説明

処理装置

【課題】DLC−Si膜を形成したブレードを用いた分散機の使用可能時間を従来の倍以上の長時間にできる処理装置を提供すること。
【解決手段】分散機10は、例えば、処理の途中または処理終了後において、DLC−Si膜30に水分33を補給することにより、DLC−Si膜30の表層に水分吸着層32を再生すること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面をDLC−Si膜でコーティングしたブレードを有する容器内に材料を投入し、処理を行う処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モータを駆動源として搭載したハイブリッド車両や電気自動車等の電動車両が普及しつつある。こうした電動車両には、充電や放電を行うための二次電池が搭載されている。二次電池の電極には、帯状の金属箔(基材)の表面に活物質、導電補助材、バインダ、溶媒を含む塗工液を塗工して乾燥させることにより、塗工膜を形成したものが用いられている。この二次電池では、充電や放電を行う際、正極板の塗工膜に含まれる正極活物質と、負極板の塗工膜に含まれる負極活物質との間で、イオンの吸蔵や放出が行われる。イオンの吸蔵や放出を適切に行うためには、塗工膜内において、活物質、導電補助材、バインダ等が均一に分散されている必要がある。そのためには、塗工液の状態において、活物質、導電補助材、バインダ等が、溶媒内に均一に分散されている必要があるため、塗工液を混練、分散させる工程が設けられている。
【0003】
例えば、分散機としては、分散容器内に、ステータが固定され、ロータが回転可能に保持され、ステータに形成されたステータブレードと、ロータに形成されたロータブレードにより、分散容器内に収納される塗工液を分散させる装置が知られている。固定されているステータブレードに、対向して配置されたロータブレードが、高速回転することにより、塗工液に高せん断速度を与えて、活物質、導電補助材、バインダ等を溶媒内に均一に分散させることができる。
しかし、正電極のリチウム活物質は、ビッカース硬度Hv=約1000と非常に高い硬度を有しているため、リチウム活物質が激しい速度で衝突して、分散機のロータブレードやステータブレードが短期間で摩耗する問題があった。
一方、特許文献1に示すように、摺動部材の表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を形成し、DLC膜の表面にSi(シリコン)含有層を設けることにより、耐摩耗性を高め、DLC膜が剥離することを防止する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−001598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分散機のステータブレードやロータブレードの表面に、DLC−Si膜を形成することは、DLC膜の耐摩耗性を高め、DLC膜の剥離を防止する効果をあげることができるのである。しかし、DLC−Si膜を形成した場合であっても、ロータの回転速度を3000rpm以上にあげて、γ=5000〜50000/sといった高いせん断速度を与える等の条件によっては、DLC−Si膜が短時間で摩耗してしまい、耐久性に問題があった。
DLC−Si膜が摩耗により消滅した部分では、ブレードの金属が露出して、金属がリチウム活物質により削られ、塗工液の中に金属(例えば、ステンレス)が混入し、電池の性能を劣化させる恐れがある。
本発明者らの実験によれば、DLC−Si膜の耐久時間は、3000時間程度であり、工程で使用する場合、交換頻度が高く製造コストをアップさせる要因となっていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、DLC−Si膜を形成したブレードを用いた分散機の使用可能時間を従来の倍以上の長時間にできる処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の処理装置は、次のような特徴を有している。
(1)表面をDLC−Si膜でコーティングした金属部材を有する容器内に材料を投入し、処理を行う処理装置において、DLC−Si膜に水分を補給することにより、DLC−Si膜の表層に水分吸着層を再生すること、を特徴とする。
(2)(1)に記載する処理装置において、前記金属部材がブレードであること、を特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載する処理装置において、前記材料が、電池材料である活物質、導電補助材、バインダ、及び溶媒を含むこと、前記処理が、前記処理材料を混練する分散工程であること、を特徴とする。
(4)(3)に記載する処理装置において、前記活物質は、金属酸化物よりなること、を特徴とする。
(5)(3)または(4)に記載する処理装置において、前記水分補給を行った後、前記水分吸着層を形成した以外の水分を、前記溶媒に置換する置換工程を有すること、を特徴とする。
(6)(3)乃至(5)に記載する処理装置のいずれか1つにおいて、前記DLC−Si膜の厚みが5μm以下であること、固定されたステータと、回転するロータを有する分散機であること、前記ロータの回転数が、3000rpm以上、10000rpm以下であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記特徴を有する処理装置は、次のような作用及び効果を奏する。
(1)表面をDLC−Si膜でコーティングした金属部材を有する容器内に材料を投入し、処理を行う処理装置において、例えば、処理の途中または処理終了後において、DLC−Si膜に水分を補給することにより、DLC−Si膜の表層に水分吸着層を再生すること、を特徴とするので、DLC−Si膜の表面に常に、水分吸着層を形成することができるため、水分吸着層が潤滑剤として機能して、リチウム活物質との摩擦抵抗を低減できるため、DLC−Si膜の耐摩耗性を高めることができる。
すなわち、DLC−Si膜の表面には通常、空気中の水分を取り込んで、水分吸着層が形成されている。表面にDLC−Si膜が形成された摺動部材等を空気中で使用している場合には、空気中の水分により、DLC―Si膜の表面に水分吸着層が形成されているため、耐摩耗性は高いのである。
【0009】
しかし、例えば、電池材料用の分散機においては、電池材料が水分を嫌うため、常に溶媒に満たされている。そのため、DLC−Si膜の表面の水分吸着層が、リチウム活物質により除去されたときに、水分吸着層を再生することができず、耐摩耗性が低下していることを、本発明者は、初めて発見したのである。その対策としては、ステータブレード、ロータブレードの表面を空気に晒しても良いのであるが、溶媒を完全に除去するのは時間がかかるため、水と接触させることにより、DLC−Si膜の全ての表面に水分吸着層を短時間で再生することができる。
本発明者の実験によれば、同じ条件で行った従来技術のものの使用可能時間が3000時間であったのと比較して、使用可能時間が6500時間となり、使用可能時間を倍以上に延ばすことができ、分散機におけるブレードの交換時間を倍以上にでき、製造コストを低減することができる。
【0010】
(2)(1)に記載する処理装置において、前記金属部材がブレードであることを特徴とするので、(1)の効果を奏することができる。
(3)(1)または(2)に記載する処理装置において、前記材料が、電池材料である活物質、導電補助材、バインダ、及び溶媒を含むこと、前記処理が、前記材料を混練する分散工程であること、を特徴とするので、硬度の高い活物質を混練する場合であっても、分散機におけるブレードの交換時間を倍以上にでき、製造コストを低減することができる。
(4)(3)に記載する処理装置において、前記活物質は、金属酸化物よりなること、を特徴とするので、硬度の高い金属酸化物を混練する場合であっても、分散機におけるブレードの交換時間を倍以上にでき、製造コストを低減することができる。
(5)(3)または(4)に記載する処理装置において、前記水分補給を行った後、前記水分吸着層を形成した以外の水分を、前記溶媒に置換する置換工程を有すること、を特徴とするので、DLC−Si膜の全表面に水分吸着層を形成した後、水分を溶剤により全て置換できるため、電池材料に水分が混入することを防止できる。
【0011】
(6)(3)乃至(5)に記載する処理装置のいずれか1つにおいて、前記DLC−Si膜の厚みが5μm以下であること、固定されたステータと、回転するロータを有する分散機であること、前記ロータの回転数が、3000rpm以上、10000rpm以下であること、を特徴とする。
リチウム活物質を含む電池材料を分散させる分散機では、DLC−Si膜の剥離を回避するため、DLC−Si膜の厚みを、0.5〜5.0μmにしており、γ=5000〜50000という高いせん断速度を得るため、ロータの回転数を、3000〜5000rpmとしている。そのような分散機としては、過酷な条件で使用した場合であっても、本発明によれば、同じ条件で行った従来技術のものの使用可能時間が3000時間であったのと比較して、使用可能時間が6500時間となり、倍以上に延ばすことができ、分散機におけるブレードの交換時間を倍以上にでき、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】分散機10の断面図である。
【図2】ステータ12の斜視図である。
【図3】ロータ13の斜視図である。
【図4】本発明の混練、分散工程のシステム構成を示す図である。
【図5】水分補給工程の技術的意味を説明するための図である。
【図6】繰り返し試験のデータを示す図である。
【図7】本実施例で使用している電池材料を示すデータ図である。
【図8】DLC−Si膜とリチウム活物質の特性値を示すデータ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るバッチ処理装置の一例である分散機を具体化した実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図4に、本発明の混練、分散工程を示す。混練タンク15の下端に接続する配管21が、三方弁18の第1ポートに接続している。配管21上には、ポンプ25が設けられている。三方弁18の共通ポートは、配管26を介して、分散機10の入口ポート11aに接続している。三方弁18の第2ポートは、配管45を介して、ポンプ28の出口ポートに接続している。ポンプ28の入口ポートは、配管46を介して、三方弁41の共通ポートに接続している。三方弁41の第1ポートは、配管23を介して、水タンク19に接続している。三方弁41の第2ポートは、配管47を介して、溶媒タンク43に接続している。
分散機10の出口ポート11bは、配管27を介して、三方弁17の共通ポートに接続している。三方弁17の第1ポートは、配管20を介して、混練タンク15の上部に接続している。三方弁17の第2ポートは、配管44を介して、三方弁42の共通ポートに接続している。三方弁42の第1ポートは、配管22を介して、水タンク19に接続している。三方弁42の第2ポートは、配管48を介して、排水タンク49に接続している。
混練タンク15の容積は、約20リットル(l)である。混練タンク15には、かき混ぜるための混練羽根16が回転可能に保持されている。混練羽根16は、モータ24により回転される。
【0014】
図1に、分散機10の断面図を示す。密閉された分散容器11の下面には、入口ポート11aが形成され、外周上部には、出口ポート11bが形成されている。分散容器11内には、ステータ12が固定されている。また、分散容器11内には、ロータ13が回転可能に保持されている。ステータ12の斜視図を図2に示す。ステータ12は、円板の一面に3列のステータブレード12aが直立している。3列のステータブレード12aは、ステータ隙間12bにより各々、12個に分割されている。ロータ13は、円筒形状であり、3列のロータブレード13aが配置されている。3列のロータブレード13aは、ロータ隙間13bにより各々、12個に分割されている。ロータ13の中心部には、ロータボス13cが形成されている。ロータボス13cに回転軸14が接続されている。回転軸14は、図示しないモータにより回転される。図1に示すように、3列のロータブレード13aは、3列のステータブレード12aと互い違いに入り込んで配置されている。
分散機10内に入る塗工液の体積は、約500ccである。ポンプ25の能力は、20〜60リットル/分(l/m)である。
【0015】
ロータブレード13a、及びステータブレード12aは、ステンレス(SUS)製であり、表面に5μmの厚みのDLC−Si膜が形成されている。図8に示すように、DLC−Si膜のビッカース硬度は、Hv=2000〜2400である。
本実施例で使用している電池材料を図7に示す。活物質は、金属酸化物である。本実施例では、金属酸化物として、例えば、リチウム活物質であるLiNi0.33Co0.33Mn0.33を分量90使用している。その代表特性は、D50 5μmである。導電助材は、アセチレンブラックを分量2使用している。その代表特性は、一次粒径が50nmである。バインダは、PVDFを分量8使用している。その代表特性は、分子量30万である。溶媒は、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を分量100使用している。
図8に、DLC−Si膜とリチウム活物質の特性値を示す。ここで、リチウム活物質のビッカース硬度は、図8に示すように、Hv=約1000であり、導電助材の硬度は、Hv=約100である。
【0016】
ロータブレード13aの回転数は、本実施例では、3000rpm以上、10000rpm以下としている。すなわち、ロータブレード13aの外周面は、ステータブレード12aの内周面と近接して配置され、ロータブレード13aの内周面は、ステータブレード12aの外周面と近接して配置され、3000rpm〜10000rpmの回転数で回転されているため、ロータブレート13aとステータブレード12aの近接した隙間にある塗工液には、3000〜6000/s(秒)のせん断速度が付加される。この高いせん断速度により、塗工液では、溶媒内で、活物質、導電助材、バインダが均一に分散される。ここで、せん断速度とは、ロータブレード13aのステータブレード12aに対する相対速度(単位m/s)を、ロータブレート13aとステータブレード12aとの間の隙間の長さ(単位m)で除した数値である。
【0017】
次に、図4の構成を有するシステムの運転方法について説明する。
分散工程においては、三方弁18の共通ポート(配管26)と第1ポート(配管21)を連通し、三方弁17の共通ポート(配管27)と第1ポート(配管20)を連通することにより、混練タンク15から、配管21、ポンプ25、三方弁18、配管26、分散機10、配管27、三方弁17、配管20を介して、混練タンク15に戻るラインができる。そして、ポンプ25を駆動することにより、混練タンク15内の塗工液が、20リットル/分の流量で、分散機10に供給される。入口ポート11aから供給された塗工液は、ロータ隙間13b、ステータ隙間12bを通過して、出口ポート11bから排出される。
分散機10内では、塗工液は、ステータブレード12aとロータブレード13aにより高いせん断速度、5000〜50000/sが付加される。塗工液は、高いせん断速度が付加されることにより、溶媒内で、リチウム活物質、導電補助材、バインダが均一に分散される。本実施例では、この分散工程を10時間連続で行っている。
【0018】
分散工程を10時間連続して行った後、水分供給工程に移行する。すなわち、三方弁18を切り換えて、共通ポート(配管26)と第2ポート(配管45)を連通した状態とし、三方弁18を切り換えて、共通ポート(配管27)と第2ポート(配管44)を連通した状態とする。
同時に、三方弁41は、共通ポート(配管46)と第1ポート(配管23)が連通した状態とし、三方弁42は、共通ポート(配管44)と第1ポート(配管22)が連通した状態とする。これにより、水タンク19から、配管23、三方弁41、配管46、ポンプ28、配管45、三方弁18、配管26、分散機10、配管27、三方弁17、配管44、三方弁42、配管22を介して、水タンク19に戻るラインができる。そして、ポンプ28を駆動することにより、水が分散機10に供給される。これにより、DLC−Si膜に水分が補給される。
その技術的意味を図5に基づいて説明する。図5(a)は、分散工程が終了した直後の、DLC−Si膜の状態を示している。DLC−Si膜30の表面には、シリカ(SiO)が形成されており、それが水分を吸着していると考えられる。
DLC−Si膜30の表面の一部には、DLC−Si膜中のSiと結合したOH(水分中のOH)により、水分吸着層31が形成されている。しかし、DLC−Si膜が一部欠落している表面30aには、シリカが少ないため、水分吸着層31が少ないと考えられる。
【0019】
リチウム活物質が、水分吸着層31の存在する表面に、激しい速度で衝突したときには、水分吸着層31が、潤滑剤の役割をして摩擦抵抗を低減するため、耐摩耗性が高く、表面が損傷されることが少ない。それに対して、リチウム活物質が、水分吸着層31が少ない表面に、激しい速度で衝突したときには、水分吸着層31による摩擦抵抗の低減がないため、DLC−Si膜が直接損傷されてしまう。
本実施例では、そのような状態になる前に、水分補給を行っている。(b)に分散機10に水分が供給され、DLC−Si膜30の表面に水分33が付着した状態を示している。DLC−Si膜の表面に水分33が供給されることにより、(c)に示すように、DLC−Si膜の一部欠落した表面30aにも、DLC―Si膜中のSiと結合したOH(水分中のOH)により、水分吸着層32が形成される。これが、水分補給工程である。
【0020】
次に、ポンプ28を停止させ、三方弁41を切り換えて、共通ポート(配管46)と第2ポート(配管47)とを連通させ、三方弁42を切り換えて、共通ポート(配管44)と第2ポート(配管48)とを連通させる。これにより、溶媒タンク43、配管47、三方弁41、ポンプ28、配管45、三方弁18、配管26、分散機10、配管27、三方弁17、配管44、三方弁42、配管48、排水タンク49のラインができる。そして、ポンプ28を駆動することにより、溶媒が分散機10内に供給され、分散機10内、配管26内、配管27内、三方弁18内、及び三方弁17内にあった水分が溶媒に置換される。これが、置換工程である。
【0021】
次に、ポンプ28を停止させ、三方弁17を切り換えて、共通ポート(配管27)と第1ポート(配管20)とを連通させ、三方弁18を切り換えて、共通ポート(配管26)と第1ポート(配管21)とを連通させる。そして、ポンプ25を駆動することにより、再び、分散工程を行う。分散工程は、約10時間連続して行う。
ここで、分散工程を行うときに、分散機10のステータブレード12aとロータブレード13aの表面に形成されているDLC−Si膜が、図5(c)のように、DLC−Si膜の一部欠落した表面にも、水分吸着層32が形成されているため、分散工程において、リチウム活物質が激しい速度で衝突しても、水分吸着層32,31が、潤滑剤の役割を果たして、摩擦抵抗を低減するため、DLC−Si膜の耐摩耗性、耐久性を高めることができる。
【0022】
次に、本実施例の効果について説明する。図6に本実施例の効果を繰り返し試験のデータで示す。
(DLC−Siのみ)が、従来のシステムのデータであり、(DLC−Si+水洗浄)が本実施例のシステムのデータである。
実験においては、使用しているDLC−Si膜、材料、装置等は、両システムで全く同じであり、相違しているのは、水補給(水洗浄)の有無のみである。
分散工程を100時間行う毎に、ステータブレード12a、ロータブレート13aを破断して、断面観察を行い、摩耗量を測定して、使用可能時間を推定した。
従来のシステムでは、分散工程のみを100時間連続的に行うことを繰り返す実験を行った。これによると、3000時間を経過した時点で、DLC−Si膜の剥離が見られ、限界であることがわかった。
一方、本実施例のシステムでは、分散工程を10時間行った後、水補給工程、置換工程を行い、再び分散工程を行うことを10回繰り返すシステムである。本実施例のシステムによれば、6500時間を経過した時点で、DLC−Si膜の剥離が見られた。
本実施例によれば、従来のシステムと比較して2倍以上の長時間、DLC−Si膜を使用することができることがわかった。
【0023】
以上詳細に説明したように、(1)(2)本実施例の分散機10によれば、例えば、処理の途中または処理終了後において、DLC−Si膜30に水分33を補給することにより、DLC−Si膜30の表層に水分吸着層32を再生すること、を特徴とするので、DLC−Si膜30の表面に常に、水分吸着層31,32を形成することができるため、リチウム活物質との摩擦抵抗を低減できるため、DLC−Si膜30の耐摩耗性を高めることができる。
すなわち、DLC−Si膜30の表面には通常、空気中の水分を取り込んで、水分吸着層31が形成されている。表面にDLC−Si膜が形成された摺動部材等を空気中で使用している場合には、空気中の水分により、DLC―Si膜の表面に水分吸着層が形成されているため、耐摩耗性は高いのである。
【0024】
しかし、分散機10においては、電池材料が水分を嫌うため、常に溶媒に満たされている。そのため、DLC−Si膜30の表面の水分吸着層31が、リチウム活物質により除去されたときに、水分吸着層を再生することができず、耐摩耗性が低下していることを、本発明者は、初めて発見したのである。その対策としては、ブレード表面を空気に晒しても良いのであるが、溶媒を完全に除去するのは時間がかかるため、水と接触させることにより、DLC−Si膜30の全ての表面に水分吸着層31,32を短時間で再生することができる。
本発明者の実験によれば、同じ条件で行った従来技術のものの使用可能時間が3000時間であったのと比較して、使用可能時間が6500時間となり、倍以上に延ばすことができ、分散機けるブレードの交換時間を倍以上にでき、製造コストを低減することができる。
【0025】
(3)(1)または(2)に記載する処理装置において、前記材料が、電池材料である活物質、導電補助材、バインダ、及び溶媒を含むこと、処理が、材料を混練する分散工程であること、を特徴とするので、硬度の高い活物質を混練する場合であっても、分散機におけるブレードの交換時間を倍以上にでき、製造コストを低減することができる。
(4)(3)に記載する処理装置において、活物質は、金属酸化物よりなること、を特徴とするので、硬度の高い金属酸化物を混練する場合であっても、分散機におけるブレードの交換時間を倍以上にでき、製造コストを低減することができる。
(5)(3)または(4)に記載する処理装置において、水分補給を行った後、水分吸着層31,32を形成した以外の水分を、溶媒に置換する置換工程を有すること、を特徴とするので、DLC−Si膜30の全表面に水分吸着層31,32を形成した後、水分を溶剤により全て置換できるため、電池材料に水分が混入することを防止できる。
【0026】
(6)(3)乃至(5)に記載する処理装置のいずれか1つにおいて、DLC−Si膜30の厚みが5μm以下であること、固定されたステータ12と、回転するロータ13を有する分散機10であること、ロータ13の回転数が、3000rpm以上、10000rpm以下であること、を特徴とする。
リチウム活物質を含む電池材料を分散させる分散機10では、DLC−Si膜30の剥離を回避するため、DLC−Si膜30の厚みを、0.5〜5.0μmにしており、γ=5000〜50000という高いせん断速度を得るため、ロータ13の回転数を、3000〜5000rpmとしている。そのような分散機としては、過酷な条件で使用した場合であっても、本実施例によれば、同じ条件で行った従来技術のものの使用可能時間が3000時間であったのと比較して、使用可能時間が6500時間となり、倍以上に延ばすことができ、分散機におけるブレードの交換時間を倍以上にでき、製造コストを低減することができる。
【0027】
なお、上記した実施形態及びその変更例は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
例えば、本実施例では、電池材料の分散機10について説明したが、空気や水に接触する機会の無い密閉容器内でDLC−Si膜を使用する場合には、どのような場合でも、本発明を適用することが可能である。
また、本実施例では、10時間毎に、処理の途中で水補給工程を挿入しているが、20時間程度の処理作業ならば、処理作業終了後に、水補給を行うようにしても良い。
また、本実施例では、DLC―Si膜30の厚みを5μmとしているが、0.5〜5μmの範囲でならば、分散機10に使用可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 分散機
11 分散容器
12 ステータ
12a ステータブレード
13 ロータ
13a ロータブレード
15 混練タンク
17、18、41、42 三方弁
19 水タンク
30 DLC−Si膜
31、32 水分吸着層
33 水分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面をDLC−Si膜でコーティングした金属部材を有する容器内に材料を投入し、処理を行う処理装置において、
前記DLC−Si膜に水分を補給することにより、前記DLC−Si膜の表層に水分吸着層を再生すること、
を特徴とする処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載する処理装置において、
前記金属部材がブレードであること、
を特徴とする処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する処理装置において、
前記材料が、電池材料である活物質、導電補助材、バインダ、及び溶媒を含むこと、
前記処理が、前記材料を混練する分散工程であること、
を特徴とする処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載する処理装置において、
前記活物質は、金属酸化物よりなること、
を特徴とする処理装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載する処理装置において、
前記水分補給を行った後、前記水分吸着層を形成した以外の水分を、前記溶媒に置換する置換工程を有すること、
を特徴とする処理装置。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5に記載する処理装置のいずれか1つにおいて、
前記DLC−Si膜の厚みが5μm以下であること、
固定されたステータと、回転するロータを有する分散機であること、
前記ロータの回転数が、3000rpm以上、10000rpm以下であること、
を特徴とする処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−250186(P2012−250186A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125289(P2011−125289)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】