説明

凹凸壁面複製用部材、複製板の作製方法及び複製板、並びに凹凸壁面見本板

【課題】型取りする際の凹凸壁面に対する離型性が良好であり、凹凸壁面の意匠再現性が優れた凹凸壁面見本板を作製可能な凹凸壁面複製用部材、その凹凸壁面複製用部材を用いた複製板の作製方法、及び複製板、並びにその複製板より得られる凹凸壁面見本板を提供すること。
【解決手段】硬化前のゴム硬度が10〜50度、加熱残分が25〜70質量%以上、かつ、600℃、1時間燃焼させた際の灰分が燃焼前の乾燥質量に対して30〜90質量%である、硬化性形成材からなる、凹凸壁面複製用部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸壁面複製用部材、当該部材を用いた複製板の作製方法、及びその方法により得られる複製板、並びにその複製板に塗料を塗布して得られる凹凸壁面見本板に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅外壁に使用されるサイディングボードは、石材調や木材調に代表される様々な凹凸意匠を有するものが増加している。例えば、スプレー塗装、ロールコーター塗装、フローコーター塗装、スパッタ塗装、グラビア印刷、グラオフ印刷、インクジェット印刷等の塗装及び印刷方法を組み合わせて得られる、凹凸高低差を利用した多彩な凹凸意匠付サイディングボードが知られている。また、これらのサイディングボードに塗布される塗料として、塗料の中に数種類の色相の異なる意匠ゲルを混合して、一回の塗装で多彩意匠を得る事ができる塗料についても知られている(特許文献1参照)。
【0003】
一方、これらのサイディングボードが劣化した際の補修方法としては、劣化状態が軽微な場合は、新設時の意匠を活かす為に、クリヤー塗料によるメンテナンスが可能である。しかしながら、塗膜の剥離や割れが生じた劣化状態が重度の場合は、単色全面塗装、もしくは、凹凸面の凹部と凸部を塗り分ける2色ツートン塗装を選択せざるを得ない。当該選択に際し、塗装を行う前に、事前に塗装後の仕上がり外観を把握したいというニーズが存在する。
【0004】
仕上がり外観を把握するために、例えば、用いる塗料を小面積の平面板に塗布して平面見本板を作製し、この平面見本板から仕上がり外観を把握する方法が知られている。しかしながら、平面見本板には実際の凹凸意匠が再現されていないため、平面見本板と、実際の凹凸壁面に塗装された仕上がり外観とが異なり、意匠再現性に問題があった。
【0005】
他に、凹凸壁面を有する外壁を2次元画像として取り込み、コンピュータグラフィックスにより事前の仕上がり外観を予測する手法も知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、建造物全体のイメージを捕らえる事が可能であっても、凹凸壁面には凹凸の高低差があるため、2次元画像により仕上がり外観を正確に把握することはできず、意匠再現性の向上には至らない。
【0006】
他に、実際の建築物の凹凸壁面にシリコーン樹脂を圧着させ、該シリコーン樹脂から型枠を作製し、この型枠の型面に石膏等の耐熱材料を流し込み、該耐熱材料を固化させて、実際の凹凸壁面の凹凸意匠が再現された見本板を用いる方法が知られている(特許文献2の段落0008参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−44991号公報
【特許文献2】特開平11−91233号公報
【非特許文献1】日本ペイント株式会社ホームページ内 ハナコレクション カラーシミュレーション(http://www.hanacole.com/simulation/simulation.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2記載の方法は、シリコーン樹脂を用いて凹凸意匠の型取りを行っているが、シリコーン樹脂の離型性に問題がある。つまり、型取り後に、凹凸壁面にシリコーン樹脂の一部が残存し、凹凸壁面表面が汚染されてしまう。凹凸壁面にシリコーン樹脂が残存すると、実際の壁面の塗装を行う際に、塗料が弾かれ外観不良となる場合や、塗膜の密着性が著しく低下し、塗膜の剥がれの原因となる場合等がある。
【0009】
本発明は、上記問題を鑑み、型取りする際の凹凸壁面に対する離型性が良好であり、凹凸壁面の意匠再現性が優れた凹凸壁面見本板を作製可能な凹凸壁面複製用部材、その凹凸壁面複製用部材を用いた複製板の作製方法、及び複製板、並びにその複製板より得られる凹凸壁面見本板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特定の硬化性形成材からなる凹凸壁面複製用部材が、上記問題を解決することを見出した。即ち、本発明は、下記[1]〜[4]を提供するものである。
[1]硬化前のゴム硬度が10〜50度、加熱残分が25〜70質量%、かつ、600℃、1時間燃焼させた際の灰分が燃焼前の乾燥質量に対して30〜90質量%である、硬化性形成材からなる、凹凸壁面複製用部材。
[2]上記[1]に記載の凹凸壁面複製用部材を用いた複製板の作製方法であって、凹凸壁面に前記硬化性形成材を圧着させ、該硬化性形成材に凹凸壁面の凹凸形状を転写させ、凹凸壁面から離型し凹凸壁面とは凹凸が反転した形状の凹凸面を有する凹凸壁面複製用部材を得た後、該凹凸壁面複製用部材の凹凸面側に、離型剤を塗布し離型剤層を形成した後、該離型剤層上に硬化性複製板形成材を積層し、該硬化性複製板形成材を硬化させた後、該凹凸壁面複製用部材から離型して得られる、複製板の作製方法。
[3]上記[2]に記載の複製板の作製方法により得られる、複製板。
[4]上記[3]に記載の複製板に、塗料を塗布して得られる、凹凸壁面見本板。
【発明の効果】
【0011】
本発明の凹凸壁面複製用部材は、型取りする際の凹凸壁面に対する離型性が良好であり、凹凸壁面の意匠再現性の優れた凹凸壁面見本板を作製することができる。そのため、本発明の凹凸壁面複製用部材を用いて作製した凹凸壁面見本板を用いることで、建築物等の凹凸壁面に塗装を施す前に、塗装後の仕上がり外観を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で作製した凹凸壁面見本板の写真である。
【図2】比較例1で作製した合成画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[凹凸壁面複製用部材]
本発明の凹凸壁面複製用部材は、硬化前のゴム硬度が10〜50度、加熱残分が25〜70質量%、かつ、600℃、1時間燃焼させた際の灰分が燃焼前の乾燥質量に対して30〜90質量%である、硬化性形成材からなる。本発明において、硬化性形成材のゴム硬度、加熱残分、及び灰分は、実施例に記載された測定方法に基づく値である。また、硬化性形成材とは、硬化前は所望の形状に変形可能な硬度を有しているが、乾燥処理や加熱処理等の硬化処理により硬化が進行し、硬化後は形状が保持できる材料を意味する。つまり、本発明でいう硬化とは、凹凸壁面複製用部材の形状が保持できる状態をいう。
【0014】
本発明の硬化性形成材の硬化前のゴム硬度は10〜50度である。硬化前のゴム硬度が10度未満の場合、凹凸壁面から離型時に、硬化性形成材に転写された凹凸意匠が崩れやすく、意匠再現性が悪化する。一方、50度より大きいと、凹凸壁面の細い凹部に硬化性形成材の入り込みが悪く、更に離型時に、硬化性形成材に転写された凹凸意匠が崩れやすく、意匠再現性が悪化する。これら意匠再現性の観点から、硬化性形成材の硬化前のゴム硬度としては、好ましくは10〜40度、より好ましくは10〜30度である。
なお、本願においてゴム硬度とは、アスカーC測定での値であり、試料をペトリシャーレ90Aに空隙なきように充填し、これをサランラップ(旭化成会社製)で包み、ゴム硬度計(ASKER C型、高分子計器社製)にて無作為に10点計測し、測定した粘土硬度の最大値をあらわしたものである。
【0015】
硬化性形成材の硬化後のゴム硬度変化率が、硬化前の2.0倍以上であることが好ましい。2.0倍以上であれば、凹凸壁面複製用部材を用いて凹凸壁面見本板を作製する際の、凹凸意匠の再現性が向上するため好ましい。このゴム硬度変化率は、上述の観点から、より好ましくは2.1〜5.5倍、更に好ましくは2.2〜3.4倍である。
また、硬化性形成材の硬化後のゴム硬度は、A得られる凹凸壁面複製用部材の耐久性の観点から、好ましくは30度以上、より好ましくは35度以上、更に好ましくは40度以上である。なお、上記硬化性形成材の硬化後のゴム硬度の上限は100度を超えるものである。
【0016】
本発明の硬化性形成材の加熱残分は、25〜70質量%である。加熱残分が25質量%未満の場合、凹凸意匠を転写後の硬化性形成材の硬化前後における形状変化が大きくなってしまい、意匠再現性が劣る。また、70質量%を超えると、凹凸意匠の再現性が劣るため好ましくない。当該観点から、加熱残分としては、好ましくは30〜70質量%、より好ましくは45〜70質量%、更に好ましくは60〜70質量%である。
なお、本願において加熱残分の値は、試料2.0±0.2gを採取・秤量し、試料を105℃で1時間乾燥して揮発分を蒸発させた後、下記の計算方法に従い、測定したものをいう。
加熱残分(%)=(加熱後サンプル重量(g)/加熱前サンプル重量(g))×100
上記加熱残分は、JIS K 5601−1−2に準じて測定された値である。
【0017】
硬化性形成材の600℃、1時間燃焼させた際の灰分は、燃焼前の乾燥質量に対して、30〜90質量%である。灰分が30質量%未満であるものは流動性の樹脂成分等の樹脂配合量が多く、離型時に凹凸壁面に形成材が付着するため、離型性が劣る。更に、転写した凹凸意匠も崩れるため、意匠再現性も劣る。また、90質量%を超えると、硬化性形成材にひび割れが生じやすくなるため、離型性が劣る。これらの観点から、当該灰分は、好ましくは30.5〜80質量%、より好ましくは30.5〜70質量%である。
なお、本願において灰分とは、精秤された坩堝に、試料2.0±0.2gを採取・秤量し、150℃で3時間乾燥して乾燥重量を測定し、その後、600℃マッフル炉にて1時間燃焼させ、アッシュ(灰)の重量を測定し、下記の計算方法に従い計算したものをいう。
灰分(質量%)=(アッシュ重量(g)/乾燥重量(g))×100
【0018】
凹凸壁面複製用部材の原料となる硬化性形成材としては、硬化性を有し、上述の硬化前のゴム硬度、加熱残分、及び灰分を有するものであれば、特に限定されない。また、作業性、離型性及び意匠再現性を向上させる観点から、特に組成などは限定されない。
【0019】
上記硬化性の粘土としては、例えば、石粉粘土、紙粘土、樹脂粘土等が挙げられる。ただし、離型性及び意匠再現性を向上させる観点から、少なくとも無機質系揺変材が含まれていることが好ましい。離型性及び意匠再現性が向上する理由は定かではないが、無機質系揺変材を含むことで、細かい凹部への形成材の入り込み性が良好であると共に、凹凸意匠を転写後、形成材が完全に硬化していなくても、凹凸壁面から離型後の凹凸意匠の形状を維持することができると推測される。用いる無機質系揺変材としては、例えば、セピオラクト等のタルク、へクトラクト、ベントナイト等のクレイ、等が挙げられる。
【0020】
無機質系揺変材は、一般的にMg、Al、Si、S、Cl、K、Ca、Ti、Fe等の元素を含む。本発明において用いる無機質系揺変材中のMgとAl元素の含有率の合計が、当該揺変材の全構成元素に対して、好ましくは5質量%以上50質量%未満、より好ましくは8〜40質量%、更に好ましくは9〜30質量%である。5質量%以上であれば、凹凸壁面から離型時の型崩れや硬化時の変形を防ぐことができ、離型性及び意匠再現性ともに向上させることができる。また、粘土としての性質を有している場合、MgとAlと共にSi元素も含有しているため、通常MgとAl元素の含有率の合計は、50質量%未満となる。
なお、上記各元素の含有量の値は、蛍光X線分析(XRF分析)装置を用いて測定された値である。
【0021】
[蛍光X線分析(XRF分析)]
蛍光X線分析機器(日本電子データム社製 JSX3600)にて、用いた硬化性形成材のMg,Al,Si,S,Cl,K,Ca,Ti,Fe元素の含有量の合計を100質量%とした際の、無機質系揺変材由来のMg(珪酸マグネシウム:タルク)とAl(珪酸アルミ:クレイ)の含有量の和(単位:質量%)を算出した。
【0022】
無機質系揺変材の含有量は、離型性及び意匠再現性を向上させる観点から、硬化性形成材の組成物全体に対して、好ましくは10〜70質量%である。
また、硬化性形成材には、必要に応じて、水、可塑剤、離型剤、着色顔料、顔料分散剤、増粘剤、防腐剤、防カビ剤等も含有することもできる。
【0023】
[複製板の作製方法]
以下、本発明の凹凸壁面複製用部材を用いた複製板の作製方法について説明する。本発明の複製板の作製方法は、主に(1)凹凸壁面複製用部材の作製工程、及び(2)複製板の作製工程に分けられる。
【0024】
<(1)凹凸壁面複製用部材の作製工程>
初めに、上述の硬化性形成材を凹凸壁面に圧着させて、凹凸壁面の凹凸意匠を硬化性形成材に転写させる(以下、「転写作業」ともいう)。この転写作業は、実際の建築物等の地面に対して略直角の位置にある壁面に対して、直接硬化性形成材を圧着して行うことができる。本発明の硬化性形成材は上述の物性を有しているため、凹凸壁面が地面に対して略直角の位置にある壁面に対して転写作業を行っても、凹凸壁面に圧着させる硬化性形成材が下方へ流動することを抑制できる。
さらに、硬化性形成材を凹凸壁面に圧着させる前に、作業性を向上させるために、作成予定の凹凸壁面複製用部材の縦・横の長さが同じ型枠を、粘着テープを用いて凹凸壁面の表面に貼り付けて固定してもよい。その型枠内で、硬化性形成材と凹凸壁面とを圧着させれば、容易に転写作業を行うことができる。
【0025】
上記の転写作業後、凹凸壁面から硬化性形成材を離型し、凹凸壁面とは凹凸が反転した形状の凹凸面を有する凹凸壁面複製用部材を得る(以下、「離型作業」ともいう)。転写作業後、凹凸壁面から離型するまでの間、離型性及び意匠再現性を向上させるため、一定時間静置しておくことが好ましい。ここで、硬化性形成材として硬化性の粘土を用いる場合、一般的に完全に硬化させるために一昼夜以上の静置時間が必要であり、静置時間の確保が著しく作業性が低下する要因となる。また、完全に硬化させた後、離型作業を行うと、離型性が低下してしまう場合がある。そのため、硬化性形成材が完全に硬化する前に、離型作業を行うことが好ましい。静置時間としては、作業性及び離型性を向上させ、意匠再現性を低下させない観点から、好ましくは1〜30分間、より好ましくは5〜10分間である。
【0026】
型枠を用いた場合、作業性を向上させる観点から、先に型枠を剥がしてから、離型作業を行うことが好ましい。本発明においては、上述の特定の物性を有する硬化性形成材を用いているため、この離型作業を極めて容易に行うことができる。
なお、離型作業により得られた凹凸壁面複製用部材は、耐久性を向上させる観点から、一昼夜以上養生し、完全硬化させることが好ましい。
以上の作業を経て、本発明の凹凸壁面複製用部材が得られる。
【0027】
<(2)複製板の作製工程>
本工程において、作業性向上の観点から、上記の凹凸壁面複製用部材を隙間なく収めることができ、一定の厚さを有する型枠を用い、この型枠内に凹凸壁面複製用部材を置き、以下の作業を行うことが好ましい。型枠の縦・横の長さは、凹凸壁面複製用部材が隙間なく収まるように、凹凸壁面複製用部材の大きさに合わせることが好ましい。また型枠の厚さは、後述する硬化性複製板形成材を十分に流し込むことができるだけの厚さを有していることが好ましい。
【0028】
本工程では、上記凹凸壁面複製用部材の凹凸面側に離型剤を塗布し離型剤層を形成する。形成する離型剤層の塗布量としては、離型性の観点から、好ましくは5〜100g/m2、より好ましくは10〜50g/m2である。用いる離型剤としては、特に制限はなく、例えば、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤等が挙げられる。これら離型剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。用いる離型剤としては、安価で入手しやすく、取扱いの簡便性の観点から、シリコーン系離型剤が好ましい。
【0029】
離型剤層の形成方法は、特に制限はなく、刷毛等を用いて塗布する方法や、コーターを用いる方法、スプレー等による方法等が挙げられるが、凹凸面に均一に塗布する観点から、スプレーが好ましい。
【0030】
離型剤層を形成した後、この離型剤層上に硬化性複製板形成材(以下、複製板形成材ともいう)を積層する。積層する複製板形成材の厚さとしては、意匠再現性や、複製板の耐久性、取扱性の観点から、好ましくは1〜50mm、より好ましくは2〜35mmである。
硬化性複製板形成材としては、特に制限はないが、例えば、エステル樹脂、ウレタン樹脂(2液硬化型ポリウレタンを含む)、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂系形成材が挙げられる。これらの中でも、耐候性や強靭性(保存安定性とポータビィリティー)その他、塗料との密着性の観点から、ウレタン樹脂系形成材が好ましい。
硬化性複製板形成材の積層方法は、離型剤層が形成された凹凸面上に、隙間なく流し込むことができれば、硬化前の複製板形成材を直接流し込む方法でも、機械を用いて流し込む方法でも構わない。
【0031】
硬化性複製板形成材を流し込んだ後、一定時間静置し、硬化性複製板形成材を硬化させる。そして、硬化後に凹凸壁面複製用部材から離型して、凹凸壁面の凹凸意匠が再現された複製板が得られる。
【0032】
[凹凸壁面見本板]
上記の作製方法により得た複製板は、更に塗料を塗工することで、凹凸壁面見本板となる。塗料としては、実際に凹凸壁面に塗工しようと検討中の塗料を用いる。実際に検討中の塗料を複製板に塗工して作製した凹凸壁面見本板は、凹凸壁面と同じ凹凸意匠を有しているため、色彩の印象も同様に表現することができる。そのため、凹凸壁面見本板を用いることで、建築物等の凹凸壁面に塗装を施す前に、塗装後の仕上がり外観を把握することができる。
なお、実際に凹凸壁面に塗工しようと検討中の塗料に制限はなく、アクリル系塗料、ウレタン系塗料、フッ素系塗料などを用いることができる。また、塗料は溶剤系、水性系、いずれでもよい。
【実施例】
【0033】
以下に示す実施例及び比較例により得られた硬化性形成材のゴム硬度、加熱残分、及び灰分の測定方法は以下のとおりである。
【0034】
[ゴム硬度]
試料をペトリシャーレ90Aに空隙なきように充填し、これをサランラップ(旭化成会社製)で包み、ゴム硬度計(製品名「ASKER C型」、高分子計器社製)にて無作為に10点計測し、アスカーCで測定した粘土硬度の最大値をその試料のゴム硬度とした。
【0035】
[加熱残分]
JIS K 5601−1−2に準じ、試料2.0±0.2gを採取・秤量し、試料を105℃で1時間乾燥して揮発分を蒸発させた後、下記の計算方法に従い加熱残分を測定した。
加熱残分(質量%)=(加熱後サンプル重量(g)/加熱前サンプル重量(g))×100
【0036】
[灰分]
精評された坩堝に、試料2.0±0.2gを採取・秤量し、150℃で3時間乾燥して乾燥重量を測定した。その後、600℃マッフル炉にて1時間燃焼させ、アッシュ(灰)の重量を測定し、下記の計算方法に従い灰分を測定した。
灰分(%)=(アッシュ重量(g)/乾燥重量(g))×100
【0037】
[蛍光X線分析(XRF分析)]
蛍光X線分析機器(日本電子データム社製 JSX3600)にて、用いた硬化性形成材のMg,Al,Si,S,Cl,K,Ca,Ti,Fe元素の含有量の合計を100質量%とした際の、無機質系揺変材由来のMg(珪酸マグネシウム:タルク)とAl(珪酸アルミ:クレイ)の含有量の和(単位:質量%)を算出した。
【0038】
[実施例1]
(1)凹凸壁面複製用部材の作製
地面に対して略直角の位置にある凹凸壁面の表面に、18cm×18cmの型枠を粘着テープで貼り付け固定した。硬化性形成材として石粉粘土(商品名「石粉ねんど」、大創産業社製)400gを用いて、この硬化性形成材を、前記型枠内の凹凸壁面に満遍なく押し広げて圧着させた。そして、20〜30℃で、10分間静置して凹凸意匠を転写させた後、型枠を剥がし、硬化性形成材を凹凸壁面から離型し、凹凸面を上にして、一昼夜以上室内で養生し、凹凸壁面複製用部材を得た。
【0039】
(2)複製板の作製
18cm×18cmの型枠内に、上記凹凸壁面複製用部材を凹凸面が上になるようにはめ込み、凹凸面に対して、シリコーン系離型剤(商品名「ハイ・リムバー94」、エッチ・アンド・ケー社製)を均一に塗布し、離型剤層を形成した。そして、ウレタン樹脂系形成材(商品名「ハイキャスト」、エッチ・アンド・ケー社製、2液硬化型ポリウレタン)をA液(ポリオール類)とB液(イソシアネート類)の混合比率を質量比1:1で事前混合したものを硬化性複製板形成材として用い、形成した離型剤層の上に、隙間なく流し込み、硬化させた。硬化後に、凹凸壁面複製用部材から離型し、凹凸壁面の凹凸意匠が再現された複製板を得た。
【0040】
(3)凹凸壁面見本板の作製
上記の複製板に「ダイヤモンドコートBS目地色 Dコーラルピンク(日本ペイント社製)」を、ウールローラー(中目)にて、0.3kg/m2の塗布量で全面塗装し、4時間乾燥させたのち、当該塗装の上に「ダイヤモンドコートBS多彩 Dコーラルピンク(日本ペイント社製)」を、砂骨材レギュラーローラー(細目)にて、0.25kg/m2の塗布量にて塗装し4時間乾燥させた。この作業を合計2回行い、凹凸壁面見本板を得た。実施例1で作成した凹凸壁面見本板の写真を図1に示す。
【0041】
[実施例2〜7、比較例1〜8]
硬化性形成材として表1に示す硬化性形成材を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、凹凸壁面複製用部材、複製板、及び凹凸壁面見本板を得た。ただし、比較例7では、石膏100部に対し水道水40部を混合したものを使用し、比較例8では、石粉粘土100部に対し水道水100部を混合したものを使用した。
【0042】
【表1】

【0043】
[比較例9]
凹凸壁面の表面をデジタルカメラで撮影し、現像して凹凸壁面写真を得た。別に、コンピュータ上で、画像処理用ソフトウェア(製品名「PhotoShop、Illustrator」、Adobe社製)を用いて、多彩塗料の色彩を擬似的に作成し、凹凸壁面写真にその色彩を合成して、合成画像を得た。図2は、比較例9で作成した合成画像である。
【0044】
実施例1〜7、及び比較例1〜9の離型性と意匠再現性の評価を表2に示す。なお、離型性と意匠再現性の評価基準は以下のとおりである。
【0045】
<離型性の評価基準>
◎:凹凸壁面複製用部材の作製時に、建造物壁面と硬化性形成材との離型が極めて容易であり、かつ、得られた凹凸壁面複製用部材の凹凸面に、変形、ひび割れ、欠損等が全く生じていない。
○:凹凸壁面複製用部材の作製時に、建造物壁面と硬化性形成材との離型が容易であり、かつ、得られた凹凸壁面複製用部材の凹凸面に、目立たない変形、ひび割れ、欠損等は一部あるが、大きな変形等は生じていない。
△:凹凸壁面複製用部材の作製時に、建造物壁面と硬化性形成材との離型が困難であり、又は、得られた凹凸壁面複製用部材の凹凸面に、大きな変形、ひび割れ、欠損等が生じている。
×:凹凸壁面複製用部材の作製時に、建造物壁面と硬化性形成材との離型が困難であり、かつ、得られた凹凸壁面複製用部材の凹凸面に、大きな変形、ひび割れ、欠損等が生じている。
【0046】
<意匠再現性の評価基準>
凹凸壁面の意匠見本板や合成画像と、実際に建造物壁面に施工した際の意匠再現性を評価した。
○:実際に凹凸壁面に塗装した場合の塗装外観(配色、コントラスト)や光沢感にほとんど差異がなく、違和感がなく同一である。
△:実際に凹凸壁面に塗装した場合と塗装外観(配色,コントラスト)や光沢感にやや差異があるため、やや違和感があり異なる。
×:実際に凹凸壁面に塗装した場合と塗装外観(配色,コントラスト)や光沢感に差異があるため、かなり違和感があり異なる。
【0047】
【表2】

【0048】
実施例1〜7では、離型性、意匠再現性、共に良好であった。一方、比較例1〜8では、離型性、意匠再現性を共に満足する結果が得られるものがなかった。また、比較例9では、2次元の合成画像からでは、実際のローラーで凹凸壁面に塗装した場合の状態が再現できない為、実際と仕上がり外観が異なり、満足する意匠再現性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の凹凸壁面複製用部材を用いて作製された凹凸壁面見本板を用いることで、建築物等の凹凸壁面に塗装を施す前に、塗装後の仕上がり外観を把握することができる点において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化前のゴム硬度が10〜50度、加熱残分が25〜70質量%、かつ、600℃、1時間燃焼させた際の灰分が燃焼前の乾燥質量に対して30〜90質量%である、硬化性形成材からなる、凹凸壁面複製用部材。
【請求項2】
前記硬化性形成材が、硬化性の粘土である、請求項1に記載の凹凸壁面複製用部材。
【請求項3】
前記硬化性形成材の硬化後のゴム硬度変化率が、硬化前の2.0倍以上である、請求項1又は2に記載の凹凸壁面複製用部材。
【請求項4】
前記硬化性形成材が、Mg元素とAl元素の含有量の合計が5〜49質量%である無機質系揺変材を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の凹凸壁面複製用部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の凹凸壁面複製用部材を用いた複製板の作製方法であって、
凹凸壁面に前記硬化性形成材を圧着させ、該硬化性形成材に凹凸壁面の凹凸形状を転写させ、凹凸壁面から離型し凹凸壁面とは凹凸が反転した形状の凹凸面を有する凹凸壁面複製用部材を得た後、
該凹凸壁面複製用部材の凹凸面側に、離型剤を塗布し離型剤層を形成した後、該離型剤層上に硬化性複製板形成材を積層し、該硬化性複製板形成材を硬化させた後、該凹凸壁面複製用部材から離型して得られる、複製板の作製方法。
【請求項6】
前記凹凸壁面が、地面に対して略垂直の位置にある壁面である、請求項5に記載の複製板の作製方法。
【請求項7】
前記離型剤が、シリコーン系離型剤であり、前記硬化性複製板形成材が、ウレタン樹脂系形成材である、請求項5又は6に記載の複製板の作製方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の複製板の作製方法により得られる、複製板。
【請求項9】
請求項8に記載の複製板に、塗料を塗布して得られる、凹凸壁面見本板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−81715(P2012−81715A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232020(P2010−232020)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】