説明

刃物研ぎ構造および同刃物研ぎ構造を用いた刃物研ぎ器

【課題】本発明は、研磨材の研ぎ角が変えられる刃物研ぎ構造および同刃物研ぎ構造を用いた刃物研ぎ器を提供する。
【解決手段】本発明は、研ぐべき刃物50の刃付部52が通る通路17に配置される研磨材21a〜21dの研磨面23を、通路から離れる方向に弧を描いて曲成する曲面部25を有して形成し、研磨材には、当該研磨材を通路から接離する方向に変位可能として、当該研磨材の変位により研磨材の研ぎ角を可変可能とする可変機構30を設けた。同構成によると、研磨材を変位させて、曲面部のうち、研ぐべく刃物の刃付角度θ1,θ2に相当する弧部分を通路に合わせると、刃物の刃付部に適した研ぎ角γ°に調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包丁やナイフなど両刃や片刃の刃物を研ぐのに用いられる刃物研ぎ構造および同刃物研ぎ構造を用いた刃物研ぎ器に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭などでは、包丁やナイフなどの刃物を研ぐ機器として、刃物を引くという簡易な作業で、刃物の刃先の研磨が行える刃物研ぎ器がある。
このような刃物研ぎ器に組み付く刃物研ぎ構造には、研ぐべき刃物の刃付部が通る通路に研磨材を配置して、刃物の刃付部を研磨材の研磨面に押し当てつつ引くと、刃物の刃先が研げる構造が用いられる。
【0003】
一般には、所定位置に研磨材を固定、すなわち定位置に研磨面を配置させる構造が用いられ、この固定された研磨材の研磨面にて、刃物の刃付部を研ぐ(特許文献1、特許文献2などを参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平3−47813号公報
【特許文献2】意匠登録290747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、包丁やナイフなどの刃物は、多くの種類を有する。このため、刃物の刃付角度は、刃物の製作過程で、適した角度に定められる。
これに対し刃物研ぎ構造は、定位置に研磨材が固定されるだけなので、刃物を研ぐのに重要な研磨面の研ぎ角度は一義的で、研ぐべき刃物の多くは、この研ぎ角で定められる一義的な刃付角度にあまんじており、適切に刃付部が研げるものではない。
【0006】
しかも、一義的な刃付角度を許容できないときは、刃付を行う専門業者に依頼して刃物を研いでもらうか、使用者自身で平面砥石を用いて刃物を研ぎ直すことが求められるので、かなりの負担が強いられる。
そこで、本発明の目的は、研磨材の研ぎ角が変えられる刃物研ぎ構造および同刃物研ぎ構造を用いた刃物研ぎ器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、研ぐべき刃物の刃付部が通る通路に配置される研磨材の研磨面を、通路から離れる方向に弧を描いて曲成する曲面部を有して形成し、研磨材に、当該研磨材を通路から接離する方向に変位可能として、当該研磨材の変位により研磨材の研ぎ角を可変可能とする可変機構を設けた。
これにより、研磨材を変位させて、曲面部のうち、研ぐべく刃物の刃付角度に相当する弧部分を通路に合わせると、当該刃物に適した研ぎ角が設定される。これにより、刃物が適切に研げる範囲は拡大する。
【0008】
請求項2の発明は、さらに簡単な構造で研磨材の研ぎ角が変えられるよう、可変機構は、研磨材を通路から接離する方向に直線的に変位可能に支持する変位支持部を有し、当該研磨材の変位により通路に対する曲面部の弧部分の位置を変えると研磨材の研ぎ角が変わる機構を用いた。
請求項3の発明は、同じく可変機構は、研磨材を通路から接離する方向に旋回可能に支持する旋回支持部を有し、当該研磨材の旋回方向の変位により通路に対する曲面部の弧部分の傾きを変えると前記研磨材の研ぎ角が変わる機構を用いた。
【0009】
請求項4の発明は、さらに直線状の刃付部をもつ刃物に十分に応えられるよう、研磨面は、弧を描く曲面部の端から接線方向に沿って延びる直線部を有して形成されるものとした。
請求項5に記載の発明は、研ぎ角が可変可能な刃物構造を用いて、簡単に刃物研ぎ器が組み立てられるよう、刃物研ぎ器は、請求項1ないし請求項5の発明のいずれか一つの刃物研ぎ構造における研磨材と可変機構とがユニット化された刃物研ぎユニットと、同刃物研ぎユニットが組み付く研ぎ器本体とを有し、刃物研ぎユニットが研ぎ器本体に着脱可能に組み付く構成としたことにある。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、刃物の刃付角度に適した研ぎ角に設定でき、刃物が適切に研げる範囲を拡大することができる。
それ故、どのような刃付角度を有する刃物でも適切に研ぐことができ、専門業者への依頼や使用者自身による研ぎ直しの負担を抑えることができる。しかも、曲面部の採用により研ぎ角が広範囲に可変できるうえ、曲面部は、通路から離れる方向に弧を描いて曲がるので、専門の業者に依頼しないと難しい、刃付部が峰側から刃先に向かって円弧を描いて曲がる形状をなした刃物でも、刃付部の形状をできるだけ損なわずに研ぐことができる。
【0011】
請求項2、3の発明によれば、簡単な構造で研磨材の研ぎ角が可変できる。特に研磨材を直線的に変位する構造と研磨材を旋回変位する構造とを併用すると、研ぎ角の可変範囲を格段に増加させることができる。
請求項4の発明によれば、刃付部がしのぎから刃先までが直線状をなした刃物の研磨に十分に対処できる。
【0012】
請求項5の発明によれば、簡単に刃物に適した刃物研ぎ器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る刃物研ぎ構造を、同刃物研ぎ構造を組み付けた刃物研ぎ器と共に示す斜視図、(b)は同刃物研ぎ器で研ぐ刃物を示す図。
【図2】図1中のA−A線に沿う断面図。
【図3】図1中のB−B線に沿う断面図。
【図4】刃物研ぎ器から刃物研ぎ構造を取り外したときを示す斜視図。
【図5】同刃物研ぎ構造の一部を分解した斜視図。
【図6】同刃物研ぎ構造に組み込まれる研磨材の正面図。
【図7】研磨材の直線的な変位で研磨材の研ぎ角を調整するときを説明する図。
【図8】研磨材の旋回方向の変位で研磨材の研ぎ角を調整するときを説明する図。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る刃物研ぎ器の平断面図。
【図10】同じく刃物研ぎ器の正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図1ないし図8に示す第1の実施形態にもとづいて説明する。
ここで、図1(a)は刃物研ぎ器1の全体を示し、図2は同刃物研ぎ器1の主要部の平断面を示し、図3は同主要部の正断面図を示している。
刃物研ぎ器1は、図1(a)〜図3に示されるように本体となるボディ2(本願の研ぎ器本体に相当)と刃物研ぎ構造部10(本願の刃物研ぎ構造に相当)との組み合わせから構成される。
【0015】
このうちボディ2は、例えば下面部および両端部が開口した溝形の細長い部材から構成される。このボディ2の一端側は、作業者の手指でボディ2を押え付けるために用いる押え部3としている。またボディ2の他端側には、前後壁2a,2bおよび上壁2cに渡り切欠き部が形成されていて、同部分に刃物50の刃先52が差し込める差込溝5を形成している。この差込溝5に合わせて、ボディ2内の他端側に上記刃物研ぎ構造部10が着脱可能に組み込んである。
【0016】
刃物研ぎ構造部10は、各種部材の集約によって1つにユニット化されている。このユニット化された刃物研ぎユニット10aの外観が図4に示され、同ユニット10aの一部を分解した状態が図5に示されている。
刃物研ぎユニット10aの構造を説明すると、12はフレーム、20は同フレーム12に組み込まれる一対の研磨材ホルダである。このうちフレーム12は、例えば図4および図5に示されるように右側面部と上面部とが開口した箱形フレームから構成してある。フレーム12の各部は、ボディ2内に嵌挿な寸法で形成されていて、ボディ2の開口からフレーム12全体が差込溝5の有るボディ部分内に嵌め込める。これで、フレーム12の前後壁12a,12bはボディ1の前後壁2a,2bと向き合い、開口した右側は差込溝5を挟んでボディ2の右側に配置され、左側壁12cは差込溝5を挟んでボディ2の中央側に配置される。このフレーム12は、例えば互いに対向する前後壁2a,2bの内面および前後壁12a,12bの外面のうちの一方に突起部14を形成し、他方に突起部14と係脱可能な凹部15を形成するといった係脱構造によって位置決め固定される構造となっている(図4、図5のみに図示)。またフレーム12の前後壁12a,12bには、差込溝5の切欠き形状にならって一対の溝形の切欠部16が形成されていて、切欠部16間に刃物50の刃先部51が通る通路17を形成している。
【0017】
一対の研磨ホルダ20は、例えば図2〜図5に示されるようにフレーム12内に嵌挿可能な角形の一対のホルダ体から構成され、フレーム12内、具体的には切欠部16を挟んだ両側に摺動可能に収められる。一対の研磨ホルダ20の向き合う内側の各側部には、図1〜図5に示されるように複数の研磨材収容用の溝部20aが互い違いに形成されている。これら溝部20a内には、例えばプレート形の研磨材21a〜21dが複数個、収められている。ここでは、2個ずつ収められている。これにより、4個の研磨材21a〜21dは、溝部20aの配列を利用して、通路17沿いに互い違いに並ぶように配列される。これら研磨材21a〜21dは、例えばアルミナセラミック材やダイヤモンド電着材などで形成されている。各研磨材21a〜21dの各通路17と向き合う端面には研磨面23が形成されている。この研磨面23は、刃物50のブレード51の刃部、具体的にはブレード51の刃先側のしのぎ線52aから刃先までの鋭角的な断面形状となっている刃付部52を研ぐためのものである。すなわち、通路17を挟んだ右側の研磨材21c、21dの研磨面23は、下側から上側に向かい通路20から離れるように傾斜し、左側の研磨材21a、21bの研磨面23も、同じく下から上側に向かい通路20から離れるように傾斜している。これら左右の研磨面23は、通路17の地点で交差していて、研磨面23が交差する部分に、刃付部52を研ぐのに適したV形の研磨面部分が形成される構造になっている。
【0018】
刃物研ぎユニット10aは、この研磨材21a〜21dの研ぎ角、具体的にはV形の研磨面部分がなす研ぎ角が変えられるよう、研磨材21a〜21bの研磨面23に工夫を施したり、研磨材21a〜21dを通路17から接離する方向に変位可能にする可変機構30を設けたりしている。
研磨面23の工夫は、図6に示されるように各研磨面23に曲線を形成するものである。これは、傾斜した研磨面23の多くの部分、例えば中央の部位に曲面部25を形成してなる。同曲面部25は、通路17から離れる方向に弧を描くように曲成させた曲面で形成される。例えばインボリュート曲線や通常の円弧曲線などで形成される。ここでは、曲面部25は例えば半径Rで形成される円弧状の曲線が用いてある。図6は、通路17の右側に配置される研磨材21c、21dの研磨面23を示しているが、通路17の左側に配置される研磨材21a,21bの研磨面23は、右側の研磨面23とは対称の向きとなるだけで、両者は実質同じである。こうすると、図7に示されるように研磨材21a〜21dを接近する方向や離反する方向に変位させると、通路17に対する曲面部25の弧部分の位置が変わる。この挙動により、刃付部52の先端部と当たる部分、すなわちV形の研磨面部分は、通路17に合わせられた弧部分の接線方向の角度の違いにより、小なる研ぎ角から大なる研ぎ角まで変わる。つまり、研磨材21a〜21dの研ぎ角は可変可能となる。
【0019】
また曲面部25の端、ここでは曲面部25の上下端は、接線方向に沿って斜め方向に直線状に延びていて、曲面部25の両端に直線部26a,26bを残している。この直線部26a,26bにより、研磨材21a〜21dを接離する方向に変位すると、曲面部25だけでなく、直線部26a,26bからでも、異なる角度のV形の研磨面部分が形成される。なお、上端側の直線部26aの傾斜角は、下端側の直線部26bより大きい(曲面部25の両端から接線方向に延びるため)。これにより、曲面部25の上端側の直線部26aがなす研ぎ角をα/2°とし、曲面部25の下端側の直線部26bがなす研ぎ角をβ/2°とすると、研ぎ角は、曲面部25がもたらす種々の研ぎ角γ°を含め、研ぎ角α°から研ぎ角β°まで変えられる(α°<γ°<β°)。
【0020】
可変機構30には、左右の研磨材21a〜21dの相対距離を可変にするべく、ここでは例えば図5および図7に示されるような片側の研磨材21a,21bを左右方向(通路17から接離する方向)に直線的に変位可能とするスライド機構32と、図5および図8に示されるような例えば両側の研磨材21a〜21dを左右方向(通路17から接離する方向)に旋回可能とする旋回機構33との2つの機構を併用した構造が用いてある。
【0021】
このうちスライド機構32は、研磨材21a,21bを収めた左側の研磨ホルダ20を左右方向にスライド可能に支持する支持部35(本願の変位支持部に相当)と、この研磨ホルダ20の変位量を調整可能にする変位量調整部36とを組み合わせた構造が用いられている。具体的には支持部35は、例えば図2〜図5に示されるようにフレーム12の切欠部16を挟んだ前後壁12a,12bの両側の上段部から、それぞれ支軸37を、各研磨ホルダ20の上段中央、各研磨ホルダ20内に収めた研磨材21a〜21dの上段中央を貫通させる。このうち右側の支軸35の両端部は、切欠部16を挟んだ前後壁12a,12bの右側に形成された一対の円形の支持孔38により支持される。左側の支軸35の両端部は、同じく前後壁12a,12bの左側に形成された一対の左右方向に延びる長孔39に左右方向に変位可能に嵌挿され、左側の研磨ホルダ20だけ、長孔39に沿いに右側の研磨ホルダ20へ接近あるいは離れる方向に直線的にスライド、つまり変位できるようにしている。このスライドにより、研磨材21a〜21dの曲面部26の各弧部分や直線部26a,26bの各部が、V形を保ちながら通路17に合わせられる。
【0022】
変位量調整部36には、例えば図2〜図5に示されるようにフレーム12の左側壁12cの中央部にねじ軸40を貫通させ、同ねじ軸40を左側壁12cに取着したナット41で進退可能に支持させて、ねじ軸40の先端部で左側の研磨ホルダ20を背面から押す構造が用いられる。ねじ軸40の後端部には、図示はしないが操作部として溝部が形成されている。これにより、溝部を用いてねじ軸40を前進させると、左側の研磨ホルダ20が右側の研磨ホルダ20に接近する方向に変位する。このときの左右の研磨面23間の相対距離の変化から、通路17に対する曲面部26の弧部分の位置を変えたり、直線部26a,26bを選択したりすると、通路17に形成されるV形の研磨面部分の角度、すなわち研ぎ角が、研ぎ角α°から研ぎ角β°まで(曲面部26の各部がなす研ぎ角γ°を含)の範囲で調整される。なお、41aは、調整を終えたねじ軸40を固定するためのナットを示す。
【0023】
旋回機構33は、図3に示されるように各研磨材21a〜21dを旋回自在に支持する旋回支持構造42(本願の旋回支持部に相当)と、フレーム12の下部壁12dに設けた旋回調整部43とを組み合わせた構造が用いられている。旋回支持構造42には、図5に示されるように例えば各支軸37を各研磨材21a〜21dや研磨材ホルダ20に形成した通孔22に回動自在に挿通させるだけの構造が用いてある。旋回調整部43には、例えば図2、図3および図5に示されるように下部壁12dのうち、支軸37,37間へ張り出す研磨材21a〜21dの下面と向き合う下部壁部分に、それぞれ押用のねじ軸45を進退可能に設けた構造が用いられる。下部壁部分を貫通するねじ軸45の後端部には、図示はしないが操作部として溝部が形成されていて、溝部を用いてねじ軸45をフレーム12内に進入させると、研磨材21a〜21dは押し上げられ、研磨材全体が支軸37を支点として旋回され、V形の研磨面部分が拡開するようにしている。つまり、図8に示されるように研磨材21a〜21dは、旋回方向の変位によって曲面部25の弧部分の傾きや直線部26a,26bの傾きを変える手法で、通路17に形成されるV形の研磨面部分の角度、すなわち研ぎ角が調整できる構造にもなっている。
【0024】
こうした1ユニット化した刃物研ぎユニット10aが、先に述べた突起部14および凹部15で構成される着脱構造を用いて、ボディ2内に差込溝5と通路17とが合うよう着脱可能に組み付き、両刃の刃物50を研ぐのに適した刃物研ぎ器1を構成している。
このとき、刃物研ぎユニット10aを、研ぐべき刃物50に適した状態にするには、刃物研ぎユニット10aを、ボディ1に組み付ける前、あるいはボディ1に組み付けた後において、研磨材21a〜21dの研ぎ角を調整しておけばよい。
【0025】
すなわち、研磨材21a〜21dがなすV形の研磨面部分は可変可能となっているから、スライド機構32のねじ軸40を手指や工具などで回転させて、例えば図7に示されるように左側の研磨材21a,21bを右側の研磨材21c、21dと接近する方向にスライドさせて、曲面部25の弧部分の中から、さらには直線部26a,26bから、刃物50の刃付部52の刃付角度に相当する角度の部分を選んで通路17に合わせ、V形の研磨面部分を形成する。すると、V形の研磨面部分は、研ぐべき刃物50に応じた研ぎ角γ°に設定される。例えば図1(b)中に示されるしのぎ線52aから刃先に向かって円弧を描いた断面形状の刃付部52をもつ包丁やナイフであれば、同刃付部52の刃付角度θ1に適した研ぎ角に調整され、図1(b)中に示されるしのぎ線52aから刃先までが直線となった断面形状の刃付部52をもつ包丁やナイフであれば、同刃付部52の刃付角度θ2に適した研ぎ角に調整される。なお、図1(b)中の符号Sは、刃付部52の有る部分を示している。
【0026】
スライド変位では、調整範囲の制約から、刃物50の刃付角度に相当するV形の研磨面部分が得られ難いのであれば、旋回機構33のねじ軸45を手指や工具などで回転させて、例えば図8に示されるように研磨材21a〜21dを拡開する方向に変位させ、V形の研磨面部分の角度を増加させると、調整しづらい刃付角度をもつ刃付部52でも、当該刃付部52を研ぐのに適した研ぎ角に調整される。
【0027】
このように刃物研ぎユニット10a(刃物研ぎ構造部10)は、研ぐべき刃物50に適した研ぎ角に設定できる。
したがって、刃物研ぎユニット10a(刃物研ぎ構造部10)は、どのような刃付角度の刃付部52をもつ刃物50でも適切に研ぐことができ、専門業者への依頼や使用者自身による研ぎ直しの負担を抑えることができる。しかも、通路17から離れる方向に弧を描く曲面部23は、研ぎ角が広範囲に変えられるだけでなく、図1(b)に示されるような専門の業者に依頼しないと研げないとされるしのぎ線52aら刃先に向かって円弧を描く刃付部52でも、できるだけ刃付部52の形状を損なわずに研ぐことができる。
【0028】
しかも、曲面部23の端に直線部26a,26bが形成してあると、研ぎ角の可変範囲が増加するうえ、直線状の刃付部52を研ぐのに適したV形の研磨面部分が形成できるので、図1(b)中に示されるしのぎ線52aら刃先までが直線状の刃付部52をもつ包丁やナイフ(いずれも刃物50)の研磨に十分に応えられる。
そのうえ、研ぎ角の可変には、研磨材21a〜21dを直線的に変位させる構造(スライド機構32)や、研磨材21a〜21dを旋回させる構造(旋回機構33)が用いてあるので、簡単な構造で研磨材21a〜21dの研ぎ角を可変させることができる。特に双方の構造を併用すると、可変する研ぎ角の範囲を格段に増加させることができる。
【0029】
加えて、要となる、研ぎ角が可変可能な刃物研ぎ構造10は、フレーム12に各種部材を組み付けて1ユニット化にし、刃物研ぎ器1のボディ2に着脱可能に組み付けられる構造にしてあるので、簡単に刃物50に適した刃物研ぎ器1を得ることができる。
図9および図10は、本発明の第2の実施形態を示す。
本実施形態は、第1の実施形態のスライド機構32のようにねじ軸40の進退で左側の研磨材ホルダ20を変位させて研ぎ角を可変するのではなく、偏心カム構造を用いて左側の研磨材20を変位させて研ぎ角の可変を行うようにしたものである。
【0030】
具体的には偏心カム構造は、刃物研ぎユニット10aをなすフレーム12に、第1の実施形態のねじ軸に代えて、弾性部材、例えばスプリング部材60で、フレーム12から離れる方向へ付勢されるピン部材61を進退可能に設け、刃物研ぎ器1のボディ2内の、ピン部材61と隣接する地点に、外周面にカム面64が形成された円盤状の偏心カム63を回転自在に設ける構造が用いられる。偏心カム63は、カム面64をピン部材61端と弾接させたり、カム面64の一部がボディ2の壁部、例えば上壁2cに形成した開口部65から外部へ突き出る外形寸法をもち、手指で開口部65から突き出た偏心カム63の円弧部分を送り方向(あるいは戻り方向)に操作して、偏心カム63を中央の支軸部66を支点に偏心回動させると、カム面64によりピン部材61が左右方向に変位して、第1の実施形態と同様、左側の研磨材ホルダ29が左右方向に変位し、研磨材21a〜21dの研磨面23がなす研ぎ角が可変される。
【0031】
このようにすると、刃物研ぎ器1を取り扱う人の操作で、簡単に研ぎ角の調整ができる。
但し、第2の実施形態において、第1の実施形態と同じ部分には同一符号を付してその説明を省略した。
なお、本発明は上述したいずれの実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々可変して実施しても構わない。例えば上述したいずれの実施形態も、両刃の刃物を研ぐのに適した刃物研ぎ構造、刃物研ぎ器に本発明を適用したが、これに限らず、片刃の刃物を研ぐのに適した刃物研ぎ構造、刃物研ぎ器に適用してもよい。この片刃の刃物を研ぐ刃物研ぎ構造は、通路17を挟んだ両側の研磨材21a〜21dのうち、片側の研磨材が刃物の刃先部をガイドするガイド部材に代わるだけなので、本発明は十分に適用できるものである。また上述した実施形態は、スライド機構や旋回機構を用いて、研磨面の曲面部の弧部分の位置を調整可能にしたが、これに限らず、他の構造や機構を用いて、研磨面の曲面部の弧部分の位置を調整可能としてもよい。もちろん、スライド機構だけや旋回機構だけを用いる構造でも構わない。また旋回機構は、複数のねじ軸をそれぞれ操作することで研ぎ角が調整される構造としているが、これに限らず、1つのねじ軸の動きで、一度に複数の研磨材を操作して研ぎ角を調整する構造としてもよい。また上述の実施形態は、ユニット化された刃物研ぎ構造を、凹部と突起部を用いた着脱構造で刃物研ぎ器のボディに組み付けるようにしているが、これに限らず、他の構造で上記刃物研ぎ構造をボディに着脱可能に組み付けるようにしても構わない。
【符号の説明】
【0032】
1 刃物研ぎ器
2 ボディ(研ぎ本体)
10 刃物研ぎ構造部(刃物研ぎ構造)
10a 刃物研ぎユニット
12 フレーム
17 通路
20 研磨材ホルダ
21a〜21d 研磨材
23 研磨面
25 曲面部
26a,26b 直線部
30 可変機構
32 スライド機構
33 旋回機構
35 支持部(変位支持部)
42 旋回支持構造(旋回支持部)
50 刃物
52 刃付部
α°、β°、γ° 研ぎ角
θ1、θ2 刃付角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研ぐべき刃物の刃付部が通る通路と、前記通路に研磨面を配置して設けられ前記通路内を通る刃物の刃付部を研ぐ研磨材とを有し、
前記研磨材の研磨面は、前記通路から離れる方向に弧を描いて曲成する曲面部を有して形成され、
前記研磨材には、当該研磨材を前記通路から接離する方向に変位可能として、前記研磨材の変位により前記研磨材の研ぎ角を可変可能とする可変機構が設けられる
ことを特徴とする刃物研ぎ構造。
【請求項2】
前記可変機構は、前記研磨材を前記通路から接離する方向に直線的に変位可能に支持する変位支持部を有し、当該研磨材の変位により前記通路に対する前記曲面部の弧部分の位置を変えると前記研磨材の研ぎ角が変わる機構で構成されることを特徴とする請求項1に記載の刃物研ぎ構造。
【請求項3】
前記可変機構は、前記研磨材を前記通路から接離する方向に旋回可能に支持する旋回支持部を有し、当該研磨材の旋回方向の変位により前記通路に対する前記曲面部の弧部分の傾きを変えると前記研磨材の研ぎ角が変わる機構で構成されることを特徴とする請求項1に記載の刃物研ぎ構造。
【請求項4】
前記研磨材の研磨面は、前記弧を描く曲面部の端から接線方向に沿って延びる直線部を有して形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一つに記載の刃物研ぎ構造。
【請求項5】
前記請求項1ないし請求項4のいずれか一つの刃物研ぎ構造における前記研磨材と前記可変機構とがユニット化された刃物研ぎユニットと、
同刃物研ぎユニットが組み付く研ぎ器本体とを有し、
前記刃物研ぎユニットが前記研ぎ器本体に着脱可能に組み付く構成にしてある
ことを特徴とする刃物研ぎ器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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