説明

凍結乾燥ダビガトラン

本発明は、凍結乾燥状態の式Iで表わされるダビガトラン、ダビガトランエテキシラートの薬力学的効果を求めるアッセイにおけるキャリブレーターとしての前記ダビガトランの使用、ならびに、そのようなアッセイ自体に関する。凍結乾燥標準品を調製する際には、ダビガトランを酸水溶液に溶解した後に凍結乾燥を行う。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥状態の式Iで表わされるダビガトラン、ダビガトランエテキシラートの薬力学的効果を求めるためのアッセイにおけるキャリブレーターとしての前記ダビガトランの使用、ならびに、そのようなアッセイ自体に関する。
【0002】
【化1】

【背景技術】
【0003】
式IIのダビガトランエテキシラート
【化2】

【0004】
は、人工膝関節又は人工股関節全置換術施行患者における血栓塞栓症の予防に有用であり、かつ、特に心房細動患者における脳卒中の予防に適切な経口直接トロンビン阻害剤である。ダビガトランエテキシラートは臨床モニタリングを必要としないが、ダビガトランエテキシラートの薬力学的効果を測定するための信頼性のある臨床方法があれば有用であろう。このような方法を用いれば、人体内での薬剤活性の動態をモニターすることだけでなく、薬剤の用量や投薬量の決定を調整することができる。こうした方法を介して、患者における薬剤の血中濃度を求めることができ、過剰投与を回避するのに有用となろう。そこで、本発明の概括的な目的は、ダビガトランエテキシラートの薬力学的効果を分析するのに有用なアッセイを提供することである。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、具体的には、血液サンプル中のダビガトランを定量的に求める方法に関する。この方法には、精製したヒトトロンビンによって開始される血液凝固時間を求めることが含まれる。
【0006】
ダビガトラン濃度の測定には、以下の分析原理が特に有用であることがわかった。ダビガトラン濃度を測定するには、テスト用血漿サンプルのアリコートを生理的食塩水で希釈する。高度に精製したヒトトロンビン(α型)を一定量添加することにより、凝固が始まる。測定した凝固時間は、試料におけるダビガトラン濃度に正比例している。
本願明細書前記した方法により、検査する血液試料中の活性物質(the active)濃度の測定を可能にするには、凝固時間と試料中のダビガトラン濃度との相関関係が成り立つ検量線が作成されなければならない。
このような検量線の作成を可能にするには、アッセイ製品に、アッセイ製品と一緒に出荷可能な所定濃度のダビガトラン標準溶液が収納される必要がある。本発明では、「ダビガトラン標準溶液」という用語と「ダビガトランキャリブレーター」という用語は置き換えることができる。これらの標準溶液は安定していなければならない。また、標準溶液を-20℃以上で保存した際の薬剤の量は一定でなければならない。信頼性のある検量線の簡単な設定を確実にするには、この標準溶液が容易に試験システムに適用できる必要がある。
【0007】
式Iの化合物(ダビガトラン)は、種々の多形形態(polymorphic forms)で結晶化される傾向がある。また、この化合物は吸湿性であるので、種々の水和物形態をも形成する。この化合物はわずかながら可溶性である。
【0008】
本発明の第1の目的は、血液凝固時間アッセイにおける検量線を設定するためのキャリブレーター又は標準溶液として使用可能な、ある形態のダビガトランを提供することである。
この問題を解決するために、本発明では、ダビガトランを以下のように凍結乾燥状態に変えることを提案するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ダビガトラン濃度が50、100、250、500、1000、1500及び200nMのダビガトラン標準液を基準とした検量線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
所定量のダビガトラン薬剤を酸水溶液(aqueous acid)に溶解して水で希釈する。この溶液は、ダビガトランの様々なキャリブレーターサンプルを調製するための原液として使用する。当該分野で公知の方法を用いて健康な応募供血者(ヒト血漿プール)から得た抗凝固処理したヒト血漿に、前記ダビガトラン原液の異なる量のアリコートを添加してダビガトラン濃度の異なる溶液とする。これらの異なる溶液から指定量を適当な試験管に移し、適切な凍結乾燥装置で完全に乾燥するまで凍結乾燥を行う。
そこで、本発明は、凍結乾燥ダビガトランの製造方法であって、ダビガトランを酸水溶液に溶解する工程と、該溶液を抗凝固処理したヒト血漿に添加する工程と、こうして得られた溶液を凍結乾燥する工程とを含む製造方法に関する。
ダビガトランの溶解に使用する酸水溶液は、そのpH値が3以下であることを特徴とすることが好ましく、更に好ましくはpH2以下である。酸は、好ましくは塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、酢酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸から選択されることが好ましい。特に塩酸が好ましい。
抗凝固処理したヒト血漿は、当該分野で公知の方法にしたがって得ることができる。クエン酸処理したヒト血漿が好適である。
【0011】
本発明の凍結乾燥ダビガトランは容易に元に戻すことができるので、血液サンプル中のダビガトラン濃度を求めるためのキャリブレーターとして有用である。
そこで本発明は、更に、本願明細書前記の方法により得られる凍結乾燥ダビガトランに関するものである。
また、本発明は、アッセイ中のキャリブレーター剤(calibrator agent)としての本発明の凍結乾燥ダビガトランの使用に関するものである。とりわけ、本発明の凍結乾燥ダビガトランの、血液凝固アッセイ中のキャリブレーター剤としての使用に関する。
本発明の凍結乾燥ダビガトランの安定性は、37℃で少なくとも24時間、4℃及び‐20℃では少なくともそれぞれ6カ月であることが既にわかっている。
更に本発明は、凍結乾燥ダビガトランをキャリブレーターとして使用することを含む、血液サンプル中のダビガトラン濃度を求めるアッセイに関する。
また、本発明は、血液サンプルの凝固時間の測定によりダビガトラン濃度を求めることを特徴とする、前記アッセイに関する。更に本発明は、高度に精製したヒトトロンビン(α型)を一定量添加することにより凝固を開始させる、前記アッセイに関する。
本発明の別の目的において、本発明のダビガトランキャリブレーターを有するアッセイキットが提供される。したがって、本発明は更に、本願明細書前記の方法により得られた凍結乾燥ダビガトランの使用を含む、血液サンプル中のダビガトラン濃度を求めるアッセイに関するものである。
更に本発明は、血液サンプル中のダビガトラン濃度を求めるアッセイとともに、本願明細書前記の方法により得られた凍結乾燥ダビガトランとからなるキットに関する。
【0012】
更に本発明は、血液サンプルのダビガトラン濃度を求めるアッセイが、抗凝固処理したヒト血漿である試薬1と高度に精製したヒトトロンビン(α型)を含有する試薬2とを有する、前記キットに関する。別の好適な実施形態において、該キットは、凍結乾燥状態の試薬1と試薬2とを含む。
所定の濃度の凍結乾燥ダビガトラン試料があれば、品質管理システムが利用できる。品質管理試料の凝固時間測定後、検量線を用いてそれぞれのダビガトラン濃度を求めることにより、アッセイの精度をもとめることができる。アッセイ精度は、ダビガトラン品質管理試料の既にわかっているターゲット濃度と、凝固時間と検量線を使って計算したこの品質管理試料の濃度を比較することにより評価される。
そこで、本発明の別の態様は、アッセイ精度を決めるための本発明の凍結乾燥ダビガトランの使用に関する。とりわけ、抗凝固アッセイの精度を決めるための本発明の凍結乾燥ダビガトランの使用に関する。
【実施例】
【0013】
以下の実施例は、本発明を更に詳細に説明するものである。
材料及び方法:
Behnk Elektronik社(ドイツ)のBehnk CL4ボールコアグロメーター2台を使って、血液凝固の時間測定を行った。製造元の操作指示書に沿って装置を使用した。
本発明のアッセイで使用したトロンビン阻害剤アッセイキットは市販品である。本品はHYPHEN BioMed社(フランス)製で、Hemoclot(登録商標)トロンビン阻害剤アッセイとして市販されている。本発明で使用のキット成分は、以下の2種の試薬である。
【0014】
試薬1:一般のクエン酸血漿プール、凍結乾燥品。
試薬2:高度に精製したヒトカルシウムトロンビン(α型)であって、添加剤で安定化させ凍結乾燥したもの。
ダビガトラン血漿サンプルを使った凝固テストの結果は、Excelバージョン2.09の分析方法評価プログラム「Analyse-it」(Analyse-it Software社、PO Box 103, Leeds LS27 7WZイングランド、イギリス連合王国)を用いて評価した。
【0015】
A)凍結乾燥ダビガトランキャリブレーターの調製
式Iで表わされるダビガトラン5.55mgを200μLの1M塩酸に溶解し、超純水で希釈して最終的に50mLとした。このダビガトラン111μg/mLの原液を4℃で保管する。健康な応募供血者(ヒト血漿プール)からのクエン酸ヒト血漿を使って、ダビガトランキャリブレーターを調製する。ダビガトラン原液のアリコートをそれぞれクエン酸ヒト血漿で希釈して、ダビガトラン最終濃度が100、500、1500及び2000nMと異なる溶液にする。
ダビガトラン濃度が100、500、1500及び2000nMのヒト血漿のアリコート500μLをポリプロピレン製試験管に移し、Christ Alpha RVCタイプCMC-2の真空遠心分離機を使って凍結乾燥を行い、約8時間(圧力:3mbar)で完全に乾燥させる。この凍結乾燥ダビガトランキャリブレーターは-20℃で保存する。
【0016】
B)標準溶液の調製(検量線)
ダビガトラン濃度が0(ブランク)、100、500、1500及び2000nMのステップAにより得られたダビガトランキャリブレーターの各バイアルに、0.5mLの超純水を加える。ゆっくり混合する。周囲温度で15分間保温する。
キャリブレーター血漿は、1:8で例えば100μLの標準溶液を700μL生理塩水で希釈しなければならない。
ピペットでキャリブレーターサンプル50μLをコアグロメーターのキュベットに移す(二重反復測定)。
「測定手順」に記載のごとく、各キャリブレーターの測定を行う。
【0017】
C)試薬の調製
サンプル一日あたり量に必要な試薬の量を計算する。試薬1及び試薬2のそれぞれのバイアルを1mLの超純水に溶解する。緩やかに混合し周囲温度で15分間保温する。
調製した試薬の安定性:
試薬1 +18〜+25℃ 24時間
+2〜+8℃ 48時間
−20℃ 2か月
試薬2 +18〜+25℃ 24時間
+2〜+8℃ 48時間
−20℃ 2か月
【0018】
D)血漿サンプルの回収と調製
0.109Mクエン酸三ナトリウム抗凝固剤上に血液サンプルを回収する(血液/クエン酸塩比率9:1)。2.5gでの遠心分離を20分間行った後、血漿上澄みを別の容器に注ぐ。
血漿の安定性:+18〜+25℃ 8時間
+2〜+8℃ 24時間
−20℃以下 6か月まで
最長45分間かけて、温度+37℃でサンプルを解凍する。解凍したサンプルを周囲温度に保つ。血漿サンプルは1:8で、例えば100μLのサンプルを700μL生理食塩水で希釈しなければならない。
【0019】
E)測定手順
ステップBにしたがって調製したキャリブレーターサンプルを使って最初に以下の測定手順を実行する。検量線を作成した後、それにしたがってステップDで調製した血漿サンプルの測定を行う。
サンプル(キャリブレーター又は血漿)をゆっくり撹拌して混合する。50μLの各血漿サンプル(ステップB又はステップDにより得たサンプル)を2つのキュベットに移し入れる(各サンプル二重測定)。ピペットを使って100μLの試薬1(37℃で前保温)をキュベットに入れる。同時に、タイマーを作動させて1分間の保温を開始する。この保温時間終了までに、100μLの試薬2(37℃で前保温)をキュベットに入れる。ストップウォッチをスタートさせる。Behnk CL4ボールコアグロメーター中のボールの回転が止まるまでの時間を測定する(血液凝固時間[sec])。計測器のソフトウェアにより二重反復測定値の平均血液凝固時間 [sec]が計算される。両方の測定と平均血液凝固時間の結果が紙に印刷記録される。
【0020】
F)検量線の作成
表計算プログラム(MS Excel等)を使用し、0(空試料)、100、500、1500及び2000nM(濃度の範囲がさらに広いものや、例えば250nM等の濃度を追加することは可能である)のキャリブレーターサンプルの測定で得られた血液凝固時間を、ダビガトランキャリブレーター濃度に対してプロットし、散布図にする。検量線が線形単回帰分析により設定される。
一例として、それぞれの濃度が50、100、250、500、1000、1500及び200nMのダビガトラン標準液を基準とした検量線を図1に示す。
血液凝固時間を求めることにより、血漿サンプル中のデビガトラン濃度が検量線から直接求められる。
規定濃度が例えば100、500及び1500nMである凍結乾燥デビガトラン試料があれば、品質管理システムとして利用することができる。品質管理試料の血液凝固時間を測定した後、検量線を使って対応するデビガトラン濃度を求めることにより、アッセイ精度を求めることができる。アッセイ精度は、デビガトラン品質管理試料の既に分かっている濃度と、血液凝固時間と検量線を用いて計算したこの品質管理試料の濃度とを比較することにより評価される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結乾燥された下記式(I):
【化1】

のダビガトランの製造方法であって、ダビガトランを酸水溶液に溶解する工程と、前記溶液を抗凝固処理したヒト血漿に添加する工程と、こうして得られた溶液を凍結乾燥する工程とを含む、前記製造方法。
【請求項2】
ダビガトランの溶解に使用する前記酸水溶液のpHが3以下、好ましくは2以下であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酸水溶液が、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、酢酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸から選択される酸、特に好ましくは塩酸を使って調製されることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
抗凝固処理したヒト血漿が、ヒトのクエン酸処理した血漿又はEDTAで血液凝固を阻止した血漿であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により得られる凍結乾燥ダビガトラン。
【請求項6】
請求項5記載の凍結乾燥ダビガトランのキャリブレーター剤としての使用。
【請求項7】
抗血液凝固アッセイにおけるキャリブレーター剤としての、請求項6記載の使用。
【請求項8】
請求項5記載の凍結乾燥ダビガトランを使用する工程を含む、血液サンプル中のダビガトランの濃度測定アッセイ。
【請求項9】
前記ダビガトラン濃度が前記血液サンプルの凝固時間を測定することを介して求められることを特徴とする、請求項8記載のアッセイ。
【請求項10】
高度に精製したヒトトロンビンα型を一定量添加することにより、血液凝固を開始させることを特徴とする、請求項9記載のアッセイ。
【請求項11】
血液サンプル中のダビガトラン濃度を測定するキットであって、血液サンプル中のダビガトラン濃度を測定するアッセイと、請求項5記載の凍結乾燥ダビガトランとからなる、前記キット。
【請求項12】
血液サンプル中のダビガトラン濃度を測定する前記アッセイが、抗凝固処理したヒト血漿である試薬1と、高度に精製したヒトトロンビンα型を含有する試薬2とを含む、請求項11記載のキット。
【請求項13】
前記試薬1及び試薬2が凍結乾燥されている、請求項10記載のキット。
【請求項14】
アッセイの精度を求めるための、請求項5記載の凍結乾燥ダビガトランの使用。
【請求項15】
抗血液凝固アッセイの精度を求めるための、請求項14記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2012−516993(P2012−516993A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546830(P2011−546830)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050925
【国際公開番号】WO2010/086329
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】