説明

冷凍食品の製造法

野菜及び/又は果実類をペクチン分解物含有水溶液で処理し、次に、2価カチオン塩及びペクチンエステラーゼを含有する水溶液で処理し、その後、冷凍することによる冷凍食品の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は解凍後の食感が良好で、かつ、離水が少ない冷凍食品の製造法に関する。
【背景技術】
一般にレトルト、冷凍、缶詰などの加工野菜、加工果物は日持ち良いが、生の野菜、果物に比べ、柔らかい、筋っぽい、などの食感面で劣っている。
このような加工野菜等の食感を改良する方法として、マイルドな温度で加熱する方法、カルシウムやマグネシウムを添加する方法などが報告されている。
また、ジャムに用いるフルーツの食感を改良するためにペクチンエステラーゼ(ペクチンメチルエステラーゼとも言われ、又PMEと略される場合もある。)を作用させる方法も知られている(WO94/12055、WO97/10726)。
カルシウム塩、マグネシウム塩で野菜等に処理した場合には、独特の苦みや不均一な食感を呈することが避けられない。また、ジャムに用いるフルーツの食感をペクチンエステラーゼで改良する方法は確かに効果がある。しかし、この方法はジャムなどの非常に柔らかい食感を有する食品には効果があるが、野菜や果物を冷凍した冷凍食品についてはペクチンエステラーゼが使用された例は報告されていない。
【発明の開示】
本発明は解凍後でも良好な食感を有し、かつ離水が少ない、冷凍食品(冷凍野菜、冷凍果物)の製造法の提供を目的とする。
本発明者らは、上記課題の解決を目的として鋭意検討の結果、まず、野菜及び/又は果実類をペクチン分解物含有水溶液で処理し、次に、2価カチオン塩及びペクチンエステラーゼを含有する水溶液で処理することにより、目的とする冷解凍後の軟化、離水を防止し、かつ、好ましい食感を維持した冷凍食品を得ることができ、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
1.1)野菜及び/又は果実類をペクチン分解物含有水溶液で処理し、2)次に、2価カチオン塩及びペクチンエステラーゼを含有する水溶液で処理し、3)その後、冷凍することを特徴とする冷凍食品の製造法。
2.ペクチン分解物含有水溶液が0.01〜10重量%濃度である前記1記載の冷凍食品の製造法。
3.野菜が人参又は大根であることを特徴とする前記1記載の冷凍食品の製造法。
4.2価カチオン塩が、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、塩化マグネシウムである前記1記載の冷凍食品の製造法。
本発明で用いられる食品素材としては野菜、果実が挙げられる。野菜、果物であれば、特にその種類は制限されない。しかし、本発明においては、これまで軟化しすぎて、冷凍食品に用いられなかった水分含量の多い野菜、果実により適している。例えば、ニンジン、ダイコンが特に適していると考えられる。
本発明で用いるペクチン分解物はペクチンから製造されるが、そのペクチンの起源、メチルエステル化度などは特に限定されない。起源としては、例えば、柑橘類果実の皮、リンゴの果実、液汁から取得したものを用いることができる。また、メチルエステル化度から、大きくローメトキシペクチン(メチルエステル化度50以下)、ハイメトキシペクチン(50以上)に分けられるが、いずれも用いることができる。
前述のように、ペクチン分解物はペクチンを分解して作られるが、その分解度合い、分解方法は特に限定されるものではない。例えば、分解方法としてペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ等による酵素分解法、化学的に酸やアルカリを使用して分解させる方法を挙げることができる。また、分解度合いとしては、部分分解(限定分解とも言われる)したものから、完全分解したポリガラクツロン酸まで、いずれも使用可能である。
尚、ペクチン分解物含有水溶液の濃度は通常0.01〜10(重量%)、好ましくは0.1〜5重量%になるように調製する。
また、本発明で用いる2価カチオンはどのようなものでもよく、例えば、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、燐酸三カルシウム、燐酸一水素カルシウム、燐酸二水素カルシウム、グリセロ燐酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、1−グルタミン酸カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、ピロリン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム等のカルシウム塩、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩等が挙げられる。
使用上の便宜を考慮すると、2価カチオン塩としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、塩化マグネシウムを用いるのが好ましい。
水溶液中の2価カチオンの濃度は、通常は、0.1〜6重量%。好ましくは0.2〜1重量%になるように調製する。6重量%より2価カチオン塩濃度が高いと、食品素材に苦みがつく場合が多く、また、0.1重量%より2価カチオン塩濃度が低いと効果があまり期待できない。
本発明で用いるペクチンエステラーゼは植物由来でも、微生物由来でも、遺伝子組換により調製されたものでも、いずれでも使用できる。
例えば、Sigma社製の「オレンジの皮由来」のペクチンエステラーゼや、ジャム用酵素として、欧米で市販されているDSM社の「Rapidase」(商品名)、Novozymes社製のAspergillus aculeatus由来の「NovoShape」(商品名)などが挙げられる。ペクチンエステラーゼは、精製したものの他、粗精製品でも使用できる。粗精製品としては、ペクチンエステラーゼを含有する植物組織の抽出物や微生物の培養液等を挙げることができる。
使用されるペクチンエステラーゼの濃度は野菜100gに対して、通常0.0005〜10重量%(酵素の蛋白量)、好ましくは0.001〜3重量%である。
酵素の力価で表示すると、1〜1000P.E.U.、好ましくは5〜300P.E.U.である。尚、1m mol当量の酸を1分間に生産する酵素の力価を1P.E.U.とする。
導入方法については、まず、野菜及び/又は果実をペクチン分解物含有水溶液で処理する。通常は野菜及び/又は果実をペクチン分解物含有水溶液中に10秒以上、好ましくは10分〜24時間、浸漬させればよい。
次に、野菜及び/又は果実を、2価カチオン塩及びペクチンエステラーゼを含有する水溶液で処理する。この場合も通常は野菜及び/又は果実を浸漬させればよい。
浸漬処理は常圧で行っても良いし、また、加圧又は減圧下で行っても構わない。加圧、減圧処理条件は特に限定されないが、通常、加圧処理は1.04〜50気圧の範囲で行う。同様に、通常、減圧処理は1〜600mmHgの条件下で行う。
最後に、2価カチオン塩及びペクチンエステラーゼを含有する水溶液で処理した野菜及び/又は果物を冷凍処理に付す。冷凍処理する前に、ボイル等の処理を行っても構わない。冷凍処理条件は通常の冷凍食品の製造に用いられる条件で行えばよい。
本発明では、前述のような2段階処理した野菜又は果物をそのまま冷凍してもよく、これらの野菜、果物と他の食品素材(肉類、魚類等)を併せたものを冷凍しても構わない。換言すれば、本発明の冷凍食品とは、2段階処理した野菜や果物をそのまま冷凍したもの並びに2段階処理した野菜や果物と他の食品素材と併せたものを冷凍したものの、両方を含む。
【図面の簡単な説明】
図1はニンジンでの本発明品及び比較品の耐荷重(硬さ)測定値を示す図である。
図2はダイコンでの本発明品及び比較品の耐荷重(硬さ)測定値を示す図である。
図3は本発明品及び比較品の内、ニンジンをそのままボイルして冷凍、解凍させたもの(無処理)を光学顕微鏡観察した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施例に基づき詳しく説明する。尚、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1:処理野菜の作成とその物性
1)ペクチン分解物含有溶液の調製
市販ペクチン(GENU pectin type FREEZE−J/三晶株式会社製)を溶解、懸濁させた溶液(2%)に0.02%のペクチナーゼ(商品名:PECTINEX 3XL/NOVOZYMES社製)を加え、40℃、2時間以上攪拌反応させ、その後100℃、20分加熱し反応を停止させ、目的とするペクチン分解物含有溶液を調製した。
2)サンプルの作成
2%のペクチン分解物含有溶液(100g)中に15mm角ダイス状に切断したニンジン及びダイコンをそれぞれ50gづつ浸し、加圧装置を用いて5気圧5分間加圧処理を行った。
ついで、ペクチン分解物含有溶液を捨て、次に、ペクチンエステラーゼ酵素と塩化カルシウムを含有する水溶液(酵素濃度:0.01重量%、塩化カルシウム濃度:5重量%)に変え、同様に5気圧5分間加圧処理を行った。
次いで、処理野菜を40℃恒温水中で1時間インキュベートし、10分間ボイルした後に、マイナス40℃(−40℃)で1時間急速凍結させた後、マイナス18℃(−18℃)で1週間冷凍保存した(本発明品)。
本発明品を5分間ボイル解凍した後、テクスチャーアナライザー(Stable Micro System社製)を用いて、5mmの球形プランジャーの圧縮による耐荷重(硬さ)を測定した。
尚、比較の為に、1)生野菜をそのままボイルして冷凍、解凍させたもの、2)カルシウム溶液のみで処理した後、ボイルして冷凍、解凍したもの、3)ペクチンエステラーゼとカルシウム溶液で処理し、ボイル後、冷凍、解凍したもの、及び4)分解していないペクチンを含有する溶液で処理した後、ペクチンエステラーゼとカルシウム溶液で処理し、ボイル後、冷凍、解凍したもの、を調製した。これら全てを比較品と称する。
尚、比較品を調製する際の条件、例えば、ペクチンエステラーゼ濃度等は全く本発明品の調製の場合と同じである。
比較品を、本発明品と同じ条件で解凍し、同じ条件で耐荷重(硬さ)を測定した。図1はニンジンについての結果、図2はダイコンについての結果である。
図1及び2に示す結果より、本発明品は解凍後の硬さが向上していたことが分かった。
実施例2:解凍後の野菜の離水量測定
実施例1で作成した冷凍ニンジン及び冷凍ダイコンのサンプルの内、1)本発明品及び2)未分解ペクチン+PME+Ca処理サンプル以外の比較品をそれぞれ、5分間ボイル解凍後、500Gで30秒遠心機にかけることで水切りを行い、重量測定した。
その後、テクスチャーアナライザーを用いて、円盤型プランジャー(直径mm)による5mm圧縮を行い、再度500Gで30秒間、遠心機にかけて水切り後、重量測定した。圧縮前後の重量差を圧縮前の重量で割り、ドリップ割合を算出した。その結果を表1に示す。表1中の分解物+Ca+PMEと表示されているのが本発明品である。
表1から分かるように、ニンジン、ダイコンのいずれも、ペクチン分解物を導入した本発明品のドリップ量が他のサンプルのドリップ量よりも少なかった。

実施例3:冷凍野菜の組織観察
実施例1で作成したニンジンのサンプルの内、1)本発明品及び2)比較品の中でニンジンをそのままボイルして冷凍、解凍させたもの(無処理)を、それぞれ、光学顕微鏡にて組織観察した。サンプル外側を大きく扇形に切り、厚さ5mmで試料を切り出した。試料をホルマリン緩衝液により固定し、パラフィン切片(8μm)にした。また、ルテニウムレッドを用い、ペクチンやセルロースを染めるペクチン染色を行い、光学顕微鏡による観察を実施した。
観察結果を図3に示す。図3中のKは細胞内の空隙を現す。この空隙が、噛んだときの著しい離水や軟化の原因となっている。従って、空隙が小さいほど、食感が良好であることを意味する。
さて、図3より、ペクチン分解物を導入した本発明品は、空隙が小さくなっていることが確認できた。これにより、冷凍野菜の食感を悪くしている主な要因である、離水の多さと軟化を低減する効果を本発明品が有することが組織観察によっても裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、冷凍した野菜類を解凍した際に生じる軟化や離水が少なく、食感の優れた冷凍食品の製造方法を提供することができるので、食品産業、特に冷凍食品産業にとって有用である。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)野菜及び/又は果実をペクチン分解物含有水溶液で処理し、2)次に、2価カチオン塩及びペクチンエステラーゼを含有する水溶液で処理し、3)その後、冷凍することを特徴とする冷凍食品の製造法。
【請求項2】
ペクチン分解物含有水溶液が0.01〜10重量%濃度である請求の範囲第1項記載の冷凍食品の製造法。
【請求項3】
野菜が人参又は大根であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の冷凍食品の製造法。
【請求項4】
2価カチオン塩が、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、塩化マグネシウムである請求の範囲第1項記載の冷凍食品の製造法。

【国際公開番号】WO2004/107867
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506806(P2005−506806)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007918
【国際出願日】平成16年6月1日(2004.6.1)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】