説明

分光放射分布の調整が可能な光源装置

【課題】第一には所望の分光放射分布の波長領域の分光強度を他の領域へ影響を及ぼすことなく調整ができると共に、急峻な分光強度の変化特性にも対応できる光学機構を備えた光源装置を提供すること、更には光源ランプのスペクトル特性の器差や経年変化があってもそれを補正することができる光源装置を提供することにある。
【解決手段】本発明の分光放射分布の調整が可能な光源装置は、所望の分光放射分布に光源装置からの出力光の分光放射分布を一致させる手段として光源と光学素子が組み合わされたものにおいて、単数または複数の特定波長帯域を透過または反射する斜入射多層膜ミラーを使用して光源からの該特定波長帯域を該斜入射多層膜ミラーの反射、透過により除去する手段と、これに新たに用意した光量が調整された光を前記斜入射多層膜ミラーで透過、反射により合波する手段を備え、前記特定波長帯域の光を適度に補うことにより光源装置の出力光の分光放射分布の調整を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の波長帯城での分光放射分布を光学素子を使用して、所望の分光放射分布を容易に得る光源装置、特に疑似太陽光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源として所望の分光放射分布を持ったものが求められる場合がある。例えば、太陽電池の発電効率を評価する際に用いられるソーラーシミュレーターにおいて、太陽電池表面に照射し太陽電池の性能を評価するための人工太陽光源が用いられている。この光源装置に求められる機能は地上に照射される太陽光と同じ分光放射分布を持ち、照度が一定かつ太陽電池表面で均一に安定していることである。特許文献1(特許第1788805号)には、綜合スペクトル分布特性の均一性や再現性も実用上十分に高く、しかも比較的小型で安価な擬似太陽光照射装置を提供することを目的とした「疑似太陽光照射装置」が提案されている。この目的を達成するために、この発明は、図9に示されるようにキセノン短アークランプ1の発光スペクトルから近赤外成分を除去し、かつ白熱フイラメントランプ10の発光スペクトルから近赤外成分を抽出する単一のフイルタ手段5(赤外線透過型コールドミラー)を設け、近赤外成分を除去されたキセノン短アークランプ1からの発光、および白熱フイラメントランプ10からの発光のうち、前記フイルタ手段5によつて抽出された近赤外成分を、単一の積分光学系に共軸的に入射させるように構成する構造を採用している。図中7は被照射体への投影光学系、8は吸熱機そして9は被照射体となる太陽電池である。要するに、この発明は異なる光源を用い、短波長域の光は一方の光源からの光を長波長域の光は他方の光源からの光を用いるように組合わせて光源装置として所望のスペクトルを持たせようという技術的思想である。
【0003】
しかし、この疑似太陽光照射装置の分光特性は出願当時のニーズに対応したもので、現在のニーズには十分とはいえないものであるため、現状では図8に示すように2つの光源にはキセノンランプ1とハロゲンランプ2を用い、それぞれの光源について補正フィルター3,4を介在させて出力光がより太陽光の分光特性に近いものとなるようにして使用されているのが実状である。すなわち、出力される人工太陽光の可視域部分はキセノンランプ光源1と可視領域補正フィルター3を使用し、人工太陽光の近赤外域部分はハロゲンランプ光源2と近赤外領域補正フィルター4を使用している。ダイクロイックミラー5を用いてキセノンランプ光源1からの可視光を反射しハロゲンランプ光源2からの近赤外光を透過するようにし、それぞれからの反射、透過光を合波して地上における太陽光の分光特性に整合させて照射光としている。
【0004】
また、特許文献2には、スペクトル変換フィルターから出射される光のスペクトル分布が場所的に一様な光を出射することのできる光源装置、スペクトル変換フィルターから出射される光の照度が場所的に一様な光を出射することのできる光源装置を提供すること、また、太陽電池に照射後反射された光が再び太陽電池に照射されることを防止した擬似太陽光照射装置を提供することを目的とした「擬似太陽光照射装置」が提示されている。この発明は、長尺フラッシュランプと、長尺フラッシュランプの中心軸と同心円筒状に形成されたスペクトル変換フィルターとからなり、長尺フラッシュランプからスペクトル変換フィルタに入射する光の入射角を略0度にしたことを特徴としたものである。この光源装置は基本的に1つの光源(長尺キセノンフラッシュランプ)と1つのスペクトル変換フィルターを用いて太陽光に近いスペクトルの光を発生させ疑似太陽光照射装置としたものである。
【0005】
これらの人工太陽光源装置は使用する広波長域の光源から出力される光を太陽光の分光放射分布に分光特性を近づけるため、前述したように光学多層膜によるフィルター(エアマスフィルター)や、熱線吸収ガラスなどの光吸収を利用した色ガラスなどを使用し特定の波長帯域の光を減光し、目的とする分光放射分布に近づける補正を行うようにしている。この所望の分光放射分布とフィルター等の補正で得られた実際の出力光の分光放射分布の波長ごとの比率を合致度と呼び、最近の動きとして50nm幅毎に積算値を出し、合致度を±5%内に抑えることが要求されるようになってきている。地上に到達する太陽光スペクトルは図7Aのグラフから分かるように760nm近傍領域と900〜980nmの領域でエネルギーレベルが特異的に低くなっている。その原因は前者がエアロゾル層による光の吸収・散乱によるもの、後者は水蒸気分子による光吸収に起因するものである。このような分光特性を求められる精度で再現させるためには、特許文献2に示されるような可視光域から近赤外域まで1つのキセノンフラッシュランプを光源として用い、全領域の分光強度特性を1つのスペクトル変換フィルターで得るようにしたもので実現させることは困難である。また、先に示したキセノンランプとハロゲンランプの2光源を用いた最近の人工太陽光装置では、キセノンランプからの可視光は太陽光の可視域における分光強度分布に近く、そのまま簡単な分光透過特性をもつ補正フィルターを使用することで±5%の精度を満たすことができるのであるが、近赤外光については940nm付近の光量落ち込み特性を精度よく満たすことは補正フィルターを用いただけでは難しい。エアロゾル層に起因する760nm近傍領域の落ち込み特性は50nm幅に比べ帯域幅が狭いので太陽電池に照射した場合の影響は比較的小さいが、940nmを中心とする900〜980nmの領域の落ち込み特性はほぼ2区域に対応する帯域幅と広いため、この領域の特性精度が悪いと太陽電池に照射した場合の影響は大きいものとなる。したがって、人工太陽光源装置における940nmを中心とする900〜980nmの領域の波長特性の合致度は重要となる。しかし、多層膜フィルターによる分光透過率の調整は必要な部分だけを調整しようとしても調整の必要の無い波長領域の変化までも変化して影響が出てしまう場合が多い。また厳密に所望の分光透過率を変化させたフィルターを提供することもその製作精度の面から実現は難しい。色ガラスではガラスに含まれる金属イオンの吸収に依存しているため任意の分光特性の調整は不可能である。特に上記人工太陽光源において上記の近赤外域に存在する940nmを中心とする水蒸気に伴う吸収領域では両側の変化も急峻であり上記フィルターによる補正は容易ではない。
【0006】
また、ランプからの分光放射分布はランプ個体のバラツキ、また使用の経時的なその変化を伴うものであるため、製造時にはそれらを補正する際にはフィルターの特定の波長の透過率を常に厳密に調整する必要がある。しかし、従来のこの種の装置は製造時には±5%内の合致度が満たされていたとしても、経年変化によって、あるいはランプの交換によって±5%内の合致度が満たされなくなるという問題が生じる。光学多層膜によるフィルターの特性は一旦作成されたものの調整は難しく、現状ではフィルターの分光透過率を再設計により全く作り直す必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光源からの広波長域にわたる出力光を、所望の分光放射分布に近づけようとする際、従来は補正フィルターを新たに設計・作成し、合わせこむ作業を行っていたのであるが、この時、厳密な分光特性をもつフィルターの作成は前述したように困難を伴い、特に補正が難しい分光放射強度が急激に落ち込む波長部分を新たな補正量を持つフィルターで補正しようとすると他の波長部分に透過率の変動を生じたりするため、所望の分光放射分布をもつように設計されたフィルターの厳密な作成が困難であった。
そこで、本発明の課題は、上記のような問題を解決すること、すなわち、第一には所望の分光放射分布の波長領域の分光強度を他の領域へ影響を及ぼすことなく調整ができると共に、急峻な分光強度の変化特性にも対応できる光学機構を備えた光源装置を提供すること、更には光源ランプのスペクトル特性の器差や経年変化があってもそれを補正することができる光源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の分光放射分布の調整が可能な光源装置は、所望の分光放射分布に光源装置からの出力光の分光放射分布を一致させる手段として光源と光学素子が組み合わされた光源装置において、単数または複数の特定波長帯域を透過または反射する斜入射多層膜ミラーを使用して光源からの該特定波長帯域を該斜入射多層膜ミラーの反射、透過により除去する手段と、光量が調整された前記特定波長帯域の光を得る手段と、前記特定波長帯域が除去された光と前記光量が調整された特定波長帯域の光を斜入射多層膜ミラーで透過、反射により合波する手段とを備え、前記特定波長帯域の光を適度に補うことにより光源装置の出力光の分光放射分布の調整を可能とした。
また、本発明の分光放射分布の調整が可能な光源装置は上記の1つの形態として、前記特定波長帯域の光を得る手段には前記光源とは異なる光源を用い、光量の調整は該異なる光源への供給電力を調整するか、光路中に光量調整手段を介在させるようにした。
また、本発明の分光放射分布の調整が可能な光源装置は他の形態として、前記特定波長帯域の光を得る手段には透過/反射型ミラーによって除去された特定波長帯域の光を用い、光量の調整は光路中に光量調節手段をさせるようにした。
また、得られた出力光の分光放射分布を測定する手段と、該測定値を目的の分光放射分布と一致させるよう供給電力または光路中の光量調整手段に帰還を掛ける手段とを備え、自動的に分光放射分布を調整することを可能とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分光放射分布の調整が可能な光源装置は、所望の分光放射分布を得るためにフィルターの分光透過率を設計によって固定的に定めるものではなく、単数または複数の特定波長帯域を透過または反射する斜入射多層膜ミラーを使用して光源からの該特定波長帯域を該斜入射多層膜ミラーの反射、透過により除去した上で新たに光量が調整された前記特定波長帯域の光を得る手段からの光を合波する方式を採用したものであるから、他の波長領域への波及効果は皆無であり、特定波長帯域の特性だけを考慮して加える光量を調整するだけで特性を満たすことができる。しかも、帯域の両側で急峻な分光放射分布となっていても斜入射多層膜ミラーの帯域分離特性によってこれに対処できる。
また、前記特定波長帯域の光を得る手段に前記光源とは異なる光源を用いた形態では、光量の調整は該異なる光源への供給電力を調整するか、光路中に光量調整手段を介在させるだけの簡単な構成によって、簡便に目的の分光放射分布を持っ光源を実現することができる。
また、前記特定波長帯域の光を得る手段には透過/反射型ミラーによって除去された特定波長帯域の光を用いた形態では、新たな光源を準備することなく捨てていた光を有効利用するものであるから、コスト的に有利である。
また、得られた出力光の分光放射分布を測定する手段と、該測定値を目的の分光放射分布と一致させるよう供給電力または光路中の光量調整手段に帰還を掛ける手段とを備えたものは、経年変化や外乱によって出力光の分光放射分布に変化が生じても自動的に分光放射分布を調整することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】特定波長帯域を透過または反射する斜入射多層膜ミラーを使用して本発明の分光放射分布の調整の原理を説明する図である。
【図2】本発明の1実施形態を説明する図である。
【図3】本発明の異なる実施形態を説明する図である。
【図4】上記異なる実施形態の変形例を説明する図である。
【図5】本発明の実施例を説明する図である。
【図6】本発明の実施例の全体構成を説明する図である。
【図7】太陽光の分光分布、ハロゲンランプおよびキセノンランプの分光放射強度を示すグラフである。
【図8】現在使用されている疑似太陽光照射装置の構成を示す図である。
【図9】従来の疑似太陽光照射装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の分光放射分布の調整可能な光源装置を人工太陽光源に用いたときの調整動作原理について説明する。図1は750nmから1150nmの近赤外光の領域での本発明の基本構造を示す。この波長域の光源としてこの例ではハロゲンランプ2を用いる。ハロゲンランプ分光放射分布は図7Bに示すようななだらかな特性を持っている。これをこの波長領城について太陽光のスペクトルに整合させる必要がある。前述したように太陽電池に照射した場合の影響はエアロゾル層に起因する760nm近傍領域の落ち込み特性の影響は小さいが、940nmを中心とする900〜980nmの領域の落ち込み特性は影響が大きいものとなることに鑑み、940nm近傍領域についてのみ太陽光のスペクトルに整合させるものとする。図1に示すように光軸を互いに90°ずらせた位置に第1のハロゲンランプ2aと第2のハロゲンランプ2bを配置し、それぞれの光軸に対し45°傾斜させた斜入射多層膜ミラー6を配置する。この斜入射多層膜ミラー6の反射率特性は図1の右側のグラフに示すとおりである。第1のハロゲンランプ2aからの光は斜入射多層膜ミラー6により反射されるが、940nmを中心とした900nmから980nmの領域の光(以下940nm付近の光という。)は該斜入射多層膜ミラー6により透過され反射光からは除去される。斜入射多層膜ミラー6に対し逆の面から入射される第2のハロゲンランプ2bからの940nm付近の光は該斜入射多層膜ミラー6を透過されてハロゲンランプ2aの反射光に同一光軸で加えられ、それ以外の帯域の光は該斜入射多層膜ミラー6によって反射させられる。この第2のハロゲンランプ2bの光量は電力などで調節することにより第1のハロゲンランプ2aとは独立して調整が可能であるので、求められる940nm付近の光量、すなわち、900nmから980nmにわたる領域において光強度を50nm幅毎の積算値として捉えたとき、この領域はほぼ2区域にわたることになるが、太陽光特性との合致度を±5%内に収まるように調節することは新たに用意した光量として第2のハロゲンランプ2bの光量を調整することで容易に実現することが出来る。したがって、この機構によれば太陽光の940nm付近の分光強度にあわせ容易に調整できると共に、また、反射・透過特性から急峻な分光特性にも精度よく整合させることができる。すなわち、一方の第1のハロゲンランプ2aの光量(電力)を一定にしておき、問題帯域の光を一旦除去してしまい、他方の第2のハロゲンランプ2bからの同帯域の光量(電力)を調整することにより人工太陽光源の940nm付近の光量落ち込みに整合させる本発明の手法によれば、他の領域のへの影響を生じることはなく、所望の分光放射分布に容易に合わせることができる。
【0012】
また、異なる実施態様としては第2のハロゲンランプ2bの代わりにLED、LD、放電灯などを光源として使用し、その光源の光量を調整して940nm付近の特性を得るようにすることも可能である。
このようにして近赤外領域の疑似太陽光は作れるが、更に、図2に示されるようにこの光はキセノンランプ1からの光を補正フィルター3を介して作った可視光領域の疑似太陽光とダイクロイックミラー5によって合波して出力光とされる。すなわち、キセノンランプ1からの光はダイクロイックミラー5によって近赤外境域のものは透過し、可視光領域のものが反射される。ハロゲンランプ2からの光もダイクロイックミラー5によって近赤外境域のものは透過し、可視光領域のものが反射されるが2つの光源からの光は入射角が90°ずれているため、キセノンランプ1からの反射光とハロゲンランプ2からの透過光は合波されて出力光として用いられる。他方、キセノンランプ1からの透過光とハロゲンランプ2からの反射光は合波され除去光とされる。前記出力光は図示していない投影光学系を介して被照射体へ照射されることとなる。
【0013】
本発明の更なる実施形態としては新たに用意した光量のために異なる光源を用いず、ハロゲンランプ2の光から一旦除去した940nm付近の光の光量を所望量に減衰させた上で再度加えるという方式を採用することもできる。図3に示すように、具体的にはミラー10を組み合わせて戻してやることにより、新たに用意した光量として再利用するのである。このとき再利用光の光量はミラー10の反射率または光路に中性濃度フィルター(NDフィルター)や液晶板等の透過率可変手段11といった光量調整手段を挿入することで実現することができる。この時の光量調整手段による調整は複雑な波長に対応した特性調整は必要が無く全体的な光量調整であるから製作は容易である。
また、この変形形態として、ハロゲンランプ2の光を再利用する代わりに、可視光領域の光源であるキセノンランプ1から除去される近赤外領域の光から、940nm付近の光を抽出して新たに用意した光量として利用することもできる。
【0014】
図3に示した一旦除去した940nm付近の光の光量を所望量に減衰させた上で再度加えるという方式の実施形態では、940nm付近の光は斜入射多層膜ミラー6に再度戻されるまでの光路が他の波長域の光の光路より長くなる。このことは出力光を投影光学系を介して被照射体へ照射した場合、光源位置が異なることとなるため、被照射体面において照射光量が波長域によってバラツキが生じてしまうという問題を生じる。図4に示した実施形態はこの問題を考慮して光源位置に差ができないような構成としたものである。ハロゲンランプ2からの光は第1の斜入射多層膜ミラー6aに入射され、940nm付近の光は透過され、他の領域の光は反射される。双方の光は反射ミラー10によって90°光路を変更され、第2の斜入射多層膜ミラー6bに入射されるようにしてその光路を等しく調整する。940nm付近の光はその光路中に透過率可変手段11が挿入されるものとし、それによって光量の調整がなされる。第2の斜入射多層膜ミラー6bに入射された940nm付近の光は透過され、他の領域の光は反射されるが、この光は同じ光路に合波され、ダイクロイックミラー5へ入射される。他方キセノンランプ1からの光も補正フィルター3を介してダイクロイックミラー5に入射されて、可視光領域の疑似太陽光とよって合波して出力光とされる。
【0015】
また、更なる付加機能として得られた出力光の分光放射分布を測定する手段と、それによって測定された値を目的の分光放射分布と一致させる制御手段を備えたものを提示する。測定手段によって得られた出力光の分光放射分布を目的の分光放射分布と対比させ、特定波長域、例えば940nm付近の光の光量がずれていた場合、ハロゲンランプ2bの供給電力を調整するとか、または光路中の光量調整手段に帰還を掛ける手段とを備えることにより、経年変化や外乱によって出力光の分光放射分布に変化が生じても自動的に分光放射分布を調整することが可能である。
【実施例】
【0016】
次に本発明の1実施例を図5を参照しながら説明する。この実施例は図9に示した特許文献1(特許第1788805号)に示される2光源型のソーラーシミュレーターの構成を基礎として本発明を適用した例である。可視光領域の光源にキセノンランプ1を近赤外領域の光源には2つのハロゲンランプ2a,2bを用いる。光軸を互いに90°ずらせた位置に第1のハロゲンランプ2aと第2のハロゲンランプ2bを配置し、それぞれの光軸に対し45°傾斜させた斜入射多層膜ミラー6を配置する。第1のハロゲンランプ2aからの光は斜入射多層膜ミラー6により940nmを中心とした900nmから980nmの領域の光(以下940nm付近の光という。)が透過されて除去されるが、それ以外の波長域の光はダイクロイックミラー5に送られる。斜入射多層膜ミラー6に対し逆の面から入射される第2のハロゲンランプ2bからの940nm付近の光は該斜入射多層膜ミラー6を透過されてハロゲンランプ2aの反射光に同一光軸で加えられダイクロイックミラー5に送られるが、それ以外の帯域の光は該斜入射多層膜ミラー6によって反射され除去される。この第2のハロゲンランプ2bの光量は電力などで調節することにより第1のハロゲンランプ2aとは独立して調整が可能であるので、求められる940nm付近の光量、すなわち、900nmから980nmにわたる領域において光強度を太陽光特性との合致度を±5%内に収まるように調節することが出来る。他方キセノンランプ1からの光は補正フィルター3を介してダイクロイックミラー5に入射される。キセノンランプ1からの光はダイクロイックミラー5によって近赤外境域のものは透過し、可視光領域のものが反射される。ハロゲンランプ2からの光もダイクロイックミラー5によって近赤外境域のものは透過し、可視光領域のものが反射されるが2つの光源からの光は入射角が90°ずれているため、キセノンランプ1からの反射光とハロゲンランプ2からの透過光は合波されて出力光として用いられる。本実施例の出力光は投影光学系7を介して被照射体9へ照射されることとなる。
【0017】
次に示す実施例は、特定波長帯域の光を得る手段として、ハロゲンランプ2からの光ではなくキセノンランプ1からの光でダイクロイックミラー5によって一旦除去された近赤外光を利用する方式のものである。これを具体化した構成を図6に示す。この実施例で用いる斜入射多層膜ミラー6は前述のものとは異なり、特定波長領域すなわち940nm付近の光を反射させ、それ以外の領域の光を透過させる特性が逆のミラーである。基本的に可視領域の光をキセノンランプ1から、近赤外領域の光をハロゲンランプ2から得る光源装置である。まず、ハロゲンランプ2からの光は斜入射多層膜ミラー6に入射され、940nm付近の光は反射されて除去され、それ以外の領域の光は透過されてダイクロイックミラー5に入射される。この入射光はダイクロイックミラー5によって可視光領域の光は反射され、940nm付近の光が除かれた近赤外領域の光が透過され出力される。キセノンランプ1からの光はダイクロイックミラー5に入射されると、近赤外領域の光は透過され可視領域の光は反射されて出力光に加えられる。ダイクロイックミラー5によって反射されたハロゲンランプ2からの可視光領域の光とキセノンランプ1からのダイクロイックミラー5によって透過された近赤外領域の光は2つの反射ミラー10,10によって折り曲げられ斜入射多層膜ミラー6に入射される。そして、この光路中に透過率可変手段11を介在させ光量調整を行う。斜入射多層膜ミラー6に入射されたこの光は特定波長領域すなわち940nm付近の光を反射させ、それ以外の領域の光を透過させる。940nm付近の光はダイクロイックミラー5に入射され、この入射光はダイクロイックミラー5を透過することにより、出力光に加えられる。以上の動作によって本発明の光量が調整された特定波長帯域の光はキセノンランプ1からの光でダイクロイックミラー5によって一旦除去された近赤外光を利用するものとなる。合波された3領域の光が出力光となって、投影光学系7を介して被照射体9へ照射されることとなる。なお、光量調整は透過率可変手段11を用いずに反射ミラー10,10の反射率を調整するようにしてもよい。
先の実施例はハロゲンランプ2からの光を斜入射多層膜ミラー6を用いて、後の実施例はキセノンランプ1からの光からダイクロイックミラー5を用いて特定波長帯域の光を得ている。すなわち、本実施例では斜入射多層膜ミラー6やダイクロイックミラー5といった透過/反射型ミラーによって帯域項の取捨選択を行うものである。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の所望の分光放射分布を容易に得る光源装置は、本発明の手法による分光放射分布の調整は1領域に限らず、水蒸気に起因する940nm付近やエアロゾルに起因する760nm付近や1120nm付近の減衰特性など複数の波長領域の調整も可能である。また、太陽電池のシミュレーションに用いる疑似太陽光源装置として説明してきたが、これに限らず、ダイクロイックミラー、フィルターを組合わせて使用し、所望の分光放射分布特性を備えた光源装置を提供できるものである。
【符号の説明】
【0019】
1 キセノンランプ 2,2a,2b ハロゲンランプ
3 キセノンランプ用の補正フィルター 4 ハロゲンランプ用の補正フィルター
5 ダイクロイックミラー 6,6a,6b 斜入射多層膜ミラー
7 投影光学系 8 吸熱器
9 被照射体(太陽電池) 10 反射ミラー
11 透過率可変手段
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特公平4−241号公報 「疑似太陽光照射装置」平成4年1月6日公告
【特許文献2】特開2008−282663号公報 「光源装置および疑似太陽光照射装置」 平成20年11月20日公開

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の分光放射分布に光源装置からの出力光の分光放射分布を一致させる手段として光源と光学素子が組み合わされた光源装置において、単数または複数の特定波長帯域を透過または反射する斜入射多層膜ミラーを使用して光源からの該特定波長帯域を該斜入射多層膜ミラーの反射、透過により除去する手段と、光量が調整された前記特定波長帯域の光を得る手段と、前記特定波長帯域が除去された光と前記光量が調整された特定波長帯域の光を斜入射多層膜ミラーで透過、反射により合波する手段とを備え、前記特定波長帯域の光を適度に補うことにより光源装置の出力光の分光放射分布の調整を可能としたことを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記特定波長帯域の光を得る手段には前記光源とは異なる光源を用い、光量の調整は該異なる光源への供給電力を調整するか、光路中に光量調整手段を介在させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載された光源装置。
【請求項3】
前記特定波長帯域の光を得る手段には透過/反射型ミラーによって除去された特定波長帯域の光を用い、光量の調整は光路中に光量調節手段をさせるようにしたことを特徴とする請求項1記載された光源装置。
【請求項4】
得られた出力光の分光放射分布を測定する手段と、該測定値を目的の分光放射分布と一致させるよう供給電力または光路中の光量調整手段に帰還を掛ける手段とを備え、自動的に分光放射分布を調整することを可能とした請求項2または3記載された光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−33871(P2011−33871A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180632(P2009−180632)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000231475)日本真空光学株式会社 (9)
【Fターム(参考)】