説明

凝集処理剤および凝集処理剤水溶液の安定化方法

【課題】 汚泥等の凝集に用いる高分子凝集剤は、使用時の溶解において、溶解水の性状によって溶解時の加水分解およびその後の経時的な加水分解が起こり、正常な凝集性能を発揮できず、したがって作り置きが出来ないなどの問題点を有している。本発明は、溶解した高分子凝集剤の加水分解を抑制し、正常な凝集性能が得られる溶解方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 高分子凝集剤、還元剤および該高分子凝集剤を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを6以下にする量の酸性物質の三成分を組み合わせることからなる凝集処理剤を溶解した水溶液によって安定化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解液が安定な凝集処理剤に関し、詳しくは高分子凝集剤、還元剤および該高分子凝集剤を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを6以下にする量の酸性物質の三成分を組み合わせることによる溶解液が安定な凝集処理剤に関する。また前記凝集処理剤を溶解するに際し、溶解水に還元剤および酸性物質で処理した後、高分子凝集剤を溶解するか、あるいは高分子凝集剤、還元剤および酸性物質を同時に溶解することによる高分子凝集剤溶解液の安定化方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
粉末状高分子凝集剤を下水処理、し尿処理、産業廃水処理、その他の廃水処理に用いる場合、溶解槽で溶解水を用いて溶解し、通常0.1〜0.3%濃度の溶解液とし、これを処理槽に添加する。通常、溶解水はコストの関係から工業用水、河川水、処理水(水処理後の再生水)等が用いられるが、溶解液の性状は溶解水の水質、特に含まれる残留塩素、電解質等の不純物に大きく依存し、これらの種類および濃度によってはイオン性官能基の解離が阻害され、粘度低下や経時的な劣化を起こし、それが凝集性能に影響するという問題点を含んでいる。廃水処理施設では、溶解水として特に処理水を用いる場合が多いが、処理水は塩素殺菌などによる残留塩素や金属塩を含む場合が多い。このため、処理水に限らず、溶解水中の残留塩素、電解質、その他不純物の濃度によって、粘度の低下した溶解液が得られ、全く粘性を示さない溶液が得られる場合もあり、高分子凝集剤の凝集性能を大きく低下させる。また、多くの場合、溶解液調製後、不純物やpHなどの影響を受け、高分子凝集剤の変質や分解による分子量低下が起こり、さらに高分子凝集剤が加水分解により経時的に劣化し、溶解液の粘度低下が進むという問題点もある。このため高分子凝集剤溶解液の作り置きが出来ず、調製後は出来るだけ早く使用しなければならないという不便さがある。
【0003】
以上のように、高分子凝集剤溶解液は、高分子凝集剤溶解時の粘度低下と溶解液調製後の貯蔵時における経時的な粘度低下という問題点を含んでいる。後者の加水分解による経時的な粘度低下を抑制する方法としては、溶解液に酸を加えて、水溶液を酸性領域にする方法が提案されている(特許文献1、2)。しかしながら、これらの方法は溶解時点での粘度低下には対応できない。
【特許文献1】特開昭54−69582号公報
【特許文献2】特開平5−255565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、高分子凝集剤溶解液の性状は、その溶解水の性状に大きく依存し、溶解水に含まれる残留塩素、電解質やその他不純物によって低粘度の溶解液が得られ、さらに経時的に粘度が低下するという問題点を有している。例えば、次亜塩素酸塩で殺菌を行い、残留塩素を多く含有する水の場合には、特に溶解時の粘度低下が激しく、残留塩素濃度によっては、溶解液がほとんど粘性を示さない場合もある。この溶解時の粘度低下は残留塩素、不純物イオンによる高分子凝集剤の反応性の低下や分解により起こり、経時的な粘度低下は主として高分子凝集剤の加水分解によるものと考えられ、この発明では、これらの問題を解決し、正常で安定な凝集性能を発揮する高分子凝集剤および溶解液の安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、高分子凝集剤、還元剤および該高分子凝集剤を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを6以下にする量の酸性物質の三成分を組み合わせたことからなる凝集処理剤を溶解した場合、高分子凝集剤の溶解時点での粘度低下を抑制し、さらに貯蔵時の経時的な粘度低下を抑制できる安定な水溶液が得られることを発見し本発明に達した。
【0006】
また前記凝集処理剤は、高分子凝集剤、還元剤および酸性物質からなる粉末状あるいは顆粒状の混合物であることが好ましい。
【0007】
また本発明は、前記凝集処理剤が溶解水に溶解して水溶液とするに際し、溶解水に前記還元剤と前記高分子凝集剤を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを6以下にする量の酸性物質を溶解した後、前記高分子凝集剤を溶解するか、あるいは高分子凝集剤、還元剤および酸性物質を同時に溶解すると安定な凝集処理剤水溶液が得られることを特徴とする凝集処理剤水溶液の安定化方法にも関する。
【発明の効果】
【0008】
高分子凝集剤水溶液は、溶解水に含まれる残留塩素、電解質、その他不純物の影響により、溶液中の高分子凝集剤が加水分解等の変性を受け、溶解時の粘度低下や経時的な粘度低下を起こし、正常な凝集性能を発揮できなくなる。この問題点を解決するため本発明は以下の方法を提供するものである。すなわち本発明は、高分子凝集剤、還元剤および該高分子凝集剤を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを6以下にする量の酸性物質の三成分を組み合わせることからなる凝集処理剤である。
【0009】
本発明の凝集処理剤は、高分子凝集剤、還元剤および該高分子凝集剤を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを6以下にする量の酸性物質からなる粉末状あるいは顆粒状の混合物にすることができる。該還元剤は、溶解水中の残留塩素を中和還元する性状を有するため、また該酸は高分子凝集剤の加水分解を抑制するため水溶液の安定性を向上させることができる。
【0010】
また本発明の凝集処理剤は、溶解水に溶解して水溶液とするに際し、溶解水に前記還元剤と前記高分子凝集剤を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを6以下にする量の酸性物質を溶解した後、前記高分子凝集剤を溶解するか、あるいは前記高分子凝集剤、前記還元剤および前記酸性物質を同時に溶解することによって凝集処理剤水溶液を安定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で使用する還元剤は、以下のようなものである。すなわちチオ硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、次亜リン酸塩、L−アスコルビン酸またはその塩、あるいはヒドラジン類などである。これらから選択される一種あるいは二種以上の組み合わせである。これら還元剤は、溶解水中の残留塩素を中和還元する性状を有するため、溶解水の性状、特に残留塩素濃度によって異なるが、溶解水に対して、通常5〜500pppmとなる量を添加することによって、その効果を発揮する。この中では、チオ硫酸塩が溶解水中の残留塩素を中和還元し、さらに金属類を取り込む性状を有するため、特に好ましい。これら還元剤の添加量として、高分子凝集剤、還元剤、酸性物質を逐次添加し溶解する場合は、対溶解水0.0005〜0.01質量%であり、好ましくは0.001〜0.005質量%である。また粉末状あるいは顆粒状の混合物として製品を調製する場合は、対高分子凝集剤0.5〜5質量%であり、好ましくは0.5〜2質量%である。
【0012】
また酸性物質は高分子凝集剤を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを6以下にする量の酸性物質である。このような酸性物質の例として、無機あるいは有機の酸として塩酸、硫酸、酢酸、
スルファミン酸、クエン酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸などである。また本発明の凝集処理剤は、高分子凝集剤、酸性物質および還元剤の三成分を含有する粉末状あるいは顆粒状の製品形態にすることが可能である。その場合は固体状の無機あるいは有機の酸が好ましく、スルファミン酸、クエン酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸などが好ましい。これら酸性物質の添加量として、高分子凝集剤、還元剤、酸性物質を逐次添加し溶解する場合は、対溶解水0.001〜0.01質量%であり、好ましくは0.001〜0.005質量%である。また粉末状あるいは顆粒状の混合物として製品を調製する場合は、対高分子凝集剤0.1〜10質量%であり、好ましくは0.5〜5質量%である。
【0013】
本発明で使用する高分子凝集剤は、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤のいずれでも良い。カチオン性高分子凝集剤としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートまたはそれらの4級塩もしくは3級塩の単独重合物、あるいはそれらとアクリルアミドまたはメタクリルアミドとの共重合物、ポリアクリルアミドまたはポリメタクリルアミドのホフマン分解物、ポリアミジンなどが挙げられるが、これらに限定されない。アニオン系高分子凝集剤としては、アクリル酸ナトリウム重合物、アクリル酸ナトリウムまたはメタクリル酸ナトリウムとアクリルアミドまたはメタクリルアミドとの共重合物、アクリルアミド重合物またはメタクリルアミド重合物の部分加水分解物、アクリルアミドまたはメタクリルアミドとアクリル酸ナトリウムまたはメタクリル酸ナトリウムと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムの三元共重合物などが挙げられるが、これらに限定されない。両性高分子凝集剤としては、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーの共重合物、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーとノニオン性モノマーの共重合物、あるいはアニオン性モノマーとカチオン性モノマーの共重合物のマンニッヒ変性物またはホフマン分解物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
溶解水としては、通常、溶解水として用いられる全ての水が対象であり、具体的には廃水処理した処理水、工業用水、河川水、水道水等が挙げられる。特に塩素殺菌した残留塩素を含む処理水に対して大きく効果を発揮する。
【0015】
(実施例)以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
溶解水として下水処理場における処理水(残留塩素:1.8mg/l、蒸発残留物 :980mg/l)を用い、その500mlにカチオン性高分子凝集剤(アクリロルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド60モル%、アクリルアミド40モル%共重合物、分子量700万)1gとチオ硫酸ナトリウムを表1に記載した質量%加え、攪拌下に1時間溶解処理を行う。得られた溶解液に表1に記載したpHになるようスルファミン酸を加えた。この溶解液を室温に放置し、溶解直後、2時間後、8時間後、24時間後、72時間後の計5回サンプリングし、それぞれの粘度を測定する。結果を表1に示す。
【0017】
(比較例1)溶解水として水道水(残留塩素:0.7mg/l、蒸発残留物:122mg/l)を用い、その500mlに実施例で用いたと同様なカチオン性高分子凝集剤1gを加え、攪拌下に1時間溶解処理を行う。得られた溶解液のpHは6.5である。この溶解液を室温に放置し、溶解直後、2時間後、8時間後、24時間後、72時間後の計5回サンプリングし、それぞれの粘度を測定する。結果を表1に示す。
【0018】
(比較例2)溶解水として実施例で用いたものと同じ下水処理場における処理水(残留塩素:1.8mg/l、蒸発残留物 :980mg/l)を用い、その500mlに比較例1と同様のカチオン性高分子凝集剤1gを加え、攪拌下に1時間溶解処理を行う。得られた溶解液のpHは6.6である。この溶解液を室温に放置し、溶解直後、2時間後、8時間後、24時間後、72時間後の計5回サンプリングし、それぞれの粘度を測定する。結果を表1に示す。
【0019】
(比較例3)溶解水として下水処理場Aにおける処理水(残留塩素:1.8mg/l、蒸発残留物 :980mg/l)を用い、その500mlに比較例1と同様のカチオン性高分子凝集剤1gとチオ硫酸ナトリウムを表1に記載した質量%加え、攪拌下に1時間溶解処理を行う。得られた溶解液のpHは6.4である。この溶解液を室温に放置し、溶解直後、2時間後、8時間後、24時間後、72時間後の計5回サンプリングし、それぞれの粘度を測定する。結果を表1に示す。
【0020】
表より比較例1では、溶解直後は高い粘度を示すが、その後徐々に経時的に粘度低下が進むことが分かる。また比較例2では、初期粘度が極めて低く、しかも経時的粘度低下が大きいことが分かる。さらに比較例3では、初期粘度が低く、経時的粘度低下が大きいことが分かる。これらに対し本発明の凝集処理剤では、72時間後でも粘度低下が小さいことが分かる。
【0021】
(表1)溶解液の経時的粘度変化

RCl;残留塩素量、STS;チオ硫酸ナトリウム添加量、SA;スルファミン酸、pH;調製後pH、
【実施例2】
【0022】
(粉末からなる凝集処理剤の調製と溶解液保存試験)表2に記載した質量%で各成分を配合して粉末状凝集処理剤を調製した。またこれら粉末状凝集処理剤を実施例1と同様に溶解水として下水処理場Aにおける処理水(残留塩素:1.8mg/l、蒸発残留物 :980mg/l)を用い0.2質量%に溶解し、経過時間ごとに溶液粘度を測定した。高分子凝集剤組成と配合比を表2に、溶解液保存試験の結果を表3に示す。
【0023】
(比較例4)比較試料―1および比較試料―2に関しても同様な溶解液保存試験を実施した。その結果を表3に示す。
【0024】
(表2)

高分子凝集剤化学組成;モル%、配合比;質量%
【0025】
(表3)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子凝集剤、還元剤および該高分子凝集剤を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを6以下にする量の酸性物質の三成分を組み合わせることからなる凝集処理剤。
【請求項2】
前記凝集処理剤が、高分子凝集剤、還元剤および酸性物質からなる粉末状あるいは顆粒状の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の凝集処理剤。
【請求項3】
前記還元剤がチオ硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、次亜リン酸塩、L−アスコルビン酸またはその塩、ヒドラジン類から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の凝集処理剤。
【請求項4】
前記溶解液を酸性にする酸性物質がスルファミン酸、クエン酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の凝集処理剤。
【請求項5】
請求項1に記載の凝集処理剤を溶解水に溶解して水溶液とするに際し、溶解水に前記還元剤と前記高分子凝集剤を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを6以下にする量の酸性物質を溶解した後、前記高分子凝集剤を溶解するか、あるいは前記高分子凝集剤、前記還元剤および前記酸性物質を同時に溶解することを特徴とする凝集処理剤水溶液の安定化方法。
【請求項6】
前記溶解水が工業用水、河川水、排水処理後の処理水から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項5に記載の凝集処理剤水溶液の安定化方法。






【公開番号】特開2008−18344(P2008−18344A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192644(P2006−192644)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】