説明

出生直後哺乳類の免疫グロブリン移行を高める方法

【課題】出生後間もない哺乳類生体は免疫力が十分ではなく、免疫グロブリンを体外から摂取することで免疫力を高めている。特に出生直後の子牛は、免疫グロブリンを自ら生産することができないため、免疫グロブリンの供給は必要不可欠である。従来行われてきた免疫グロブリン供給方法では、様々な要因で哺乳類生体の免疫グロブリン吸収量が十分に確保できず、子牛の損耗率を低減することができなかった。
【解決手段】本発明は、免疫グロブリンの摂取とともに、ミネラルを摂取することで、出産直後の哺乳類生体の免疫グロブリン吸収効率を高める方法を提供する。前記ミネラルとして、亜セレン酸ナトリウムに含まれるセレンが特に効果的である。また免疫グロブリンの摂取は、初乳によって行われるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は出生直後の哺乳類に与える免疫グロブリンの吸収率を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリンは病原性微生物を排除する役割を持つたんぱく質であり、哺乳類の生体には必要不可欠である。特に生まれたばかりの子牛は免疫グロブリンを自ら作ることができないため、体外から免疫グロブリンを摂取しない限り、感染症から身を守ることができない。母牛が分娩後最初に分泌する初乳は高濃度の免疫グロブリンを含んでいるため、子牛の免疫グロブリンの獲得は通常初乳の摂取によって行われる。ただし免疫グロブリンの子牛の小腸での吸収能力は出生後時間の経過と共に減少し、生後24時間で吸収能力はほとんど停止する。そのため出生直後の子牛に、早い時期に初乳を与え、免疫グロブリンを吸収させることが通常行われている。初乳供与において重要な点は、初乳給与の時期、初乳給与量、初乳の品質の3点であり、これらの条件については非特許文献1に詳細に説明されている。即ち初乳を出生後なるべく早く供与すること、十分な量を供与すること、清潔で衛生的な状態で供与することの3点である。
【非特許文献1】"初乳マネージメントを考える"、臨床獣医、vol.19、No.3(2001)、pp.18-38.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、これらの給与条件は様々な理由から達成できない場合が多い。例えば初産牛は初乳量や、初乳中の免疫グロブリン量が不足することが多いことや、子牛の免疫グロブリン吸収能力は、ストレスや気温によって変化するため、十分な免疫グロブリンを吸収できない場合などがある。そのため、出生直後の哺乳類生体の免疫グロブリン吸収量は十分であるとはいえず、依然として幼弱哺乳類生体の感染症罹患率・損耗率を減らすことができていない。したがって、子牛の感染症に対する抵抗力をより高めるため、出生直後における子牛の免疫グロブリンの吸収能力を高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
初乳に含まれる成分と、子牛の免疫グロブリン吸収能力との関係はほとんど解明されていない。哺乳類の生体においてミネラルが果たす役割は次第に解明されてきており、ミネラルの種類によっては生体において重要な役割を果たすことが解明されている。例えばセレンは抗がん作用を持っていたり、甲状腺ホルモンを活性化型にするなどの効果があることが知られている。発明者らは、ミネラルが生体において果たす役割に注目し、初乳にミネラルを添加することで、子牛の腸内における免疫グロブリンの吸収能力が上昇することを発見した。本発明では特にセレンを初乳に添加することで、免疫グロブリンの吸収率を向上させることができる技術を開示する。
【0005】
即ち、第一の発明は出生後48時間以内の所定時間内に哺乳類の生体に免疫グロブリンを与える免疫グロブリン供給ステップと、ミネラルを与えるミネラル供給ステップと、を含む出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第二の発明は、前記第一の発明を基礎として、前記免疫グロブリン供給ステップにて供給される免疫グロブリンと、前記ミネラル供給ステップにて供給されるミネラルとは、出生直後哺乳類の生体の腸内にて混在するように行われる出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第三の発明は、前記第一の発明と第二の発明とを基礎として、前記所定時間内は、8時間以内である出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第四の発明は、前記第一の発明と第二の発明とを基礎として、前記所定時間内は、3時間以内である出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。第五の発明は、前記第一の発明から第四の発明を基礎として、前記免疫グロブリンは免疫グロブリンGである、出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。
【0006】
第六の発明は、前記第一の発明から第五の発明を基礎として、前記免疫グロブリン供給ステップは、初乳の授乳によって行われる出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第七の発明は、前記第一の発明から第六の発明を基礎として、前記免疫グロブリン供給ステップと、ミネラル供給ステップとは、初乳にミネラルを混入した初乳ミネラル混合物の授乳を一回または複数回に分けてすることで実施される出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第八の発明は、前記第六の発明と第七の発明とを基礎として、前記初乳の一回に与える授乳量が0.3〜3リットルである出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第九の発明は、前記第六の発明と第七の発明とを基礎として、前記初乳の一回に与える授乳量が0.85〜1.15リットルである出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第十の発明は、前記第七の発明から第九の発明を基礎として、記初乳ミネラル混合物に含まれるミネラルの含有率が0.2〜5ppmである、出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第十一の発明は、前記第七の発明から第九の発明を基礎として、前記初乳ミネラル混合物に含まれるミネラルの含有率が2.5〜3.5ppmである、出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第十二の発明は、前記第七の発明から第八の発明を基礎として、前記免疫グロブリン供給ステップと、ミネラル供給ステップとは、初乳にミネラルを混入した初乳ミネラル混合物の授乳を、出生後3時間以内に一回、出生後12時間以内にさらに一回行うことで実施される出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。
【0007】
第十三の発明は、前記第一の発明から第十二の発明を基礎として、前記ミネラルは、セレン化合物である出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第十四の発明は、前記第一の発明から第十二の発明を基礎として、前記ミネラルは、亜セレン酸ナトリウム、セレン酸ナトリウム、亜セレン酸カリウム、セレン酸カリウムのいずれか1つ以上である出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。
【0008】
第十五の発明は、前記第一の発明から第十四の発明を基礎として、前記哺乳類が家畜である、出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第十六の発明は、前記第十五の発明を基礎として、前記家畜が牛である出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。
【0009】
第十七の発明は、前記第六の発明から第十六の発明を基礎として、前記初乳が生乳である出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第十八の発明は、前記第六の発明から第十六の発明を基礎として、前記初乳が粉末を液体に溶かしたものである出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第十九の発明は、前記第六の発明から第十六の発明を基礎として、前記初乳に代えて免疫グロブリンを含む哺乳類の飼料とする、出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第二十の発明は、前記第十九の発明を基礎として、前記哺乳類の飼料が初乳でない母乳に免疫グロブリンを混ぜたものとした、出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第二十一の発明は、前記第十九の発明を基礎として、前記哺乳類の飼料が、免疫グロブリンを含む血漿由来製剤とした、出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。第二十二の発明は、前記第十九の発明を基礎として、前記哺乳類の飼料が免疫グロブリンを含むチーズホエイとした、出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、出生直後の哺乳類生体が免疫グロブリンを摂取する際に、ミネラルを同時に摂取することで、免疫グロブリンの腸内での吸収率を上昇させる技術である。これによって、哺乳類生体の感染症に対する抵抗力が高まり、哺乳類生体の損耗率を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明について詳細に説明する。
【0012】
図1に本発明の概念図を示す。図1(a)の例のように、通常の初乳を子牛に与えた場合、摂取量が十分でないと子牛が成長する前に死亡する確率が高い。一方本発明のようにミネラルを添加した初乳を子牛に供給すると、子牛の免疫グロブリン吸収能力が高まり、健康な子牛へと成長する確率が高くなる。
【0013】
次に本発明の実施形態について説明する。実施形態1は主に請求項1について説明する。実施形態2は主に請求項2について説明する。実施形態3は主に請求項3及び4について説明する。実施形態4は主に請求項5について説明する。実施形態5は主に請求項6について説明する。実施形態6は主に請求項7について説明する。実施形態7は主に請求項8及び9について説明する。実施形態8は主に請求項10及び11について説明する。実施形態9は主に請求項12について説明する。実施形態10は主に請求項13及び14について説明する。実施形態11は主に請求項15及び16について説明する。実施形態12は主に請求項17について説明する。実施形態13は主に請求項18について説明する。実施形態14は主に請求項19から22について説明する。
【0014】
<実施形態1>
本実施形態は出生後48時間以内の所定時間内に哺乳類の生体に免疫グロブリンを与える免疫グロブリン供給ステップと、ミネラルを与えるミネラル供給ステップとからなる。哺乳類生体とは、出生後母親から授乳して免疫グロブリンを獲得する生体全てを含む。具体的には人、牛、豚、馬などが挙げられる。免疫グロブリンとは、リンパ球のB細胞系の形質細胞によって、合成、分泌されるたんぱく質であり、病原微生物を認識して排除する機能を有する。免疫グロブリンにはA、G、Mなどの種類がある。免疫グロブリンA(IgA)は唾液や消化液,痰などに存在して,粘膜での防御機構の主役を演ずる。免疫グロブリンG(IgG)は血液中に存在して,体内に侵入してきた微生物,異物と戦ったり、補体(蛋白)を活性化したりするなどの機能を有する。免疫グロブリンM(IgM)は抗原による刺激後,最も早く出現して微生物,異物と戦ったり、補体(蛋白)を活性化したりするなどの機能を有する。免疫グロブリンが含まれる飼料は、初乳、初乳から免疫グロブリンを抽出したもの、血漿由来製剤、チーズホエイなどが挙げられる。これらの栄養物を、経口、静脈注射、筋肉注射などの手段により哺乳類生体に供給する。ミネラルとは、身体を構成している元素のうち、水素(H)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)の4元素以外の元素またはその化合物の総称をいう。ミネラルとして例えば、カルシウム、リン、ナトリウム、マグネシウム、セレンなどが挙げられる。ミネラルは哺乳類生体には必要不可欠な成分であり、ミネラルが不足するとさまざまな症状を引き起こす。一方でミネラルは毒性もあり、摂取量が過剰になると別の症状を引き起こすこともある。供給時間を48時間以内に限定したのは、哺乳類生体が免疫グロブリンを獲得する能力は、出生後時間の経過と共に減少していくためである。本実施形態により、哺乳類生体の感染症に対する抵抗力が高まり、哺乳類生体の損耗率を低下させることができる。
【0015】
<実施形態2>
本実施形態は、免疫グロブリン供給ステップにて供給される免疫グロブリンと、ミネラル供給ステップにて供給されるミネラルとが、出生直後哺乳類の生体の腸内にて混在するように行われることを特徴とする。免疫グロブリンとミネラルとが腸内で混在することで、哺乳類生体の免疫グロブリンの吸収能力がより高まるからである。したがって免疫グロブリンとミネラルとを、静脈注射、筋肉注射などによって供給したり、免疫グロブリンが腸外へ排出された後にミネラルを供給したり、ミネラルが腸外へ排出された後に免疫グロブリンを供給したりする方法は本実施形態に含まれない。本実施形態により、哺乳類生体の免疫グロブリン吸収能力をさらに高めることができる。
【0016】
<実施形態3>
本実施形態は、実施形態1及び実施形態2において、所定時間が8時間以内好ましくは3時間以内であることを特徴とする。このように所定時間を限定したのは、哺乳類生体の免疫グロブリンの吸収能力は、出生後時間の経過と共に減少していくためである。本実施形態により、哺乳類生体の免疫グロブリン吸収能力をさらに高めることができる。
【0017】
<実施形態4>
本実施形態は、実施形態1〜3において、前記免疫グロブリンがIgGであることを特徴とする。IgGは出生直後の哺乳類生体を感染症から予防する効果に優れているため、出生直後の哺乳類生体には必要不可欠である。例えば、出生直後の子牛の場合、血液中IgG濃度は1,000mg/dl以上であることが必要で、それ以下の場合は子牛が病原菌に感染されやすくなることがわかっている。本実施形態により、出生直後の哺乳類生体を感染症から守ることができる。
【0018】
<実施形態5>
本実施形態は、実施形態1〜4において、前記免疫グロブリン供給ステップが、初乳の授乳によって行われることを特徴とする。ここで初乳とは、一般的には哺乳類生体の母親が分娩後1週間以内に分泌する乳をいう。初乳のうちでも、母親が分娩後最初に分泌する乳には免疫グロブリンが最も多く含まれており、2回目以降に搾乳した初乳になると免疫グロブリン濃度が急激に減少するため、初乳は母親が分娩後最初に分泌する乳が好ましい。また始めて出産を経験した母親から分泌された初乳よりも、出産を経験したことのある母親から分泌された初乳の方が免疫グロブリン濃度が高いため、後者の初乳がより好ましい。本実施形態では、免疫グロブリンを高濃度に含む初乳を出産直後の哺乳類生体に与えることで、哺乳類生体の免疫グロブリン吸収量を増やすことができる。
【0019】
<実施形態6>
本実施形態は、実施形態1〜5において、前記免疫グロブリン供給ステップと、ミネラル供給ステップとは、初乳にミネラルを混入した初乳ミネラル混合物の授乳を一回または複数回に分けてすることで実施される出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法である。このようにすることで、免疫グロブリンとミネラルとが確実に哺乳類生体の腸内で混在するようになり、哺乳類生体の免疫グロブリン吸収能力がより高まる。また免疫グロブリンとミネラルとを同時に与えるプロセスを簡素化することができる。
【0020】
<実施形態7>
本実施形態は、実施形態6において、前記初乳の一回に与える授乳量が0.3〜3リットル、好ましくは0.85〜1.15リットルであることを特徴とする。上限値及び下限値は、日本飼養標準及びNRC乳牛飼養標準に定められている基準を参考にした。本実施形態により、出産直後の哺乳類生体に十分な量の免疫グロブリンを供給することができる。
【0021】
<実施形態8>
本実施形態は、実施形態6及び7において、前記初乳ミネラル混合物に含まれるミネラルの含有率が0.2〜5ppm好ましくは2.5〜3.5ppmであることを特徴とする。ミネラルの含有率がこれらの下限値より少ないと免疫グロブリンの吸収効率が十分でなく、ミネラルの含有率がこれらの上限値以上となるとミネラルが過剰になり哺乳類生体に悪影響を与える懼れがあるためである。本実施形態により、出産直後の哺乳類生体の免疫グロブリン吸収能力を高めることができ、哺乳類生体に健康被害を与えることもない。
【0022】
<実施形態9>
本実施形態は、実施形態6〜8において、免疫グロブリン供給ステップと、ミネラル供給ステップとは、初乳にミネラルを混入した初乳ミネラル混合物の授乳を、哺乳類生体の出生後3時間以内に一回、出生後12時間以内にさらに一回に分けて実施することを特徴とする。初回の初乳ミネラル混合物の供給は、3時間以内に行うことが出生直後の哺乳類生体の免疫グロブリン吸収能力を高めるのに必要だからであり、12時間以内に行う初乳ミネラル混合物の供給は、免疫グロブリンの吸収を補助するために行われる。本実施形態により、哺乳類生体の免疫グロブリン吸収量をより高めることができる。
【0023】
<実施形態10>
本実施形態は、実施形態1〜9において、ミネラルがセレン化合物、好ましくは亜セレン酸ナトリウム、セレン酸ナトリウム、亜セレン酸カリウム、セレン酸カリウムのいずれか1つ以上、さらに好ましくは亜セレン酸ナトリウムであることを特徴とする。セレンは、活性酸素を無毒化する酵素(グルタシオンパーオキシターゼ)の組成に必要不可欠で、生命の維持に重要な抗酸化栄養素である。具体的には、癌の予防や、甲状腺ホルモンの調整をする機能を有していることがわかっている。セレンが含まれる化合物には、セレン(酸化数−2)化合物(Na2Se、CaSe、ZnSe、CdSe、Cu2Se、Ag2Se等)、有機態セレン(セレン化ジメチル、セレノシスチン、セレノメチオニン等)、セレン酸塩、亜セレン酸塩などが挙げられる。セレン酸塩はセレンの酸化数4の化合物であり、セレン酸ナトリウム(化学式:Na2SeO4)、セレン酸カリウム(化学式:K2SeO4)などがある。亜セレン酸塩はセレンの酸化数4の化合物であり、亜セレン酸ナトリウム(化学式:Na2SeO3)、亜セレン酸カリウム(化学式:K2SeO3)などがある。特に亜セレン酸ナトリウムは粉末状で水に溶けやすいという性質を有するため、初乳に添加するのに適している。本実施形態により、出生直後哺乳類生体の免疫グロブリン吸収能力を高めることができる。
【0024】
<実施形態11>
本実施形態は、実施形態1〜10において、哺乳類が家畜好ましくは牛であることを特徴とする。家畜とは人間に飼養される鳥獣である。具体的には、牛、馬、豚、鶏、犬などである。家畜以外の哺乳類は人間の手で飼育することが困難であるため、生後間もない哺乳類に人工的に授乳させることは困難だからである。前記家畜としては牛が好ましい。牛は出生直後は自ら免疫グロブリンを分泌することができないため、出生直後に初乳を授乳させることが必要だからである。本実施形態は、哺乳類を家畜としたことで、免疫グロブリン及びミネラルの供給を容易に行うことを可能にした。
【0025】
<実施形態12>
本実施形態は、実施形態5〜11において、初乳が生乳であることを特徴とする。生乳とは搾乳したままで、加熱殺菌などの処理をしていない初乳である。加熱殺菌などの処理を行った初乳は免疫グロブリン濃度が少なくなるため、本実施形態により免疫グロブリン濃度の高い初乳を哺乳類生体に供給することができる。
【0026】
<実施形態13>
本実施形態は、実施形態5〜11において、初乳が粉末であることを特徴とする。哺乳類生体には出生後できるだけ早い時期に初乳を与えなければならないが、初乳が生乳である場合、母親から搾乳しミネラルを添加するという工程が必要なため、哺乳類生体の出生後初乳ミネラル混合物を与えるまで時間がかかる。一方初乳を粉末状にしておくと、予め初乳とミネラルを混合した混合物を準備しておくことができるため、哺乳類生体の出生後すぐに初乳ミネラル混合物を授乳させることができる。また粉末状初乳は加熱殺菌処理を行っているため、衛生面からは好ましい形態である。初乳を粉末にする方法として、通常スプレードライ法(噴霧乾燥法)が用いられている。この方法は、液体を微細な霧状にし、これを熱風中に噴出させ、瞬間的に粉状の乾燥物を得る方法である。本実施形態により、清潔で衛生的な状態の初乳を哺乳類生体に供給することができる。
【0027】
<実施形態14>
本実施形態は、実施形態5〜11において、初乳に代えて免疫グロブリンを含む哺乳類の飼料であることを特徴とする。近年、初乳を補足する製品である初乳サプリメントや、初乳に代替する初乳製剤が開発されている。特に初乳製剤には初乳と同等レベルの免疫グロブリンが含まれており、出生直後の哺乳類にこれらの免疫グロブリンを含む哺乳類の飼料を与えても良い。免疫グロブリンを含む哺乳類の飼料として、初乳以外の母乳に免疫グロブリンを混ぜたもの、血漿由来製剤、チーズホエイが挙げられる。免疫グロブリンを含む哺乳類の飼料は、製品によって、免疫グロブリン含有量、免疫グロブリンとしての機能性(抗体との結合能)、哺乳類生体血中への移行率、飼料の病原微生物による汚染の可能性、哺乳類生体に対する嗜好性などが初乳よりも優れていることがある。
【実施例1】
【0028】
以下実施例をもって本発明を説明するが、本発明はこの実施例に制限されるものではない。
【0029】
本実施例では、2頭の出生直後の子牛ペアの一方にセレンを添加した初乳を与え、もう一方の子牛にはセレン無添加の初乳を与えた。子牛ペアは条件が近くなるように体重が近い2頭を選んだ。セレンの給源として、亜セレン酸ナトリウムを用いた。初乳の違いにより免疫グロブリン吸収率が異なることを避けるため、2頭の子牛ペアに与える初乳は同じ母牛から搾乳した初乳を同じ量だけ授乳した。授乳する初乳は、分娩後1回目搾乳のもの(初乳1)、分娩後2回目搾乳のもの(初乳2)、分娩後3回目搾乳のもの(初乳3)、分娩後4回目搾乳のもの(初乳4)の4種類を凍結し保存したものである。出生後2時間以内に初乳1を1リットル、出生後12時間後、24時間後、36時間後にそれぞれ初乳2、3、4を2L飲ませた。出生から24時間後の子牛における、血漿中の免疫グロブリンG(IgG)濃度を免疫拡散法(RID)により測定した。このような実験を、初乳1にのみセレンを添加した場合、4回全てにセレンを添加した場合について行い、それぞれ数通りのセレン含有量について実験を行った。
【0030】
図1及び図2に実験結果を示す。セレンを添加した初乳を与えた子牛のIgG濃度を、セレン無添加の初乳を与えた子牛のIgG濃度を100として、その比率で表した。1つの条件について数通りの子牛ペアで実験を行い、その平均を取った値を図1及び図2に示した。
【0031】
図1及び図2から、ほぼ全ての条件でセレンを添加した初乳を与えた子牛の方が、血漿中のIgG濃度が高くなった。セレン添加初乳を4回授乳したときの子牛の血漿中IgG濃度は、初乳にのみセレンを添加したときの血漿中IgG濃度と同程度である。このことは2回目以降のセレン添加は、子牛の免疫グロブリン吸収を高めるのに大きな効果を持っていないことを示している。
【0032】
また、セレンを添加したことによる子牛の健康状態への悪影響があるかどうかを調べるため、血液検査を行った。その結果、セレンを添加した初乳を与えた子牛とセレン無添加の初乳を与えた子牛の検査結果はほとんど差がなく、セレン添加による子牛の健康状態への悪影響はないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明を出生直後の子牛に適用すれば、子牛の免疫力を高めることができ、損耗率を減らすことができる。その結果、健康な乳牛、肉牛の育成を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の概念を表した図。
【図2】セレン無添加の初乳を与えた子牛の血漿中IgG濃度を100としたときの、セレン添加初乳を与えた子牛の血漿中IgG濃度比。セレン添加初乳を与えた子牛には、セレンを4回目までに授乳した初乳の全てに添加した。
【図3】セレン無添加の初乳を与えた子牛の血漿中IgG濃度を100としたときの、セレン添加初乳を与えた子牛の血漿中IgG濃度比。セレン添加初乳を与えた子牛には、セレンを1回目の初乳のみに添加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出生後48時間以内の所定時間内に哺乳類の生体に、免疫グロブリンを与える免疫グロブリン供給ステップと、ミネラルを与えるミネラル供給ステップと、を含む出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項2】
前記免疫グロブリン供給ステップにて供給される免疫グロブリンと、前記ミネラル供給ステップにて供給されるミネラルとは、出生直後哺乳類の生体の腸内にて混在するように行われる請求項1に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項3】
前記所定時間内は、8時間以内である請求項1又は2に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項4】
前記所定時間内は、3時間以内である請求項1又は2に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項5】
前記免疫グロブリンは免疫グロブリンGである、請求項1から4のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項6】
前記免疫グロブリン供給ステップは、初乳の授乳によって行われる請求項1から5のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項7】
前記免疫グロブリン供給ステップと、ミネラル供給ステップとは、初乳にミネラルを混入した初乳ミネラル混合物の授乳を一回または複数回に分けてすることで実施される請求項1から6のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項8】
前記初乳の一回に与える授乳量が0.3〜3リットルである請求項6または7のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項9】
前記初乳の一回に与える授乳量が0.85〜1.15リットルである請求項6または7のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項10】
前記初乳ミネラル混合物に含まれるミネラルの含有率が0.2〜5ppmである、請求項7から9のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項11】
前記初乳ミネラル混合物に含まれるミネラルの含有率が2.5〜3.5ppmである、請求項7から9のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項12】
前記免疫グロブリン供給ステップと、ミネラル供給ステップとは、初乳にミネラルを混入した初乳ミネラル混合物の授乳を、出生後3時間以内に一回、出生後12時間以内にさらに一回行うことで実施される、請求項7から11に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項13】
前記ミネラルは、セレン化合物である請求項1から12のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項14】
前記ミネラルは、亜セレン酸ナトリウム、セレン酸ナトリウム、亜セレン酸カリウム、セレン酸カリウムのいずれか1つ以上である請求項1から12のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項15】
前記哺乳類が家畜である、請求項1から14のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項16】
前記家畜が牛である、請求項15に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項17】
前記初乳が生乳である、請求項6から16のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項18】
前記初乳が粉末を液体に溶かしたものである、請求項6から16のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項19】
前記初乳に代えて、免疫グロブリンを含む哺乳類の飼料とする、請求項6から16のいずれか一に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項20】
前記哺乳類の飼料が、初乳でない母乳に免疫グロブリンを混ぜたものとした、請求項19に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項21】
前記哺乳類の飼料が、免疫グロブリンを含む血漿由来製剤とした、請求項19に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項22】
前記哺乳類の飼料が、免疫グロブリンを含むチーズホエイとした、請求項19に記載の出生直後哺乳類免疫グロブリン吸収促進方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−160661(P2006−160661A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354190(P2004−354190)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】