説明

凹凸を有するフッ化樹脂組成物およびその製造方法

【課題】接着性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れたフッ化樹脂組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】フッ化樹脂組成物において、該樹脂組成物の表面に複数の孔を有し、かつ平均粒子径が0.5〜200μmのアラミド微粒子を該フッ化樹脂全重量に対し5〜69重量%含有することを特徴とする凹凸を有するフッ化樹脂組成物とする。また、上記の凹凸を有するフッ化樹脂組成物の製造方法において、フッ化樹脂の粉末またはペレットに、平均粒子径が0.5〜200μmのアラミド微粒子を該フッ化樹脂重量に対し5〜70重量%混合し、圧縮成型して樹脂組成物とした後、該樹脂組成物を、溶剤に浸漬しアラミド微粒子の一部を溶出して、該樹脂組成物の表面に複数の孔を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化樹脂などの樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、表面を微細かつ均一に凹凸化し接着性を向上させると同時に耐摩耗性をも向上させた凹凸を有するフッ化樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂などの接着方法については、接着面を機械的に粗面化し、その表面を薬品等で処理して活性化するなどした後、接着剤を用いて接着する方法などが採用されている。また、他の方法として特許文献1に開示されているように、接着前に硬質固体超微粒子を混入して接着力を向上させる方法も採用されている。
しかしながら、ポリテトラフルオロエチレンなどに代表されるフッ化樹脂は、その性状から、金属などの異種素材と接着が難しく、上記方法では、接着力を向上させる効果は小さいものであった。
【0003】
上記の問題を解決するため、例えば、特許文献2には、特にポリテトラフルオロエチレンなどの難接着性樹脂と金属とを接着させるようにした接着方法において、前記難接着性樹脂を溶融しつつ前記金属に圧接させて保持した後、冷却凝固させることによって、前記難接着性樹脂と金属とを直接接着する方法が開示されている。しかしながら、前記の方法では接着する際に加圧しつつ380℃という高温に加熱しなければならず、大掛かりな装置を必要とするだけでなく、金属の被接着面が粗面であることを利用するため、金属の粗面が均一でないために、十分な接着効果が得られないという問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭53−45810号公報
【特許文献2】特開平4−296536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解決し、接着性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れた凹凸を有するフッ化樹脂組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが検討したところ、高温成形に耐えられるアラミド微粒子を利用することにより、フッ化樹脂組成物の表面に微細孔を形成することを着想し、上記課題を解決するに至った。
【0007】
かくして本発明によれば、フッ化樹脂組成物において、該樹脂組成物の表面に複数の孔を有し、かつ平均粒子径が0.5〜200μmのアラミド微粒子を該フッ化樹脂全重量に対し5〜69重量%含有することを特徴とする凹凸を有するフッ化樹脂組成物、及び、フッ化樹脂の粉末またはペレットに、平均粒子径が0.5〜200μmのアラミド微粒子を該フッ化樹脂重量に対し5〜70重量%分散混合し、圧縮成型して樹脂組成物とした後、該樹脂組成物を、溶剤に浸漬しアラミド微粒子の一部を溶出して、該樹脂組成物の表面に複数の孔を形成する凹凸を有するフッ化樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、フッ化樹脂組成物の表面に複数の孔が形成されていることにより、アンカー効果により接着性を向上させることができる。特に、難接着性樹脂と呼ばれるようなポリテトラフルオロエチレンなどの樹脂組成物の接着性を大幅に向上することが可能である。また、フッ化組成物中にアラミド微粒子を残存させることにより、樹脂組成物の耐摩耗性を向上することができるといった効果をも有している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においては、難接着性樹脂と呼ばれるフッ化樹脂組成物を用いる。該フッ化樹脂のポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体などを好適に挙げることができる。なかでも、高耐熱性かつ高耐薬品性を有し、優れた電気絶縁性、摺動性が得られる、ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)が好ましい。
【0010】
本発明のフッ化樹脂組成物において、該樹脂組成物の表面に複数の孔を有し、かつ平均粒子径が0.5〜200μm、好ましくは1〜100μmのアラミド微粒子を該フッ化樹脂全重量に対し5〜69重量%、好ましくは5〜49重量%含有していることが肝要である。この複数の孔のアンカー効果によりを難接着性樹脂であるフッ化樹脂組成物の接着性を向上させることができるのみならず、アラミド粒子を上記含有量で含有していることにより樹脂組成物の耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0011】
したがって、該アラミド微粒子の平均粒子径が0.5μm未満では、二次凝集を起こしやすくなるため均一に分散させるのが難しくなり、樹脂組成物の強度や耐摩耗性が低下する傾向にある。一方、平均粒子径が200μmを越えると、樹脂組成物の強度が低下する傾向にあり、特に樹脂組成物の厚みが小さい組成物である場合、強度が低下しやすく、また、後述する製造方法を用いる場合、表面の凹凸の均一性を損ない、接着効果が十分に得られない恐れがある。
【0012】
本発明に用いるアラミド微粒子においては、粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて求めた平均粒子径D50の値が5μmの場合、標準偏差が2.5μm以下、D50値が10μmの場合、標準偏差が5μm以下、D50値が25μmの場合、標準偏差が12μm以下、D50値が50μmの場合は標準偏差が25μm以下であることが望ましい。特に後述する製造方法を用いる場合、標準偏差は小さければ小さいほど好ましく、これにより、被接着面に均一な凹凸を形成することができ、凹凸の大きさが偏ることに起因する応力集中が避けられることにより接着力を増大することができる。
【0013】
また、該アラミド微粒子は、前述したように樹脂組成物重量に対し5〜69重量%含有されている必要がある。この含有量が5重量%未満では、十分な耐摩耗性が得られない傾向にあり、一方、69重量%を越えると、樹脂組成物の強度が低下する傾向にある。
【0014】
本発明は、フッ化樹脂の粉末またはペレットに、平均粒子径が0.5〜200μmのアラミド微粒子を該フッ化樹脂重量に対し5〜70重量%、好ましくは5〜50重量%混合し、圧縮成型して樹脂組成物とした後、該樹脂組成物を、溶剤に浸漬しアラミド微粒子の一部を溶出して、該樹脂組成物の表面に複数の孔を形成する製造方法により、上記樹脂組成物を得ることを可能としたものである。
【0015】
すなわち、フッ化樹脂においては、PTFEのように、溶融粘度が高く、一般の熱可塑性樹脂のように押出成形や射出成形によって成形することが困難であるが、本発明は、アラミド微粒子を用いることによって、高温での圧縮成形が可能となり、後で該微粒子を溶出させて、樹脂組成物の表面に複数の孔を有するフッ化樹脂の成形できることを見出したものである。また、上記製造方法においては、アラミド微粒子の溶出量を調整することで、該微粒子を樹脂組成物中に5〜69重量%、好ましくは5〜49重量%残存させることができる。
【0016】
本発明においては、樹脂組成物を成型する際に360〜380℃以上の高温で加圧焼成する必要があることから、400℃もの高温に耐えうる、パラ系またはメタ系芳香族ポリアミド微粒子、特に樹脂組成物の強度や摩耗性に点からパラ系の芳香族ポリアミド微粒子、すなわち、ポリパラフェニレンテレフタルアミド微粒子、または、これに第3成分を共重合したポリパラフェニレンテレフタルアミド共重合体微粒子を用いるのが好ましい。なかでも、より平均粒子径の小さい微粒子を作製することが可能であるという理由から、下記式に示すコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドが好ましく例示される。
【0017】
【化1】

(ここで、m及びnは正の整数を表す。)
【0018】
上記製造方法の観点からも、アラミド微粒子として、平均粒子径が0.5〜200μmのものを用いることが好ましく、平均粒子径が0.5μm未満では、二次凝集を起こしやすくなるため均一に分散させるのが難しくなる傾向にあり、一方、平均粒子径が200μmを越えると、表面に形成する凹凸の均一性が損なわれやすく、十分な接着効果が得られない恐れがある。
【0019】
また、上記製造方法では、アラミド微粒子を樹脂組成物重量に対し5〜70重量%含有させるが、この含有量が5重量%未満では、被接着面において十分な凹凸を成形できず十分な接着効果が得られない恐れがあり、一方、70重量%を越えると、表面の凹凸の均一性を損ない、十分な接着効果が得られない恐れがある。
【0020】
本発明に用いるフッ化樹脂は、加熱しても溶融しないため、一般に次のような方法が多くとられている。すなわち、例えば、パイプ形状の金型中に、粉末状樹脂を投入し圧縮成型したのち、360℃〜380℃で焼成し、金型より取り出し、そのまま冷却して、機械加工などで必要な形状に仕上げる方法である。かかる方法で得られたパイプ状のビレットは、これをスライス加工することにより、帯状のスカイビングシートとすることができる。本発明の製造方法においては、アラミド微粒子を、フッ化樹脂の粉末状またはペレットのあらかじめ分散混合させた後で、圧縮成型を行うことができる。
【0021】
上記により得られた組成物は、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)等の溶媒に浸漬させることにより微粒子を溶解する必要がある。さらに、塩化カルシウム、塩化リチウムなどの塩を溶媒に添加することにより、溶解しやすくなる。塩の添加量としては溶媒量に対して1〜10重量%であることが好ましく、1重量%以下ではその効果が発揮されない恐れがあり、10%以上では、洗浄後に塩が残留する恐れがあるため好ましくない。その後水洗することにより、溶解物を取り除き目的の樹脂組成物を得ることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
【0023】
(1)微粒子の平均粒子径、標準偏差
粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて平均粒子径D50の値を求めた。D50値は次のように定義される。
D50:一つの粉体の集合を仮定し、その粒度分布が求められている場合、その粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径
また、標準偏差は上記の以下の式によって求めた。
標準偏差=(D84−D16)/2
D84:累積カーブが84%となる点の粒子径
D16:累積カーブが16%となる点の粒子径
【0024】
(2)樹脂組成物の接着性(引張せん断強度、破壊状態)
本発明における樹脂組成物と金属板との接着強度を調べるため、当該樹脂組成物からなるシートと厚さ1mmの一般構造用圧延鋼材(SS400)との引張せん断強度を測定した。両方のサンプルの片方の端に接着剤を塗布し、接着剤非塗布部が重ならず、互いに他端に位置する状態に接着剤塗布部を重ね合わせて接着した。接着剤は二液混合型エポキシ系接着剤(T−E−KLEBETECHNIK社製、商品名「アゴメットP76」のAとBを1対1に混合したもの)を用い、オーブンに入れて80℃、2時間で接着剤を硬化させた。次に、これら接合体について、互いに他端に位置する接着剤非塗布部のそれぞれを引張試験機の二つのチャックで掴み、10mm/分の引張速度で反対方向に引っ張り、接合部が破壊したときの単位面積当たりの応力を引張せん断強度とした。
また、この際の、樹脂組成物の破壊状態を目視により観察した。シート材料自体が破壊した方が、接着界面で剥離したものより接着性に優れている。
【0025】
(3)樹脂組成物の耐摩耗性
JIS K 7218に準拠した方法により、相手材をSUS304またはアルミニウム5052とし、該樹脂成型物の摩耗量を測定した。
【0026】
[実施例1]
ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末(ダイキン工業株式会社製「ポリフロンTMPTFE」)を圧縮成型する際に、粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて求めた平均粒子径D50の値が10.1μmであり、標準偏差が3.4μmであるコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド微粒子(帝人テクノプロダクツ製「テクノーラ」)を、該樹脂中に10重量%の割合で投入し、圧縮成型した後、380℃で焼成することによりパイプ状のビレットを形成し、このビレットをスライス加工することにより帯状のスカイビングシートを得た。
さらにこのスカイビングシートを、4重量%の塩化カルシウムを含むN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMP)に60℃下で1日間浸漬させることにより、シート状に露出している該微粒子を溶解させた後、40℃の温水中で超音波洗浄を行い、乾燥させることによって樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。
【0027】
[実施例2]
微粒子として、粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて求めた平均粒子径D50の値が48.4μmであり、標準偏差が21.0μmであるコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド微粒子(帝人テクノプロダクツ製「テクノーラ」)を用いた以外は実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0028】
[実施例3]
微粒子の投入量を樹脂重量に対し20重量%の割合とした以外は実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0029】
[実施例4]
微粒子を、粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて求めた平均粒子径D50の値が150μm、標準偏差が70μmであるポリメタフェニレンイソフタルアミド微粒子(帝人テクノプロダクツ製「コーネックス」)に、溶媒を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に変更した以外は実施例1と同様として樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。
【0030】
[比較例1]
微粒子を投入せず、ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末のみを圧縮成型した後、380℃で焼成することによりパイプ状のビレットを形成し、このビレットをスライス加工することにより、帯状のスカイビングシートを得、これを樹脂組成物とした。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の凹凸を有するフッ化樹脂組成物は、金属等の表面にフッ化樹脂組成物を強固に接着し、耐薬品性、電気絶縁性、摺動性といった性能を付与するのみならず、フッ化樹脂組成物自身の耐摩耗性をも向上することができるものであり、各種用途に広く用いることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化樹脂組成物において、該樹脂組成物の表面に複数の孔を有し、かつ平均粒子径が0.5〜200μmのアラミド微粒子を該フッ化樹脂全重量に対し5〜69重量%含有することを特徴とする凹凸を有するフッ化樹脂組成物。
【請求項2】
フッ化樹脂の粉末またはペレットに、平均粒子径が0.5〜200μmのアラミド微粒子を該フッ化樹脂重量に対し5〜70重量%混合し、圧縮成型して樹脂組成物とした後、該樹脂組成物を、溶剤に浸漬しアラミド微粒子の一部を溶出して、該樹脂組成物の表面に複数の孔を形成する凹凸を有するフッ化樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
溶剤がN−メチル−2−ピロリドン、または、ジメチルアセトアミドである請求項2記載の凹凸を有するフッ化樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−116821(P2011−116821A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273470(P2009−273470)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】