説明

分化中の胚幹細胞、成体幹細胞および胚生殖系細胞を細胞特異的および成長特異的に選択するためのシステム

【課題】胚幹細胞、胚生殖系細胞および成体幹細胞の分化中培養物それぞれからの、細胞の選択および抽出両方のための新規システムを提供する。
【解決手段】共通の細胞特異的かつ/または成長特異的なプロモーターの制御下にある(薬物)耐性遺伝子および検出可能レポーター遺伝子の組合せを用いて、分化中の胚幹細胞もしくは成体幹細胞、または胚生殖系細胞を、細胞特異的かつ成長特異的な様式で選択するためのシステムを開発した。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、検出可能な細胞非損傷性タンパク質の遺伝子および耐性遺伝子を含む、組換え胚幹細胞、胚生殖系細胞、および成体幹細胞、細胞の調製法、ならびにさらなる態様に関する。
【0002】
培養中、インビトロにおける分化中の胚幹細胞(ES)からの心筋発生は、不可逆的に損傷した心臓組織の置換療法における移植のための、無尽蔵な心筋細胞の供給源であると示唆された(Klugら、1996(非特許文献1))。このアプローチを実際に実行する上での主要な障害の1つは、分化したES由来心筋細胞の収率が比較的低いことであり、通常、分化中の全ES細胞集団の1%〜3%以下である(Muller M.ら、2000(非特許文献2))。
【0003】
さらに、依然として存在している非分化ESドナー細胞は、腫瘍成長に関するその後の分化段階におけるレシピエントに対して潜在的脅威を与える。したがって、効果的かつ高度に特異的な選択法を開発する目的とは、心臓疾患の細胞療法の道標になることであると考えられる。α-心臓ミオシン重鎖プロモーターにより制御されるリン酸アミノグリコシドトランスフェラーゼ(α-MHC-Neo)の薬剤耐性遺伝子の導入遺伝子により安定にトランスフェクトされた、遺伝子修飾されたES細胞から、心筋細胞に富む集団の選択に成功したことがすでに以前から実証されている(Klugら、1996(非特許文献1))。この研究によりさらに、このアプローチを大規模で効果的な手順に発展させることに関する潜在的問題が示された。
【0004】
a)効率性および技術的実行可能性の見地から、最適なアプローチとは、ES細胞-胚様体(胚様体=EB)凝集物の懸濁液に直接選択剤を適用することであると考えられるため、選択剤(G418)を用いた処理を、分化中のES細胞の接着培養物中で行なった(Wobusら、1991(非特許文献3))。
【0005】
b)レシピエント動物の心臓に、遺伝子的に選択した細胞を導入することに関するさらなる実験は、ドナー細胞に対して特異的な生存マーカーの非存在下における導入物の末路を実証するための研究により、著しく複雑になる。
【0006】
独国特許第A-19727962号(特許文献1)において、細胞非損傷性蛍光タンパク質をコードするDNA配列を含むDNA構築物により安定にトランスフェクトされた、非ヒト哺乳動物の胚幹細胞が記載されており、ここでDNA配列は、細胞依存的および/または成長依存的プロモーターの制御下にある(Kolossovら、1998(非特許文献4))。このような組換えES細胞は、以下の欠点を示す。
【0007】
1. 特定の細胞型は、インビトロにおいてこの方法により提供されうるが、それにも関わらず、生きている染色細胞を精製することは困難である。一方で、これは、関心対象の細胞(例えば心筋細胞)が、EB内で産生される細胞の約1%〜3%を占めるにすぎないという事実により説明できる。他方で、細胞精製法(例えば、蛍光活性化細胞選別法、FACS)は、免疫細胞に理想的に適している。しかし、例えば心筋細胞の精製の際、多くの細胞が消滅するか、不可逆的な損傷を受ける。
【0008】
2. さらに、播種されたEBにおけるハイグロマイシン精製法を用いると、非ハイグロマイシン耐性細胞を除去することは、選択の7日後〜14日後でさえ困難であることが判明した。前もって選択マーカーとしてハイグロマイシンを使用したにもかかわらず、腫瘍が生じた。これは、ネオマイシンによる選択でも同様に起こった。
【特許文献1】独国特許第A-19727962号
【非特許文献1】Klug,M.G., Soonpaa,M.H., Koh,G.Y., and Field,L.J. (1996). Genetically selected cardiomyocytes from differentiating embryonic stem cells form stable intracardiac grafts. J Clin. Invest. 98, 216-224.
【非特許文献2】Muller M, Fleischmann B.K., Selbert S, Ji G.J., Endl E, Middeler G, Mueller OJ, Schlenke P, Frese S, Wobus AM, Hescheler J, Katus, H. A., and Franz, W. M. Selection of ventricularlike cardiomyocytes from ES cells in vitro. FASEB J. 2000. Ref Type: In Press
【非特許文献3】Wobus,A.M., Wallukat,G., and Hescheler,J. (1991). Pluripotent mouse embryonic stem cells are able to differentiate into cardiomyocytes expressing chronotropic responses to adrenergic and cholinergic agents and Ca2+ channel blockers. Differentiation. 48, 173-182.
【非特許文献4】Kolossov,E., Fleischmann,B.K., Liu,Q., Bloch,W., Viatchenko-Karpinski,S., Manzke,O., Ji,G.J., Bohlen,H., Addicks,K., and Hescheler,J. (1998). Functional characteristics of ES cellderived cardiac precursor cells identified by tissue-specific expression of the green fluorescent protein. J Cell Biol 143,2045-2056.
【発明の開示】
【0009】
本発明の目的は、胚幹細胞、胚生殖系細胞および成体幹細胞の分化中培養物それぞれからの、細胞の選択および抽出両方のための新規システムを提供することであり、これは、上記の問題を回避するものである。本出願に記載された、選択方法、細胞、ならびに特に医学分野における細胞および方法の使用の組合せを、「システム」として理解されたい。この目的は、請求項1記載の胚幹細胞、胚生殖系細胞および成体幹細胞により達成される。本発明の好ましい態様は、請求項1以降の請求項に記載されている。
【0010】
本発明は、共通の細胞特異的および/または成長特異的なプロモーターの制御下で、(薬物)耐性および検出可能なレポーター遺伝子を組合せて適用することにより、分化中の胚幹細胞、胚生殖系細胞および成体幹細胞を細胞特異的および/または成長特異的に選択するためのシステムを開示する。
【0011】
本発明を、まず概説し、続いて、2種類のベクターでトランスフェクトした分化中の胚幹細胞培養物からの心臓細胞の遺伝子的選択に基づく例を用いて説明する。本発明は、これらの特定の態様には限定されないが、3つ全ての胚葉由来細胞型、すなわち内胚葉、中胚葉および外胚葉、ならびに、幹細胞および生殖系細胞の多分化能によりそれらから誘導される細胞それぞれに適用されうることに留意されたい。当業者は、以下の記載および一般的な知見を参照して、添付の特許請求の範囲の範囲内で本発明を変更できる。
【0012】
本発明によると、例えば検出可能な細胞非損傷性タンパク質をコードする少なくとも1つの検出可能なレポーター遺伝子および少なくとも1つの耐性遺伝子に関する情報を、胚幹細胞、胚生殖系細胞および成体幹細胞に導入する。両遺伝子に関する情報は、1つのベクター上で得られてもよく、または2つのベクターに分配されていてもよい。例えば蛍光の、検出可能なタンパク質に関する遺伝子、および、耐性に関する遺伝子の発現が同一のプロモーターの制御下にあることが重要である。
【0013】
本発明によると、プロモーターは、細胞特異的プロモーターおよび成長特異的プロモーターより選択される。細胞特異的プロモーターおよび組織特異的プロモーターとはそれぞれ、特定の細胞集団および組織それぞれにおいて活性であるプロモーターを意味する。例えば、神経細胞、内皮細胞、骨格筋細胞、平滑筋組織の細胞、および、ケラチノサイトがそれに属する。特に好ましいのは、心筋細胞である。
【0014】
組織特異的プロモーターのさらなる例とは、グリア細胞、造血細胞、神経細胞、好ましくは胚神経細胞、内皮細胞、軟骨細胞、または上皮細胞、および、インスリン分泌β細胞において活性であるプロモーターである。「組織特異的」とは、「細胞特異的」という用語に包含される。
【0015】
心臓特異的プロモーターの例とは、Nkx-2.5(最初期心筋細胞および中胚葉前駆細胞にそれぞれ特異的(Lintsら、1993))、ヒト心臓α-アクチン(心臓組織に特異的(Sartorelliら、1990))、MLC-2V(心室心筋細胞に特異的(O'Brienら、1993)および国際公開広報第A-96/16163号である。
【0016】
非心臓特異的プロモーターのさらなる例とは、PECAM1、FLK-1(内皮)、ネスチン(神経前駆細胞)、チロシンヒドロキシラーゼ-1プロモーター(ドーパミン作動性ニューロン)、平滑筋α-アクチン、平滑筋ミオシン(平滑筋)、α1-フェトプロテイン(内胚葉)、平滑筋重鎖(SMHC最小プロモーター(平滑筋に特異的(Kall-meierら、1995)))である。
【0017】
成長特異的プロモーターという用語は、成長中のある時点の際に活性であるプロモーターを意味する。このようなプロモーターの例とは、マウスの心室において胚成長中に発現され、出生前期にはα-MHCプロモーターに取って代わられるβ-MHCプロモーター、初期中胚葉/心臓成長中のプロモーターであるNKx2.5、後期成長段階でも下方制御されるペースメーカーを除いた初期胚心臓マーカーである心房ナトリウム利尿因子、初期血管形成の際に活性な内皮特異的プロモーターであるFlk-1、ニューロン前駆細胞(胚ニューロンおよびグリア細胞)および成体グリア細胞(部分的に分裂可能のままである)で発現されるネスチン遺伝子のイントロン2-セグメント(LothianおよびLendahl、1997)である。
【0018】
本発明によると、プロモーターは、遺伝子の転写を制御するDNA配列領域に関する。プロモーターは、1つの態様において、開始コドンの上流に位置する少なくとも1つの最小配列を含み、転写開始のためのRNAポリメラーゼ結合部位を含む。この最小配列を、さらなる機能的DNA区分、特にエンハンサーで補充することができる。また、イントロン領域に位置して、転写されるべき遺伝子の下流に位置してもよい、調節エレメントも適用できる。その場合、転写速度を、それ自体は活性を有さない、例えばその他のエンハンサーエレメントにより制御できる。また、それ自体は非構成性の活性エレメント(熱ショックタンパク質エンハンサー)を、イントロン由来の遺伝子のエンハンサーセグメントと共に利用した、プロモーター構築物も使用できる。
【0019】
本発明のさらなる態様において、例えば中胚葉細胞の選択を可能にする成長特異的プロモーターを使用する。耐性遺伝子の転写および検出可能なタンパク質の遺伝子の転写を制御する適用可能なプロモーターエレメントは、Nkx2.5、ANFおよびbrachyuriaプロモーターである。検出可能なタンパク質を発現する細胞(例えば中胚葉特異的プロモーターを使用した場合には、中胚葉細胞であり得る)を検出した後、耐性遺伝子にとって適切な選択剤を加え、中胚葉前駆細胞を選択する。検出可能なタンパク質遺伝子の転写、および共通のプロモーターエレメントにより制御される耐性遺伝子の転写によって、非分化細胞、例えば多分化能胚幹細胞を、高度に特異的な様式で排除でき、これにより、その後腫瘍が成長する可能性が非常に低くなる。このようにして得られた中胚葉細胞をそれぞれの組織に移植し、例えば予め損傷を受けた心臓領域の心臓細胞に移植した後、さらにそこで分化させることができる。一方、このアプローチにより、予め精製した大量の前駆細胞の作製が可能になり、かつ他方で、自然条件下において移植後さらなる分化が可能になる。
【0020】
同様の様式で、内胚葉特異的または外胚葉特異的なプロモーターを用いて内胚葉細胞または外胚葉細胞を選択できる。
【0021】
中胚葉細胞の例とは、全ての筋肉細胞型(心筋細胞、骨格筋細胞、および平滑筋細胞)、造血細胞、および内皮細胞である。外胚葉細胞の例とは、皮膚細胞、神経細胞およびグリア細胞であり、内胚葉細胞の例とは、消化管の上皮細胞である。
【0022】
上記の細胞型に特異的なプロモーター、ならびに、本発明による方法および本発明による細胞の使用により、それぞれ内胚葉、外胚葉、および中胚葉の細胞ならびに組織への高度に特異的な成長が起こり、ここで、同一プロモーターにより制御されるレポーター遺伝子および耐性遺伝子の発現により、一方では非分化多分化能胚幹細胞が、また他方ではその他の組織型も排除されるため、最大レベルの安全性が確実となる。
【0023】
本発明によると、レポーター遺伝子は、ある態様では蛍光タンパク質であるような、例えば検出可能な細胞非損傷性タンパク質をコードする。このような細胞非障害性蛍光タンパク質はそれ自体が既知の。本発明によると、クラゲのエクオレア・ビクトリア(Aequorea victoria)由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)(国際公開広報第A-95/07463号、国際公開広報第A-96/27675号、および国際公開広報第A-95121 191号に記載されている)およびその誘導体「青色GFP」(Heimら、Curr.Biol.6(2):178〜182(1996))および「赤色シフト(Redshift)GFP」(Muldoonら、Biotechniques 22(1):162〜167(1997))を使用できる。特に好適なのは、強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)である。さらなる態様は、黄色蛍光タンパク質およびシアン蛍光タンパク質(YFP、CFP)である。さらなる蛍光タンパク質も当業者には既知であり、細胞を損傷しない限り本発明に従って使用できる。蛍光タンパク質の検出は、それ自体が既知の蛍光検出法により行なわれる。
【0024】
蛍光タンパク質の代わりとして、特にインビボ適用では、その他の検出可能なタンパク質、特にそれらタンパク質のエピトープを使用することもできる。タンパク質自体は細胞を損傷し得るがそのエピトープは細胞を損傷しないような、タンパク質のエピトープも使用できる。好ましくはこれらは細胞表面上に局在するエピトープに関し、例えば、それぞれ抗体と組合せた蛍光標識法およびイメージング法(磁気粒子)により、簡単に検出できる。これらのタンパク質およびそのエピトープはそれぞれ、好ましくはインビボ適用のために、宿主に対して免疫的適合性となるように(これは拒絶を誘発しないことを意味する)選択される。また好ましくは、細胞内シグナルカスケードに連結されていないタンパク質のトランスジェニックエピトープ、特にCD8またはCD4の表面エピトープも適用される。さらなる例とは、受容体のエピトープである。本発明に記載のベクターでトランスフェクトした幹細胞および生殖系細胞それぞれからの分化および選択により得られた、細胞、例えば心臓細胞に存在しない、すなわち発現されていない、それぞれタンパク質およびそのエピトープに関するということが重要である。分化および選択した細胞、例えば心臓細胞においては発現されない任意のタンパク質、または、特異的に検出可能であり、よって選択した細胞には発現されていないトランスジェニックエピトープを使用できる。これらのタンパク質およびエピトープは、それぞれ細胞マーカー、細胞マーカー遺伝子またはレポーター遺伝子と呼ばれる。これらの検出可能なタンパク質およびエピトープそれぞれの検出は、例えば、これらの検出可能なタンパク質およびエピトープそれぞれに特異的に結合しかつ例えば蛍光を介した方法またはイメージング手順により同定できる抗体により、行われうる。例としては、それぞれ、抗CD8抗体または抗CD4蛍光接合型の細胞表面抗体および強磁性粒子接合型の抗体成分がある。最高純度を可能にするさらなる精製技術としては、細胞選別が適用可能である。すでに、選択剤、例えば抗生物質ピューロマイシンの添加後に所望の分化細胞を高度に濃縮しているので、MACS選別により99%までさらに細胞を精製できる。
【0025】
胚幹細胞または成体幹細胞および胚生殖系細胞は、本発明の好ましい態様において、胚様体として知られる凝集物の形状で入手可能である。図4は、胚様体を得るためのプロトコルを示す。調製は、好ましくは「懸滴」法またはメチルセルロース培養により行なう(Wobusら、Differentiation(1991)48、172〜182)。
【0026】
または、スピナーフラスコ(攪拌培養)を培養法として使用できる。このために、非分化ES細胞を攪拌培養物に導入し、確立された手順に従って永続的に混合する。そのために、10,000,000個のES細胞を、20%FCSを含む150ml培地に導入し、速度20rpmで絶えず攪拌するが、ここで、攪拌運動方向は規則的に変更する。ES細胞を導入した24時間後、血清を含む追加の培地100mlを加え、その上に、100ml〜150mlの培地を毎日交換する(Wartenbergら、2001)。これらの培養条件下で、培地の組成に応じて、大量のES細胞由来細胞、すなわち、心筋細胞、内皮細胞、ニューロン等を得ることができる。攪拌培養物中のままで、または播種後に、耐性遺伝子を用いて細胞を選択する。
【0027】
または、懸滴法で分化したEBを播種せずに、単に懸濁液中に保持していてもよい。これらの条件下でさえ、分化の進行を実験的に観察できる。しかし驚くべきことに、耐性遺伝子の適用によりより迅速な非心筋細胞の死滅がもたらされ、続いて、残りの心筋細胞が自発的に鼓動し始めることが示された。この実験的知見により、心筋細胞は、その生存のためには周辺組織からの特定のシグナルを必要としないこと、およびさらに、ピューロマイシンで選択した心筋細胞は機能的には無傷であることが、明らかに示される。単なる機械的混合、および低濃度の酵素(例えばコラゲナーゼ、トリプシン)の添加により、非心筋細胞を簡単に洗浄除去することで単一細胞懸濁液が得られるので、非心筋細胞の洗浄除去も明らかに容易になる。
【0028】
胚幹細胞は、哺乳動物に、特に好ましくはげっ歯類、例えばマウス、ラットまたはウサギに由来する。特に好ましいES細胞は、D3細胞(Doetschmannら、1985)(Doetschmannら、J.Embryol.Exp.Morphol.87、27(1985))、R1細胞(Nagyら、PNAS(1995))、E14細胞(Handysideら、Roux Arch.Develop.Biol.198、48(1989))、CCE細胞(Bradleyら、Nature 309、255(1985))(すでに既知であるか、または将来開発される予定の、その他のES細胞も当然使用できる)およびP19細胞(これらは特徴の少ない奇形癌腫由来細胞である)(Mummeryら、Dev.Biol.109、402(1985))である。
【0029】
さらに好ましい態様において、例えばThomson, J.A.ら、1995に記載されたように、霊長類の胚幹細胞も使用される。
【0030】
特に好ましい態様において、ヒト胚幹細胞を使用する。これらの胚幹細胞の調製はすでに確立されている(Thomson JAら、1998)。そのために、胚盤胞の内部細胞塊を得て、マウス支持細胞上に播種する。増殖に成功したら、細胞を分配し、特異的幹細胞遺伝子についてはRT-PCRにより、特定のタンパク質の同定については免疫組織化学により、および代謝産物により、その幹細胞特性を分析する。さらに、インビトロにおける種々の細胞型への分化および細胞増殖、ならびに、数世代におよぶ分割により、幹細胞状態を決定できる。
【0031】
胚幹細胞の代わりとして、胚生殖系細胞(EG)(Shambott MJら、1998)も適しているが、これは、初期胚から得られて、その後、胚幹細胞と同様に培養および分化されうる。
【0032】
本発明はまた、成体幹細胞にも適用可能である。Andersonら、2001、Gage,F.H.、2000およびProckop,D.J.、1997の文献に参照されており、ここでは該細胞の抽出および培養が記載されている。
【0033】
耐性遺伝子それ自体は既知である。これらの例としては、ヌクレオシド系抗生物質耐性遺伝子およびアミノグリコシド系抗生物質耐性遺伝子、例えばピューロマイシン(ピューロマイシン-N-アセチルトランスフェラーゼ)、ストレプトマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、またはハイグロマイシンがあげられる。耐性遺伝子のさらなる例としては、アミノプテリンおよびメトトレキサートに対する耐性を付与するデヒドロ葉酸レダクターゼ、ならびに、多くの抗生物質、例えばビンブラスチン、ドキソルビシン、およびアクチノマイシンDに対する耐性を付与する多剤耐性遺伝子があげられる。ピューロマイシン耐性を付与する構築物が特に好ましい。耐性遺伝子および薬物または活性物質耐性遺伝子という用語は、本明細書では同義語として使用され、どちらも、例えば、抗生物質耐性をコードする遺伝子を意味する。薬物および活性物質それぞれの耐性をコードするその他の遺伝子、例えばDHFR遺伝子も同様に使用できる。
【0034】
耐性遺伝子の代わりに、本発明の構築物を含む細胞の特異的選択を可能にし、かつ患者の生存力を低下させることなくインビボで適用されうる、その他の選択マーカー遺伝子も使用できる。当業者は、適切な遺伝子を入手可能である。
【0035】
第一の実施例においては、検出可能なタンパク質の遺伝子および耐性遺伝子は、2つの異なる構築物上に配置されている。耐性遺伝子が第一のベクター上に配置され、レポーター遺伝子(例えばEGFP)が第二のベクター上に配置され、それぞれ細胞特異的および組織特異的なプロモーター、または成長特異的プロモーター(例えばα-MHCプロモーター)により両方とも制御されるような、2つの異なるベクターの使用により、本出願に記載された多種多様な利点が実証され、これは、特定の目的に適している。しかし、このシステムは、驚くべきことにある欠点も伴う、すなわち、耐性遺伝子には耐性であるが、内部にレポーター遺伝子(例えばEGFP)を発現しない亜細胞クローンを含み、従って、例えばEGFP陰性である、細胞の形成も伴うことが、さらなる実験により示された。全ての非特異的細胞、および例えば非心筋細胞も、抗生物質の適用により排除されるとは限らないため、このような亜クローンは奇形癌腫の潜在的供給源となりうる。これは、腫瘍を形成しうる、急速に増殖するES細胞の生存する可能性をもたらす可能性がある。
【0036】
実施した実験において、実際のEGFP陰性細胞が、ピューロマイシン暴露後でさえ15日間まで生存できることを観察した。この観察結果についての理由として、使用した2つのベクターが二重トランスフェクションにより細胞に導入されたことが考えられうる。その後、これらのベクターは無作為に宿主ゲノムに、部分的に、天然ゲノムの異なる部位に組み込まれ、それにより、異なる転写活性を有する異なる遺伝子およびその制御配列の影響下に入る。
【0037】
したがって、本発明のさらなる態様(実施例2)において、レポーター遺伝子および耐性遺伝子は、1つのプロモーターの制御下の1つのベクター構築物上に配置される。本実施例2では、ピューロマイシン耐性カセット(Pac)およびレポーター遺伝子EGFPはどちらも、共通の組織特異的プロモーターα-MHCの制御下であった。このシステムの主な利点とは、細胞特異的または組織特異的または成長特異的でない耐性細胞の発生率が、非常に低いことである。例えば、心臓細胞ではないピューロマイシン耐性細胞が発生する確率は、非常に低い。これは、Pac-カセットおよびEGFP遺伝子が宿主ゲノムの1箇所または数箇所にしか組み込まれず、したがって、それぞれ上流または下流に配置している遺伝子構造の種々の活性速度の影響を受けないという事実に起因すると考えられる。得られたクローンをさらに選択することにより、実質的に純粋な細胞系を得ることができる。この評価は、EGFP発現を使用して行なわれる。これに関して、EGFP、α-MHCおよびPacは、単に本発明の例示的態様の事項であることを再度強調する。当業者は、上述の代替物に関して、修飾を行うことができる。
【0038】
一つまたは複数のベクター構築物の胚幹細胞への導入は、既知の方法、例えばトランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクションまたはウイルスベクターを用いて行なう。
【0039】
安定にトランスフェクトされたES細胞を選択するために、ベクター構築物は、例えば抗生物質(例えばネオマイシン)耐性を付与する、選択マーカー遺伝子をさらに含む。その他の既知の耐性遺伝子、例えば蛍光タンパク質コード遺伝子に関連して上述された耐性遺伝子も同様に、当然使用できる。安定にトランスフェクトされたES細胞を選択するための選択遺伝子は、検出可能なタンパク質の発現制御を調節するプロモーターとは異なるプロモーターの制御下にある。構成的に活性なプロモーター、例えばPGKプロモーターを使用することも多い。
【0040】
第二の選択遺伝子の使用は、トランスフェクト(効率は比較的低い)に成功したクローンを少しでも同定できるため重要である。さもなくば、圧倒的多数の非トランスフェクトES細胞が存在することになり、分化中に、例えばEGFP陽性細胞は全く検出できないと考えられる。
【0041】
トランスフェクション後、構築物を天然DNAに安定に組み込む。細胞特異的および/または成長特異的のいずれかである細胞内シグナルの活性化後、プロモーターが活性化され、検出可能なタンパク質および(第一の)耐性遺伝子が発現される。例えば蛍光励起下での蛍光発光によりES細胞を検出できるだけでなく、細胞特異的および/または成長特異的なプロモーターの制御下にある細胞も、同時かつ高度に特異的に選択できる。この多少精密かつ簡潔な方法を用いて、特定の成長段階で活性であるかまたは特定の組織に典型的である特定の細胞を、高度に濃縮することができる。ここで特に重要な例とは、ES細胞由来の心筋細胞の濃縮である。例として以下の利点を記載する。
【0042】
1. 同一のプロモーター下の耐性遺伝子ならびに成長特異的および/または細胞特異的な遺伝子の制御により、例えば組織特異的細胞、従って例えば心臓細胞の、効率的かつ迅速な選択が確実となる。FACS分析により、全ての非心臓特異的細胞のほぼ99%が排除されたことが示された。高度に異種性の胚様体細胞集団の中で特定の細胞型がこのように高純度であることはまた、毒性物質に関する薬理学的試験、薬物スクリーニング、胎児毒性作用、分化における細胞増殖因子についてのスクリーニングのための適切なツールであるだけでなく、組織の置換のための治療的適用に関する高純度な細胞集団を調製できる可能性を開き、かつ、インビトロにおける組織試料の作製(生体工学)を開拓する。
【0043】
2. 本発明に従って「懸滴法」と共に用いるのが好ましい分化法により、播種時に比較的安定した分化特徴を示す細胞集団が得られるが、それにも関わらず胚様体は、分化開始時点で、すなわち自発的な鼓動の開始時点で、明確な差異を示す。例えば蛍光遺伝子の発現により、例えば心筋の分化開始に関する信頼できる情報が得られ、選択培地の添加は、細胞特異的または成長特異的なプロモーターからの転写開始後に、間に合うように時間を調整して行なう。本発明による、検出可能なタンパク質、例えば蛍光タンパク質をコードする遺伝子と選択遺伝子との組合せ(ここで、両遺伝子が1つのプロモーターの制御下にある)により、細胞の分化段階に応じて、選択培地を添加する正確な時期調整が可能になるが、ここで、分化段階は、蛍光タンパク質の発現により実験者に確認されうる。インビボ条件下では、レポーター遺伝子は検出できないため、その使用は重要ではない。しかし、方法を実験的に試験する(これは精製法および手術法の確立のため非常に重要である)際には重要であるが、潜在的抗原性を有するため治療目的には適用不可能でありうる。または、特に治療目的に関しては、細胞内シグナルカスケード(例えばCD8またはCD4)に連結しておらず、かつそれぞれ細胞特異的および組織特異的なプロモーターの制御下にある、トランスジェニックエピトープの使用が好適である。例えばパーコール勾配で濃縮した後、MACS選別を用いて、ピューロマイシン濃縮後に、この技術の助けをかりて高純度の心筋細胞調製物を得ることができ、さらに、抗CD8(抗CD4)蛍光接合型細胞表面抗体を用いてインビトロおよびインビボでトランスジェニック細胞を同定し得る。同時に、所望の細胞型の、最も可能性の高い定量的濃縮を行なうことができる。細胞分化に関する情報とは独立して、無作為に選択培地を添加することにより、前駆細胞の時期尚早な破壊、または、非常に少数の末端分化細胞がもたらされる。
【0044】
ES細胞の組織特異的分化を促進するさらなる因子が存在するため、ES細胞から特定の細胞型への分化は、特にそれぞれの臓器の自然環境においては、特に効率的な経過をたどると推定される。実際、本発明者らは移植実験において、組織損傷なし(分化因子の不在)では、移植した胚心筋細胞の内殖(ingrowing)および分化は観察できないことを実証できる。さらに、寒冷梗塞部に移植した後、非分化胚幹細胞を使用して、心筋の産生が有意に増加することを観察できる(インビトロでは僅か3%〜5%、インビボでははるかにより効率的であるが、腫瘍の産生を伴う)。抗生物質耐性遺伝子を含まないES細胞の感受性が高いため、本発明による方法を使用して、本発明により提供されるトランスジェニックES細胞をそれぞれの臓器にインビボまたはインビトロで導入でき、ここで、例えば心臓細胞への高度に効率的な分化が生じる。数週間後に選択培地を加えると、耐性遺伝子を有する細胞を除く、ES細胞由来の全細胞が全身的に死滅する。このアプローチを用いれば、腫瘍成長の危険性を伴うことなく、より効率的な組織産生が期待できる。本明細書において開発されたシステムに重要なのは、抗生物質耐性遺伝子およびレポーター遺伝子が同じプロモーターの制御下にあることである。この理由とは、レポーター遺伝子が、それぞれ細胞特異的および成長特異的な分化の開始時点、例えば心臓分化の開始時点を示すことであり、すなわち、初期心臓細胞の主な部分はすでに形成されて依然として増殖している。この時点で、抗生物質耐性遺伝子が産生されて、それにより、耐性遺伝子を発現する細胞を除く、例えば心筋細胞も除く全細胞が、抗生物質の添加後に死滅する。独国特許第19727962号においては、異なるプロモーターが使用され、よって、この同期が起こらず、かつそれにより選択は非効率的であった。
【0045】
二重トランスフェクションの代わりに、IRESを含むベクターを構築でき、ここで、同一のプロモーター、例えばα-MHCプロモーターは、レポーター遺伝子および抗生物質耐性遺伝子を駆動するため、1回のトランスフェクションで十分である。
【0046】
本発明の重要な目標とは勿論、本発明による方法により提供される分化細胞、特に心臓細胞を、インビトロだけでなくインビボで適用できることである。移植中に、例えば腫瘍細胞へと成長し得る多分化能幹細胞または生殖系細胞が患者内に入ることを阻止するために、本発明の1つの態様に記載の細胞を、例えばOct-4プロモーターの使用による過剰発現により、耐性遺伝子に対してより高感受性にすることができる。これにより、さらに、多分化能細胞が、耐性剤による攻撃から切り抜けて生存する可能性は低下すると考えられる。
【0047】
本発明のさらなる態様において、特定の組織が形成されないように、細胞をさらに操作することができる。これは例えば、リプレッサーエレメント、例えばドキシサイクリン(doxizyclin)誘導リプレッサーエレメントの挿入により行なうことができる。これにより、所望の分化細胞が、潜在的腫瘍原である多分化能細胞に汚染される可能性を除外できる。
【0048】
さらなる態様において、適切なプロモーター、例えばニワトリβ-アクチンプロモーターを選択することにより、分裂速度の高い細胞を選択することができ、この方法により、さらに、多分化能細胞の生存の可能性が低下する。
【0049】
好ましい態様において、2種類のベクターを使用して、胚幹細胞を安定にトランスフェクトし、胚幹細胞の分化中の培養物から特異的に心臓細胞を選択することができる:
1. 心臓α-MHCプロモーターにより制御されるピューロマイシン耐性遺伝子(α-MHC-pur);および
2. 心臓α-MHCプロモーターにより制御される強化緑色蛍光タンパク質の遺伝子(強化緑色蛍光タンパク質=EGFP)(α-MHC-EGFP)。
【0050】
本発明の新規性とは、同一の、好ましくは心臓特異的なプロモーター(例えばα-MHC)の制御下にある耐性遺伝子(例えばpur)および例えば生存蛍光レポーター遺伝子(例えばEGFP)を併用することからなる。このようなアプローチは、例えばES由来心筋細胞の遺伝子的選択を容易にする、以下の利点の組合せを示す。
【0051】
i)特異的蛍光、例えば心臓特異的蛍光の検出による、胚幹細胞の分化、例えば最初期成長段階の心臓分化のモニタリング(Kolossovら、1998)。
【0052】
ii)例えば耐性遺伝子を制御するα-MHCプロモーター活性の指標として、蛍光を規定することによる、薬物適用の開始時関の最適化。
【0053】
iii)蛍光細胞画分と非蛍光細胞画分の比を実況的に(live)モニタリングすることによる、薬物選択過程の視覚的制御。蛍光活性化細胞選別(FACS)による、特定細胞型の濃縮レベルの定量的評価の実行可能性。
【0054】
iv)ピューロマイシンは非耐性細胞に対して、例えばG418およびハイグロマイシンなどのその他の既知の選択剤よりも、より迅速かつ強力な毒性作用を及ぼすため、好ましくは心臓特異的プロモーターの制御下にあるpur遺伝子を好ましくは使用することにより、分化中のES細胞の接着培養物および懸濁培養物において、ピューロマイシンによる高度に効果的な心臓特異的選択が可能となる。
【0055】
他の抗生物質耐性遺伝子とは対照的に、ピューロマイシンによる高度に効率的かつ非常に迅速な選択は驚くべきものであった。さらに、ES細胞に関する知見は全く知られていなかった。
【0056】
v)例えばEGFP蛍光検出をのみを適用することによって、導入された選択細胞の末路を、移植後にモニタリングできる可能性。これは、新規外科的技術の確立のために根本的に重要である。
【0057】
本発明は、従来技術を考慮すると成功する見込みがそれなりにあるとは期待できなかったような、いくつかの局面を含む。
1. 第一に、ES細胞を簡単に二重トランスフェクトできることは、驚くべきものであった。本発明者らの実験により、トランスフェクトされたクローンのほとんどでは、両方の構築物を用いた効率的なトランスフェクションが行なわれたことが実証された。
2. さらに、抗生物質耐性の効率には、分化の初期、特に心臓細胞の分化の初期に選択剤を添加するのが重要であることが判明した。これにより、例えばインビトロにおける心筋発生効率が増加すると考えられるが、これは周辺細胞が、陰性シグナルを放出するからである可能性が最も高い。初期とは播種の2日後〜4日後を指すが、これは、特に播種を伴う懸滴法では、増殖(細胞が依然として増殖している)ならびにイオンチャネル発現(チャネルが依然として全心筋細胞で発現されている場合、心室細胞を含む全細胞型がこのイオンチャネルを発現し、自発的に拍動する)およびその調節(一酸化窒素系のムスカリン作動性アゴニストによる、L型Ca2+流入の基底阻害)について、初期パターンを依然として示している段階である。
3. 12時間〜24時間以内に全非心筋細胞の99%の排除をもたらしたピューロマイシンの高度に効率的な作用も、驚くべきものであった。
4. 本発明の重要な利点とは、非播種EBおよび攪拌培養物中のEBそれぞれの選択もまた可能であることである。なぜなら、本明細書においては、死滅細胞を問題なく洗い流すことができ、それにより、ES細胞由来の純粋な細胞型特異的培養物を初めて得ることができたためである。非生存細胞の排除は、酵素的消化(例えばトリプシン、コラーゲン)によりある程度改善される。非播種EBにおける心筋細胞により本方法の効率をさらに実証でき、これは、細胞網内に置かれた場合には再び収縮し始める。
【0058】
本発明のさらなる態様において、胚幹細胞を、2組のベクター選択システムで安定にトランスフェクトする。第一のベクターは、第一の細胞非損傷性かつ検出可能な、例えば蛍光タンパク質の情報、および/または第一の耐性遺伝子の情報を含んでおり、両遺伝子が、前記の遺伝子に機能的に連結された第一の細胞特異的または成長特異的なプロモーターの制御下にある。第二のベクターは、第二の細胞非障害性かつ検出可能な、例えば蛍光タンパク質の情報、および/または第二の耐性遺伝子の情報を含んでおり、両遺伝子が、これらの遺伝子と機能的に連結している第二の細胞特異的または成長特異的なプロモーターの制御下にある。エレクトロポレーション法の代わりに、ウイルスを用いて、または同様にリポフェクションを用いて、非常に効率的なトランスフェクションを行なうこともできる。心臓における移植の成功に関して特に言及するに値するのは、インビトロにおける中胚葉前駆細胞の選択である。好ましくは蛍光遺伝子および耐性遺伝子を発現する、brachyuria、Nkx2.5およびANFプロモータースイッチエレメントにより、上記手順に従ってこれらの細胞を選択し、その後、選択して移植する。蛍光遺伝子の代わりに、上記の検出可能なタンパク質の他の遺伝子も当然使用可能である。本手順は、大量の精製前駆細胞の作製に理想的に適しており、前記細胞は、例えば損傷された心筋に移植された後、天然分化因子の下で、インサイチューで有害性の全くない心臓細胞へと分化する。
【0059】
さらに、このアプローチは、中胚葉前駆細胞を、各々の特殊細胞型(すなわち、免疫細胞、平滑筋細胞および骨格筋細胞ならびに内皮細胞)へと分化させる、異なる活性剤/分化因子をインビトロで試験するのに理想的に適している。したがって、本システムは、分化因子、薬理学的かつその他の点では活性な薬剤(すなわち、毒性物質、環境毒素、日常使用される化学物質、催奇性/胚毒性作用および薬理に関する試験)の試験に理想的に適している。
【0060】
さらに、インビトロにおける分化および選択とは別に、組織を再生するための全く新しい手順が確立された。一方で、損傷組織(例えば、心臓梗塞領域)において天然因子が放出されるという利点が活用されており、これは心臓細胞分化にプラスの影響を及ぼす。したがって、腫瘍が生じる可能性を排除するために、一方で例えば特にピューロマイシン耐性遺伝子が例えばα-MHCプロモーター(α-MHC-ピューロマイシン)の制御下にあるような、例えばトランスジェニック胚幹細胞を作製する。さらに、ポックスウイルス駆動tk-エレメントを使用する。したがって、α-MHCプロモーターの制御下にある、遍在的に発現されるプロモーター(例えばニワトリβ-アクチンプロモーター)および抗tkエレメントを用いて胚幹細胞を三重トランスフェクトする。続いて、分化中のトランスジェニックES細胞を、損傷を受けた心臓領域に注射する。内在性因子は、インビトロ分化能とは対照的に、インビボにおけるES細胞の高度に効率的な心臓成長を促進する。14日後〜21日後、選択的に全ての非心筋細胞が、例えばピューロマイシンおよびウイルス抑制性の(virostatica)ガンシクロビルなどの耐性剤の組合せ系統的適用により選択される。この組合せ選択により、非分化ES細胞の生存の可能性および腫瘍形成(tumourigenicity)の危険性は回避される。さらに、非常に効率性の増した心筋成長が達成される。
【0061】
本発明を、実施例および添付の図面を用いて以下で説明する。
【0062】
実施例1
材料および方法
ベクター
マウスα-MHC遺伝子の調節性断片5.5kbを含むベクターは、J.Robbins博士により提供された(Children Hospital Medical Center、Cincinnati、USA)(Gulickら、1991)。
【0063】
BamHIおよびSalIを用いてベクターから断片を切り出し、平滑末端とし、pEGFP-1ベクター(EGFPのコード配列、GFPの増強型、G418耐性用のNeo-カセットを含む)(CLONETECH Laboratories、Palo Alto、CA、USA)のマルチクローニング部位のSmaI部位にクローニングした。得られたベクター中のEGFPのコード配列に関して、プロモーターを正しく「尾から頭への(tail-to-head)」方向に制御し、EcoRI制限酵素切断により確認した。
【0064】
Pur遺伝子(HindIII-SalI断片)のコード部分を、BamHI-AflIIにより切り出したEGFPコード配列の代わりに、pα-MHC-EGFPにブラントライゲーションした(平滑末端のライゲーション)。得られたベクターpα-MHC-Purにおける正しい配置および方向をそれぞれ、SmaIおよびClaI-StuI制限酵素切断により確認した。
【0065】
細胞培養、トランスフェクションおよび選択の方法
ES細胞クローンの増殖および選択の全段階を、以下からなるES細胞増殖培地で実施した:
非必須アミノ酸(0.1mM)、L-グルタミン(2mM)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(5μg/ml)、β-メルカプトエタノール(0.1mM)、LIF(ESGRO(商標))(500u/ml)、ウシ胎仔血清(FCS)(15%V/V)を添加した、グルコース強化DMEM培地。
【0066】
pαMHC-EGFPおよびpαMHC-Purの両方のベクターを制限酵素HindIIIで直鎖状にし、その後、ES細胞(D3系)のエレクトロポレーションにより同時トランスフェクションした。エレクトロポレーションの条件:
細胞:0.8mlPBS中、4×106個〜5×106個(Ca2+、Mg2+非含有);
ベクターDNA:20μg〜40μg;
エレクトロポレーションキュベット:0.4cm(Bio-Rad Laboratories、Hercules、CA、USA);
エレクトロポレーター:Gene Pulser(商標)(Bio-Rad Laboratories);
電気インパルス条件:240V、500μF。
電気インパルス後、細胞懸濁液を氷上で20分間冷却し、その後、10cm組織品質ぺトリ皿に、10mlのES細胞増殖培地中のG418耐性線維芽細胞支持層と共に移した。2日後、ゲネチシンG418(GibcoBRL)300μg/mlをG418耐性細胞の選択のために加えた。G418(300μg/ml)を含む培地を、1日おきに交換した。8日間〜10日間の選抜後、薬物耐性クローンが出現した。クローンを選び、別々に0.1%トリプシン/EDTA溶液中でトリプシン処理し、ES細胞増殖培地中のG418耐性線維芽細胞支持層およびG418(300μg/ml)を含む48穴プレートに播種した。2日間〜4日間増殖させた後、続いてES細胞クローンをトリプシン処理し、24穴プレート中で、およびその後5cm組織ペトリ皿上で増殖させた。G418(300μg/ml)およびG418耐性線維芽細胞支持層は、ES細胞クローン増殖の全段階で存在していた。
【0067】
ES細胞の分化および心臓特異的選択
15%FCSが20%FCSへと置き換えられた、LIFを除く前述の「ES細胞増殖培地」の全成分からなる「分化培地」中で、分化プロトコルの全段階を実施した。増殖後、選択したG418耐性ESクローンをトリプシン処理し、「分化培地」に再懸濁して最終濃度を0.020×106細胞〜0.025×106細胞/mlとした。続いて、この懸濁液20μl(400個〜500個の細胞)を細菌用ペトリ皿(Greiner Labortechnik、ドイツ)の蓋の上に配置することにより、懸滴を形成した。37℃、5%CO2における2日間のインキュベートの後、ES細胞は凝集物すなわち「胚様体」を形成した。これを細菌用ペトリ皿中で分化培地を用いて洗浄し、さらに5日間インキュベートした。その後、胚様体を、ゼラチンを含む分化培地で予め調整しておいた24穴組織品質プレート上に別々に播種した。平行実験において、いくつかの胚様体が懸濁液中に残ったが、これらを播種したものと同様に処理した。
【0068】
増殖、分化および薬物選択の段階全てにおいて、FITCフィルターセット(Zeiss、Jena、ドイツ)を使用して蛍光顕微鏡下でEBをモニタリングした。
【0069】
典型的な実験では、選択薬物であるピューロマイシン(1μg/ml〜2μg/ml)の適用を、成長の9日目〜10日目に開始し、このとき第一のEGFP蛍光をモニタリングした。活性物質を含む培地は、2日〜3日毎に交換した。
【0070】
FACS分析
FACS分析のために、成長および選択の段階の異なる10個〜20個の胚様体をPBSで洗浄し、その後、2分間〜3分間のトリプシン処理により単一細胞懸濁液に解離した(120μlトリプシン/EDTA溶液)。続いて、1mlのDMEM+単一細胞懸濁液の20%FCSを加えた。5分間遠心分離(1000upm)した後、細胞を、Ca2+(1mM)およびMg2+(0.5mM)を含む0.5ml〜1.0mlのPBSに再懸濁した。
【0071】
胚幹細胞由来の、年齢(age)の異なる細胞のGFP発現を、488nmのアルゴンイオンレーザー(15mW)内に備えた、FACSCalibur(商標)フローサイトメーター(Becton Dickinson、BRD)を用いて決定した。細胞を、濃度5×105細胞/mlとなるまでPBS(pH7.0、0.1%BSA)中に再懸濁し、その後、各試料から抽出した少なくとも10,000個の生細胞を用いて、FACScalibur(商標)で分析した。GFPの発光蛍光を、530nm(FITC-バンドフィルター)で測定した。測定直前に試料にヨウ化プロピジウム(2μg/ml)を添加することにより、実況的(live)ゲート開閉を実施した。ヨウ化プロピオジウム(PI)染色(885nmバンドフィルター)陽性を示す壊死細胞は、生存PI陰性細胞と比較して、より高い側方散乱シグナル(SSC)を示した。SSCシグナルの低い細胞を通過させることにより、その後のアッセイから非生存細胞を除外した。D3細胞系の非トランスフェクトES細胞を、陰性対照として使用した。CellQuestソフトウェア(Becton Dickinson)を使用してアッセイを実施した。
【0072】
結果
pαMHC-EGFPおよびpαMHC-purベクターに関してトランスジェニックであるES細胞を培養し、心臓分化プロトコルにおいて使用した。ES細胞状態において、およびEB形成の後から播種の日(「懸滴」の形成から7日後)まで、全被験クローンにおけるEGFP蛍光は顕微鏡的に確認されなかった。播種後第一日目から第二日目に(8日齢〜9日齢のEB)、第一のEGFP蛍光領域が出現し、これは通常、1日後に自発的に拍動し始める。驚くべきことに、拍動クラスター外にあるEB細胞の圧倒的大多数が、顕微鏡的に測定可能な蛍光レベルを示さず、このことは、ES細胞心筋発生の際のEGFP発現が高度に組織特異的であることを示す。
【0073】
ピューロマイシン適用後(典型的には成長の9日目〜10日目に開始)、播種EBの形態の最初の有意な変化が、次の日の12時間以内に(長期モニタリングシステムを用いて)検出された。EGFP蛍光細胞の拍動クラスターを囲む細胞増殖は劇的に減少し、周辺細胞が増殖していないクラスターの拍動強度は意外にも強まった(図1A)。次の2日間でこれらの変化は進行し、非蛍光細胞塊の深刻な破壊、および、強い収縮活性を有する蛍光心臓クラスターのコンパクション(compaction)が示された(図1B、図1C)。ピューロマイシン処理の1日目にはすでに、胚様体のいくつかは、周辺非蛍光細胞をほとんど処分しており、拍動している単離蛍光クラスターのように見えた(図1D)。成長4日後およびピューロマイシン処理18日後でさえ、これらの単離クラスターは依然として強い収縮活性を示したが、一方その非処理対照物において、この活性は典型的には成長の17日目〜20日目に停止した。
【0074】
非処理対照物と比較した、懸濁培養物中のピューロマイシンで処理した胚様体のEGFP蛍光の増加および収縮活性の持続を、モニタリングした。3週間を上回る成長および2週間のピューロマイシン処理の後、胚様体懸濁液は、多くの強い蛍光および収縮胚様体を含み、そのいくつかは、可視的かつ集合的に拍動している蛍光クラスターとして存在していた(図2)。これらの結果は明らかに、心筋細胞が、周囲細胞なしでも生存を維持でき、かつ分化できることを示している。自発的な拍動は、選択された心筋細胞の機能的完全性をさらに示している。しかし、決定的な利点とは、ピューロマイシン選択の迅速性であり、これにより適用後12時間〜24時間の間に、全ての非心筋細胞の99%の破壊がもたらされた。
【0075】
FACS分析により、使用したトランスジェニックES細胞のピューロマイシン選択の効果が高いことが実証された。EGFP蛍光細胞は、pαMHC-EGFP-ベクターを含む非処理細胞の全細胞集団のわずか約1%に相当するが、pαMHC-EGFPおよびpαMHC-purベクターに関してトランスジェニックである分化中の胚幹細胞をピューロマイシン処理することにより、EGFP蛍光細胞による細胞集団の42%〜45%が濃縮された(図3)。簡単な計算により、全非心筋発生細胞集団の97%〜99%がすでに、トランスジェニックES細胞懸濁培養物のピューロマイシン処理中に、効果的に死滅したことが示される。依然として存在している、ピューロマイシン耐性の非蛍光細胞または弱蛍光細胞の画分(図3)は、非心筋発生細胞のいくつかにおけるpαMHCプロモーターの非特異的活性により説明されうる。より高濃度のピューロマイシンにより、またはFACS選別法により、このような画分は排除された。
【0076】
実施例2
最初のベクターとして、pIRES2-EGFP(CLONETECH Laboratories、Palo Alto、CA)を使用した。このベクターは、マルチクローニング部位(MCS)とEGFP遺伝子との間に、脳心筋炎ウイルスの内部リボソーム侵入部位(IRES)を含む。これにより、ピューロマイシン耐性およびEGFP遺伝子が、1つの単一のバイシストロン性mRNAから別々に翻訳されることが可能になる。pIRES2-EGFPベクターを、制限酵素AseIおよびECO47IIIで平滑末端化し、再ライゲーションして、サイトメガロウイルス最初期(CMV-IV)プロモーターを欠失させた。得られたベクターをSmaIで消化し、SacIおよびClaIにより上述のα-MHC-purベクターから切り出しておいたα-MCH-pur-カセットとライゲーションした。得られたpα-MHC-IRES-EGFP(pα-PIG)ベクターが正しい方向であるかを、SacI/SmaIによる消化で確認した。
【0077】
ES細胞(D3細胞系)を、pα-PIGを用いてトランスフェクトし、続いてG418選択後、得られた安定なクローンの増殖および分化を、実施例1ですでに記載したように実施した。
【0078】
標準的な分化プロトコルを実施した後、成長の第8日目と第9日目の間にEGFP陽性心臓細胞の拍動クラスターを実証できるが、この際ピューロマイシン5μg/mlが添加された。ピューロマイシン処理の最初の3日〜4日後、胚様体(EB)は、EGFP陽性の強く拍動している心臓細胞のクラスターを主に含んでおり、非心臓細胞は分離し、培地交換の際に排除された。EBを懸濁培養物中で完全に増殖させ、抗生物質による耐性処理を実施することにより、同じ結果を達成できた。FACS分析により、このようにして得られた細胞培養物中の少なくとも70%の濃縮が示された(読み取り値としてEGFPを使用したフローサイトメトリー)。したがって、好ましくはIRESと組合わされた、1つのプロモーターの制御下にある1つのベクター上のレポーター遺伝子および耐性遺伝子の配置は、可能な限り非分化幹細胞を含まない分化胚幹細胞の産生に、すばらしく適している。同じものが、胚幹細胞だけでなく、生殖系細胞および成体幹細胞それぞれにも当然あてはまる。特に、この実施例により、顕著に高い組織特異性が、ES細胞から成長した心臓細胞について達成可能であることが示された。
【0079】
ピューロマイシン選択プロトコルの信頼性
ピューロマイシン選択法は、その後、心臓の損傷が模倣された自己由来マウスモデルで試験され、これにより確認された。ES細胞のインビトロ分化(10,000個〜100,000個の細胞)により得られた胚幹細胞または心臓細胞を、心臓が低温処理により部分的に損傷を受けたレシピエントに注射した、マウス移植モデルを、この目的のために使用した。腫瘍の成長を、マウス全体、単離心臓、および組織スライドを用いて形態学的に調べ、これらの検査を、操作後2日間から2ヶ月までの様々な時点で実施した。このアプローチにより、異なる細胞調製物の腫瘍成長可能性についての正確な評価が可能になる。非分化ES細胞を寒冷損傷(100,000個の細胞)に注射した際、大きな腫瘍がマウス内で成長した。操作から10日後に、動物はこれらの腫瘍のために死亡した。しかし、ES細胞がインビトロで心臓細胞へと分化した場合にも腫瘍が成長し、かつES細胞由来の心筋細胞に典型的な拍動領域を分離および単離し、その10,000個〜50,000個の細胞をマウスに注射した。これにより、心臓の胚幹細胞が腫瘍になる可能性が高いこと、および、高度に特異的な選択法で行なわなければならない必要性が高いことが実証される。
【0080】
次の実験では、本発明の構築物(1つのベクター上の1つのプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子および耐性遺伝子)で安定にトランスフェクトされたトランスジェニックES細胞を、EGFP発現の実証後に、5日間〜7日間ピューロマイシン処理に供した。その全ての心臓が上述の寒冷処理を施された、外科的に処理された25匹を上回るマウスの大規模試験系において、これらのピューロマイシン耐性ES細胞由来細胞(10,000個〜50,000個の細胞)を損傷マウス心臓領域(二重トランスフェクション構築物)に注射した場合、数ヶ月後でさえも、腫瘍の成長は観察できなかった。実際、本発明者らは移植後の細胞の同定に成功した。細胞の移植に成功することができ、かつこれらが末端分化心筋細胞へと分化することを、明確に実証することが可能であった。これらの実験により、本発明により記載された技術により、分化細胞をインビトロにおいて効率的に濃縮でき、かつ非分化ES細胞を全く含まない集団を得ることができることが、明確に示される。本明細書において示された、心臓におけるES細胞由来細胞の腫瘍原性の高さを考慮すると、この効力は特に顕著である。
【0081】
結論
1. 発現ベクターpαMHC-EGFPおよびpαMHC-purで同時トランスフェクトされた安定なトランスジェニック胚幹細胞クローンを調製した。
2. インビトロにおける分化中のトランスジェニック胚幹細胞のピューロマイシン処理により、以前に作製したpαMHC-HygES細胞系のハイグロマイシン処理と比較して高効率の心臓特異的選択が示された(データは示していない)。
3. 選択された分化細胞は、その非処理対照物よりも高度な形態学的および機能的な生存度および長寿を示し、このことにより、遺伝的選択アプローチは、周辺細胞の負の影響から、分化中の胚幹細胞を効率的に解放することを示唆する。
4. 共通の細胞型特異的プロモーター下の生蛍光レポーターおよび薬物耐性遺伝子の併用により、分化および細胞特異的選択を含む、全手順の緊密なモニタリングおよび定量が可能となった。得られた細胞は、さらなる移植実験に適用可能であり、これにより、導入細胞のモニタリングが可能となった。
5. それぞれの細胞型における高度に特異的なプロモーターまたは特定の成長段階が同定されクローニングされれば、提示されたアプローチを、ES分化系における任意の細胞型特異的選択にも適用できる。原則的に、本システムにより、それぞれ2色のインビトロ蛍光タンパク質(例えば黄色型(EYEP)およびシアン(青色)型(ECFP)のEGFP)を有する2つの異なるプロモーター、および2つの薬物耐性遺伝子の併用が可能となる。このようなアプローチにより、全手順の選択性および効率性は増加し得る。本発明により提供される胚幹細胞、好ましくは胚様体を、例えば重金属および薬学的物質などの物質の毒性試験に使用できる(上記のリストも参照されたい)。この目的のために、二重ベクター構築物を用いて胚幹細胞培養物を利用し、細胞の典型的な分化開始後に選択剤を添加する(蛍光の検出)。細胞精製後またはすでにES細胞培養中に、様々な被験物質を細胞培養物に加え、様々な時点で、蛍光単一細胞および全蛍光それぞれを、様々な読み取り法(例えばフローサイトメトリー、蛍光読み取り器)で対照と比較して測定する。
【0082】
本発明により提供される胚幹細胞を、蛍光タンパク質の細胞特異的または成長特異的な発現を有する、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製に使用できる。本明細書記載の本発明のES細胞を、非ヒト哺乳動物の胚盤胞に導入する。次の段階において、戻し交配することによりホモ接合型となるキメラとして胚盤胞を代理母に導入し、これによりトランスジェニック非ヒト哺乳動物が作製される。
【0083】
本発明のさらなる態様において、トランスジェニック胚幹細胞を、移植用薬学的組成物の形状で使用する。非分化増殖幹細胞の混入は腫瘍産生をもたらすことが知られているので、この目的のためには、高度に精製された胚幹細胞由来培養物が必要である。従って、本明細書記載の方法は、移植に理想的な、高度に精製されたES細胞由来細胞特異的培養物を得るために理想的に適している(Klugら、1996)。
【0084】
最後に、胚幹細胞を用いて上記で説明した本発明はまた、胚生殖系細胞および成体幹細胞にも適用可能であることを再度強調する。
【0085】
本発明は、細胞特異的および/または成長特異的なプロモーターによる共通の制御下にある、耐性遺伝子および検出可能なレポーター遺伝子の併用による、分化中の胚幹細胞および成体幹細胞または胚生殖系細胞の細胞特異的および成長特異的な選択のシステムを開示する。
【0086】
参照:



【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】ピューロマイシン処理からそれぞれ1日後、2日後、3日後、および5日後の、成長の10日目(A)、11日目(B)、12日目(C)および14日目(D)の、pαMHC-purトランスジェニックES細胞由来の、播種されたEBの複合透過型/蛍光光学顕微鏡像。
【図2】ピューロマイシン処理の10日後の成長の19日目に、pαMHC-purEGFP/pαMHC-purEBの懸濁培養物の複合透過型/蛍光光学顕微鏡像。
【図3】(A)pαMHC-EGFPトランスジェニックES細胞に由来する、解離した16日齢EBのFACSプロファイル。全EBが、大きな拍動および蛍光心筋細胞クラスターを含んでいた。EGFP陽性細胞(M1)は、全細胞集団の1%未満から構成される。(B)ピューロマイシン処理の13日後に同時トランスフェクトされたpαMHC-EGFPおよびpα-MHC-purES細胞に由来する解離した22日齢のEBのFACSプロファイル。EGFP陽性細胞(ml)は、全細胞集団の42%〜45%から構成される。
【図4】胚様体を調製するためのプロトコル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのレポーター遺伝子および少なくとも1つの耐性遺伝子の情報を有するDNA配列を含む、胚幹細胞、胚生殖系細胞および/または成体幹細胞であって、DNA配列がどちらも同じプロモーターの制御下にあり、プロモーターは少なくとも1つの細胞特異的および/または成長特異的なプロモーターより選択されて該遺伝子に機能的に連結されており、かつ、DNA配列が少なくとも1つまたは2つのベクター構築物上に存在する、胚幹細胞、胚生殖系細胞および/または成体幹細胞。
【請求項2】
細胞が哺乳動物細胞であり、かつ/または、レポーター遺伝子が、検出可能な細胞非損傷性タンパク質もしくは検出可能なエピトープをコードする、請求項1記載の細胞。
【請求項3】
哺乳動物細胞が、霊長類またはげっ歯類、特にマウス、ラット、もしくはウサギに由来するか、またはヒトを起源とする、請求項1または2記載の細胞。
【請求項4】
検出可能なタンパク質が、好ましくは(強化)緑色蛍光タンパク質(EGFPおよびGFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、黄色蛍光タンパク質(VFP)およびシアン蛍光タンパク質(CFP)から、特にGFPより選択される、細胞非損傷性の蛍光タンパク質であるか、または、エピトープが表面エピトープである、請求項1〜3のいずれか一項記載の細胞。
【請求項5】
耐性遺伝子が、ヌクレオシド系抗生物質またはアミノグリコシド系抗生物質に対する耐性を付与する、請求項1〜4のいずれか一項記載の細胞。
【請求項6】
耐性遺伝子が、メトトレキサート耐性、または、ピューロマイシン、ストレプトマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシンもしくはハイグロマイシンに対する耐性、または、ビンブラスチン、ドキソルビシン、およびアクチノマイシンDに対する耐性、好ましくは多剤耐性の原因となる、請求項1〜5のいずれか一項記載の細胞。
【請求項7】
プロモーターが、中胚葉細胞、特に心臓細胞、ニューロン、グリア細胞、造血細胞、内皮細胞、平滑筋細胞に特異的なプロモーターであり、外胚葉細胞、特にニューロンに特異的なプロモーターであり、または内胚葉細胞、特に上皮細胞に特異的なプロモーターであり、特に、心臓細胞に特異的なプロモーターまたは骨格筋細胞、軟骨細胞もしくは線維芽細胞に特異的なプロモーターである、請求項1〜6のいずれか一項記載の細胞。
【請求項8】
心臓特異的プロモーターが、Nkx-2.5プロモーター、ヒトα-アクチンプロモーター、α-MHCプロモーター、β-MHCプロモーターおよびMLC-2Vプロモーターより選択される、請求項1〜7のいずれか一項記載の細胞。
【請求項9】
プロモーターが、さらなる機能的DNA配列、特にエンハンサー配列またはリプレッサー配列またはIRES配列に連結されている、請求項1〜8のいずれか一項記載の細胞。
【請求項10】
細胞特異的プロモーターが、ピューロマイシン耐性遺伝子に機能的に連結された心臓特異的プロモーターである、請求項1〜9のいずれか一項記載の細胞。
【請求項11】
(a)第一のベクターが、少なくとも1つのレポーター遺伝子をコードするDNA配列を含み、かつ第二のベクターが、少なくとも1つの耐性遺伝子をコードするDNA配列を含み、DNA配列がどちらも同じプロモーターによって制御される、2つのベクターを安定に含む;または
(b)DNA配列が少なくとも1つのレポーター遺伝子および1つの耐性遺伝子をコードし、該遺伝子がどちらも同一のベクター上に配置されて同一のプロモーターの制御下にある、好ましくはIRES配列が、好ましくはレポーター遺伝子と耐性遺伝子の間に配置されている、DNA配列を含む1つのベクターを含む;または
(c)どちらも第一の細胞特異的および/または成長特異的なプロモーターの制御下にある、レポーター遺伝子および第一の耐性遺伝子をコードするDNA配列を有し、該プロモーターが該配列に機能的に連結されている、第一のベクター、
どちらも第二の細胞特異的および/または成長特異的なプロモーターの制御下にある、第二のレポーター遺伝子および第二の耐性遺伝子をコードするDNA配列を含み、該プロモーターが該配列に機能的に連結されている、第二のベクター
を含む、2組の選択的ベクター系を含む、請求項1〜10のいずれか一項記載の細胞。
【請求項12】
ベクター構築物により安定にトランスフェクトされた細胞を選択するための、第一および第二の耐性遺伝子と異なる追加的な耐性遺伝子を含む、請求項1〜11のいずれか一項記載の細胞。
【請求項13】
細胞凝集物として、特に胚様体の形状で利用可能である、請求項1〜12のいずれか一項記載の細胞。
【請求項14】
レポーター遺伝子および耐性遺伝子と共に、細胞特異的および/または成長特異的なプロモーター、特に、中胚葉分化、外胚葉分化、および内胚葉分化に特異的なプロモーターの使用による、請求項1〜13のいずれか一項記載の細胞から得られた、分化中のまたは分化した細胞。
【請求項15】
好ましくは心臓細胞である、α-MHCプロモーター、β-MHCプロモーター、Nkx2.5プロモーター、ANFプロモーター、またはbrachyuriaプロモーターの使用により得られる、請求項14記載の中胚葉細胞。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項記載の分化中の胚幹細胞、胚生殖系細胞または成体幹細胞を調製する方法であって、以下の段階を含む方法:
請求項11において定義された少なくとも1つのベクターを、胚幹細胞、胚生殖系細胞または成体幹細胞に導入する段階;および
ベクターを含む細胞を選択する段階。
【請求項17】
一つまたは複数のベクターを、トランスフェクション、エレクトロポレーション法、ウイルスベクター、またはリポフェクションにより導入する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
ベクター含有細胞を選択する段階が以下の段階を含む、請求項16または17記載の方法:
安定にトランスフェクトされた細胞を選択するための第一の選択剤を添加する段階;
レポーター遺伝子を発現する細胞を検出する段階;
レポーター遺伝子を発現する細胞を選択するための第二の選択剤を添加する段階;ならびに
細胞特異的および/または組織特異的なプロモーターの制御下で幹細胞または生殖系細胞から成長する分化中のまたは分化した細胞を単離する段階。
【請求項19】
レポーター遺伝子が、蛍光タンパク質またはタンパク質のエピトープをコードする、請求項18記載の方法。
【請求項20】
胚様体の形状で、またはその他の細胞との共培養で、胚幹細胞を培養する、請求項16〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
細胞を懸濁液中で培養する、および/または、細胞を「胚様体」として培養する、請求項16〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
レポーター遺伝子を発現する細胞を選択するための第二の選択剤としてピューロマイシンを適用する、および/または、さらなる濃縮のために、選択した細胞を細胞選別機に通す、請求項16〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
中胚葉、外胚葉、もしくは内胚葉細胞が、中胚葉、外胚葉、もしくは内胚葉細胞に特異的なプロモーターの使用により得られるか、または、特に分化中の心臓細胞が、心臓特異的プロモーターの使用により得られる、請求項16〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜15のいずれか一項記載の細胞を培養することにより得ることができる、レポーター遺伝子および耐性遺伝子の細胞特異的または成長特異的な発現を示す、細胞培養物。
【請求項25】
以下の段階を含む、物質の毒性試験法:
請求項1〜15および24のいずれか一項記載の細胞から細胞培養物を供給する段階;
毒性または非毒性を試験すべき物質を細胞培養物に導入する段階;ならびに
得られた細胞の蛍光を定量的および/または定性的に決定し、試験すべき物質の非存在下で培養した細胞と比較する段階。
【請求項26】
レポーター遺伝子および耐性遺伝子の細胞型特異的または成長特異的な発現を示す、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製法であって、以下の段階を含む方法:
請求項1〜15および24のいずれか一項記載の細胞を、非ヒト哺乳動物の胚盤胞に注射する段階;ならびに
胚盤胞を代理母に導入する段階。
【請求項27】
請求項26記載の方法により得ることができる、トランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項28】
好ましくは蛍光アッセイを使用して、請求項26記載の標識細胞をアッセイする段階を含む、哺乳動物細胞の成長段階をアッセイする方法。
【請求項29】
請求項1〜15のいずれか一項記載の細胞に由来するか、または、請求項16〜23のいずれか一項記載の方法により得られる、分化細胞、特に心臓細胞。
【請求項30】
請求項1〜15、24および29のいずれか一項記載の細胞を含む、薬学的組成物。
【請求項31】
治療的移植法における、請求項1〜15、24および29のいずれか一項記載の細胞の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−118991(P2008−118991A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284875(P2007−284875)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【分割の表示】特願2002−553468(P2002−553468)の分割
【原出願日】平成13年12月27日(2001.12.27)
【出願人】(503233048)アクシオジェネシス アーゲー (1)
【Fターム(参考)】