説明

出湯装置及び注湯方法

【課題】ストッパを使わずにルツボ内の雰囲気を制御可能な出湯装置及び注湯方法を提供する。
【解決手段】出湯装置20は、溶湯Mを溜める傾動式のルツボ21と、ルツボ21を覆う密閉部材24と、密閉部材24に設けられた出湯口24Aと、出湯口24Aに設けられルツボ21の傾動出湯時に溶湯Mの熱で貫通する閉塞部材50とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾動式のルツボを備えた出湯装置及び注湯方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ルツボの底部に出湯口を備え、出湯口を形成するノズルを開閉するストッパ(開閉部材)を設け、ストッパでノズルを閉塞し、ルツボ内の圧力や気体の種類等の雰囲気を制御した状態で溶湯を保持する出湯装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この出湯装置では、ストッパは、上下移動可能に構成され、下の位置でノズルを閉塞してルツボ内を密閉し、ストッパを上げることで溶湯を出湯している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−38765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の構成では、ストッパとノズルとの隙間が大きくなると、その隙間から溶湯が漏れるおそれがある。ストッパとノズルとの隙間を小さくするために、ストッパとノズルとを頻繁すり合わせる場合には、ストッパが削れていき、ストッパの寿命が短くなる。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、ストッパを使わずにルツボ内の雰囲気を制御可能な出湯装置及び注湯方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、溶湯を溜める傾動式のルツボと、該ルツボを覆う密閉部材と、該密閉部材に設けられた出湯口と、該出湯口に設けられ該ルツボの傾動出湯時に溶湯の熱で貫通する閉塞部材とを備えたことを特徴とする。
上記構成によれば、溶湯を溜める傾動式のルツボと、ルツボを覆う密閉部材と、密閉部材に設けられた出湯口と、出湯口に設けられルツボの傾動出湯時に溶湯の熱で貫通する閉塞部材とを備えたため、ルツボを開閉する開閉部材を設けることなく、閉塞部材で密閉部材内を密閉できる。また、出湯口を瞬時に開くことができるので、密閉部材内の雰囲気を出湯直前まで制御できる。
【0006】
上記構成において、前記密閉部材の内部空間に、前記ルツボと、該ルツボの傾動出湯時に溶湯を受ける樋部材とを備え、この樋部材の出湯口に前記閉塞部材を備えてもよい。
上記構成によれば、密閉部材の内部空間に、ルツボと、ルツボの傾動出湯時に溶湯を受ける樋部材とを備え、この樋部材の出湯口に閉塞部材を備えたため、樋部材が設けられても、ルツボを開閉する開閉部材を設けることなく、閉塞部材で密閉部材内を密閉できる。
【0007】
上記構成において、前記密閉部材、前記ルツボおよび前記出湯口を一体化し、該ルツボの傾動出湯時には、該ルツボを前記密閉部材毎傾動してもよい。
上記構成によれば、密閉部材、ルツボおよび出湯口を一体化し、ルツボの傾動出湯時には、ルツボを密閉部材毎傾動するため、密閉部材、ルツボおよび出湯口が一体化されても、ルツボを開閉する開閉部材を設けることなく、閉塞部材で密閉部材内を密閉できる。
【0008】
上記構成において、前記密閉部材内を加圧する加圧手段を備えてもよい。
上記構成によれば、密閉部材内を加圧する加圧手段を備えたため、出湯時に密閉部材内を加圧できるので、出湯速度を速めることができる。
【0009】
また、本発明は、傾動式のルツボに溶湯を溜める行程と、前記ルツボを覆う密閉部材内を加圧する行程と、前記傾動式ルツボを傾動し、該密閉部材に設けた出湯口に溶湯を供給する行程と、前記出湯口に設けた閉塞部材を、該ルツボの傾動出湯時に溶湯の熱で貫通する行程とを備えたことを特徴とする。
上記構成によれば、傾動式のルツボに溶湯を溜める行程と、ルツボを覆う密閉部材内を加圧する行程と、傾動式ルツボを傾動し、密閉部材に設けた出湯口に溶湯を供給する行程と、出湯口に設けた閉塞部材を、ルツボの傾動出湯時に溶湯の熱で貫通する行程とを備えたため、ルツボを開閉する開閉部材を設けることなく、閉塞部材で密閉部材内を密閉できる。また、出湯口を瞬時に開くことができるので、密閉部材内の雰囲気を出湯直前まで制御できる。また、出湯時に密閉部材内を加圧できるので、出湯速度を速めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶湯を溜める傾動式のルツボと、ルツボを覆う密閉部材と、密閉部材に設けられた出湯口と、出湯口に設けられルツボの傾動出湯時に溶湯の熱で貫通する閉塞部材とを備えたため、ルツボを開閉する開閉部材を設けることなく、閉塞部材でルツボ内を密閉でき、その結果、ストッパを使わずにルツボ内の雰囲気を制御できる。また、出湯口を瞬時に開くことができるので、密閉部材内の雰囲気を出湯直前まで制御できる。
【0011】
また、密閉部材の内部空間に、ルツボと、ルツボの傾動出湯時に溶湯を受ける樋部材とを備え、この樋部材の出湯口に閉塞部材を備えたため、密閉部材の内部空間に樋部材が設けられても、ルツボを開閉する開閉部材を設けることなく、閉塞部材で密閉部材内を密閉でき、その結果、ストッパを使わずに密閉部材内の雰囲気を制御できる。
【0012】
また、密閉部材、ルツボおよび出湯口を一体化し、ルツボの傾動出湯時には、ルツボを密閉部材毎傾動するため、密閉部材、ルツボおよび出湯口が一体化されても、ルツボを開閉する開閉部材を設けることなく、閉塞部材で密閉部材内を密閉でき、その結果、ストッパを使わずに密閉部材内の雰囲気を制御できる。
【0013】
また、密閉部材内を加圧する加圧手段を備えたため、出湯時に密閉部材内を加圧できるので、出湯速度を速めることができる。
【0014】
また、傾動式のルツボに溶湯を溜める行程と、ルツボを覆う密閉部材内を加圧する行程と、傾動式ルツボを傾動し、密閉部材に設けた出湯口に溶湯を供給する行程と、出湯口に設けた閉塞部材を、ルツボの傾動出湯時に溶湯の熱で貫通する行程とを備えたため、ルツボを開閉する開閉部材を設けることなく、閉塞部材で密閉部材内を密閉でき、その結果、ストッパを使わずにルツボ内の雰囲気を制御できる。また、出湯口を瞬時に開くことができるので、密閉部材内の雰囲気を出湯直前まで制御できる。また、出湯時に密閉部材内を加圧できるので、出湯速度を速めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る出湯装置を適用した鋳造装置を模式的に示す図である。
【図2】薄板とその近傍を拡大して示す図である。
【図3】薄板が貫通した状態の鋳造装置を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る出湯装置を適用した鋳造装置を模式的に示す図である。
【図5】薄板が貫通した状態の鋳造装置を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る出湯装置を適用した鋳造装置を模式的に示す図である。
【図7】薄板とその近傍を拡大して示す図である。
【図8】薄板が貫通した状態の鋳造装置を模式的に示す図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態に係る出湯装置を適用した鋳造装置を模式的に示す図である。
【図10】薄板が貫通した状態の鋳造装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
<第1の実施の形態>
図1は、第1の実施の形態に係る出湯装置を適用した鋳造装置を模式的に示す図である。
鋳造装置1は、鋳型10と、出湯装置20とを備えて大略構成されている。鋳型10は、鋳物の一例として2本のカムシャフトを鋳造する銅製の金型であり、鋳型10には、図示しない冷却手段が設けられている。鋳型10は、固定型10A(例えば鋳型10の紙面垂直方向下半分)及び可動型10B(例えば鋳型10の紙面垂直方向上半分)を有し、固定型10A及び可動型10Bが互いに開閉可能に構成されている。なお、図1は、固定型10Aを可動型10B側から示す図である。鋳型10は、固定型10Aと可動型10Bとの合わせ面に、湯口11、メインランナ12、サブランナ13、チョーク14、フィルタ15、ガス抜き孔16、ゲート17、及び、キャビティ18を備えている。鋳型10の構成は、メインランナ12に対して左右対称となっている。
【0017】
湯口11は、例えば鋳鉄材料を溶かした溶湯Mの注入口である。メインランナ12は、湯口11から注入された溶湯Mを左右のサブランナ13に供給する湯道である。サブランナ13は、メインランナ12からの溶湯Mをキャビティ18に供給する湯道である。チョーク14は、サブランナ13の入口側に設けられ、サブランナ13に供給された溶湯Mの流速を減速させる絞り部である。フィルタ15は、サブランナ13においてチョーク14とゲート17との間に設けられ、溶湯M中のガスや異物を除去する。ガス抜き孔16はサブランナ13に接続され、溶湯Mから発生したガスを排出する。ゲート17は、サブランナ13の出口側に設けられ、キャビティ18に接続される。左右のゲート17は、キャビティ18の数に対応し、それぞれ1個設けられている。鋳型10は、キャビティ18の上部が開放された開放型の金型である。
【0018】
出湯装置20は、溶湯Mを溜めるルツボ21を備えている。ルツボ21は、例えば略箱状に形成された筐体24(密閉部材)内に配置されており、傾動軸21Aを介して傾動自在に筐体24に支持されている。傾動軸21Aの回転時にも筐体24内の密閉状態を維持できるように、筐体24の壁部と傾動軸21Aとの間に図示しないシール材が設けられている。傾動軸21Aは、ルツボ21の上端部に設けられている。
筐体24には、溶湯Mをルツボ21内に供給するための供給口26が形成されている。供給口26は、ルツボ21の直上であって、傾動軸21Aと上下に重ならないように、傾動軸21Aからオフセットした位置に設けられている。供給口26には開閉自在な上蓋27が設けられ、この上蓋27は、ルツボ21に溶湯Mを供給する際には開口され、閉塞中は筐体24内を密閉するように構成されている。
【0019】
筐体24内には、ルツボ21の傾動出湯時に溶湯Mを受ける樋部材28が設けられている。樋部材28は、ルツボ21の下方に配置され、ルツボ21を傾動させた時にルツボ21から溢れた溶湯Mを受ける受け部28Aと、受け部28Aを囲む壁部28Bとを備えている。樋部材28の底部には、受けた溶湯Mを出湯する出湯口28Cが形成されている。受け部28Aは、出湯口28Cに向けて傾斜している。樋部材28の周囲には、溶湯Mを加熱するヒータ29が配置されている。
筐体24には、ルツボ21内を加圧する加圧手段41が加圧経路41Aを介して接続されている。加圧経路41Aは、筐体24を貫通して筐体24内に連通しており、図示しないシール材により気密に筐体24に接続されている。筐体24の底部には、樋部材28の出湯口28Cより大きい出湯口24Aが形成されている。ルツボ21内の溶湯Mは、破線矢印で示すように、出湯口24Aから鋳型10に出湯される。筐体24には、出湯口24Aを塞ぎ、筐体24内と外部とを仕切る薄板(閉塞部材)50が設けられている。
【0020】
薄板50は、出湯時に溶湯Mの熱によって貫通するように構成されている。薄板50が、紙や樹脂等の可燃物で形成された場合には、出湯時に溶湯Mの熱で燃焼して貫通する。また、薄板50が、溶湯Mよりも融点の低い金属で形成された場合には、出湯時に溶湯Mの熱で溶けて貫通する。また、薄板50が、溶湯Mよりも融点の高い金属で形成された場合には、出湯時に溶湯Mの熱で薄板50の強度が下がり、溶湯Mの勢いで簡単に破れて貫通する。例えば、溶湯Mがアルミ合金の場合、薄板50は、消失させる仕切りとして、紙、又は、PETやポリエステル等の樹脂で形成され、強度を下げる仕切りとしてアルミ箔で形成される。また、例えば、溶湯Mが鉄系合金の場合には、薄板50は、消失させる仕切りとして、紙、樹脂、又はアルミ箔で形成され、強度を下げる仕切りとしてステンレス箔で形成される。
【0021】
ところで、出湯口24Aに出湯時に溶湯Mの熱で貫通する薄板50を設ける場合、溶湯Mが薄板50を貫通するのに時間が掛かると、薄板50上に溶湯Mが溜まり、出湯口24A周囲に溶湯Mが触れてしまい、筐体24の出湯口24A周辺が損傷するおそれがある。そこで、本実施の形態では、薄板50の厚さが、溶湯Mが瞬時に貫通して出湯口24A周囲に溶湯Mが触れることのない薄さに設定されている。また、薄板50の厚さは、加圧されたルツボ21内と外部との差圧に耐えられるように設定されている。
【0022】
図2は、薄板50とその近傍を拡大して示す図である。
筐体24には出湯口24Aの下端を大きくした薄板取付部51が形成されており、この薄板取付部51に、固定部材52によって薄板50が下側から取り付けられる。薄板取付部51の上端面51Aにはシール部材53Aを嵌めるシール溝51Bが形成され、薄板取付部51の内周にはねじ部51Cが形成されている。
固定部材52は略円筒状に形成され、固定部材52の貫通孔52Aは、筐体24の出湯口24Aと略同一、あるいは、出湯口24Aより大きく形成されている。固定部材52の上面にはシール部材53Bを嵌めるシール溝52Bが形成され、固定部材52の外周にはねじ部52Cが形成されている。固定部材52は、固定部材52のねじ部52Cが薄板取付部51のねじ部51Cに螺合することにより、筐体24に固定される。薄板50は、シール部材53A,53Bの間に配置される。シール部材53A,53Bは、ゴム等の弾塑性材で形成されている。
【0023】
次に、図1及び図3を参照し、本実施の形態の作用について説明する。図3は、薄板50が貫通した状態の鋳造装置1を模式的に示す図である。
図1を参照し、まず、筐体24にシール部材53Aが嵌められ、シール部材53Bが嵌められた固定部材52で、薄板50が、出湯口24Aに押し付けられるように取り付けられる。次いで、固定型10A及び可動型10Bが型締めされ、この鋳型10の上方に、筐体24が、出湯口24Aが湯口11に対向するように配置される。筐体24内においては、ヒータ29による加熱が開始され、上蓋27を開けた供給口26から溶湯Mがルツボ21内に供給される。1回分の溶湯Mの供給が終了すると上蓋27が閉められ、密閉された筐体24内が加圧手段41により加圧される。
【0024】
筐体24内の圧力が所定圧力まで上昇すると、ルツボ21が実線矢印で示すように傾動軸21Aを中心に傾動し、図3に示すように、ルツボ21から溢れた溶湯Mがルツボ21下の樋部材28で受けられ、樋部材28から流れ出た溶湯Mの熱で薄板50が貫通する。このとき、薄板50は、溶湯Mの熱で着火して燃焼する又は溶けることで貫通する。あるいは、薄板50は、溶湯Mの熱で強度が下がり、溶湯Mの運動エネルギーにより、容易に破られて貫通する。そして、溶湯Mは、筐体24内と外部との圧力差及び重力により、鋳型10に円滑に注湯される。注湯が終了すると固定部材52が外され、薄板50が外される。したがって、薄板50は注湯毎に交換される。
【0025】
このように、傾動式のルツボ21を用い、ルツボ21を覆う筐体24の出湯口24Aを塞ぎ、出湯時に溶湯Mの熱で貫通する薄板50を設けたため、ルツボ21を開閉する開閉部材を設けることなく、薄板50で筐体24内を密閉でき、その結果、ストッパを使わずに筐体24内の雰囲気を制御できる。また、機密性を容易に維持できるとともに、出湯口24Aを瞬時に開くことができるので、筐体24内の圧力を出湯直前まで制御できる。これにより、注湯時に、筐体24内を加圧できるようになるため、出湯速度を速くし、鋳型10内の湯廻りを向上できる。なお、筐体24内の圧力は、所望の出湯速度となるような所定圧力に設定される。
【0026】
また、薄板50を設けることにより、出湯口24Aを機械的に開閉する開閉機構を設ける必要がなくなるので、出湯口24A周りの構成を単純化できる。さらに、薄板50の取り付け部分にシール部材53A,53Bを配置することで、ルツボ21内の機密性をより高めることができる。
薄板50は、溶湯Mが瞬時に貫通して出湯口24A周囲に溶湯Mが触れることのない薄さに形成されているため、溶湯Mが薄板50を貫通するのに時間が掛からず、薄板50上に溶湯Mが溜まり、筐体24の出湯口24A周辺が損傷することを防止できる。また、薄板50は薄く形成されているため、薄板50が溶湯Mによって溶かされる際、あるいは、薄板50の強度が熱で下げられる際に、溶湯Mの温度低下はごくわずかとなるので、溶湯Mの温度低下によって鋳物品質が悪化することがなく、溶湯Mの温度を高くする必要もない。
【0027】
以上説明したように、本実施の形態によれば、溶湯Mを溜める傾動式のルツボ21と、ルツボ21を覆う筐体24と、筐体24に設けられた出湯口24Aと、出湯口24Aに設けられルツボ21の傾動出湯時に溶湯Mの熱で貫通する薄板50とを備える構成とした。この構成により、ルツボ21を開閉する開閉部材を設けることなく、薄板50で筐体24内を密閉でき、その結果、ストッパを使わずに筐体24内の雰囲気を制御できる。また、出湯口24Aを瞬時に開くことができるので、筐体24内の雰囲気を出湯直前まで制御できる。さらに、出湯口を機械的に開閉する開閉機構を設ける必要がなくなるので、出湯口周りの構成を単純化できる。
【0028】
また、本実施の形態によれば、筐体24内を加圧する加圧手段41を備えたため、出湯時に筐体24内を加圧できるので、出湯速度を速めることができる。
【0029】
<第2の実施の形態>
次に、図4及び図5を参照し、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図1に示す鋳造装置1では、出湯口24Aが筐体24の底部に形成されていたが、図4及び図5に示す第2の実施の形態の鋳造装置100では、出湯口124Aが筐体(密閉部材)124の側面に設けられている。なお、図4及び図5では、図1に示す鋳造装置1と同一部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
出湯装置120は、図4に示すように、溶湯Mを溜めるルツボ121を備えている。ルツボ121は、筐体124内に配置されており、傾動軸121Aを介して傾動自在に筐体124に支持されている。傾動軸121Aの回転時にも筐体124内の密閉状態を維持できるように、筐体124の壁部との間に図示しないシール材が設けられている。ルツボ121は、傾動時に溶湯Mを注ぐ注口121Bを備え、傾動軸121Aの下方に配置されている。ルツボ121には、壁部にヒータ129が埋設されている。
筐体124の供給口126は、ルツボ121の直上に形成されており、この供給口26に上蓋27が設けられている。また、筐体124の出湯口124Aは、側面に形成されている。筐体124は、出湯口124A及び供給口126の位置以外は図1に示す筐体24と同一に構成されている。
【0031】
筐体124内には、ルツボ121の傾動出湯時に溶湯Mを受ける樋部材128が設けられている。樋部材128は、ルツボ121を傾動させた時にルツボ121から溢れた溶湯Mを受ける受け部128Aと、受け部28Aを囲む壁部128Bとを備えている。樋部材128の底部には、受けた溶湯Mを外部へ出湯する出湯口128Cが形成されている。受け部128Aは、出湯口128Cに向けて傾斜している。樋部材128の出湯口128Cは、筐体124の出湯口124Aを貫通しており、ルツボ121内の溶湯Mは、破線矢印で示すように、出湯口128Cから鋳型10に出湯される。樋部材128には、出湯口128Cを塞ぎ、筐体124内と外部とを仕切る薄板50が設けられている。薄板50の固定構造については、図2に示す方法と同様のとして説明を省略する。
【0032】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
まず、図1に示す鋳造装置1と同様に、薄板50が出湯口128Cに取り付けられ、固定型10A及び可動型10Bが型締めされた鋳型10の上方に、筐体124が配置される。筐体124内においては、ヒータ129による加熱が開始され、上蓋27を開けた供給口226から溶湯Mがルツボ121内に供給される。1回分の溶湯Mの供給が終了すると上蓋27が閉められ、密閉された筐体124内が加圧手段41により加圧される。
【0033】
筐体124内の圧力が所定圧力まで上昇すると、ルツボ121が実線矢印で示すように傾動軸121Aを中心に傾動し、図5に示すように、ルツボ121から溢れた溶湯Mがルツボ121下の樋部材128で受けられ、樋部材128から流れ出た溶湯Mの熱で薄板50が貫通する。そして、溶湯Mは、筐体124内と外部との圧力差及び重力により、鋳型10に円滑に注湯される。薄板50は注湯毎に交換される。
本実施の形態においても、図1に示す鋳造装置1と同様に、薄板50を設けることによる作用及び効果が得られる。
【0034】
以上説明したように、本実施の形態によれば、筐体124の内部空間に、溶湯Mを溜める傾動式のルツボ121と、ルツボ121の傾動出湯時に溶湯Mを受ける樋部材128とを備え、この樋部材128の出湯口128Cに設けられルツボ121の傾動出湯時に溶湯Mの熱で貫通する薄板50を備える構成とした。この構成により、筐体124の内部空間に樋部材128が設けられても、ルツボ121を開閉する開閉部材を設けることなく、薄板50で筐体124内を密閉でき、その結果、ストッパを使わずに筐体124内の雰囲気を制御できる。
【0035】
<第3の実施の形態>
次に、図6−図8を参照し、本発明の第3の実施の形態について説明する。
図1に示す鋳造装置1では、ルツボ21と筐体24とが別体に形成されていたが、図6−図8に示す第3の実施の形態の鋳造装置200では、ルツボ221と筐体(密閉部材)224とが一体に形成されている。なお、図6−図8では、図1に示す鋳造装置1と同一部分には同一の符号を付して説明を省略する。
出湯装置220は、図6に示すように、溶湯Mを溜めるルツボ221を備えている。ルツボ221は、傾動軸221Aを介して傾動自在に図示しない固定部に支持されている。ルツボ121は、略急須状に形成され、注口221Bを備えている。
【0036】
密閉部材としての外装体224は、ルツボ221の全体を覆うように、ルツボ221と一体に設けられている。ルツボ221内に溶湯Mを供給する供給口226は、一体となったルツボ221及び外装体224の上部に、当該ルツボ221及び外装体224を貫通するように形成されており、この供給口226に上蓋27が設けられている。
本実施の形態の加圧手段41は伸縮自在な加圧経路241Aを備えており、この加圧経路241Aは外装体224に接続されている。加圧経路241Aは、一体となったルツボ221及び外装体224を貫通してルツボ221内に連通しており、図示しないシール材により気密にルツボ221に接続されている。
また、外装体224は、注口221Bを開放する開口224Aを備え、この開口224A及び注口221Bが出湯口222となる。ルツボ221内の溶湯Mは、破線矢印で示すように、出湯口222から鋳型10に出湯される。この出湯口222に、薄板50が固定部材252(図7参照)によって取り付けられる。
【0037】
図7に示すように、外装体224の先端面251Aには、シール部材53Aを嵌めるシール溝251Bが形成され、外装体224の外周にはねじ部251Cが形成されている。
固定部材252は底部254を有する有底円筒状に形成され、底部254には貫通孔252Aが形成されている。固定部材252の貫通孔252Aは、ルツボ221の注口221Bと略同一、あるいは、注口221Bより大きく形成されている。底部254の内面254Aにはシール部材53Bを嵌めるシール溝252Bが形成され、固定部材252の内周にはねじ部252Cが形成されている。固定部材252は、固定部材252のねじ部252Cが外装体224のねじ部251Cに螺合することにより、外装体224に固定される。薄板50は、シール部材53A,53Bの間に配置される。
【0038】
次に、図6−図8を参照し、本実施の形態の作用について説明する。
図7を参照し、まず、外装体224にシール部材53Aが嵌められ、シール部材53Bが嵌められた固定部材252で、薄板50が、出湯口222に押し付けられるように取り付けられる。次いで、図6を参照し、固定型10A及び可動型10Bが型締めされ、この鋳型10の上方に、出湯装置220が配置される。出湯装置220においては、上蓋27を開けた供給口226から溶湯Mがルツボ221内に供給される。1回分の溶湯Mの供給が終了すると上蓋27が閉められ、密閉されたルツボ221内が加圧手段41により加圧される。
【0039】
ルツボ221内の圧力が所定圧力まで上昇すると、ルツボ221が実線矢印で示すように傾動軸221Aを中心に外装体224毎傾動し、図8に示すように、出湯口222に向けて流れた溶湯Mの熱で薄板50が貫通する。そして、溶湯Mは、ルツボ221内と外部との圧力差及び重力により、鋳型10に円滑に注湯される。
本実施の形態においても、図1に示す鋳造装置1と同様に、薄板50を設けることによる作用及び効果が得られる。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態によれば、外装体224、ルツボ221および出湯口222を一体化し、ルツボ221の傾動出湯時には、ルツボ221を外装体224毎傾動するため、外装体224、ルツボ221および出湯口222が一体化されても、ルツボ221を開閉する開閉部材を設けることなく、薄板50で外装体224内を密閉でき、その結果、ストッパを使わずに外装体224内の雰囲気を制御できる。
【0041】
<第4の実施の形態>
次に、図9及び図10を参照し、本発明の第4の実施の形態について説明する。
図1に示す鋳造装置1では、薄板50が出湯装置20に設けられていたが、図9及び図10に示す第4の実施の形態の鋳造装置300では、筐体24の出湯口24Aを鋳型310の湯口11に密着させ、薄板50が筐体24と鋳型310との間に設けられている。なお、図9及び図10では、図1に示す鋳造装置1と同一部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0042】
鋳型310は、図9に示すように、キャビティ18が密閉された密閉型の金型であり、キャビティ18が密閉されている以外は図1に示す鋳型10と同一に構成されている。出湯装置320は、筐体24に薄板取付部51が形成されていない以外、図1に示す出湯装置20と同一に形成されている。筐体24は、出湯口24Aが鋳型310の湯口11に対向するように、鋳型310上に配置される。鋳型310と筐体24との間には、湯口11及び出湯口24Aを囲うようにシール部材153A,153Bが設けられ、鋳型310内及び筐体24内が密閉されるようになっている。シール部材153A,153Bは、ゴム等の弾塑性材で形成されている。薄板50は、シール部材153A,153Bの間に配置される。
【0043】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
まず、固定型10A及び可動型10Bが型締めされ、この鋳型310上に、湯口11を囲うようにシール部材153Bが配置される。シール部材153B上に薄板50が配置され、薄板50上に、湯口11を囲うようにシール部材153Aが配置される。そして、筐体24が、出湯口24Aが湯口11に対向するように鋳型310上に配置される。これにより、筐体24と鋳型310が密着するとともに、薄板50が筐体24と鋳型310との間にシール部材153A,153Bを介して挟持されることとなる。出湯装置320においては、図1に示す出湯装置20と同様に出湯され、図10に示すように、樋部材28から流れ出た溶湯Mの熱で薄板50が貫通する。そして、溶湯Mは、筐体24内と鋳型310内との圧力差及び重力により、鋳型310に円滑に注湯される。鋳物の成型が終了すると、筐体24が移動され、薄板50が外される。
【0044】
本実施の形態では、図1に示す鋳造装置1と同様に、薄板50を設けることによる作用及び効果が得られる。それに加え、薄板50は、筐体24の出湯口24Aを鋳型310の湯口11に密着させる際に、筐体24と鋳型310の間に挟持されるため、薄板50を固定する固定部材を設ける必要がなく、部品点数を削減し、製造工程を簡略化できる。さらに、薄板50の取り付け部分にシール部材153A,153Bを配置することで、筐体24内の機密性をより高めることができる。
【0045】
また、筐体24の出湯口24Aを鋳型310の湯口11に密着させた状態で、筐体24内の圧力を出湯直前まで制御できるため、注湯完了後も、筐体24内の圧力は高くなっている。したがって、引け巣対策のために、注湯完了後に筐体24内を再度加圧する場合にも、筐体24内の圧力を直ぐに高くすることができるので、鋳物に生じる引け巣を確実に防止できる。
【0046】
なお、本実施の形態では、筐体24の出湯口24Aを鋳型310の湯口11に密着させ、薄板50が筐体24と鋳型310の間に挟持される構成としたが、薄板50は鋳型310側に設けられてもよい。
また、本実施の形態では、筐体24に加圧手段41を接続したが、加圧手段41に変えて、あるいは、この加圧手段41とともに鋳型310に減圧手段を接続してもよい。いずれの場合にも、注湯時には、鋳型310内の圧力に対して筐体24内を加圧すればよい。
【0047】
但し、上記実施の形態は本発明の一態様であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能であるのは勿論である。
例えば、上記実施の形態では、本発明は、筐体内及び/又は鋳型内の雰囲気として圧力を調整する鋳造装置に適用されたが、これに限定されず、筐体内及び/又は鋳型内の雰囲気として、温度を調整する鋳造装置や、空気を他の気体に置換する鋳造装置に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0048】
20,120,220,320 出湯装置
21,121,221 ルツボ
24,124 筐体(密閉部材)
24A 出湯口
28,128 樋部材
28C,128C 出湯口
50 薄板(閉塞部材)
41 加圧手段
224 外装体(密閉部材)
224A 開口
M 溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯を溜める傾動式のルツボと、該ルツボを覆う密閉部材と、該密閉部材に設けられた出湯口と、該出湯口に設けられ該ルツボの傾動出湯時に溶湯の熱で貫通する閉塞部材とを備えたことを特徴とする出湯装置。
【請求項2】
前記密閉部材の内部空間に、前記ルツボと、該ルツボの傾動出湯時に溶湯を受ける樋部材とを備え、この樋部材の出湯口に前記閉塞部材を備えたことを特徴とする請求項1に記載の出湯装置。
【請求項3】
前記密閉部材、前記ルツボおよび前記出湯口を一体化し、該ルツボの傾動出湯時には、該ルツボを前記密閉部材毎傾動することを特徴とする請求項1に記載の出湯装置。
【請求項4】
前記密閉部材内を加圧する加圧手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の出湯装置。
【請求項5】
傾動式のルツボに溶湯を溜める行程と、
前記ルツボを覆う密閉部材内を加圧する行程と、
前記傾動式ルツボを傾動し、該密閉部材に設けた出湯口に溶湯を供給する行程と、
前記出湯口に設けた閉塞部材を、該ルツボの傾動出湯時に溶湯の熱で貫通する行程とを備えたことを特徴とする出湯方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−179620(P2012−179620A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43095(P2011−43095)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】