説明

分子の単離のための多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子

【課題】目的の分子、特に生体分子、最も好ましくは核酸分子に対して高い結合能力を示す高多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を提供する。
【解決手段】酸化鉄又は顔料上に沈殿又は吸着したシリカガラスを含む多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子であって、シリカガラス粒子の細孔が、10nmより大きいか、又は小さい直径を有する細孔を含み、かつ10nmより大きい直径を有する細孔の累積細孔面積が4m/gより大きい粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分子の精製、分離、及びアッセイを促進するために、様々な組成及び性質の磁性粒子を利用することができるようになってきている。粒子を含む容器に外部磁場をかけることにより、目的の(of interest)分子と結合する磁性粒子又はビーズを収集又は回収することができる。結合していない分子又は上清液を、粒子から分離するか、又は廃棄することができ、かつ、粒子に結合した分子を、豊富な状態で(in an enriched state)溶出することができる。従って、磁性粒子は、目的の分子を、液相又は他の分子との混合物から精製又は分離するための、比較的迅速、容易、かつ簡便な手段の可能性をもたらす。更に、特異的分子と結合する磁性粒子は、数百又は数千もの試料から、目的の分子を迅速かつ自動に分析又は同定するために、自動マルチウェル又は複合試料アッセイ若しくはスクリーニングシステムと組み合わされ得る(integrated)。そのようなシステムは、核酸や蛋白質のような生体分子の精製又は単離において、ますます多くの用途が見出されている。従って、分析及び調製(preparative)工程を含む様々な分離又は単離用途において、並びに、特定の分子又は目的の分子種のために、数百又は数千もの試料のアッセイを自動的にスクリーニングするように設計された機械的(mechanized)システムにおいて、目的の分子、特に生体分子を結合及び単離する高い(increased)能力を有する磁性粒子は、価値ある道具として役立ち得る。
【0003】
本発明は、目的の分子、特に生体分子、最も好ましくは核酸分子に対して高い結合能力を示す高多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス(シリカ)粒子を提供する。本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子は、混合物中の分子、特に核酸分子と結合することができ、その後、混合物及び磁性粒子を含む容器側へ外部磁場をかけるか、又は容器内へ磁性プローブを挿入することにより、結合した分子を保持したまま、収集又は回収され得る。次いで、結合した粒子は、より純度の高い状態で、かつ目的の分子に対する本発明の磁性粒子の高い結合能力に基づく有用な量で、磁性粒子から溶出され得る。
【0004】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(41)を提供する。
(1)酸化鉄粒子又は顔料上に沈殿又は吸着したシリカガラスを含む多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子であって、シリカガラス粒子の細孔が、10nmより大きいか、又は小さい直径を有する細孔を含み、かつ10nmより大きい直径を有する細孔の累積細孔面積が4m2/gより大きい粒子。
(2) 約5〜25μmの直径を有する(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(3) 約6〜15μmの直径を有する(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(4) 約7〜10μmの直径を有する(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(5) 粒子の総BET表面積が190m2/gより大きい(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【0005】
(6)粒子の総BET表面積が、約190〜270m2/gの範囲である(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(7)10nmより大きい直径を有する細孔の累積細孔面積が、約4〜8m2/gの範囲である(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(8) 酸化鉄粒子又は顔料がフェライトである(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(9) 酸化鉄粒子又は顔料が磁鉄鉱である(1)に記載の強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(10)酸化鉄粒子又は顔料がフェライトと磁鉄鉱との混合物である(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【0006】
(11) 酸化鉄粒子又は顔料がフェリ磁性磁鉄鉱である(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(12) 粒子が約30〜50重量%のSiO2及び約50〜70重量%のFe34である(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(13) 粒子が約35〜40重量%のSiO2及び約55〜65重量%のFe34である(12)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(14) 酸化鉄粒子又は顔料が、約75〜300nmの範囲の平均直径を有する(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(15) 酸化鉄粒子又は顔料の80%が、約75〜300nmの範囲の直径を有する(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【0007】
(16) 酸化鉄粒子又は顔料の90%が、約75〜300nmの範囲の直径を有する(1)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
(17)(1)〜(16)のいずれか1項に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を含む、混合物から目的の分子を分離、単離、又は検出するためのキット。
(18) 目的の分子が、核酸、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、炭水化物、脂質、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる(17)に記載のキット。
(19) 目的の分子が核酸分子である(18)に記載のキット。
(20) カオトロピック剤を更に含む(17)、(18)、又は(19)に記載のキット。
(21) カオトロピック剤が、過塩素酸ナトリウム、塩酸グアニジニウム、イソチオシアン酸グアニジニウム、ヨウ化カリウム、チオシアン酸カリウム、塩化ナトリウム、イソチオシアン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、ヨウ化ナトリウム、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる(20)に記載のキット。
【0008】
(22) a) 強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液を供給し、b) 6〜8の間のpHで、強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液へ、テトラアルコキシシランを添加し、c) テトラアルコキシシランを加水分解し、6未満又は8を超えるpHを有するバッファーを懸濁液へ添加することによって強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子上へシリカガラスを沈殿させ、強磁性又はフェリ磁性の多孔性ガラス粒子を形成し、d) 得られた多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を懸濁液から分離し、e) 分離された多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を無水アルコールで洗浄し、かつf) キュリー温度より低い温度で多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を乾燥させること:を含む、多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
【0009】
(23) 強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子が、グリセロール又はグリコールの懸濁液中へ供給される(22)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
(24) 懸濁液中の酸化鉄粒子の大きさが約75nm〜300nmの範囲である(22)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
(25) テトラアルコキシシランが、一般式Si(OCn2n+14に相当する(ここで、nは1、2、3、4、又は5である)(22)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
(26) テトラアルコキシシランがテトラエトキシシランである(22)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
(27) テトラアルコキシシランが、テトラエトキシシラン(30%)及び脂肪族C1−C4−アルコール(70%)の溶液として、強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子へ添加される、(22)に記載の強磁性又はフェリ磁性の多孔性ガラス粒子の作製方法。
【0010】
(28) テトラアルコキシシランが、約7のpHにおいて強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液へ添加される(22)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
(29) テトラアルコキシシランが、約10分以内で強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液へ添加される(22)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
(30) 6未満のpHを有するバッファーが、約5のpHを有する酢酸塩バッファーである(22)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
(31) 9を超えるpHを有するバッファーが、約11のpHを有するアンモニア/アンモニウム塩バッファーである(22)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
(32) 粒子の洗浄に使用される無水アルコールが無水エタノールである(22)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
(33) 粒子を乾燥させる温度が約300℃である(22)に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
【0011】
(34) a) 5以下のpH又は9以上のpHを有するグリセロール溶液中の強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液を供給し、b) 強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液へテトラエトキシシランを攪拌しながら滴下して10分以内に添加し、c) 混合物を熟成させて強磁性又はフェリ磁性の多孔性ガラス粒子を凝固させて安定化し、d) 外部磁場をかけることにより、得られた多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を液体から分離し、e) 分離した多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を無水アルコールで洗浄し、かつf) 約300〜500℃の温度で多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を乾燥させること:を含む多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
【0012】
(35) a) アルコール、好ましくはエタノール中の強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液を供給し、b) 6未満のpHで、強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液へ、シリカナノ粒子を添加し、c) 連続的に攪拌することにより、混合物を熟成させ、d) 得られた多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を液体から分離し、e) 得られた多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を洗浄し、かつf) 約200℃の温度で多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を乾燥すること:を含む多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
【0013】
(36) a) パラフィン油中の強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液を供給し、b) 6未満のpHで、強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液を、珪酸ナトリウム水溶液、好ましくは27%SiO2を含有する水へ添加し、c) 連続的に攪拌することにより、混合物を熟成させ、d) 得られた多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を液体から分離し、e) 分離された多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を洗浄し、かつf) 約200℃の温度で多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を乾燥させること:を含む多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子の作製方法。
【0014】
(37) 目的の分子を含む混合物を供給し;
(1)〜(16)のいずれか1項の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子と混合物を接触させ;
混合物中の目的の分子を多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子に付着させ;
外部磁場をかけることにより、付着した目的の分子を含む多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を回収し;かつ 付着した目的の分子とともに多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を、混合物の結合していない成分から除去することを含む、目的の分子を混合物から単離する方法。
【0015】
(38) 付着した目的の分子を、多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子から溶出する段階を更に含む(37)に記載の目的の分子を混合物から単離する方法。
(39) 目的の分子が、核酸、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、炭水化物、脂質、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される(37)又は(38)に記載の目的の分子を混合物から単離する方法。
(40) 目的の分子が核酸分子である(39)に記載の目的の分子を混合物から単離する方法。
(41) 核酸が、プラスミドDNA、ゲノムDNA、cDNA、PCR DNA、線状DNA、RNA、リボザイム、アプタマー、及び化学的に合成された核酸からなる群から選択される(40)に記載の核酸の単離方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子は、二酸化珪素(SiO2)及び酸化鉄粒子又は顔料を含む。酸化鉄粒子又は顔料は、例えば、Fe23(ヘマタイト)、Fe34(磁鉄鉱)、又はそれらの組み合わせであり得る。好ましくは、酸化鉄は、フェリ磁性磁鉄鉱である。
【0017】
本発明の別の態様では、本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子は、約30〜50(重量)%のFe34及び約50〜70(重量)%のSiO2という組成を有する。より好ましくは、ここに記載の多孔性磁性ガラス粒子の組成は、約35〜45(重量)%のFe34及び約55〜65(重量)%のSiO2である。
【0018】
更に別の態様では、一種以上の他の金属又は遷移金属の酸化物も、本発明の多孔性磁性ガラス粒子中に存在し得る。そのような更なる金属酸化物は、多孔性磁性ガラス粒子へ、更なる望ましい性質をもたらし得る。好ましくは、更なる金属酸化物は、チタン、ホウ素、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉛、及びそれらの組み合わせの酸化物からなる群から選ばれる。
【0019】
本発明の多孔性磁性ガラス粒子は、酸化鉄又は鉄担持(bearing)顔料の存在により、強磁性又はフェリ磁性を示す。外部磁場をかけると、それらは磁化され、外部磁場を取り除いたとしても磁化されたままであるが(残留磁気)、この残留磁気は、粒子を塊にするか(agglomerate)、又は凝集させるには弱すぎる。
【0020】
本発明の別の態様において、ここに記載の多孔性磁性ガラス粒子は、直径が約5〜25μm、好ましくは約6〜15μm、特に好ましくは約7〜10μmの平均サイズ範囲を有する。窒素ブルナウワー・エメット・テラー(Brunaur Emmet Teller)(BET)法により測定した場合の本発明の多孔性磁性ガラス粒子の総表面積は、好ましくは190m2/g以上であり、より好ましくは約190〜270m2/gの範囲である。本発明の多孔性磁性ガラス粒子は、水銀(Hg)−多孔度計(porosimetry)法で測定した場合の、直径が10nmを超える細孔の累積細孔面積(cumulative pore area)が、約4〜8m2/gの範囲であることが好ましい。
【0021】
本発明の別の態様では、核酸分子、又は他の生体分子に対して高い結合能力を有する多孔性磁性ガラス粒子の製造方法が提供される。本発明の好ましい製造プロセスは、直径で75〜300nmの平均サイズを有する磁性酸化鉄粒子又は顔料の懸濁液の供給を含む。より好ましくは、80%以上、より好ましくは90%以上の酸化鉄粒子の直径は75〜300nmである。好ましくは、酸化鉄粒子を、グリセロール又はグリコール中に懸濁させ、かつ好ましくは6〜8のpH、より好ましくはpH7でシリカ(ガラス)の供給源と組み合わせる。次いで、酸化鉄粒子の表面上へシリカを沈殿させるか、又は吸着させるために、酸性又はアルカリ性バッファーによって、シリカの供給源を加水分解することにより、酸化鉄粒子の存在下でシリカを合成する。シリカ被覆酸化鉄粒子は、凝集してより大きな多孔性ガラス粒子を形成し得る。次いで、初期の多孔性磁性ガラス粒子を、キュリー温度より低い温度でオーブンを用いて乾燥させる。乾燥温度は、約100℃〜約500℃、例えば200℃又は300℃であることがより好ましい。乾燥温度は、約300℃〜約500℃であることが更に好ましい。
【0022】
本発明の製造方法の別の態様において、シリカの供給源は、テトラアルコキシシラン、多官能アルコールのシリルエステル、珪酸ナトリウムのような珪酸塩、シリカナノ粒子(nanoparticls)、又はそれらの組み合わせである。シリカの供給源は、テトラアルコキシシランであることがより好ましく、テトラアルコキシシランがテトラエトキシシランであることが最も好ましい。
【0023】
本発明の製造プロセスの更に別の態様において、製造プロセスにおいて、5以下の酸性pHを有するバッファー又は9以上のアルカリ性pHを有するバッファーを用いて、シリカの供給源を加水分解する。好ましくは、加水分解バッファーは、9〜11のpHを有するアンモニア/アンモニウム塩バッファーである。
【0024】
好ましい態様において、本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子は、粒子1mg当たり1μgを超える核酸分子、より好ましくは粒子1mg当たり約1.3mgの核酸分子、最も好ましくは粒子1mg当たり1.3μgを超える核酸分子と結合する。
【0025】
別の態様において、本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を用いて単離された核酸分子の収率は、80%以上である。
【0026】
本発明の別の態様は、 目的の分子を含む混合物を供給し;
本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を混合物と接触させ;
混合物中の目的の分子を多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子へ結合又は付着させ;
外部磁場をかけることにより、付着した目的の分子を含む多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を回収し;かつ 混合物の結合していない成分から、付着した目的の分子を含む多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を分離することを含む、目的の分子を混合物から単離するための方法である。
任意に、適当な溶出バッファーを用いることにより、結合した目的の分子を、本発明の粒子から溶出することができる。
【0027】
本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を用いて、目的の分子を混合物から単離又は分離する方法の好ましい態様において、目的の分子は、核酸、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、炭水化物、脂質、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる。より好ましくは、目的の分子は、プラスミドDNA、ゲノムDNA、cDNA、ポリメラーゼ・チェーン反応によって生成されたDNA(PCR DNA)、線状DNA、RNA、リボザイム、及び化学的に合成された核酸分子を含む何らかの核酸分子であり得る核酸分子である。
【0028】
別の態様において、本発明は、本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を含む、目的の分子、好ましくは目的の核酸分子を単離又は分離するためのキットを提供する。本発明のキットは、本発明の多孔性磁性ガラス粒子を懸濁させて使用するための、一種以上のバッファー、又は濃縮貯蔵液を更に含み得る。本発明のキット中のバッファーは、イソチオシアン酸グアニジニウムのような一種以上のカオトロピック剤も含み得る。
【0029】
ここに記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス(シリカ)粒子は、様々な分子、特に核酸分子に対して、比較的高い結合能力を有するので、それら粒子は、混合物から有効な収率で分子を単離又は分離する場合に有用である。それら粒子は、分析並びに調製スケールの両方の工程において使用され得る。本発明により、様々な合成反応パラメーターを選択的に変化させることにより、特定の多孔度、結合能力、及び結合特異性を有する粒子が得られる。
【0030】
本発明をより完全に理解するために、以下の用語を定義する。
ここで理解され、かつ使用される“細孔”とは、粒子の外側表面にある何らかの入り口、くぼみ、又は凹部を表し、くぼみ、又は凹部の深さは、粒子の表面で測定される入り口、くぼみ、又は凹部の半径の長さよりも伸びている。粒子の外側表面における半径よりも深く伸びていない入り口、くぼみ、又は凹部は、細孔ではない。
【0031】
ここで理解され、かつ使用される“微小孔”とは、2nm未満の平均直径を有する何らかの細孔を表す。
【0032】
ここで理解され、かつ使用される“中間孔(Mesopore)”とは、2nm〜200nmの平均直径を有する何らかの細孔を表す。
【0033】
ここで理解され、かつ使用される“巨大孔(Macropore)”とは、200nmを超える平均直径を有する何らかのポート(port)を表す。
【0034】
ここで理解され、かつ使用される“細孔の直径”とは、各細孔の最も狭い点での細孔の直径を表す。
【0035】
ここで理解され、かつ使用される“粒子の大きさ”とは、粒子の直径を表す。球状粒子の場合は、大きさは、その直径に相当する。より一般的には、規則的な、又は不規則な形の粒子の大きさは、安定な位置にある粒子のものと同じ面積を有する円の直径によって表される、粒子の直径の推定された(projected)範囲を表す。
【0036】
ここで理解され、かつ使用される“累積細孔面積”とは、ある直径(大きさ)を有する細孔について算出された細孔壁の総細孔面積を表す。
【0037】
ここで理解され、かつ使用される“表面積”とは、多孔性粒子の表面積を表し、それは、その内側及び外側の表面積の合計と等しい。
【0038】
ここで理解され、かつ使用される粒子の“外側表面”とは、そこからその点と直交する線が、粒子の別の部分と交差せずに外へ向かって延び得る、粒子のそれぞれすべての点を表す。
【0039】
ここで理解され、かつ使用される多孔性粒子の“内側表面”とは、細孔壁から始まる表面を表す。
【0040】
ここで理解され、かつ使用される“常磁性”物質は、印加磁場の存在下でのみ弱い磁性を示す。印加磁場が存在しないと、スピン及び軌道モーメントは整列せず(unaligned)、無秩序な方向を向き、お互いに打ち消し合う。しかし、外部印加磁場の存在下では、スピン及び軌道モーメントは、場の方向へ回転する傾向がある。しかし、常磁性物質の原子の熱振動は、全ての磁気モーメントが整列する傾向を妨害する。その結果、印加磁場の方向へ、モーメントの一部のみが整列する。磁場をかける間、その物質は、正味の(net)、しかし比較的弱い磁場を示す。外部磁場を取り除くと、部分的な整列が損なわれ、磁場は物質中に残存しない。
【0041】
常磁性物質のように、ここで理解され、かつ使用される“超常磁性”物質も、外部印加磁場の存在下で誘発された一時的な磁場を示す。真の超常磁性物質では、物質の個々の原子の磁気モーメントは、整列し、常磁性物質で生じ得るものよりはるかに強い誘発磁気を形成することになる(例えば、ビーン(Bean)及びリビングストーン(Livingstone), J.Appl.Physics, 30: 120S−129S(1959)参照)。従って、超常磁性物質の誘発された磁場は、古典的に“常磁性”と定義される物質において生じる場より、はるかに強い(数倍の大きさ(by several orders of magnitude))。約300オングストローム(30nm)未満の直径の酸化鉄結晶は、そのような超常磁性挙動を示し得る。
【0042】
ここで理解され、かつ使用される“フェリ磁性”物質、例えば、ヘマタイト(Fe23)、Fe金属、Ni、Coは、印加磁場が存在しなくても磁場を示し得る物質である。フェリ磁性物質では、物質の領域又は範囲は、磁気モーメントを同じ方向に整列させることができ、その結果、磁場が生じる。フェリ磁性物質に外部磁場をかけると、物質の様々な範囲が、同じ方向に整列するようになることができ、フェリ磁性物質に、非常に強い磁場が生じる。外部磁場を取り除いても、フェリ磁性物質の範囲は、同じ方向に整列したままでいる傾向があるので、物質は全体として、固有の熱振動によって本質的に乱されない(unperturbed)強い磁場を保つ。しかし、強磁性物質を十分高い温度に加熱することにより、熱エネルギーは、磁気エネルギーを超えることができるので、磁気モーメントの整列は損なわれ、無秩序になる。そのような温度で、物質は、外部発生印加磁場の存在下で、常磁性挙動を示し得る。強磁性物質が常磁性になる温度は、“キュリー温度”又は“キュリー点”として知られている。
【0043】
ここで理解され、かつ使用される“フェリ磁性”物質は、強磁性物質と同様に、外部印加磁場にさらされた後に残留する磁場(残留磁気)を示す。フェリ磁性は、1つのカチオンが、遷移金属、例えば、Fe2+、Mn2+、Zn2+、Co2+等の群からの二価イオン(M2+)であり、三価カチオンがFe3+である混合酸化物(M2+O)(Fe23)である、例えば、磁鉄鉱(Fe34)である、フェライトでのみ見られる磁性である。フェライトの結晶構造は、2つの重なり合う結晶からなる。1つの格子位置の原子のスピンは、特定の方位に整列し、別の位置での原子のスピンは、反対の方位に整列し、磁場が残留する(残留磁気)。従って、フェリ磁性物質は、結晶性の鉄の(ferric)酸化物化合物であり、外部印加磁場の存在なしに磁場を保持するそれらの能力の点で、強磁性物質と似ている。
【0044】
本発明の多孔性磁性シリカ粒子は、強磁性又はフェリ磁性挙動を示し、外部磁場がなくても磁化されたままであるが、この残留磁気は、粒子を塊にするか凝集させるには弱すぎる。
【0045】
別に断らない限り、ここで理解され、かつ使用される“シリカ”、“シリカガラス”、及び“ガラス”という語は、本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を作製するために使用される、酸化鉄粒子又は顔料の全部又は一部を被覆する非晶質、結晶形状のSiO2を表す。
【0046】
本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子は、何らかの混合物又は試料から、核酸分離を単離又は分離するために有用である。ここで理解され、かつ使用される“混合物”又は“試料”は、目的の分子を含む何らかの混合物又は調製物を含む。混合物は、人工のものであっても、細胞、組織、若しくはウイルスのような天然又は生物学的供給源に由来するものであってもよい。混合物又は試料は、例えば、目的の分子の他に多くの成分を含む複雑なものであることができ、又は、目的の分子の水溶液のような、比較的単純なものであることもできる。混合物は、それらに限定されないが、核酸の処理若しくは合成に用いられるか、又はポリメラーゼ・チェーン反応(PCR)、核酸配列決定反応、制限エンドヌクレアーゼ若しくは他のヌクレアーゼ消化反応、核酸ハイブリダイゼーションアッセイ混合物、蛋白質−核酸結合アッセイ混合物、抗体−核酸アッセイ混合物、並びにインビトロ転写及び/若しくは翻訳アッセイ混合物のような核酸を含む何らかの様々なインビトロ反応混合物を含む。混合物又は試料中に存在し得る生物学的材料は、それらに限定されないが、血漿、リンパ、乳、尿、精液、又は他の生物学的体液、全細胞、細胞の抽出液、ウイルス粒子、毛髪、及び組織ホモジェネート(homogenates)を含む。
【0047】
多孔性磁性ガラス粒子の組成及び製造方法
本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子は、酸化鉄及びシリカガラスを含む。好ましくは、それら粒子は、30〜50(重量)%のFe34及び50〜70(重量)%のSiO2という、比較的簡単な組成を有する。より好ましくは、本発明の粒子は、35〜45(重量)%のFe34及び55〜65(重量)%のSiO2である。しかし、特定のプロトコルにより適した性質を有する粒子を得るために、反応混合物中に他の化合物を導入することもできる。従って、本発明の粒子は、酸化鉄の他に、他の金属、特に遷移金属の酸化物を含むこともでき、チタン、ホウ素、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、及び鉛の酸化物を制限なく含むことができる。本発明の粒子中で、酸化鉄が、重量で最も多い(prevalent)金属酸化物であることが好ましい。
【0048】
製造プロセスで用いられる酸化鉄粒子又は顔料の大きさは、最終的な粒子生成物の大きさ及び特性に影響を及ぼす。このため、成分酸化鉄粒子又は顔料は、直径で約75〜300nmの平均サイズを有することが好ましい。少なくとも80%の酸化鉄粒子が、直径で約75〜300nmの平均サイズを有することがより好ましい。少なくとも90%の酸化鉄粒子が、直径で約75nm〜300nmの平均サイズを有することが更に好ましく、本発明の多孔性磁性ガラス粒子を作製するために使用される酸化鉄粒子の少なくとも95%が、この範囲の大きさであることが最も好ましい。
【0049】
ここに記載の多孔性磁性ガラス粒子の細孔は、粒子の外側表面での細孔の直径によって決定される幅広い範囲の大きさで存在する。好ましくは直径が約5〜25μmであり、より好ましくは直径が約6〜15μmであり、最も好ましくは直径が約7〜10μmである本発明の粒子が、190m2/g以上、好ましくは190〜270m2/gの比較的高い値のBET比表面積も有するという事実により、本発明の粒子の細孔含有量が高いこともわかり(appreciated)、この大きさの粒子が高い細孔表面積を有することが示される。従って、微小孔、中間孔、及び巨大孔として分類される細孔はすべて、本発明によって調製された各粒子上に表され得る。注目すべきことに、ここに記載の粒子中に存在する細孔は、10nm超及び10nm未満の直径を有する細孔を含む。直径が10nmを超える細孔について、標準水銀多孔度計によって測定された粒子の累積細孔面積が、典型的には4m2/g超であり、好ましくは約4〜8m2/gであるという事実により、本発明の多孔性磁性ガラス粒子の多孔度が高いこともわかる。
【0050】
酸化鉄粒子又は顔料は、本発明の多孔性磁性ガラス粒子の基本的な磁性核を構成する。製造プロセス中に、シリカが酸化鉄粒子上に堆積又は沈殿すると、酸化鉄粒子は凝集し始め、上記のように、大きな表面積を有する、より大きな本発明の多孔性磁性ガラス粒子を形成する。直径で約75〜300nmの範囲の好ましい平均サイズにおいて、既に利用可能でなければ、酸化鉄粒子又は顔料は、製造プロセスを行う前に、好ましいサイズに縮小されなければならないこともある。酸化鉄粒子又は顔料は、従来技術において知られていた様々な方法のいずれかを用いて、約75nm〜約300nmのサイズの好ましい平均サイズに加工され得る。例えば、酸化鉄粒子又は顔料は、PM400遊星運動(planetary)ボールミル(レッチェ(Retsch)、ハーン(Haan)、ドイツ)のようなボールミルを用いて、適当なサイズに粉砕され得る。例えば、市販の実験室使用用攪拌器を用いることにより、迅速に攪拌することによって、酸化鉄粒子を粉砕することがより好ましい。酸化鉄粒子又は顔料は、脂肪族C1−C6−アルコール、より好ましくは、イソプロパノール、エタノール、グリコール、又はグリセロールのような脂肪族C1−C4−アルコール中に懸濁させるべきである。粘度が高いことにより、より小さな酸化鉄粒子を調製することができるので、グリセロールを用いることが好ましい。酸化鉄粒子をグリセロールの溶液(例えば43%グリセロール)中で迅速に攪拌することにより、約75nm〜約300nmの範囲の平均サイズに粉砕することが最も好ましい。
【0051】
ここに記載の多孔性磁性ガラス粒子のシリカ成分は、製造工程中に、好ましくは式Si(OCn2n+14(ここでnは1〜5の整数である)を有するテトラアルコキシシランから生成される。このシリカ合成段階は、グリセロールやグリコールのような多官能アルコールのシリルエステルを使用することもできる。本発明の別の態様では、シリカ供給源は、珪酸塩であることができ、より好ましくは、珪酸ナトリウム又はシリカナノ粒子である。又は、シリカの供給源は、少なくとも一種のテトラアルコキシシランと少なくとも一種の多官能アルコールのシリルエステルとの組み合わせであることができる。本発明の多孔性磁性ガラス粒子のためのシリカの供給源は、テトラエトキシシランであることが最も好ましい。
【0052】
製造工程の好ましい態様において、テトラアルコキシシランは、6〜8のpH、より好ましくはpH7で、テトラエトキシシラン含有(30%)脂肪族C1−C6−アルコール、より好ましくは脂肪族C1−C4−アルコール(70%)の溶液として、強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液へ添加される。
【0053】
本発明の多孔性磁性ガラス粒子の製造プロセス中に、反応混合物のpHを、酸性pH、例えば6以下のpH、又はアルカリ性pH、例えば9以上のpHに変化させることによって、テトラアルコキシシラン、多官能アルコールのシリルエステル、又はそれらの組み合わせを加水分解してシリカを放出させる。テトラアルコキシシランを加水分解するために使用され得る酸性バッファーは、それらに限定されないが、pH5を有する酢酸塩バッファーを含む。本発明の方法において、テトラアルコキシシランを加水分解するために使用され得るアルカリ性バッファーは、それらに限定されないが、9〜11の範囲のpHを有するアンモニア/アンモニウム塩バッファー(例えば、アンモニア/塩化アンモニウムバッファー)を含む。テトラアルコキシシランを加水分解してシリカを放出するために、アルカリ性バッファーを用いてシリカを合成することが好ましい。9〜11のpHにおいて、アンモニア/アンモニウム塩バッファーを用いてシリカを合成することがより好ましい。
【0054】
本発明の多孔性磁性ガラス粒子の製造プロセスの別の態様において、反応混合物のpHを、酸性pH、例えば6以下のpHへ変化させることにより、珪酸塩又はシリカナノ粒子を加水分解してシリカを放出させる。酢酸を用いてシリカを合成することがより好ましい。
【0055】
テトラアルコキシシラン又は他のシリカ供給源の加水分解において放出されたシリカは、酸化鉄粒子又は顔料の表面上へ沈殿、堆積、又は吸着し、その後、凝集して、より大きな本発明の多孔性磁性ガラス粒子を形成する。
【0056】
シリカ合成段階を行うために、酸化鉄粒子又は顔料は、まずシリカ供給源と、次いで、添加された酸性若しくはアルカリ性pHの加水分解バッファーと混合されることができ、又は、酸化鉄粒子は、まず加水分解バッファーと、その後添加されたシリカ供給源と混合されることができる。しかし、好ましい工程では、まず酸化鉄粒子をシリカ供給源と混合し、その後、加水分解バッファーを添加する。また、酸化鉄粒子の表面へより効率的に堆積又は沈殿し得る小さなシリカ粒子の製造を促進するに足る粘性を有する最終反応溶液中で、シリカ合成段階が行われることが好ましい。好ましい態様において、アンモニア/塩化アンモニウムバッファー(5M、pH10.5)は、グリセロール(43%)、エタノール(43%)、及びテトラエトキシシランの溶液中に分散させた酸化鉄粒子へ、2000rpmで混合物を攪拌しながら、10分間にわたり滴下して添加される。10分より短い時間でバッファーを添加すると、非磁性粒子が生成される傾向があるのに対し、より長い時間でバッファーを添加すると、非常に密で、試料から核酸分子を単離又は分離するための最適値より小さい低い(reduced)多孔度を有する粒子が生成される傾向がある。シリカ合成中、500rpmのようなより遅い速度で攪拌すると、核酸に対する結合能力がより低い多孔性磁性ガラス粒子が得られる。
【0057】
テトラアルコキシシラン又は他のシリルエステル化合物の加水分解によってシリカを合成すると、それは、酸化鉄粒子の表面上へ沈殿又は吸着する。次いで、シリカ含有酸化鉄粒子は凝集し、より大きな多孔性ガラス(シリカ)粒子を形成するであろう。新たに形成された粒子を、凝固又は安定化し得るように、更にインキュベート(“熟成(age)”)させることが推奨される。効果的な熟成段階は、更に8〜24時間攪拌しながら、新たに形成された粒子をシリカ合成混合物中でインキュベートさせ続けることのみを含み得る。
【0058】
安定化された新たに形成された粒子は、濾過によって反応混合物から分離され、次いで、溶媒溶液、通常はアルコール溶液によって洗浄される。洗浄溶液は、アルコールの他に、またはアルコールに代えて、アセトン及び/またはカオトロピック剤(類)を含む他の溶媒及び試薬を含み得る。しかし、一般に、新たに形成された粒子の洗浄のためには、無水アルコール、特に、無水(absolute)エタノールのみが好ましい。無水エタノールのような無水アルコールは、新たに形成された粒子が塊になることを防ぐ際に、及び核酸分子に対する高い結合能力を有するか、又は保持する粒子の生成において非常に有効である。
【0059】
濾過及び洗浄後、新たに形成された多孔性磁性ガラス粒子は乾燥され得る。最適乾燥温度は、キュリー温度より常に低く、かつ約100℃程度と低いか、又は約500℃と高くあり得る。その温度は、約300℃〜500℃の範囲、例えば200℃であることが好ましい。循環空気乾燥オーブン中で約300℃において、新たに形成された粒子を乾燥させることによって、最適な結果が得られることがより好ましい。最終的な多孔性磁性ガラス粒子の平均サイズは、直径で約5〜25μmであることが好ましく、約6〜15μmであることがより好ましく、約7〜10μmであることが最も好ましい。乾燥させた粒子は、熟成の徴候、即ち、粒子の何らかの性質の劣化を示さずに、室温で数ヶ月間、密閉容器中に保存され得る。
【0060】
本発明によって強磁性又はフェリ磁性粒子を作製する別の方法は、アルコール、好ましくはエタノール中へ強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子を供給する段階、6未満のpHで強磁性又はフェリ磁性酸化鉄粒子の懸濁液へシリカナノ粒子を添加する段階、連続的に攪拌することにより、混合物を熟成する段階、得られた多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を液体から、例えば磁気的に分離する段階、分離された多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を洗浄する段階、及び約200℃の温度で多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を乾燥させる段階を含む。
【0061】
核酸分子に対して高い結合能力を示す高多孔性磁性ガラス粒子を生成するために、以下のガイドラインが推奨される。本発明の多孔性磁性ガラス粒子の製造において使用される酸化鉄粒子又は顔料は、フェリ磁性磁鉄鉱(Fe34)粒子であることが好ましい。酸化鉄粒子又は顔料は、直径で75nm〜300nmの平均サイズを有するべきである。粉砕することにより、酸化鉄粒子又は顔料の大きさを、この推奨範囲に縮小することが必要とされることもある。酸化鉄粒子又は顔料を推奨される大きさの範囲に粉砕するためには、ボールミルが使用され得るが、粉砕段階は、グリセロール溶液のような粘性溶液中で、2000rpmのような迅速な攪拌によって行われることが好ましい。テトラアルコキシシラン、シリルエステル、又は珪酸塩の加水分解によって、又は酸性若しくはアルカリ性pHを用いてシリカナノ粒子を沈殿させることによって、シリカが合成される。テトラアルコキシシランは、本発明の粒子を合成するために好ましいシリカ供給源である。酸化鉄粒子又は顔料の表面上をより効率的に被覆するか、又は沈殿し得る小さなシリカ粒子の合成を促進するために、シリカ合成は、粘性溶液、例えば、グリセロールを含む溶液中で行われるべきである。粘性テトラアルコキシシラン又はシリルエステル化合物混合物中に懸濁させた酸化鉄粒子へ、加水分解バッファーを添加することが好ましい。更に、シリカ供給源は、特に、供給源がテトラエトキシシランの場合は、10分間で添加されるべきである。無水アルコール、特に無水エタノールは、新たに形成された多孔性磁性ガラス粒子を洗浄するために好ましい溶媒である。新たに形成された多孔性磁性ガラス粒子は、それらを安定化するために熟成されるべきである。最終的に、100℃〜500℃、好ましくは300℃〜500℃、より好ましくは300℃のオーブン中で、比較的高温であるが、キュリー温度よりも低温で、新たに形成された粒子を乾燥させるべきである。
【0062】
本発明の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子は、核酸、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、炭水化物、脂質、及びそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない、混合物中の様々な目的の分子のいずれかを分離、検出、又は単離するためのキットへ提供されることもできる。本発明のキットは、混合物中の目的の核酸分子又はヌクレオチドを含む分子を分離、検出、又は単離するために、ここに記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を含むことが好ましい。本発明のキットは、多孔性磁性ガラス粒子を懸濁させるために、及び/又は核酸若しくは他の目的の分子のための単離若しくは生成工程中のその後の段階のために有用な、一種以上のバッファーを含むこともできる。本発明のキットに含まれ得る一種以上のバッファーは、一種以上のカオトロピック剤又は物質を含み得る。本発明によれば、好ましいカオトロピック剤は、トリクロロアセテート、チオシアネート(イソチオシアン酸グアニジニウム(又は“グアニジン”を含む)、過塩素酸塩(例えば過塩素酸ナトリウム)、ヨウ化物(例えばヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム)、塩酸グアニジニウム、及び尿素を制限なく含む。カオトロピック剤は、1〜8Mの水溶液で用いられることが好ましく、より好ましくは2〜5Mの水溶液で、最も好ましくは2〜4Mの水溶液で用いられる。本発明のキットのバッファー中のカオトロピック剤は、イソチオシアン酸グアニジニウムであることが最も好ましい。
【0063】
核酸及び他の生体分子の単離における使用
ここに記載の多孔性磁性ガラス粒子は、核酸と結合する高い能力を有し、それにより、様々な試料及び混合物から核酸分子を単離又は分離するために特に有用な本発明の粒子が作製される。炭水化物、ポリペプチド、ペプチド、脂質、及び、糖蛋白質及び核酸/蛋白質の組み合わせ又は集合のような、そのような分子の組み合わせをも含むが、それらに限定されない他の分子の単離又は分離のために、それら粒子を使用することもできる。目的の分子がここに記載の多孔性磁性ガラス粒子に結合するか、又はそこから溶出するバッファー条件を調節することにより、1つの分子が別のものから選択的に単離又は分離され得る。本発明の多孔性磁性ガラス粒子の磁性により、従来技術で利用可能であった様々な磁気回収システムのいずれかを用いて外部磁場をかけることにより、試料又は混合物から、それら粒子を容易かつ迅速に回収することができる。
【0064】
例えば、本発明の多孔性磁性ガラス粒子は、cDNA、PCR反応生成物、プラスミド、ゲノム核酸、核酸プライマー、様々な種のRNA、リボザイム、アプタマー(aptamers)、合成によって生成されたヌクレオチドを含む核酸分子、化学的に合成された核酸、核酸−蛋白質複合体、ハイブリダイズされた核酸分子、インビトロ転写及び/又は翻訳アッセイ、ELISAや放射線免疫アッセイのような免疫アッセイ(そのような工程は、核酸成分を含む)における核酸分子を含むが、それらに限定されない様々な核酸分子のいずれかを単離又は分離するために用いられ得る。合成によって生成されたヌクレオチドは、一部分(moieties)、即ち、糖、窒素含有複素環塩基(プリン又はピリミジン)、及びリン酸塩バックボーン(backbone)を構成し、現実に(in nature)見られるヌクレオチド、並びに現実には見られない基によって修飾又は置換された構成部分を有するヌクレオチド化合物を含む。例えば、本発明の粒子は、チオール基が一種以上のりん酸塩基を置換し、修飾されたプリン若しくはピリミジンが、自然に発生したプリン若しくはピリミジンを置換し、又は異なる分子が、リボース若しくは2−デオキシリボース糖部を置換する合成ヌクレオチドを含む核酸分子を単離するために用いられ得る。ここに記載の粒子は、反応からの核酸を結合及び分離することによって、核酸分子の存在に依存する反応を、効率的に停止させるためにも用いられ得る。また、ここに記載の粒子は、例えば、法廷用(forensic)試料、考古学試料、封じ込め(containment)容器中の偶然の流出及び裂け目(breaches)の場合のように、価値があるか、又は危険な核酸分子を回収するか、又は取り出すために使用され得る。
【0065】
本発明の多孔性磁性ガラス粒子は、単離工程において段階を調整することにより、他の核酸分子から、特定の種類又は大きさの核酸分子を優先的に分離するために使用され得る(下記実施例6及び7を参照)。核酸分子を磁性粒子へ結合させるための基本的なプロトコルが説明されている(例えば、PCT公報WO95/01359参照;本明細書に開示として援用される)。例えば、核酸は、核酸の粒子への結合を促進する高濃度の塩の存在下で、本発明の多孔性磁性ガラス粒子によって単離され得る。過塩素酸ナトリウム、塩酸グアニジニウム、イソチオシアン酸グアニジニウム、ヨウ化カリウム、チオシアン酸カリウム、塩化ナトリウム、イソチオシアン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、又はヨウ化ナトリウムのような、(上記のような)カオトロピック剤が一種以上存在することも好ましい。カオトロピック剤がイソチオシアン酸グアニジニウムであることがより好ましい。カオトロピック剤は、好ましくは1〜8M;より好ましくは2〜5M、最も好ましくは2〜4Mの濃度で使用される。更に、1〜80%(vol/vol)の濃度のメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、又はそれらの組み合わせのような、C1−C5脂肪族アルコールも、カオトロピック剤の溶液へ添加され得る。イソプロパノールを使用することが特に好ましい。
【0066】
塩及び/又はアルコールの濃度は、核酸分子が磁性粒子へ選択的に結合するように調整され得る。更に、カオトロピック剤及び/又はアルコールの濃度を調整することにより、長さの異なる核酸をお互いに分離することができる。目的の核酸分子を本発明の多孔性磁性ガラス粒子へ結合させ、かつ溶出させるための様々なバッファー条件の例を、以下に記載する(実施例参照)。
【0067】
目的の特定の核酸分子が結合又は吸着する磁性粒子は、混合物から磁気的に回収又は分離され得る。例えば、それら粒子は、外部磁場をかけることにより、それらを含む容器の壁に付着させることができ、次いで、粒子に結合していない内容物は、例えば、ピペッティング(pipetting)、デカンテーション、又は吸引濾過によって除去され得る。代わりの工程において、磁石を混合物に浸すことにより、結合した核酸分子を含む磁性粒子を、混合物の結合していない成分から分離することができ、結合した核酸分子を含む粒子を回収し、磁石上の粒子を別の容器に移し、必要により、粒子を磁石から容器内へ拭き取るか洗い流し、回収した粒子を取り去った磁石を除去することができる。
【0068】
結合段階後、それら粒子はまた、必要により、溶媒による洗浄段階及びその後の磁気分離によって、不純物から分離され得る。洗浄溶液は、アルコール、アセトンのような他の高揮発性有機溶媒、更に一種以上のカオトロピック剤を含み得る。
【0069】
分離した核酸分子の更なる利用に適しているならば、核酸分子は、磁性粒子から、溶出バッファーによって溶出され得る。溶出バッファーは、例えば、脱イオン水、低塩濃度の水性溶液、トリス−[ヒドロキシメチル]アミノメタン(トリス)バッファー、及び/又はエチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)を含み得る。
【実施例】
【0070】
本発明のより完全な理解、択一的な(alternate)明らかな態様、及びそれらの利点は、以下の非限定的な(non−limiting)実施例からも得られ得る。
実施例1.合成I:テトラエトキシシランのアルカリ加水分解を用いる多孔性磁性ガラス粒子の合成
酸化鉄(II、III)粒子(アルドリッチ(Aldrich)、スタインハイム(Steinheim)、ドイツ、カタログ番号31,006−9)を、PM400遊星運動ボールミル(レッチェ(Retsch)、ハーン(Haan)、ドイツ)のようなボールミルに入れ、50mlのイソプロパノール又はエタノール中で懸濁させた。ミルジャー(jar)に、直径3mmの酸化イットリウムボールを充填し、ミルを、最大強度で3時間運転させた。粉砕された粒子を除去し、酸化イットリウム粒子を製造者の手順に従って分離し、粉砕された酸化鉄4gを、還流濃縮器及び攪拌器を備えた500mlの三角フラスコ(メルク社(Merck GmbH)、ケルン(Koeln)、ドイツ;カタログ番号9.197215)に移した。150mlの無水エタノール及び45mlの5Mアンモニア/塩化アンモニウムバッファー(pH11)を、フラスコ中の粉砕した粒子へ添加し、500rpmで攪拌することによって混合した。100mlのテトラエトキシシラン溶液(テトラエトキシシラン30ml:エタノール70ml)を、扇動(peristaltic)ポンプによって、室温で3時間にわたり滴下して添加し、更に24時間、連続的に攪拌することにより、反応混合物をインキュベート(熟成)させた。次いで、多孔度3のガラスフリットを通して混合物を吸引濾過し、得られた粒子を回収した。100mlの脱イオン水によって2回、100mlの無水エタノールによって2回、かつ脱イオン水によって更に2回、回収した粒子を洗浄した。次いで、循環空気乾燥オーブン中で、120℃で粒子を乾燥させた。
【0071】
実施例2.合成II:テトラエトキシシランの酸加水分解を用いる多孔性磁性ガラス粒子の合成
10gのマグネチック・ピグメント(Magnetic Pigment)345(BASF、ルードヴィスハーフェン(Ludwigshafen)、ドイツ)をプラスチック容器に入れ、100mlの無水エタノールと混合した。均質化攪拌器(ウェラボ(Welabo)、デュッセルドルフ(Duesseldorf)、ドイツ;カタログ番号333611312)を、プラスチック容器へ導入し、プラスチック容器を氷浴で低温に保ちながら、約1000rpmで3時間、混合物を攪拌した。混合した懸濁液及びプラスチック容器のエタノールリンス100mlを、2リットルの三口フラスコへ移し、更に200mlのエタノールを添加した。次いで、2M酢酸/酢酸塩バッファー(pH4.0)100mlをフラスコへ添加した。1000rpmで混合物を攪拌しながら、100mlのテトラエトキシシラン溶液(テトラエトキシシラン50ml:エタノール50ml)を、滴下漏斗によって10分間にわたって滴下して添加した。連続的に攪拌して、混合物を一晩(約8〜12時間)熟成させ、次いで、多孔度3のガラスフリットを通して吸引によって濾過し、得られた粒子を回収した。100mlの脱イオン水によって2回、100mlの無水エタノールによって2回、かつ100mlの脱イオン水によって再度2回、得られた粒子を洗浄した。循環空気乾燥オーブン中で、120℃で8時間、粒子を乾燥させた。得られた粒子は、10μmの平均直径を有していた。
【0072】
実施例3.合成III:磁鉄鉱及び珪酸ナトリウムからの多孔性磁性ガラス粒子の合成
10gのマグネチック・ピグメント(Magnetic Pigment)345(BASF、ルードヴィスハーフェン(Ludwigshafen)、ドイツ)を、プラスチック容器中で100mlのパラフィン油中に懸濁させ、プラスチック容器を氷浴で低温に保ちながら、均質化攪拌器によって1000rpmで3時間攪拌した。次いで、100mlのパラフィン油をプラスチック容器へ添加し、混合物を均質になるまで再度攪拌した。混合物を、2リットルの三口(three−nacked)へ移した。更に200mlのパラフィン油を添加した後、200mlの1−ヘキサノール(フルカ(Fluka)、カタログ番号52840)、及び60mlの珪酸ナトリウム水溶液(水中に27%SiO2、フルカ(Fluka)、カタログ番号71957)を添加した。次いで、混合物を2000rpmで攪拌しながら、濃縮した酢酸60mlを5分間にわたって滴下して添加した。次いで、混合物を更に60分間攪拌した。次いで、新たに形成された粒子を含む混合物を、遠心分離管へ注ぎ、管を1時間遠心分離して粒子を回収した。上清液をデカンテーションし、メタノール溶液(50%)中に粒子を懸濁させる。粒子の懸濁液を多孔度3のガラスフリットを通して吸引濾過した。その後、100mlの無水エタノールで2回、次いで100mlの脱イオン水で2回、回収した粒子を洗浄する。次いで、循環空気乾燥オーブン中で、200℃で粒子を乾燥させた。得られた多孔性磁性ガラス粒子は、25μmの平均直径を有していた。
【0073】
実施例4.合成IV:多孔性フェリ磁性シリカ粒子の合成
500mlプラスチック容器中へ、200mlの無水グリセロールを添加し、攪拌器の下に容器を調整した。24gの磁鉄鉱(バイオキシド(Bayoxide)8713H、バイエル(Bayer)AG製、レーヴァクーゼン(Leverkusen)、ドイツ)を、ゆっくり攪拌しながらグリセロールへゆっくり添加し、2,000rpmで2時間攪拌し続けて、塊を破壊した。次いで、攪拌速度を下げて、250mlのグリセロールを懸濁液へ添加した。5分後、攪拌器(実施例1参照)及び滴下漏斗を有する4リットルのフラスコへ、反応混合物を移した。450mlのグリセロール、900mlのエタノール、及び120mlのテトラエトキシシランを添加し、攪拌速度を2000rpmに調整した。10分以内に、pH10.5の7M塩化アンモニウムバッファー300mlを添加し、攪拌速度を12分間維持した。次いで、反応混合物を濾過し、脱イオン水で2回、及びエタノールで2回洗浄し、300℃で7時間乾燥させた。粒子は、5〜10μmの粒子サイズを有していた。
【0074】
実施例5.合成V:磁鉄鉱及びシリカナノ粒子からの多孔性磁性ガラス粒子の合成
10gのマグネチック・ピグメント(Magnetic Pigment)345(BASF、ルードヴィスハーフェン(Ludwigshafen)、ドイツ)及び100mlの無水エタノールをプラスチック容器に入れ、均質化攪拌器で2時間、1000rpmで攪拌した。更に100mlのエタノールを添加し、混合物を更に5分間攪拌した。容器の内容物を1リットルの三口フラスコへ移した。30mlのルドックス(LUDOX)AS40(アルドリッチ(Aldrich)、ダイゼンホフェン(Deisenhofen)、ドイツ、カタログ番号42,084−0)及び400mlの脱イオン水も、フラスコへ添加した。フラスコ中の混合物を、1000rpmで5分間攪拌した。次いで、50mlの濃縮酢酸を、5分間にわたり、連続的に攪拌しながら滴下して添加した。混合物を、更に30分間1000rpmで、次いで、更に60分間500rpmで攪拌した。新たに形成された粒子を含む混合物を、多孔度3のガラスフリットを通して吸引濾過し、粒子を回収した。100mlの脱イオン水で2回、100mlの無水エタノールで2回、かつ100mlの脱イオン水で更に2回、回収した粒子を洗浄した。洗浄された粒子が乾燥するまで吸引を続けた。循環空気乾燥オーブン中で、200℃で7時間、粒子を更に乾燥させた。この工程によって生成された多孔性磁性ガラス粒子は、25μmの平均直径を有していた。
【0075】
実施例6.より小さな核酸分離からプラスミドDNAを精製するための多孔性磁性ガラス粒子の使用
この実施例は、3つの異なる磁性粒子の、より短いDNA分子の混合物からプラスミドDNAを精製する能力を比較する。この実施例では、3つの異なる供給源からの磁性粒子は、ポリメラーゼ・チェーン反応(PCR)オリゴヌクレオチドプライマーの混合物から、3kbのプラスミドベクターを分離するために使用される。ロシュ・ダイアグノスティクス(Roche Diagnostics)(mRNA単離キット、カタログ番号1934333、ロシュ・ダイアグノスティクス(Roche Diagnostics)、マンハイム(Mannheim)、ドイツ)、及びプロメガ(Promega)(ウィザード・ピュア・フェクション(WIZARD PURE FECTION)(登録商標)プラスミドDNA精製システム、カタログ番号A2150、プロメガ社(Promega Corp.)、マディソン(Madison)、WI)から、本発明の多孔性磁性ガラス粒子の実施例として、実施例4の工程によって、それら磁性粒子が得られた。
【0076】
2.96kb(ストラタジーン社(Stratagene GmbH)、ハイデルベルグ(Heidelberg)、ドイツ)、及び50μl当たり1μgのオリゴマー濃度で、20ヌクレオチド(20量体)、45ヌクレオチド(45量体)、56ヌクレオチド(56量体)、及び75ヌクレオチド(75量体)のヌクレオチド長を有する一連の市販のオリゴマーPCRプライマー(TIBモルビオル(Molbiol)、ベルリン(Berlin)、ドイツ)であるファージミド(phagemid)pブルースクリプト(BLUESCRIPT)IIを含む核酸分子の溶液が調製された。
【0077】
磁気分離によって、実施例4で得られた磁性粒子の3つの調製物からバッファー汚染物質を除き(freed)、水で2回、無水エタノールで2回洗浄し、真空乾燥させた。次いで、粒子を、23.5mg/mlの濃度で、バッファーPB、カオトロピック剤を含む溶液(キアゲン社(QIAGEN Inc.)、バレンシア(Valencia)、カリフォルニア(California)、USA、カタログ番号19066)中に懸濁させた。500μlのPCRエッペンドルフ管中で、各粒子の懸濁液100μlを、核酸分子溶液の50μlアリコートと混合した。次いで、粒子と核酸分子とを、IKAミニシェーカー(Minishaker)(IKA、スタウフェン(Staufen)、ドイツ)上で1分間混合した。次いで、PCR管をダイナル(Dynal)MPC−P−12磁気分離機中に入れ、液体から磁性粒子を回収して分離した後、上清液を捨てた。次いで、バッファーPE(キアゲン社(QIAGEN Inc.)、バレンシア(Valencia)、カリフォルニア(California)、USA、カタログ番号19065)中で4回、再懸濁させることによって粒子を洗浄した。
【0078】
洗浄した粒子を、37℃で加熱ブロック中で15分間乾燥させ、残留エタノールを除去した。粒子から核酸分子を溶出するために、30μlの溶出バッファー(10mMのトリスHCl(トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン)、pH8.5)を、PCR管中の粒子へ添加した後、IKAミニシェーカー(Minishaker)上で、管を1分間混合した。次いで、PCR管を磁気分離機中に入れ、粒子を磁気的に分離した。次いで、25μlの溶出液を管からピペットで取り出した。核酸分子の収率を分析するために、溶出液の試料15μlを、標準2%TAE(トリス、酢酸塩、EDTA(エチレンジアミンテトラアセテート))臭化エチジウム含有アガロースゲル上で操作した。下記表1は、3種の磁性粒子によって精製された様々な核酸分子の収率を示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1の核酸分子の収率から、実施例4の工程によって生成された多孔性磁性ガラス粒子が、より小さな核酸分子からプラスミドDNAを精製する際に、どちらかの市販の磁性粒子の調製物より、より有効であることが明らかに示される。
【0081】
実施例7.全血液からゲノムDNAを精製するための多孔性磁性ガラス粒子の使用
この実施例は、ヒトの血液細胞からゲノムDNAを精製するための、本発明の多孔性磁性ガラス粒子の使用を示す。
多孔性磁性ガラス粒子は、実施例4の工程によって合成した。0.04%のナトリウムアジドを含む、ヌクレアーゼを含まない水に、110mgのキアゲン(QIAGEN)プロテアーゼ(キアゲン社(QIAGEN Inc.)、バレンシア(Valencia)、カリフォルニア(California)、USA、カタログ番号19157)を溶解することにより、プロテアーゼ溶液を調製した。このプロテアーゼ溶液を、2〜8℃で貯蔵して、少なくとも2ヶ月間静置した。125mlの無水エタノール(フルカ(Fluka)AG、バックス(Buchs)、スイス)を95mlのAW1濃縮バッファー貯蔵液(キアゲン社(QIAGEN Inc.)、バレンシア(Valencia)、カリフォルニア(California)、USA、カタログ番号19081)と混合することにより、AW1バッファーを調製した。160mlの無水エタノールを66mlのAW2濃縮バッファー貯蔵液(キアゲン社(QIAGEN Inc.)、バレンシア(Valencia)、カリフォルニア(California)、USA、カタログ番号19072)と混合することにより、AW2バッファーを調製した。多孔性磁性ガラス粒子(180mg)を、1mlのカオトロピックALバッファー(キアゲン社(QIAGEN Inc.)、バレンシア(Valencia)、カリフォルニア(California)、USA、カタログ番号19075)中に懸濁させ、懸濁液を使用直前にホモジナイザー(homogenizer)(IKA ミニシェーカー(Minishaker))で混合した。
【0082】
本発明の多孔性磁性ガラス粒子は、以下の血液スピンプロトコルを用いて血液細胞からゲノムDNAを単離するために使用された。
20μlのプロテアーゼ溶液をミクロ遠心分離管の底へ移し、15秒間のパルスボルテックス(pulse−vortexing)によって、遠心分離で200μlのバッファーAL及び200μlの全ヒト血液と混合し、均質な混合物(細胞抽出物)を得た。ALバッファー中の磁性粒子の均質な懸濁液20μlを添加した後、ミクロ分離(microfuge)管に15秒間パルスボルテックスを行った。次いで、磁性粒子と細胞抽出物との混合物を56℃で10分間インキュベートした。250μlのイソプロパノールを混合物へ添加し、ミクロ分離管に直ちにパルスボルテックスを15秒間行った。
【0083】
磁性粒子及び細胞抽出物を含むミクロ分離管を磁気分離機(ダイナル(Dynal)AS、上記参照)へ入れ、上清液から磁性粒子を分離した後、上清液は廃棄した。500μlのバッファーAWで2回、粒子を洗浄し、粒子をバッファー中に再懸濁させ、簡単にボルテックスミキサーで混合することにより(vortexing)、完全に懸濁させた。それぞれのボルテックスミキサーによる混合の後に、磁気分離機を用いて粒子を回収した、その後、同じように、500μlのバッファーAW2によって2回、粒子を洗浄した。この一連の洗浄の後に、最後の洗浄バッファーを除去し、室温で15分間、管を磁気分離機中にセットし、粒子を乾燥させ、蒸発によって残留エタノールを除去した。
【0084】
この乾燥期間後、磁性粒子に結合したDNAを、100μlのバッファーAE(キアゲン社(QIAGEN Inc.)、バレンシア(Valencia)、カリフォルニア(California)、USA、カタログ番号19077)中に粒子を懸濁させ、ボルテックスミキサーで簡単に攪拌して粒子を懸濁させ、かつ懸濁液を1分間室温でインキュベートすることによって溶出させた。次いで、磁気分離機を用いて溶出液から磁性粒子を回収して分離した。上清溶出液を、別のミクロ分離管へ移した。この溶出段階を繰り返した。
【0085】
臭化エチジウムを含む標準1%TAEアガロースゲル上で溶出したDNAの試料を操作することによって、この工程によって得られたゲノムDNAの長さ及び純度を決定した。分光光度計における260nmでの吸光度(A260)と280nmでの吸光度(A280)との比によって、収率及び純度を評価した。典型的には、この工程により、ミクロ分離管(全血液200μl)当たり、1.6〜1.85のA260/A280の平均比を有する精製されたゲノムDNAが4〜8μg得られた。
【0086】
ここに記載の本発明の他の変形及び態様は、本発明の精神又は以下の請求項の範囲から逸脱することなく、当業者に直ちに明らかであろう。上記の全ての特許、出願、及び公報は、本明細書に開示として援用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄粒子又は顔料上に沈殿又は吸着したシリカガラスを含む多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子であって、シリカガラス粒子の細孔が、10nmより大きいか、又は小さい直径を有する細孔を含み、かつ10nmより大きい直径を有する細孔の累積細孔面積が4m2/gより大きい粒子。
【請求項2】
5〜25μmの直径を有する請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項3】
6〜15μmの直径を有する請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項4】
7〜10μmの直径を有する請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項5】
粒子の総BET表面積が190m2/gより大きい請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項6】
粒子の総BET表面積が、190〜270m2/gの範囲である請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項7】
10nmより大きい直径を有する細孔の累積細孔面積が、約4〜8m2/gの範囲である請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項8】
酸化鉄粒子又は顔料がフェライトである請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項9】
酸化鉄粒子又は顔料が磁鉄鉱である請求項1に記載の強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項10】
酸化鉄粒子又は顔料がフェライトと磁鉄鉱との混合物である請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項11】
酸化鉄粒子又は顔料がフェリ磁性磁鉄鉱である請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項12】
粒子が30〜50重量%のSiO2及び50〜70重量%のFe34である請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項13】
粒子が35〜40重量%のSiO2及び55〜65重量%のFe34である請求項12に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項14】
酸化鉄粒子又は顔料が、75〜300nmの範囲の平均直径を有する請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項15】
酸化鉄粒子又は顔料の80%が、75〜300nmの範囲の直径を有する請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項16】
酸化鉄粒子又は顔料の90%が、75〜300nmの範囲の直径を有する請求項1に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を含む、混合物から目的の分子を分離、単離、又は検出するためのキット。
【請求項18】
目的の分子が、核酸、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、炭水化物、脂質、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる請求項17に記載のキット。
【請求項19】
目的の分子が核酸分子である請求項18に記載のキット。
【請求項20】
カオトロピック剤を更に含む請求項17、18、又は19に記載のキット。
【請求項21】
カオトロピック剤が、過塩素酸ナトリウム、塩酸グアニジニウム、イソチオシアン酸グアニジニウム、ヨウ化カリウム、チオシアン酸カリウム、塩化ナトリウム、イソチオシアン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、ヨウ化ナトリウム、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる請求項20に記載のキット。
【請求項22】
目的の分子を含む混合物を供給し;
請求項1〜16のいずれか1項の多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子と混合物を接触させ;
混合物中の目的の分子を多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子に付着させ;
外部磁場をかけることにより、付着した目的の分子を含む多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を回収し;かつ 付着した目的の分子とともに多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子を、混合物の結合していない成分から除去することを含む、目的の分子を混合物から単離する方法。
【請求項23】
付着した目的の分子を、多孔性強磁性又はフェリ磁性ガラス粒子から溶出する段階を更に含む請求項22に記載の目的の分子を混合物から単離する方法。
【請求項24】
目的の分子が、核酸、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、炭水化物、脂質、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項22又は23に記載の目的の分子を混合物から単離する方法。
【請求項25】
目的の分子が核酸分子である請求項24に記載の目的の分子を混合物から単離する方法。
【請求項26】
核酸が、プラスミドDNA、ゲノムDNA、cDNA、PCR DNA、線状DNA、RNA、リボザイム、アプタマー、及び化学的に合成された核酸からなる群から選択される請求項25に記載の核酸の単離方法。

【公開番号】特開2012−106241(P2012−106241A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257302(P2011−257302)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【分割の表示】特願2001−569829(P2001−569829)の分割
【原出願日】平成13年3月22日(2001.3.22)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】