説明

分割錠剤

【課題】高齢者が容易に分割可能であり、更に分割された各錠剤における薬量等のばらつきのより小さい分割錠剤の開発
【解決手段】錠剤の分割を容易にする少なくとも一本の割溝を有する分割錠剤であって、該分割錠は嵩密度が0.40g/cm以下である結晶セルロース又はセルロース誘導体を含み、かつ、割溝の深さが錠剤の厚みの40%以上であることを特徴とする分割錠剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は錠剤の分割を容易にする少なくとも一本の割溝を錠剤面に有する分割錠剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分割錠剤は,錠剤を均等に少なくとも2分割して、患者の服用量に応じて、調剤時に薬剤師または服用時に患者自身によって分割される錠剤であり,個々の患者に対する服用量管理を最適にし、処方の際の融通性を高めるために開発された。そのため、分割錠剤は通常、錠剤の分割を容易にするため錠剤面に、少なくとも一本以上の割溝を有する。現在の分割錠剤は,通常指で摘んで両手指でもって内側に力を加え分割するタイプ(例えば特許文献1等)と,錠剤を硬面に置き,指(主に親指)の腹を使って上から押圧することによって分割するタイプ(例えば特許文献2等)とに大きく分類することができる。
【特許文献1】特開平8−277218号
【特許文献2】特開昭61−289027号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
分割される錠剤には狭心症治療薬、血糖降下剤、抗不整脈剤など薬理作用の強い成分を含有する場合も多く見られる。従って、投薬量にばらつきが出ないように、分割錠剤の均一な分割は非常に重要な問題である。また、割溝に沿う分離面の凹凸の発生,端部の破片化または薄片化及び割溝以外の部分に生じる分割等が生じ無いようにすることも重要である。それを達成するために、例えば特許文献2のように、錠剤表面を中央部に向かって傾く2つの傾斜面を作り、該傾斜面の交差する線に沿って割溝を設け、角の欠落を防ぐために該表面の錠剤の縁を削いだ錠剤が開示され、実用化されている。それによって、上記の問題はかなり改善されているが、社会の高齢化が進み、高齢の患者に薬物が投与される機会が増えているので、高齢者が容易に分割可能であり、更に分割された各錠剤における薬量等のばらつきのより小さい分割錠剤の開発は益々重要になっている。
【0004】
即ち、分割錠剤には、
(1)高齢の患者でも容易に分割できるよう比較的小さな力で分割ができること(分割の容易性)、
(2)輸送中等の投薬以前段階における不慮の分割及び錠剤の外形に形成された縁部等の部分的破壊が起こらないこと(機械的安定性)、
(3)割溝に沿う分離面の比較的大きな凹凸の発生、端部の破片化または薄片化及び割溝以外の部分に生じる分割等による分割後の錠剤に、有効成分量のばらつきが生じないこと(分割の均一性)、
等が要求される。
有効成分の処方によっては製造された圧縮錠剤が極めて砕け易くもろいものである場合があり、その場合には、上記(1)〜(3)の要求を満たすことが更に難しくなる。
また、糖尿病薬等の高齢者が服用する薬剤の場合、現在市販の分割錠剤は分割の容易性という点では更なる改良が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、小粒の分割錠であっても、高齢者または虚弱者が容易に分割でき、かつ、上記機械的安定性及び分割の均一性をも満たす分割錠を開発すべく種々検討の結果、分割錠に、添加剤として特定の嵩密度を有する結晶セルロース又はセルロース誘導体を使用することにより、深い割溝で分割を容易にすると共に、深い割溝でも成形性及び機械的安定性を担保でき、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち本発明は
(1) 錠剤の分割を容易にする少なくとも一本の割溝を有する分割錠剤であって、該分割錠は嵩密度が0.40g/cm以下である結晶セルロース又はセルロース誘導体を含み、かつ、割溝の深さが錠剤の厚みの40%以上であることを特徴とする分割錠剤、
(2) 錠剤の割溝を有する面が、割溝から最も遠い縁部から割溝に向かって割溝部分の錠剤の厚さが最も薄くなるように両側から傾斜し、両斜面の交差する線に沿って割溝があり、かつ両斜面の縁部を全周にわたって削いだことを特徴とする(1)に記載の分割錠剤、
(3) 該結晶セルロース又はセルロース誘導体の含量が錠剤の総量に対して10〜50%(質量)である(1)または(2)に記載の分割錠剤、
(4) 錠剤の表裏両面の対称の位置に、少なくともそれぞれ一本の割溝を有し、該対称の位置にある割溝の深さの合計が錠剤の厚みの40%以上となる(1)〜(3)の何れか1項に記載の分割錠剤、
(5) 錠剤の両面の割溝をつなぐ割溝を錠剤の側面に有する全周割溝錠である(4)に記載の分割錠剤、
(6) セルロース誘導体が嵩密度が0.20〜0.30g/cmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである(1)〜(5)の何れか1項に記載の分割錠剤、
(7) 結晶セルロースが嵩密度が0.10〜0.30g/cmである(1)〜(5)の何れか1項に記載の分割錠剤、
(8) 錠剤中に含有される薬効成分がグリメピリドである(7)に記載の分割錠剤、
に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の分割錠剤は従来のものに比して、割溝が深いにもかかわらず、製造時における錠剤不良(割れ錠の発生など)も少なく、容易に分割することができ、かつ、分割されたそれぞれの錠剤における質量のばらつきが小さいものであり、高齢者等の使用にも適するものであり、グリメピリドなどの糖尿病薬の分割錠剤に適するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を以下により詳しく説明する。
本発明における結晶セルロースとしては、嵩密度が0.40g/cm以下のものが好ましく、より好ましくは0.35g/cm以下のものであり、更に好ましくは0.30g/cm以下のものである。下限は、本発明の効果を達成する限り特に限定されないが現在市販のもので0.1g/cm 程度であり、本発明においてはこのような嵩密度の低い結晶セルロースの使用も可能であり、最も好ましい嵩密度は0.10〜0.25g/cmである。
結晶セルロースの平均粒子径は通常20〜90μmであり、本発明においては何れも使用可能である。より好ましい結晶セルロースの平均粒子径は通常20〜50μmである。
【0009】
本発明で使用する結晶セルロースは市場から入手可能であり、例えば、旭化成ケミカルズ株式会社より販売されている結晶セルロース、セオラス(登録商標)KG−802の他、セオラス(登録商標)KG−1000、セオラス(登録商標)PH−101、セオラス(登録商標)PH−102、セオラス(登録商標)PH−F20JP等といったものを挙げることができる。ここに挙げた商品は何れも、嵩密度が0.30g/cm 以下であり、本発明において何れも好適に使用できる。
本発明で好適に使用される嵩密度が0.30g/cm以下の結晶セルロースは、白色粉末、粒子の形状は微小塊状で不定形であり、この個々の粒子は、微細なセルロース結晶粒子の二次凝集物で、粒子内に多くの空隙を持っているといった一般的性質を有している。
本発明で使用する結晶セルロース、より好ましくは嵩密度が0.30g/cm 以下の結晶セルロース、特に嵩密度が0.10〜0.25g/cmの結晶セルロースの機能としては、粉粒体の圧縮成形性の改善、即ち塑性変形能に富み、優れた圧縮成形を示すこと、すなわち、少量添加で成形可能なため錠剤の小型化が容易であり、又、均一混合性、即ち異種粉体との均一混合性に優れ、主剤の分離・偏析の防止に貢献するといったことが挙げられる。
【0010】
本発明で使用する好ましいセルロース誘導体としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを挙げることが出来る。低置換度ヒドロキシプロピルセルロースはセルロースのピラノース環が持つ3つのOH基のごく一部をプロピレンオキサイドでエーテル化したセルロース誘導体である。本発明で使用する低置換度ヒドロキシプロピルセルロースのモル置換度は、通常0.1〜0.5程度であり、好ましくは0.2〜0.4程度である。医薬品の製造に幅広く使われ、崩壊性や結合性を兼ね備えた添加剤である。セルロース誘導体には、平均粒子径・嵩密度や機能特性の異なるいくつかのグレードがある。例えば、平均粒子径では20〜55μmの範囲があり、嵩密度では0.21〜0.48g/cmの範囲でグレードが分けられている。信越化学工業株式会社より販売されている低置換度ヒドロキシプロピルセルロースに限っても、LH−32の他、LH−11、LH−21、LH−22、LH−31、LH−B1等といったグレードを有する。
より好ましい低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの嵩密度は0.30g/cm以下のものであり、信越化学工業株式会社より販売されている低置換度ヒドロキシプロピルセルロースでは、LH−32及びLH−31等を挙げることが出来る。
本発明に用いられる嵩密度が0.40g/cm以下、好ましくは0.30g/cm以下の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、性状は白色で、好ましくは平均粒子径が20〜50μmの微粉末であり、水には不溶だが吸水して膨潤する性質がある。
本発明で使用する嵩密度が0.40g/cm以下、好ましくは0.30g/cm以下の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、通常は、吸水性を有することから崩壊剤として使用されるが、本発明においては、結晶セルロースと同様に乾式バインダーとしての機能を発揮することにより、通常より深い割溝でも輸送中での崩壊等は防がれると共に、分割したとき、質量のばらつきの少ない分割された錠剤を得ることができるものと思われる。
【0011】
本発明の分割錠剤は、添加剤として嵩密度が0.40g/cm以下、より好ましくは0.30g/cm以下の結晶セルロースあるいは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを使用することで、従来の製品と比較して、割溝が深くても成形性が良好で機械的安定性も高く、かつ、より均等に投薬量を正確に分割できるという特長を有している。
【0012】
本発明の分割錠剤における割溝の深さの割合は、錠剤の厚みの40%以上であることが好ましい。あまり深すぎると錠剤の製造時や輸送時での破損を起こす恐れがあるので、通常60%以内であることが好ましい。より好ましくは、40%より深く、50%以内の範囲であり、場合により40%より深く、45%以内の範囲である。なお、本発明における割溝の深さの割合(以下単に溝深割合ともいう)(%)は、錠剤の厚み(図1におけるg)(以下単に錠剤厚ともいう)から割溝部分における錠剤の厚み{割溝の底部から錠剤の底部までの厚さ(図1におけるh)、または両面割溝錠においては一方の割溝の底部から他方の割溝の底部までの厚さ}(以下単に溝部錠剤厚ともいう)を減じ、錠剤厚で除し、100を掛けて求められる値を意味する。即ち下記式(1)
溝深割合(%)=(錠剤厚−溝部錠剤厚)/(錠剤厚) ×100 (1)
で求めることができる。
溝の形状は特に問わないが、より均一に分割できように、V字型の溝が好ましい。V字型の溝における開きの角度(図1におけるb)は120度〜60度程度が好ましく、より好ましくは100〜80度程度である。最も好ましくは95〜85度程度である。
【0013】
本発明の分割錠剤における割溝の設けられている面の一つは、割溝の設けられている個所が最も錠剤の厚さが薄くなるように、割溝から最も離れた錠剤の両側の外縁から割溝に向かって傾斜しているのが好ましい。従って、割溝は両傾斜面の交差線に沿って設けられているのが好ましい。該傾斜した両面の開き角度(図1におけるaの角度)は、通常140〜170度程度、より好ましくは145〜155度程度である。
また、錠剤の表裏両面に割溝を設ける場合は、好ましくは、傾斜面を持つ錠剤面の割溝と、該割溝部分の錠剤の厚さの中心線を軸として対称になる錠剤の反対面に割溝を設けるのが好ましい。
【0014】
本発明の分割錠剤は、上記結晶セルロースあるいは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含み、割溝の深さの割合を従来より深くする以外は、従来の分割錠剤の製造法が適用できる。即ち、上記結晶セルロースあるいは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと共に、従来分割錠剤の調製に使用されている自体常套の添加物を含む組成物に、自体常套の調剤調製手段を適用することによって製造することができる。また、本発明の分割錠剤の製造方法は、特に従来法に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りいかなる方法で錠剤化されてもよい。通常の方法をより具体的に述べると、有効成分、結晶セルロースあるいは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび、必要に応じて、賦形剤、その他の添加剤を含む組成物を、常法により造粒し、顆粒とし、該顆粒を打錠し、素錠を得ることができる。造粒方法は、乾式造粒、湿式造粒の何れを使用してもよいが好ましいのは湿式造粒である。また、滑沢剤を用いる時は、造粒後の顆粒に、滑沢剤を配合し、打錠するのが好ましい。
【0015】
湿式造粒において用いられる液体としては通常水、有機溶剤−水混合溶液、アルコール等の有機溶剤等が使用されうるが、好ましいものはエタノール溶液若しくはエタノール水溶液である。エタノール溶液又はエタノール水溶液を使用するときには、エタノール濃度が10%(v/v)以上、好ましくは30%(v/v)以上、更に好ましくは45%(v/v)以上であることが好ましい。湿式造粒においては、色素及び医薬品有効成分を該液体に懸濁させ、懸濁液として、結合剤及びその他添加剤を含む組成物に、噴霧等の方法で添加して造粒しても、また、結合剤を該液体に溶解し、さらに医薬品有効成分をその溶液に懸濁させ、必要に応じて、更に色素を懸濁若しくは溶解させ、それらを含む結合剤溶液を得、該結合剤溶液を噴霧等の方法で、その他添加剤を含む組成物に添加して造粒してもよい。本発明においては後者の方が好ましい。後者の場合、該溶液に懸濁する色素、例えば黄色三二酸化鉄等は0.001〜1%(質量)、好ましくは0.1〜0.5%(質量)程度の濃度として使用するのが好ましい。該溶液に懸濁する医薬品有効成分は1〜50%(質量)、好ましくは1〜10%(質量)程度の濃度として使用するのが好ましい。また、該溶液に溶解する結合剤、例えばポリビニルピロリドン等は1〜50%(質量)、好ましくは1〜20%(質量)程度の濃度として使用するのが好ましい。
【0016】
添加剤としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤などの使用が普通であり、本発明においても適宜それらが使用される。本発明の分割錠剤は、上記したとおり、添加剤として前記結晶セルロース、または低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを使用する点に1つの特徴がある。該結晶セルロースの使用量は、最終的に得られる錠剤の質量に基づいて、通常約1〜80%(質量)(以下特に断らない限り同じ)、好ましくは5〜50%、より好ましくは10〜30%、更に好ましくは15〜30%である。最も好ましくは15〜25%である。
該結晶セルロースは主として、賦形剤の役目を果たし、本発明の効果を達成する役割を果たす。
前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの使用量は、最終的に得られる錠剤の質量に基づいて、通常約1〜80%、好ましくは5〜50%、より好ましくは5〜30%、更に好ましくは10〜25%である。
また、本発明で使用する前記結晶セルロース、より好ましくは嵩密度が0.30g/cm以下の結晶セルロースを使用したとき、必要に応じて、前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、より好ましくは嵩密度が0.30g/cm以下の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを併用することにより、より好ましい場合がある。この場合、該低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、本発明の効果によりよい効果を与えると共に、患者への投与後、崩壊剤として作用するものと思われる。
【0017】
本発明の分割錠剤は、有効成分、前記結晶セルロースあるいは前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースのほかに、加工性等を付与するための常套の添加剤が含まれる。それらとしては例えば必要に応じて乳糖のような炭水化物、ゼラチン化デンプン、コーン・スターチ、リン酸二カルシウム、砂糖、塩化ナトリウムなどを賦形剤、結合剤、嬌味剤及びその他の目的で追加、配合してもよい。特に好ましいのは、前記結晶セルロースと乳糖の併用であり、この場合本発明のよりよい効果が達成できる。乳糖の併用の場合、その配合量は通常30〜90%で有り、より好ましくは50〜87%である。更に好ましくは、60〜80%である。
【0018】
崩壊性および圧縮性付与のため、前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、より好ましくは嵩密度が0.30g/cm以下の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが使用できるほか、トウモロコシデンプン、部分α化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルボキシメチルセルロースナトリウム、二酸化珪素、無水リン酸水素カルシウム、クロスポピドン及び寒天などが挙げられる。通常これらのものから選択使用すればよく、本発明においては、カルボキシメチルスターチナトリウムを使用するのが好ましい。これらは一般的に崩壊剤と呼ばれる。該崩壊剤の使用量は、目的の錠剤に対して、約0.1〜20%、好ましくは1〜10%である。
【0019】
分割錠剤用の成型組成物には通常結合剤を含む。結合剤としては、通常使用されているものが何れも使用可能であり、それらから適宜選択使用すればよい。例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポピドン、デンプン、デキストリン、プルランなどを挙げることができる。本発明においてはポピドンの使用がより適している。結合剤の使用量は、約0.1〜10%、好ましくは1〜5%である。
滑沢剤としては、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖、食塩など、通常使用されているものから適宜に選択使用すればよいが、本発明においてはステアリン酸マグネシウムの使用が適している。滑沢剤の使用量は、約0.1〜5%、好ましくは0.5〜2%である。
【0020】
本発明の分割錠剤の分割方法は、特に限定されない。割線を平坦な面上に下向きにして指などで押さえることで分割することができる。さらに、本発明の分割錠がPTPに収容されている状態であっても、上記方法で本発明の分割錠を分割することもできる。
本発明における分割錠剤は、その用途または投与方法などを特に問わない。本発明における分割錠剤は、内服錠、発泡錠、調剤錠、チュアブル錠、口腔内速崩壊錠、トローチまたはバッカルもしくは舌下錠などの口腔錠などのいずれであってもよい。また、本発明における分割錠剤は、普通錠やコーティング錠の他に、マルチプルユニット錠、グラジュメット、ワックスマトリックス、レジネートまたはスパンタブなどの機能性錠剤であってもよい。
【0021】
本発明の分割錠剤に含有しうる有効成分の例としては、例えば中枢神経系用薬、末梢神経系用薬、循環器官用薬、消化器官用薬、ホルモン剤、泌尿生殖器官用薬、血液・体液用薬、代謝性医薬品、腫瘍用薬、アレルギー用薬、抗生物質、化学療法剤、ビタミン、診断薬及び麻薬・覚醒剤等から選ばれる1種または2種以上の活性成分が挙げられる。さらに具体的には、例えばアセチルスピラマイシン、アモキシシリン、イコサペント酸エチル、イトラコナゾール、オキサトミド、オロパタジン、グリメピリド、グリブゾール、グルタチオン、ケトフェニルブタゾン、コバマミド、シサプリド、トドララジン、トロピセトロン、ドンペリドン、バルプロ酸、ピリドキサール、フルオロウラシル、フルナリジン、フルラゼパム、ベニジピン、ミノサイクリン、メベンダゾール、メドロキシプロゲステロン、ユビデカレノン、レボドバ及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種または2種以上の活性成分が挙げられる。有効成分は、一般に、一錠中(一錠の質量を100質量部とする)、約0.01質量部以上90質量部以下の範囲で含まれる。本発明の分割錠は、好ましくは医薬品として用いられるが、食品、化粧品、農薬、動物用薬などに用いることもできる。
【0022】
本発明により、各種疾患に対する薬剤を、有効成分の標準的な単位経口投薬量を含有する分割錠剤として提供することができる。
本発明の分割錠剤は、主薬、前記結晶セルロースまたは前記セルロース誘導体(好ましくは前記低置換ヒドロキシプロピルセルロース)、好ましくは前記結晶セルロースに、薬学上許容される適当な賦形剤、流動化剤、結合剤、滑沢剤等を含む組成物を、公知の方法に準じて市販されている機器を使用し、打錠して、本発明の分割錠剤の素錠を製造し、必要に応じてコーティング等を施し、本発明の分割錠剤とすることができる。主薬の単位用量は1日投与量として1−4mgとなるように、患者の年齢、健康状態、体重、疾患の重篤度、同時に行なう治療・処置の種類や頻度、所望の効果の性質等により適宜決定することが可能である。
【0023】
好適な薬剤の1例として、例えば、グリメピリド錠などを挙げることができる。
以下、グリメピリドの分割錠剤について、より具体的に説明する。
グリメピリドの分割錠剤の場合、錠剤中におけるグリメピリドの含量は、錠剤に対して、通常0.1〜10%、好ましくは0.5〜7%、より好ましくは1〜5%である。グリメピリドの分割錠剤の場合、本発明で使用する結晶セルロースは何れも使用しうるが、嵩密度が0.10〜0.30g/cm、より好ましくは、0.10〜0.25g/cmである結晶セルロースが好適に使用しうる。このような結晶セルロースとしては旭化成ケミカルズ株式会社より販売されているセオラス(登録商標)KG−1000、KG−802及びセオラス(登録商標)PH−F20JP等が挙げられる。該分割錠剤における該結晶セルロースの含量は、前記本発明における結晶セルロース含量で良く、より好ましくは該錠剤に対して15〜25%である。また、本発明で使用する結晶セルロース以外の添加剤についても、前記本発明で説明したものがそのまま適用できる。即ちグリメピリドの分割錠剤の場合も、より好ましいのは該結晶セルロースと乳糖の併用である。この場合の乳糖の配合量も前記のものがそのまま適用でき、最も好ましいのは60〜80%である。残部がその他の添加剤である。その他の添加剤として好ましいものは、前記したカルボキシメチルスターチナトリウム及びポピドンが挙げられる。また、滑沢剤としてはステアリン酸マグネシウムが挙げられ、必要に応じて着色剤、例えば前記した黄色三二酸化鉄等を使用することができる。これらの錠剤中における含有量は何れも前記したものがそのまま適用できる。
【0024】
次に本発明における好ましい分割錠の形態を図面でより具体的に説明する。
図1は本発明の好ましい分割錠の具体例の一つの断面図であり、錠剤の1面に一本の割溝を有し、割溝の両側に傾斜面を有し、かつ錠剤の割溝のある面の外縁を削いだ分割錠の例を示す。図1の断面図は割溝を直角に横切る断面図である。 記号aは傾斜面の開き角度を示し、図1では150度、bは溝の開き角度を示し、図1では90度、cは外縁の削いだ角度を示し、30度の例である。cの外縁の削いだ角度は、外縁の欠落等を防ぐことのできる角度であれば特に限定されない。通常は20〜60度程度、好ましくは25〜50度程度である。dは削いだ高さを示し、通常は0.1〜0.5mm程度である。fは錠剤径を示し、通常5〜10mm程度、好ましくは5.5〜8.5mm程度であり、gは錠剤厚を示し、通常1.5〜4mm程度、好ましくは2〜3.5mm程度である。eは割溝の深さを示し、溝部錠剤厚(以下hとする、)は、錠剤厚(g)から割溝の深さ(e)を減じたもので、下記式(2)により求めることができる。
溝部錠剤厚(h)= 錠剤厚(g)− 割溝の深さ(e) (2)
【0025】
例えば、錠剤径fが6mm、溝の深さeが1mmの時、錠剤厚gは2.5mm以下とすることにより、前記式(1)から溝深割合を、40%以上とすることができる。また、錠剤径fが8mm、溝の深さeが1.27mmの時、錠剤厚gは3.17mm以下とすることにより、前記式(1)から溝深割合を、40%以上とすることができる。
図2〜4はそれぞれ、図1の錠剤の上からの表面図、下からの表面図(裏面図)及び図1に対応する面からの側面図である。これらの図面における各記号は何れも図1と同じ意味を表す。
【0026】
図5は錠剤の表裏両面に割溝を設けた場合の1例の、割溝を直角に横切る断面図である。便宜上割溝の両側に傾斜面を有する面を表面とする。記号は前記図1の場合と同じ意味を表す。このような錠剤は、錠剤が厚く、一面への割溝だけで溝深割合を40%以上にすることが難しい場合に好ましい。例えば、錠剤径fが6mm、表面の溝の深さeが1mm、錠剤厚gが3mmの場合には、そのままでは溝深割合は約33%まで低下するので、その場合には、溝部錠剤厚が1.8mm以下になるように、裏面に、溝の深さeが0.2mm以上の割溝を設けることで、溝深割合を40%以上とすることができる。
また、表裏両面に割溝を設けた場合、割れやすくするため、更に錠剤の側面に、表裏両面の割溝をつなぐ割溝を設け、全周割溝錠とする方がより好ましい。
以下本発明を実施例及び試験例により具体的に説明する。
【実施例】
【0027】
実施例1
1錠中の組成が、下記表1に示される割合になるように、常法により打錠用顆粒を得た。即ち、乳糖を流動層造粒機(マルチプレックス:FD-MP-01)に入れポビドンを水に溶解させた結合剤溶液を噴霧することで流動層造粒した。得られた造粒物に結晶セルロース及びカルボキシメチルスターチナトリウムを混合した後、最後にステアリン酸マグネシウムを追加して混合し、打錠用顆粒とした。
【表1】


得られた打錠用顆粒を打錠機(ロータリー式打錠機:PICCOLA B/10)で、上杵に割溝用の凸部、及び縁取り用凸部を有する杵を用いて、打錠して、図1〜4に示される本発明の分割錠剤を得た。得られた分割錠剤は、錠剤径(f)8mm、錠厚(g)3.17mm、溝の深さ(e)1.27mm、錠剤硬度6.4kgであった。この錠剤の溝深割合は約40.1%であった。
【0028】
実施例2
1錠中の組成が、下記表2に示される割合になるように、常法により打錠用顆粒を得た。実施例1と同様にポビドンの水溶液を結合剤溶液として乳糖を流動層造粒した。また、同様にして得られた造粒物に結晶セルロース及びカルボキシメチルスターチナトリウムを混合した後、最後にステアリン酸マグネシウムを追加して混合し、打錠用顆粒とした。
【表2】


得られた打錠用顆粒を打錠機(ロータリー式打錠機:PICCOLA B/10)で、上杵に割溝用の凸部、及び縁取り用凸部を有する杵を用いて、打錠して、図1〜4に示される本発明の分割錠剤を得た。得られた分割錠剤は、錠剤径8mm、錠厚3.10mm、溝の深さ1.27mm、錠剤硬度約9.7kgであった。この錠剤の溝深割合は約40.9%であった。
【0029】
比較例1
市販の錠剤径7mm、溝部錠厚2.33mm、錠厚2.99mmの、特許文献2に開示された分割錠剤(カラテ錠)と同様な形態の分割錠剤を入手した。
【0030】
試験例1 分割性の比較・評価
評価方法
ボランティア3名に錠剤10錠を1錠ずつ床に押し付けて分割させ、得られた半錠の質量を計測し、質量の均一性を評価した。その結果を下記に示す。
評価結果
半錠の平均質量に対する変動係数(%)
実施例1 3.32
実施例2 4.00
比較例1 12.29

上記の結果から、本発明の分割錠剤は、比較例に比して分割された半錠の均等性が著しく高いものであることが判る。
【0031】
実施例3
下記の処方を有するグリメピリド分割錠剤を実施例1と同様にして製造した。
【表3】


但し、本実施例においては、錠剤径(f)6mm、錠剤厚(g)2.5mm、溝の深さ1mm、錠剤硬度3.4kgの分割錠剤とした。
【0032】
実施例4
下記の処方を有するグリメピリド分割錠剤を実施例1と同様にして製造した。
本実施例においては実施例1と同じ、錠剤径(f)8mm、錠厚(g)3.17mm、溝の深さ(e)1.27mm、錠剤硬度4.9kgであった。
【表4】

【0033】
比較例2及び3
市販のグリメピリド1mg錠(分割錠剤)(比較例1)及びグリメピリド3mg錠(分割錠剤)(比較例2)を入手し、比較例とした。
該グリメピリド錠は、錠剤の両面平ら錠剤で、表面に1本の割溝有する分割錠剤であり、大きさ、割溝の深さ等は下記の通りである。

直径(f) 錠厚(g) 割溝の深さ(e)
1mg錠(比較例1) 6mm 2.2mm 約0.1mm
3mg錠(比較例2) 8mm 2.6mm 約0.3mm
【0034】
試験例2 分割性の比較・評価
評価方法
ボランティア3名に錠剤10錠を1錠ずつ床に押し付けて分割させ、得られた半錠の質量を計測し、質量の均一性を評価した。その結果を下記に示す。
評価結果
半錠の平均質量に対する変動係数(%)
実施例3 3.70
実施例4 3.95
比較例2 8.16
比較例3 9.97

上記の結果から、本発明の分割錠剤は、比較例に比して分割された半錠の均等性が著しく高いものであることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の分割錠剤の一つの断面図
【図2】図1の分割錠剤の上からの表面図。
【図3】図1の分割錠剤の下からの表面図。
【図4】図1の分割錠剤の側面図。
【図5】本発明の分割錠剤の一つの断面図。
【図6】図5の分割錠剤の上からの表面図。
【図7】図5の分割錠剤の下からの表面図。
【図8】図5の分割錠剤の側面図。
【符号の説明】
【0036】
a 傾斜面の開き角度を示す
b 割溝の開き角度を示す
c 外縁の削いだ角度を示す
d 削いだ高さを示す
e 割溝の深さを示す
f 錠剤径を示す。
g 錠剤厚を示す。
h 溝部の錠剤厚を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤の分割を容易にする少なくとも一本の割溝を有する分割錠剤であって、該分割錠は嵩密度が0.40g/cm以下である結晶セルロース又はセルロース誘導体を含み、かつ、割溝の深さが錠剤の厚みの40%以上であることを特徴とする分割錠剤。
【請求項2】
錠剤の割溝を有する面が、割溝から最も遠い縁部から割溝に向かって割溝部分の錠剤の厚さが最も薄くなるように両側から傾斜し、両斜面の交差する線に沿って割溝があり、かつ両斜面の縁部を全周にわたって削いだことを特徴とする請求項1に記載の分割錠剤。
【請求項3】
該結晶セルロース又はセルロース誘導体の含量が錠剤の総量に対して10〜50%(質量)である請求項1または2に記載の分割錠剤。
【請求項4】
錠剤の表裏両面の対称の位置に、少なくともそれぞれ一本の割溝を有し、該対称の位置にある割溝の深さの合計が錠剤の厚みの40%以上となる請求項1〜3の何れか1項に記載の分割錠剤。
【請求項5】
錠剤の両面の割溝をつなぐ割溝を錠剤の側面に有する全周割溝錠である請求項4に記載の分割錠剤。
【請求項6】
セルロース誘導体が嵩密度が0.20〜0.30g/cmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである請求項1〜5の何れか1項に記載の分割錠剤。
【請求項7】
結晶セルロースが嵩密度が0.10〜0.30g/cmである請求項1〜5の何れか1項に記載の分割錠剤。
【請求項8】
錠剤中に含有される薬効成分がグリメピリドである請求項7に記載の分割錠剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−208078(P2008−208078A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47061(P2007−47061)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000169880)高田製薬株式会社 (33)
【Fターム(参考)】