分光分析装置及び元素分析装置
【課題】小型化が可能で従来の回折格子や光学薄膜フィルターを使用した場合に比べて精度の高い測定が可能な分光分析装置を提供すること。
【解決手段】プラズマ発生装置によって創生されたプラズマ光を光源として光を光学系から入射させハーフミラー33によって2方向に分け、第1のBPF35と第2のBPF36を透過させる。両BPF35,36を透過したプラズマ光はそれぞれ第1及び第2の検出用素子22,23によって強度が検出される。第1の検出用素子22によって第1のBPF35を透過した光の強度が検出され、第2の検出用素子23によって第2のBPF36を透過した光の強度が検出される。そして、それらの検出値からバックグラウンド光を補正する。
【解決手段】プラズマ発生装置によって創生されたプラズマ光を光源として光を光学系から入射させハーフミラー33によって2方向に分け、第1のBPF35と第2のBPF36を透過させる。両BPF35,36を透過したプラズマ光はそれぞれ第1及び第2の検出用素子22,23によって強度が検出される。第1の検出用素子22によって第1のBPF35を透過した光の強度が検出され、第2の検出用素子23によって第2のBPF36を透過した光の強度が検出される。そして、それらの検出値からバックグラウンド光を補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料をプラズマ発光させることによって発生した試料中の元素特有のスペクトルを検出し、定性あるいは定量分析する分光分析装置及び元素分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分光分析装置は、放射されたプラズマ光を分光器によって分光して元素特有のスペクト線に分け、その有無と強度を受光素子で検出し、光の強度を測定する事により試料に含まれる目的元素の定性あるいは定量分析を行うものである。
光分析装置では目的元素のスペクトルを分光器によって分光するようになっている。
従来の光分析装置の一例を特許文献として挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−31139号公報
【特許文献1】特開平7−286960号公報
【特許文献1】特開平2−28544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の分光分析装置として、回折格子(グレーティング)を用い波長分離を行っているタイプのものが市販されている。分光器の性能は主としてスリットの幅と回折格子の刻線数及び受光素子までの焦点距離で決まるものである。焦点距離に関していえばなるべくこれを長くして波長分離を行うことが線幅が小さくなるため望ましい。しかし、回折格子は反射型が一般的であり光の反射と干渉が繰り返され、なおかつそのように測定距離を長くすれば測定光量が減衰することとなってしまう。そのため、微小光の場合、十分な測定光が得られず結果として精度の低い検出となってしまうこととなっていた。更に、高分解能の実現は分光器の性能以外も高品質化が必要であり、測定距離を長くすることは装置が大型化することになってしまうことから一般に高分解能を実現した分光分析装置は高価格でもあった。
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、その目的は、小型化が可能で従来の回折格子や光学薄膜フィルターを使用した場合に比べて精度の高い測定が可能な分光分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明では、任意の帯域の波長光のみを特異的に透過させるための1又は2以上の光学フィルターと、検出部とを備え、前記光学フィルターを透過させた光を前記検出部に検出させた検出値に基づいて同光学フィルターの透過特性に対応する特有の元素のスペクトルの定性分析あるいは定量分析を行うことをその要旨とする。
また、請求項2に記載の発明では請求項1に記載の発明の構成に加え、集光光学系を有することをその要旨とする。
また、請求項3に記載の発明では請求項2に記載の集光光学系はコリメートレンズを有することをその要旨とする。
また、請求項4に記載の発明では請求項1〜3に記載の発明の構成に加え、前記光学フィルターは求める帯域を含む所定範囲の波長光に透過性を有するサブ光学フィルターと、当該所定範囲において求める帯域の波長光に特化した狭い範囲の透過性能を有するメイン光学フィルターから構成されていることをその要旨とする。
また、請求項5に記載の発明では、請求項1〜4に記載の発明の構成に加え、前記光学フィルターの全てあるいは一部は干渉フィルターであることをその要旨とする。
また、請求項6に記載の発明では請求項5に記載の発明の構成に加え、前記干渉フィルターは、その中心波長が特有のスペクトルに対して長波長側に1nm以下シフトさせてあり、その半値波長幅が1.5nm以下であり、また光の入射角度が5度以下であることを特徴とする、
また、請求項7に記載の発明では請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、入射された光はビームスプリッターによって少なくとも第1及び第2の方向に振り分けられ、第1の方向の光に基づいて第1の光学フィルターによって目的波長の発光強度を検出して定性分析あるいは定量分析を行うとともに、第2の方向の光に基づいて第2の目的波長の発光強度を検出して定性分析あるいは定量分析を行うことをその要旨とする。
また、請求項8に記載の発明では請求項7に記載の発明の構成に加え、前記ビームスプリッターはプリズムに挟持されていることをその要旨とする。
また、請求項9に記載の発明では請求項1〜8に記載の発明の構成に加え、液体電極プラズマ発生装置と組み合わせ、液体中に含まれる元素の定性分析あるいは定量分析を行うことをその要旨とする。
また、請求項10に記載の発明では請求項9に記載の発明の構成に加え、バックグラウンド光の強度をリファレンスとして、目的とする元素の光強度を補正することをその要旨とする。
【0006】
このような構成では、プラズマ発生装置によって創生された試料中に含まれる元素特有のスペクトルを含むプラズマ光を光源として光を光学系から入射させ1又は2以上の光学フィルターを透過させる。プラズマ発生装置は分光分析装置適用可能であれば特にプラズマの発生方式を限定するものではない。プラズマ光は光学フィルターの透過特性に対応する光のみが透過されて検出部に至ることとなる。逆に言えば、光学フィルターはプラズマ光のうち任意の帯域の波長光のみを特異的に透過させることとなる。従って、検出部は基本的に光学フィルターによって絞られた帯域の波長光のみの光を検出することとなる。この帯域は理論的にはバックグラウンド光を排除するために当該目的の特有スペクトルと一致することが望ましいが、現実にはバックグラウンド光を完全に排除するような特性の光学フィルターを作製するのは無理なので、できる限り当該目的の特有スペクトルを含むごく狭い帯域のみに透過特性が絞ることが好ましい。
入射光の中に、その帯域の波長光をスペクトルが含まれていれば検出部はそのスペクトルの光を検出していることとなる。そして、検出部によって検出した検出値に基づいてそのスペクトルの定性分析あるいは定量分析を行うこととなる。
【0007】
上記光学フィルターは単独で構成されてもよく、複数の光学フィルターが組み合わされてもよい。一般的には単独の光学フィルターのみでごく狭いバンド幅のみを透過させる(つまり、それ以外の波長帯域を透過させないこと)光学フィルターを作製するのは困難であるため、複数の光学フィルターを組み合わせることが妥当である。
また、複数の光学フィルターを組み合わせる場合には光学フィルターは求める帯域を含む所定範囲の波長光に透過性を有するサブ光学フィルターと、当該所定範囲において求める帯域の波長光に特化した狭い範囲の透過性能を有するメイン光学フィルターから構成することが好ましい。上記のように求める特有スペクトルのごく狭いバンド幅のみを透過させるような光学フィルターを作製するのは困難であるためまず、目的の特有スペクトル位置を含む比較的広い範囲(例えば、数十〜100nm程度)以外をサブ光学フィルターで透過させないように絞り、その絞った範囲内でメイン光学フィルターによって更に狭い範囲(半値幅で数nm以下)のみを透過させるような構成であれば設計が非常に楽だからである。
このような設計の光学フィルターを目的とするスペクトルに応じてプラズマ光の透過帯域の異なる適宜光学フィルターに変更(あるいは光学フィルターを含む測光部を交換)することで所望の特有スペクトルの定性分析あるいは定量分析が可能である。
【0008】
また、光学フィルターの全てあるいは一部としては干渉フィルターが好ましい。特にメイン光学フィルターは干渉フィルターが好ましい。干渉フィルターは非常に狭い帯域(数nmより小さな)にピンポイント的にバンド幅に透過特性を作ることが可能である。そのような非常に狭い帯域のみに透過特性を作ることによってバックグラウンド光の影響を極力抑制することとなる。
干渉フィルターとは、光のスペクトルから特定の波長光だけを選択し透過させるフィルターであって、任意の誘電体薄膜や金属薄膜を所望の透過特性を与えるために任意の順序で積層して構成される多層構造体である。
誘電体薄膜は親水性或いは非親水性の無機化合物であって、例えばTiO2(二酸化チタン)、Ta2O5(五酸化タンタル)、ZrO2(酸化ジルコン)、Al2O3(酸化アルミニウム)、Nb2O5(五酸化ニオブ)、SiO2(酸化ケイ素)、MgF2(フッ化マグネシウム)等が挙げられる。
誘電体多層薄膜層の各膜厚は一般に数十nm〜数百nmのオーダーとなる。
また、「金属薄膜層」は例えば金、銀、プラチナのような酸化されにくい金属光沢を有する金属のごく薄い膜構造体をいう。
これら誘誘電体薄膜及び金属薄膜の成膜方法に特に限定的な意味はないが一般的には蒸着法やスパッタリング法で成膜されることが好ましい。干渉フィルターは一般には基板となる透明なガラスやプラスチック表面に成膜される。
【0009】
また、サブ光学フィルターはメイン光学フィルターほどの狭い範囲の透過性能を必要とするものではない。特に複数のフィルターを組み合わせるようなサブ光学フィルターならば干渉フィルターを使用するほどではない。例えば、所定の波長域に対する吸収と透過の特性を示す色ガラス、プリズムなどを使用することも可能である。
また、集光光学系にコリメートレンズを配置することは、特にメイン光学フィルターとして干渉フィルターを使用する場合に特に好ましい。つまり、干渉フィルターは光の入射角度に依存して透過率が変化してしまうので、なるべく光線を干渉フィルターに直交するように入射させることが好ましく、入射角度が5度以下に収まることが好ましい。また、コリメートレンズとは拡散光を平行光に変換するレンズである。
【0010】
また、プラズマ光に含まれる元素特有の発光スペクトルの半値幅は1nmより小さいため、定精度をあげるためには、前記メイン光学フィルターの干渉フィルターの半値幅と発光スペクトルの半値幅を一致させることが望ましい。また、干渉フィルターの光学特性は入射角度依存性を持っているため、光を正確に垂直に入射させることが望ましい。しかし現実には、入射角度をある一定の幅におさえこむことが出来ても、正確に垂直にすることは困難である。そのため、集光系で光の入射角度を5度以下に制限し干渉フィルターの中心波長を入射光の角度分布を考慮して長波長側にシフトしておくことが好ましい。また、半値波長は、入射角度の幅内の任意の角度に対し、発光スペクトルの中心波長が干渉フィルターの半値幅内に入るように設計することが望ましい。具体的には、光の入射角度5度以下とし、長波長側に1nm以下シフトさせてあり、その半値波長幅が1.5nm以下であることが望ましい。
【0011】
また、複数の特有スペクトルを検出したい場合には、例えば 集光光学系から入射された光をハーフミラーのようなビームスプリッターによって少なくとも第1及び第2の方向に振り分けて、第1の方向の光に基づいて第1の光学フィルターによって目的スペクトルの発光強度を測定するとともに、第2の方向の光に基づいて第2の光学フィルターによって目的スペクトルの発光強度を測定する。
第1および第2の光学フィルターが干渉フィルターである場合には上記のような角度依存性の点からビームスプリッターは入射された光が直交するようにちょうど45度の角度に配置されることが好ましい。そのためにはビームスプリッターを2つのプリズムに挟持させるようにして正確に45度の角度で配置することが精度の点で好ましい。
【0012】
また、上記の分光分析装置をプラズマ発光源の一つである液体電極プラズマと組み合わせて元素分析装置を構成することは、小型化の点で好ましい。
【0013】
上記のようにプラズマ光は光学フィルターの透過特性に対応する光のみが透過されて検出部に至ることとなる。しかし、検出される光は当該目的元素のスペクトル以外の成分、つまりバックグラウンド光をどうしても含んでしまう。そのため、目的元素の発光強度を検出して基準検出を算出するとともに、バックグラウンド光の発光強度を別に測定し、その検出値を補正値として前記基準検出値の補正を行うことが特に定量分析の観点から好ましい。
具体的な補正値の検出手段としては、例えば集光光学系から入射された光をハーフミラーのようなビームスプリッターによって少なくとも第1及び第2の方向に振り分けて、第1の方向の光に基づいて第1の光学フィルターによって目的元素の発光強度を検出して基準検出を算出するとともに、第2の方向の光に基づいてバックグラウンド光の発光強度を測定し、その検出値を補正値として前記基準検出値の補正を行うことが想定される。
また、バックグラウンド光の光強度を検出し、その検出値を補正値として前記基準検出値の補正を行うことが想定される。
【発明の効果】
【0014】
上記各請求項に記載の発明によれば、光学フィルターを使って分光するようにしたため回折格子を使って分光する場合に比べて、小型化が可能でかつ測定光量が減衰しにくいため精度の高い測定が可能な分光分析装置を提供することができる。
また液体電極プラズマと上記分光分析装置を組み合わせることで、小型で精度の高い元素分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における実施の形態の液体電極プラズマを用いた元素分析装置の構成のイメージ図。
【図2】実施の形態において液体電極プラズマ発生装置の概略を説明する断面図。
【図3】実施の形態において測光部の概略を説明する説明図。
【図4】実施の形態において算出部の概略を説明する説明図。
【図5】鉛を含むサンプル試料について得られるプラズマ光の波長とその強度を示すグラフ。
【図6】第1〜第3の色ガラスの可視光透過特性を示すグラフ。
【図7】実施例1の第1及び第2のBPFの可視光透過特性を示すグラフ。
【図8】実施例2の可視光反射膜反射特性を示すグラフ。
【図9】実施例1の縦軸を光の強度とし横軸を濃度とした透過特性グラフ。
【図10】実施例2の縦軸を光の強度とし横軸を濃度とした透過特性グラフ。
【図11】従来例の縦軸を光の強度とし横軸を濃度とした透過特性グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態として例えば図1に示すような構成の元素分析装置11を示す。元素分析装置11は光源部12、分光分析装置である測光部13及び算出部14から構成されている。本実施の形態の光源部12は具体的には図2に示すようなプラズマ発生装置15を備えている。プラズマ発生装置15は絶縁性材料からなるベース16上に通路17が形成された絶縁性材料からなるチップ18を重ね合わせることで基本的な外形が構成される。通路17は中央に周囲よりも極端に断面積の小さな狭小部19を備えている。通路17の端部には一対の電極20が通路内に挿入されている。通路18内には分析される試料が溶解した導電性液体が収容されている。本実施例では導電性液体用の電解質として硝酸が使用されている。
このような構成のプラズマ発生装置15では電極20に所定の電圧を印加することで、狭小部19に電流と電界が集中し発生する気泡中にプラズマが発生する。プラズマ光は試料中の目的元素のスペクトルを含む。
【0017】
本実施の形態の測光部13は具体的には図3に示すような筐体21に保持された光学系と検出用素子22,23から構成されている。光学系は集光光学系25と分光光学系26から構成されている。集光光学系25は集光レンズ27とその前方に配置されたコリメートレンズ28から構成されている。分光光学系26はコリメートレンズ28の前方に配置されている。分光光学系26は3枚の第1〜第3の色ガラス29〜31と、一対のプリズム32a,32bと、プリズム32a,32bに挟持されたハーフミラー33とプリズム32a,32bの出射面に貼着された一対の第1及び第2のバンドパスフィルター(以下、BPFとする)35,36から構成されている。第1及び第2のBPF35,36はベースプレート37に蒸着によって成膜されている。
図3に示すように、入射された測定光は集光光学系25によって平行化され、基本的には第1のBPF35方向に直進する。そして、ハーフミラー33によって透過光量の半分が反射され第2のBPF36方向に直進する。第1及び第2のBPF35,36のそれぞれの光軸p1,p2は直交関係にある。
第1及び第2の検出用素子22,23はフォトダイオードから構成されており、第1及び第2のBPF35,36のそれぞれを透過してくる測定光の強度を検出する。
【0018】
第1〜第3の色ガラス29〜31は測定光を第1及び第2のBPF35,36に到達するまでにある程度の帯域の波長光に絞る目的で配置される。つまり、所定の波長光を吸収し所定の波長光を透過させる作用をする光学フィルターである。第1〜第3の色ガラス29〜31の枚数は適宜変更可能である。
第1のBPF35は目的元素のスペクトルを含むより狭い帯域の波長光に対する透過特性を有する干渉フィルターである。第2のBPF36は第1のBPF35に対して特性が若干ずれた同様に狭い帯域の波長光に対する透過特性を有する干渉フィルターである。
第1の検出用素子22によって第1のBPF35を透過した目的元素及びバックグラウンド光の強度が検出され、第2の検出用素子23によってバックグラウンド光の強度が検出される。第1の検出用素子22で得られた測定値と第2の検出用素子23で得られた測定値との差を取ることでバックグラウンド光が概ねキャンセルされることとなる。
【0019】
本実施の形態の算出部14は図4に示すように演算部38と出力部39から構成されている。演算部38はCPU(中央処理装置)や記憶装置及びその周辺装置によって構成されている。CPUは各種プログラムや入力された検出データに基づいて光強度を数値化するとともに、第1及び第2の検出用素子22,23のデータの差から数値の補正を行う。また、得られた数値に基づいて出力部39に所定の出力動作を実行させる。出力部39は例えばモニターやプリンターが挙げられる。
本実施の形態の元素分析装置11では次のような効果を奏する。
(1)従来の液体電極プラズマを用いた元素分析装置11のように精度を上げるための焦点距離を長くする必要がなく、装置の小型化が容易である。
(2)複数の光学フィルター(第1〜第3の色ガラス29〜31、第1及び第2のBPF35,36)を使用することによって非常に狭いスペクトルに対応した領域の光のみを透過させて検出することが容易に可能となる。
(3)バックグラウンド光を得るためにハーフミラー33によって測定光を二分できるため、バックグラウンド光の補正が処理が容易である。
(4)干渉フィルターである第1及び第2のBPF35,36に入射する光線をコリメートレンズ26によって平行化できるため、測定光が第1及び第2のBPF35,36に直交することとなって測定光が傾くことによる透過率が変化が生じにくい。
(5)ハーフミラー33はプリズム32a,32bに挟持させるようにしているため、ハーフミラー33配置作業においてハーフミラー33を正確な角度(つまり光軸p1,p2が直交するように)に配置することが容易となり、また、プリズム32a,32bに挟持させるようにしているためハーフミラー33に歪みが発生することがない。
(6)干渉フィルターの半値幅、中心波長は光の入射角度にあわせて、調整しているため、検出光量を大きくすることができ、測定精度が高い。
【0020】
上記のような構成の元素分析装置11において目的元素を鉛(Pb)とした場合の実施例を以下に説明する。
図5は鉛を含むサンプル試料についてプラズマ発生装置15によって得られるプラズマ光の波長とその強度を示すグラフである。鉛のスペクトルは405.78nmであるためこの付近の光の強度が顕著に大きい。
このようなプラズマ光を分光分析装置11によって分析した。
(実施例1)
実施例1で使用した第1〜第3の色ガラスA〜Cは図6の特性グラフに示す通りである。図6は縦軸を透過率とし横軸を波長とした透過特性グラフである。第1の色ガラスAは主として300nm〜500nm付近の透過率が高く、500nm付近から700nm付近を全く透過させない(反射させる)特性を与えた肉眼による外観目視として青味がかったガラスである。第2の色ガラスBは主として300nm〜650nm付近の透過率が高く、750nm付近から可視域長波長側を全く透過させない特性を与えた肉眼による外観目視として水色がかったガラスである。第3の色ガラスCは主として380nm付近から可視域長波長側の透過率が高く、380nm付近から可視域短波長側を全く透過させない特性を与えた肉眼による外観目視としてほとんど透明なガラスである。これらの特性はガラスに添加した染料の特性に由来する。
この第1〜第3の色ガラスA〜Cを組み合わせることで、可視域における透過帯域が図6に示すように380nm〜500nm付近のみの可視光のみに絞られることとなる。
尚、この設定は一例であるため同じ目的元素や異なる目的元素であっても異なる特性とすることが可能である。
【0021】
実施例1で使用した第1及び第2のBPFは図7の特性グラフに示す通りである。図7は縦軸を透過率とし横軸を波長とした透過特性グラフである。実線で示す第1のBPFは半値幅1.5nmでピーク値の透過率が73%(405.4nm)の透過特性とした。破線で示す第2のBPFは半値幅0.6nmでピーク値の透過率が56%(401.8nm)の透過特性とした。第1及び第2のBPFは380nm〜500nmの間にはこれ以外のピークはない。尚、この設定は一例であるため同じ目的元素や異なる目的元素であっても異なる特性とすることが可能である。
この実施例1について第1及び第2のBPFのそれぞれを透過してくる光の強度を検出し、バックグラウンド光について補正した結果を図9に示す。
【0022】
(実施例2)
実施例2では実施例1と同様に図6の特性の第1〜第3の色ガラスA〜Cを使用した。一方、第1及び第2のBPFは図8の特性グラフに示す通りである。実線で示す第1のBPFは半値幅3.8nmでピーク値の透過率が60%(406.6nm)の透過特性とした。破線で示す第2のBPFは実施例1と同じ半値幅0.6nmでピーク値の透過率が56%(401.8nm)の透過特性とした。第1及び第2のBPFは380nm〜500nmの間にはこれ以外のピークはない。
この実施例2について第1及び第2のBPFのそれぞれを透過してくる光の強度を検出し、バックグラウンド光について補正した結果を図10に示す。
【0023】
上記実施例1と実施例2について、従来の分光器を使用した液体電極プラズマを用いた元素分析装置による分析結果(図11)と比較する。
図9〜図11は縦軸を光の強度とし横軸を目的元素(鉛)の濃度とした透過特性グラフである。図9及び図10に示すように濃度に対して光の強度は正比例し、かつ同じ濃度であれば実施例は従来に較べて1000倍ほどのオーダーでの強度を得ることが可能となっている。
【符号の説明】
【0024】
11…液体電極プラズマを用いた元素分析装置、15…液体電極プラズマ発生装置、25…集光光学系、29〜31…光学フィルターとしての第1〜第3の色ガラス、35…光学フィルターとしての第1のBPF、36…光学フィルターとしての第2のBPF。
【技術分野】
【0001】
本発明は試料をプラズマ発光させることによって発生した試料中の元素特有のスペクトルを検出し、定性あるいは定量分析する分光分析装置及び元素分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分光分析装置は、放射されたプラズマ光を分光器によって分光して元素特有のスペクト線に分け、その有無と強度を受光素子で検出し、光の強度を測定する事により試料に含まれる目的元素の定性あるいは定量分析を行うものである。
光分析装置では目的元素のスペクトルを分光器によって分光するようになっている。
従来の光分析装置の一例を特許文献として挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−31139号公報
【特許文献1】特開平7−286960号公報
【特許文献1】特開平2−28544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の分光分析装置として、回折格子(グレーティング)を用い波長分離を行っているタイプのものが市販されている。分光器の性能は主としてスリットの幅と回折格子の刻線数及び受光素子までの焦点距離で決まるものである。焦点距離に関していえばなるべくこれを長くして波長分離を行うことが線幅が小さくなるため望ましい。しかし、回折格子は反射型が一般的であり光の反射と干渉が繰り返され、なおかつそのように測定距離を長くすれば測定光量が減衰することとなってしまう。そのため、微小光の場合、十分な測定光が得られず結果として精度の低い検出となってしまうこととなっていた。更に、高分解能の実現は分光器の性能以外も高品質化が必要であり、測定距離を長くすることは装置が大型化することになってしまうことから一般に高分解能を実現した分光分析装置は高価格でもあった。
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、その目的は、小型化が可能で従来の回折格子や光学薄膜フィルターを使用した場合に比べて精度の高い測定が可能な分光分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明では、任意の帯域の波長光のみを特異的に透過させるための1又は2以上の光学フィルターと、検出部とを備え、前記光学フィルターを透過させた光を前記検出部に検出させた検出値に基づいて同光学フィルターの透過特性に対応する特有の元素のスペクトルの定性分析あるいは定量分析を行うことをその要旨とする。
また、請求項2に記載の発明では請求項1に記載の発明の構成に加え、集光光学系を有することをその要旨とする。
また、請求項3に記載の発明では請求項2に記載の集光光学系はコリメートレンズを有することをその要旨とする。
また、請求項4に記載の発明では請求項1〜3に記載の発明の構成に加え、前記光学フィルターは求める帯域を含む所定範囲の波長光に透過性を有するサブ光学フィルターと、当該所定範囲において求める帯域の波長光に特化した狭い範囲の透過性能を有するメイン光学フィルターから構成されていることをその要旨とする。
また、請求項5に記載の発明では、請求項1〜4に記載の発明の構成に加え、前記光学フィルターの全てあるいは一部は干渉フィルターであることをその要旨とする。
また、請求項6に記載の発明では請求項5に記載の発明の構成に加え、前記干渉フィルターは、その中心波長が特有のスペクトルに対して長波長側に1nm以下シフトさせてあり、その半値波長幅が1.5nm以下であり、また光の入射角度が5度以下であることを特徴とする、
また、請求項7に記載の発明では請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、入射された光はビームスプリッターによって少なくとも第1及び第2の方向に振り分けられ、第1の方向の光に基づいて第1の光学フィルターによって目的波長の発光強度を検出して定性分析あるいは定量分析を行うとともに、第2の方向の光に基づいて第2の目的波長の発光強度を検出して定性分析あるいは定量分析を行うことをその要旨とする。
また、請求項8に記載の発明では請求項7に記載の発明の構成に加え、前記ビームスプリッターはプリズムに挟持されていることをその要旨とする。
また、請求項9に記載の発明では請求項1〜8に記載の発明の構成に加え、液体電極プラズマ発生装置と組み合わせ、液体中に含まれる元素の定性分析あるいは定量分析を行うことをその要旨とする。
また、請求項10に記載の発明では請求項9に記載の発明の構成に加え、バックグラウンド光の強度をリファレンスとして、目的とする元素の光強度を補正することをその要旨とする。
【0006】
このような構成では、プラズマ発生装置によって創生された試料中に含まれる元素特有のスペクトルを含むプラズマ光を光源として光を光学系から入射させ1又は2以上の光学フィルターを透過させる。プラズマ発生装置は分光分析装置適用可能であれば特にプラズマの発生方式を限定するものではない。プラズマ光は光学フィルターの透過特性に対応する光のみが透過されて検出部に至ることとなる。逆に言えば、光学フィルターはプラズマ光のうち任意の帯域の波長光のみを特異的に透過させることとなる。従って、検出部は基本的に光学フィルターによって絞られた帯域の波長光のみの光を検出することとなる。この帯域は理論的にはバックグラウンド光を排除するために当該目的の特有スペクトルと一致することが望ましいが、現実にはバックグラウンド光を完全に排除するような特性の光学フィルターを作製するのは無理なので、できる限り当該目的の特有スペクトルを含むごく狭い帯域のみに透過特性が絞ることが好ましい。
入射光の中に、その帯域の波長光をスペクトルが含まれていれば検出部はそのスペクトルの光を検出していることとなる。そして、検出部によって検出した検出値に基づいてそのスペクトルの定性分析あるいは定量分析を行うこととなる。
【0007】
上記光学フィルターは単独で構成されてもよく、複数の光学フィルターが組み合わされてもよい。一般的には単独の光学フィルターのみでごく狭いバンド幅のみを透過させる(つまり、それ以外の波長帯域を透過させないこと)光学フィルターを作製するのは困難であるため、複数の光学フィルターを組み合わせることが妥当である。
また、複数の光学フィルターを組み合わせる場合には光学フィルターは求める帯域を含む所定範囲の波長光に透過性を有するサブ光学フィルターと、当該所定範囲において求める帯域の波長光に特化した狭い範囲の透過性能を有するメイン光学フィルターから構成することが好ましい。上記のように求める特有スペクトルのごく狭いバンド幅のみを透過させるような光学フィルターを作製するのは困難であるためまず、目的の特有スペクトル位置を含む比較的広い範囲(例えば、数十〜100nm程度)以外をサブ光学フィルターで透過させないように絞り、その絞った範囲内でメイン光学フィルターによって更に狭い範囲(半値幅で数nm以下)のみを透過させるような構成であれば設計が非常に楽だからである。
このような設計の光学フィルターを目的とするスペクトルに応じてプラズマ光の透過帯域の異なる適宜光学フィルターに変更(あるいは光学フィルターを含む測光部を交換)することで所望の特有スペクトルの定性分析あるいは定量分析が可能である。
【0008】
また、光学フィルターの全てあるいは一部としては干渉フィルターが好ましい。特にメイン光学フィルターは干渉フィルターが好ましい。干渉フィルターは非常に狭い帯域(数nmより小さな)にピンポイント的にバンド幅に透過特性を作ることが可能である。そのような非常に狭い帯域のみに透過特性を作ることによってバックグラウンド光の影響を極力抑制することとなる。
干渉フィルターとは、光のスペクトルから特定の波長光だけを選択し透過させるフィルターであって、任意の誘電体薄膜や金属薄膜を所望の透過特性を与えるために任意の順序で積層して構成される多層構造体である。
誘電体薄膜は親水性或いは非親水性の無機化合物であって、例えばTiO2(二酸化チタン)、Ta2O5(五酸化タンタル)、ZrO2(酸化ジルコン)、Al2O3(酸化アルミニウム)、Nb2O5(五酸化ニオブ)、SiO2(酸化ケイ素)、MgF2(フッ化マグネシウム)等が挙げられる。
誘電体多層薄膜層の各膜厚は一般に数十nm〜数百nmのオーダーとなる。
また、「金属薄膜層」は例えば金、銀、プラチナのような酸化されにくい金属光沢を有する金属のごく薄い膜構造体をいう。
これら誘誘電体薄膜及び金属薄膜の成膜方法に特に限定的な意味はないが一般的には蒸着法やスパッタリング法で成膜されることが好ましい。干渉フィルターは一般には基板となる透明なガラスやプラスチック表面に成膜される。
【0009】
また、サブ光学フィルターはメイン光学フィルターほどの狭い範囲の透過性能を必要とするものではない。特に複数のフィルターを組み合わせるようなサブ光学フィルターならば干渉フィルターを使用するほどではない。例えば、所定の波長域に対する吸収と透過の特性を示す色ガラス、プリズムなどを使用することも可能である。
また、集光光学系にコリメートレンズを配置することは、特にメイン光学フィルターとして干渉フィルターを使用する場合に特に好ましい。つまり、干渉フィルターは光の入射角度に依存して透過率が変化してしまうので、なるべく光線を干渉フィルターに直交するように入射させることが好ましく、入射角度が5度以下に収まることが好ましい。また、コリメートレンズとは拡散光を平行光に変換するレンズである。
【0010】
また、プラズマ光に含まれる元素特有の発光スペクトルの半値幅は1nmより小さいため、定精度をあげるためには、前記メイン光学フィルターの干渉フィルターの半値幅と発光スペクトルの半値幅を一致させることが望ましい。また、干渉フィルターの光学特性は入射角度依存性を持っているため、光を正確に垂直に入射させることが望ましい。しかし現実には、入射角度をある一定の幅におさえこむことが出来ても、正確に垂直にすることは困難である。そのため、集光系で光の入射角度を5度以下に制限し干渉フィルターの中心波長を入射光の角度分布を考慮して長波長側にシフトしておくことが好ましい。また、半値波長は、入射角度の幅内の任意の角度に対し、発光スペクトルの中心波長が干渉フィルターの半値幅内に入るように設計することが望ましい。具体的には、光の入射角度5度以下とし、長波長側に1nm以下シフトさせてあり、その半値波長幅が1.5nm以下であることが望ましい。
【0011】
また、複数の特有スペクトルを検出したい場合には、例えば 集光光学系から入射された光をハーフミラーのようなビームスプリッターによって少なくとも第1及び第2の方向に振り分けて、第1の方向の光に基づいて第1の光学フィルターによって目的スペクトルの発光強度を測定するとともに、第2の方向の光に基づいて第2の光学フィルターによって目的スペクトルの発光強度を測定する。
第1および第2の光学フィルターが干渉フィルターである場合には上記のような角度依存性の点からビームスプリッターは入射された光が直交するようにちょうど45度の角度に配置されることが好ましい。そのためにはビームスプリッターを2つのプリズムに挟持させるようにして正確に45度の角度で配置することが精度の点で好ましい。
【0012】
また、上記の分光分析装置をプラズマ発光源の一つである液体電極プラズマと組み合わせて元素分析装置を構成することは、小型化の点で好ましい。
【0013】
上記のようにプラズマ光は光学フィルターの透過特性に対応する光のみが透過されて検出部に至ることとなる。しかし、検出される光は当該目的元素のスペクトル以外の成分、つまりバックグラウンド光をどうしても含んでしまう。そのため、目的元素の発光強度を検出して基準検出を算出するとともに、バックグラウンド光の発光強度を別に測定し、その検出値を補正値として前記基準検出値の補正を行うことが特に定量分析の観点から好ましい。
具体的な補正値の検出手段としては、例えば集光光学系から入射された光をハーフミラーのようなビームスプリッターによって少なくとも第1及び第2の方向に振り分けて、第1の方向の光に基づいて第1の光学フィルターによって目的元素の発光強度を検出して基準検出を算出するとともに、第2の方向の光に基づいてバックグラウンド光の発光強度を測定し、その検出値を補正値として前記基準検出値の補正を行うことが想定される。
また、バックグラウンド光の光強度を検出し、その検出値を補正値として前記基準検出値の補正を行うことが想定される。
【発明の効果】
【0014】
上記各請求項に記載の発明によれば、光学フィルターを使って分光するようにしたため回折格子を使って分光する場合に比べて、小型化が可能でかつ測定光量が減衰しにくいため精度の高い測定が可能な分光分析装置を提供することができる。
また液体電極プラズマと上記分光分析装置を組み合わせることで、小型で精度の高い元素分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における実施の形態の液体電極プラズマを用いた元素分析装置の構成のイメージ図。
【図2】実施の形態において液体電極プラズマ発生装置の概略を説明する断面図。
【図3】実施の形態において測光部の概略を説明する説明図。
【図4】実施の形態において算出部の概略を説明する説明図。
【図5】鉛を含むサンプル試料について得られるプラズマ光の波長とその強度を示すグラフ。
【図6】第1〜第3の色ガラスの可視光透過特性を示すグラフ。
【図7】実施例1の第1及び第2のBPFの可視光透過特性を示すグラフ。
【図8】実施例2の可視光反射膜反射特性を示すグラフ。
【図9】実施例1の縦軸を光の強度とし横軸を濃度とした透過特性グラフ。
【図10】実施例2の縦軸を光の強度とし横軸を濃度とした透過特性グラフ。
【図11】従来例の縦軸を光の強度とし横軸を濃度とした透過特性グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態として例えば図1に示すような構成の元素分析装置11を示す。元素分析装置11は光源部12、分光分析装置である測光部13及び算出部14から構成されている。本実施の形態の光源部12は具体的には図2に示すようなプラズマ発生装置15を備えている。プラズマ発生装置15は絶縁性材料からなるベース16上に通路17が形成された絶縁性材料からなるチップ18を重ね合わせることで基本的な外形が構成される。通路17は中央に周囲よりも極端に断面積の小さな狭小部19を備えている。通路17の端部には一対の電極20が通路内に挿入されている。通路18内には分析される試料が溶解した導電性液体が収容されている。本実施例では導電性液体用の電解質として硝酸が使用されている。
このような構成のプラズマ発生装置15では電極20に所定の電圧を印加することで、狭小部19に電流と電界が集中し発生する気泡中にプラズマが発生する。プラズマ光は試料中の目的元素のスペクトルを含む。
【0017】
本実施の形態の測光部13は具体的には図3に示すような筐体21に保持された光学系と検出用素子22,23から構成されている。光学系は集光光学系25と分光光学系26から構成されている。集光光学系25は集光レンズ27とその前方に配置されたコリメートレンズ28から構成されている。分光光学系26はコリメートレンズ28の前方に配置されている。分光光学系26は3枚の第1〜第3の色ガラス29〜31と、一対のプリズム32a,32bと、プリズム32a,32bに挟持されたハーフミラー33とプリズム32a,32bの出射面に貼着された一対の第1及び第2のバンドパスフィルター(以下、BPFとする)35,36から構成されている。第1及び第2のBPF35,36はベースプレート37に蒸着によって成膜されている。
図3に示すように、入射された測定光は集光光学系25によって平行化され、基本的には第1のBPF35方向に直進する。そして、ハーフミラー33によって透過光量の半分が反射され第2のBPF36方向に直進する。第1及び第2のBPF35,36のそれぞれの光軸p1,p2は直交関係にある。
第1及び第2の検出用素子22,23はフォトダイオードから構成されており、第1及び第2のBPF35,36のそれぞれを透過してくる測定光の強度を検出する。
【0018】
第1〜第3の色ガラス29〜31は測定光を第1及び第2のBPF35,36に到達するまでにある程度の帯域の波長光に絞る目的で配置される。つまり、所定の波長光を吸収し所定の波長光を透過させる作用をする光学フィルターである。第1〜第3の色ガラス29〜31の枚数は適宜変更可能である。
第1のBPF35は目的元素のスペクトルを含むより狭い帯域の波長光に対する透過特性を有する干渉フィルターである。第2のBPF36は第1のBPF35に対して特性が若干ずれた同様に狭い帯域の波長光に対する透過特性を有する干渉フィルターである。
第1の検出用素子22によって第1のBPF35を透過した目的元素及びバックグラウンド光の強度が検出され、第2の検出用素子23によってバックグラウンド光の強度が検出される。第1の検出用素子22で得られた測定値と第2の検出用素子23で得られた測定値との差を取ることでバックグラウンド光が概ねキャンセルされることとなる。
【0019】
本実施の形態の算出部14は図4に示すように演算部38と出力部39から構成されている。演算部38はCPU(中央処理装置)や記憶装置及びその周辺装置によって構成されている。CPUは各種プログラムや入力された検出データに基づいて光強度を数値化するとともに、第1及び第2の検出用素子22,23のデータの差から数値の補正を行う。また、得られた数値に基づいて出力部39に所定の出力動作を実行させる。出力部39は例えばモニターやプリンターが挙げられる。
本実施の形態の元素分析装置11では次のような効果を奏する。
(1)従来の液体電極プラズマを用いた元素分析装置11のように精度を上げるための焦点距離を長くする必要がなく、装置の小型化が容易である。
(2)複数の光学フィルター(第1〜第3の色ガラス29〜31、第1及び第2のBPF35,36)を使用することによって非常に狭いスペクトルに対応した領域の光のみを透過させて検出することが容易に可能となる。
(3)バックグラウンド光を得るためにハーフミラー33によって測定光を二分できるため、バックグラウンド光の補正が処理が容易である。
(4)干渉フィルターである第1及び第2のBPF35,36に入射する光線をコリメートレンズ26によって平行化できるため、測定光が第1及び第2のBPF35,36に直交することとなって測定光が傾くことによる透過率が変化が生じにくい。
(5)ハーフミラー33はプリズム32a,32bに挟持させるようにしているため、ハーフミラー33配置作業においてハーフミラー33を正確な角度(つまり光軸p1,p2が直交するように)に配置することが容易となり、また、プリズム32a,32bに挟持させるようにしているためハーフミラー33に歪みが発生することがない。
(6)干渉フィルターの半値幅、中心波長は光の入射角度にあわせて、調整しているため、検出光量を大きくすることができ、測定精度が高い。
【0020】
上記のような構成の元素分析装置11において目的元素を鉛(Pb)とした場合の実施例を以下に説明する。
図5は鉛を含むサンプル試料についてプラズマ発生装置15によって得られるプラズマ光の波長とその強度を示すグラフである。鉛のスペクトルは405.78nmであるためこの付近の光の強度が顕著に大きい。
このようなプラズマ光を分光分析装置11によって分析した。
(実施例1)
実施例1で使用した第1〜第3の色ガラスA〜Cは図6の特性グラフに示す通りである。図6は縦軸を透過率とし横軸を波長とした透過特性グラフである。第1の色ガラスAは主として300nm〜500nm付近の透過率が高く、500nm付近から700nm付近を全く透過させない(反射させる)特性を与えた肉眼による外観目視として青味がかったガラスである。第2の色ガラスBは主として300nm〜650nm付近の透過率が高く、750nm付近から可視域長波長側を全く透過させない特性を与えた肉眼による外観目視として水色がかったガラスである。第3の色ガラスCは主として380nm付近から可視域長波長側の透過率が高く、380nm付近から可視域短波長側を全く透過させない特性を与えた肉眼による外観目視としてほとんど透明なガラスである。これらの特性はガラスに添加した染料の特性に由来する。
この第1〜第3の色ガラスA〜Cを組み合わせることで、可視域における透過帯域が図6に示すように380nm〜500nm付近のみの可視光のみに絞られることとなる。
尚、この設定は一例であるため同じ目的元素や異なる目的元素であっても異なる特性とすることが可能である。
【0021】
実施例1で使用した第1及び第2のBPFは図7の特性グラフに示す通りである。図7は縦軸を透過率とし横軸を波長とした透過特性グラフである。実線で示す第1のBPFは半値幅1.5nmでピーク値の透過率が73%(405.4nm)の透過特性とした。破線で示す第2のBPFは半値幅0.6nmでピーク値の透過率が56%(401.8nm)の透過特性とした。第1及び第2のBPFは380nm〜500nmの間にはこれ以外のピークはない。尚、この設定は一例であるため同じ目的元素や異なる目的元素であっても異なる特性とすることが可能である。
この実施例1について第1及び第2のBPFのそれぞれを透過してくる光の強度を検出し、バックグラウンド光について補正した結果を図9に示す。
【0022】
(実施例2)
実施例2では実施例1と同様に図6の特性の第1〜第3の色ガラスA〜Cを使用した。一方、第1及び第2のBPFは図8の特性グラフに示す通りである。実線で示す第1のBPFは半値幅3.8nmでピーク値の透過率が60%(406.6nm)の透過特性とした。破線で示す第2のBPFは実施例1と同じ半値幅0.6nmでピーク値の透過率が56%(401.8nm)の透過特性とした。第1及び第2のBPFは380nm〜500nmの間にはこれ以外のピークはない。
この実施例2について第1及び第2のBPFのそれぞれを透過してくる光の強度を検出し、バックグラウンド光について補正した結果を図10に示す。
【0023】
上記実施例1と実施例2について、従来の分光器を使用した液体電極プラズマを用いた元素分析装置による分析結果(図11)と比較する。
図9〜図11は縦軸を光の強度とし横軸を目的元素(鉛)の濃度とした透過特性グラフである。図9及び図10に示すように濃度に対して光の強度は正比例し、かつ同じ濃度であれば実施例は従来に較べて1000倍ほどのオーダーでの強度を得ることが可能となっている。
【符号の説明】
【0024】
11…液体電極プラズマを用いた元素分析装置、15…液体電極プラズマ発生装置、25…集光光学系、29〜31…光学フィルターとしての第1〜第3の色ガラス、35…光学フィルターとしての第1のBPF、36…光学フィルターとしての第2のBPF。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の帯域の波長光のみを特異的に透過させるための1又は2以上の光学フィルターと、検出部とを備え、前記光学フィルターを透過させた光を前記検出部に検出させた検出値に基づいて同光学フィルターの透過特性に対応する特有の元素のスペクトルの定性分析あるいは定量分析を行うことを特徴とするプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項2】
前記プラズマ発光用分光分析装置は、集光光学系を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項3】
前記集光光学系はコリメートレンズを有することを特徴とする請求項2に記載のプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項4】
前記光学フィルターは求める帯域を含む所定範囲の波長光に透過性を有するサブ光学フィルターと、当該所定範囲において求める帯域の波長光に特化した狭い範囲の透過性能を有するメイン光学フィルターから構成されていることを特徴とする請求項1〜3に記載のプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項5】
前記光学フィルターの全てあるいは一部は干渉フィルターであることを特徴とする請求項1〜4に記載のプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項6】
前記干渉フィルターは、その中心波長が特有のスペクトルに対して長波長側に1nm以下シフトさせてあり、その半値波長幅が1.5nm以下であり、また光の入射角度が5度以下であることを特徴とする、請求項5に記載のプラズマ発光用分光分析装置
【請求項7】
前記集光光学系から入射された光はビームスプリッターによって少なくとも第1及び第2の方向に振り分けられ、第1の方向の光に基づいて第1の光学フィルターによって光強度を測定するとともに、第2の方向の光に基づいて第2の光学フィルターによって別の波長帯域の光強度を測定することを特徴とするプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項8】
前記ビームスプリッターはプリズムに挟持されていることを特徴とする請求項7に記載のプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項9】
液体電極プラズマをプラズマ発光源とすることを特徴とする請求項1〜8に記載のプラズマ発光用分光分析装置が組み込まれた元素分析装置。
【請求項10】
バックグラウンド光の強度をリファレンスとし、目的とする光の強度を補正することを特徴とする解析手法を組み込んだ請求項9に記載の液体電極プラズマを用いた元素分析装置。
【請求項1】
任意の帯域の波長光のみを特異的に透過させるための1又は2以上の光学フィルターと、検出部とを備え、前記光学フィルターを透過させた光を前記検出部に検出させた検出値に基づいて同光学フィルターの透過特性に対応する特有の元素のスペクトルの定性分析あるいは定量分析を行うことを特徴とするプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項2】
前記プラズマ発光用分光分析装置は、集光光学系を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項3】
前記集光光学系はコリメートレンズを有することを特徴とする請求項2に記載のプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項4】
前記光学フィルターは求める帯域を含む所定範囲の波長光に透過性を有するサブ光学フィルターと、当該所定範囲において求める帯域の波長光に特化した狭い範囲の透過性能を有するメイン光学フィルターから構成されていることを特徴とする請求項1〜3に記載のプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項5】
前記光学フィルターの全てあるいは一部は干渉フィルターであることを特徴とする請求項1〜4に記載のプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項6】
前記干渉フィルターは、その中心波長が特有のスペクトルに対して長波長側に1nm以下シフトさせてあり、その半値波長幅が1.5nm以下であり、また光の入射角度が5度以下であることを特徴とする、請求項5に記載のプラズマ発光用分光分析装置
【請求項7】
前記集光光学系から入射された光はビームスプリッターによって少なくとも第1及び第2の方向に振り分けられ、第1の方向の光に基づいて第1の光学フィルターによって光強度を測定するとともに、第2の方向の光に基づいて第2の光学フィルターによって別の波長帯域の光強度を測定することを特徴とするプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項8】
前記ビームスプリッターはプリズムに挟持されていることを特徴とする請求項7に記載のプラズマ発光用分光分析装置。
【請求項9】
液体電極プラズマをプラズマ発光源とすることを特徴とする請求項1〜8に記載のプラズマ発光用分光分析装置が組み込まれた元素分析装置。
【請求項10】
バックグラウンド光の強度をリファレンスとし、目的とする光の強度を補正することを特徴とする解析手法を組み込んだ請求項9に記載の液体電極プラズマを用いた元素分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−197358(P2010−197358A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45978(P2009−45978)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名: 日本経済新聞社 刊行物名: 日経産業新聞 平成20年9月2日付朝刊 第16面 研究集会名:第69回応用物理学会学術講演会 主催者名: 社団法人応用物理学会 開催日: 2008年9月5日 博覧会名: 2008 分析展 主催者名: 社団法人日本分析機器工業会 開催日 : 2008年9月3日〜5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【出願人】(506314841)株式会社マイクロエミッション (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名: 日本経済新聞社 刊行物名: 日経産業新聞 平成20年9月2日付朝刊 第16面 研究集会名:第69回応用物理学会学術講演会 主催者名: 社団法人応用物理学会 開催日: 2008年9月5日 博覧会名: 2008 分析展 主催者名: 社団法人日本分析機器工業会 開催日 : 2008年9月3日〜5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【出願人】(506314841)株式会社マイクロエミッション (3)
【Fターム(参考)】
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