説明

凹版の製造方法、及び凹版

【課題】使用するインキの種類に関わらず、ドクターによるインキの掻き取りを確実かつスムーズに行うことができ、これにより、高い品質の印刷物を得ることのできる凹版の製造方法、及び凹溝を備えた凹版を提供する。
【解決手段】芯材の外面上に中間層を形成する中間層形成工程と、中間層上に表面層を積層形成する表面層形成工程と、積層された表面層から中間層まで届く深さの凹溝を一回の加工で形成する凹溝形成工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹版の製造方法、及び凹溝を備えた凹版に関する。
【背景技術】
【0002】
凹版印刷は、凹溝にインキを詰めるとともに、凹溝以外の非画線部面に残ったインキをドクターで掻き取った後に、凹溝中のインキを紙、フィルムその他の媒体へ転写することによって印刷を行う。凹版印刷では、画線部が凹溝で構成されるため、版が摩耗しづらく、画像の変化が少ないことから大量の印刷を行うことができる。また、インキ量の差によって、写真の階調を表現できるため、重厚かつ美しい印刷を実現することができる。
【0003】
凹版では、各種のインキを用いることができるが、印刷の作業環境改善、自然環境の保護、有機溶剤処理設備導入による高コスト化その他の観点から、有機溶剤を用いたインキから水性インキを用いる方式にシフトすることが検討されつつある。また、一般的に、有機溶剤系インキに比して、水性インキを用いた印刷では、より高線数で高品質の画像を得ることが可能である。
【非特許文献1】伊東亮次編著「印刷技術一般」産業図書、1960年9月15日、P.96〜105
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、凹版印刷においては、ドクターによるインキの掻き取りが十分に行われずに非画線部面にインキが残ってしまう場合がある。この場合には、本来印刷されるべきでない部分にインキが転写されてしまうカブリ不良が発生し、これにより、印刷物の生産性の低下や版等の消耗品にかかるコストの増大という問題が生じる。
【0005】
このような問題は、インキの乾燥が遅く、ドクターと版との滑走性が低い、水性インキを用いた凹版印刷で顕著である。すなわち、インキの乾燥が遅いため、非画線部面に残ったインキが乾燥することなく媒体に転写されて画像として顕在化してしまう。また、滑走性が低いことにより、非画線部面上のインキを十分に掻き取ることができないだけでなく、非画線部面上で跳ねてしまうことで均一に掻き取ることができなくなるおそれがあり、さらに、ドクターが摩耗しやすくなるため、生産コストがさらに上昇することとなる。
【0006】
そこで本発明は、使用するインキの種類に関わらず、ドクターによるインキの掻き取りを確実かつスムーズに行うことができ、これにより高い品質の印刷物を得ることのできる凹版の製造方法、及び凹溝を備えた凹版を提供することを目的とする。また、本発明の目的は、少ない工程で、簡便に凹溝を形成することにより、カブリ不良を防止することのできる凹版を製造することにある。さらに、本発明は、高い精度で所望の形状の凹溝を形成することのできる凹版の製造方法、及び凹版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の凹版の製造方法においては、芯材の外面上にインキ着肉性を有する中間層を形成する中間層形成工程と、中間層上に撥水性及び又は撥油性を有する表面層を積層形成する表面層形成工程と、積層された表面層から中間層まで届く深さの凹溝を一回の加工で形成する凹溝形成工程と、を備えることを特徴としている。
【0008】
本発明の凹版の製造方法において、凹溝形成工程では、表面層側からレーザー光を照射して、表面層及び中間層の所定範囲を昇華させることにより、凹溝を形成することが好ましい。
【0009】
本発明の凹版の製造方法において、凹溝形成工程では、彫刻手段による彫刻によって凹溝を形成することができる。
【0010】
本発明の凹版の製造方法において、芯材は円柱形状を備え、芯材の外周面上に中間層及び表面層を積層形成することにより、円柱形状の凹版を製造することが好ましい。
【0011】
本発明の凹版の製造方法において、中間層はインキ着肉性を備えることが好ましい。
【0012】
本発明の凹版の製造方法において、表面層は樹脂を含んだメッキにより形成することが好ましい。
【0013】
本発明の凹版の製造方法において、表面層はフッ素系樹脂を含んだメッキにより形成することができる。
【0014】
本発明の凹版の製造方法において、表面層はPTFEを含んだメッキにより形成することが好ましい。
【0015】
本発明の凹版の製造方法において、表面層は、PTFEを含んだクロムメッキ、又は、PTFEを含んだニッケルメッキにより形成することができる。
【0016】
さらにまた、本発明の凹版は、円柱形状の芯材と、芯材の外面上に形成された中間層と、中間層上に積層形成された表面層と、を備え、表面層から中間層まで届く深さの凹溝が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、芯材の外面上にインキ着肉性を有する中間層を形成する中間層形成工程と、中間層上に撥水性及び又は撥油性を有する表面層を積層形成する表面層形成工程と、積層された表面層から中間層まで届く深さの凹溝を一回の加工で形成する凹溝形成工程と、を備えることにより、少ない工程で簡便に、さらに、高精度で所望形状の凹溝を形成することができる。さらに、使用するインキの種類に関わらず、中間層でのインキ着肉を安定させ、かつ、ドクターによるインキの掻き取りを確実かつスムーズに行うことができ、これによりカブリ不良を抑えた高品質の印刷物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る凹版の製造方法、及び凹版について図面を参照しつつ詳しく説明する。
本実施形態は、本発明を円柱形状の凹版に適用した場合の実施形態を示すものであるが、本発明は円柱形状以外の凹版にも適用することができる。
【0019】
図1は、本実施形態に係る凹版20の凹溝を形成する凹溝形成装置10の概略構成を示す図である。
図1に示すように、凹溝形成装置10は、レーザー光を照射する照射部11と、制御部12(例えばマイクロコンピュータチップ)と、入力部13(例えばキーボード、タッチキー)と、駆動部14と、を備える。照射部11は、凹版20の外周面(外面)24(表面撥水層23の外周面)の所定位置に対して、あらかじめ定めたパターン及び強度のレーザー光を照射する。照射部分はレーザー光によって発生する熱により昇華して凹溝25(図2)が形成される。ここで、凹版20は、円柱形状の芯材21の外周面上に順に彫刻層(中間層)22及び表面撥水層(表面層)23を積層形成したものである。また、凹版20の原材とは、表面撥水層23の形成後、外周面24から凹溝25を形成する前の円柱形状材料のことを指すが、以下の説明では、凹版20と称する。
【0020】
凹版20への凹溝の形成においては、装置の利用者が入力部13を用いて設定した条件にしたがって、制御部12の制御により、照射部11を凹版20の軸Cの方向に沿って移動させるとともに、凹版20をその軸の周りに回動させて、凹版20上に照射部11からレーザー光を照射し、これにより、所望のパターンで所望の深さの凹溝25を形成する。凹版20においては、照射部11から出射されるレーザー光の強度に応じて、表面撥水層23から、彫刻層22の所望深さ(表面層から中間層まで届く深さ)までの凹溝25が一回の加工で(一回のレーザー光の照射で)形成される。
【0021】
照射部11としては、公知のレーザー光照射装置を用いることができるが、そのレーザーの種類としては、YAGレーザー、YVO4レーザー、炭酸ガスレーザーが好ましい。また、レーザー光の波長及び強度は、表面撥水層23、彫刻層22を構成する材料、及び、形成する凹溝の形状及び深さに応じて、任意に設定することができる。凹溝形成装置10としては、例えば、Hell社のCellaxy0611を用いることができ、この装置では、1064nmの波長のレーザー光で高精細の凹溝を形成することができる。
【0022】
本発明においては、一つの工程で表面撥水層23から彫刻層22まで届く深さの凹溝を形成することができれば、レーザー光の照射以外の方法によって行うこともできる。例えば、表面撥水層23及び彫刻層22を彫刻、切削、又は研磨できる程度の硬度を有する先端彫刻部を振動させることにより凹溝を形成する装置(彫刻手段)を用いることもできる。
【0023】
つづいて、凹版の製造工程について、図2を参照しつつ説明する。ここで、図2は、本実施形態に係る凹版の製造工程を示す、図1のII部分における部分拡大断面図である。
【0024】
芯材21は、円柱形状に成形された金属部材(例えば鉄、アルミ)である(図2(a))。この芯材21の外周面上にインキ着肉性を有する彫刻層22を均一に形成して円柱形状とする(図2(b))。彫刻層22は、例えば銅、クロム、又はニッケルのメッキにより、凹版として必要な径とする。
【0025】
次に、彫刻層22の外周面上に、表面撥水層23を均一に形成して円柱形状とする(図2(c))。表面撥水層23は、樹脂を分散させた金属メッキ液に、芯材21に形成した彫刻層22を浸漬することによって形成する。使用する金属メッキとしては、例えば、クロム、銅、ニッケル、アルミ、鉄、又はマンガンが挙げられる。また、メッキ液に分散する樹脂としては、例えば、フッ素系樹脂(PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(パーフルオロ・エチレン・プロピレン))、又はシリコーン系樹脂が挙げられる。金属メッキ液中の樹脂の割合は、印刷に使用されるインキの種類、印刷速度その他の印刷に関連する仕様、並びに、レーザー光の種類及び強度に応じて設定する。形成された表面撥水層23は、その材料の性質により、インキを弾く性質を備えている。表面撥水層23にPTFEを含んだクロムメッキを採用した場合、表面張力が低いことから、水性インキを弾く撥水性に加え、油性インキも弾く撥油性も得られる。
【0026】
つづいて、表面撥水層23の外周面24に対して照射部11を用いてレーザー光を照射することにより、所望の形状の凹溝25を凹状に形成する(図2(d))。表面撥水層23及び彫刻層22において、レーザー光が照射された部分は、照射範囲に対応した形状で、材料が昇華し、これにより凹溝25が形成される。この凹溝25は、一つの工程、すなわち一回のレーザー光照射(一回の加工)のみにより、表面撥水層23から彫刻層22まで届く深さに形成することができるものである。彫刻層22の層厚、表面撥水層23の層厚、及び凹溝25の深さは、印刷仕様に応じて任意に設定することができるが、例えば、彫刻層22の層厚を10〜150μm、表面撥水層23の層厚を1〜10μmとしたときに凹溝25の深さを10〜70μmとすることができる。
【0027】
以上のように構成された凹版20においては、図3に示すように凹溝25にインキ30を詰めるとともに、外周面24上に残ったインキをドクター40で掻き取った状態で印刷に供する。すなわち、所定の圧力で、凹版20の外周面24に紙、フィルムその他の媒体を押しつけつつ凹版20を回転させることにより、凹溝25内のインキ30を媒体上に転写する。ここで、図3は、本実施形態に係る凹版20の凹溝25にインキを詰めた状態を示す、図2に対応する部分拡大断面図である。
【0028】
このように、凹版20の最外層に表面撥水層23を設けることにより、凹版20の外周面24に供給してインキは、凹溝25内に詰め込まれる一方、外周面24上に残った表面撥水層23に弾かれるため、ドクター40によって容易かつ確実に掻き取ることができる。よって、非画線部たる外周面24上にインキが残らないこととなるため、カブリの発生を防止することができる。
【0029】
なお、表面撥水層23を構成する材料は、用いるインキ30の種類に合わせて選定する。すなわち、水性インキを用いる場合は撥水性を備えた材料を選定し、油性インキを用いる場合は撥油性を備えた材料を選定する。なお、すでに例示したフッ素系樹脂(PTFE、PFA、FEP)、及びシリコーン系樹脂は、撥水性及び撥油性を備えることから、インキの種類に関わらず用いることができる。
【0030】
また、本実施形態に係る凹版の製造方法、及び凹版では、彫刻層22の形成、表面撥水層23の形成、及び凹溝25の形成の三つの工程のみで凹版の凹溝を形成することができるため、少ないコストで簡便に製造することができる。
【0031】
さらに、凹溝25の形成は、レーザー光を用いて行うため、設計形状に忠実な高精細の凹溝を形成することができる。
【0032】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明に係る凹版の製造方法、及び凹版は、特に水性インキを使用した場合、カブリ不良のない高品質な凹版印刷に有用であり、高品質を要求されるフィルム包装のパッケージに適している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係る凹版の凹溝の形成装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る凹版の製造工程を示す、図1のII部分における部分拡大断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る凹版の凹溝にインキを詰めた状態を示す、図2に対応する部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0035】
10 凹溝形成装置
11 照射部
12 制御部
13 入力部
14 駆動部
20 凹版
21 芯材
22 彫刻層(中間層)
23 表面撥水層(表面層)
24 外周面(外面)
25 凹溝
30 インキ
40 ドクター
C 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の外面上にインキ着肉性を有する中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層上に撥水性及び又は撥油性を有する表面層を積層形成する表面層形成工程と、
積層された前記表面層から前記中間層まで届く深さの凹溝を一回の加工で形成する凹溝形成工程と、
を備えることを特徴とする凹版の製造方法。
【請求項2】
前記凹溝形成工程では、前記表面層側からレーザー光を照射して、前記表面層及び前記中間層の所定範囲を昇華させることにより、前記凹溝を形成する請求項1に記載の凹版の製造方法。
【請求項3】
前記凹溝形成工程では、彫刻手段による彫刻によって前記凹溝を形成する請求項1に記載の凹版の製造方法。
【請求項4】
前記芯材は円柱形状を備え、前記芯材の外周面上に前記中間層及び前記表面層を積層形成することにより、円柱形状の凹版を製造する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の凹版の製造方法。
【請求項5】
前記表面層は樹脂を含んだメッキにより形成される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の凹版の製造方法。
【請求項6】
前記表面層はフッ素系樹脂を含んだメッキにより形成される請求項5に記載の凹版の製造方法。
【請求項7】
前記表面層はPTFEを含んだメッキにより形成される請求項6に記載の凹版の製造方法。
【請求項8】
前記表面層はPTFEを含んだクロムメッキにより形成される請求項7に記載の凹版の製造方法。
【請求項9】
前記表面層はPTFEを含んだニッケルメッキにより形成される請求項7に記載の凹版の製造方法。
【請求項10】
円柱形状の芯材と、
前記芯材の外面上に形成された中間層と、
前記中間層上に積層形成された表面層と、を備え、
前記表面層から前記中間層まで届く深さの凹溝が形成されていることを特徴とする凹版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−39984(P2009−39984A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208919(P2007−208919)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】