説明

分岐鎖アミノ酸を含有する焼菓子

【課題】 高齢者等の栄養状態を改善するための、分岐鎖アミノ酸、タンパク質を含有し、高エネルギーに調整された焼菓子形態の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を提供する。
【解決手段】 エネルギー組成が、タンパク質10〜20%、脂質35〜50%、糖質30〜55%である焼菓子であって、イソロイシン、ロイシン、バリンからなる分岐鎖アミノ酸を1.0〜4.0g/100kcal含有し、さらに、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、乳清タンパク、脱脂粉乳からなる群から選ばれる1または2以上のタンパク質原料を含有する焼菓子が上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手軽に分岐鎖アミノ酸、エネルギーおよびタンパク質を摂取することができる、主として高齢者向けの焼菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会を迎え、高齢者の虚弱化や寝たきりを防止することが課題となっている。介護予防の観点からは、筋力トレーニングを行うことで、高齢者の筋力を増加させることが望ましい。
【0003】
しかし、このような高齢者は、食欲が低下しているため、エネルギーおよびタンパク質の摂取量が不足することでおこるエネルギー・タンパク質低栄養(PEM)状態にある場合が多い。PEM状態下での筋力トレーニングでは、筋肉の材料となるタンパク質が不足しているため、十分なトレーニング効果が得られない。したがって、通常の食事に加えて、トレーニングの際には、エネルギーおよびタンパク質を効率よく供給できる、総合栄養食品を補助食として摂取することが望ましい。そして、このような総合栄養食品としては、不足しているエネルギーおよびタンパク質を配合するだけでなく、筋肉の分解を抑制し、合成を促進することが知られている、イソロイシン、ロイシン、バリンの3種類の分岐鎖アミノ酸(BCAA)を配合した焼菓子形態が適している。
【0004】
ところで、クッキーやビスケット、サブレなどの焼菓子の嗜好性は、外観、風味、甘味、硬さ、もろさ、口どけなど多くの嗜好因子が関わりあっていて、総合的に評価される。特に、咀嚼により容易に多数の不規則な細片に砕けるもろい性質、すなわちショートニング性(サクサク感)が重要なテクスチャー特性とされている(非特許文献1)。ショートニング性とは、小麦粉で作った生地の中で、グルテンの形成を阻止し、サクサクとした口当たりに仕上げる性質を指す。特に、焼菓子では食感が軽く、サクサク感が強いものが望まれている。しかしながら、通常の焼菓子の調製方法で、イソロイシン、ロイシン、バリンといった分岐鎖アミノ酸と、タンパク質、エネルギーを摂取できる焼菓子を調製すると、咀嚼によって粉末状に砕け、粉っぽく、モソモソとした食感となるといった課題があった。
【0005】
従来までに、高栄養高タンパク焼菓子としては、セロオリゴ糖を1〜10質量%含有した高タンパク高栄養焼菓子(特許文献1)が開示されているが、分岐鎖アミノ酸は配合されていなかった。セロオリゴ糖は低甘味なため、分岐鎖アミノ酸を含有する焼菓子に添加する場合には、分岐鎖アミノ酸の苦味を感じ易くなるため、好ましくなかった。
【0006】
また、原料総固形分重量に対してタンパク質10〜20重量%、脂質7〜14重量%および糖質55〜81重量%を含有し、上記糖質中に特定量のトレハロースが含まれる生地を加熱焼成して得られる高栄養焼菓子が開示されている(特許文献2)が、この焼菓子は、脂質含量が低く、また、分岐鎖アミノ酸は配合されておらず目的としている組成ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−200715号公報
【特許文献2】特開2002−191292号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】和田淑子、 クッキー、 調理科学,Vol.21(4)1988、pp39−43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述の状況を鑑みてなされたもので、高齢者等の栄養状態を改善するものであり、分岐鎖アミノ酸、タンパク質を含有し、高エネルギーに調整された焼菓子形態の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、前記目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、エネルギー組成が、脂質35〜50%、タンパク質10〜20%であり、イソロイシン、ロイシン、バリンからなる分岐鎖アミノ酸を1.0〜4.0g/100kcal含有する焼菓子において、特定のタンパク質原料を含有することにより、焼成後に適度な硬さと好ましいサクサクとした食感を持つ焼菓子を製造できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)に示したものである。
(1)エネルギー組成が、タンパク質10〜20%、脂質35〜50%、糖質30〜55%である焼菓子であって、イソロイシン、ロイシン、バリンからなる分岐鎖アミノ酸を1.0〜4.0g/100kcal含有し、さらに、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、乳清タンパク、脱脂粉乳からなる群から選ばれる1または2以上のタンパク質原料を含有する焼菓子。
(2)カゼインナトリウム、カゼインカリウム、乳清タンパク、脱脂粉乳からなる群から選ばれる1または2以上のタンパク質原料を、分岐鎖アミノ酸1重量部に対して合計0.15〜1.7重量含有する(1)に記載の焼菓子。
(3)焼成後の硬さが、20〜80Nである(1)または(2)に記載の焼菓子。
(4)イソロイシン、ロイシンおよびバリンの配合割合が1:1.8〜2.2:0.9〜1.1である(1)ないし(3)のいずれかに記載の焼菓子。
(5)さらに、ビタミンまたはミネラルが配合されてなる(1)ないし(4)のいずれかに記載の焼菓子。
【発明の効果】
【0012】
本発明の焼菓子は、分岐鎖アミノ酸を含有し、かつ、タンパク質および脂質を多く含有するにもかかわらず、焼成後も適度な硬さと好ましい食感を持つ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の焼菓子を詳細に説明する。
本発明に示される「焼菓子」とは、生地を賦型後、加熱焼成して成形したものを意味する。生地に使用する原料は、従来焼菓子を調製する際に使用されているものはいずれも使用可能であり、例えば、小麦粉、糖類、食用油脂を主原料とし、必要に応じて食塩、乳製品、卵、膨張剤などを加えたものである。焼菓子に属するものの代表例としては、クッキー類、ビスケット類、サブレ類などを挙げることができる。
【0014】
本発明の焼菓子は、エネルギー組成としてタンパク質を10〜20%、好ましくは15〜20%含有する。ここで、エネルギー組成とは、本発明の焼菓子の総エネルギーに対するタンパク質、脂質、炭水化物のそれぞれ由来のエネルギーの比を百分率で表した数値であり、タンパク質由来のエネルギーにはアミノ酸由来のエネルギーも含むものとする。タンパク質の割合が10%より少ないと、十分なタンパク質量を摂取できなくなり好ましくない。また、20%を超えると、脂質を十分に摂取できなくなり、好ましくない。
【0015】
本発明の焼菓子は、分岐鎖アミノ酸を含有する。分岐鎖アミノ酸とは、イソロイシン、ロイシンおよびバリンであり、本発明の焼菓子におけるこれらの分岐鎖アミノ酸の配合量の合計は、100kcalあたり1.0〜4.0gの範囲である。分岐鎖アミノ酸の配合量が、1.0g/100kcalより少ないと、目的とする分岐鎖アミノ酸量を摂取できなくなり、好ましくない。また、4.0g/100kcalを越えると、焼成後の焼菓子が十分な保形性および硬さを有さなくなり、食品として好ましくない。また、イソロイシン、ロイシンおよびバリンの配合割合は特に限定されないが、栄養学的なバランスを考慮すると、1:1.8〜2.2:0.9〜1.1であることが好ましい。この配合割合は、体タンパク質合成にとって最適な比率に近く、ヒトの母乳中に含まれる分岐鎖アミノ酸の割合にも近い。
【0016】
また、本発明の焼菓子には、好ましい食感に調製するために、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、乳清タンパクおよび脱脂粉乳から選ばれるタンパク質原料を単独または2種類以上を組み合わせて配合する。これらのタンパク質原料は、分岐鎖アミノ酸1重量部に対して、0.15〜1.7重量部を配合するのが好ましい。0.15重量部より少ないと、焼成後に適度な硬さが得られず、砂粒を噛むような食感となり、1.7重量部より多く配合すると、焼成品の形が椀状になり、好ましくない。
【0017】
本発明の焼菓子においては、上記分岐鎖アミノ酸およびタンパク質原料以外のタンパク質成分は特に限定されず、エネルギー組成としてタンパク質が10〜20%に収まる限りにおいて、従来から食品に慣用されるタンパク質原料を、種々組み合わせて用いることができる。植物性タンパク質原料としては、大豆タンパク、濃縮大豆タンパク、小麦タンパク、コーングルテンミールなどが例示でき、また、動物性タンパク質原料として、例えば、牛乳などの乳製品の他、カゼイン、カゼインマグネシウム、カゼインカルシウム、トータル・ミルク・プロテイン(TMP)、ミルク・プロテイン・コンセントレート(MPC)などの乳タンパク、卵白、コラーゲン、プロタミンなどを例示することができる。
【0018】
本発明の焼菓子は、エネルギー組成として脂質を35〜50%含有し、好ましくは40〜50%である。脂質が35%より少なくなると、十分なエネルギーが摂取できなくなり、好ましくない。また、50%より多くなると、タンパク質を十分に摂取できなくなり、好ましくない。
【0019】
本発明の焼菓子に配合する脂質としては、従来から食品で利用されている公知の各種の食用油脂類が、1種単独でまたは2種以上混合して使用できる。例えば、アマニ油、エゴマ油、オリーブ油、ゴマ油、米油、米糠油、サフラワー油、シソ油、大豆油、コーン油、ナタネ油、胚芽油、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油、綿実油、ヤシ油、ナッツ油、落花生油、カカオ脂などの植物性油脂やラード、牛脂、魚油、乳脂などの動物性油脂、中鎖脂肪酸、高度不飽和脂肪酸、DHA、EPA、ジアシルグリセロールなどの加工油脂、また、これら油脂を含有するバター、マーガリン、ショートニングなどの油脂加工品などが挙げられる。
【0020】
本発明の焼菓子は、エネルギー組成として糖質を30〜55%含有する。これらの糖質は、主として焼菓子生地の主体となる小麦粉(薄力粉)と、甘味の付与を目的とした糖分により構成される。甘味の付与を目的とした糖分としては従来から食品で利用されてきている公知の各種のもののいずれも使用することができ、例えば、ブドウ糖(グルコース)、乳糖(ラクトース)、果糖(フルクトース)などの単糖類、蔗糖(グラニュー糖)、麦芽糖、トレハロース、マルトース、イソマルトースなどの二糖類、グリコーゲン、デキストリンや、各種デンプン、水飴、還元水飴、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖など)、粉飴、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトールなど)、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)などが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0021】
また、本発明の焼菓子は、甘味の付与を目的として糖分以外の甘味料を含有してもよく、具体的には、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末などを含有することができる。
【0022】
また、本発明の焼菓子は、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、食物繊維を配合してもよい。このような食物繊維としては、例えば、グアーガム酵素分解物、低分子化アルギン酸ナトリウム、グルコマンナン、イヌリン、リンゴ食物繊維などの水溶性食物繊維やコーンファイバー、レジスタントスターチ、サイリウム種皮、ビートファイバー、アップルファイバー、サトウキビ食物繊維、小麦ふすま、発酵大麦ファイバー、エンドウファイバー、夕顔果実食物繊維、シトラスファイバー、セルロース、小麦ファイバー、オート麦ファイバー、ポテトファイバー、大豆ファイバーなどの不溶性食物繊維が挙げられる。
【0023】
また、本発明の焼菓子を製造する際には、製品の種類に応じて通常用いられる適当なビタミン類やミネラル類などの成分を配合することが出来る。
本発明の焼菓子に配合するビタミン類としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなどが挙げられ、これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが、栄養学的観点から好ましい。ビタミンとしては、ビタミン誘導体を使用してもよい。
【0024】
ビタミンの配合量としては、焼菓子100kcalあたり、下記の範囲が適当である。
ビタミンB1 0.1〜40mg、好ましくは0.3〜25mg
ビタミンB2 0.1〜20mg、好ましくは0.33〜12mg
ビタミンB6 0.1〜60mg、好ましくは0.3〜10mg
ビタミンB12 0.1〜100μg、好ましくは0.60〜60μg
ナイアシン 1〜300mg、好ましくは3.3〜60mg
パントテン酸 0.1〜55mg、好ましくは1.65〜30mg
葉酸 10〜1000μg、好ましくは60〜200μg
ビオチン 1〜1000μg、好ましくは14〜500μg
ビタミンC 10〜2000mg、好ましくは24〜1000mg
ビタミンA 0〜3000μg、好ましくは135〜600μg
ビタミンD 0.1〜50μg、好ましくは1.5〜5.0μg
ビタミンE 1〜800mg、好ましくは2.4〜150mg
ビタミンK 0.5〜1000μg、好ましくは2〜700μg
【0025】
本発明の焼菓子に用いるミネラル類としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンおよび亜鉛などが挙げられ、これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが栄養学的観点から好ましい。これらは、無機電解質成分として配合されていても良いし、有機電解質成分、として配合されていてもよい。無機電解質成分としては、例えば、塩化物、硫酸化物、炭酸化物、リン酸化物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩類が挙げられる。また、有機電解質成分としては、有機酸、例えばクエン酸、乳酸、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸など)、アルギン酸、リンゴ酸またはグルコン酸と、無機塩基、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類が挙げられる。例えば、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、未焼成カルシウム、塩化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、グルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛などが挙げられる。
【0026】
ミネラルの配合量としては、焼菓子100kcalあたり、下記の範囲が適当である。
ナトリウム 5〜6000mg、好ましくは10〜3500mg
カリウム 1〜3500mg、好ましくは25〜1800mg
マグネシウム 1〜740mg、好ましくは25〜300mg
カルシウム 10〜2300mg、好ましくは250〜600mg
リン 1〜3500mg、好ましくは25〜1500mg
亜鉛 0.1〜30mg、好ましくは1〜15mg
【0027】
本発明の焼菓子は、前記主成分の他に、必要に応じて、栄養価を高めたり、風香味を付与したり、着色したりする目的で用いられる種々の添加物を更に含有することができる。該添加物としては、例えば、風香味付与を目的とする香料(合成香料および天然香料)、醤油、味噌、化学調味料、風味物質(チーズ、チョコレート、ココアパウダーなど)など、着色を目的とするカラメル、天然着色料など、その他、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンなど)、安定剤、防腐剤などをそれぞれ挙げることができる。これらの添加剤はそれぞれ1種単独でも2種以上組み合わせても利用することができる。
【0028】
なお、本発明の焼菓子には、食塩、イースト、酵素、膨張剤などを必要に応じて添加することもできる。酵素としては、例えば、製菓用に一般によく知られている各種のプロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼなどを例示することができる。膨張剤としては、食品業界で汎用されている、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウムなどおよびこれらを含むものを例示することができる。その代表例としては市販のベーキングパウダーを例示することができる。これら食塩、イースト、酵素、膨張剤などの添加配合量は、通常これらが焼菓子に配合される場合と同等であり、一般には約1重量%程度までである。
【0029】
本発明に係る焼菓子の製造方法においては、まず上記各成分を含有する生地を作成する。これは上記各成分の所定量を水と混合し、混合物を混練することにより行い得る。上記各成分の混合、混練による生地の調製は、得られる生地が均一になるように適宜通常の装置、条件などを利用して行うことができる。例えばまず粉末状の各原料成分を秤量、混合し、混合粉末に水および水分を多く含む液状動物性タンパク質素材(牛乳、全卵など)を混合する。この工程を経て、得られた生地は、必要に応じ、室温または低温下(−20〜10℃)で寝かせてもよい。
【0030】
本発明では、次いで上記で得られる生地を任意の形状に賦型する。この賦型は、通常の方法に従い、例えば、麺棒あるいは、デポジター、圧延ローラーなどの機械を用いて生地を伸ばし、型抜きして行う。その際の形状は任意のものとすることができる。製造の容易性、得られる食品の食べやすさなどを考慮すれば、通常、厚さ4〜8mm程度の板状体などとするのが望ましい。これら賦型物の大きさおよび長さは最終製品の食べ易さ、取扱いの容易さなどを考慮して適宜定めればよい。必要に応じ生地を裁断してもよい。
【0031】
本発明においては上記生地を加熱焼成することを不可欠とし、これによって、分岐鎖アミノ酸を含有する本発明の目的とする焼菓子形態の総合栄養食品を得ることができる。
加熱焼成の条件は、使用した原料素材、生地の水分含量などに応じて適宜選択でき、一般に製菓製造において採用されているそれらの条件と特に異なるものではない。通常、加熱温度範囲は約60〜250℃の範囲から選ばれ、加熱時間は約2〜60分の範囲から選ばれる。殊に好ましい温度および時間は約160〜220℃および8〜15分程度である。上記加熱焼成のための熱源としては、特に制約はなく熱水、蒸気、電気ヒーター、ガスオーブンなどの燃焼熱を利用するもの、電子レンジなどのマイクロ波、遠赤外線、赤外線などの各種のものを用いることができる。
【0032】
本発明の焼菓子の製造に際しては、上記に説明した組成範囲に基づいて、後述の実施例の方法や、焼菓子の製造法として従来から知られている方法、もしくは今後新しく提供される方法を利用することができる。
【0033】
また、本明細書において、「硬さ」は、生地を一定の厚さの均一な板状に伸ばした生地を、直径6cmの型により型抜きし、円盤状に成型された生地をオーブン等で焼成して得た該焼菓子を、クリープメーター(MODEL RHEONER II、株式会社山電)を用いて、破断強度試験を行った場合の「最大荷重」により判断される。
【0034】
本発明の焼菓子の焼成後の硬さは、20〜80N、より好ましくは、30〜80Nの範囲である。焼菓子の硬さが20Nより小さいと、食感が悪くなるだけでなく、焼菓子が脆くなりすぎ、焼成後の取扱いが困難である。また、80Nを越えると硬くなり、咀嚼が困難であるため、食品として好ましくない。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
表1に示す配合に基づき、下記調製法1の方法により焼菓子を得た。脂質エネルギー比は45%、分岐鎖アミノ酸は2.1g/100kcalになるように調整した。
そして、下記評価法1〜3により、硬さ、水分活性、および食感(ショートニング性)を評価した。
表3に示すように、得られた焼菓子の硬さは36N、水分活性は0.46、食感は良好であった。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
(調製法1)
マーガリン(株式会社ADEKA)、グラニュー糖および乳化剤(サンソフトNo.818H、太陽化学株式会社)を4.8L容ステンレルボウルに入れ、ミキサー(KitchenAid 型式:KSM5、平面ビーター、株式会社エフ・エム・アイ)を用い、速度目盛り2で2分間ミキシングした。次に、凍結全卵(製菓用、キユーピータマゴ株式会社)を加えて、速度目盛り2で2分間ミキシングした。さらに、ミクロカルマグSおよびビタミンミックスを加えて、速度目盛り2で3分間ミキシングした後、ロイシン、イソロイシン、バリン(L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン、いずれも協和発酵バイオ株式会社)、乳清タンパク(Lacprodan DI−9224、アーラフーズイングレディエンツジャパン株式会社)を加えて、速度目盛り1で30秒間、速度目盛り2で30秒間ミキシングした。最後に、薄力粉(日清フラワー薄力小麦粉、日清フーズ株式会社)を加えて、速度目盛り1で30秒間、速度目盛り2で1分間ミキシングして焼菓子用生地を調製した。得られた生地を室温で寝かした後、麺棒で7mm厚の均一な板状に伸ばし、直径6cmの型により型抜きした。その後、型抜きした生地をオーブンレンジ(品番:NE−M250、松下電器産業株式会社)で170℃、13分間焼成し、焼菓子を得た。
【0040】
(評価法1)
実施例1の焼菓子の硬さは、焼成して得た焼菓子を、クリープメーター(MODEL RHEONERII、株式会社山電)を用いて、破断強度試験を行った場合の最大荷重を指標とした。感圧軸は、長さ3cm、幅1mmの楔形を用いて試験を行った。計測はn=5で行い、結果は平均値で示した。30〜80 Nを『○』、20〜30N未満を『△』、20N未満を『×』とした。
【0041】
(評価法2)
訓練されたパネラー5人により、焼菓子のサクサクとした食感(ショートニング性)に関する官能試験を行った。
結果は、良好:2点、どちらでもない:1点、不良:0点で評価し、合計点数が8点以上を良好『○』、5〜7点を許容範囲内『△』、5点未満を不良『×』とした。
【0042】
(評価法3)
実施例1の焼菓子の水分活性は、焼成して得た焼菓子を十分に冷却し、一部を用いて水分活性を測定した。水分活性の測定は,水分活性測定装置(ノバシーナ社製 LabMaster−aw Standard)を用いた。水分活性が0.60以下を『適』、0.61以上を『不適』と判断した。
【0043】
以上、3つの評価法から得られた結果をもって、下記のように総合評価した。
評価法1、2、3の順で優先的に判断し、
◎:全ての評価において『○』または『適』の場合
○:評価法1、評価法2が『○』または『△』、評価法3において『適』の場合
△:評価法1、評価法2が『○』または『△』、評価法3において『不適』の場合
×:評価法1、評価法2が『△』または『×』の場合
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
(実施例2)
実施例1において、乳清タンパクを脱脂粉乳(235−NF−L、森永乳業株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た上で、同様に評価を行った。得られた焼菓子の硬さは31N、水分活性は0.47、食感は良好であった。結果を表3に示す。
【0047】
(実施例3)
実施例1において、乳清タンパクを、カゼインカリウム(カゼインカリウムSPLAY、日本新薬株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た上で、同様に評価を行った。得られた焼菓子の硬さは38N、水分活性は0.57、食感は良好であった。結果を表3に示す。
【0048】
(実施例4)
実施例1において、乳清タンパクを、カゼインナトリウム(EM−7、日本新薬株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た上で、同様に評価を行った。得られた焼菓子の硬さは34N、水分活性は0.61、食感は許容範囲内であった。結果を表3に示す。
【0049】
(実施例5)
実施例1において、乳清タンパクを34g、濃縮大豆タンパクを34gに変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た上で、同様に評価を行った。得られた焼菓子の硬さは24N、水分活性は0.47、食感は良好であった。結果を表4に示す。
【0050】
(実施例6)
実施例1において、乳清タンパクを68g、薄力粉を166gに変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た上で、同様に評価を行った。得られた焼菓子の硬さは32N、水分活性は0.47、食感は許容範囲内であった。結果を表4に示す。
【0051】
(実施例7)
実施例1において、乳清タンパクを16g、薄力粉を218gに変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た上で、同様に評価を行った。得られた焼菓子の硬さは28N、水分活性は0.46、食感は良好であった。結果を表4に示す。
【0052】
(実施例8)
実施例1において、乳清タンパクを6g、薄力粉を228gに変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た上で、同様に評価を行った。得られた焼菓子の硬さは24N、水分活性は0.49、食感は良好であった。結果を表4に示す。
【0053】
(比較例1)
実施例1において、乳清タンパクを、カゼインカルシウム(カゼインCa S、日本新薬株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た上で、同様に評価を行った。得られた焼菓子の硬さは13N、水分活性は0.56、食感は不良であった。結果を表3に示す。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、乳清タンパクを、ミルク・プロテイン・コンセントレート(MPC)(MPC80、日本新薬株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た上で、同様に評価を行った。得られた焼菓子の硬さは18N、水分活性は0.46、食感は不良であった。結果を表3に示す。
【0055】
(比較例3)
実施例1において、乳清タンパクを、濃縮大豆タンパク(ARCON S、日本新薬株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た上で、同様に評価を行った。得られた焼菓子の硬さは16N、水分活性は0.56、食感は不良であった。結果を表3に示す。
【0056】
(比較例4)
実施例1において、乳清タンパクを、薄力粉に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た上で、同様に評価を行った。得られた焼菓子の硬さは24N、水分活性は0.56、食感は許容範囲内であった。結果を表3に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー組成が、タンパク質10〜20%、脂質35〜50%、糖質30〜55%である焼菓子であって、
イソロイシン、ロイシン、バリンからなる分岐鎖アミノ酸を1.0〜4.0g/100kcal含有し、
さらに、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、乳清タンパク、脱脂粉乳からなる群から選ばれる1または2以上のタンパク質原料を含有する焼菓子。
【請求項2】
カゼインナトリウム、カゼインカリウム、乳清タンパク、脱脂粉乳からなる群から選ばれる1または2以上のタンパク質原料を、分岐鎖アミノ酸1重量部に対して合計0.15〜1.7重量含有する請求項1に記載の焼菓子。
【請求項3】
焼成後の硬さが、20〜80Nである請求項1または2に記載の焼菓子。
【請求項4】
イソロイシン、ロイシンおよびバリンの配合割合が1:1.8〜2.2:0.9〜1.1である請求項1ないし3のいずれかに記載の焼菓子。
【請求項5】
さらに、ビタミンまたはミネラルが配合されてなる請求項1ないし4のいずれかに記載の焼菓子。

【公開番号】特開2013−102739(P2013−102739A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249613(P2011−249613)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】