説明

凹凸表面を有する機能性熱可塑性樹脂シートおよびその製造方法、ならびに転写フィルム

【課題】凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に、機能性を有する薄膜が該凹凸表面に追随して高い密着性で形成されてなる、凹凸表面を有する機能性熱可塑性樹脂シートおよびその製造方法、ならびに転写フィルムを提供すること。
【解決手段】機能性熱可塑性樹脂シートは、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に転写法により形成された少なくとも1層の薄膜を有する。その製造方法は、基材フィルムの表面に少なくとも1層の薄膜を形成した転写フィルムを用いて、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に該薄膜を転写する際に、該熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度をTgとしたとき、該熱可塑性樹脂シートの表面温度が(Tg−10℃)以上、(Tg+70℃)以下の範囲内にあると共に、該熱可塑性樹脂シートの表面温度より低い軟化点を有する基材フィルムを用いる。転写フィルムは基材フィルムとして特定のフィルムを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸表面を有する機能性熱可塑性樹脂シートおよびその製造方法、ならびに転写フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂シートに機能性を付与する方法として、熱可塑性樹脂シートを押出成形する際に、基材フィルムの表面に種々の機能性を有する薄膜を形成した転写フィルムを用いて、押出成形されたシートの表面に該薄膜を転写法により形成することは、よく知られた技術である。例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂シートの表面に帯電防止性を有する薄膜を転写法により形成した合成樹脂化粧材の製造方法が開示されている。また、特許文献2、3および4には、熱可塑性樹脂シートの表面に表面保護性、表面反射防止性または帯電防止性を有する薄膜を転写法により形成した押出複合シートの製造方法が開示されている。これらの製造方法では、押出成形されたシートの表面が平滑であるので、その表面に機能性を有する薄膜を転写法により形成することは容易である。
【0003】
ところが、押出成形されたシートの表面がエンボス調やマット調であるか、あるいはレンチキュラーレンズやプリズムなどの光学系意匠を有する場合、すなわち押出成形されたシートが凹凸表面を有する場合には、その表面に、種々の機能性を有する薄膜を転写法により形成しようとすると、転写フィルムがシートの凹凸表面に追随できないので、転写フィルムがシートの凸部と点接触し、凹部に空気が入り込み、シートに対する薄膜の密着性が低下し、ひいてはシートに充分な機能性を付与することができないという問題点があった。
【0004】
なお、特許文献1には、転写フィルムを圧着する際に、エンボスロールまたはエンボス板を押圧することにより、転写した合成樹脂被複層に凹凸模様を形成する技術が開示されているが、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートに薄膜を転写する方法は、これまで知られていなかった。
【特許文献1】特開平5−162230号公報
【特許文献2】特開2004−90281号公報
【特許文献3】特開2005−193471号公報
【特許文献4】特開2005−193514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に、機能性を有する薄膜が該凹凸表面に追随して高い密着性で形成されてなる、凹凸表面を有する機能性熱可塑性樹脂シートおよびその製造方法、ならびに転写フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討の結果、基材フィルムの表面に機能性を有する薄膜を形成した転写フィルムを用いて、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に該薄膜を転写する際に、該熱可塑性樹脂シートの表面温度を所定の温度範囲内に調節し、かつ所定の軟化点を有する基材フィルムを用いれば、該薄膜を該凹凸表面に追随させながら高い密着性で形成できることを見出して、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に転写法により形成された少なくとも1層の薄膜を有することを特徴とする凹凸表面を有する機能性熱可塑性樹脂シートを提供する。前記シートを構成する熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリカーボネート系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル−スチレン共重合体および環状オレフィン系樹脂などのアモルファス樹脂よりなる群から選択される。前記薄膜のうち少なくとも1層を構成する樹脂は、例えば、紫外線吸収性を有することができる。前記薄膜のうち少なくとも1層は、例えば、帯電防止剤、蛍光増白剤、微粒子などを含有することができる。
【0008】
また、本発明は、前記機能性熱可塑性樹脂シートを液晶表示装置のバックライトユニットに用いることを特徴とする液晶表示装置用光拡散板を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、前記機能性熱可塑性樹脂シートを製造する方法を提供する。この製造方法は、基材フィルムの表面に少なくとも1層の薄膜を形成した転写フィルムを用いて、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に該薄膜を転写する際に、該熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度をTgとしたとき、該熱可塑性樹脂シートの表面温度が(Tg−10℃)以上、(Tg+70℃)以下の範囲内であると共に、該熱可塑性樹脂シートの表面温度より低い軟化点を有する基材フィルムを用いることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明は、前記製造方法に用いる、凹凸表面への転写性に優れた転写フィルムを提供する。この転写フィルムは、基材フィルムの表面に薄膜を形成した転写フィルムであって、該基材フィルムとして、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)および無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)から選択される少なくとも1種のフィルムを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に、機能性を有する薄膜を該凹凸表面に追随させながら高い密着性で形成することができる。それゆえ、例えば、熱可塑性樹脂シートの表面がエンボス調やマット調であるか、あるいはレンチキュラーレンズやプリズムなどの光学系意匠を有する場合であっても、このような熱可塑性樹脂シートに種々の機能性(例えば、帯電防止性、耐光性、超撥水性、超親水性、防曇性、低反射性、反射防止性など)を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪凹凸表面を有する機能性熱可塑性樹脂シート≫
本発明による凹凸表面を有する機能性熱可塑性樹脂シート(以下「本発明の機能性熱可塑性樹脂シート」ということがある。)は、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に転写法により形成された少なくとも1層の薄膜を有することを特徴とする。ここで、「凹凸表面」とは、熱可塑性樹脂シートの表面または裏面のいずれか一方または両方が平滑ではなく、意図的に形成された立体形状を有することを意味する。凹凸表面としては、特に限定されるものではないが、例えば、エンボス調やマット(型板ガラス)調、レンチキュラーレンズやプリズムなどの光学系意匠などが挙げられる。また、少なくとも1層の薄膜とは、薄膜が単層である場合と、薄膜が複数層である場合とを包含することを意味する。
【0013】
凹凸表面がエンボス調やマット(型板ガラス)調である場合には、凹凸表面の程度は、JIS B0601:2001の附属書2で定義される中心線平均粗さで表される。ただし、中心線平均粗さを求める際のカットオフ値は0.8mm、評価長さは4mmとする。なお、中心線平均粗さは、例えば、表面粗さ計などで求めることができる。この場合、凹凸表面の中心線平均粗さは、好ましくは0.5〜15μm、より好ましくは1〜10μmの範囲内である。凹凸表面の中心線平均粗さが0.5μm未満であると、意匠性に欠けることがある。逆に、凹凸表面の中心線平均粗さが15μmを超えると、凹部分の最も深い部分にまで薄膜を転写させることが困難になることがある。
【0014】
凹凸表面がレンチキュラーレンズやプリズムなどの光学系意匠である場合には、凹凸表面の程度は、光学系意匠における同一形状のピッチと深さとで表される。例えば、凹凸表面がレンチキュラーレンズやプリズムの形状の場合、ピッチは、好ましくは30〜500μm、より好ましくは50〜300μmの範囲内であり、また、深さは、好ましくは10〜300μm、より好ましくは20〜200μmの範囲内である。なお、同一形状のピッチと深さは、例えば、非接触段差測定機、レーザー共焦点顕微鏡などで求めることができる。特に光学系意匠を有する熱可塑性樹脂シートに機能性薄膜を転写して光拡散板を製造する際に、ピッチが上記の範囲外であると、必要な光学性能が得られないことがある。また、深さが10μm未満であると、必要な光学性能が得られないことがある。逆に、深さが300μmを超えると、凹部分の最も深い部分にまで薄膜を転写させることが困難になることがある。なお、レンチキュラーレンズの形状は、凸状または凹状のいずれか、あるいは、その組合せであってもよい。
【0015】
本発明の機能性熱可塑性樹脂シートは、例えば、帯電防止性、耐光性、超撥水性、超親水性、防曇性、低反射性、反射防止性などの機能性を有するが、これらの機能性は、基本的には、凹凸表面に転写された薄膜に由来する。すなわち、凹凸表面に転写する薄膜に、これらの機能性を発揮する添加剤を含有させるか、あるいは、これらの機能性を有する熱可塑性樹脂から薄膜を構成すればよい。
【0016】
<熱可塑性樹脂シート>
熱可塑性樹脂シートの材質としては、特に限定されるものではないが、凹凸付の板形状に加工できるすべての熱可塑性樹脂が適用できる。中でも、ポリカーボネート(PC)などのポリカーボネート系樹脂;ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン(PS)などのスチレン系樹脂;ポリメタクリルスチレン(MS)などの(メタ)アクリル−スチレン共重合体;環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)などの環状オレフィン系樹脂;などのアモルファス樹脂が好適である。熱可塑性樹脂シートは、単一の材質から形成されていても2種以上の材質から形成されていてもよく、また、単一の層から構成されていても複数の層から構成されていてもよい。
【0017】
なお、「アモルファス樹脂」とは、JIS K7121に定義されるDSC測定法(熱流速DSC)に準拠した方法でDSC測定した際に明確な樹脂の融点を有しない熱可塑性樹脂を意味する。
【0018】
熱可塑性樹脂シートには、例えば、安定化剤、酸化防止剤、可塑剤、分散剤、蛍光増白剤などの添加剤を配合してもよい。これらの添加剤の配合量は、その種類などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。
【0019】
熱可塑性樹脂シートの厚さは、好ましくは0.5mm以上、5mm以下、より好ましくは0.8mm以上、3mm以下である。熱可塑性樹脂シートの厚さが0.5mm未満であると、機械的強度が低下することがある。逆に、熱可塑性樹脂シートの厚さが5mmを超えると、例えば、液晶表示装置用光拡散板として用いる場合に、シートを通過する光量が減少し、輝度が低下することがある。
【0020】
熱可塑性樹脂シートは、例えば、液晶表示装置用光拡散板として用いる場合に、光源からの光を均一かつ良好に拡散するために、微粒子を含有することができる。熱可塑性樹脂シートに含有される微粒子は、実質的に均一に分散されていることが好ましい。また、熱可塑性樹脂シートが複数の層から構成されている場合、熱可塑性樹脂シートに含有される微粒子は、いずれの層に含有されていてもよい。
【0021】
微粒子の材質としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、これらの共重合体などの合成樹脂;ガラス;スメクタイト、カオリナイトなどの粘土化合物;シリカ、アルミナなどの無機酸化物;などが挙げられる。これらの材質のうち、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、シリカが特に好適である。
【0022】
微粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、30μm以下、より好ましくは0.5μm以上、25μm以下、さらに好ましくは1μm以上、20μm以下である。平均粒子径が0.1μm未満であると、薄膜に入射した光を充分に拡散することができないことがある。逆に、平均粒子径が30μmを超えると、薄膜を通過する光量が減少し、輝度が低下することがある。なお、各微粒子の平均粒子径は、顕微鏡で観察した任意の微粒子100個について粒子径を測定し、単純平均した値である。また、各微粒子が異形粒子の場合、最大径と最小径との平均を粒子径とする。
【0023】
微粒子の形状などは、下記で説明する薄膜に含有させる微粒子と同様であるので、ここでは説明を省略する。ただし、微粒子の使用量は、シートを構成する熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、20質量部以下、より好ましくは0.2質量部以上、10質量部以下である。使用量が0.1質量部未満であると、シートに入射した光が充分に拡散されないことがある。逆に、使用量が20質量部を超えると、シートの押出成形が困難になることや、シートを通過する光量が減少し、輝度が低下することがある。
【0024】
<薄膜>
本発明の機能性熱可塑性樹脂シートにおいて、薄膜は、熱可塑性樹脂シートの片面または両面に形成されている。薄膜は、単一の材質から形成されていても2種以上の材質から形成されていてもよく、また、単一の層から構成されていても複数の層から構成されていてもよい。薄膜の厚さ(薄膜が複数層の場合は各層の厚さ)は、好ましくは0.01μm以上、30μm以下、より好ましくは0.05μm以上、20μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上、10μm以下である。薄膜の厚さが0.01μm未満であると、種々の機能性を発揮する効果が小さいことや、薄膜を均一に形成するのが困難になることがある。逆に、薄膜の厚さが30μmを超えると、熱可塑性樹脂シートと異なる材質を用いた場合、熱収縮率の差や吸水率の差による反りが発生することがある。なお、薄膜の厚さは、実施例に記載した方法で測定した値である。
【0025】
薄膜を構成する材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの樹脂のうち、種々の機能を付与しやすいという点から、(メタ)アクリル系樹脂が好適である。
【0026】
薄膜を構成する樹脂およびその配合物に官能基や増感剤を加えて転写後に種々の手段により硬化させることもできる。官能基や増感剤としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、水酸基と多官能イソシアネート(ブロックイソシアネートを含む)、ビニル基と増感剤もしくは過酸化物、水酸基と多官能酸無水物、カルボン酸と多官能エポキシ基、水酸基とエポキシ基、カルボン酸とオキサゾリン化合物などが挙げられる。これらの組合せは、目的の機能に合わせた形で選択すればよい。
【0027】
(メタ)アクリル系樹脂を構成する単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
また、上記の単量体以外にも、本発明の趣旨を損なわない範囲で、例えば、(メタ)アクリル酸などの不飽和酸類;スチレン、ブタジエン、イソプレン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどを共重合してもよい。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0029】
(メタ)アクリル系樹脂は、架橋構造を有してもよい。架橋剤としては、例えば、イソシアネート化合物(ブロックイソシアネートを含む);エポキシ化合物;アジリジン化合物;オキサゾリン化合物;多官能酸無水物;などが挙げられる。これらの架橋剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの架橋剤のうち、イソシアネート化合物が特に好適である。
【0030】
(メタ)アクリル系樹脂の重合に際しては、例えば、帯電防止性を有する単量体や紫外線吸収性を有する単量体を共重合させることもできる。なお、紫外線吸収性を有する単量体としては、例えば、特許第2974943号や特開2003−268048号公報、特開2006−89535号公報などに記載されているような紫外線吸収性単量体を用いることが好ましい。また、重合系には、必要に応じて、重合遅延剤、連鎖移動剤、重合促進剤、消泡剤、レベリング剤、離型剤、界面活性剤などの種々の添加剤を混入してもよい。
【0031】
上記のモノマー類を重合する方法は、従来公知の重合方法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、分散重合などが挙げられる。これらの重合方法のうち、帯電防止剤や紫外線吸収剤などの添加剤に対する良好な溶解性を有する溶剤を使用した溶液重合が特に好適である。
【0032】
本発明の機能性熱可塑性樹脂シートにおいて、薄膜は、シートが種々の機能性を示すように、これらの機能性を発揮する添加剤、例えば、帯電防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、微粒子などを含有するか、あるいは、これらの機能性を発揮する熱可塑性樹脂から構成されている。例えば、紫外線吸収性を有するアクリル樹脂(例えば、(株)日本触媒製のハルスハイブリッドUV−Gシリーズ)を用いて、薄膜の少なくとも1層を構成すれば、熱可塑性樹脂シートに耐光性を付与することができる。
【0033】
また、薄膜には、例えば、安定化剤、酸化防止剤、可塑剤、分散剤などの添加剤を配合してもよい。これらの添加剤の配合量は、その種類などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。
【0034】
<帯電防止剤>
本発明の機能性熱可塑性樹脂シートにおいて、薄膜のうち少なくとも1層は、帯電防止剤を含有することができる。ここで、薄膜のうち少なくとも1層とは、薄膜が単層の場合には、その薄膜を意味し、薄膜が複数層の場合には、複数の薄膜のうち少なくとも1つの薄膜を意味する。薄膜のうち少なくとも1層に帯電防止剤を含有させると、機能性熱可塑性樹脂シートは、空気中に存在する塵埃の付着を防止したり、静電気による装置の誤動作を防止したりする機能性を示す。
【0035】
帯電防止剤としては、従来公知のいかなる帯電防止剤を用いてもよく、特に限定されるものではないが、例えば、機能性熱可塑性樹脂シートを液晶表示装置用光拡散板として用いる場合には、無機化合物系の帯電防止剤は、光を透過しにくく光の損失を招くことがあるので、好ましくない。それゆえ、光の損失を招かない有機系の帯電防止剤として、界面活性剤や導電性樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
帯電防止剤として使用可能な界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸や、それらのLi、Na、Ca、Mg、Zn塩などのオレフィン系硫酸エステルまたはその金属塩、高級アルコールのリン酸エステル類などのアニオン系界面活性剤;第3級アミン、第4級アンモニウム塩、カチオン系アクリル酸エステル誘導体、カチオン系ビニルエーテル誘導体などのカチオン系界面活性剤;アルキルアミン系ベタインの両性塩、カルボン酸またはスルホン酸アラニンの両性塩、アルキルイミダゾリンの両性塩などの両性系界面活性剤;脂肪酸多価アルコールエステル、アルキル(アミン)のポリオキシエチレン付加物などの非イオン系界面活性剤;などが挙げられる。帯電防止剤として使用可能な導電性樹脂としては、ポリビニルベンジル型カチオン樹脂、ポリアクリル酸型カチオン樹脂などが挙げられる。これらの帯電防止剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの帯電防止剤のうち、第3級アミン、第4級アンモニウム塩などのカチオン系界面活性剤が好適である。
【0037】
帯電防止剤の使用量は、それを含有する薄膜を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、100質量部以下、より好ましくは0.2質量部以上、70質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以上、50質量部以下である。使用量が0.1質量部未満であると、塵埃の付着を防止する効果や装置の誤動作を防止する効果が少ないことがある。逆に、使用量が100質量部を超えると、塵埃の付着を防止する効果や装置の誤動作を防止する効果が飽和することがある。
【0038】
上記したように、本発明の機能性熱可塑性樹脂シートは、薄膜のうち少なくとも1層が帯電防止剤を含有する場合には、空気中に存在する塵埃の付着を防止したり、静電気による装置の誤動作を防止したりする機能性を示す。具体的には、帯電防止剤を含有する薄膜側の表面抵抗値が好ましくは1012Ω以下、より好ましくは1011Ω以下、さらに好ましくは1010Ω以下である。表面固有抵抗値が1012Ωを超えると、塵埃の付着や装置の誤動作を防止できないことがある。ここで、表面抵抗値は、JIS K6911に準拠して測定した値である。
【0039】
<紫外線吸収剤>
本発明の機能性熱可塑性樹脂シートにおいて、薄膜のうち少なくとも1層は、紫外線吸収剤を含有することができる。ここで、薄膜のうち少なくとも1層とは、薄膜が単層の場合には、その薄膜を意味し、薄膜が複数層の場合には、複数の薄膜のうち少なくとも1つの薄膜を意味する。なお、紫外線吸収剤を含有する薄膜は、好ましくは、機能性熱可塑性樹脂シートが光を受ける側の表面に形成されている。光の影響を防止することを目的としているからである。薄膜のうち少なくとも1層に紫外線吸収剤を含有させると、高い耐光性を有するので、例えば、機能性熱可塑性樹脂シートを液晶表示装置用光拡散板として用いる場合には、液晶表示装置において、表示画像を長期間にわたり安定化させると共に、その表示品位を向上させることができる。
【0040】
紫外線吸収剤としては、従来公知のいかなる紫外線吸収剤を用いてもよく、特に限定されるものではないが、例えば、サリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、環状イミノエステル形紫外線吸収剤、分子内にヒンダードフェノールの構造とヒンダードアミンの構造を共に有するハイブリッド系紫外線吸収剤などの低分子紫外線吸収剤や、これらの低分子紫外線吸収剤が高分子に懸垂するような形の高分子型紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、ヒンダードアミン系紫外線安定剤を用いることも好ましい。
【0041】
サリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、フェニルサリシレート、p−tert−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレートなどが挙げられる。
【0042】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシトリハイドライドレイトベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0043】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノールなどが挙げられる。
【0044】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0045】
環状イミノエステル形紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2,6−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などが挙げられる。
【0046】
分子内にヒンダードフェノールの構造とヒンダードアミンの構造を共に有するハイブリッド系紫外線吸収剤としては、具体的には、例えば、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、1−[2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどが挙げられる。
【0047】
低分子紫外線吸収性官能基が高分子に懸垂するような形の高分子型紫外線吸収剤としては、例えば、特許第2974943号や特開2003−268048号公報、特開2006−89535号公報などに記載されているような高分子型紫外線吸収剤などが挙げられ、具体的には、例えば、(株)日本触媒製のハルスハイブリッドUV−Gシリーズなどが挙げられる。
【0048】
これらの紫外線吸収剤のうち、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、(株)日本触媒製のハルスハイブリッドUV−Gシリーズが特に好適である。
【0049】
ヒンダードアミン系紫外線安定剤としては、具体的には、例えば、ビス(2,2,6,6−)テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートなどが挙げられる。
【0050】
紫外線吸収剤の使用量は、それを含有する薄膜を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、50質量部以下、より好ましくは0.8質量部以上、40質量部以下、さらに好ましくは1質量部以上、30質量部以下である。使用量が0.5質量部未満であると、光の影響を防止する効果が少ないことがある。逆に、使用量が50質量部を超えると、光の影響を防止する効果が飽和することがある。
【0051】
上記したように、本発明の機能性熱可塑性樹脂シートは、薄膜のうち少なくとも1層が紫外線吸収剤を含有する場合には、光の影響を防止する機能性を示す。具体的には、紫外線吸収剤を含有する薄膜側に強度100mW/cmの紫外線を50時間照射した場合、式:ΔYI=紫外線照射後の黄色度(YI)−紫外線照射前の黄色度(YI)で算出されるΔYIの値が好ましくは5以下、より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4以下である。なお、黄色度(YI)は、JIS Z8722に準拠して測定した値である。
【0052】
<蛍光増白剤>
本発明の機能性熱可塑性樹脂シートにおいて、薄膜のうち少なくとも1層は、蛍光増白剤を含有することができる。ここで、薄膜のうち少なくとも1層とは、薄膜が単層の場合には、その薄膜を意味し、薄膜が複数層の場合には、複数の薄膜のうち少なくとも1つの薄膜を意味する。蛍光増白剤は、光に含まれる紫外線のエネルギーを吸収し、このエネルギーを可視光に変換する作用を有する。それゆえ、蛍光増白剤を含有する薄膜を設けた場合には、光の屈折や吸収による光線の損失を補うことができ、光の均一性や輝度が向上する。これらの機能性は、例えば、機能性熱可塑性樹脂シートを液晶表示装置用光拡散板として用いる場合には、特に有用である。
【0053】
蛍光増白剤としては、従来公知のいかなる蛍光増白剤を用いてもよく、特に限定されるものではないが、例えば、オキサゾール系蛍光増白剤、クマリン系蛍光増白剤、スチルベン系蛍光増白剤、イミダゾール系蛍光増白剤、トリアゾール系蛍光増白剤、ナフタルイミド系蛍光増白剤、ローダミン系蛍光増白剤などが挙げられる。これらの蛍光増白剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの蛍光増白剤のうち、オキサゾール系蛍光増白剤、クマリン系蛍光増白剤が特に好適である。
【0054】
蛍光増白剤の使用量は、それを含有する薄膜を構成する樹脂100質量部に対して、好ましくは0.0005質量部以上、50質量部以下、より好ましく0.001質量部以上、30質量部以下である。使用量が0.0005質量部未満であると、光の均一性や輝度を向上させる効果が少ないことがある。逆に、使用量が50質量部を超えると、むしろ光の均一性が損なわれることや、薄膜の機械的強度が損なわれることがあり、また、必要以上に高価な蛍光増白剤を使用することになり、製造コストが上昇することがある。
【0055】
<微粒子>
本発明の機能性熱可塑性樹脂シートにおいて、薄膜のうち少なくとも1層は、微粒子を含有することができる。ここで、薄膜のうち少なくとも1層とは、薄膜が単層の場合には、その薄膜を意味し、薄膜が複数層の場合には、複数の薄膜のうち少なくとも1つの薄膜を意味する。薄膜に含有される微粒子は、実質的に均一に分散されていることが好ましい。微粒子は、光を均一かつ良好に拡散するので、光の均一性や輝度が向上する。これらの機能性は、例えば、機能性熱可塑性樹脂シートを液晶表示装置用光拡散板として用いる場合には、特に有用である。
【0056】
微粒子の材質としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、これらの共重合体などの合成樹脂;ガラス;スメクタイト、カオリナイトなどの粘土化合物;シリカ、アルミナなどの無機酸化物;などが挙げられる。これらの材質のうち、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル−スチレン共重合体、シリコーン系樹脂、シリカが特に好適である。
【0057】
微粒子は、単一の材質から形成されていても2種以上の材質から形成されていてもよく、また、材質が同じ1種類の微粒子から構成されていても材質が異なる2種類以上の微粒子から構成されていてもよい。
【0058】
微粒子の形状としては、例えば、球状、扁平状、楕円体状、多角形状、板状などが挙げられる。これらの形状を有する微粒子は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの形状を有する微粒子のうち、球状粒子が好適であるが、球状粒子よりも強い光拡散性を有しており、少量の添加で高い輝度が得られることから、扁平状、楕円体状、多角形状、板状などの異形粒子が好適な場合もある。
【0059】
微粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、30μm以下、より好ましくは0.5μm以上、25μm以下、さらに好ましくは1μm以上、20μm以下である。平均粒子径が0.1μm未満であると、薄膜に入射した光を充分に拡散することができないことがある。逆に、平均粒子径が30μmを超えると、薄膜を通過する光量が減少し、輝度が低下することがある。なお、各微粒子の平均粒子径は、顕微鏡で観察した任意の微粒子100個について粒子径を測定し、単純平均した値である。また、各微粒子が異形粒子の場合、最大径と最小径との平均を粒子径とする。
【0060】
微粒子の使用量は、それを含有する樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、200質量部以下、より好ましくは5質量部以上、150質量部以下、さらに好ましくは10質量部以上、100質量部以下である。使用量が1質量部未満であると、薄膜に入射した光が充分に拡散されないことがある。逆に、使用量が200質量部を超えると、薄膜の形成が困難になることや、薄膜を通過する光量が減少し、輝度が低下することがある。
【0061】
<機能性熱可塑性樹脂シートの用途>
本発明の機能性熱可塑性樹脂シートは、例えば、紫外線吸収性を有する熱可塑性樹脂で薄膜を構成し、該薄膜に帯電防止剤、蛍光増白剤、微粒子などを含有させれば、優れた光拡散性を発揮するので、液晶表示装置用光拡散板として用いることができる。
【0062】
本発明の液晶表示装置用光拡散板は、上記のような機能性熱可塑性樹脂シートを液晶表示装置のバックライトユニットに用いることを特徴とする。本発明の液晶表示装置用光拡散板は、液晶表示装置における従来公知の直下型バックライトユニットまたはサイドライト型バックライトユニットの光拡散板として利用することができるが、液晶表示装置の表示画像を長期間にわたり安定化させると共に、その表示品位を向上させることができるので、特に、15インチを超える液晶テレビやデスクトップ型パーソナルコンピュータの液晶ディスプレイに用いられる大型の液晶表示装置に、直下型バックライトユニットの光拡散板として用いることが好ましい。
【0063】
≪転写フィルム≫
本発明の転写フィルムは、基材フィルムの表面に薄膜を形成した転写フィルムであって、該基材フィルムとして、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)および無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)から選択される少なくとも1種のフィルムを用いることを特徴とする。
【0064】
本発明の転写フィルムは、凹凸表面への転写性に優れているので、下記に述べる機能性熱可塑性樹脂シートの製造方法に好適である。
【0065】
<転写フィルムの調製>
凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートに薄膜を転写するには、まず、薄膜を構成する樹脂と、帯電防止剤や紫外線吸収剤などの所望の添加剤とを、有機溶媒に溶解または分散させて、樹脂混合液を調製し、次いで、この樹脂混合液を基材フィルムの表面に塗布し、乾燥させて、基材フィルムの表面に薄膜を形成した転写フィルムを調製する。なお、薄膜が複数層の場合には、基材フィルムの表面に各々の薄膜に対応する樹脂混合液を塗布し、乾燥させる工程を繰り返せばよい。
【0066】
基材フィルムとしては、例えば、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)、無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)などが挙げられる。これらのフィルムのうち、高密度ポリエチレンフィルム、2軸延伸ポリプロピレンフィルムが好適である。
【0067】
なお、基材フィルムには、本発明の趣旨を損なわない範囲で、例えば、塗布型の離型剤や練り込み型の離型剤を混入しておいてもよい。
【0068】
上記したように、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートに薄膜を転写する際には、該熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度をTgとしたとき、該熱可塑性樹脂シートの表面温度が(Tg−10℃)以上、(Tg+70℃)以下の範囲内にあると共に、該熱可塑性樹脂シートの表面温度より低い軟化点を有する基材フィルムを用いる必要がある。それゆえ、転写フィルムに用いる基材フィルムは、シートを構成する熱可塑性樹脂の種類に応じて、適宜選択すればよい。
【0069】
基材フィルムの厚さは、好ましくは5μm以上、100μm以下、より好ましくは10μm以上、80μm以下、さらに好ましくは15μm以上、60μm以下である。基材フィルムの厚さが5μm未満であると、基材フィルムの引張強度が不足し、圧着時に破れることがある。逆に、基材フィルムの厚さが100μmを超えると、コスト面で不利になるだけでなく、ロールの圧着が均一にならず、転写した薄膜に斑が発生することがある。
【0070】
樹脂混合液を調製する際に用いる有機溶媒としては、樹脂や添加剤の種類に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンなどの芳香族系溶媒;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;水;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0071】
基材フィルムに樹脂混合液を塗布するには、従来公知の薄膜形成法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、刷毛による塗布、スプレーコーティング法、ロールコーティング、バーコーティング法、Tダイコーティング法、ロールリバースコーティング法、アプリケーターコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、グラビアコーティング法、MOCVD法、CVD法、スパッタリング法などを挙げることができる。
【0072】
基材フィルムに樹脂混合液を塗布した後、乾燥する方法としては、従来公知の乾燥法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、自然乾燥法、送風乾燥法、温風乾燥法、赤外線照射などが挙げられる。乾燥の温度は、通常、常温から80℃程度の範囲内である。乾燥の時間は、通常、1分間から24時間程度である。
【0073】
≪機能性熱可塑性樹脂シートの製造方法≫
本発明による機能性熱可塑性樹脂シートの製造方法(以下「本発明の製造方法」ということがある。)は、基材フィルムの表面に少なくとも1層の薄膜を形成した転写フィルムを用いて、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に該薄膜を転写する際に、該熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度をTgとしたとき、該熱可塑性樹脂シートの表面温度が(Tg−10℃)以上、(Tg+70℃)以下の範囲内にあると共に、該熱可塑性樹脂シートの表面温度より低い軟化点を有する基材フィルムを用いることを特徴とする。ここで、熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に定義されるDSC測定法(熱流速DSC)に準拠した方法でDSC測定した値である。また、基材フィルムの軟化点は、JIS K7121に定義されるDSC測定法(熱流速DSC)に準拠した方法でDSC測定したガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)のうち、より高い方の温度を意味する。さらに、熱可塑性樹脂シートの表面温度は、放射温度計で測定することができる。
【0074】
<機能性熱可塑性樹脂シートの製造>
機能性熱可塑性樹脂シートは、熱可塑性樹脂シートの凹凸表面に、上記の転写フィルムを圧着して、転写シートから熱可塑性樹脂シートに薄膜を転写することにより、製造することができる。薄膜の転写は、例えば、予め押出成形された熱可塑性樹脂シートを加熱して、所定の温度で転写フィルムを圧着してもよいが、生産効率などを考慮すると、熱可塑性樹脂シートを押出成形する際に、インラインで転写フィルムを圧着する方が好ましい。
【0075】
熱可塑性樹脂シートの押出成形には、従来公知のシート押出機を採用すればよく、転写シートの圧着には、従来公知の圧着ラミネート装置を採用すればよい。ただし、圧着ロールとしては、硬質ロールではなく、ゴム被覆ロールなどの比較的軟らかいロールを用いることが好ましい。なお、圧着ラミネート装置は、熱可塑性樹脂シートを押出成形すると共に、所定の温度で転写フィルムを圧着する必要があるので、押出形成されたシートの表面温度が所定の温度になる位置に取り付ければよいが、押出成形されたシートの表面温度が圧着ラミネート装置を取り付けた位置で所定の温度になるように調節してもよい。
【0076】
本発明の製造方法においては、転写フィルムに用いる基材フィルムの軟化点を転写時における熱可塑性樹脂シートの表面温度より低くなるようにし、かつ転写時における熱可塑性樹脂シートの表面温度を(Tg−10℃)以上、(Tg+70℃)以下の範囲内に設定することにより、転写時に基材フィルムが軟化状態になり、転写フィルムが高い柔軟性を有するようになるので、例えば、ゴム被覆ロールなどの比較的軟らかい圧着ロールで加圧すれば、シート表面の凹部に転写フィルムが入り込み、凹凸表面に追随しながら薄膜を転写することができる。
【0077】
転写時における熱可塑性樹脂シートの表面温度は、好ましくは(Tg)以上、(Tg+50℃)以下の範囲内、より好ましくは(Tg+10℃)以上、(Tg+30℃)以下の範囲内である。転写時における熱可塑性樹脂シートの表面温度が(Tg−10℃)未満であると、薄膜の密着性が低下することがある。逆に、転写時における熱可塑性樹脂シートの表面温度が(Tg+70℃)を超えると、シート表面の凹凸形状を保持できなくなることがある。
【0078】
なお、軟化した基材フィルムは、転写後の冷却により、再度固化するので、熱可塑性樹脂シートから容易に剥離することができる。また、転写時に基材フィルムが軟化状態になるので、薄膜を構成する熱可塑性樹脂は、基材フィルムを構成する熱可塑性樹脂と相溶しないように適宜選択する必要がある。
【0079】
本発明の製造方法における押出成形の条件、例えば、ダイスからの吐出量、ダイス吐出口と冷却ロールとの間隔、冷却ロールの回転速度、引取ロールの回転速度などは、通常の熱可塑性樹脂シートを製造する場合と実質的に同様の条件を設定すればよく、特に限定されるものではない。ただし、ダイスからの吐出量などを調節して、圧着ロールの位置における熱可塑性樹脂シートの表面温度が、該熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg−10℃)以上、(Tg+70℃)以下の範囲内にあるようにする必要がある。なお、一般的には、押出成形されたシートの表面温度が該シートのガラス転移温度付近である位置は、ダイスからの吐出量を多くすると、押出成形の流れ方向における下流側に移動し、逆に、ダイスからの吐出量を少なくすると、押出成形の流れ方向における上流側に移動する。なお、必要に応じて、ヒーターなどの加熱装置を圧着ロール前に設置してもよい。
【0080】
本発明の製造方法に用いる代表的なシート押出機の構成を模式的に図1に示す。このシート押出機10は、押出装置(図示せず)、ダイス11、第1冷却ロール12、第2冷却ロール13、第3冷却ロール14、ガイドロール15、引取ロール16からなる通常のシート押出機であり、さらに付加的に、第3冷却ロール14とガイドロール15との間に、圧着ラミネート装置が取り付けられている。なお、圧着ラミネート装置は、転写フィルム17を、供給ロール18によって張力を与えた状態で供給し、押出成形されたシートの凹凸表面19に、2個の圧着ロール20で圧着するように構成されている。
【0081】
図1に示すシート押出機10を用いて、機能性熱可塑性樹脂シートを製造する工程を以下に説明する。まず、シートを構成する熱可塑性樹脂と、必要に応じて、種々の添加剤とを、押出装置(図示せず)に供給し、充分に混練した後、ダイス11から溶融状態のシート状に押し出す。押出成形されたシートを第1冷却ロール12と第2冷却ロール13との間に導入して第2冷却ロール13の周面上を進行させ、続いて、第2冷却ロール13と第3冷却ロール14との間に導入して第3冷却ロール14の周面上を進行させ、剥離ラインの位置で第3冷却ロール14から離脱させ、供給ロール18によって張力を与えた状態で転写フィルム17を重ね合わせて、圧着ロール20によって圧着した後、ガイドロール15を経て、引取ロール16によって引き取る。このとき、押出成形されたシートの表面19に凹凸形状を与えるには、例えば、第2冷却ロール13として、エンボスロールなどの加飾ロールを用いればよい。なお、第1冷却ロール12および第3冷却ロール14は、表面が平滑な鏡面ロールを用いる。かくして、凹凸表面に転写された少なくとも1層の薄膜を有する機能性熱可塑性樹脂シート21が得られる。
【0082】
転写フィルムを圧着する際には、転写フィルムの張力(転写フィルムを供給するロールの幅方向の単位長さあたりの張力)が0.01kg/cm以上、0.1kg/cm以下となるような緊張下で、30℃以上、200℃以下に加熱された圧着ロールにより、ロール圧(ロールの幅方向の単位長さあたりのロール圧)1kg/cm以上、10kg/cm以下の線圧で圧着することにより、転写接合面での歪みが少なく、均一に転写することができる。転写フィルムの張力が0.01kg/cm未満であると、転写フィルムにしわが入ることがある。逆に、転写フィルムの張力が0.1kg/cmを超えると、転写フィルムの伸びにより薄膜にクラックが入ることがある。また、圧着ロールの温度が30℃未満であると、熱可塑性樹脂シートと転写された薄膜との密着性が低いことや圧着時にしわが入ることがある。逆に、圧着ロールの温度が200℃を超えると、熱可塑性樹脂シートの表面が荒れたり、うねりが大きくなったり、基材フィルムが引きちぎられたりすることがある。さらに、加熱圧着ロールのロール圧が1kg/cm未満であると、空気を巻き込みやすいことがある。逆に、圧着ロールのロール圧が10kg/cmを超えると、得られた機能性熱可塑性樹脂シートに光学的な歪みが生じることがある。
【0083】
なお、転写フィルムの供給ロールをエキスパンダーロール方式やスパイラルロール方式のロールにすれば、転写フィルムの圧着時にしわの発生を防止することができるので好ましい。
【0084】
こうして得られる機能性熱可塑性樹脂シートは、凹凸表面に転写された薄膜を有するが、該薄膜には基材フィルムが付着したままである。この基材フィルムは、製造工程で剥離してもよいし、機能性熱可塑性樹脂シートを用いる際に剥離してもよい。なお、薄膜を転写した後の基材フィルムの剥離強度は、好ましくは0.02N/cm以上、1.0N/cm以下である。基材フィルムの剥離強度がこの範囲内にあれば、基材フィルムを薄膜の保護フィルムとして利用することができる。ここで、基材フィルムの剥離強度は、引張試験機を用いて、180°方向、引張速度300mm/minで測定した値である。
【0085】
本発明の製造方法によれば、凹凸表面に形成された少なくとも1層の薄膜を有する機能性熱可塑性樹脂シートが、転写法を採用することにより、効率よく製造することができるので、工業的に有利である。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0087】
まず、実施例および比較例で用いた評価および試験方法について説明する。
【0088】
<薄膜の厚さ>
基材フィルムの表面に薄膜を形成した転写フィルムの断面に対して、任意の10点をミクロトームで厚さ15μmにスライスし、その断面を顕微鏡で観察して薄膜の厚さを実測し、その10点平均を薄膜の厚さとした。
【0089】
<薄膜の密着性>
熱可塑性樹脂シートに対する薄膜の密着性は、旧JIS K5400(碁盤目テープ試験法)に準拠して行う。すなわち、熱可塑性樹脂シートに転写した薄膜に、カッターを用いて、寸法1mm×1mmの碁盤目を100枡刻み付け、これらの碁盤目に市販の接着テープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン(株)製)を貼り付けた後、接着テープを手で強く引き剥がし、薄膜の剥離を下記の基準で判定する。
○:剥離した枡目が10未満である;
×:剥離した枡目が10以上である。
【0090】
<帯電防止性>
帯電防止性は、熱可塑性樹脂シートの凹凸表面に薄膜を転写した後、表面抵抗値をJIS K6911に準拠して測定し、下記の基準で判定する。
○:表面抵抗値が1×1012Ω未満である;
×:表面抵抗値が1×1012Ω以上である。
【0091】
<耐光性>
耐光性は、熱可塑性樹脂シートの凹凸表面に薄膜を転写した後、アイスーパーUVテスター(SUV−W13型、岩崎電気(株)製)を用いて、強度100mW/cmの紫外線を50時間照射し、JIS Z8722に準拠して測定した紫外線照射前後の黄色度(YI)から、式:ΔYI=紫外線照射後の黄色度(YI)−紫外線照射前の黄色度(YI)によりΔYIを算出し、下記の基準で判定する。
○:ΔYI≦5である;
×:ΔYI>5である。
【0092】
<凹凸表面の保持性>
凹凸表面の保持性は、圧着ロールを用いて薄膜を転写したシートの外観を、圧着ロールを開放して薄膜を転写しなかったシートの外観と目視で比較し、下記の基準で判定する。
○:外観に大きい変化がない;
×:外観に大きい変化がある。
【0093】
<総合判定>
総合判定は、密着性、帯電防止性、耐光性、凹凸表面の保持性のうち、すべてが「○」であるものを「○」とし、少なくとも1つが「×」であるものを「×」とする。
【0094】
次に、転写フィルムの調製、熱可塑性樹脂シートの押出成形および薄膜の転写について説明する。
【0095】
<転写フィルムの調製>
転写フィルム(1)
高密度ポリエチレンフィルム(HS−30、タマポリ(株)製;融点110℃、厚さ50μm、幅300mm)を基材フィルムとし、その片面に、紫外線吸収性を有するアクリル樹脂(ハルスハイブリッドUV−G13、(株)日本触媒製;酢酸エチル溶液)と第4級アンモニウム塩型の帯電防止剤(レジスタットPU−101、第一工業製薬(株)製)とを固形分比1:0.2で混合した溶液を、リバースロールコーターで塗布した後、80℃で5分間乾燥させて、基材フィルム上に帯電防止剤を含有する紫外線吸収性アクリル樹脂からなる薄膜(厚さ3.5μm)が1層形成された転写フィルム(1)を得た。
【0096】
転写フィルム(2)
2軸延伸ポリプロピレンフィルム(トレファン2500S、東レ(株)製;融点165℃、厚さ50μm、幅300mm)を基材フィルムとし、その片面に、紫外線吸収性を有するアクリル樹脂(ハルスハイブリッドUV−G13、(株)日本触媒製;酢酸エチル溶液)と第4級アンモニウム塩型の帯電防止剤(レジスタットPU−101、第一工業製薬(株)製)とを固形分比1:0.2で混合した溶液を、リバースロールコーターで塗布した後、80℃で5分間乾燥させて、基材フィルム上に帯電防止剤を含有する紫外線吸収性アクリル樹脂からなる薄膜(厚さ3.5μm)が1層形成された転写フィルム(2)を得た。
【0097】
転写フィルム(3)
2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーS10、東レ(株)製;融点245℃、厚さ38μm、幅300mm)を基材フィルムとし、その片面に、紫外線吸収性を有するアクリル樹脂(ハルスハイブリッドUV−G13、(株)日本触媒製;酢酸エチル溶液)と第4級アンモニウム塩型の帯電防止剤(レジスタットPU−101、第一工業製薬(株)製)とを固形分比1:0.2で混合した溶液を、リバースロールコーターで塗布した後、80℃で5分間乾燥させて、基材フィルム上に帯電防止剤を含有する紫外線吸収性アクリル樹脂からなる薄膜(厚さ3.5μm)が1層形成された転写フィルム(3)を得た。
【0098】
なお、転写フィルム(1)、(2)および(3)は、基材フィルムを巻き出しロールから塗布部、乾燥部などの加工部を経て巻き取りロールに供する加工装置により、フィルムロールの形態で準備した。
【0099】
<熱可塑性樹脂シートの押出成形>
アクリル樹脂(デルペット70H、旭化成(株)製;Tg:103℃)、MS樹脂(エスチレンMS600、新日鉄化学(株)製;Tg:87℃)、PC樹脂(ユーピロンE2000FN、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製;Tg:143℃)、COC樹脂(TOPAS6013、Ticona GmbH製;Tg:140℃)、PS樹脂(PSJポリスチレンSGP10、PSジャパン(株)製;Tg:80℃)を熱可塑性樹脂とし、押出機(スクリュー径50mmφ、L/D=32、単軸)、ギアポンプ、ダイス、冷却と鏡面−加飾面(エンボス調の凹凸面)−鏡面の冷却ロール3本からなるユニットと、ガイドロール、引取ロールとを用いて、常法により、押出成形を行って、幅300mmの熱可塑性樹脂シートを作製した。得られた熱可塑性樹脂シートの片面には、第2冷却ロールの加飾面により、凹凸形状を形成した。
【0100】
なお、押出成形時の樹脂温度は、アクリル樹脂(Tg:103℃)の場合は260℃、MS樹脂(Tg:87℃)の場合は230℃、PC樹脂(Tg:143℃)の場合は280℃、COC樹脂(Tg:140℃)の場合は250℃、PS樹脂(Tg:80℃)の場合は170℃に調節した。また、シートの厚さが2mmになるように、ダイス吐出口と冷却ロールとの間隔や冷却ロールおよび引取ロールの回転速度を調節し、シート押出速度は0.7m/minであった。
【0101】
上記した熱可塑性樹脂から得られたシートは、薄膜を有していないので、いずれも表面抵抗値が1×1016Ωを超えており、耐光性についても、アクリル樹脂を除いて、ΔYIが10以上であった。
【0102】
<薄膜の転写>
冷却ロールとガイドロールとの間に、塵埃を除去する目的で除電エアー供給器(SJ−R036、(株)キーエンス製)と、押出成形されたシートを加熱するための遠赤外パネルヒーターとを設置し、シート表面温度を所定の温度に保ちながら、転写フィルムの薄膜が押出成形されたシートの凹凸表面側に対向するようにして、ロール巻き形態の転写フィルムを、供給ロール、圧着ロールを介して連続的に供給し、押出成形されたシートの凹凸表面に圧着した。なお、シート表面温度は、放射温度計(IR−TAF、(株)チノー製)を用いて測定した。
【0103】
なお、圧着ロールは、金属ロールの表面に、ショア硬さHs60のシリコーンゴムを厚さ3mmでライニングされたものを用いた。また、転写フィルムの圧着は、転写フィルムの張力(転写フィルムを供給するロールの幅方向の単位長さあたりの張力)が0.03kg/cmとなるような緊張下で、圧着ロールの温度70℃、ロール圧(ロールの幅方向の単位長さあたりのロール圧)6kg/cmの線圧で加圧しながら行った。
【0104】
≪実施例1≫
上記で説明したように、アクリル樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が130℃となるように調節した位置で、転写フィルム(1)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたアクリル樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが6.5μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0105】
≪実施例2≫
上記で説明したように、MS樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が120℃となるように調節した位置で、転写フィルム(1)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたMS樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが4.8μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0106】
≪実施例3≫
上記で説明したように、PC樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が170℃となるように調節した位置で、転写フィルム(1)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたPC樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが5.2μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0107】
≪実施例4≫
上記で説明したように、COC樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が170℃となるように調節した位置で、転写フィルム(1)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたCOC樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが6.6μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0108】
≪実施例5≫
上記で説明したように、PS樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が120℃となるように調節した位置で、転写フィルム(1)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたPS樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが6.4μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0109】
≪実施例6≫
上記で説明したように、PC樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が200℃となるように調節した位置で、転写フィルム(2)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたPC樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが3.8μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0110】
≪実施例7≫
上記で説明したように、COC樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が170℃となるように調節した位置で、転写フィルム(2)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたCOC樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが5.5μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0111】
≪実施例8≫
上記で説明したように、シリカ球状微粒子(シーホスタKE−P150、(株)日本触媒製;平均粒子径1.33〜1.83μm;このシリカ球状微粒子は光拡散剤として機能する)0.5質量%を配合したPC樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が200℃となるように調節した位置で、転写フィルム(1)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シート(表面機能性を付与した光拡散シート)を得た。なお、押出成形されたPC樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが7.2μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0112】
≪実施例9≫
上記で説明したように、シリカ球状微粒子(シーホスタKE−P150、(株)日本触媒製;平均粒子径1.33〜1.83μm;このシリカ球状微粒子は光拡散剤として機能する)0.5質量%を配合したPS樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が130℃となるように調節した位置で、転写フィルム(1)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シート(表面機能性を付与した光拡散シート)を得た。なお、押出成形されたPS樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが6.0μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0113】
≪比較例1≫
上記で説明したように、アクリル樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が130℃となるように調節した位置で、転写フィルム(2)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたアクリル樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが5.4μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0114】
≪比較例2≫
上記で説明したように、MS樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が120℃となるように調節した位置で、転写フィルム(2)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたMS樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが6.5μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0115】
≪比較例3≫
上記で説明したように、MS樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が180℃となるように調節した位置で、転写フィルム(2)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたMS樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが7.1μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0116】
≪比較例4≫
上記で説明したように、PC樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が180℃となるように調節した位置で、転写フィルム(3)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたPC樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが6.0μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0117】
≪比較例5≫
上記で説明したように、アクリル樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が80℃となるように調節した位置で、転写フィルム(1)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたアクリル樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが3.8μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0118】
≪比較例6≫
上記で説明したように、PC樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が100℃となるように調節した位置で、転写フィルム(1)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたPC樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが5.5μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0119】
≪比較例7≫
上記で説明したように、PS樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が180℃となるように調節した位置で、転写フィルム(3)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたPS樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが6.3μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0120】
≪比較例8≫
上記で説明したように、PC樹脂をシート状に押出成形し、シート表面温度が150℃となるように調節した位置で、転写フィルム(2)を圧着した後、基材フィルムを剥離して、機能性熱可塑性樹脂シートを得た。なお、押出成形されたPC樹脂シートにおける凹凸表面の程度は、中心線平均粗さが6.6μmであった。機能性熱可塑性樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0121】
【表1】

【0122】
表1から明らかなように、実施例1〜9は、転写時のシート表面温度が、シートのガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg−10℃)以上、(Tg+70℃)以下の範囲内にあると共に、基材フィルムの軟化点(融点)が転写時のシート表面温度より低いという条件を満足するので、薄膜の密着性、帯電防止性、耐光性、凹凸表面の保持性のすべてに優れ、総合判定は「○」であった。
【0123】
これに対し、比較例1〜8は、上記の条件を満足しないので、帯電防止性、耐光性、凹凸表面の保持性のうち、少なくとも1つが劣っており、総合判定は「×」であった。
【0124】
かくして、上記の条件を満足するように薄膜の転写を行えば、熱可塑性樹脂シートが凹凸表面を有していても、シートを構成する熱可塑性樹脂の種類に関らず、薄膜の密着性や凹凸表面の保持性に優れた機能性熱可塑性樹脂シートが得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、熱可塑性樹脂シートが凹凸表面を有していても、機能性を有する薄膜を凹凸表面に追随させながら高い密着性で形成し、このような熱可塑性樹脂シートに種々の機能性(例えば、帯電防止性、耐光性、超撥水性、超親水性、防曇性、低反射性、反射防止性など)を付与することができるので、熱可塑性樹脂シートを用いる幅広い分野で多大の貢献をなすものである。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の製造方法に用いられる代表的なシート押出機の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0127】
10 シート押出機
11 ダイス
12 第1冷却ロール(鏡面ロール)
13 第2冷却ロール(加飾ロール)
14 第3冷却ロール(鏡面ロール)
15 ガイドロール
16 引取フィルム
17 転写フィルム
18 供給ロール
19 凹凸表面
20 圧着ロール
21 機能性熱可塑性樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に転写法により形成された少なくとも1層の薄膜を有することを特徴とする凹凸表面を有する機能性熱可塑性樹脂シート。
【請求項2】
前記シートを構成する熱可塑性樹脂がアモルファス樹脂からなる請求項1記載の機能性熱可塑性樹脂シート。
【請求項3】
前記薄膜のうち少なくとも1層を構成する樹脂が紫外線吸収性を有する請求項1または2記載の機能性熱可塑性樹脂シート。
【請求項4】
前記薄膜のうち少なくとも1層が帯電防止剤を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の機能性熱可塑性樹脂シート。
【請求項5】
前記薄膜のうち少なくとも1層が蛍光増白剤を含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の機能性熱可塑性樹脂シート。
【請求項6】
前記薄膜のうち少なくとも1層が微粒子を含有する請求項1〜5のいずれか1項記載の機能性熱可塑性樹脂シート。
【請求項7】
請求項1〜6記載の機能性熱可塑性樹脂シートを液晶表示装置のバックライトユニットに用いることを特徴とする液晶表示装置用光拡散板。
【請求項8】
請求項1記載の機能性熱可塑性樹脂シートを製造する方法であって、基材フィルムの表面に少なくとも1層の薄膜を形成した転写フィルムを用いて、凹凸表面を有する熱可塑性樹脂シートの該凹凸表面に該薄膜を転写する際に、該熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度をTgとしたとき、該熱可塑性樹脂シートの表面温度が(Tg−10℃)以上、(Tg+70℃)以下の範囲内にあると共に、該熱可塑性樹脂シートの表面温度より低い軟化点を有する基材フィルムを用いることを特徴とする製造方法。
【請求項9】
基材フィルムの表面に薄膜を形成した転写フィルムであって、該基材フィルムとして、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)および無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)から選択される少なくとも1種のフィルムを用いることを特徴とする凹凸表面への転写性に優れた転写フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−96499(P2008−96499A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275037(P2006−275037)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(390018050)日本ポリエステル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】