説明

冷電子増倍放出源を備える電離真空計

【課題】劣化せず、BA型電離真空計の短所を持たず、かつ、チャンバ内の気体の化学種の化学組成を変化させることなく動作できる冷電子放出型の電離真空計、および気体圧力測定方法を提供する。
【解決手段】本発明の電離真空計は、マイクロチャンネルプレートを含む電子生成アレイ、イオン化体積空間およびイオンを収集する収集電極を備える。マイクロチャンネルプレートは、種となる電子を生成する生成源を有する電子生成部と、前記電子生成部によって生成された前記種となる電子を受けて前記電子を増倍する電子増倍部とを備えている。イオン化体積空間では、電子が気体の化学種と衝突してイオンを生成し、収集電極がこのイオンを収集する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2007年12月19日出願の米国仮特許出願第61/008,185号の利益を主張するものである。この米国仮特許出願の全教示内容は、参照によって本願に組み込んだものとする。
【技術分野】
【0002】
本発明は、電離真空計、および気体圧力測定方法に関し、詳細には、電離真空計を用いて測定された気体の圧力に基づき、基板に対して処理を行う方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ベアード−アルパート(BA)型電離真空計は、超低圧を測定する最も一般的な非磁場型の測定手段であり、1952年に発行された特許文献1に開示されて以来、世界中で普及している。
【0004】
典型的な電離真空計は、電子生成源、陽極およびイオンを収集する収集電極を備えている。BA型真空計では、電子生成源は、陽極によって形成されるイオン化空間(陽極体積空間)の径方向外側に配置され、イオンを収集する収集電極は、陽極体積空間内に配置され、電子は電子生成源から陽極に向かって移動し、陽極内に入る。この移動の際に、電子は、圧力測定の対象である気体雰囲気を構成する気体分子および気体原子と衝突し、イオンを生成する。
【0005】
このようにして生成されたイオンは、陽極内部の電界により、イオンを収集する収集電極に引き寄せられる。気体雰囲気内の気体の圧力は、式:P=(1/S)(Iion/Ielectron)を用いてイオン電流および電子電流から算出される(式中、Sは1/Torr単位の係数であり、個々の真空計の構成、電気パラメータ、圧力範囲によって定まる)。当該技術分野における周知の問題として、熱陰極フィラメントは、測定対象の気体物質と反応を起こすことがある。
【0006】
一方で、冷陰極電子エミッタを備えた電離真空計も知られており、例えば、Baptist等に発行された特許文献2(以降、「Baptist」と称する)が挙げられる。この特許文献2の全教示内容は、参照によって本願に組み込んだものとする。Baptistには、熱陰極フィラメントの代わりに冷陰極を備えた電離真空計が開示されている。Baptistの電離真空計は複数の陰極電極を備えており、これら複数の陰極電極は、先が尖った複数の微細な点電子生成源(スピント(Spindt)型エミッタ)にバイアス電圧を供給する。電子は、これら微細な点電子生成源から電界放出によって放出され、気体をイオン化する。これらのイオンを収集することで、BA型電離真空計と同様に、圧力を測定する。しかしながら、先の尖った微細な点電子生成源は、イオン化した気体物質が衝突することによって短期間で消耗してしまう。これにより、電子の放射率が低下し、微細な点電子生成源からの電子の放出がなくなる。このようにして、電離真空計は圧力測定が不可能となり、故障に至る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第2605431号明細書
【特許文献2】米国特許第5278510号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
典型的なBA型電離真空計の動作寿命は、良い環境で動作させた場合、約10年に達する。しかしながら、過度に高い圧力下で、または電子生成源の放出特性を低下させる種類の気体内で動作させた場合、この電離真空計および電子生成源(フィラメント)は数分または数時間で故障する。動作寿命を減少させる、このようなフィラメント相互作用の周知の例として、雰囲気内の気体との化学反応が挙げられる。例えば、このような化学反応により、フィラメントの酸化物コーティングの電子放出特性が低下することがある。酸化物コーティングが劣化すると、フィラメントによって生成される電子の数は急激に減少する。タングステンフィラメントの場合も、これらの条件下で放出特性が低下し、さらに、過度に高い圧力の水蒸気に曝された場合、完全に焼損する。信頼性の高い冷電子エミッタであれば、これらの既知の問題を回避することができる。したがって、当該技術分野では、劣化せず、BA型電離真空計の短所を持たず、かつ、チャンバ内の気体の化学種の化学組成を変化させることなく動作できる冷電子放出型の電離真空計が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
熱陰極フィラメントを用いなくてよい電離真空計を提供する。この電離真空計は、マイクロチャンネルプレートを含む電子生成アレイを備え、前記マイクロチャンネルプレートは、種となる電子を生成する生成源を有する電子生成部、および前記電子生成部によって生成された前記種となる電子を受けて前記電子を増倍する電子増倍部を備える。前記マイクロチャンネルプレートは、種となる電子の自然放出を引き起こすように処理が施されたものであってもよい。前記電離真空計は、前記電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間と、前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する収集電極とを備える。前記イオン化体積空間は、前記電子を内側に保持する陽極で形成されたものであってもよく、また、前記電子を生成する生成源は前記陽極の外側に配置されてもよい。前記収集電極は、前記陽極によって取り囲まれたものであってもよい。前記電離真空計は、前記陽極の外側で形成されたイオンを収集する第2の収集電極を備えていてもよい。前記イオン化体積空間は、プレート状の陽極とプレート状の収集電極との間の体積空間によって形成されたものであってもよく、また、前記生成源は、前記プレート状の陽極と前記プレート状の収集電極との間に配置されていてもよい。前記電離真空計は、収集電極によって収集された電流を測定することで圧力を測定する、冷電子生成源型の電離真空計であってもよい。前記電離真空計は、前記イオン化体積空間内の電子の数に基づいて前記電子生成アレイからの電子ビーム電流を制御する、調整手段を備えていてもよく、また、陽極に接続され、前記電子ビーム電流の制御に利用される電流計を備えていてもよい。最初の電子(初期電子)は、電界によるチャンネル内の自然放出過程、電界放出アレイ、光電陰極またはカーボンナノチューブにより、電子増倍管に供給されてもよい。電子増倍管は、入力面と出力面との間の高い電圧差によって電子放出電流値を制御する、マイクロチャンネルプレートを用いるものであってもよい。前記マイクロチャンネルプレートは、種となる電子が照射線によって生成されるように、当該マイクロチャンネルプレートの電子増倍部の入力面に電子放出材料を有するものであってもよい。前記電子増倍管は、マイクロスフェアプレート、シングルチャンネル型の電子増倍管、ディスクリートダイノード型の電子増倍管、またはマルチプルダイノード(複数のダイノードで構成される)型の電子増倍管であってもよい。また、種となる電子を生成する生成源と電子を増倍する電子増倍源とが単一の装置に一体化された電子生成源も利用可能である。
【0010】
他の実施形態において、電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間を形成する筒状のワイヤグリッドを含む陽極構造体と、電子の種を生成する装置、および前記電子の種を生成する装置からの電子を増倍する電子増倍装置を含む、電子を生成する生成源とを備えた電離真空計を提供する。前記電子増倍装置は、マイクロチャンネルプレートを有するものであってもよい。前記電離真空計は、さらに、前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する収集電極を備える。前記収集電極および前記生成源の一方は前記陽極構造体の内側に配置されてもよく、また、前記収集電極および前記生成源の他方は前記陽極構造体の外側に配置されてもよい。前記収集電極によって収集される電流は、圧力信号を形成し得る。前記筒状のワイヤグリッドは、少なくとも1つの支柱体に接続された複数の円状ワイヤとして構成されてもよい。前記電子を生成する生成源は前記陽極構造体の外側に配置されてもよく、また、前記収集電極は前記陽極構造体の内側に配置されてもよい。前記電離真空計は、前記陽極構造体の外側に配置された第2の収集電極を備えていてもよい。変形例として、前記電子を生成する生成源を前記陽極構造体の内側に配置してもよく、また、前記収集電極を前記陽極構造体の外側に配置してもよい。他の実施形態において、前記イオン化体積空間は、プレート状の陽極とプレート状の収集電極との間の体積空間によって形成されたものであってもよく、また、前記生成源は、前記プレート状の陽極と前記プレート状の収集電極との間に配置されていてもよい。
【0011】
さらなる他の実施形態において、電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間を形成する筒状のワイヤグリッドを含む陽極構造体と、マイクロチャンネルプレートを含む電子生成アレイとを備え、前記マイクロチャンネルプレートが、種となる電子を生成する生成源を有する電子生成部、および前記電子生成部によって生成された前記種となる電子を受けて前記電子を増倍する電子増倍部を備えた電離真空計を提供する。前記電離真空計は、さらに、前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する、前記陽極構造体の内側に配置された収集電極を備える。前記収集電極によって収集される電流は、圧力信号を形成し得る。前記筒状のワイヤグリッドは、少なくとも1つの支柱体に接続された複数の円状ワイヤとして構成されてもよい。前記電子を生成する生成源は前記陽極構造体の外側に配置されてもよく、また、前記収集電極は前記陽極構造体の内側に配置されてもよい。前記電離真空計は、前記陽極構造体の外側に配置された第2の収集電極を備えていてもよい。変形例として、前記電子を生成する生成源を前記陽極構造体の内側に配置してもよく、また、前記収集電極を前記陽極構造体の外側に配置してもよい。
【0012】
さらなる他の実施形態において、電子を生成して増倍する電子生成アレイ手段と、電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間を形成する筒状のワイヤグリッドを含む陽極手段と、前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する収集電極手段と、圧力測定のために、前記収集されたイオンから信号を形成する手段とを備えた電離真空計を提供する。
【0013】
さらに、気体の化学種から気体の圧力を測定する方法を提供する。この気体圧力測定方法は、マイクロチャンネルプレートの電子生成部を含む電子生成アレイを用いて電子を生成する過程と、前記マイクロチャンネルプレートの電子増倍部を用いて電子を増倍する過程とを備える。前記気体圧力測定方法は、前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する過程と、前記収集されたイオンから圧力信号を形成する過程とを備える。前記気体圧力測定方法は、電子を、表面処理が施されたマイクロチャンネルプレートに通すことで増倍する過程を備えていてもよい。前記気体圧力測定方法は、さらに、プレート状の陽極とこれに平行なプレート状のイオン収集手段との間で電子を生成する過程と、前記平行な形状のイオン収集手段で前記イオンを収集する過程とを備えていてもよい。
【0014】
気体の化学種から気体の圧力を測定する他の方法は、電子の種を生成する装置を含む、電子を生成する生成源を用いて、電子を生成する過程と、前記電子を増倍する過程と、前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを、収集電極を用いて収集する過程と、前記収集されたイオンから圧力信号を形成する過程とを備えている。前記収集電極および前記生成源の一方を、電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間を形成する筒状のワイヤグリッドを含む陽極構造体の内側に配置することを含んでいてもよく、また、前記収集電極および前記生成源の他方を、前記陽極構造体の外側に配置することを含んでいてもよい。一実施形態において、前記電子を生成する生成源を、前記陽極構造体の外側に配置することを含んでいてもよく、また、前記収集電極を、前記陽極構造体の内側に配置することを含んでいてもよい。前記気体圧力測定方法は、前記陽極構造体の外側に配置された第2の収集電極を用いてイオンを前記陽極構造体の外側で収集する過程を備えていてもよい。変形例として、前記電子を生成する生成源を、前記陽極構造体の内側に配置することを含んでいてもよく、また、前記収集電極を、前記陽極構造体の外側に配置することを含んでいてもよい。電子を増倍する過程は、電子を、表面処理が施された少なくとも1つのマイクロチャンネルプレートに通すことを含んでいてもよい。あるいは、電子を増倍する過程は、少なくとも1つのダイノードを用いることを含んでいてもよい。
【0015】
本発明のさらなる他の構成では、基板を用意する過程と、真空引きされる装置内で前記基板に対して処理を行うために、前記真空引きされる装置を真空引きする過程と、圧力を測定する過程と、前記真空引きされた装置内で前記基板に対して処理を行い、処理された基板を形成する過程とを備えた方法を提供する。前記圧力測定方法は、電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間を形成する筒状のワイヤグリッドを含む陽極構造体と、電子の種を生成する装置、および前記電子の種を生成する装置からの電子を増倍する電子増倍装置を含み、前記陽極構造体の外側に配置された、電子を生成する生成源と、前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する、前記陽極構造体の内側に配置された収集電極とを用意することを含む。
【0016】
本発明のさらなる他の構成では、基板を用意する過程と、真空引きされる装置内で前記基板に対して処理を行うために、前記真空引きされる装置を真空引きする過程と、圧力を測定する過程と、前記真空引きされた装置内で前記基板に対して処理を行い、処理された基板を形成する過程とを備えた方法を提供する。前記圧力測定方法は、種となる電子を生成する生成源を有する電子生成部、および前記電子生成部によって生成された前記種となる電子を受けて前記電子を増倍する電子増倍部を備えたマイクロチャンネルプレートを含む電子生成アレイを用意することを含む。前記圧力測定方法は、さらに、前記電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間と、前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する収集電極とを用意することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】本発明の電離真空計の概要を示す概略図である。
【図1B】表面処理が施された、複数のポアを有する図1Aのマイクロチャンネルプレートを示す斜視図である。
【図2】表面処理が施された図1Aのマイクロチャンネルプレートにおける、受け取った電子を増倍する材料を備えたポアの拡大図である。
【図3】電子を生成し増倍する構成要素の、本発明の他の実施形態であるシングルチャネル形態を示す概略図である。
【図4】電子を生成し増倍する構成要素の、陰極および複数のダイノードを備えたさらなる他の実施形態を示す概略図である。
【図5】三極型の電離真空計としての実施形態を示す図である。
【図6】イオンを収集する収集電極を複数備えた実施形態を示す図である。
【図7】イオンを収集する収集電極を複数備えた実施形態を示す図である。
【図8】冷電子エミッタと熱陰極フィラメントとの両方を備えた電離真空計の一実施形態を示す図である。
【図9】陽極が平坦なプレート状であり、イオン収集手段がこの陽極に対して平行かつ平坦なプレート状であり、さらに、これら2枚のプレートの間に電子生成源が配置されているシャルツ−フェルプス(Schultz-Phelps)形態の、電子増倍管を備えた電離真空計の他の実施形態を示す図である。
【図10】プロセスモジュール内に配置された電離真空計および分析装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の前述のおよびその他の目的、特徴および利点は、添付の図面に示された本発明の好ましい実施形態についての以下の詳細な説明から明らかになる。図面における同一の符号は、異なる図においても、同一の部分(構成要素)を指している。図面は必ずしも縮尺どおりではなく、むしろ、本発明の原理を示すことに重点を置いている。
【0019】
本発明の好ましい実施形態についての説明を以下に示す。
【0020】
図1Aに示すように、本発明にかかる電離真空計100は、一般的に、電子生成アレイ105、イオンを収集する収集電極110および陽極115を備える。図1Aには、電離真空計100が陽極115および収集電極110と共に示されているが、以下で説明する本発明の全ての実施形態において、陽極115および収集電極110は必須の構成要素ではなく、異なる様々な電離真空計の構成が可能である。一実施形態において、電離真空計100は、ベアード−アルパート型でない真空計または冷電子放出型の電離真空計であり、熱陰極フィラメントを電子生成源に備えておらず、冷電子放出型の真空計の構成として形成されている。電離真空計100は、電子生成アレイとして、種となる電子(シード電子)を生成する生成源および種となる電子を増倍する増倍源(まとめて符号105で示す)を備えている。
【0021】
電離真空計100は、上記種となる電子の生成源として、複数の冷電子エミッタ105を備えるものであってもよい。一般的に、複数のエミッタ105は、図1Aに示された電子生成アレイ105と同様に陽極115の近傍に配置されるが、図示の筒状の陽極115の周りの他の角度位置にも配置される。電子生成源105は、図1Aに示された筒状の陽極115の端部の近傍に配置されてもよい。さらに、冷電子エミッタ105の動作に悪影響を及ぼし得る予想外の環境条件にも対応できるように、当該冷電子エミッタ105のバックアップ(予備)として、従来の熱陰極105’(図8)を、複数の冷陰極エミッタ105の場合について上述した配置形態と同様の配置形態で、真空計アセンブリ100内でさらに別個に配置してもよい。これにより、現時点では対象とされない未知の気体環境についても、将来的に備えることができる。また、これにより、収集電極110によって収集される、圧力信号を形成するためのイオン電流が極めて小さくなる極低圧条件下の場合であっても、さらなる電子放出を必要に応じて行うことができる。
【0022】
図1Aには、本発明を具現化した特定の「露出型」の電離真空計100が示されている。同図には「露出型」の電離真空計100が示されているが、本発明の原理に基づいて「非露出型」の電離真空計100も利用できることを理解されたい。電離真空計100は、管(図示せず)の中に収容されたものであってもよく、この場合、管の一端部は、気体の化学種がシールド125を介して測定チャンバ120内に進入できるように開いている。気体の化学種には、気体分子、気体原子などが含まれる。シールド125および管は、遮蔽空間を形成するものであってもよく、この場合、遮蔽空間は、用途に応じて種々の寸法に設定されてよい。なお、平均自由工程が極めて短くなる高圧下の測定では、電離真空計100に、第2のイオン収集手段として、例えば、第2の収集電極(図示せず)を任意で追加してもよい。また、他の実施形態では、収集電極110を陽極115の外側に配置し、かつ、電子生成源105を陽極115の内側に配置するようにしてもよい。
【0023】
動作時には、気体分子および気体原子が、部分的に開いたシールド125を介して測定チャンバ120に進入する。一般的に、冷電子エミッタ105は、接地に対して約+30ボルトの電位で動作し、陽極115は接地に対して約+180ボルトの電位で動作し、収集手段としての収集電極110は、ほぼ接地電位で動作する。シールド125は、外部の電位が測定チャンバ120内の電荷分布を乱すことを防ぐ。シールド125は基準電位に維持されていてもよい。一実施形態において、前記基準電位は接地電位である。
【0024】
電子生成アレイまたは電子生成源105もチャンバ120内に配置されており、電子ビーム(符号130で概略的に示す)を放出する。しかしながら、電子の種を生成する生成源105は、陽極115が配置されているチャンバとは異なる別のチャンバに配置されてもよく、これらを同一のチャンバ120に配置した図示の形態は単なる例示に過ぎない。つまり、電離真空計100はこの特定の構成に限定されるものではない。電子生成源105から放出された電子130は、測定チャンバ120内の気体分子のイオン化に利用される。
【0025】
電子生成アレイ105は、種となる電子を生成する生成源だけでなく、前記種となる電子を増倍する増倍装置も備える。好ましくは、電子生成アレイ105は、電子増倍源、例えば、Burle Technologies Inc(登録商標)社のEGA(登録商標)電子生成アレイや、その他の任意の電子増倍源、例えば、Lapradeに付与された米国特許第6239549号明細書に記載された電子増倍源を備えている。米国特許第6239549号の全教示内容は、参照によって本願に組み込んだものとする。電子生成アレイは、マイクロチャンネルプレートを含むものであってもよく、前記マイクロチャンネルプレートは、種となる電子を生成する生成源を有する電子生成部、および前記電子生成部によって生成された前記種となる電子を受けて前記電子を増倍する電子増倍部を備える。他の電子増倍源105、例えば、“Photomultiplier Tubes Basics and Applications”Third Edition, Hamamatsu Photonics (c) K.K., 2006に記載された電子倍増源も考えられる。この文献の全教示内容は、参照によって本願に組み込んだものとする。好ましくは、電子生成アレイ105は、種となる電子または電流を生成する生成源を備えていても、粒子線または照射線を受けることで励起可能な、電子の自然放出を引き起こす生成源を備えていてもよい。電子生成源105は、粒子線または照射線を受けることにより、二次電子を放出する。その後、二次電子はカスケード増幅される。これら二次電子は気体の化学種をイオン化し、このようにして生じたイオンが、圧力測定のために収集される。あるいは、電子生成アレイ105は、電子増倍管、例えば、Downing等に付与された米国特許第6828714号明細書に記載されたマイクロスフェアプレートまたはマイクロチャンネルプレートを含むものであってもよい。米国特許第6828714号の全教示内容は、参照によって本願に組み込んだものとする。マイクロスフェアプレートは、半導体の電子放出面を有する微細なガラス球体で構成されるガラスプレートを有する。これらの球体は、例えば圧縮および焼結により、充填されて互いに結合されたものである。粒子線の入射粒子、例えば、電子、イオン、光子などが球体の表面に衝突すると二次電子が形成され、当該二次電子が球体間の隙間を通って加速し、他の球体の表面に衝突することにより、電子のカスケードが形成する。マイクロチャンネルプレートはシェブロン(chevron)(直列)形態に積み重ねられたものであってもよく、これにより、イオンのフィードバックを防ぎながらゲインを向上させることができる。また、マイクロチャンネルプレートは、平行(並設)形態に積み重ねられたものであってもよく、これにより、追加の電子放出、エミッタの冗長性、陽極を中心とした放出束(emission flux)の対称性の向上を図ることができる。また、電子生成アレイ105は、複数の相互接続した繊維を有する増倍管、例えば、Downing等に付与された米国特許第7183701号明細書に記載された増倍管を含むものであってもよい。米国特許第7183701号の全教示内容は、参照によって本願に組み込んだものとする。なお、電子生成源105は、種となる電子を生成する装置と、この種となる電子を増倍する装置との2つの装置を含むものであってもよいし、種となる電子を生成し当該電子をカスケード増倍する単一の装置105を含むものであってもよい。様々な構成が本発明の範囲内で可能であり、本発明は特定の構成に限定されない。
【0026】
図1Aの側面図に示すように、電子生成源105は、複数のポア(細孔)200を有する、表面処理が施されたマイクロチャンネルプレートを含む。電子生成源105は、冷陰極型の電離真空計100の電子生成源として、電子の自然放出を引き起こす面を有している。マイクロチャンネルプレート135は、入力面140および出力面145を有しており、一連の互いに融着されたチューブ(細管)、好ましくはガラスチューブを含んでいる。これら融着チューブは、複数のポア(細孔)200(図2)を堅牢な構造体に形成している。図1Bに示すように、プレート135は、全体的に略ディスク形状をしており、かつ、複数のチューブまたはポア200を形成している。電圧源160aが、プレート135の両端に接続されており、このプレート135により、電子がカスケード増倍される。出力面145を出る電子ビーム電流は、電圧源160aを調節する電子電流調整手段160cによって調節される。電子ビーム電流は、電流計187によって測定される。電流計187から、測定された電流情報は電子電流調整手段160cに伝達され、電子電流調整手段160cが電子ビーム電流を制御する。電流計187は、グリッド115に到達する電子によって当該グリッド115で生成された電子電流を測定するように陽極115に接続されている。測定される電流は、源105からイオン化体積空間に供給される電子の数を表している。電流計187によって測定された電流情報は、この電流情報を源105のフィードバック制御に用いる、真空計100の構成品に供給される。
【0027】
他の初期電子生成源(initial electron source)をプレート135の内側に設けた場合、種となる電子が、図2に示すポア200へと放出される。この電子は、ポアの側面に接触して増倍される。
【0028】
図1Aに示すように、電子生成源105は、さらに、電子を経路130のなかで選択して陽極115へと案内するエネルギーフィルター160bを含む。源105は、さらに、陽極115に接続された陽極バイアス/エネルギー調整手段160dを含む。エネルギーフィルター160bは、電子130を選別(filter)する。様々な初期電子生成源の構成が本発明の範囲内で可能であり、本発明は特定の初期電子生成源の構成に限定されない。
【0029】
入力面140と出力面145との間に電圧が印加されると、符号130で示した電子ビームが、経路に沿って広域かつ瞬時に放出される。電子130は、測定チャンバ120および陽極115に向かって案内される。好ましくは、電子ビーム130は、複数回の経路を経て、チャンバ120内の気体の化学種をイオン化する。他の実施形態において、電子生成源105は、表面処理が施されたマイクロチャンネルプレート135の代わりに、金属酸化物製の微小ギャップ(gap)装置を含むものであってもよい。
【0030】
他の電子増倍手段を本発明に用いてもよく、電子生成源105に用いられる電子増倍手段は、特定の電子増倍手段に限定されない。電子生成源105を形成する電子生成アレイ構成要素は、シングルチャンネル型の電子増倍管であってもよいし(図3)、本明細書に開示されている他の様々な電子増倍構成を有していてもよい。一実施形態において、電子を生成し増倍する電子生成源105は、表面処理が施されたマイクロチャンネルプレート135を含んでおり、このマイクロチャンネルプレートは、Lapradeに付与された米国特許第6239549号明細書に記載されているように、当該マイクロチャンネルプレートの形成後、水素還元処理の前に、酸浸出処理される。電子の自然放出を引き起こす効果は、任意の酸浸出処理、例えば、1体積%(vol%)の塩酸溶液、酢酸溶液、硝酸溶液、硫酸溶液などに、約20℃超の温度で約1分間超浸出処理することで得られる。
【0031】
図2は、電子を生成する電子増倍源105を備える冷電子生成源型の電離真空計100の、他の実施形態を示す拡大図である。図2には、電子増倍管105における、処理が施されたプレート135のポア200が拡大図で示されている。図1Aのプレート135は、気体(物質)をイオン化するための電子を放出する寸法約5マイクロメータ(μm)の複数のポア200を有している。
【0032】
好ましくは、マイクロチャンネルプレート135は、最初の種となる電子を生成する光電陰極を備えている。一実施形態において、ポア200の入口の光電陰極に光が当たると、電子がポア200内に射出され、ポア200の出口から電子ビーム130が放出される。
【0033】
この実施形態において、図1Aのマイクロチャンネルプレート135のポア200(図2)は、第1の表面210上にコーティング205を有している。好ましくは、電子放出用のコーティング205は、表面の仕事関数を低下させるアルカリ含有化合物である。他のコーティング205、例えば、Ag−O−Cs(S−1とも称される)、アンチモン−セシウム、バイアルカリ、高温バイアルカリまたは低ノイズバイアルカリ、ヒ化ガリウム(III)、マルチアルカリ、ヒ化インジウムガリウム、テルル化セシウム、セシウム−ヨウ素なども使用可能である。本発明にかかる真空計は特定のコーティング205に限定されず、コーティング205を使用せずに電子を増倍するものであってもよい。
【0034】
図3に示すように、電子生成アレイ105の構成要素として、図1Aに示した構成要素と異なる他の構成要素も使用可能である。電子を生成し増倍するための他の構成要素には、シングルチャンネル型の電子増倍管、ディスクリートダイノード型の電子増倍管、および当該技術分野で知られている他の電子増倍管が含まれる。また、Burle Technologies Inc(登録商標)社の「Chevron Configuration」(登録商標)、またはLapradeに付与された米国特許第6239549号明細書に記載された、Burle Technologies Inc(登録商標)社の「Z−Configuration」(登録商標)で配列された複数のマイクロチャンネルプレート135を、電子生成源105に使用してもよい。
【0035】
図3に、図1Aに示した電子生成アレイ105の構成要素の他の実施形態を示す。図3には、当該技術分野で知られている任意の電子生成源、例えば、電流源、陰極、光電陰極などの電子生成源305が示されている。電子生成源305は、シングルチャンネル型の電子増倍管310に接続されてもよい。他の電子生成源305には、例えば、電界放出源、電界放出アレイ、高エネルギー電磁放射源(energetic electromagnetic source)、カーボンチューブ、Al:ZnOウィスカー、カーボンベルベット(カーボン繊維状)コーティングのエミッタなどが含まれる。例えば、電子315は、電子生成源(または陰極305)から放出され、管310内の箇所へと案内される。電子315は電子増倍管310の壁320に衝突する。この衝突接触により、より多くの電子325が放出され、カスケード現象を生じる。すなわち、単一の電子315により、シングルチャンネル型の電子増倍管310の遠位端(電子生成源から遠い方の端部)335において複数の電子330が生成される。これら複数の電子330は図1Aの測定チャンバ120へと放出され、気体物質と衝突する。その後、イオンが収集電極110によって収集される。
【0036】
図4に、図1Aに示した電子生成アレイ105の構成要素のさらなる他の実施形態を示す。この場合の電子生成アレイ105の、電子を生成する構成要素は、初期電子生成源305、および少なくとも1つのダイノード405aを備えた電子増倍源を有する。電子生成源305は、電界放出源、陰極、光電陰極、または図3に関連して上述した電子生成源とは異なる電子生成源であってもよい。この実施形態において、電子生成アレイ105は、図1Aに示した複数のポア200の代わりに、複数の別個のダイノード405a,405b,405cを含む。
【0037】
ダイノード405aは、一連の電極の1つであり、これら一連の電極は、光電子増倍管(図示せず)内に設けられたものでもよい。各ダイノード405c、405b、405aは、上流(電子生成源に近い側)に設けられたダイノードよりも確実に電荷が多い。各ダイノード405b,405cの表面で二次電子が生じることにより、電子のカスケード放出が引き起こされる。このような構成により、初期電子生成源305、例えば、電流源、光電陰極、陰極などが放出する供給電流を、約100万倍に増幅することができる。つまり、初期陰極305または電子生成源から放出された電子415は、陰極305の電圧に対して+90〜100ボルトに維持された第1のダイノード405aに向かって加速する。このようにして加速された、種となる各光電子は、第1のダイノード405aに衝突し、より多くの電子を生成する。次に、これらの電子が、第1のダイノード405aよりも+90〜100ボルトに保持された第2のダイノード405bに向かって加速または案内される。その後、このようにして加速された各電子は、第2のダイノード405bに衝突し、より多くの電子を生成する。これらの電子は、第2のダイノード405bよりも+90〜100ボルトに保持された第3のダイノード405cに向かって加速または案内される。
【0038】
勿論、上記の過程は、4個以上のダイノードを用いて繰り返してもよく、また、ダイノード405a〜405cの特定の個数に限定されない。上記の過程は、ダイノード405a,405b,405cのそれぞれにおいて繰り返され、生成される電子415’’の個数は、入射電子1個につき、多数、例えば、約1×10〜1×10個にまで達し得る。これは、図1Aの電離真空計100において所望の気体をイオン化して圧力を測定するのに適切な量の電子415’’である。上記の個数は例示に過ぎず、本発明にかかる真空計は、そのような個数に限定されない。
【0039】
図示のように、陰極305または電子電流源から放出された種となる単一の電子415により、複数の電子415’,415’’が生成される。様々な個数のダイノードを使用してもよく、本発明にかかる電離真空計100は、ダイノード405a,405b,405cの特定の個数に限定されない、また、ダイノードの個数は、何個であっても本発明の範囲内であり、気体物質に応じて変更してもよい。
【0040】
再び図1Aを参照する。電子130は、測定チャンバ120内に送られてから十分なイオン化を引き起こすことができるように、そのエネルギーが所望のレベルに制御される必要がある。イオン化は、定格設計エネルギーよりも上のエネルギー幅、および定格設計エネルギーよりも下のエネルギー幅のいずれにおいても生じる。Saul Dushmanが著者の “Scientific Foundations of Vacuum Technique” 1962の、電離真空計について述べたSection 5.7を参照されたい。この文献の全教示内容は、参照によって本願に組み込んだものとする。一般的に、イオン形成は、窒素の場合、150電子ボルト(eV)付近の電子エネルギーで生じる。様々なイオン形成の構成が本発明の範囲内で可能である。
【0041】
陽極構造体115は、イオン化体積空間180(図1A)を形成する筒状のワイヤグリッドを含んでおり、イオン化体積空間180は、例えば、接地に対して+180ボルトに帯電されている。陽極構造体のグリッド115は、少なくとも1つの支柱体に接続された網目状のワイヤ(wire mesh)または複数の円状ワイヤ(wire circle)で構成されてもよい。陽極構造体のグリッド115は、電子130が進入できるような構造をしている。ほとんどの電子130は、陽極のグリッド115に衝突しないと考えられる。代わりに、電子130は陽極のグリッド115を通り、陽極のイオン化体積空間180内に留まるように制御される。このイオン化体積空間180内で、電子衝撃イオン化によって電子130がイオンを生成する。
【0042】
電子衝撃イオン化によって生成されたイオンは、陽極のグリッド115内に留まる傾向にある。陽極のグリッド115の体積空間180内で形成されたイオンは、(a)接地に対して正の電位を有する陽極のグリッド115と(b)接地電位に近い電位(すなわち、陽極のグリッド115の電位よりも負の電位)を有する収集電極110との間の電位差で生じる電界によって案内される。この電界により、イオンは収集電極110へと案内され、収集電極110によって収集されたイオンはイオン電流を形成し、このイオン電流が増幅器185(図1A)によって増幅され、これを用いて気体の圧力が測定される。
【0043】
他の好ましい実施形態において、種となる電子を生成し増倍する電子生成源105は、陽極115の内側に配置され、かつ、収集電極110は陽極115の外側に配置される(測面図である図5の電子生成源105を参照されたい)。図5に示すさらなる実施形態では、電離真空計100は、電子生成アレイ105が陽極115の内側に配置され、かつ、収集電極110が陽極115の外側に配置された三極管型の真空計として構成される。様々な電離真空計の構成が可能であり、本発明は特定の構成に限定されない。ある実施形態では、電極110を、陽極115の内側または外側に配置された電子生成源105の近傍で形成されるイオンを収集するものとし、かつ、第2のイオン収集手段110b(図6)を、高い圧力を測定するように電極110とは異なる場所に配置してもよい。
【0044】
本発明の他の実施形態において、真空計100は、陽極115の内側に配置された第1のイオン収集手段110aと陽極115の外側に配置された第2のイオン収集手段110bとの2つの収集手段を備えるように構成されている。この実施形態において、種となる電子を生成し増倍する源105は、図6の側面図に示すように、陽極115の外側に配置されてもよい。図6に示すように、第2のイオン収集手段110bは、陽極115の外側で形成された高い圧力のイオンを収集するように構成される。
【0045】
ここで、電離真空計100は、電極110aに加えて、イオンを収集する第2の収集電極110bを備えている。イオンを収集する第2の収集電極110bは、陽極115の外側に配置され、イオン収集を支援する。電子衝撃イオン化によって生成されたイオンは、陽極115内に留まる傾向にある。収集手段によって収集された収集電流は、増幅器185によって増幅され、電位計に供給される。電位計は、収集電流の強度を圧力単位に変換して表示する。また、他の実施形態として、図7に示すように、収集電極110a,110bの両方を陽極115の内側に配置してもよい。なお、イオン収集電極110a,110bの両方からの圧力信号(電流)が加算され、圧力が測定定量される。
【0046】
一実施形態では、圧力を測定するに当って、収集電極110a,110bのうちのどちらの収集電極からの信号を使用するかを選択するコントローラ(図示せず)が用いられる。例えば、比較的低い圧力の場合、圧力信号(電流)は、陽極115aの内側に配置された収集電極110aから主に測定され、比較的高い圧力の場合、電流は外側の収集電極110bから主に測定される。
【0047】
図9の側面図に示す他の実施形態において、真空計100は、平坦なプレートとして配置された、プレート状の陽極115、この陽極115に対して平行かつ平坦なプレート状のイオン収集手段110、およびこれら2枚のプレート110,115の間に配置された電子生成源105を備えたシャルツ−フェルプス形態の真空計として構成される。
【0048】
電子を生成し増倍する源105を使用することにより、従来のBA型電離真空計のようにウォームアップを必要とする(例えば、BA型電離真空計において、種となる電子を生成する生成源に熱陰極フィラメントを使用した場合など)ことなく、短い作動時間を実現することができる。他の利点として、例えば、直流(DC)および交流(AC)による外部および内部の磁場および電界を利用できるように真空計100を構成することで、電子軌道の長さを改良したり、電子増倍源105のゲインを変化させたり、あるいは、電子130のビームを陽極のグリッド115に案内させたりすることができる。本発明にかかる電離真空計100は、電流を増幅するのに増幅器(図1A)を使用してもよく、また、電子105を生成し増倍する源105を、陽極115に面するように構成してもよいし、陽極115から向きがそれるように構成してもよい。この構成(陽極115から向きがそれる構成)により、真空引き過程の際の見通し線方向を介した汚染の可能性を減らしたり、電子130のエネルギー帯域幅を狭めたりすることができる。電離真空計100は、電子130のビームを集束するように取り付けてもよい。様々な取付形態が本発明の範囲内で可能である。
【0049】
図10に示すように、好ましくは、電離真空計100は、処理工程を行うためのクラスター装置1100または複数のチャンバで構成される他の装置と共に使用される。一実施形態において、クラスター装置1100は、搬送チャンバ1110にバルブ1110aを介して接続されたロードロックチャンバ1105を備えている。ロードロックチャンバ1105は、バルブ1110bにより、大気条件から密封されている。単一のチャンバで構成されたクラスター装置1100および複数のチャンバで構成されたクラスター装置1100の両方が可能であり、電離真空計100は、単一のチャンバで構成された装置形態および複数のチャンバで構成された装置形態のいずれにおいても使用できる。電離真空計100は真空チャンバでの使用に限定されず、当該技術分野で知られているあらゆる製造チャンバにおいて使用することができる。
【0050】
クラスター装置1100は、さらに、プロセスモジュール1115を備えるものであってもよい。プロセスモジュール1115は、搬送チャンバ1110にバルブ1110cを介して接続される。装置1100は、複数のプロセスモジュール1115および複数のロードロックチャンバ1105を備えていてもよく、図示の構成に限定されない。ロードロックチャンバ1105は、粗引きポンプRP1を有していてもよく、粗引きポンプRP1はバルブVを介してロードロックチャンバ1105に接続される。ロードロックチャンバ1105、搬送チャンバ1110およびプロセスモジュール1115は、それぞれ、少なくとも1つの真空ポンプVp,Vp,Vpを有していてもよい。真空ポンプは、極低温真空ポンプ、またはその他のポンプ、例えば、ターボポンプ、水蒸気ポンプ(water vapor pump)であってもよい。様々なポンプ形態が本発明の範囲内で可能である。
【0051】
好ましくは、基板であるウェハ(図示せず)をロードロックチャンバ1105に装入し、粗引きポンプRPおよび真空ポンプVpを用いて真空引きを行い、真空条件に設定する。このウェハは、ウェハ操作用ロボット(図示せず)を用いて、バルブ1110aを介して搬送チャンバ1110に移動させ、その後、バルブ1110cを介してプロセスモジュール1115内に配置し、様々な積層工程(deposition operation)を行えるようにしてもよい。一実施形態において、電離真空計100は、クラスター装置1100のチャンバ1105,チャンバ1110およびチャンバ1115のうちのいずれか一つの内部に配置される。例示として、図10において、電離真空計100はプロセスモジュール1115の内部に配置されているが、電離真空計100は特定のチャンバまたは場所に限定されず、チャンバまたは装置1100の外部に配置されてもよい。
【0052】
好ましくは、電離真空計100は、基準圧(高真空)とそれよりも高い処理用圧力(大半はミリトール(mTorr)範囲)の両方の圧力を測定することができる。しかしながら、電離真空計100はこれに限定されず、様々な処理パラメータが本発明の範囲内で測定可能とされる。電離真空計100は、フラットパネルディスプレイの製造、磁気媒体工程、太陽電池、光学コーティング工程、半導体製造工程、およびその他の製造処理工程での圧力測定に使用することができる。このような処理には、物理気相成長法、プラズマ気相成長法(PVD)、化学気相成長法(CVD)、原子層体積法(ALD)、プラズマエッチ工程、注入工程、酸化/拡散、窒化物形成、真空リソグラフィ、ドライ剥離工程、エピタキシ工程(EPI)、急速熱処理(RTP)工程、極紫外線リソグラフィ工程などが含まれる。好ましくは、電離真空計100は、1種以上の分析装置、例えば、顕微鏡や質量分析計などと共に使用可能である。質量分析計には、ガスクロマトグラフ装置(GC)、液体クロマトグラフ装置(LC)、イオントラップ装置、磁気セクター型分析計装置、二重集束型装置、飛行時間型装置(TOF)、回転磁場型装置、イオン移動度型装置、線形四重極型装置などが含まれる。
【0053】
電離真空計100およびクラスター装置1100と共に使用可能な(またはクラスター装置1100なしでも使用可能な)表面分析装置1105には、走査型電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分析装置(EOS/XPS)、走査型オージェ電子顕微鏡装置(Auger/SAM)、グロー放電質量分析装置(GDMS)、電子分光装置(ESCA)、原子間力顕微鏡/走査型プローブ顕微鏡装置(AFM/SPM)、フーリエ変換赤外分光装置(FTIR)、波長分散型X線分光装置(WDS)、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICPMS)、蛍光X線分析装置(XRF)、中性子放射化分析装置(NAA)、計測装置などが含まれる。上記のリストは全てを網羅しておらず、真空計100は、上記のリストに挙げられていない他の装置と共に使用することも可能である。
【0054】
本発明を、好ましい実施形態を用いて詳細に図示および説明したが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲を逸脱することなく、これらの形態および細部に対して様々な変更を行えることを理解できるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロチャンネルプレートを含む電子生成アレイを備え、
前記マイクロチャンネルプレートは、種となる電子を生成する生成源を有する電子生成部、および前記電子生成部によって生成された前記種となる電子を受けて前記電子を増倍する電子増倍部を備えており、
さらに、
前記電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間と、
前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する収集電極と、
を備える電離真空計。
【請求項2】
請求項1において、前記イオン化体積空間が、前記電子を内側に保持する陽極で形成されており、前記電子を生成する生成源は前記陽極の外側に配置され、前記陽極は前記収集電極を取り囲んでいる電離真空計。
【請求項3】
請求項2において、さらに、
前記陽極の外側で形成されたイオンを収集する第2の収集電極、
を備える電離真空計。
【請求項4】
請求項1において、前記収集電極によって収集される電流が、圧力信号を形成する電離真空計。
【請求項5】
請求項4において、前記イオン化体積空間が、プレート状の陽極とプレート状の収集電極との間の体積空間によって形成されており、前記生成源が、前記プレート状の陽極と前記プレート状の収集電極との間に配置されている電離真空計。
【請求項6】
請求項1において、前記マイクロチャンネルプレートが、入力面および出力面を有しており、前記入力面と前記出力面との間に電圧が印加される電離真空計。
【請求項7】
請求項6において、前記マイクロチャンネルプレートが、種となる電子の自然放出を引き起こすように処理された電離真空計。
【請求項8】
請求項7において、電子放出材料が、前記マイクロチャンネルプレートの前記電子増倍部の前記入力面に設けられており、種となる電子が、照射線によって生成される電離真空計。
【請求項9】
請求項1において、さらに、
前記イオン化体積空間内の電子の数に基づいて、前記電子生成アレイからの電子ビーム電流を制御する調整手段、
を備える電離真空計。
【請求項10】
請求項9において、さらに、
陽極に接続され、前記電子ビーム電流の制御に利用される電流計、
を備える電離真空計。
【請求項11】
電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間を形成する筒状のワイヤグリッドを含む陽極構造体と、
電子の種を生成する装置、および前記電子の種を生成する装置からの電子を増倍する電子増倍装置を含む、電子を生成する生成源と、
前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する収集電極と、
を備えており、
前記収集電極および前記生成源の一方は前記陽極構造体の内側に配置されており、前記収集電極および前記生成源の他方は前記陽極構造体の外側に配置されている電離真空計。
【請求項12】
請求項11において、前記筒状のワイヤグリッドが、少なくとも1つの支柱体に接続された複数の円状ワイヤとして構成されている電離真空計。
【請求項13】
請求項11において、前記電子を生成する生成源は前記陽極構造体の外側に配置され、前記収集電極は前記陽極構造体の内側に配置されている電離真空計。
【請求項14】
請求項13において、さらに、
前記陽極構造体の外側に配置された第2の収集電極、
を備える電離真空計。
【請求項15】
請求項11において、前記電子を生成する生成源は前記陽極構造体の内側に配置され、前記収集電極は前記陽極構造体の外側に配置されている電離真空計。
【請求項16】
請求項11において、前記収集電極によって収集される電流が、圧力信号を形成する電離真空計。
【請求項17】
請求項11において、前記電子を増倍する電子増倍装置が、マイクロチャンネルプレートを有する電離真空計。
【請求項18】
電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間を形成する筒状のワイヤグリッドを含む陽極構造体と、
マイクロチャンネルプレートを含む電子生成アレイと、
を備え、前記マイクロチャンネルプレートは、種となる電子を生成する生成源を有する電子生成部、および前記電子生成部によって生成された前記種となる電子を受けて前記電子を増倍する電子増倍部を備えており、
さらに、
前記陽極構造体の内側に配置され、前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する収集電極、
を備える電離真空計。
【請求項19】
請求項18において、前記筒状のワイヤグリッドが、少なくとも1つの支柱体に接続された複数の円状ワイヤとして構成されている電離真空計。
【請求項20】
請求項18において、前記電子を生成する生成源は前記陽極構造体の外側に配置され、前記収集電極は前記陽極構造体の内側に配置されている電離真空計。
【請求項21】
請求項20において、さらに、
前記陽極構造体の外側に配置された第2の収集電極、
を備える電離真空計。
【請求項22】
請求項18において、前記電子を生成する生成源は前記陽極構造体の内側に配置され、前記収集電極は前記陽極構造体の外側に配置されている電離真空計。
【請求項23】
請求項18において、前記収集電極によって収集される電流が、圧力信号を形成する電離真空計。
【請求項24】
電子を生成して増倍する電子生成アレイ手段と、
電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間を形成する筒状のワイヤグリッドを含む陽極手段と、
前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する収集電極手段と、
圧力測定のために、前記収集されたイオンから信号を形成する手段と、
を備える電離真空計。
【請求項25】
気体の化学種から気体の圧力を測定する方法であって、
マイクロチャンネルプレートの電子生成部を含む電子生成アレイを用いて電子を生成する過程と、
前記マイクロチャンネルプレートの電子増倍部を用いて電子を増倍する過程と、
前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを、収集電極を用いて収集する過程と、
前記収集されたイオンから圧力信号を形成する過程と、
を備える気体圧力測定方法。
【請求項26】
請求項25において、さらに、
プレート状の陽極とこれに平行なプレート状のイオン収集手段との間で電子を生成する過程と、
前記平行なプレート状のイオン収集手段で前記イオンを収集する過程と、
を備える気体圧力測定方法。
【請求項27】
請求項25において、さらに、
電子を、表面処理が施されたマイクロチャンネルプレートに通すことで当該電子を増倍する過程、
を備える気体圧力測定方法。
【請求項28】
気体の化学種から気体の圧力を測定する方法であって、
電子の種を生成する装置を含む、電子を生成する生成源を用いて、電子を生成する過程と、
前記電子を増倍する過程と、
前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを、収集電極を用いて収集する過程と、
前記収集されたイオンから圧力信号を形成する過程と、
を備え、
前記収集電極および前記生成源の一方を、電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間を形成する筒状のワイヤグリッドを含む陽極構造体の内側に配置し、前記収集電極および前記生成源の他方を、前記陽極構造体の外側に配置することを含む、気体圧力測定方法。
【請求項29】
請求項28において、前記電子を生成する生成源を、前記陽極構造体の外側に配置し、前記収集電極を、前記陽極構造体の内側に配置することを含む、気体圧力測定方法。
【請求項30】
請求項28において、前記電子を生成する生成源を、前記陽極構造体の内側に配置し、前記収集電極を、前記陽極構造体の外側に配置することを含む、気体圧力測定方法。
【請求項31】
請求項28において、さらに、
電子を、表面処理が施された少なくとも1つのマイクロチャンネルプレートに通すことで当該電子を増倍する過程、
を備える気体圧力測定方法。
【請求項32】
請求項28において、さらに、
少なくとも1つのダイノードを用いて電子を増倍する過程、
を備える気体圧力測定方法。
【請求項33】
請求項28において、さらに、
前記陽極構造体の外側に配置された第2の収集電極を用いて、イオンを前記陽極構造体の外側で収集する過程、
を備える気体圧力測定方法。
【請求項34】
基板を用意する過程と、
真空引きされる装置内で前記基板に対して処理を行うために、前記真空引きされる装置を真空引きする過程と、
圧力を測定する過程と、
を備え、
前記圧力測定過程は、
電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間を形成する筒状のワイヤグリッドを含む陽極構造体と、
電子の種を生成する装置、および前記電子の種を生成する装置からの電子を増倍する電子増倍装置を含み、前記陽極構造体の外側に配置された、電子を生成する生成源と、
前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する、前記陽極構造体の内側に配置された収集電極と、を用意し、
さらに、
前記真空引きされた装置内で前記基板に対して処理を行い、処理された基板を形成する過程、
を備える方法。
【請求項35】
基板を用意する過程と、
真空引きされる装置内で前記基板に対して処理を行うために、前記真空引きされる装置を真空引きする過程と、
圧力を測定する過程と、
を備え、
前記圧力測定過程は、
種となる電子を生成する生成源を有する電子生成部、および前記電子生成部によって生成された前記種となる電子を受けて前記電子を増倍する電子増倍部を備えたマイクロチャンネルプレートを含む電子生成アレイと、
前記電子が気体の化学種と衝突するイオン化体積空間と、
前記電子と前記気体の化学種との衝突によって形成されたイオンを収集する収集電極と、を用意し、
さらに、
前記真空引きされた装置内で前記基板に対して処理を行い、処理された基板を形成する過程、
を備える方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−508211(P2011−508211A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539468(P2010−539468)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/013790
【国際公開番号】WO2009/085165
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(398029692)ブルックス オートメーション インコーポレイテッド (81)
【Fターム(参考)】