷凍醗酵種生地。
【請求項3】
前記混合して作成した醗酵種生地を、分割及び丸め整形してから、冷凍することを特徴とする請求項1又は2記載の冷凍醗酵種生地。
【請求項4】
前記液状醗酵種が、少なくとも、小麦粉、水並びに乳酸菌及び/又はイーストから構成されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一の請求項記載の冷凍醗酵種生地。
【請求項5】
前記液状醗酵種が、醗酵種として直ちにパンの製造に使用できる程度に醗酵させたものであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一の請求項記載の冷凍醗酵種生地。
【請求項6】
前記液状醗酵種が、糖類を含むことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一の請求項記載の冷凍醗酵種生地。
【請求項7】
前記液状醗酵種が、種継ぎをしたものであることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一の請求項記載の冷凍醗酵種生地。
【請求項8】
前記液状醗酵種が、該液状醗酵種を構成する小麦粉に対し50〜150質量%の水から作成されることを特徴とする、請求項4乃至7のいずれか一の請求項記載の冷凍醗酵種生地。
【請求項9】
前記醗酵種生地が、前記液状醗酵種に対して40〜50質量%の小麦粉を混合して作成することを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一の請求項記載の冷凍醗酵種生地。
【請求項10】
前記請求項1乃至9のいずれか一の請求項記載の冷凍醗酵種生地を解凍してからパン生地の混捏工程で添加することを特徴とするパン生地。
【請求項11】
前記冷凍醗酵種生地を、前記パン生地を構成する小麦粉に対して3〜30質量%添加することを特徴とする、請求項10記載のパン生地。
【請求項12】
前記請求項10又は11に記載のパン生地を焼成することを特徴とするパン。
【請求項13】
前記請求項1乃至9のいずれか一の請求項記載の冷凍醗酵種生地を解凍してからパン生地の混捏工程で添加することを特徴とするパン生地の製造方法。
【請求項14】
前記冷凍醗酵種生地を、前記パン生地を構成する小麦粉に対して3〜30質量%添加することを特徴とする、請求項13記載のパン生地の製造方法。
【請求項15】
前記請求項13又は14に記載の方法により製造されたパン生地を焼成することを特徴とするパンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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