説明

分布定数線路型バンドパスフィルタ

【課題】追加のフィルタを設けることなく、2倍以上の高調波成分を良好に抑制できるようにする。
【解決手段】キャビティ50を形成する金属製ケース1の底面部に、誘電体基板2が配置され、この誘電体基板2に、通過周波数帯域のλの1/2で共振しマイクロストリップ線路からなるλ/2共振器パターン3が6段形成される。この6段のλ/2共振器パターン3の略中心の上方に、金属製円柱からなる抑圧用ポスト5を設け、この抑圧用ポスト5をλ/2共振器パターン3と容量結合させることで、共振周波数の2倍以上の高調波成分を抑圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分布定数線路型バンドパスフィルタ、特に高調波等の不要周波数成分を抑圧する機能を持つ分布定数線路型のバンドパスフィルタの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高周波を扱う回路・機器では、バンドパスフィルタ等の各種フィルタが用いられ、不要な周波数成分を抑圧しながら必要な周波数成分を伝送することが行われる。下記特許文献1には、導波管に適用した帯域阻止フィルタ(導波管型フィルタ)が示されており、この帯域阻止フィルタは、矩形導波管の途中に円筒空洞共振器を設けることで、所定の周波数の通過を阻止すると共に、この空洞共振器に調整ビスを配置することで、阻止周波数の調整を行うことができる。
【0003】
一方、上記導波管型フィルタではなく、マイクロストリップ線路等の分布定数線路で構成する分布定数線路型のバンドパスフィルタも用いられており、このバンドパスフィルタは、例えば誘電体基板にλ/2共振器パターンを多段に結合するように形成し、この多段のλ/2共振器パターンの上方にキャビティを設ける構成とされ、これによってλ/2の共振が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−48300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の分布定数線路型のバンドパスフィルタでは、上述のように、λ/2共振器を多段に結合させる構成であるため、基本共振周波数(通過帯域)の2倍でも共振(λ共振)し、この2倍以上の高調波成分を抑圧できないという問題があった。
【0006】
そのため、従来では、高調波成分を抑圧するために、別のローパスフィルタを設ける等しているが、この方法では、回路の占有面積又は占有体積が増えると共に、追加したフィルタの挿入損失が増え、製品全体のゲインに影響を与えるという不都合がある。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、追加のフィルタを設けることなく、2倍以上の高調波成分を良好に抑制できる分布定数線路型バンドパスフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明に係る分布定数線路型バンドパスフィルタは、誘電体基板上に形成された多段の分布定数線路型共振器パターンと、この多段の共振器パターンの上方に配置された共振用キャビティと、このキャビティの天井から上記共振器パターンへ向けて突出配置され、上記共振器パターンと容量結合することで、共振周波数の2倍以上の高調波成分を抑圧するための抑圧用ポストと、を含んでなることを特徴とする。
請求項2の発明は、上記抑圧用ポストを、上記多段の共振器パターンのうち複数の共振器パターンに対して1つ配置したことを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、抑圧用ポストを設けることで、例えば2倍高調波の共振周波数においてインピーダンスが0となる直列共振回路が形成され、これによって、2倍高調波の伝播が抑制される。
また、この抑圧用ポストは、多段の分布定数線路型共振器パターンのそれぞれに対応させ、複数設けることもできるが、請求項2の発明のように、1つの抑圧用ポストを複数の共振器パターンに結合させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバンドパスフィルタによれば、抑圧用ポストを配置することで、追加のフィルタを設けることなく、2倍以上の高調波成分を良好に抑制できるという効果がある。従って、回路の占有面積又は占有体積が増えることはなく、追加したフィルタの挿入損失が増え、製品全体のゲインに影響を与えることも防止される。
また、請求項2の発明のように、複数の共振器パターンに対して1つの抑圧用ポストを設ける場合は、それぞれの共振器パターンに対して配置する場合に比べて、抑圧調整や構造が簡単となり、製造の低コスト化を図ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係る分布定数線路型バンドパスフィルタの構成を示し、図(A)はフィルタ内部の平面図、図(B)は抑圧用ポスト部分での断面図、図(C)は信号伝播方向を描いた多段共振器パターン図である。
【図2】実施例のバンドパスフィルタにおいて、共振器の電流分布[図(A)]、抑圧用ポストとフィルタ共振器との結合等価回路図[図(B)]、この結合等価回路を説明するための図[図(C)]、LC共振回路の周波数−インピーダンス特性を示す図[図(D),(E)]である。
【図3】実施例のバンドパスフィルタの通過特性を従来(抑圧用ポストなし)と比較したもので、図(A)は24〜29GHz(2倍高調波帯域)の特性図、図(B)は13.5〜14.75GHz(通過帯域)の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1には、本発明の実施例に係る分布定数線路型バンドパスフィルタの構成が示されており、このバンドパスフィルタでは、キャビティ(共振空洞)50を形成する金属製ケース(筐体)1の中の底面部に、誘電体基板2が配置される。この誘電体基板2には、通過周波数帯域のλ(波長)の1/2で共振するマイクロストリップ線路(分布定数線路)のλ/2共振器パターン3が6段形成される。即ち、このλ/2共振器パターン3は、3〜5μm程度の厚さの銅皮膜等の導体膜をパターニングしたもので、四角形環状のマイクロストリップ線路の1辺の両端を開放にした形状とされ、6個を図示の向きで配置(電磁結合)することで、図1(C)の点線で示す方向Fで信号が伝播するように構成される。
【0013】
そして、上記6段のλ/2共振器パターン3全体の略中心の上方に、金属製円柱(角柱等でもよい)からなる抑圧用ポスト5が設けられており、この抑圧用ポスト5は、ケース1の上面の一部に形成された凹部に配置される。この抑圧用ポスト5においては、λ/2共振器パターン3からの距離(高さ)とその直径(即ち面積)を最適な値に調整・設定することで、また多段のλ/2共振器パターン3上の最適な位置に配置することで、2倍高調波を良好に抑圧することができる。実施例の抑圧用ポスト5は、その面積(底部面積)が1つのλ/2共振器パターン3の大きさ(四角形の大きさ)よりも大きくなっている。
【0014】
また、実施例の抑圧用ポスト5は、図1(B)のように、中味のある円柱体としてあるが、ケース1を構成する金属で一体に形成し、ケース1と同一の厚みを有し中味のない(内部が空洞となる)円柱状ポストとしてもよい。更に、この抑圧用ポスト5は、外周に雄ネジ部を形成したねじ式ポストとし、このねじ式ポストをケース1の上面に設けたねじ孔(雌ネジ部形成孔)に螺合結合するようにしてもよい。
【0015】
実施例は以上の構成からなり、次に図2を参照しながら、2倍高調波の抑制について説明する。
図2(A)には、λ/2共振器パターン3が2倍の周波数で共振したときの電流分布が示されており、この図から分かるように、位相が90°の位置で電流は最大(Imax)となる。また、λ/2共振器パターン3のそれぞれは、基本共振周波数のλ/2で設計しているため、その共振周波数で共振したとき、6段のλ/2共振器パターン3の中心位置で最大となる。
【0016】
図2(B)には、天井の抑圧用ポスト5とλ/2共振器パターン3との結合に関する等価回路で、図2(C)に示されるλ/2共振器パターン3の中の1つ(3G)についての等価回路が示されており、実施例では、図示されるように、λ/2共振器パターン3GのImaxの位置に、抑圧用ポスト5とキャビティ50によって構成されるLC並列共振回路7が容量8によって結合する状態となる。このLC並列共振回路7の容量結合は、複数のλ/2共振器パターン3に対して生じる。そして、この並列共振回路7と容量8は、LC直列共振回路とみなすことができる。
【0017】
図2(D)には、一般のLC並列共振回路の周波数−インピーダンス特性が示されており、このLC並列共振回路では、共振周波数fr1においてインピーダンスが∞となり、共振周波数fr1の前後では極大インピーダンス若しくは極小インピーダンスとなる。
図2(E)には、一般のLC直列共振回路の周波数−インピーダンス特性が示されており、このLC直列共振回路では、共振周波数fr2においてインピーダンスが0となる。
【0018】
従って、上記実施例の並列共振回路7でも、共振周波数fr1より僅かに低い周波数では極大インピーダンスとなり、また容量8との結合によってLC直列共振回路とみなすことができるので、この直列共振回路は、共振周波数fr2においてインピーダンスが0となる。即ち、λ/2共振器パターン3で電流最大となる箇所が高周波的に接地され、その共振周波数において信号の伝搬が抑制される。
【0019】
図3(A),(B)には、実施例のバンドパスフィルタの通過特性が示されており、図3(A)は、抑圧用ポスト5の有無において、周波数24〜29GHz(2倍高調波帯域)の信号入力時の減衰量(挿入損失)、図3(B)は、同様に周波数13.5〜14.75GHz(通過帯域)の信号入力時の減衰量である。即ち、2倍高調波帯域では、図3(A)の点線で示されるように、抑圧用ポスト5のない従来の場合、周波数26〜29GHzにおいて最大で−12dB程度の通過帯域があり、基本共振周波数の約2倍に相当する周波数帯域では信号の減衰が小さくなっている。これに対し、図3(A)の実線で示されるように、抑圧用ポスト5を設けた実施例の場合は、周波数26.75GHzに減衰極が発生し、この減衰極では、従来と比較すると、減衰量が最大で−30dB程度改善されると共に、基本共振周波数の約2倍に相当する周波数帯域おいて減衰量が大きくなる効果が得られた。
【0020】
一方、バンドパスフィルタの通過帯域では、図3(B)の点線及び実線に示されるように、抑圧用ポスト5の有無に関わらず、減衰量(挿入損失)が殆ど変化していないことが分かる。即ち、実施例では、抑圧用ポスト5を設けることで、通過帯域(基本共振周波数)における減衰特性を殆ど変えることなく、その約2倍の高調波の減衰特性を改善することができる。
【0021】
また、上記実施例では、1つの抑圧用ポスト5を用いて高調波の抑圧を効率よく行っている。即ち、抑圧用ポストは、多段に形成されたλ/2共振器パターン3の各段毎に、例えば6段に対応して6個配置することも可能であるが、実施例のように、全体に対して1個配置したり、或いは数段単位に1個という割合で配置したりすれば、抑圧調整を容易にすると共に、構成の簡略化、低コスト化を図ることができる。
【0022】
更に、実施例では、λ/2共振器を用いる場合について説明したが、その他の共振器を用いる場合でも、同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1…金属製ケース、 2…誘電体基板、
3…λ/2共振器パターン、 5…抑圧用ポスト、
7…並列共振回路、 50…キャビティ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板上に形成された多段の分布定数線路型共振器パターンと、
この多段の共振器パターンの上方に配置された共振用キャビティと、
このキャビティの天井から上記共振器パターンへ向けて突出配置され、上記共振器パターンと容量結合することで、共振周波数の2倍以上の高調波成分を抑圧するための抑圧用ポストと、を含んでなる分布定数線路型バンドパスフィルタ。
【請求項2】
上記抑圧用ポストは、上記多段の共振器パターンのうち複数の共振器パターンに対して1つ配置したことを特徴とする請求項1記載の分布定数線路型バンドパスフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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