説明

分子に対するレトロウイルス分離株の感受性または耐性を判定するための方法、ウイルスプロテアーゼ阻害剤に基づく治療的レトロウイルス処置および診断用キット

分子に対するHIVレトロウイルスの分離株の感受性または耐性を判定する方法は、a)研究するべきレトロウイルスのプロテアーゼをコードする配列を、アミノ酸配列が存在している前駆体の切断部位の上流および下流に存在しているそのアミノ酸配列のうちの一部とともに、またはそのアミノ酸配列のうちの一部を伴わずに、増幅する工程と、b)DNAの断片と、上記増幅の最終産物と、研究するべきレトロウイルスのプロテアーゼをコードする配列の発現を、公知の誘導性プロモーターの制御下で許容する発現ベクターとを、当該ベクターおよびDNA断片と少なくとも1つの酵母細胞との同時形質転換を介して、組み換える工程と、c)同時形質転換された酵母細胞を培養して、感受性または耐性の試験を実施するのに十分な数の形質転換体を得て、そして同時形質転換された細胞から生じる形質転換体を、任意の適切な培地上に回収する工程と、d)試験するべき分子の存在下で、当該形質転換体をインキュベーションする工程と、e)当該生細胞を定性的にまたは定量的に分析する工程と、f)感受性または耐性の表現型を推定する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2009年7月15日および2009年7月16日出願の米国特許出願第12/503,174号および同第12/504,456号に基づく優先権を主張する。これらの出願は、参照により本願明細書に援用したものとする。
【0002】
本開示は、分子に対するレトロウイルス分離株の感受性または耐性を判定するための方法、ウイルスプロテアーゼ阻害剤に基づく治療的レトロウイルス処置、および本方法の実施から導かれる診断用キットに関する。
【背景技術】
【0003】
AIDSの病原体はヒト免疫不全ウイルス1型および2型である。これらのウイルスは、特定の臨床的特徴および生物学的特徴を共有するが、これらのウイルスは、特に宿主が感染する方法に関して、大きな差異を有する。従って、HIV−2による感染はHIV−1による感染よりも困難であり(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)、HIV−2に感染した個体の血漿ウイルス量は、HIV−1に感染した個体におけるよりも、高さが少なくかつ/または低く(非特許文献5;非特許文献6)、そしてHIV−2に感染した個体は、よりゆっくりとこの疾病を発症する(非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9)。
【0004】
HIV−2は、1986年に西アフリカで初めて特定された(非特許文献10)。この地域では、HIV−2の罹患率は、1%〜10%の間で変動する(非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13)。西アフリカ外での、HIV−2による感染のこれらの症例の大多数は、欧州諸国およびとりわけポルトガルで見出され、ポルトガルではHIV−2に感染した個体は、ヒト免疫不全ウイルスに感染した集団の13%を占める(非特許文献14)。フランスでは、HIVに感染した集団のうちの1%は2型ウイルスに感染していると見積もられてきた。
【0005】
先進国では、HIV−1および/またはHIV−2に感染した個体は、2つのウイルス酵素、逆転写酵素およびプロテアーゼ、のうちの一方または他方に対する阻害活性を有する分子から構成される化学医療によって処置される。
【0006】
さらに、HIV−1および/またはHIV−2に感染した個体は、ウイルス侵入過程に対するまたはウイルス酵素、すなわち逆転写酵素、プロテアーゼ、およびインテグラーゼ、に対する阻害活性を有する分子から構成される化学医療によっても処置される。
【0007】
この処置は、HIV感染によって引き起こされる罹患率および死亡率を下げることに著しく役立ったが(非特許文献15;非特許文献7)、治療が不調に終わったいくつかの症例が観察されている。
【0008】
血漿から、HIV−1に感染した個体および治療が不調に終わった個体のRNAまたは細胞DNAを増幅することができることは、治療的処置の自然発生的なまたは進行性の無効力を分子レベルで理解することが可能になった。特に、2つのウイルス酵素、逆転写酵素およびプロテアーゼ、の核酸配列の決定から、ある数の変異の出現が示された。野生型ウイルス株(それゆえ、処置に感受性がある)が変異を保有していたインビトロでの研究の中で得られた結果から、処置に対するそのウイルスの耐性に、これらの変異が関連していることが明確に示された。
【0009】
それゆえ、研究者らは、治療的処置の選択を方向付けて導き、そしてその有効性を最適化するために、これらの変異およびこれらの変異が発生させる耐性について、ある量の研究を行ってきた。
【0010】
治療的処置を方向付けるために、2つの異なる技術的アプローチが開発された。1つは、ウイルスタンパク質をコードする核酸配列内のすでに公知の変異のみを検索することからなり、遺伝子型判定アプローチと呼ばれる。他方は、ウイルスの配列内での耐性変異の存在がわかっている必要はなく、細胞ベースの系で、阻害性分子の存在下でのウイルス複製の阻害を試験することからなり、表現型判定アプローチと呼ばれる。
【0011】
残念ながら、研究所の経済的戦略は、大多数の時間を、一般的に科学界の中に、HIV−2に感染した患者の処置に対する関心がない(HIV−2によって最も影響を受ける集団は、主に発展途上国の集団である)ことに向け、または不適切な解決策に向けた:余りに高価な処置、試験および分析、診断、例えば、余りに時間がかかるかまたはその場で実施するのが不可能である表現型判定診断、関係国の中に要求にかなう体制がないことなど。
【0012】
このように、HIV−2に関して行われた種々の研究の中で得られた結果は、HIV−2プロテアーゼの特定の変異と、耐性表現型との間の相関を定式化することを可能にするのに十分な一貫性がなかった。
【0013】
疾病の進行はHIV−1に感染した個体においてよりもHIV−2に感染した個体において遅いので、T CD4細胞の計数および血漿ウイルス量の決定は、処置中の患者の中に耐性株が出現することをすぐには考慮しないということに留意されたい。
【0014】
感染した患者から単離されたHIV株の耐性プロファイルを、表現型判定を通して提供する会社が、現在、いくつか存在する。概念上は、上記3つの試験は互いに似ており、それらは、各プロテアーゼ阻害剤が、患者を感染させるウイルスのプロテアーゼを含む感染性の組み換えウイルスの放出を阻害することができる能力に基づく。それらの会社は、Phenoscript(商標)を製造するユーロフィン−ブイアイアール・アライアンス(EUROFINS−Viralliance)(フランス)、Antivirogram(商標)を製造するヴィルコ−ジョンソン・エンド・ジョンソン(Virco−Johnson & Johnson)(ベルギー−米国)、およびPhenosense(商標)を製造するモノグラム・バイオサイエンシズ(Monogram Biosciences)(元ヴィロロジック(Virologic))(米国)である。これら3つの場合、それらの試験を実施するためには、大きな物流機構、分子生物学およびウイルス学に熟知した人材、およびP3レベルが確保された試験室タイプという高価な基幹施設(プロファイルの完成には、現在、1試料あたり800〜1,000ユーロの費用がかかることになろうと思われる)が必要である。生物由来物質が試験室に到着する時と、耐性プロファイルが確立される時との間に存在する遅延は、HIV−1の各株については、2週間〜3週間の間で変わる。
【0015】
これらの状況下で、信頼性が高く高速の試験、例えば、実施するのが簡単で、かつ安価である表現型判定試験を市場に出すことは、急を要するものになった。このような試験は、処置する医師が、特に貧しい集団について、レトロウイルス、特にHIV−1またはHIV−2、に感染した患者の中での耐性株の出現をモニターすることを支援することになろう。さらに、この試験は、レトロウイルスプロテアーゼに対する阻害活性を有する新しい分子に向けた「高速」かつ/または「高スループット」研究のためにも使用することができるであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Ancelle R、O Bletry、A C Baglin、F Brun−Vezinet、M A ReyおよびP Godeau、「Long incubation period for HIV−2 infection」、Lancet.、1987年、第1巻、688−9頁
【非特許文献2】Marlink R、P Kandki、I Thior、K Travers、G Eisen、T Siby、I Traore、C C Hsieh、M C DiaおよびE H Gueye、「Reduced rate of disease development after HIV−2 infection as compared to HIV−1」、Science、1994年、第265巻、1587−90頁
【非特許文献3】Adjorlolo−Johnson G、K M De Cock、E Ekpini、K M Vetter、T Sibailly、K Brattegaard、D Yavo、R Doorly、J P WhitakerおよびL Kestens、「Prospective comparison of mother−to−child transmission of HIV−1 and HIV−2 in Abidjan、Ivory Coast」、JAMA、1994年、第272巻、462−6頁
【非特許文献4】Marlink、R.、「Lessons from the second AIDS virus, HIV−2」、AIDS、1996年、第10巻、689−99頁
【非特許文献5】Andersson S、H Norrgren、Z da Silva、A Biague、S Bamba、S Kwok、C Christopherson、G Biberfeld、およびJ Albert、「Plasma viral load in HIV−1 and HIV−2 singly and dually infected individuals in Guinea−Bissau, West Africa: significantly lower plasma virus set point in HIV−2 infection than in HIV−1 infection」、Arch.Intern.Med.、2000年、第160巻、286−93頁
【非特許文献6】Popper S J、A D Sarr、K U Travers、A Gueye−Ndiaye、S Mboup、M E Essex、およびP J Kanki、「Lower human immunodeficiency virus (HIV) type 2 viral load reflects the difference in pathogenicity of HIV−1 and HIV−2」、J Infect Dis.、1999年、第180巻、1116−21頁
【非特許文献7】Vittinghoff E、S Scheer、P O’Malley、G Colfax、S D HolmbergおよびS P Buchbinder、「Combination antiretroviral therapy and recent declines in AIDS incidence and mortality」、J Infect Dis.、1999年、第179巻、717−20頁
【非特許文献8】Blanco R、Carrasco,L、およびVentoso,I.、「Cell killing by HIV−I protease」、J.Biol.Chem.、2003年、第278巻、1086−93頁
【非特許文献9】Liu H、Krizek J、およびBretscher A.、「Construction of a GAL1−regulated yeast cDNA expression library and its application to the identification of genes whose overexpression causes lethality in yeast」、Genetics、1992年、第132巻、665−673頁
【非特許文献10】Clavel F、D Guetard、F Brun−Vezinet、S Chamaret、M A Rey、M 0 Santos−Ferreira、A G Laurent、C Dauguet、C Katlama、およびC Rouzioux、「Isolation of a new human retrovirus from West African patients with AIDS」、Science、1986年、第233巻、343−6頁
【非特許文献11】Langley C L、E Benga−De、C W Critchlow、I Ndoye、M D Mbengue−Ly、J Kuypers、G Woto−Gaye、S Mboup、C Bergeron、K K Holmes、およびN B Kiviat、「HIV−1, HIV−2, human papillomavirus infection and cervical neoplasia in high−risk African women」、AIDS、1996年、第10巻、413−7頁
【非特許文献12】Poulsen A G、B Kvinesdal、P Aaby、K Molbak、K Frederiksen、F DiasおよびE Lauritzen、「Prevalence of and mortality from human immunodeficiency virus type 2 in Bissau, West Africa」、Lancet、1989年、第1巻、827−31頁
【非特許文献13】Wilkins A、D Ricard、J Todd、H Whittle、F Dias、およびA Paulo Da Silva、「The epidemiology of HIV infection in a rural area of Guinea−Bissau」、AIDS、1993年、第7巻、1119−22頁
【非特許文献14】Soriano V、P Gomes、W Heneine、A Holguin、M Doruana、R Antunes、K Mansinho、W M Switzer、C Araujo、V Shanmugam、H Lourenco、J Gonzalez−LahozおよびF Antunes、「Human immunodeficiency virus type 2 (HIV−2) in Portugal: clinical spectrum, circulating subtypes, virus isolation, and plasma viral load」、J.Med.Virol.、2000年、第61巻、111−6頁
【非特許文献15】Palella F J,Jr、K M Delaney、A C Moorman、M O Loveless、J Fuhrer、G A Satten、D J AschmanおよびS D Holmberg、「Declining morbidity and mortality among patients with advanced human immunodeficiency virus infection. HIV Outpatient Study Investigators」、N.Engl.J.Med.、1998年、第338巻、853−60頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
出願人らは、分子に対するHIVレトロウイルスの分離株の感受性または耐性を判定する方法であって、a)研究するべきレトロウイルスのプロテアーゼをコードする配列を、アミノ酸配列が存在している前駆体の切断部位の上流および下流に存在しているそのアミノ酸配列のうちの一部とともに、またはそのアミノ酸配列のうちの一部を伴わずに、増幅する工程と、b)DNAの断片と、上記増幅の最終産物と、研究するべきレトロウイルスのプロテアーゼをコードする配列の発現を、公知の誘導性プロモーターの制御下で許容する発現ベクターとを、当該ベクターおよびDNA断片と少なくとも1つの酵母細胞との同時形質転換を介して、組み換える工程と、c)同時形質転換された酵母細胞を培養して、感受性または耐性の試験を実施するのに十分な数の形質転換体を得て、そして同時形質転換された細胞から生じる形質転換体を、任意の適切な培地上に回収する工程と、d)試験するべき分子の存在下で、当該形質転換体をインキュベーションする工程と、e)当該生細胞を定性的にまたは定性的に分析する工程と、f)感受性または耐性の表現型を推定する工程と、を含む方法を提供する。
【0018】
出願人らは、当該方法を実施する診断用キットであって、配列番号38、39、40、41、42、48、51、52、53、54、55、56、57および58からなる群から選択されるヌクレオチドプライマーと、少なくとも1つの発現ベクターと、少なくとも1つの酵母株と、少なくとも1つの多穴プレートまたは他の支持体とを含む、キットをも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】誘導性プロモーターGal1の制御下のHIV−2プロテアーゼの配列を有する形質転換された酵母細胞を得るための、NotI制限酵素によって切断されたpRS316−Gal1/10Mベクターと第2のPCRの産物との同時形質転換の略図である。
【図2】誘導性プロモーターGal1の制御下でHIV−2プロテアーゼの配列を有する形質転換された酵母細胞を得るための、NotI制限酵素によって切断されたpRS316−Gal1/10Mベクターと第2のPCRの産物との同時形質転換の略図である。
【図3】生細胞および死細胞の計数ならびに表現型の判定の略図である。
【図4】診断用キットの略図である。
【図5a】阻害剤濃度の関数としての、生細胞の百分率の、一対のグラフを示す。
【図5b】阻害剤に対する耐性に応じた、細胞成長の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願人らは、酵母の使用による、分子に対するレトロウイルス(HIVなど)の感受性または耐性を判定するための方法、ウイルスプロテアーゼ阻害剤に基づく治療的処置を提供する。換言すれば、本出願人らは、分子および/または治療プロトコルの中で使用される化学分子に対するウイルスプロテアーゼの耐性または感受性を判定するための、酵母の使用を提供する。本出願人らは、当該方法を実施するために必要な要素を含む診断用キットも提供する。
【0021】
より具体的には、当該方法によって、感染した患者の中でのHIV−2プロテアーゼの耐性表現型を、素早くかつ低費用で判定することが可能になる。当該方法によって、感染した患者の中でのHIV−1プロテアーゼの耐性表現型を、素早くかつ低費用で判定することも可能になる。さらに、当該方法により、新規な治療的処置を開発するという観点からの、ウイルスプロテアーゼに対する阻害活性を有する新しい化学分子に向けた「高速」かつ/または「高スループット」の研究が可能になる。
【0022】
従って、本出願人らは、酵母の使用によって、感染した患者の中でのHIV−2プロテアーゼまたはHIV−1プロテアーゼの耐性表現型の、迅速かつ低費用の決定を可能にする手段を提供する。当該方法は、HIV−1プロテアーゼ、または任意の他のレトロウイルスのプロテアーゼの耐性表現型を判定するために実施することもできる。
【0023】
いくつかの治療標的、例えば、逆転写酵素プロテアーゼ、およびインテグラーゼ、ならびにいわゆる「構造タンパク質」(マトリクス、カプシド、ヌクレオカプシド)をコードする配列は、gag−polウイルス遺伝子によってコードされるGag−Polと呼ばれる共通のポリペプチド前駆体内に存在している(Clavel F、Guyader M、Guetard D、Salle M、Montagnier L、Alizon M.、「Molecular cloning and polymorphism of the human immune deficiency virus type 2」、Nature、1986年、第324巻、691−5頁)。その前駆体の種々の構成要素の一次配列を構成する切断部位と呼ばれる特定のペプチド結合の加水分解によって、これらのタンパク質の放出に関与するのが、ウイルスプロテアーゼの作用である(Oroszlan SおよびLuftig RB、「Retroviral proteinases」、Curr Top Microbiol Immunol.、1990年、第157巻、153−85頁)。HIV−1プロテアーゼについては、この切断部位の上流および下流に存在しているアミノ酸配列が、酵素がその基質を認識する事象において重要な役割を果たし、それゆえそのタンパク質分解活性についての決定因子であるということが示されている(Pettit S C、Simsic J、Loeb D D、Everitt L、Hutchison CA 3rd、Swanstrom R.、「Analysis of retroviral protease cleavage sites reveals two types of cleavage sits and the structural requirements of the P1 amino acid」、J.Biol.Chem.、1991年、第266巻、14539−47頁、Pettit S C、Moody M D、Wehbie R S、Kaplan A H、Nantermet P V、Klein C A、Swanstrom R.、1994年)。1型ヒト免疫不全ウイルスGagのp2ドメインは、逐次的なタンパク質分解性のプロセシングを制御し、十分に感染性のウイルス粒子(ビリオン)を生成するために必要とされる(J Virol.、第68巻、8017−27頁、Moody M D、Pettit S C、Shao W、Everitt L、Loeb D D、Hutchison C A 3rd、Swanstrom R.、1995年)。1型ヒト免疫不全ウイルスプロテアーゼフラップの48位にある側鎖は、付加的な特異性決定因子を提供する(Virology、第207巻、475−85頁、Boross P、Bagossi P、Copeland T D、Oroszlan S、Louis J M、Tozser J.、「Effect of substrate residues on the P2’ preference of retroviral proteinases」、Eur J Biochem.、1999年、第264巻、921−9頁)。
【0024】
2003年に現れた科学論文は、酵母Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ、出芽酵母)によるHIV−1プロテアーゼの発現が、未だ知られていない機構を通して酵母Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ、出芽酵母)の死を引き起こし、その結果が、当該酵母の細胞溶解であるということを示した(Blanco R、Carrasco LおよびVentoso I.、「Cell killing by HIV−1 protease」、J.Biol.Chem.、2003年、第278巻、1086−93頁)。
【0025】
本出願人らは、その酵母がHIV−2プロテアーゼを発現するときに同じ現象が起こるということを示した。その結果、ウイルス酵素の触媒的部位を修飾することによってウイルス酵素による活性を阻害することにより、本出願人らは、この細胞事象の出現を予防することに成功した。
【0026】
加えて、Blancoら(Blanco R、Carrasco L、およびVentoso I、「Cell killing by HIV−1 protease」、J.Biol.Chem.、2003年、第278巻、1086−93頁)は、抗HIV治療で使用される阻害剤のうちの1つによるHIV−1プロテアーゼの阻害が、そのウイルスプロテアーゼの発現によって引き起こされる酵母の細胞死を阻害するということも示した。この事実のため、種々の阻害された分子に対する感染した個体のプロテアーゼの感受性および耐性を定量的に測定することが可能である。
【0027】
さらに、本出願人らは、ひとたび酵母の中で発現されると、プロテアーゼ活性を通して細胞死を誘導する最小の活性なGag−Pol前駆体に関して研究した。機能的プロテアーゼ前駆体タンパク質の定義は、プロテアーゼが逐次的に切断されるもととなる可能性がありかつその後に当該発現酵母を死滅させうるもの、であるので、本出願人らは、特定の核酸変異によってプロテアーゼ切断部位が存在するかまたは存在しない非常に多くの切断されたGag−Pol前駆体を作製し、酵母の中で発現させた。本出願人らは、驚くべきことに、当該プロテアーゼ配列のN末端部分に存在している切断部位が存在するときに酵母細胞の死を誘導するに過ぎないその前駆体の切断部位に隣接するプロテアーゼを含有する、最も小さい活性なプロテアーゼ前駆体が、最小のGag−Pol配列として定められるということを見出した。この最小のGag−Pol配列が存在下しないと、発現された前駆体は、細胞成長を妨げることができない。
【0028】
本出願人らは、驚くべきことに、切断部位の6つのアミノ酸で始まり他の切断部位の少なくとも1つのアミノ酸がそれに続くプロテアーゼをコードする配列が、酵母の中で発現されたときに細胞死を誘導する最も小さい活性な前駆体の形態であるということを見出した。
【0029】
それゆえ本発明の方法によって、酵母の細胞に関して、阻害活性を有する薬物に対する、HIV−2またはHIV−1などのレトロウイルスのウイルスプロテアーゼの感受性表現型を判定することが可能になる。
【0030】
換言すれば、本発明の方法によって、ウイルスプロテアーゼに対する阻害活性を有する化学分子に対する、またはウイルスプロテアーゼの阻害剤に基づく治療的処置に対する、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)などのレトロウイルスの分離株の感受性または耐性を判定することが可能になり、当該方法は、この目的のための、レトロウイルスプロテアーゼの発現によって細胞溶解が引き起こされる少なくとも1つの酵母の使用を特徴とする。
【0031】
本出願人らは、驚くべきことに、プロテアーゼをコードする特定の配列だけでなく、発現ベクターに組み込まれたときのHIV−1プロテアーゼの前駆体配列も、酵母の中で進行する同時形質転換を介して、プロテアーゼの発現を可能にし、その酵母の死を引き起こすということを見出した。換言すれば、出願人らは、例えば感染した血液または細胞から抽出されたプロテアーゼHIV−1コード配列を含む配列が酵母の中で機能的に発現されるということを見出した。
【0032】
それゆえ、本発明の方法により、レトロウイルスプロテアーゼの自然の基質の存在下で、細胞ベースの非感染系において、分子に対するそのレトロウイルスプロテアーゼの感受性または耐性を判定することが可能になる。さらには、本発明の方法により、プロテアーゼの活性およびそのプロテアーゼの発現に対する効果を有する分子を試験することが可能になる。さらに、本発明の方法により、例えば、プロテアーゼ前駆体であるプロテアーゼの自然の基質に対するプロテアーゼの活性に対して直接の効果を有する分子を試験することが可能になる。例えば、当該方法により、プロテアーゼをコードする配列、および/またはプロテアーゼ前駆体をコードする配列に対して作用することにより、プロテアーゼの翻訳に対して作用することにより、転写メカニズムにおよび/またはプロテアーゼ活性に対して作用することにより、プロテアーゼの活性を阻害する分子を試験することが可能になる。
【0033】
さらに、本発明の方法により、例えばプロテアーゼをコードする核酸配列およびプロテアーゼ前駆体をコードする核酸配列の中に少なくとも1つの変異を有するプロテアーゼの感受性または耐性の判定が可能になる。
【0034】
概略的に、当該方法は、発現ベクター、細胞系の選択、感染した個体のプロテアーゼを発現する方法および薬物に対する易罹患性の試験を含む。
【0035】
当該方法は、以下の工程を含む:
任意に、レトロウイルスに感染した個体または動物から採取された体液または細胞(血液など)から、任意の適切な手段によって核酸、DNAおよび/またはRNAを抽出する工程;
研究するべきレトロウイルスのプロテアーゼをコードする配列を増幅する工程;
当該DNAの断片と、上記増幅の最終産物と、研究するべきレトロウイルスのプロテアーゼ、および/またはいずれの形態または長さのプロテアーゼ前駆体をコードする配列の発現を、公知の誘導性プロモーターの制御下で許容する発現ベクターとを、当該ベクターおよびDNA断片と、レトロウイルスプロテアーゼの発現によって細胞溶解が引き起こされる少なくとも1つの酵母細胞との同時形質転換を介して、組み換える工程;
同時形質転換された酵母細胞を培養して、感受性または耐性の試験を実施するのに十分な数の形質転換体を得て、そして同時形質転換された細胞から生じる形質転換体を、任意の適切な培地上に回収する工程;
好ましくは増加する濃度の、試験するべき各分子の存在下で、当該形質転換体をインキュベーションする工程;
当該生細胞を定性的にまたは定性的に分析する工程;および
耐性表現型を推定する工程。
【0036】
核酸は、レトロウイルスに感染した細胞、および/もしくは感染した個体もしくは動物由来の体液、および/もしくは感染した個体もしくは動物由来の血液から、ならびに/または感染した培養細胞培地から抽出されてもよい。
【0037】
「試験分子」とも呼ばれる試験するべき分子は、ライブラリーの分子、化学分子、天然分子および植物から抽出された分子を含む群から選択される。
【0038】
試験分子は、ウイルスプロテアーゼに対する阻害活性を有する化学分子、ウイルスプロテアーゼの阻害剤またはウイルス成熟の阻害剤に基づく治療的処置を含む群から選択されてもよい。
【0039】
当該方法に従って増幅されるプロテアーゼの配列としては、単離されたタンパク質をコードする配列、またはそのタンパク質をコードしかつアミノ酸配列が存在しているタンパク質前駆体の切断部位の上流および下流に存在しているそのアミノ酸配列のすべてもしくは一部を含む配列が挙げられる。
【0040】
このレトロウイルスはHIV−1であってもよい。
【0041】
当該方法に係る、研究するべきレトロウイルスのプロテアーゼをコードする増幅された配列は、変異配列または非変異配列であることができる。研究するべきレトロウイルス、例えばHIV−1のプロテアーゼをコードする増幅された配列は、配列番号10〜37を含む群から選択されてもよい。
【0042】
当該方法で使用される酵母は、Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)の種類の酵母であってもよい。
【0043】
核酸は、例えば配列番号38、39、40、41、42、48、51〜58を含む群から選択されるプライマーの組を使用するポリメラーゼ連鎖反応によって増幅されてもよい。
【0044】
外来の遺伝子をコードする酵母形質転換体を得るという観点で試験室で使用されるプロトコルは、一般に、遺伝子増幅(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術)によって、または注目する配列を含有するDNAを切る制限酵素の作用による遺伝子の放出によって、注目する遺伝子をコードするDNAの断片を得るための第1の工程で始まる。この第1の工程は、時間では、半日の作業に相当する。
【0045】
次いで、放出されるDNA断片は、DNAリガーゼ酵素の作用(一晩続く操作)により発現ベクターの中でサブクローニングされ、この反応の産物は、細菌の形質転換後にその細菌の中で増幅される(プラスミドDNAが組み込まれた細菌を得るために1日、ならびに求められる、注目する遺伝子をコードするプラスミドを含有する形質転換体を得て特性解析するのに1日半)。
【0046】
さらに、酵母の形質転換の観点で十分な量の、注目する遺伝子を含有するプラスミドを生成するために、それまでの工程で得られた細菌クローンは、(一晩)増幅されてもよく、当該プラスミドは、従来の公知の方法(1日)によって精製されてもよい。
【0047】
得られた精製されたプラスミドは、次いで、選択された酵母株を形質転換するために使用される(1/2日)。
【0048】
形質転換された酵母株は、形質転換事象からおよそ4日後に得られる。
【0049】
その結果、当業者にとっては周知である従来のプロトコルを使用することにより、注目する遺伝子のその後の研究のために、例えば感受性または耐性の試験を開発するために、十分な量の酵母形質転換体を得ることが可能であり、注目する遺伝子をコードするDNA断片の調製とそのDNA断片を発現する酵母株を得ることとの間に経過する時間は最短で8日間である。さらに、上に開示されたように、いくつかの技術が使用される。
【0050】
これらの遅延の大きさおよび使用される技術の多重性は必然的に高い生産費用を生じ、これは、実施するのが簡単でおよび安価な、迅速な感受性または耐性の試験の開発とは合致しない。
【0051】
換言すれば、酵母形質転換体を得る先行技術の方法は望ましくない。
【0052】
当該形質転換体の培養は、例えば、液体培地および/または固形培地の中で行うことができる。本発明の方法で使用される培地は、いずれかの公知のかつ当該形質転換体の培養に適した培地、例えば、炭素源(グルコースまたはガラクトースなど)を含有しかつ特定の栄養分、例えば、ウラシルを欠くかまたは欠かない最小合成培地(minimal synthetic media)であることができる。
【0053】
「定性的または定量的な分析」は、当該技術分野で公知の生細胞のいずれかの分析を意味する。例えば、「定性的または定量的な分析」は、例えば液体培地の吸光度を、例えば600nmで測定することにより、または目視で数えることにより、形質転換体が、例えば固形培地上で培養されるときの観察により、生細胞を数えるまたは採点する工程であることができる。「定性的または定量的な分析」は、例えば、試験分子に対する当該形質転換体の感受性についての試験室試験または試験分子の使用を伴う別の方法の結果であることもできる。例えば、「定性的または定量的な分析」は、拡散に基づく半定量的な方法(Kirby−Bauer法)であることができる;試験分子を含有する小ディスクまたは含浸したペーパーディスクを、例えば寒天板(これは、当該形質転換体が成長することができる栄養分豊富な環境である)上の培養液の異なるゾーンに落とされる。試験するべき分子は、各ディスクを取り囲む領域に拡散する。「定性的または定量的な分析」は、例えば、希釈に基づく定量的な方法であることもできる:試験するべき分子の希釈系列が、つまり、例えば一系列の漸次的に下がる分子物質の濃度を有する反応バイアルが、確立される。
【0054】
プロテアーゼの感受性または耐性は、例えば50%阻害濃度(IC50)を測定することにより、分子とインキュベーションした形質転換体と分子とインキュベーションしていない形質転換体との間で生細胞数を比較することにより、推定することができる。
【0055】
酵母が「切断されたDNA」(ニックの入ったDNA)を相同組み換えメカニズムによって修復する能力についての研究を考慮して、本出願人らは、この細胞事象の際に、DNA分子は、相同配列を「ニッキング」部位に導入することおよび別のDNA分子の中に取り込まれることにより、その配列の中の正確な位置で修復されるということを見出した。明確な配列が、両側で、「ニッキング」部位の周囲に存在している配列と同一の配列によって構成されているのであれば、この生理現象を使用することにより、明確な配列を「ニックの入った」DNA内に導入することが可能である。
【0056】
組み換え事象が起こることができるための、2つのDNA分子に存在する相同配列の最小サイズは、およそ30〜40塩基対である。
【0057】
この技術は、非常に有利なことに、特に操作の数を低減させることにより形質転換体を得ることを簡単にし、これは、必要な実験時間(公知のプロトコルと比べておよそ半分)および生産費用の著しい低減を伴う。この技術の使用により、非常に多くの試料を同時に取り扱うことも可能になる。
【0058】
本発明の方法の実施の好ましい例の詳細な説明が以下に提供される。
【実施例】
【0059】
実施例1
この実施例は、発現されたプロテアーゼが単離されたタンパク質であるとき、好ましく使用される。このプロテアーゼが、切断部位を含有するタンパク質前駆体のその切断部位の上流および下流に存在しているアミノ酸配列のすべてまたは一部とともに発現される場合、上で開示されたプライマーおよびヌクレオチド断片は、それに応じて改変されることになる。
【0060】
1)発現ベクターの調製および修飾:
修飾の目的は、研究した各感染した個体を感染させているウイルスに由来するプロテアーゼの遺伝子をサブクローニングできるようにし、かつ得たプロテアーゼ遺伝子を用いて、簡単でかつ迅速な手順(一工程手順)によって、酵母を形質転換できるようにすることである。
【0061】
本出願人らは、発現するべき遺伝子のクローニング部位の5’位に誘導性プロモーターGAL1/10を含むベクターpRS316−Gal1/10(Liu H、Krizek J、およびBretscher A.、「Construction of a GAL−1 regulated yeast cDNA expression library and its application to the identification of genes whose overexpression causes lethality in yeast」、Genetics、1992年、第132巻、665−673頁)の改変版を作成した。
【0062】
このため、細胞がこのベクターを用いてガラクトースの存在下で形質転換されるとき、当該ウイルス遺伝子は発現され、細胞が炭素源としてのグルコースの存在下で形質転換されるとき、当該遺伝子は発現されない。
【0063】
増幅したウイルスのDNAの断片が相同組み換えによって発現ベクターに挿入されることが可能なように、このベクターは、このベクターに、誘導性プロモーターの配列の直後に、およそ40塩基対のプライマー5’、次いで(このベクターを直線化することができるための)1つの制限酵素部位、およびおよそ40塩基対のプライマー3’を付加することにより、改変する必要がある。この改変して直線化したベクターは、相同組み換え事象にとっては良好な基質であるが、5’位(遺伝子とプロモーターとの間)に導入される配列は、この遺伝子の転写を阻害してはならない。
【0064】
発現ベクターpRS316−Gal 1/10の改変版を生成するために、本出願人らは、この部位のBamHI−Sac1断片を、同じく(5’から3’へ):
−当該ベクターの中でユニークな、BamH1制限酵素部位、次いで
−当該プロテアーゼのすぐ上流に存在しているHIV−2配列の35〜45ヌクレオチド、次いで
−当該ベクターの中でユニークな、NotI制限酵素部位、次いで
−当該プロテアーゼのすぐ下流に存在しているHIV−2配列の35〜45ヌクレオチド、次いで
−当該ベクターの中でユニークな、Sac1制限酵素部位
を含有する、BamH1−Sac1制限酵素部位によって構成される別のDNA断片と交換した。
【0065】
およそ80〜90塩基対というこの断片のサイズへの改変は、実験上のクローニング、形質転換および発現系を最適化するために行った。試験した10種の異なる改変した断片のうちのただ1つの改変した断片が、当該ウイルスプロテアーゼの相同組み換えおよび発現のためには十分であった。
【0066】
この断片の配列は以下のとおりである:
(配列番号1)
5’GGATCCGGAGACACCATACAGGGAGCCACCAACAGCGGCCGCAGTAGAGCCAATAAAAATAATGCTAAAGCGAGCTC 3’
このように改変したpRS316−Gal1/10発現ベクターをpRS316−Gal1/10Mと呼ぶ。
【0067】
2)細胞系の選択
当該ウイルスプロテアーゼを発現する形質転換体の選択を可能にするために必要な栄養素要求性マーカーを有する任意の酵母株、好ましくはSaccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)のいずれかの株。
【0068】
3)レトロウイルスに感染した個体のプロテアーゼのサブクローニング、および一工程での酵母の形質転換
当該HIV−2プロテアーゼをコードするDNA配列を、PCR技術によって2回増幅する。
【0069】
第1の増幅で、なかりの量のDNAが生成する。この反応は、感染した個体の末梢血のリンパ球から抽出したDNAを使用して行う。使用したヌクレオチドプライマーは下記の種類のものである:
(配列番号2)
センスプライマー:5’−GAAAGAAGCCCCGCAACTTC−3’
(配列番号3)
アンチセンスプライマー:5’−GGGATCCATGTCACTTGCCA−3’。
【0070】
第2の増幅は、転写の開始コドン(ATG)および転写の終止コドン(TAA)をもつプロテアーゼを構成し、そして両側に、本出願人らがベクターを改変したときに本出願人らがそのベクターに導入したおよそ40ヌクレオチドの配列を付加する。このPCR反応は、下記の種類のプライマーを用いて、第1のPCRの産物に対して行う:
(配列番号4)
センスプライマー:5’−GAGGATCCGGAGACACCATACAGGGAGCCACCAACAGCGGCCGCGCCATGCCTCAATTC−3’
(配列番号5)
アンチセンスプライマー:5’GCGGAGCTCGCTTTAGCATTATTTTTATTGGCTCTACTGCGGCCGCTTAAGATT−3’。
【0071】
開始コドンおよび終止コドンによってプロテアーゼを構成することは、単離したプロテアーゼまたは切断部位が存在している前駆体のその切断部位の上流および下流に存在しているアミノ酸配列のすべてもしくは一部を含むタンパク質を構成することである。
【0072】
NotI制限酵素によって切断されたpRS316−Gal1/10Mベクターと第2のPCRの産物との同時形質転換により、細胞の中で起こる相同組み換え事象を通して、誘導性プロモーターGalの制御下のHIV−2プロテアーゼの配列を保有する形質転換された酵母細胞を得ることが可能になる(図1および図2)。
【0073】
4)試験
末梢血の試料を、HIV−2に感染した個体から採取する。この試料採取から生じるリンパ球を精製するかまたは精製せず、そしてそれらのDNAを公知の方法によって抽出する。
【0074】
このDNAは2つの上述のPCR反応を経て、切断部位が存在している前駆体のその切断部位の上流および下流に存在しているアミノ酸配列の一部を有するかまたは有しないプロテアーゼの配列を保有しかつ形質転換された細胞の中で相同組み換えの現象を引き起こすために発現ベクターと適合する、DNAの断片を作製する。
【0075】
第2のPCRの産物の精製後、遺伝子型ura3を有する酵母株を、pRS316Gal1/10M線状ベクター(そのNotI部位による)を用いて同時形質転換する。
【0076】
当該プロテアーゼを産生する可能性がある形質転換体を、例えば寒天から構成されるゲロース、炭素源としてのグルコース、およびウラシルを欠く合成環境などのいずれかの適切な担体上に回収する。
【0077】
1つの形質転換体から生じるおよそ10細胞を、96穴プレートを用いて、12のウェルに入れて分配し、試験するべき各阻害剤の11の増加する濃度の存在下で、ガラクトース中でインキュベーションする。12番目のウェルは、阻害剤をまったく含有しない。
【0078】
30℃で36〜48時間後、この生細胞を、600nmでのデンシトメトリー法による読み取りによって数える(図3)。
【0079】
薬物の不存在下でかつグルコースの存在下での細胞成長と比べて、これらの条件下で細胞成長の半分を阻害するために必要な用量(IC50)は、この特定の株の易罹患性または耐性を決定する。
【0080】
この試験を、この試料採取から生じる、精製されたかまたは精製されていない血漿に対しても行い、そしてそれらのRNAまたはDNAを公知の方法によって抽出した。この場合、これらの核酸は、それらがRNAタイプのものであれば上述のRT−PCRおよびPCR反応を受け、それらがDNAタイプのものであればRT段階はなかった。
【0081】
採血と耐性プロファイルの決定との間の時間間隔は、わずか一週間であった。
【0082】
実施例2
この実施例では、発現ベクターを以下のとおりに修飾した。
【0083】
ベクターpRS316−Gal1/10の第1の改変版を、このベクターのBamH1−Sac1断片を、同じく(5’から3’へ):
−当該ベクターの中でユニークな、BamH1制限酵素部位、次いで
−HIV−1プロテアーゼコード配列の後に存在しているアミノ酸をコードする約40ヌクレオチド、次いで
−終止コドン、次いで
−当該ベクターの中でユニークな、Sac1制限酵素部位
を含有する、BamH1−Sac1制限酵素部位によって構成されるDNA断片と交換することにより作製した。
【0084】
プロテアーゼコード配列の後に存在しているアミノ酸をコードするヌクレオチド配列の修飾を、実験上のクローニング、形質転換および発現系のために行った。当該プロテアーゼコード配列およびそれに続く13のアミノ酸からなる、ウイルスプロテアーゼの前駆体形態の選択された相同組み換えおよび発現のために作製し試験したいくつかの改変した断片の中から、1つの例として:
(配列番号56)
5’−GATCCCTATTGAGACTGTACCAGTAAAATTAAAGCCAGGAATGGATTAAGAGCTC−3’(pRS316−Gal1/10 M−3の作製用)
が挙げられる。
【0085】
ベクターpRS316−Gal1/10の第2の改変版を、このベクターのBamH1−Sac1断片を、同じく(5’から3’へ):
−当該ベクターの中でユニークな、BamH1制限酵素部位、次いで
−開始コドン、次いで
−HIV−1プロテアーゼコード配列の前に存在しているアミノ酸をコードするおよそ20ヌクレオチド、次いで
−当該ベクターの中でユニークな、XhoI制限酵素部位、次いで
−HIV−1プロテアーゼコード配列の後に存在しているアミノ酸をコードするおよそ40ヌクレオチド、次いで
−終止コドン、次いで
−当該ベクターの中でユニークな、Sac1制限酵素部位
を含有する、BamH1−Sac1制限酵素部位によって構成されるDNA断片と交換することにより作製した。
【0086】
プロテアーゼコード配列の前後に存在しているアミノ酸をコードするヌクレオチド配列の修飾を、実験上のクローニング、形質転換および発現系のために行った。ウイルスプロテアーゼの前駆体形態、この場合は配列番号15のタイプの短鎖前駆体、の選択された相同組み換えおよび発現のために作製し試験したいくつかの改変した断片の中から、1つの例として:
(配列番号57)
GGATCCATGTGGGGTAGAGACAACAACTCCCTCGAGTCCTATTGAGACTGTACCAGTAAAATTAAAGCCAGGAATGGATTAAGAGCTC(pRS316−Gal1/10M−4の作製用)
が挙げられる。
【0087】
2)細胞系の選択
当該ウイルスプロテアーゼを発現する形質転換体の選択を可能にするために必要な栄養素要求性マーカーを有する任意の酵母株、好ましくはSaccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)のいずれかの株。この実施例では、Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)を使用した。
【0088】
3)レトロウイルスに感染した個体のプロテアーゼのサブクローニング、および一工程での酵母の形質転換
HIVプロテアーゼをコードする核酸配列、またはその前駆体形態のいずれかを、RT−PCR技術、次いで実施例1にあるようなPCR反応によって増幅した。
【0089】
RT−PCR反応のために使用したヌクレオチドプライマーは、下記の種類のものである:
(配列番号52)
プライマー5’GP7:ATGATGACAGCATGTGAGGGAG、および
(配列番号53)
プライマー3’R772:CCTGAAAATCCATAYAAYAC。
【0090】
第2のPCR反応は、下記の種類のプライマーのいずれかを用いて、第1のPCRの産物に対して行う:
(配列番号55)
プライマーR2139S1:GAGCTCTTAATCCATTCCTGGCTTTAATTTTACTGGTACAGTTTCAATTGGAC、および
(配列番号58)
プライマー5’F−pc−rh:TATACTTTAACGTCAAGGAGAAAAAACCCCGGATCCATGTGGGGTAGAGACAACAACTCC
または、下記の種類のプライマー:
(配列番号55)
プライマーR2139S1:、および
(配列番号42)
プライマー5’F3:TATACTTTAACGTCAAGGAGAAAAAACCCCGGATCCTTTAACATGCCTCAGATC。
【0091】
1つの場合では、プライマー配列番号42および55を用いて実施した、BamH1制限酵素によって切断したpRS316−Gal1/10M−3ベクターと、第2のPCRの産物との同時形質転換により、細胞の中で起こる相同組み換え事象を通して、誘導性プロモーターGalの制御下の、当該プロテアーゼコード配列、およびそれに続く13のアミノ酸からなる、HIV−1プロテアーゼの前駆体形態の配列を保有する形質転換された酵母細胞を得ることが可能になる。
【0092】
他の場合では、プライマー配列番号54および55を用いて実施した、XhoI制限酵素によって切断したpRS316−Gal1/10M4ベクターと、第2のPCRの産物との同時形質転換により、細胞の中で起こる相同組み換え事象を通して、誘導性プロモーターGalの制御下の、HIV−1プロテアーゼの前駆体形態の配列(配列番号15と同様)を保有する形質転換された酵母細胞を得ることが可能になる。
【0093】
4)試験
末梢血の試料を、HIV−1に感染した個体から採取する。この試料採取から生じる血漿またはリンパ球を精製するかまたは精製せず、そしてそれらのRNAまたはDNAを、キアゲン(QIAGEN)(オランダ)製のQ1Aamp Viral RNA Mini Kitのような、公知の抽出キットによって抽出する。
【0094】
これらのウイルス核酸は、実施例1で明記した処理と同じ処理を受け、当該プロテアーゼ前駆体をコードするDNA配列を増幅させる。
【0095】
第2のPCRの産物の精製後、遺伝子型ura3を有する酵母株を、pRS316Gal1/10M−3線状ベクター(そのBamH1部位による)を用いて同時形質転換するか、またはpRS316Gal1/10M−4線状ベクター(そのXhoI部位による)を用いて同時形質転換する。
【0096】
当該プロテアーゼを産生する可能性がある形質転換体を、例えば寒天から構成されるゲロース、炭素源としてのグルコース、およびウラシルを欠く合成環境などのいずれかの適切な担体上に回収する。
【0097】
1つの形質転換体から生じるおよそ10細胞を、96穴プレートを用いて、12のウェルに入れて分配し、試験するべき各阻害剤の少なくとも8の増加する濃度の存在下で、液体または固体のガラクトース含有培地のいずれかの中でインキュベーションした。1つのウェルは、阻害剤をまったく含有しない。
【0098】
30℃で36〜48時間後、この生細胞を、試験を液体培地中で実施したときは600nmでのデンシトメトリー法による読み取りによって数え(図4)、または試験を固形培地中で実施したときは目視によって数えた。
【0099】
薬物の不存在下でかつグルコースの存在下での細胞成長と比べて、これらの条件下で細胞成長の半分を阻害するために必要な用量(IC50)は、この特定の株の易罹患性または耐性を決定する。
【0100】
採血と耐性プロファイルの決定との間の時間間隔は、わずか一週間であった。
【0101】
実施例3
プロテアーゼ配列増幅の例
1)完全なプロテアーゼ前駆体配列
完全なプロテアーゼ前駆体配列を、実験用ウイルスのpNL4.3 DNA株から、以下のプライマーを使用してPCRによって増幅した:
(配列番号38)
5’プライマー F−GagPol GCGGAGTCTAGAAGGAGAGAGATGGGTGCGAGA、および
(配列番号39)
3’プライマー R−GagPol CTAATCTTTCTCGAGTGTTAATCCTCATCCTGTCTACTTG。
【0102】
使用したPCRプログラムは以下のとおりであった。
【0103】
95℃で3分、次いで35サイクルの、95℃で1分、55℃で30秒、72℃で2分、そして72℃で7分の1ラウンドで終わる。
【0104】
PCR産物(配列番号18)を標準的手順によって精製し、製造業者の推奨手順に従って制限酵素XbaI(インビトロジェン(Invitrogen)、米国)によって消化し、そして一晩のDNAライゲーション(ギブコ(Gibco)、米国製のT4 DNAリガーゼ)を通して、製造業者の推奨手順のとおりに、それまでにXbaIで消化したpRS316−Gal/10ベクターへと導入した。
【0105】
2)プロテアーゼコード配列の始まりで始まり、かつおよびPolコード領域の末端で終わるプロテアーゼ前駆体配列(配列番号37)
精製したDNA構築物に対して、項目1で得たpRS316−Gal/10ベクターの中でPCR反応を実施した。PCR条件および他の実験は、これまでの項目1に記載した条件と同じ条件であった。
【0106】
gag−polコード配列の末端までのプロテアーゼコード配列由来のプロテアーゼ前駆体配列を、以下のプライマーを使用して得た:
(配列番号42)
5’プライマーF3:TATACTTTAACGTCAAGGAGAAAAAACCCCGGAT CCTTTAACATGCCTCAGATC、および
(配列番号43)
3’プライマーM13F:GTTTTCCCAGTCACCACG(増幅工程用)。
【0107】
これらのプライマーは、当該発現ベクターの中のクローニング部位の両側に存在している配列を提供するために選択した。
【0108】
線状のpRS316−Gal1/10ベクター(BamH1で消化した)と、PCR産物との同時形質転換により、細胞の中での組み換え事象によって、誘導性のGalプロモーターの制御下の、前駆体配列を保有する形質転換された酵母を生成した。
【0109】
3)異なるサイズのプロテアーゼ前駆体配列
この実施例では、これまでの項目2で得た構築物を使用した。
【0110】
プロテアーゼで始まりpol領域の末端で終わるgag−pol前駆体配列を含有するプラスミドを、製造業者の推奨手順に従って制限酵素XhoI(インビトロジェン(Invitrogen)、米国)を用いた消化によって直線化した。
【0111】
その後、6μgの直線化したプラスミドを、製造業者の推奨手順に従って、1単位のBal31エキソヌクレアーゼ酵素(バイオラブズ(BioLabs)、米国)を用いて30℃で消化した。2時間のインキュベーションの間、20分ごとに等しい一定分量を採取し、25mM EDTAを用いてこの反応を停止した。これにより、異なるサイズのDNAの部分消化物および断片が生成された。これらの断片は各Bal31消化アリコートの中に存在し、これらを、1μgのDNAに対して50pmolのオリゴヌクレオチドの比で以下の二重鎖オリゴヌクレオチドにライゲーションした:
(配列番号44)
センスGal−gp−rh:TATACTTTAACGTCAAGGAGAAAAAACCCCGGATCCATGTACGATGTACGATG
(配列番号45)
アンチセンスGal−gp−rh:ATATGAAATTGCAGTTCCTCTTTTTTGGGGCCTAGGTACATGCTACATGCTAC
(配列番号46)
センスM13−gp−rh:TAATAGGTAATAGGTAAGAGCTCCAATTCGCCCTATAGTGAGTCGTATTACAAT
(配列番号47)
アンチセンスM13−gp−rh:ATTATCCATTATCCATTCTCGAGGTTAAGCGGGATATCACTCAGCATAATGTTA。
【0112】
これらのオリゴヌクレオチドは、開始コドンおよび終止コドンならびにpRS316−Gal1/10ベクターと同一の配列をさらに含有する。
【0113】
製造業者の推奨手順に従った、BamH1−Sac1酵素によって直線化したpRS316−Gal1/10ベクターと、Kpn1制限酵素(インビトロジェン(Invitrogen)、米国)で予め消化したライゲーション産物との同時形質転換により、細胞で行われる相同組み換えによって、各々が、誘導性プロモーターGalの制御下の、プロテアーゼ配列で始まるgag−pol前駆体の1つのC末端が欠失した形態を保有する形質転換された酵母のライブラリーが生成される。
【0114】
4)Gag−Pol遺伝子転写の天然のオープンリーディングフレームシフトを模倣するための1つの変異(1つのAヌクレオチドの付加)を含む切断されたプロテアーゼ前駆体配列
PCR条件および他の実験は、これまでの項目1に記載した条件と同じであった。
【0115】
1638位に付加的なAヌクレオチドを含有する変異した前駆体配列を作製した。PCR反応のために使用したプライマーは以下のものであった:
(配列番号49)
プライマー5’−a435:CAGGCTAATTTTTTAAGGG、
(配列番号50)
プライマーR−a435:CCCTTAAAAAATTAGCCTG、
(配列番号51)
プライマーF1071B1:GGATCCATGATGACAGCATGTCAGGGAGTGGGAGGACCCGGCCATAAGGCAAGAGTTTTG、および
(配列番号55)
プライマーR2139S1:GAGCTCTTAATCCATTCCTGGCTTTAATTTTACTGGTACAGTTTCAATTGGAC。
【0116】
変異した前駆体を2工程のPCRで作製した。第1のPCRでは、これまでの項目2で得た構築物を鋳型として使用する2つの独立の反応には、当該配列の1638位にさらなるA(アデニン)を導入するために、プライマーの対、1つについては配列番号49および配列番号55、そして2つ目については配列番号50および配列番号51が関与した。
【0117】
これらの2つのPCR産物を混合し、希釈して第2のPCRのための鋳型とし、第2のPCRを、プライマー配列番号51および配列番号55を用いて実現した。新しく得たDNA断片を、製造業者の推奨手順に従ってBamH1およびSac1制限酵素(それぞれ、インビトロジェン(Invitrogen)、米国およびフェルメンタス(Fermentas)、カナダ)で消化し、予め製造業者の推奨手順に従ってBamH1およびSac1制限酵素(それぞれ、インビトロジェン(Invitrogen)、米国およびフェルメンタス(Fermentas)、カナダ)で消化したpRS316−Gal1/10ベクターの中で、製造業者の推奨手順に従って、T4 DNAリガーゼ(ギブソ(Gibso)、米国)を用いてライゲーションした。
【0118】
5)感染した患者由来のHIV−1プロテアーゼの前駆体配列をクローニングする
HIV−1プロテアーゼ前駆体形態コード配列を、実施例2に記載したようにして、感染した患者の血漿から抽出した精製した全RNAから、RT−PCR、次いでPCR反応によって増幅した。
【0119】
このRT−PCR反応のために使用したプライマーは、以下のとおりである:
(配列番号52)
プライマー5’ GP7:ATGATGACAGCATGTGAGGGAG、および
(配列番号53)
プライマー3’ R772:CCTGAAAATCCATAYAAYAC。
【0120】
第2の増幅は、転写の開始コドン(ATG)と転写の終止コドン(TAA)との間にプロテアーゼを構成する。ATGは、当該プロテアーゼの第1のコドンの70ヌクレオチド上に存在していた。TAAは、最後のコドンの150ヌクレオチド下に存在していた。さらに、酵母の中で相同組み換えにより当該ベクターに対応する配列をクローニングするために、この第2の増幅は、両側に、その当該ベクターに対応する配列を付加する。このPCRは、以下のプライマーを用いて、第1のPCR産物に対して行った:
(配列番号55)
プライマーR2139S1:GAGCTCTTAATCCATTCCTGGCTTTAATTTTACTGGTACAGTTTCAATTGGAC、および
(配列番号54)
プライマー5’ F−pc−rh:ATACTTTAACGTCAAGGAGAAAAAACCCCGGATCCATGTGGGGTAGAGACAACAACTCC。
【0121】
実施例4
HIV−1感染した個体由来のプロテアーゼの耐性/感受性を判定する実施例
【0122】
配列番号15のサイズの、短鎖のHIV−1プロテアーゼ前駆体形態のコード配列を、ロピナビル(lopinavir)、サクイナビル(saquinavir)およびダルナビル(darunavir)などのプロテアーゼ阻害剤に対して耐性をもつHIV−1株を保有することがわかっていた感染した患者、つまりP#10、の血漿から抽出した精製した全RNAから、実施例2に記載したとおりに、RT−PCR、次いでPCR反応によって増幅した。
【0123】
あとの手順は、以下のプライマーを使用するが、実施例3(5)に記載したとおりであった:
RT−PCR工程用に、
(配列番号52)
プライマー5’ GP7:ATGATGACAGCATGTGAGGGAG、および
(配列番号53)
プライマー3’ R772:CCTGAAAATCCATAYAAYAC、
ならびに第2の増幅用に、プライマー:
(配列番号55)
プライマーR2139S1:GAGCTCTTAATCCATTCCTGGCTTTAATTTTACTGGTACAGTTTCAATTGGAC、および
(配列番号54)
プライマー5’ F−pc−rh:ATACTTTAACGTCAAGGAGAAAAAACCCCGGATCCATGTGGGGTAGAGACAACAACTCC。
【0124】
得た最終のPCR産物を、実施例2(3)に記載した同時形質転換する一工程手順によって、pRS316−Gal1/10M−4へとクローニングした。形質転換された酵母細胞は、以下の遺伝子型を有する株BY4741(ユーロスカーフ(Euroscarf)、ドイツ)のものであった:MATa、his3.Δ.1、leu2.Δ.0、met15.Δ.0、ura3.Δ.0。
【0125】
ロピナビル、サクイナビルおよびダルナビル分子がクローニングされたプロテアーゼを阻害する能力、従って耐性パターンを決定するために、実施例3(5)に記載した手順を実施して、感受性があるプロテアーゼおよび耐性があるプロテアーゼを発現する酵母細胞を得た。クローニングされたプロテアーゼの感受性または耐性は、液体培地中および固形培地中で判定した。
【0126】
耐性の試験を液体培地中で実施した場合、試験した分子のより高い濃度は、以下のとおりであった:
ロピナビルについては50μM、
ダルナビルについては100μM、
サクイナビルについては400μM、
これらの溶液の7段階希釈が、1対1で、試験において存在した。
【0127】
並行して、同じ手順に従って、同じプロテアーゼ阻害剤が、BY4741酵母形質転換体の中で発現された短鎖のプロテアーゼ前駆体形態(配列番号15)に対して作用する能力を試験した。この場合、精製した、全感受性株HIV−1ゲノムを保有するpNL4.3プラスミドに対して、以下のプライマーを使用するPCR反応によってDNA増幅を実施した:
(配列番号55)
プライマーR2139S1:GAGCTCTTAATCCATTCCTGGCTTTAATTTTACTGGTACAGTTTCAATTGGAC、および
(配列番号54)
プライマー5’ F−pc−rh:ATACTTTAACGTCAAGGAGAAAAAACCCCGGATCCATGTGGGGTAGAGACAACAACTCC。
【0128】
得られた結果は、阻害剤濃度の関数としての生細胞の百分率として図5aに提示するが、その結果は:
i)患者P#10から増幅したウイルスプロテアーゼの前駆体に関する、試験した3つの阻害性分子によるウイルスプロテアーゼの阻害の欠如
ii)野生型HIV−1株、つまりpNL4.3から増幅した感受性ウイルスプロテアーゼの前駆体に関する、試験した3つの阻害性分子による感受性ウイルスプロテアーゼの阻害。
【0129】
データをソフトウェアGraphPad Prism v5.0(グラフパッド(GraphPad Inc)、米国)によって処理し、対応するIC50値を得た。このIC50値を表1に示す:
【表1】

それゆえ、患者P#10由来のウイルスプロテアーゼは、試験した阻害剤分子に対して耐性を有する。
【0130】
固形培地中で耐性の試験を実施した場合、各ウイルスプロテアーゼを発現する酵母形質転換体を、2%ガラクトースの存在下で合成最小培地、寒天板上にプレーティングした。0.5mMロピナビル、0.5mMダルナビル、または1mMサクイナビルのいずれかの10μlを含浸した5mm直径のペーパーディスク(Minitrans−Blot、バイオ・ラッド(Bio−Rad)、米国)を、プレートの中央に置いた。30℃で3日後、肉眼による観察を実施した。発現されたウイルスプロテアーゼが当該阻害剤に対して感受性であった場合、成長している細胞のハローを観察したが、他方、形質転換された酵母の中で発現されたウイルスプロテアーゼが阻害剤に対して耐性がある場合は、成長する細胞は観察されなかった(図5b)。
【0131】
この実施例で実証されたように、当該方法により、分子に対するHIVレトロウイルスの分離株の感受性または耐性の判定が可能になる。
【0132】
実施例5
レトロウイルスに対する耐性についての診断用キット
診断用キットも、ウイルスプロテアーゼの阻害剤に基づく治療的レトロウイルス処置に対する、レトロウイルス分離株の感受性または耐性を判定する。その診断用キットは、以下のものを含んでもよい:
ヌクレオチドプライマーおよび、例えばPCR技術による、レトロウイルスプロテアーゼをコードするDNAの増幅の実施のためにこれまでに開示されたヌクレオチドプライマー、つまり:
第1の増幅用には、下記の種類のプライマー:
(配列番号2)
センスプライマー:5’−GAAAGAAGCCCCGCAACTTC−3’
(配列番号3)
アンチセンスプライマー:5’GGGATCCATGTCACTTGCCA−3’
第2の増幅用には、下記の種類のプライマー:
(配列番号4)
センスプライマー:5’CGAGGATCCGGAGACACCATACAGGGAGCCACCAACAGCGGCCGCGCCATGCCTCAATTC3’
(配列番号5)
アンチセンスプライマー:5’GCGGAGCTCGCTTTAGCATTATTTTTATTGGCTCTACTGCGGCCGCTTAA GATT3’および/または配列番号38、39、40、41、42、48、51〜58を含む群から選択されるプライマー;
少なくとも1つの発現ベクターおよび、例えば、本発明の方法に従って、そしてこれまでに記載されたとおりに改変され直線化されたプラスミド、例えば、プラスミドpRS316−Gal1/10M、M−3、M−4;
当該ウイルスプロテアーゼを発現する形質転換体の選択を可能にするための必要な栄養素要求性マーカーを有する少なくとも1つの酵母株、好ましくはSaccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)の株;および
少なくとも1つの多穴プレートまたは任意の他の適切な支持体。
【0133】
当然、切断部位を含有するタンパク質前駆体のその切断部位の上流および下流に存在しているアミノ酸配列のすべてもしくは一部を有するレトロウイルスのプロテアーゼをコードするRNAまたはDNAに対して増幅が実施される場合、上記プライマーおよびヌクレオチド断片はそれに応じて改変されることになる。
【0134】
当該キットの原理は図4にも図示されているが、以下のとおりである。
【0135】
患者の血液を使用して、当該ウイルスプロテアーゼをコードする遺伝子が、上記方法で記載されかつ当該キットの中に供給されているプライマーを用いて、RT−PCR反応によって増幅される。
【0136】
細胞DNAを使用する当該ウイルスプロテアーゼの遺伝子の増幅も可能である。
【0137】
増幅産物および改変され直線化されたベクター(これも当該キットの中に供給されている)が、多穴プレートの中で酵母株(これも当該キットの中に供給されている)を形質転換するために使用される。
【0138】
好ましい(が決して限定するわけではない)方法では、グルコースを含有する選択的な培地の中での、乾燥器の中での30℃でのインキュベーション後に、2μlの細胞懸濁液を、治療の中で使用される各有効成分の増加する濃度を含有する新しいプレート(当該キットの中に供給されている)に移す。300μlの、ガラクトースを含有する選択した培地を各ウェルに加え、その後、乾燥器の中で、30℃で36〜48時間、インキュベーションする。
【0139】
インキュベーションの終わりで、例えば、支持体が液体培地である場合は、600nmでのデンシトメトリー法による読み取りによって生細胞を数える。ウイルスプロテアーゼを発現しない酵母株の細胞成長と比べて、半分の細胞成長を阻害するために必要な用量は、各阻害剤についてのIC50を決定する。得られたIC50と、基準の野生型プロテアーゼのIC50とを比較することにより、いずれかの耐性表現型を判定することができる。
【0140】
インキュベーションの終わりで、例えば、実施例4のように支持体が固体である場合は、形質転換された酵母の成長がある(感受性あり)かまたは成長がない(耐性あり)かどうかを単に判定することにより、肉眼による観察で、分子、例えば特定の阻害剤に対する、感染した個体由来のウイルスプロテアーゼのHIVプロテアーゼの感受性/耐性を決定する。
【0141】
血液の採取と、耐性プロファイルの決定との間の時間間隔はわずか一週間である。
【0142】
本発明の方法をその特定の形態に関連して記載してきたが、添付の特許請求の範囲に記載される本開示の趣旨および範囲から逸脱せずに、実に様々な均等物で、本願明細書に記載された特定の要素/工程を置き換えてもよいということは理解されるであろう。
【0143】
また、本開示は、種々の刊行物を参照し、特定する。それらの刊行物の内容は、参照により本願明細書に援用したものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子に対するHIVレトロウイルスの分離株の感受性または耐性を判定する方法であって、
a)切断部位の6つのアミノ酸で始まり他の切断部位の少なくとも1つのアミノ酸がそれに続く、研究するべきレトロウイルスのプロテアーゼをコードする配列を増幅する工程と、
b)DNAの断片と、前記増幅の最終産物と、前記切断部位の6つのアミノ酸で始まり前記他の切断部位の少なくとも1つのアミノ酸がそれに続く、研究するべきレトロウイルスのプロテアーゼをコードする配列の発現を公知の誘導性プロモーターの制御下で許容する発現ベクターとを、前記ベクターおよび前記DNA断片と少なくとも1つの酵母細胞との同時形質転換を介して、組み換える工程と、
c)同時形質転換された酵母細胞を培養して、感受性または耐性の試験を実施するのに十分な数の形質転換体を得て、そして前記同時形質転換された細胞から生じる形質転換体を、任意の適切な培地上に回収する工程と、
d)試験するべき分子の存在下で、前記形質転換体をインキュベーションする工程と、
e)前記生細胞を定性的にまたは定量的に分析する工程と、
f)前記感受性または耐性の表現型を推定する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記レトロウイルスはHIV1である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、プロテアーゼ前駆体である前記プロテアーゼの自然の基質に対する前記プロテアーゼの活性に対して直接的な効果を有する分子を試験することを可能にする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Gag−Pol遺伝子転写の天然のオープンリーディングフレームシフトを模倣するために、1638位に付加的なAヌクレオチドを含有する変異した前駆体配列が作製される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)の前に、i)レトロウイルスに感染した細胞および/またはii)感染した動物由来の体液、および/またはiii)感染した動物由来の血液、および/またはiv)感染した培養細胞培地から核酸を抽出する工程を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸はDNAおよび/またはRNAである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記核酸は、レトロウイルスに感染した個体もしくは動物、および/またはii)感染した動物由来の体液、および/またはiii)感染した動物由来の血液、および/またはiv)感染した培養細胞培地、から採取された細胞から抽出される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記分子は、ライブラリーの分子、化学分子、天然分子および植物から抽出された分子からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記分子は、前記ウイルスプロテアーゼに対する阻害活性を有する化学分子、前記ウイルスプロテアーゼの阻害剤に基づく治療的処置からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記インキュベーションは、分子の増加する濃度とともに実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記核酸は、配列番号38、39、40、41、42、48、51〜58からなる群から選択されるプライマー対を用いて増幅される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記核酸は、配列番号9〜配列番号37のうちのいずれか1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記発現ベクターはプラスミドpRS316−Gal1/10である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記発現ベクターは、発現するべき遺伝子のクローニング部位の5’位に誘導性プロモーターGal1/10を含むプラスミドpRS316−Gal1/10であり、かつ、断片BamH1−Sac1は(5’から3’へ):
前記ベクターの中でユニークなBamH1制限酵素部位、次いで前記プロテアーゼのすぐ上流に存在しているレトロウイルス配列の中の約20ヌクレオチド、次いで前記ベクターの中でユニークな制限酵素部位、次いで前記プロテアーゼの下流に存在している前記レトロウイルス配列の0〜2511ヌクレオチド、次いで前記ベクターの中でユニークなSac1制限酵素部位、
からなる別のDNAの断片で置き換えられている、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記レトロウイルス配列の中の前記約20ヌクレオチドは、前記プロテアーゼの上流に存在しており、これにXhoI制限酵素部位が続く、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記酵母はSaccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記同時形質転換された酵母細胞の培地は、グルコースを欠く、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記形質転換体のインキュベーションは、ガラクトースの中で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の方法を実施する診断用キットであって、
配列番号38、39、40、41、42、48、51、52、53、54、55、56、57および58からなる群から選択されるヌクレオチドプライマーと;
少なくとも1つの発現ベクターと;
少なくとも1つの酵母株と;
少なくとも1つの多穴プレートまたは他の支持体と、
とを含む、キット。
【請求項20】
前記発現ベクターはプラスミドpRS316−Gal1/10である、請求項19に記載の診断用キット。
【請求項21】
前記酵母はSaccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)である、請求項19に記載の診断用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【公表番号】特表2012−532625(P2012−532625A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520118(P2012−520118)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【国際出願番号】PCT/IB2010/001738
【国際公開番号】WO2011/007244
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(503285612)ユニヴェルシテ・ドゥ・ラ・メディテラネ (15)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LA MEDITERRANEE
【出願人】(505129541)
【Fターム(参考)】