説明

冷却水温度制御装置

【課題】空調機側の熱負荷上昇等の原因で、冷凍機の入り口温度と出口温度の差が低下した場合でも、冷却水ポンプの運転を最適化し、電力を削減することを可能とする冷却水温度制御装置を実現する。
【解決手段】空調システムの還冷水を冷却するための冷凍機に対し、インバータ制御される冷却水ポンプを介して冷却塔より循環送水される冷却水の温度を適正値に制御する冷却水温度制御装置において、
前記冷凍機から前記冷却塔に戻される前記冷却水の還温度を、前記インバータの操作により制御するコントローラと、
前記冷却塔から前記冷却水ポンプを介して前記冷凍機に入力される前記冷却水の往温度と、前記還温度との差を演算する往還温度差演算手段と、
演算された往還温度差に基づいて前記コントローラの適正な設定値を演算する設定値演算手段と、
を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
空調システムの還冷水を冷却するための冷凍機に対し、インバータ制御される冷却水ポンプを介して冷却塔より循環送水される冷却水の温度を適正値に制御する冷却水温度制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷凍機で冷却された往冷水を送りヘッダを介して空調機に入力し、空調機から出力される還冷水を戻りヘッダを介して冷凍機に循環させる空調システムにおいて、送りヘッダの往冷水圧力を還冷水の流量に基づいて最適に制御する、空調システム本体の制御装置は特許文献1に技術開示がる。
【0003】
本発明の主題は、還冷水を冷却するための冷凍機に着目し、冷却塔より冷凍機に循環送水される冷却水の温度を適正値に制御して、冷却水ポンプの搬送動力を削減することにより、省エネ運転に貢献できる冷却水温度制御装置を提供することにある。
【0004】
本発明の適用範囲は、セントラル空調方式で冷凍機1台につき冷却塔が1台配管されており、冷却水ポンプにより冷却塔からの冷却水が冷凍機に循環送水され、冷却塔出口温度による冷却塔ファンの制御及び冷却水のバイパス制御が正常に機能していることを前提としている。
【0005】
図4は、従来の冷却水温度制御装置の構成例を示す機能ブロック図である。空調システム本体の構成は、冷凍機1で冷却された往冷水を送りヘッダ2を介して空調機3に入力し、空調機3から出力される還冷水を戻りヘッダ4を介して冷凍機1に循環させている。
【0006】
冷却塔6は、冷却水ポンプ7を介して冷却水を冷凍機1に循環送水している。冷却塔6はファン8により空冷され、ファン8のモータはインバータ9で回転制御されている。コントローラ10は、温度センサ11による冷却塔出口温度測定値PV1が温度設定値SV1となるように操作値MV1をインバータ9に出力している。冷却塔ファンを制御することで冷却塔ファンのモータ電力の削減を行うことができる。
【0007】
往冷却水管路と還冷却水管路間にはバイパス弁12が設けられている。コントローラ13は、温度センサ14によるバイパス弁12より下流での冷却塔出口の温度測定値PV2が温度設定値SV2となるように操作値MV2をバイパス弁12に出力し、PV2がSV2より低下するとバイパス弁12を開き、冷却水温度が下がりすぎないように制御する。
【0008】
冷却水ポンプ7の回転数は、回転数を規制するインバータ15の周波数により制御される。インバータ15の制御形態は、冷凍機1の負荷状態出力信号による変流量制御を実行するA制御ループと、コントローラ16の操作値MV2によるB制御ループの2種類がある。
【0009】
A制御ループでは、冷凍機1より負荷状態出力信号D0を出力し、例として高負荷時はインバータ周波数を100%、低負荷時はインバータ周波数を60%等に切り替える。負荷にあわせて冷却水ポンプ7の回転数を変更することで省エネ運転を行う
【0010】
B制御ループでは、コントローラ16は、冷凍機1から冷却塔6に出力される冷却水出口の温度センサ17の温度測定値PV3が設定値SV3となるように操作値MV3をインバータ15に出力し回転数を制御する。
【0011】
温度測定値PV3が高くなる(空調機側の熱負荷が増え、熱交換された熱量が増加する)と、インバータ15の回転数を上げて冷却水の熱量を増加させる。熱負荷が少ない時は回転数が下がるので、省エネ運転を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−106731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の冷却水温度制御装置では、次のような問題がある。
(1)A制御ループを採用する場合:
冷却水ポンプ15は2段階の周波数切り替えしか持たないため、冷凍機1の負荷に合わせてリニアには対応できない。このために、冷却水ポンプ15の使用電力に無駄が発生する。
【0014】
(2)B制御ループを採用する場合:
冷凍機1の負荷に応じてリニアに冷却水ポンプ15の変流量制御を行うので、A制御ループのような無駄はかなり改善される。しかしながら、冷却塔6の仕様を超えて空調機側の熱負荷が高くなると、冷却塔出口温度PV1、PV2は、コントローラ10、13の設定値SV1、SV2より高くなる。この結果、冷凍機1への往冷却水の入り口温度が上昇し、還冷却水の出口温度の設定値SV3との差が無くなり、冷凍機効率は低下して空調機の冷房効果が得られなくなる。
【0015】
(3)断熱効果の高い建築物の場合、冬でも冷房を行うケースがある。このような場合、空調側の熱負荷は小さいので、冷凍機1での冷却水の熱交換量が小さくなる。この結果、冷凍機1の出口温度は低下する。従って、コントローラ16の操作値MV3は最低値になるが、これでも冷却水出口温度PV3が設定値SV3に満たない場合は、冷却水ポンプ15の電力が無駄となる。
【0016】
(4)冷却塔の放熱フィンが汚れで詰まった場合:
冷却塔6の放熱フィンが汚れ等で詰まった場合、メンテナンスが必要であるが、そのまま放置されているケースも多い。放熱フィンが詰まると冷却水の水量が減り、冷却塔6の出口温度は上昇する。この結果、(2)と同じ現象が起こる。
【0017】
本発明の目的は、空調機側の熱負荷上昇等の原因で、冷凍機の入り口温度と出口温度の差が低下した場合でも、冷却水ポンプの運転を最適化し、電力を削減することを可能とする冷却水温度制御装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1)空調システムの還冷水を冷却するための冷凍機に対し、インバータ制御される冷却水ポンプを介して冷却塔より循環送水される冷却水の温度を適正値に制御する冷却水温度制御装置において、
前記冷凍機から前記冷却塔に戻される前記冷却水の還温度を、前記インバータの操作により制御するコントローラと、
前記冷却塔から前記冷却水ポンプを介して前記冷凍機に入力される前記冷却水の往温度と、前記還温度との差を演算する往還温度差演算手段と、
演算された往還温度差に基づいて前記コントローラの適正な設定値を演算する設定値演算手段と、
を備えたことを特徴とする冷却水温度制御装置。
【0019】
(2)前記設定値演算手段は、前記往還温度差と前記還温度の基準設定値とを入力し、前記設定値を、前記往還温度差の値に応じて前記基準設定値以上の値から前記基準設定値以下の値に連続的にまたはステップ的低下させることを特徴とする(1)に記載の冷却水温度制御装置。
【0020】
(3)前記設定値演算手段は、前記往還温度差が適正値の範囲を不感帯として、前記設定値を前記基準設定値に固定して出力させることを特徴とする(2)に記載の冷却水温度制御装置。
【0021】
(4)前記コントローラの操作出力は、前記冷却水ポンプの回転数を規制する前記インバータの周波数を制御することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の冷却水温度制御装置。
【0022】
(5)前記冷凍機と前記冷却塔は、複数組が並列稼動することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の冷却水温度制御装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、冷却水の往還温度差ΔTに基づく最適温度設定値により還冷却水の温度制御を実行することにより、次のような効果を期待することができる。
(1)往還温度差ΔTが適正値の範囲では、基準設定値により冷却水ポンプの回転を制御して省エネ運転を実現できる。
【0024】
(2)冷却塔の出力温度が上昇し、冷却水の往還温度差ΔTが基準設定値より高い設定値により冷却水ポンプの回転を制御してΔTを適正に保つことで省エネ運転を実現できる。
【0025】
(3)空調側の熱交換量の減少で熱負荷が減少し、冷却水の往還温度差ΔTが小さくなった場合でも、基準設定値より高い設定値により冷却水ポンプの回転を制御してΔTを適正に保つことで省エネ運転を実現できる。
【0026】
(4)空調側の熱交換量の増加で熱負荷が増加し、冷却水の往還温度差ΔTが大きくなった場合では、基準設定値より低い設定値により冷却水ポンプの回転を制御する。PV値とSV値の差が大きく設定されることで、従来のB制御ループよる変流量制御より応答を早くすることができる。
【0027】
(5)冷却塔6のファン制御がオンオフ制御の場合、冷凍機への冷却水の入り口温度が大きく変動し、これに伴い冷却水の往還温度差ΔTも大きく変動するが、ΔTの値に応じた適正設定値により冷却水ポンプの回転を制御することでΔTを適正に保つことができ、省エネ運転を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用した冷却水温度制御装置の一実施例を示す機能ブロック図である。
【図2】最適温度設定値演算部の構成例を示す機能ブロック図である。
【図3】設定値演算手段の演算例を示す特性図である。
【図4】従来の冷却水温度制御装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明を適用した冷却水温度制御装置の一実施例を示す機能ブロック図である。図4で説明した従来装置と同一要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0030】
従来装置の構成に追加された本発明の特徴部は、コントローラ16に最適な温度設定値を与える最適温度設定値演算部100及び冷凍機1入り口の往冷却水温度を測定する温度センサ200である。
【0031】
最適温度設定値演算部100は、冷凍機1出口の還冷却水温度を測定する温度センサ17の測定値PV3及び温度センサ200の測定値PV4並びに基準温度設定値SVrを入力し、最適温度設定値SVxを算出してコントローラ16に出力する。
【0032】
図2は、最適温度設定値演算部の構成例を示す機能ブロック図である。最適温度設定値演算部100は、往還温度差演算手段101と、設定値演算手段102とを備える。往還温度差演算手段101は、温度センサ16による還冷却水の温度測定値PV3と、温度センサ200による往冷却水の温度測定値PV4を入力し、往還温度差ΔT=PV3−PV4を演算して設定値演算手段102に渡す。
【0033】
設定値演算手段102は、往還温度差ΔTの信号値と還温度の基準設定値SVrを入力し、コントローラ16に出力する設定値SVxを演算する。この実施例での演算は、往還温度差ΔTの信号値に応じて、基準設定値SVr以上の値から基準設定値SVr以下の値に連続的またはステップ的に低下させる。
【0034】
更に、設定値演算手段102は、往還温度差ΔTが適正値の範囲内であれば、この範囲を不感帯として、コントローラ16に出力する設定値SVxを、基準設定値SVrに固定して出力する。
【0035】
図3は、設定値演算手段102の演算例を示す特性図である。この特性では、往還温度差ΔTが4℃から6℃の範囲を適正範囲とし、これを不感帯として基準設定値SVrとして設定されている温度37℃を設定値SVxとして出力する。
【0036】
往還温度差ΔTが4℃から2℃まで減少したときには、設定値SVxを37℃から温度39℃まで比例的に増加させて出力する。往還温度差ΔTが6℃から8℃まで増加したときには、設定値SVxを37℃から温度35℃まで比例的に減少させて出力する。
【0037】
以下、図3の特性に基づいて本発明の動作例を説明する。
(1)冷却水の往還温度差ΔTが適正範囲の場合:
冷却水入り口温度(PV4)が32℃、冷却水出口温度(PV3)が37℃の場合、往還温度差ΔT=5℃となり、設定値SVxは、基準設定値SVrに固定されて37℃となる。冷凍機1は適正な往還温度差が得られているため、効率の高い状態で運転される。
【0038】
(2)往還温度差ΔTが小さい場合:
冷却塔6の出口温度が上昇し、冷却水入り口温度(PV4)が35℃、冷却水出口温度(PV3)が37℃となった場合、往還温度差ΔT=2℃となる。このとき設定値SVxは、39℃となる。その結果、冷凍機1入り口温度と還温度の設定値との差は4℃となり、冷凍機1の往還温度差ΔTは適正に保たれるので、冷凍機1は高効率で運転される。
【0039】
(3)空調側熱負荷が小さい場合:
冷凍機1の熱交換量が減って冷却水の出口温度(PV3)が低下しても、冷却水の往還温度差ΔTを一定の幅に収まるように制御しているため、従来装置のB制御ループのような冷却水ポンプ7の電力の無駄は低減される。
【0040】
(4)往還温度差ΔTが大きい場合:
空調機側の熱負荷が上昇し、冷凍機1での冷却水熱交換量が増えたとする。冷却水の入り口温度(PV4)が32℃、冷却水の出口温度(PV3)が40℃とする。冷却水の往還温度差ΔT=8℃となり、設定値SVxは、35℃となる。PV値とSV値の差が大きく設定されるので、従来装置のB制御ループのように冷却水の出口温度のみによる変流量制御に比較して応答を早くすることが可能となる。
【0041】
(5)冷却塔6のファン8がオンオフ制御される場合:
ファンが回転している/していないで、冷却水の入り口温度(PV4)は大きく変化するため、冷却水の往還温度差ΔTも大きく変動する。ΔTの値に応じた適正設定値により冷却水ポンプ7の回転を制御して往還温度差ΔTを適正に保つことで冷凍機への冷却水温度を安定させ、省エネ運転を実現することができる。
【0042】
以上説明した実施例では、簡単のため1台の冷凍機と1台の冷却塔のペア構成を示したが、冷凍機と冷却塔の複数組が並列稼動する形態でも各組に本発明を適用することができる。
【0043】
図3の特性は、冷却水の往還温度差ΔTの信号値に対して設定値SVxを比例的に連続減少させているが、ステップ的に変化させてもよい。また非直線的に変化する特性であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 冷凍機
2 送りヘッダ
3 空調機
4 戻りヘッダ
5 冷水ポンプ
6 冷却塔
7 冷却水ポンプ
8 ファン
9 インバータ
10 コントローラ
11 温度センサ
12 バイパス弁
13 コントローラ
14 温度センサ
15 インバータ
16 コントローラ
17 温度センサ
100 最適温度設定値演算部
200 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調システムの還冷水を冷却するための冷凍機に対し、インバータ制御される冷却水ポンプを介して冷却塔より循環送水される冷却水の温度を適正値に制御する冷却水温度制御装置において、
前記冷凍機から前記冷却塔に戻される前記冷却水の還温度を、前記インバータの操作により制御するコントローラと、
前記冷却塔から前記冷却水ポンプを介して前記冷凍機に入力される前記冷却水の往温度と、前記還温度との差を演算する往還温度差演算手段と、
演算された往還温度差に基づいて前記コントローラの適正な設定値を演算する設定値演算手段と、
を備えたことを特徴とする冷却水温度制御装置。
【請求項2】
前記設定値演算手段は、前記往還温度差と前記還温度の基準設定値とを入力し、前記設定値を、前記往還温度差の値に応じて前記基準設定値以上の値から前記基準設定値以下の値に連続的またはステップ的に低下させることを特徴とする請求項1に記載の冷却水温度制御装置。
【請求項3】
前記設定値演算手段は、前記往還温度差が適正値の範囲を不感帯として、前記設定値を前記基準設定値に固定して出力させることを特徴とする請求項2に記載の冷却水温度制御装置。
【請求項4】
前記コントローラの操作出力は、前記冷却水ポンプの回転数を規制する前記インバータの周波数を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の冷却水温度制御装置。
【請求項5】
前記冷凍機と前記冷却塔は、複数組が並列稼動することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の冷却水温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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