説明

冷蔵庫インテリアライナー

【課題】ゴム改質モノビニル芳香族ポリマー組成物から成る冷蔵庫インテリアライナー。高耐衝撃性モノビニル芳香族ポリマーの製造方法。
【解決手段】(a)平均分子量Mwが150,000g/mol以上であるモノビニル芳香族ポリマーマトリクス、(b)上記マトリク中に分散したゴム粒子であって、当該粒子は体積平均粒子寸法(RPS体積)が約8.5マイクロメートルであり、ショルダー(肩部)を有しない単峰分布を有し、膨張指数(SI)が約13.8以上であることで表される上記ゴムの架橋度が低〜中間であり、ゴム相体積成分(RPVF)が少なくとも39%であり、(c)メタノール可溶分の重量成分として定義される平均的な量の低Mwの可塑剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ABS(アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン)やHIPS(耐衝撃性ポリスチレン)などのゴム変性ポリマー組成物からなる冷蔵庫インテリアライナー(裏地)に関するものである。
本発明で「冷蔵庫」とは(i)約4℃の温度のコンパートメント(区画)と、−18℃、さらに約−30℃程度まで低い温度のコンパートメントと有する装置、あるいは(ii)−18℃、さらには約−30℃程度までの低い温度のコンパートメントとを有する装置(冷凍庫)を意味する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫のライナーの片側は冷蔵庫インテリアの食べ物と接触し、他面は発泡断熱材と接触する。この発泡断熱材は一般にライナーに環境応力亀裂(ESCR)を生じさせる発泡剤からなるポリウレタンフォームである。ESCRとは、比較的に低い張力環境下で材料に生じる亀裂である。発泡剤は応力白化および/または溶解のみならず、ライナーに水疱を形成したり、致命的な亀裂または小さな亀裂(ひび割れ)、衝撃特性(脆化)をもたらす。
【0003】
以下に関連する先行技術を示す。
特許文献1には、ABS又はHIPSを含む冷蔵庫が記載されているが、そのライナーはポリウレタンフォームと対向する側のバリヤー層からなり、このバリヤー層は0〜40重量%のポリマーゴムブロックを含むエチレンまたはプロピレンのポリマー又はコポリマーから成る。
【0004】
特許文献2に記載の発明は上記特許文献1と類似するが、ポリウレタンフォーム発泡剤の反応を防ぐバリヤー層の組成物は、有効量の無水マレイン酸、マレイン酸、無水マレイン酸誘導体、マレイン酸誘導体あるいはこれらの混合物等の組成物で改質したポリエチレンと、有効量のゴムとを含んで入いる。バリヤー層の組成物はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、あるいはこれらの混合物を含むことができる。
【0005】
他の先行技術はゴム改質モノビニル芳香族ポリマーに関するもので、冷蔵庫を直接の対象とするものではないが、冷蔵庫を含む多くの用途に関連すると思われる。
【0006】
特許文献3には(a)モノビニリデン芳香族ポリマーマトリクスと(b)前記(a)中に分散させたゴム粒子とを含むゴム改質モノビニル芳香族ポリマーが記載されている。ゴム粒子はポリマー骨格中の炭素原子10000個あたりの長鎖分岐が1以下であり、溶液粘度は5cPoise〜1000cPoise、ムーニー粘度は5〜120で、実質的に直鎖構造を有するジエン系ゴムから製造される。
【0007】
ゴム粒子は大小の粒子の形で分散しており、小粒子の体積平均粒子直径は約0.1〜0.2マイクロメートルであり、大粒子の体積平均粒子直径は約2〜6マイクロメートルである。冷蔵庫及び冷凍庫を含む多くの用途に言及している。
【0008】
特許文献4には(a)モノビニリデン芳香族ポリマーマトリクスと(b)前記(a)中に分散したゴム粒子とを含むゴム改質モノビニリデン芳香族ポリマーが記載されている。ゴム粒子は(I)高分子量成分と(II)低分子量成分を含むジエン系ゴムから製造され、高分子成分の重量平均分子量は低分子成分の重量平均分子量の2.5倍以上であり、低分子量成分は合計ゴム成分の約20〜80重量%である。成分(I)、(II)ともに70%以上の1,4シス体を有する。(III)前記ゴムは、開始剤中のグラフト促進剤を用いてグラフトされ、モノビニリデン芳香族ポリマーをグラフトされたゴムの総量は反転相で少なくともゴムの総量の30%である。
【0009】
ゴム粒子は大小の粒子の形で分散しており、小粒子の体積平均粒子直径は約0.1〜0.2マイクロメートルであり、大粒子の体積平均粒子直径は約2〜6マイクロメートルであり、小ゴム粒子が全ゴム中20〜80重量%である。冷蔵庫及び冷凍庫を含む多くの用途について言及している。
【0010】
特許文献5には(a)セル形またはコアシェル形またはこれらを混合した形態を有する体積平均粒子寸法が約0.1〜2マイクロメートルである星型または分岐した低粘度ゴムと、(b)星型または分岐した低粘度ゴムのゴム粒子、線状ジエン系ゴムの体積平均粒子寸法が約0.5〜10マイクロメートルであるブロックコポリマーゴムを含む、二峰性粒子寸法分布を有するゴム改質モノビニリデン芳香族ポリマーが記載されている。(b)のゴム粒子は(a)のゴム粒子よりもの密度が大きく、(a)のゴム粒子よりもモノビニリデン芳香族ポリマー体が小さいことを特徴とし、(a)の粒子は全ゴム量の50〜99重量%である。このゴム強化二峰性組成物は家庭用電化製品、小型家庭用器具、玩具、家具などの様々なものに適用できると記載されている。これらのポリマーは冷蔵庫のライナー用の共押出し技術を用いた光沢層の製造などの押し出し用途に用いられる。
【0011】
特許文献6には、モノビニリデン芳香族モノマーのポリマーからなる連続マトリクスと、任意成分のエチレン系不飽和ニトリルモノマーと、マトリクス中のバラバラに分散したゴム粒子とからなる塊状重合ゴム改質重合組成物が記載されている。前記ゴム粒子はラジカル重合の制御を可能にする1つのゴム分子当たり少なくとも1つの官能基を有する5〜100重量%官能性ジエン系ゴムを含むゴム組成物から得られる。この組成物はさらに、(a)体積平均粒子寸法が約0.15〜0.35マイクロメートルであり、(b)マトリクス相とゴム粒子の組み合わせの全体積に対し、全ゴム相体積が12〜45%であり、(c)ゴム粒子の体積平均粒子寸法が0.40マイクロメートルより大きいことで特徴付けられる、部分的ゴム相体積が2〜20%であり、(d)ゴム粒子の全重量に対し、架橋ゴム比が少なくとも85%である。
【0012】
これらのゴム改質ポリマーは、冷蔵庫のライナーや家庭用器具、玩具、自動車や家具の射出成形や熱成形を含む様々な用途に用いることができる。
【0013】
他の技術的課題は、局部的な急激な温度変化および/またはプラスチック材料に接触する食物や活性化学物質油脂の存在に起因するプラスチック原料の環境ストレス亀裂耐性である。
【0014】
冷蔵庫のライナーは化学物質への耐久性を有するようなプラスチックシート構造にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,221,136号明細書
【特許文献2】米国特許第5,834,126号明細書
【特許文献3】米国特許第6,706,814号明細書
【特許文献4】米国特許第6,545,090号明細書
【特許文献5】米国特許第6,441,090号明細書
【特許文献6】米国特許第7,115,684号明細書
【特許文献7】欧州特許第EP 1201693 A2号公報
【特許文献8】国際特許第WO 94 12551 A1号公報
【特許文献9】米国特許公開第2002-107339号明細書
【特許文献10】米国特許第6,613,831号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】T. H. Mourey and S. T. Balke, "A Strategy for Interpreting Multidetector Size- Exclusion Chromatography Data I: Development of a Systematic Approach,"Am. Chem. Soc. Symp. Ser., 521 , 180 (1993);
【非特許文献2】A. Rudin, "Measurement of Long-Chain Branch Frequency in Synthetic Polymers," in H. G. Barth and J. W. Mays (Eds.), Modern Methods of Polymer Characterization," John Wiley and Son s , New York, 1 991 ;
【非特許文献3】S . Pang and A. Rudin , "Size-Exclusion Chromatographic Assessment of Long-Chain Branch Frequency in Polyethylenes," Am. Chem. Soc. Symp. Ser. 521 , 254 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、化学的攻撃(例えば、ポリウレタンフォーミング剤による水疱や亀裂の形成)への耐性を有する熱成形可能なプラスチックシート材料から作られる冷却装置のライナーを提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的は、低温(-20℃以下)でも高強靱性(衝撃特性)及び高強度(引張特性)を有する熱成形可能なプラスチックシート材料から作られる冷却装置のライナーを提供することにある。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、HIPSやABSと類似する処理可能性(好適な押出形成条件及び類似の熱形成性質を含む)を有するプラスチックシート材料から作られるライナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記クライテリア(基準)の少なくとも一つに一致するゴム改質モノビニル芳香族ポリマー組成物から作られる冷蔵庫インテリアライナーを見出した。
そのポリマー組成物の主たる特徴は、(i) 大きい架橋ゴム粒子と単峰の粒子分布とを組合せ、(ii) ゴム相体積分率(RPVF)が少なくとも39%である点にある。RPS表面積に対するRPS体積によるゴム粒子寸法分布の幅は2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下であるのが好ましい。RPS体積とはゴムの体積平均粒子(median particle size)寸法を意味し、RPS表面積とはゴムの表面積平均粒子(median particle size)寸法を意味する。
【0021】
さらに、PS相の重量平均分子量は十分高い必要があり、ホワイトミネラルオイルやPSオリゴマーのような低分子量可塑剤の総濃度(global concentration)は低〜中間に保つ必要がある。
【0022】
本発明は上記ポリマーの製造方法にも関する。HIPSの製造方法は当業者に周知であり、溶解ゴムの存在下でスチレンモノマーの重合する。スチレンと任意成分のコモノマーの重合は加熱及び/又は開始剤(例えばラジカル開始剤)により開始される。ゴムはスチレンモノマー中に「溶解」する(実際にはゴムがモノマーで十分に膨潤される)。HIPの製造に用いられる通常のゴムのタイプにはポリブタジエン(PB)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンブタジエンスチレンゴム(SBS)が含まれる。最初にポリスチレンをスチレンの均一ゴム溶液中でスチレンモノマーから形成する。重合の最初には反応溶液はゴム/スチレン逆転温度(すなわち、溶液が反応する温度がゴム/スチレンモノマーマトリクス中のポリスチレン粒子からポリスチレンマトリクス中のゴム粒子に移行する温度)には達しない。重合度が系中のゴムの重量%とほぼ等しいときに反転する(すなわち、スチレン/スチレンポリマー相が連続相になり、ゴム相が非連続になる)。スチレンはゴム粒子の周囲あるいはゴム粒子中で重合し、ゴム粒子中でポリスチレン内包物となる。スチレンの一部はゴム上でグラフト重合し、他の一部は共重合する(「非グラフト」重合という)。HIPSではスチレンの一部をスチレンと共重合できる不飽和モノマー(例えば、他のモノビニル芳香族モノマー、アクリル又はメタクリル酸のアルキルエステル、アクリロニトリル)により置換できる。「グラフト」及び「非グラフト」はスチレンコモノマー中で起こる。すなわち、スチレンの一部及びコモノマーの一部が共重合する。HIPSの特性はゴム粒子中のポリスチレンの他に、ゴムの量、ゴムのタイプ、ゴム粒子寸法分布、及び体積分率にも関連する。スチレンとグラフトされた(「グラフト」により重合した)任意成分のコモノマーの割合はゴムの官能化に関連する。ゴム改質ビニル芳香族ポリマー組成物は先行文献で公知であるが、十分に安定した物理特性を得るための組成物の微調整には依然としてノウハウの部分が残っている。相のレオロジー的挙動は別として、典型的には従来のラジカルHIPS過程中にイン・サイチュで生じるゴム相のグラフトの制御が難しい。実際にはゴム相グラフトは有機過酸化物の添加、熱分解による好ましくはH−引き抜きラジカル、適切な半減期温度及び反応温度設定を用いて調整される。しかし、HIPS製造中の上記イン・サイチュでのゴムグラフトは本質的にはランダム反応である。
【0023】
本発明の製造方法の主たる特徴は、グラフト開始剤、基本的に直鎖構造の粘着性ゴムと、相反転前の連鎖移動剤の使用である。さらに、上述の通り、本発明の製造方法はバッチ式あるいは連続重合条件下で単一または複数の反応器内で、好ましくは所定逆混合条件下で相反転反応器内−すなわち、相反転が起こる反応器内−およびその前後の反応器内で、上記反応器間の戻りフローを制限して行われる。
【0024】
特許文献7には類似の食品容器及び冷蔵庫のトレイが記載されているが、ライナーについての記載はない。さらに、特許文献7は、断熱性発泡剤を用いているため、ライナーのESCRについての言及は一切ない。
【0025】
特許文献8には、十分なESCR特性、及びより製造者が使用する薄いシート材(例えば冷蔵庫のライナー)の製造に必要な改善された物理特性を有するライナーの製造コストを減らすことができる耐衝撃性スチレンポリマーについての記載がある。しかし、この組成物は、体積平均粒子寸法が4ミクロンよりも大きく、溶融強度が4.5グラムよりも大きい。ゴムには特定の条件はなく、幅広いゴム粒子寸法分布についても言及されていない。
【0026】
本発明は、以下の(a)〜(c)を含むゴム改質モノビニル芳香族ポリマー組成物で作られた冷蔵庫インテリアライナーにある:
(a)平均分子量Mwが150,000g/mol以上であるモノビニル芳香族ポリマーマトリクス、
(b)上記マトリク中に分散したゴム粒子であって、当該粒子は体積平均粒子寸法(RPS体積)が約8.5マイクロメートルであり、ショルダー(肩部)を有しない単峰分布を有し、膨張指数(SI)が約13.8以上であることで表される上記ゴムの架橋度が低〜中間であり、ゴム相体積成分(RPVF)が少なくとも39%であり、
(c)メタノール可溶分の重量成分として定義される平均的な量、例えば、c/(a+b+c)の重量比が0〜5%の範囲であるの低Mwの可塑剤。
【0027】
本発明はさらに、下記(a)〜(d)の段階を含む高耐衝撃性モノビニル芳香族ポリマーの製造方法にも関するものである:
(a)少なくとも一種のモノビニル芳香族モノマーと一種以上の任意成分のコモノマーとを含む重合可能な混合物を形成する段階、
(b)基本的に1種以上の直鎖構造の粘着性ゴムを上記重合可能な混合物中に溶解して重合可能なゴム含有溶液を得る段階、
(c)相反転が生じる条件下で、上記重合可能な混合物を遊離ラジカル開始剤および連鎖移動剤と接触させる段階(ここで、連鎖移動剤は相相反転反応器内でPS相に対するゴムの割合を増加させることができるものである)、
(d)必要に応じて遊離ラジカル開始剤の存在下で上記段階(c)で得た溶液の重合を継続して、ゴム粒子が内部に分散したモノビニル芳香族ポリマーマトリクスを得る段階。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】は把持サンプルを曲げた時の図。
【図2】は生成物の体積RPS分布を示す図。
【図3】はESCR耐性の経時変化を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
必要に応じて、(d)の生成物を脱気して、任意成分の未重合モノマーおよびコモノマーと任意成分の希釈剤とを分離して、高耐衝撃性のモノビニル芳香族ポリマーを回収する段階をさらに加えることもできる。
連鎖移動剤を用いて相反転反応器内での剪断率を小さくするのが有利である。それによって、大きなゴム粒子を均一に分布させることができる。
【0030】
本発明の枠組みでの原則として線形構造ゴムはムーニー(Mooney)粘度に対するSVの比が2.8以上、好ましくは3.3以上であることを特徴とする。
【0031】
ゴムのMwは100,000〜500,000、好ましくは280,000〜360,000g/molの範囲であることが好ましい。ゴムの多分散性指数は2.1〜2.5、好ましくは2.1〜2.3の範囲にあるのが好ましい。ゴム分子量は従来の寸法排除クロマトグラフィー技術により測定することができる。ここではそれをPS相当物という。すなわち、イソ(iso)PS分子サンプルを較正基準として用いる。
【0032】
本発明に適したゴムの溶液粘度(SV)は5.43重量%トルエンまたはスチレン中での測定値で50〜1000センチポアズ、好ましくは100〜500、さらに好ましくは120〜250センチポアズである。本発明に特に適したゴムのMoody粘度(ML4+1、100℃)は5〜120、好ましくは10〜100、より好ましくは30〜60である。
【0033】
ライナーの製造に用いる改質モノビニル芳香族ポリマー組成物のメルトフローインデックスはISO 1 133(5kg荷重、200℃)で2〜10、より好ましくは2〜7、さらに好ましくは2.5〜6、さらにより好ましくは2.5〜5であるのが好ましい。
【0034】
本発明はさらに、下記(a)〜(d)の段階を含む、高耐衝撃性モノビニル芳香族ポリマーの製造方法にも関するものである:
(a)少なくとも一種のモノビニル芳香族モノマーと、一種以上の任意成分のコモノマーとを含む重合可能な混合物を形成する段階と、
(b)1種以上の基本的に線形構造の粘着性ゴムを重合可能な混合物中に溶解してゴム含有重合可能溶液を得る段階と、
(c)上記重合可能な混合物を、相反転が生じる条件下で、遊離ラジカル開始剤と連鎖移動剤と接触させる段階(ここで、連鎖移動剤は、相反転反応器内で、PS相に対するゴムの割合を増加させることができるものである)と、
(d)必要に応じて遊離ラジカル開始剤の存在下で、上記段階c)で得た溶液の重合を継続して、分散したモノビニル芳香族ポリマーマトリクスを得る段階。
【0035】
必要に応じて、(d)の生成物を脱気して任意成分の未重合モノマーおよびとコモノマーと任意成分の希釈剤を分離して、高耐衝撃性のモノビニル芳香族ポリマーを回収する段階を加えることもできる。
【0036】
連鎖移動剤を用いることで相反転反応器内での剪断速度に対するゴム粒子の感度を下げるのが有利である。その結果、大きいゴム粒子を均一に分布させることができる。
【0037】
本発明に適したモノビニル芳香族ポリマーはビニル芳香族モノマーの重合で得られるものである。モノビニル芳香族モノマーはビニル機能を有する任意の芳香族化合物にすることができる。例としてはスチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、メチル-4-スチレン、メチル-3-スチレン、メトキシ-4-スチレン、ヒドロキシメチル-2-スチレン、エチル-4-スチレン、エトキシ-4-スチレン、ジメチル^3,4-スチレン、クロロ-2-スチレン、クロロ-3-スチレン、クロロ-4-メチル-3-スチレン、tert-ブチル-3-スチレン、ジクロロ-2,4-スチレン、ジクロロ-2,6-スチレン、ビニル-1-ナフタレン、ビニルアントラセンが挙げられる。2種以上のモノビニル芳香族モノマーを用いることも本発明の範囲内である。モノビニル芳香族モノマーの一部をスチレンと共重合可能な不飽和モノマーと置換してもよい。その例としてはアクリルまたはメタクリル酸のアルキルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルがある。コモノマーの割合はモノビニル芳香族モノマー100〜50%に対し、0〜50重量%にすることができる。
【0038】
本発明の特定実施例は(i)60〜100重量%の一種以上の炭素数8〜12のモノビニル芳香族モノマーと、(ii)0〜40重量%のアクリルまたはメタクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステル一種以上のモノマーとからなるモノビニル芳香族ポリマーである。このポリマーはゴム改質モノビニル芳香族ポリマーの全重量に対して約2〜20重量%、好ましくは3〜17重量%、より好ましくは3〜15重量%にすることができる。
【0039】
Mwの範囲は150,000〜250,000g/mol、好ましくは160,000〜190,000、より好ましくは160,000〜170,000g/molである。多分散性指数(Mw/Mn比)は、例えば2.2〜3、好ましくは2.4〜2.7である。
【0040】
実施例では、Mwの範囲は150,000〜170,000g/mol、好ましくは150,000〜160,000g/molである。
【0041】
他の実施例では、Mwの範囲は180,000〜220,000g/mol、好ましくは190,000〜210,000g/molである。
【0042】
本発明の実施に適したゴムは、例えばASTM試験法D-746-52T等の従来技術を用いて決定あるいは近似される二次の遷移温度が約0℃以下、好ましくは-50℃以下、さらに好ましくは-70℃以下のポリマーやコポリマーを挙げることができる。
【0043】
ゴムは例えば以下の群の中から選択できる:
(a)炭素数4〜6の共役ジオレフィンのコポリマー及びホモポリマー、
(b)60〜85重量%の、炭素数4〜6の共役ジオレフィン及びアクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群から選択される、15〜40重量%のモノマーを含むコポリマー、
(c)20〜60重量%、好ましくは40〜50重量%の、未置換または炭素数1〜4のアルキルラジカルで置換された一種以上の炭素数8〜12のビニル芳香族モノマーと、60〜40重量%、好ましくは60〜50重量%の、炭素数4〜6の共役ジオレフィンの群の中から選択される一種以上のモノマーとを含むコポリマー。ゴムは種々の方法で製造できるが、エマルジョン重合または溶液重合が好ましい。これらの方法は当業者に周知である。
【0044】
ゴムにはアルカジエンが特に好ましい。アルカジエンにはブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ピペリレン等の1,3-共役ジエンが好ましい。最も好ましいのは、1,3-共役ジエンから作られるホモポリマー(ただしカップリングモノマーは除く)、特に1,3-ブタジエンが特に好ましい。例えば15重量%、好ましくは10重量%の少量の他のモノマー(例えばモノビニリデン芳香族)を含むアルカジエンコポリマーゴムを用いることができるが、ゴムは以下に示す条件を満たす必要がある。ゴムは少なくとも30%のシス体を含む1,3-ブタジエンの直鎖ホモポリマーが最も好ましい。本発明に好適なゴムは当業者に周知のイオン重合またはZegler-Natta重合で作ることができる。これらの方法は例えば特許文献9に開示されている。その内容は本明細書の一部を成す。
【0045】
本発明に用いるのに好適なゴム材料は本質的に直鎖のゴムであるのが好ましい。本質的な直鎖のゴムとは例えば多量の長鎖分岐を有しないゴムである。これらのゴムは一般にポリマー骨格中に10,000炭素原子あたり一つ以下の長鎖分岐しか有さない。これらのゴムは、HIPS及びABS樹脂に最適な分子量の範囲を有していなければならない。ポリブタジエンゴムの微細構造は種々の量の1,2−ビニル1およびび4−シス、及び1,4−トランスを含む従来の任意タイプにすることができる。ゴム中の分岐のレベルは非特許文献1〜3に詳述され、当業者に周知の技術で容易に決定できる。ゴム鎖の分岐率を調べる他の手段は100℃でのゴム溶液粘度/ムーニー(Mooney) ML1+4比を調べることである。この割合が低ければ低いほど、ゴム鎖分岐が多いことになる。本発明で推奨される本質的に直鎖構造のゴムはムーニー粘度に対するSVの比が2.8以上、好ましくは3.3以上であることを特徴とする。
【0046】
ゴムのMwの好ましい範囲は100,000〜500,000、好ましくは280,000〜360,000g/molである。ゴムの好ましい多分散性指数の範囲は2.1〜2.5、好ましくは2.1〜2.3である。ゴムの分子量は公知の寸法排除クロマトグラフィー技術で測定できる。ここではそれらをPS相当物という。すなわち、イソ(iso)PS分子サンプルを較正基準として用いる。
【0047】
本発明に特に適したゴムは5.43重量%のトルエンまたはスチレン中で測定したときの溶液粘度(SV)が50〜1000センチポアズ、好ましくは100〜500センチポアズ、より好ましくは120〜250センチポアズである。本発明に特に適したゴムのMoody粘度(ML4+1、100℃)は5〜120、好ましくは10〜100、さらに好ましくは30〜60である。
【0048】
使用するゴムの量は、ゴム強化ポリマー生成物がゴム改質モノビニル芳香族ポリマー総重量中、2〜20重量%、好ましくは3〜17重量%、より好ましくは3〜15重量%のゴムを含むようにするのが好ましい。
【0049】
ゴム粒子のゴム相の体積分率(RPVF)及び膨張指数(SI)については、これらパラメタの計算方法を説明する。以下の計算方法では単純化のためにゴム改質モノビニル芳香族ポリマー組成物はHIPSという。
【0050】
ゴム相の体積分率はゴム分散相を特徴付けるキーとなるパラメタであり、動的機械分析装置(DMA)データを用いて算出する。ゴム相の体積はゴム粒子または不連続相に関連し、ゴム、封入ポリスチレン(オクルージョン)、グラフトされたポリスチレンを含む。
【0051】
ケルナーのモデル(Kerner, E. H., Proc. Phys. Soc. 69, 808, 1956)及びその簡易版によって、リジッドな連続相に分散する球状の軟質粒子から得られる混合物の係数が研鑚できる。HIPSへのゴム粒子の分散を説明するにはハッシングモデル(Hashin, Z., ASME J. Appl. Mechanics, 29(1), 143-150, 1962)が特に適している。RPVFは以下の2つの温度でDMAで測定したストックモジュラスのプラトー値を用いるハッシングモデルで計算する:
(1)Tiはゴムのガラス遷移温度より十分に低い(Ti< Tgゴム);
(2)T2はゴムとポリスチレンのガラス遷移温度の間の適切な温度に対応する(Tg ゴム< T2< Tg PS)。ストックモジュラスG'は一定である。T2は−30℃〜+30℃の間の適切な温度を選択するのが好ましい。
【0052】
DMAの測定は圧縮成形サンプルで捩じり形でARES(TA Instruments社)レオメータを用いて行った。
【0053】
HIPS材料の製造ではRPVF%/ゴム比が重要である。すなわち、これは本発明方法の「ゴム使用効率」すなわち同等の製品品質を得るために必要なゴム量を表す。好ましい性質を有するHIPS材料の製品を得るのに必要なゴム量が少ないほど本製造方法は効率的になる。
【0054】
膨張指数(SI)は室温(25℃)でHIPSをトルエンに溶解して計測した。遠心分離で不溶性ゲル相を分離した後に、膨張ゲルの重量を測り、真空乾燥し、乾燥ゲルの重量を得た。膨張指数は乾燥ゲルに対する膨張ゲルの重量の割合であり、ゴム層の架橋率を測定している。膨張指数はゴムの架橋率を示す共通のパラメタである。膨張指数が高いほど、ゴム層の架橋レベルは低い。ポリマー試料の初期重量に対する乾燥ゲルの重量比と定義されるゲル含有量(あるいは軟質不溶性物質ゴム重量分)は、ゴム層架橋とグラフト両方の指標となる。
【0055】
ゴムの割合(%)はHIPS中のゴム総量であり、周知の一塩化ヨウ素(I-CL)滴定法によって測定される。好ましい性質を得るのに必要なHIPS材料が少ないほど本方法の効率は高い。
【0056】
RPVFは少なくとも39%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも42%、さらに好ましくは少なくとも45%である。
【0057】
SIは14以上、好ましくは16以上であるのが好ましい。
【0058】
ここで用いたゴム粒子の寸法は、ゴム粒子中のマトリクスポリマーの全ての閉塞(occlusions)を含んだ最終生成物中で測定されるゴム粒子の直径である。この閉塞(occlusions)は通常はゴム(塊状重合技術を用いて生成された強化ゴム)の分散ゴム粒子中に存在する。異なるグループのゴム粒子の形態については、周知のように、小さい粒子ほど典型的にコアシェル形態(単一の、かつ広範な閉塞)または細胞形態(複数かつ小さい閉塞)を有する。
【0059】
体積平均(median)粒子寸法(RPS体積でも表される)は体積(三次モーメント)での度数分布を半分に分割する粒子直径であり、ゴム体積の50%が大直径の粒子で、50%が少直径である。同様に表面平均(median)寸法(RPS表面でも表される)は表面積(二次モーメント)での度数分布を半分に分割する粒子直径であり、ゴム体積の50%が大直径の粒子で、50%が少直径である。モードとは分布で最も頻繁に生じる値を表す。粒子寸法分布ではモードは最も頻度が高い値を表す。
【0060】
本発明ではRPS体積は約8.5マイクロメートルである。RPS体積が約8.5マイクロメートルであるということは、7〜10マイクロメートルの範囲、好ましくは8.0〜9.0マイクロメートルの範囲にあることを意味する。単峰(モノモダル)な分布とは表面積及び体積の分布がいずれもショルダー(肩部)も横分布もないベル型であることを意味する。
【0061】
本発明の特定の実施例では、粒子寸法はさらに、RPS表面積が約6.5マイクロメートルであるという特徴も有する。RPS表面積が約6.5マイクロメートルであるということは、5〜8マイクロメートルの範囲、好ましくは5.2〜7.8マイクロメートルの範囲、さらに好ましくは5.5〜7.5マイクロメートルの範囲にあることを意味する。
【0062】
ゴム粒子の寸法分布は、RPS表面積に対するRPS体積の比から概算でき、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、最も好ましくは1.4以下である。
【0063】
可塑剤は、一般にメタノール中の可溶性分子で表され、その重量比c/(a+b+c)は0〜5%、より好ましくは1〜4.5%の範囲にあるのが好ましい。この可塑剤は、最終生成物の柔軟性を増加させ、成形や押出しを容易にするようにバルク重合体の融解粘度を減少させる成分であれば任意のものでよい。可塑剤としては例えば鉱物油または非鉱物油を用いることができる。「鉱物油」とは石油、典型的には石油の蒸留により得たガソリン由来の油を意味する。一般に鉱物油は複数(例えば数百の)異なる種類の炭化水素、主として直鎖又は分岐したアルカン(n-及びiso-パラフィン)の混合物である。「非鉱物油」とは一種以上のベジタブルオイル、エッセンシャルオイル、シリコンオイル、動物油を意味する。
【0064】
「ベジタブルオイル」とは基本的に植物油、特に植物の種子及び種に由来するオイルを意味し、主に飽和及び不飽和脂肪酸のグリセリド(オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノレン酸)を含む。
【0065】
「動物油」とは基本的に動物及び自然条件下での魚油、魚肝油、マッコウクジラ油などを含む油を意味する。動物油は通常高飽和脂肪酸成分を含む。
【0066】
「エッセンシャルオイル」とは基本的に花、茎、葉に由来するオイルを意味する。これらのオイルは複雑液体や揮発性液体であり、典型的にはテルペンを含み、比較的少量の(存在する場合は)脂肪酸のグリセリドを含む。
【0067】
可塑剤はゴムに用いることができる鉱物油かベジタブルオイルから選択するのが好ましい。可塑剤のほとんどはゴム中を移動しRPVFを高める。ゴム層と親和性があり、揮発度の低い特別な構造の可塑剤が特に好ましい。例えば、ゴムがブタジエンのときは、可塑剤は、特許文献10に記載されてるブタジエンオリゴマーや公知のポリブタジエンオイル、菜種原油、または精製ヒマワリ油、好ましくは70〜100cStのホワイトオイルにすることができる。
【0068】
上記組成物を得るための重合は塊状重合、溶液重合、水分散液中での重合で、先ずゴムを重合可能なモノマー及び溶液に溶解し、続いて重合を行うという従来の方法で行う。本発明の製造方法は希釈塊状重合法で行うことのが好ましい。希釈塊状重合法を用いる際には重合温度を調節し、バルク中の熱交換及び熱均一性を改善するために、重合体積粘度を下げるための不活性溶媒を開始溶液のモノビニル芳香族モノマーに対し、10%程度まで混合する。希釈剤にはエチルベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、脂肪族炭化水素溶液(例えばドデカン、イソパラフィンカット、揮発油などの平均沸点がEBやスチレンb.p.に近い物)などの芳香族溶液及びこれらの混合物が望ましい。
【0069】
本発明では、重合中、バルク中での熱均一性を改善するために任意の溶液を用いることができる。しかし、この溶液はモノビニル芳香族モノマーの重合後に回収できるものであり、かつ、モノビニル芳香族モノマーおよび任意成分のコモノマーの重合を妨げるものであってはならない。
【0070】
ゴムはモノビニル芳香族モノマー中に「溶解」する(実際にはゴムはモノマーでほぼ膨潤される)。モノビニル芳香族ポリマーは先ずモノマーモノマー中の均一ゴム溶液中のモノビニル芳香族モノマーから形成される。重合の始めには、反応溶液は、ゴム/モノビニル芳香族モノマー逆転点、すなわち、反応する溶液がゴム/モノビニル芳香族モノマーマトリクス中のモノビニル芳香族モノマー粒子からモノビニル芳香族ポリマーマトリクス中のゴム粒子に移行する点にある。すなわち、重合度が系中のゴムの重量%とほぼ等しいとき、例えばモノビニル芳香族モノマー/モノビニル芳香族ポリマー相が連続になり、ゴム層が不連続になったときに逆転する。
【0071】
本発明では、遊離ラジカル開始剤及び連鎖移動剤は、逆転ポイントの前、続いて位相反転が生じたときに、逆転前及び最中にモノビニル芳香族モノマーの分子量が連鎖移動剤がない場合に比べてかなり低くなるように重合可能な混合物と接触する。
【0072】
上記のように分子量を低くする理由は、高粘度ゴム相及び流動性モノビニル芳香族ポリマー相を同時に逆転ポイントに達せさせるためである。これらの条件により、大きいゴム粒子を作ることができると考えられる。さらに、上記条件により、PS層に対する相反転付近でのゴム層の粘度をより急激に増加させることができ、形成したゴム粒子を、相反転反応器及び二次反応器の攪拌条件で生じる剪断率の影響をより受けづらくすることができる。換言すれば、相反転反応器内で生じる大粒子を剪断してより均一な粒子寸法分布を保証する。
【0073】
好ましい連鎖移動剤としてメルカプタンまたはα-メチルスチレン二量体を選択することができる。連鎖移動活量の高い化学物質すなわち移動係数Ctr=ktr/kpが1より十分に大きいものが好ましい。上記化学物質は主として注入された反応器内で反応し、最終生成物中のPSの平均分子量を大きく下げることはない。メルカプタンの例では、n-ドデシルメルカプタンが最も好ましい。連鎖移動剤は、加えた重合混合物の総重量に対し約0.001〜0.5重量%が使用される。予備相反転反応器として周知の、意図的に下位転相を保持する反応器が相反転反応器前に設置される場合は、活性移動剤は、予備相反転反応器内でのゴム粒子の均一分布を高めるため、予備相反転反応器に導入するのが好ましい。
【0074】
遊離ラジカル開始剤の中では過酸化物を選択することができる。過酸化物は、グラフト開始剤及び非グラフト開始剤に分類される。もちろんグラフト開始剤はグラフト重合のみを行うのではなく、また、非グラフト開始剤は非グラフト重合のみを行うのでもないが、グラフト開始剤は、非グラフト開始剤よりも、グラフト重合力が高い。
【0075】
グラフト開始剤は以下の群の中から選択するのが好ましい:1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン;1,1−ジ(t−アミルペルオキシ)シクロヘキサン;1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン;00−t−ブチル−0−(2−エチルヘキシル)モノペルオキシ炭酸塩;ブチル4,4−ジ(t−ブチルペルオキシ)吉草酸塩;エチル3,3ジ(t−ブチルペルオキシ)酪酸塩;およびこれらの混合物。通常は、熱分解により水素引き抜き反応を受けるter−ブトキシラジカルを放出するペルオキシ分子である。非グラフト開始剤は下記の群の中から選択するのが好ましい:2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ラウロイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、およびこれらの混合物。重合可能な混合物1,000,000重量部あたりに、約50〜2000、好ましくは約100〜1500重量部の開始剤が使用される。
【0076】
モノビニル芳香族モノマーは、ゴム粒子の周囲及び内部で重合し、ゴム粒子中のモノビニル芳香族ポリマー含有物になる。モノビニル芳香族モノマーの一部はゴム上でグラフトで重合し、他の一部は単独重合(この部分を「非グラフト」重合という)する。モノビニル芳香族の一部は上述の不飽和の共重合可能なモノマーで置換されてもよい。「グラフト」及び「非グラフト」と同様のメカニズムがコモノマーにも生じる。すなわち、モノビニル芳香族モノマー及びコモノマーの一部はゴム上でグラフトすることで重合し、モノビニル芳香族モノマー及びコモノマー他の一部が共重合する。
【0077】
本発明の高耐衝撃性モノビニル芳香族ポリマーは添加物を加えることで得られる。添加物の例はタルク、有機粘度(有機相溶剤で湿らせた粘度)、酸化防止剤(例えば、ジ−tert−ブチル−p−クレゾールなどのアルキル化フェノール又はトリ−ノニルフェニルリン酸塩などのリン酸塩)、UV安定剤、潤滑剤、例えばステアリン酸亜鉛などの離型剤、PEワックス、顔料等の充填剤が含まれる。高耐衝撃性モノビニル芳香族ポリマーの製造に使用できることが当業者に公知の任意の添加剤を用いることができる。それらの添加剤を加える場合は、重合の前後中で適量を反応混合液に加える。
【0078】
得られたポリマー材料は冷蔵庫または冷凍庫のライナーに特に適するが、テレビの前面又は背面カバー、家電、電化製品、飲料用カップ、食品包装、発泡断熱材などを含む様々な用途に利用できる(ただしこれらに限定されない)。上記機器は、熱可塑性プラスチックの通常の技術で作ることができる。冷蔵庫のライナーはHIPSを用いた押し出しシートを用いて工業的に製造できる。上記シートは、最初にポリマーをガラス遷移温度より高く熱することで、好ましい形態及び寸法に熱形成することができる。軟化したポリマーを規定の扉や内部のライナーの規定の形態に加工する。
【0079】
本発明は、(a)平均分子量Mwが150,000g/molより大きいモノビニル芳香族ポリマーマトリクスと、(b)このマトリクス中に分散したゴム粒子と、(c)メタノール可溶分の重量比として定義される低Mw可塑剤(例えば、c/(a+b+c)の重量比の平均量が0〜5%の範囲である)から成るゴム改質モノビニル芳香族ポリマー組成物で作られた冷蔵庫インテリアライナーに関する。上記(b)の粒子は体積平均粒子寸法(RPS体積)が8.5マイクロメートルであり、肩部を有しない単峰分布を有し、膨張指数(SI)が13.8以上の大きい低〜中間架橋度を有し、ゴム相体積比(RPVF)は39%より大きい。
【0080】
本発明はさらに、下記(a)〜(d)の段階を含む高耐衝撃性モノビニル芳香族ポリマーの製造方法にも関する:
(a)少なくとも一種のモノビニル芳香族モノマーと、一種以上の任意成分のコモノマーとを含む重合可能な混合物を形成する段階、
(b)上記重合可能な混合物中に、1種以上の基本的に直鎖構造の粘着性ゴムを溶解してゴム含有重合可能溶液を得る段階、
(c)その後に上記重合可能な混合物を位相反転が生じる条件下で遊離ラジカル開始剤および連鎖移動剤と接触させる段階(ここで、連鎖移動剤は相反転反応器内でPS相に対するゴムの割合を増加させることができるものである)、
(d)必要に押して遊離ラジカル開始剤の存在下で、上記段階(c)で得た溶液の重合を継続してゴム粒子が分布したモノビニル芳香族ポリマーマトリクスを得る段階。
【0081】
必要に応じて(d)の生成物を脱気して、任意成分の未重合モノマーおよびコモノマーと任意成分の希釈剤を分離して高耐衝撃性のモノビニル芳香族ポリマーを回収する段階をさらに加えることもできる。
【0082】
連鎖移動剤はゴム粒子の相反転反応器内での剪断に対する感度を下げて、大きいゴム粒子を均一に分布させるのが有利である。
【0083】
本発明では、基本的に直鎖構造のゴムはムーニー粘度に対するSVの比が2.8以上、より好ましくは3.3以上であることを特徴とする。
【0084】
ゴムのMwの範囲は100,000〜500,000g/mol、好ましくは280,000〜360,000g/molである。ゴムの多分散性指数は2.1〜2.5、好ましくは2.1〜2.3である。ゴムの分子量は従来の寸法排除クロマトグラフィー技術で測定できる。この分子量をPS相当物という。すなわちisoPS分子サンプルを較正基準として用いる。
【0085】
本発明の反転に特に適したゴムの溶液粘度(SV)は5.43重量%トルエンまたはスチレン中での測定値で50〜1000センチポアズ、好ましくは100〜500、さらに好ましくは120〜250センチポアズである。本発明の反転に特に適したゴムのMoody粘度(ML4+1、100℃)は5〜120、好ましくは10〜100、より好ましくは30〜60である。
【0086】
本発明のゴムの使用量は、ゴム強化ポリマー生成物が、ゴム改質モノビニル芳香族ポリマー総重量中で2〜20重量%、好ましくは3〜17重量%、より好ましくは3〜15重量%のゴムを含むようにするのが好ましい。
【0087】
上記の方法操作条件および冷蔵庫または冷凍庫のライナーの製造に関するは全ては本発明方法で有効である。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。特に指摘しない限り、パーセンテージは全て重量%である。
製造物は下記の方法で試験を行った。
【0089】
1.分子量を寸法排除クロマトグラフィーにより測定する。較正にはPolymer Labotatories 社から入手したisoPS分子標準品を用いた。
2.ゴム粒子寸法はレーザー回折計を用いて測定した。
3.膨張指数(上記)はトルエン中のHIPS溶液を超遠心分離して得た湿重量及び乾燥重量から算出した。
4.ゴム相体積率は上記の式(1)を用いてハッシングモデルおよびDMA結果から算出した。
5.張力特性はISO527-2に従って測定した。
6.屈曲特性はISO178に従って測定した。
7.ノョチ付きアイゾット値はISO180に従って得た。
8.ビカット5ONはISO306に従って測定した。
9.メルトフローインデックスはISO1133(5kg荷重、200℃)に従って測定した。
10.応力亀裂抵抗:このテストはISO4599による。
【0090】
5つの射出成形したダンベル型把持サンプル(ハルター、halter)(10×4×149.3mm、ISO527-2A1)を脂肪エステル(例えば。オリーブオイル)に曝し、1日間、3日間、4日間、7日間それぞれ安定的に変形させる。
【0091】
変形はクランプ距離を143mmに設定し、把持サンプルを曲げて行う(これはc.a.20MP表面張力に相当[図1])。湾曲し把持サンプを支持体から外した後、5kgの荷重で2時間静置した後、50mm/分の速度で張力テストで測定した。移動距離および破断伸びの記録には伸び計を用いた。未変形でオイルにも曝していない5つの把持サンプルを対照として用い、張力テストのみを行う。応力亀裂耐性はオイルに曝して変形した試料の平均伸び@brkを対照試料の平均伸び@brkで割って、%で表す([図1])。
【0092】
この試験の変形例では未変形試料の伸びの所定時間経過後での低下を追跡した。ここでは、非暴露、非変形センプルを対照として使用。
【0093】
実施例1
相反転反応器として5リットルの連続攪拌反応器(CSTR)を用い、毎時1.5Lの流量で下記のゴム溶液を連続的に導入した:
(i) 7.7%の170cps LiBR(Lanxess 社からBuna CB 528 Tの商品名で市販(平均Mw =290,000 g/mol; SV/Mooney = 3.1 ))、
(ii) 2.5重量%の70 cStホワイトオイル、
(iii) 6重量%のエチルベンゼン。
【0094】
この供給組成物を、相反転反応器内で、60ppmの市販のter−ブチルペルオキシ−イソプロピルカーボネート(Akzo Trigonox BPIC-C75、そのまま注入)と、60ppmの市販のN DN(n-ドデシルメルカプタン)(アルケマ社)との存在下、135℃で重合する。平均滞留時間はc.a.90分である。ブレート先端の最大剪断速度を48/秒に維持するように反応器内の攪拌速度を調整した。相反転反応器の出口で回収し、固形成分含量c.a.35%で特徴付け、さらに20リットルのバッチ回分反応器で140℃(30分)及び150℃で、固形成分含量が60%になるまで重合した。最後に230℃、25mbarで単一フラッシュ揮発装置を用いて生成物を脱気してからペレット化した。得られた最終生成物の性質及び特性は[表1]に示す。
【0095】
実施例2
実施例1と同様な手順を釣り返すが、ゴムには市販の170cps NdBR(Lanxess社からBuna CB 728 Tの商品名で市販 (平均 Mw =455,000 g/mol; SV/Mooney = 3.9))を用いた。高シス微細構造の実質的により直鎖型のゴムを用いたことで冷アイゾット及び応力亀裂耐性が強くなる。ここでは脂肪酸クレームを攻撃剤(アグレッシブエージェント)として用いた。
【0096】
【表1】

【0097】
実施例3〜5
市販の170cps LiBR lntene 50 AF(Polimeri Europa社)8.5%と、70 cStホワイトオイル3とを含むゴム溶液供給を、一連の重合反応器に連続的に供給する。ゴム溶液を、c.a.58%のスチレンモノマーと42%の希釈剤(主にメチルベンゼン)からなる再循環フローと混合する。反応器列内の総流速は毎時40kgである。
供給溶液は管状予熱器内で90℃に予熱する。Luperox TBIC- M75(市販の有機ペルオキシド)及びNDM(いずれもアルケマ社)を第一のCSTR型反応器R-201Lへ一緒に導入した、温度設定は110℃で、平均滞留時間は45分である。本反応器の固形成分含有量は12〜14%であり、これは位相反転値より十分に低い値である。反応器内のバルク溶液を高判断速度に保って、ゴム状ゲルを作らないようにした。
【0098】
位相反転はCSTR型反応器R-202L内の各種条件下で行う(平均滞留時間は110分、スムーズな攪拌条件(ブレード先端の最大剪断速度11/秒を維持するように反応器内の攪拌速度を設定する)。その後、生成物が2つのフラッシュ揮発装置内で脱気した後、一連のプラグフロータイプの反応装置で重合を完了させる。
【0099】
実施例3では、通常の押出し熱成法に適した標準HiPSを製造するためにTBICの投与量と反応器およびDVの設定を調整した。
【0100】
実施例4では、本発明の実施例で説明したように、応力亀裂耐性を改善したHIPSグレードを製造するように反応器を設定し、反応器TBIC及びNDM投与量を調整した。
【0101】
実施例5では改良した脱揮発条件下でESCRグレードをさらに改善した。
【0102】
実施例3〜5の生成物の製造条件を以下の[表2]に示す。生成物の特徴や特性は[表3]に示す。[図2]は生成物の体積のRPS分布を示し、[図3]はESCR耐性の経時変化を表す。応力亀裂剤はオリーブオイルにした。[表3]でRPS分布V/SはRPS表面積に対するRPS体積の比を意味する。
【0103】
【表2】

【0104】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)を含むゴム改質モノビニル芳香族ポリマー組成物で作られた冷蔵庫インテリアライナー:
(a)平均分子量Mwが150,000g/mol以上であるモノビニル芳香族ポリマーマトリクス、
(b)上記マトリク中に分散したゴム粒子であって、当該粒子は体積平均粒子寸法(RPS体積)が約8.5マイクロメートルであり、ショルダー(肩部)を有しない単峰分布を有し、膨張指数(SI)が約13.8以上であることで表される上記ゴムの架橋℃が低〜中間であり、ゴム相体積成分(RPVF)が少なくとも39%であり、
(c)メタノール可溶分の重量成分として定義される平均的な量、例えば、c/(a+b+c)の重量比が0〜5%の範囲であるの低Mwの可塑剤。
【請求項2】
上記モノビニル芳香族ポリマーマトリクスのMwの範囲が50,000〜250,000g/molである、請求項1記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項3】
5.43重量%トルエン中で測定したゴムの溶液粘度(SV)が50〜1000センチポアズ、好ましくは100〜500、さらに好ましくは120〜250センチポアズである請求項1または2に記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項4】
ゴムのムーニー粘度(ML4+1、100℃)が5〜120、好ましくは10〜100、より好ましくは30〜60である請求項1〜3のいずれか一項に記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項5】
ゴムのムーニー粘度に対するSVの比が2.8以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項6】
ゴムのSV-ムーニー粘度比が3.3以上である請求項5に記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項7】
RPVFが39%以上、好ましくは40%、より好ましくは42%、さらに好ましくは45%である請求項1〜6のいずれか一項に記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項8】
SIが14以上、好ましくは16以上である請求項1〜7のいずれか一項に記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項9】
RPS体積が7〜10μmの範囲にある請求項1〜8のいずれか一項に記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項10】
RPS体積が8.0〜9.0μmの範囲にある請求項9に記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項11】
RPS表面積が5〜8μmの範囲にある請求項1〜10のいずれか一項に記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項12】
RPS表面積に対するRPS体積の比が2以下である請求項11に記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項13】
RPS表面積に対するRPS体積の比が1.5以下である請求項12記載の冷蔵庫インテリアライナー。
【請求項14】
下記(a)〜(d)の段階を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の冷蔵庫インテリアライナーの製造に用いる高耐衝撃性モノビニル芳香族ポリマーの製造方法:
(a)少なくとも一種のモノビニル芳香族モノマーと一種以上の任意成分のコモノマーとを含む重合可能な混合物を形成する段階、
(b)基本的に1種以上の直鎖構造の粘着性ゴムを上記重合可能な混合物中に溶解して重合可能なゴム含有溶液を得る段階、
(c)相反転が生じる条件下で、上記重合可能な混合物を遊離ラジカル開始剤および連鎖移動剤と接触させる段階(こで、連鎖移動剤は相相反転反応器内でPS相に対するゴムの割合を増加させることができるものである)、
(d)必要に応じて遊離ラジカル開始剤の存在下で上記段階(c)で得た溶液の重合を継続して、ゴム粒子が内部に分散したモノビニル芳香族ポリマーマトリクスを得る段階。
【請求項15】
下記(a)〜(d)の段階を含む、高耐衝撃性モノビニル芳香族ポリマーの製造方法:
(a)少なくとも一種のモノビニル芳香族モノマーと、一種以上の任意成分のコモノマーとを含む重合可能な混合物を形成する段階、
(b)基本的に1種以上の直鎖構造の粘着性ゴムを上記重合可能な混合物中に溶解して重合可能なゴム含有溶液を得る段階、
(c)相反転が生じる条件下で、上記重合可能な混合物を遊離ラジカル開始剤および連鎖移動剤と接触させる段階(こで、連鎖移動剤は相相反転反応器内でPS相に対するゴムの割合を増加させることができるものである)、
(d)必要に応じて遊離ラジカル開始剤の存在下で上記段階(c)で得た溶液の重合を継続して、ゴム粒子が内部に分散したモノビニル芳香族ポリマーマトリクスを得る段階。
【請求項16】
連鎖移動剤がゴム粒子の相反転反応器内での剪断率を低くする請求項14または15に記載の製造方法。
【請求項17】
(d)の生成物を脱気して、未重合モノマーおよびコモノマーを分離し、必要に応じて希釈剤を分離して、高耐衝撃性のモノビニル芳香族ポリマーを回収する段階をさらに含む請求項14〜16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
上記ゴムのムーニー粘度(ML4+1、100℃)が5〜120、好ましくは10〜100、より好ましくは30〜60である請求項14〜17のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項19】
ムーニー粘度に対するSVの比が2.8以上である請求項14〜18のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項20】
ムーニー粘度に対するSVの比が3.3以上である請求項14〜18のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−520363(P2012−520363A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553429(P2011−553429)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052984
【国際公開番号】WO2010/103007
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】