説明

分散剤および顔料分散体組成物

【課題】本発明は、アクリル変性ウレタン樹脂分散剤に関する。当該分散樹脂は、顔料分散性に優れ、印刷インキや着色コーティング剤の使用適正の向上を図る顔料分散樹脂、樹脂型分散剤およびそれを含有する顔料分散体組成物に使用できる。
【解決手段】イソシアネート基1個あたりの数平均分子量が100〜1000であり、1分子中に平均で2〜10個のイソシアネート基を含有する多官能ポリイソシアネート化合物と
末端に水酸基を含有するアクリル樹脂とを反応させてなる、アクリル変性ウレタン樹脂分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規にして有用なる顔料粒子の分散剤および該分散剤を用いた顔料分散体組成物に関する。さらに詳しくは、着色コーティング剤や印刷インキなどの広範囲な用途に利用でき、それら用途への使用適性を向上させ得る分散剤、およびそれを含有する顔料分散体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に各種着色コーティング剤または印刷インキ組成物中において、鮮明な色調と高い着色力を発揮する実用上有用な顔料は微細な粒子からなっている。しかしながら、顔料の微細な粒子をオフセットインキ、グラビアインキおよび着色コーティング剤のようなビヒクルに分散する場合、安定な分散体を得ることが難しく、製造作業上および得られる製品の価値に種々の問題を引き起こすことが知られている。例えば、微細な粒子からなる顔料を含む分散体は往々にして高粘度を示し、製品の分散機からの取り出しや輸送が困難となるばかりでなく、更に悪い場合は貯蔵中にゲル化を起こし使用困難となることがある。さらに展色物の塗膜表面に関しては光沢の低下、レベリング不良等の状態不良を生じることがある。また異種の顔料を混合して使用する場合、凝集による色別れや、沈降などの現象により展色物に色むらや著しい着色力の低下が現れることがある。
【0003】
以上のような種々の問題点を解決するために、これまでも数多くの提案がされている。例えば、1.分散剤や分散助剤としてノニオン性、カチオン性もしくはアニオン性界面活性剤、または多価カルボン酸などの湿潤剤を用いる方法、2.特許文献1、特許文献2に見られるように、有機顔料を母体骨格として側鎖に酸性基や塩基性基を置換基として有する顔料誘導体を分散剤として混合する方法、3.特許文献3、特許文献4に見られるように、有機色素とポリマーを結合させたポリマー分散剤を用いる方法、4.特許文献5、特許文献6に代表されるようなポリマー分散剤を混合する方法が提案されている。
【特許文献1】特公昭41−2466号公報
【特許文献2】USP2855403号公報
【特許文献3】特開昭63−175080号公報
【特許文献4】特開平4−139262号公報
【特許文献5】特開平9−169821号公報
【特許文献6】特表2002−513669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記1.の方法で用いられる分散助剤または顔料分散剤では、顔料粒子の安定な状態を得ることは難しく、塗膜の耐性に悪影響を及ぼすことが多く見られる。2の方法は、顔料誘導体とワニス中の樹脂成分が相互作用して分散安定化に寄与する機構が考えられており、ビヒクル中での顔料の非集合性、結晶安定性などに関する効果が著しく大きく、また比較的簡単な混合方法によっても十分な効果が得られる場合が多い。しかし、コーティング剤、印刷インキ等には非常に多くのワニス系が存在するため、顔料誘導体とワニス中の樹脂が常に有効に作用するとは限らず、一部のワニス系を除いては満足な効果が得られていないのが実状である。また、顔料骨格を有しているので着色しており、種々の顔料に対する汎用の分散剤として使用することはできない。3の方法は、ポリマー分散剤に含まれる有機色素と顔料粒子の相互作用が強くなるためポリマー分散剤の顔料粒子への吸着が促進され分散性が向上するものと考えられる。しかしながら、ポリマー中への有機色素あるいは複素環の導入が増加すると分散媒への溶解性が減少するため、分散安定化に十分な吸着層を確保できなくなったりするという問題がある。さらに前記同様に、顔料骨格を有しているので着色しており、種々の顔料に対する汎用の分散剤として使用することはできない。4の方法は、比較的ビヒクル組成の影響が少なく汎用性のある方法であるが、ポリマー分散剤と顔料粒子の相互作用が弱いため、顔料の分散安定性という点では十分な効果が得られない場合が多い。さらに、ポリマーの組成を変更する自由度が少ないため、各コーティング剤や印刷インキに適合した分散剤を作製するのには限界がある。
【0005】
そこで、本発明は、種々の顔料粒子を安定してビヒクルに分散でき、乾燥皮膜の物性を低下さ
せることのない分散剤の提供を目的とする。また、本発明は、オフセットインキ、グラビアインキ、着色コーティング剤、インクジェットインキ等に適する、非集合性、流動性に優れた安定な顔料分散体組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、イソシアネート基1個あたりの数平均分子量が100〜1000であり、1分子中に平均で2〜10個のイソシアネート基を含有する多官能ポリイソシアネート化合物と
末端に水酸基を含有するアクリル樹脂とを反応させてなる、アクリル変性ウレタン樹脂分散剤に関する。
【0008】
また、本発明は、イソシアネート基1個あたりの数平均分子量が100〜1000であり、1分子中に平均で2〜10個のイソシアネート基を含有する多官能ポリイソシアネート化合物と
末端に水酸基を含有するアクリル樹脂と
同一分子内に活性水素および3級アミノ基もしくは窒素含有ヘテロ環構造を有する化合物とを反応させてなる、アクリル変性ウレタン樹脂分散剤に関する。
【0009】
また、本発明は、末端に水酸基を含有するアクリル樹脂が、分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物を連鎖移動剤として使用してアクリル単量体を重合してなることを特徴とする上記アクリル変性ウレタン樹脂分散剤に関する。
【0010】
また、本発明は、末端に水酸基を含有するアクリル樹脂が、リビングラジカル重合により重合してなることを特徴とするアクリル変性ウレタン樹脂分散剤に関する。また、末端に水酸基を含有するアクリル樹脂が、カルボキシル基含有単量体を共重合することを特徴とする上記アクリル変性ウレタン樹脂分散剤に関する。
【0011】
また、本発明は、上記アクリル変性ウレタン樹脂分散剤および顔料を含む顔料分散体組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、種々の顔料粒子を安定してビヒクルに分散でき、乾燥皮膜の物性を低下させることのない分散剤を提供することができる。また、本発明は、オフセットインキ、グラビアインキ、着色コーティング剤、インクジェットインキ等に適する、非集合性、流動性に優れた安定な顔料分散体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、イソシアネート基1個あたりの数平均分子量が100〜1000であり、1分子中に平均で2〜10個のイソシアネート基を含有する多官能ポリイソシアネート化合物と末端に水酸基を含有するアクリル樹脂とを反応させてなる、アクリル変性ウレタン樹脂分散剤に関する。
イソシアネート基1個あたりの数平均分子量が100〜1000であり、1分子中に平均で2〜10個のイソシアネート基を含有する多官能ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパンに代表されるようなポリオールとジイソシアネートの反応物であるアダクト体(例えばスミジュールL75、住友バイエル社製)、または、ジイソシアネートからビュレット反応によって得られるビュレット体(例えばスミジュールN3200、住友バイエル社製)、または、ジイソシアネートの環形成によって生成されるイソシアヌレート体(例えばデスモジュールIL、スミジュールN3300、デスモジュールHL、デスモジュールZ4470、住友バイエル社製)、または、ジフェニルメタンジイソシアネートのポリメリック体(例えばスミジュール44V70、住友バイエル社製)などがあげられる。
【0014】
上記に例示した多官能ポリイソシアネート化合物におけるイソシアネート基1個あたりの数平均分子量と、イソシアネート基の平均個数とを以下に示す。スミジュールL75(243,2.7個)、スミジュールN3200(183,2.6個)、デスモジュールIL(268,3.3個)、スミジュールN3300(193,2.6個)、デスモジュールHL(240,3.6個)、デスモジュールZ4470(249,2.7個)、スミジュール44V70(135,2.8個)である。ちなみに、イソシアネート基1個あたりの数平均分子量はイソシアネート基当量ともいう。
【0015】
上記した多官能ポリイソシアネートは、ジイソシアネートの重合体あるいは、ジイソシアネートとポリオールの付加体からなり、1分子中に平均で2個以上のイソシアネート基を含有し、分子量に分布を持った化合物である。これらの多官能ポリイソシアネートを作成するに当たって使用するジイソシアネートとしては、芳香族、脂肪族、脂環式のジイソシアネートなどがあげられる。芳香族のジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート等があげられる。脂肪族のジイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等があげられる。脂環式のジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート等があげられる。これらのポリイソシアネートは、単独で、または2種以上を混合で用いることができる。
【0016】
これらのジイソシアネートは、本発明のアクリル変性ウレタン分散剤を作成する際に、イソシアネート基1個あたりの数平均分子量が100〜1000であり、1分子中に平均で2〜10個のイソシアネート基を含有する多官能ポリイソシアネート化合物と併用して使用することもできる。
【0017】
本発明は、上記、多官能ポリイソシアネート化合物と末端に水酸基を含有するアクリル樹脂とを反応させてなるアクリル変性ウレタン樹脂分散剤である。アクリル樹脂部分は、分散剤の溶媒親和部にあたり、様々な顔料分散体組成物に用いられる多くの溶媒に適応させるために組成を調整する必要がある。アクリル樹脂の場合、様々な溶解性を持つ多数のモノマーが存在し、それらを溶媒にあわせて適宜使用することで分散剤として最適な溶媒親和部を調整することができる。また、必要に応じて、カルボキシル基を比較的簡単に導入することができる。
【0018】
本発明では、アクリル樹脂を多官能ポリイソシアネート化合物に反応させる場合、アクリル樹脂の末端水酸基は、片末端に存在する方が好ましい。両末端に存在した場合、どちらもイソシアネート基と反応する可能性があり、溶媒親和部として十分に機能できないことがある。
【0019】
末端に水酸基を含有するアクリル樹脂の第一の製造方法は、分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物を連鎖移動剤として使用してラジカル重合することで製造できる。この方法で製造することにより、効率的に片末端に水酸基を有するアクリル樹脂を得ることができる。分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物としては、例えば、メルカプトメタノール、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1−プロパノール、1−メルカプト−2− ブタノール、2−メルカプト−3−ブタノールなどがあげられる。
【0020】
上記、連鎖移動剤を目的とする分子量にあわせてアクリル単量体と混合して加熱することで片末端アクリル樹脂を合成することができる。好ましくは、アクリル単量体100重量部に対して、1〜30重量部の連鎖移動剤を用い、塊状重合または溶液重合を行う。反応温度は40〜150℃、好ましくは50〜110℃、反応時間は3〜30時間、好ましくは5〜20時間である。
【0021】
重合の際、アクリル単量体100重量部に対して、0.001〜5重量部の重合開始剤を使用することができる。重合開始剤としては、アゾ系化合物および有機過酸化物を用いることができる。アゾ系化合物の例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等があげられる。有機過酸化物の例としては、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等があげられる。これらの重合開始剤は、単独で、若しくは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0022】
溶液重合の場合には、重合溶媒として、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が用いられるが特にこれらに限定されるものではない。これらの重合溶媒は、2種類以上混合して用いても良い。
【0023】
末端に水酸基を含有するアクリル樹脂の第二の製造方法は、リビングラジカル重合により製造することができる。リビングラジカル重合は、一般的なラジカル重合に起こる副反応が抑制され、さらには重合の成長が均一に起こる為、容易にブロックポリマーや分子量の揃った樹脂が合成できる事が知られている。なかでも、有機ハロゲン化物、ハロゲン化スルホニル化合物を開始剤とし、遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合法は、広範囲の単量体に適応できる点、既存の設備に適応可能な重合温度を採用できるなどの点で注目を集めている。
【0024】
リビングラジカル重合により製造する場合、さらに二つの方法を用いることができる。第一の方法として溶媒親和部に相当する部分をまず重合した後、水酸基を含有するモノマーを1分子重合することで片末端に水酸基を有するアクリル樹脂を得ることができる。この場合、水酸基を含有するモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0025】
本発明に使用する原子移動ラジカル重合では、一般的なラジカル重合中に発生する副反応が抑制される為に、重合の際に添加する原子移動ラジカル重合の開始剤とラジカル重合性モノマーとの仕込み比によって、分散樹脂の分子量を自由にコントロールできる。
【0026】
原子移動ラジカル重合法にはレドックス触媒として銅、ルテニウム、鉄、ニッケルなどの遷移金属錯体を用いて行われ、使用される遷移金属錯体の具体的な例としては、塩化銅(I)、臭化銅(I)などの低原子価のハロゲン化遷移金属が挙げられるが、重合速度をコントロールするために、周知の方法に従って塩化銅(II)や臭化銅(II)などの高原子価の遷移金属を重合系に添加してもよい。
【0027】
原子移動ラジカル重合法に使用される開始剤としては公知のものを使用できるが、主に反応性の高い炭素ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物、ハロゲン化スルホニル化合物等が開始剤として用いられる。具体的に例示すると、ブロモイソ酪酸エチル、ブロモ酪酸エチル、クロロイソ酪酸エチル、クロロ酪酸エチル、2−ブロモメチルパラトルエンスルホン酸クロライド、ブロモエチルベンゼン、クロロエチルベンゼンなどがあげられる。
【0028】
上記金属錯体には有機配位子が使用される。有機配位子は、重合溶媒への可溶性およびレドックス共役錯体の可逆的な変化を可能にするために使用される。金属の配位原子としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子などが挙げられるが、好ましくは窒素原子またはリン原子である。有機配位子の具体例としては、スパルテイン、2,2’-ビピリジル及びその誘導体、1,10−フェナントロリン及びその誘導体、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス(ジメチルアミノエチル)アミン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等があげられる。
【0029】
前記の遷移金属と有機配位子とは、別々に添加して重合体中で金属錯体を生成させてもよいし、予め金属錯体を合成して重合系へ添加しても良い。特に、銅の場合前者の方法が好ましく、ルテニウム、鉄、ニッケルは後者の方法が好ましい。
【0030】
予め合成されるルテニウム、鉄、ニッケル錯体の具体例としては、トリストリフェニルホスフィノニ塩化ルテニウム(RuCl2(PPh33)、ビストリスフェニルホスフィノニ塩化鉄(FeCl2(PPh32)、ビストリスフェニルホスフィノニ塩化ニッケル(NiCl2(PPh32)、ビストリブチルホスフィノニ臭化ニッケル(NiBr2(PBu3)2)等があげられる。
【0031】
上記原子移動ラジカル重合において、原子移動ラジカル重合の開始剤は、アクリル単量体全体に対し、通常合わせて0.01〜10モル%、好ましくは0.1〜2モル%の割合で用いられる。また、遷移金属の使用量は、ハロゲン化物などの形態として、開始剤1モルに対して、通常0.03〜3モル、好ましくは0.1〜2モルの割合で用いられる。さらに、その配位子は、上記の遷移金属(ハロゲン化物などの形態)1モルに対して、通常1〜5モル、好ましくは2〜3モルの割合で用いられる。上記原子移動ラジカル重合の開始基を有する芳香環、複素環、縮合芳香環と遷移金属および配位子とをこのような使用割合にすると、リビングラジカル重合の反応性、生成ポリマーの分子量などに好結果が得られる。
【0032】
このような原子移動ラジカル重合は無溶剤でも進行させることができるし、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、アニソール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどの溶剤の存在下で進行させてもよい。溶剤を用いる場合、重合速度の低下を防ぐため、重合終了後の溶剤濃度が50重量%以下となる少量の使用量とするのがよい。無溶剤または少量の溶剤量でも、重合熱の制御などに関する安全性の問題は特に無く、むしろ溶剤削減によって経済性や環境対策などの面で好結果が得られる。
【0033】
重合条件としては、重合速度や触媒の失活の点より、60〜130℃の重合温度で、最終的な分子量や重合温度にも依存するが、約1〜100時間の重合時間とすればよい。また、重合反応に際しては、酸素による重合触媒の失活を防ぐ為、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われるのが望ましい。
【0034】
重合反応終了後、例えば重合反応系を0℃以下、好ましくは−78℃程度に冷却して反応を停止させ、周知の方法に従って、残存アクリル単量体及び/または溶剤の除去、適当な溶媒中での再沈殿、沈殿したポリマーの濾過または遠心分離、ポリマーの洗浄および乾燥を行う事ができる。必要に応じ、THF、トルエン等の有機溶媒で反応混合液を希釈し、希塩酸やアミン水溶液などで洗浄、またはアルミナ・シリカまたはクレーのカラム若しくはパッドに通す、還元剤やハイドロサルタイト類などの吸着剤を加えた後に濾過・遠心分離するなど、周知の方法により重合系に含まれる遷移金属などを除去した後、揮発分を蒸発させることによって本発明に使用する末端に水酸基を含有するアクリル樹脂を得ることができる。
【0035】
リビングラジカル重合により製造する場合、第二の方法としては、原子移動ラジカル重合の開始剤として、水酸基を有する化合物を使用することで、水酸基を含有するアクリル単量体を1分子重合することで片末端に水酸基を有するアクリル樹脂を得ることができる。開始剤としては、水酸基を含有するハロゲン化物や水酸基を含有するハロゲン化スルホニル化合物であれば特に制限なく使用することができる。
【0036】
連鎖移動剤を用いる方法、または、リビングラジカル重合法に使用できるアクリル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド、およびN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン等のN置換型(メタ)アクリルアミド類、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類があげられる。
また、上記アクリル単量体と併用できる単量体として、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル類があげられる。
【0037】
さらに、本発明に使用するカルボキシル基含有単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などの重合性不飽和カルボン酸およびそれらの無水物などから1種または2種以上を選択することができる。カルボキシル基含有単量体を使用することで、溶媒親和部の溶解性を容易に調整することができる。このことにより、アクリル部分の組成を大きく変えることなく分散剤としての機能を最適化できる。また、アルカリによる溶解性を付与することができ、洗浄等などが必要な場合に有利である。
【0038】
本発明の末端に水酸基を含有するアクリル樹脂の数平均分子量としては、通常500〜30000が好ましい。上記数平均分子量が500未満であると、溶媒親和部による立体反発の効果、溶剤溶解性または樹脂との相溶効果が少なく、顔料の凝集を防ぐ事が困難となり、分散体の粘度が上昇してしまうことがある。また数平均分子量が30000以上であると、溶媒親和部の絶対量が増えてしまい、分散性の効果自体が少なくなることがある。
【0039】
多官能ポリイソシアネート化合物と反応させる化合物として、同一分子内に、活性水素を含有する官能基と、3級アミノ基または窒素原子含有ヘテロ環構造を有する官能基とを有する化合物を、分散しようとする顔料粒子の分散性に適応するように使用することができる。
活性水素を含有する官能基としては、水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、チオール基などがあげられる。
窒素原子含有ヘテロ環構造を有する官能基としては、トリアゾール基、ピリミジン基、ピラゾール基、テトラゾール基、インドール基、カルバゾール基、インダゾール基、イミダゾール基、ピリジン基、ピリダジン基、キノリン基、アクリジン基、モルホリン基、ピロリジン基、ピペラジン基、ベンゾトリアゾール基、ベンゾイミダゾール基、ベンゾチアゾール基、ベンゾチアジアゾール基、ベンゾオキサゾール基、トリアジン基などがあげられる。
【0040】
同一分子内に活性水素および3級アミノ基もしくは窒素含有ヘテロ環構造を有する化合物としては、2 − ジメチルアミノエタノール、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジプロピル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジブチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジプロピルエチレンジアミン、N,N−ジブチルエチレンジアミン、N,N−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、N,N−ジエチル−1,4−ブタンジアミン、N,N−ジプロピル−1,4−ブタンジアミン、N,N−ジブチル−1,4−ブタンジアミン、1−(3−アミノプロピル)イミダゾール、ヒスチジン、2−アミノイミダゾール、1−(2−アミノエチル)イミダゾール、1 − ( 2 − ヒドロキシエチル) − イミダゾール、1 − ( 2 − アミノエチル) − ピペラジン、1 − ( 2 − ヒドロキシエチル) − ピペラジン、2 − ( 1 − ピロリジル) − エチルアミン、4 − アミノ− 2 − メトキシピリミジン、4 − ( 2 − ヒドロキシエチル) − モルホリン、4 − ( アミノメチル) − ピリジン、4 − ( 2 − アミノエチル) − ピリジン、4 − ( 2 − ヒドロキシエチル) −ピリジン、2 −メルカプトピリジン、2 − メルカプトベンゾイミダゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、5−(2−アミノ−5−クロロフェニル)−3−フェニル−1H−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−4H−1,2,4−トリアゾール−3,5−ジオール、3−アミノ−5−フェニル−1H−1,3,4−トリアゾール、5−アミノ−1,4−ジフェニル−1,2,3−トリアゾール、3−アミノ−1−ベンジル−1H−2,4−トリアゾール、3 − メルカプト− 1, 2 , 4 − トリアゾール、2 − アミノ− 6 − メトキシベンゾチアゾール、N , N − ジアリルメラミン等があげられる。
【0041】
これらの化合物は、ポリイソシアネート化合物と反応させるが、末端に水酸基を含有するアクリル樹脂を使用する前後、または同時に反応させることができる。使用量としては特に制限はないが、樹脂のアミン価として100mgKOH/g以下が好ましい。顔料粒子の種類によっては使用しない場合もあり得る。
【0042】
本発明の樹脂は、場合によっては鎖延長剤を用いて分子量を伸ばすことができる。鎖延長剤としては、水酸基を2個以上含有する化合物、または、アミノ基を2個以上含有する化合物を用いる。
水酸基を2個以上含有する化合物としては、まず低分子量ポリオールがある。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、3,3' −ジメチロールヘプタン、プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、ブチルエチルペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル、2,2,8,10−テトラオキソスピロ〔5. 5〕ウンデカン等のジオール類、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等があげられる。
【0043】
さらに、高分子量ポリオールも使用でき、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、エポキシポリオール等がある。ポリエーテルポリオールとしてはポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリ(エチレン/プロピレン)グリコール、ポリテトラメチレングリコール等がある。ポリエステルポリオールは、二塩基酸とポリオールの重縮合より得られる。二塩基酸成分として、例えばテレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、無水フタル酸、イソフタル酸等があげられ、ポリオール成分としては、例えば前記低分子量ポリオールとして列挙した化合物があげられる。その他、ポリカプロラクトン、ポリ(β−メチル−γ−バレロラクトン)、ポリバレロラクトン等のラクトン類を開環重合して得られるポリエステルポリオール等もあげられる。ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール類またはビスフェノール類と炭酸エステルとの公知の反応で製造される。このとき用いられる炭酸エステルとして例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどがあげられる。また、ポリオール類としては、例えば前記低分子量ポリオールとして列挙した化合物があげられる。ビスフェノール類としては、ビスフェノールAやビスフェノールF、また前記ビスフェノールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させた化合物があげられる。アクリルポリオールとしては、例えば水酸基を有するモノマーの共重合体が挙げられる。水酸基含有モノマーとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ジヒドロキシアクリレート、グリセロールメタクリレート等があげられ、これらと他のα、β―エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を公知の方法で重合することで得られる。エポキシポリオールとしては、アミン変性エポキシ樹脂等がある。その他、ポリブタジエンジオール、ひまし油等があげられる。
【0044】
場合によっては、カルボキシル基含有ポリオールである鎖延長剤として、ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酢酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロールペンタン酸、ジヒドロキシプロピオン酸等のジメチロールアルカン酸、ジヒドロキシコハク酸、ジヒドロキシ安息香酸等を併用することもできる。
【0045】
アミノ基を2個以上含有する化合物としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、キシリレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、フェニレンジアミン、ポリアミドアミン、ダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミンなどのジアミン類、トリアミノプロパンなどのトリアミン類、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、カルボジヒドラジドなどのヒドラジン化合物類があげられる。
【0046】
本発明において、上記アクリル変性ウレタン樹脂分散剤および顔料を含ませて顔料分散体組成物とすることができる。
本発明を構成する顔料としては、ジケトピロロピロール系顔料、アゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系顔料、銅フタロシアニン、ハロゲン化銅フタロシアニン、無金属フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、アミノアントラキノン、ジアミノジアントラキノン、アントラピリミジン、フラバントロン、アントアントロン、インダントロン、ピラントロン、ビオラントロン等のアントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、チオインジゴ系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、スレン系顔料、金属錯体系顔料等の有機顔料、または、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、鉛白、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、ホワイトカーボン、アルミナホワイト、カオリンクレー、タルク、ベントナイト、黒色酸化鉄、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、モリブデートオレンジ、クロムバーミリオン、黄鉛、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、コバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、ビクトリアグリーン、群青、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトシリカブルー、コバルト亜鉛シリカブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等の無機顔料、または、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラックがあげられる。
【0047】
本発明の顔料分散体組成物においてアクリル変性ウレタン樹脂分散剤の配合量は、顔料100重量部に対し好ましくは40重量部以下、更に好ましくは5〜30重量部である。また、必要に応じて顔料誘導体を併用でき、その配合量は、顔料100重量部に対し好ましくは1〜30重量部である。
【0048】
本発明の顔料分散体組成物は、他に各種ワニスに含有されるような樹脂を含むことができる。樹脂の例としては、石油樹脂、カゼイン、セラック、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、環化ゴム、塩化ゴム、酸化ゴム、塩酸ゴム、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、乾性油、合成乾性油、スチレン変性マレイン酸、ポリアミド樹脂、塩素化ポリプロピレン、ブチラール樹脂、塩化ビニリデン樹脂等があげられる。また、本発明の顔料分散体組成物は、有機溶剤、水、市販の分散剤、各種添加剤を含有することができる。
【0049】
本発明の顔料分散体組成物は、必要により各種溶剤、樹脂、添加剤、市販分散剤等を混合して、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター等で分散することにより製造することができる。アクリル変性ウレタン樹脂分散体、顔料誘導体、顔料、その他の樹脂、添加剤は、すべての成分を混合してから分散してもよいが、初めにアクリル変性ウレタン樹脂分散体と顔料誘導体等と顔料のみを分散し、次いで、順次他の成分を添加して再度分散を行ってもよい。また、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター等で分散を行う前に、ニーダー、3本ロールミル、2本ロールミル等の練肉混合機を使用して前分散、または、顔料へのリン酸基を有する樹脂と塩基性基を有する顔料誘導体等の処理を行ってもよい。また、ハイスピードミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ロールミル、石臼式ミル、超音波分散機等のあらゆる分散機や混合機が本発明の分散体を製造するために利用できる。本発明の顔料分散体組成物は、非水系または水系のコーティング剤、グラビアインキ、オフセットインキ、プラスチック着色等に利用できる。
【実施例】
【0050】
以下に製造例、実施例をもって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の製造例、実施例において、特に断らない限り「部」は重量部を意味し、「%」は重量%を意味する。
【0051】
末端に水酸基を含有するアクリル樹脂の合成
製造例1
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、n−ブチルメタクリレート190部、メタクリル酸10部を仕込んだ。フラスコ内を80℃に加熱して、2−メルカプトエタノール10部に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.1部を溶解した溶液を添加して、12時間反応した。反応後、メチルエチルケトン100部で希釈した。数平均分子量2200、分子量分布:Mw/Mn=1.7、固形分67.7%の末端に水酸基を含有するアクリル樹脂が得られた。
【0052】
製造例2
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、メチルエチルケトン200.8部、n−ブチルメタクリレート200.8部、ブロモイソ酪酸エチル13.8部、テトラメチルエチレンジアミン16.4部を仕込み、30分窒素を導入した。塩化第一銅7部を投入し、窒素気流下で70℃まで昇温して重合を開始した。2時間重合後、重合溶液をサンプリングし、重合の固形分から重合収率が95%である事を確認した。GPC測定の結果ポリマーの数平均分子量は3500であり、分子量分布:Mw/Mn=1.2であった。続けて反応容器にメチルエチルケトン9.2部と2−ヒドロキシエチルメタクリレート9.2部を添加し、70℃で3時間重合を行った。重合後の固形分より換算した重合収率は100%であった。重合物のGPC測定の結果、数平均分子量は3600、分子量分布:Mw/Mn=1.3、固形分50.5%の末端に水酸基を有するアクリル樹脂が得られた。
【0053】
製造例3
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、メチルエチルケトン210部、n−ブチルメタクリレート210部、ヒドロキシエチル−2−ブロモプロピオネート13.9部、テトラメチルエチレンジアミン16.4部を仕込み、30分窒素を導入した。塩化第一銅7部を投入し、窒素気流下で70℃まで昇温して重合を開始した。5時間重合後、重合溶液をサンプリングし、重合の固形分から重合収率が100%である事を確認した。GPC測定の結果ポリマーの数平均分子量は3800であり、分子量分布:Mw/Mn=1.3、固形分50.5%の末端に水酸基を有するアクリル樹脂が得られた。
【0054】
末端に水酸基を含有するポリエステル樹脂の合成
比較製造例4
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、n−デカノール17.4部、ε−カプロラクトン157.1部、ジブチル錫ジラウリレート0.005部を仕込み、30分窒素を導入した。窒素気流下で160℃まで昇温して重合を開始した。10時間重合後、重合溶液をサンプリングし、重合の固形分から重合収率が98%である事を確認した。キシレン25.4部で希釈して重合を終了した。GPC測定の結果ポリマーの数平均分子量は2200であり、分子量分布:Mw/Mn=1.6、固形分87.3%の末端に水酸基を有するポリエステル樹脂が得られた。
【0055】
末端に水酸基とカルボキシル基を含有するポリエステル樹脂の合成
比較製造例5
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、12−ヒドロキシステアリン酸10部、ε−カプロラクトン190部、ジブチル錫ジラウリレート0.005部を仕込み、30分窒素を導入した。窒素気流下で160℃まで昇温して重合を開始した。10時間重合後、重合溶液をサンプリングし、重合の固形分から重合収率が98%である事を確認した。キシレン50部で希釈して重合を終了した。GPC測定の結果ポリマーの数平均分子量は2600であり、分子量分布:Mw/Mn=1.6、固形分80.0%の末端に水酸基およびカルボキシル基を有するポリエステル樹脂が得られた。
【0056】
実施例1
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、デスモジュールHL(住友バイエル社製、固形分60%、NCO当量240、NCO基数3.6個)16部と製造例1の片末端に水酸基を含有するアクリル樹脂45.7部、キシレン81.8部、N−メチルピロリドン20.5部、ジブチル錫ジラウリレート0.012部を仕込んだ。フラスコ内を60℃に加熱、3時間反応後、重合溶液をサンプリングし、イソシアネート基を滴定により定量して、反応率が98%であることを確認した。次に、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン1.3部を添加した。50℃で30分間反応後、IRにより残存しているイソシアネート基の吸収ピークを確認した。ジブチルアミンを適宜添加しながら、イソシアネート基の吸収ピークがなくなることを確認した。GPC測定の結果ポリマーの数平均分子量は3200であり、分子量分布:Mw/Mn=1.7、固形分25.8%のアクリル変性ウレタン樹脂分散剤が得られた。
【0057】
実施例2
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、デスモジュールHL(住友バイエル社製、固形分60%、NCO当量240、NCO基数3.6個)16部と製造例2の片末端に水酸基を含有するアクリル樹脂61.3部、キシレン66.2部、N−メチルピロリドン20.5部、ジブチル錫ジラウリレート0.012部を仕込んだ。フラスコ内を60℃に加熱、3時間反応後、重合溶液をサンプリングし、イソシアネート基を滴定により定量して、反応率が98%であることを確認した。次に、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン1.3部を添加した。50℃で30分間反応後、IRにより残存しているイソシアネート基の吸収ピークを確認した。ジブチルアミンを適宜添加しながら、イソシアネート基の吸収ピークがなくなることを確認した。GPC測定の結果ポリマーの数平均分子量は4400であり、分子量分布:Mw/Mn=1.6、固形分25.8%のアクリル変性ウレタン樹脂分散剤が得られた。
【0058】
実施例3
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、デスモジュールHL(住友バイエル社製、固形分60%、NCO当量240、NCO基数3.6個)16部と製造例3の片末端に水酸基を含有するアクリル樹脂61.9部、キシレン65.6部、N−メチルピロリドン20.5部、ジブチル錫ジラウリレート0.012部を仕込んだ。フラスコ内を60℃に加熱、3時間反応後、重合溶液をサンプリングし、イソシアネート基を滴定により定量して、反応率が98%であることを確認した。次に、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン1.3部を添加した。50℃で30分間反応後、IRにより残存しているイソシアネート基の吸収ピークを確認した。ジブチルアミンを適宜添加しながら、イソシアネート基の吸収ピークがなくなることを確認した。GPC測定の結果ポリマーの数平均分子量は4500であり、分子量分布:Mw/Mn=1.5、固形分26.0%のアクリル変性ウレタン樹脂分散剤が得られた。
【0059】
実施例4
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、デスモジュールHL(住友バイエル社製、固形分60%、NCO当量240、NCO基数3.6個)16部と製造例3の片末端に水酸基を含有するアクリル樹脂61.9部、キシレン65.6部、N−メチルピロリドン20.5部、ジブチル錫ジラウリレート0.012部を仕込んだ。フラスコ内を60℃に加熱、3時間反応後、重合溶液をサンプリングし、イソシアネート基を滴定により定量して、反応率が98%であることを確認した。さらに、IRにより残存しているイソシアネート基の吸収ピークを確認した。ジブチルアミンを適宜添加しながら、イソシアネート基の吸収ピークがなくなることを確認した。GPC測定の結果ポリマーの数平均分子量は4500であり、分子量分布:Mw/Mn=1.5、固形分24.9%のアクリル変性ウレタン樹脂分散剤が得られた。
【0060】
比較例1
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、デスモジュールHL(住友バイエル社製、固形分60%、NCO当量240、NCO基数3.6個)16部と比較製造例4の片末端に水酸基を含有するポリエステル樹脂35.4部、キシレン92.1部、N−メチルピロリドン20.5部、ジブチル錫ジラウリレート0.012部を仕込んだ。フラスコ内を60℃に加熱、3時間反応後、重合溶液をサンプリングし、イソシアネート基を滴定により定量して、反応率が98%であることを確認した。次に、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン1.3部を添加した。50℃で30分間反応後、IRにより残存しているイソシアネート基の吸収ピークを確認した。ジブチルアミンを適宜添加しながら、イソシアネート基の吸収ピークがなくなることを確認した。GPC測定の結果ポリマーの数平均分子量は2500であり、分子量分布:Mw/Mn=1.5、固形分25.5%のポリエステル変性ウレタン樹脂分散剤が得られた。
【0061】
比較例2
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた4口フラスコに、キシレン25部、ポリアリルアミン水溶液(PAA−1LV、日東紡績社製、固形分10%)70部を仕込んだ。フラスコ内を160℃に加熱して水を溜去しながらキシレンをフラスコに内に戻す。この中に比較製造例5の末端に水酸基およびカルボキシル基を有するポリエステル樹脂14.2部、キシレン31.8部を加え、160℃で3時間反応を行った。GPC測定の結果ポリマーの数平均分子量は8800であり、分子量分布:Mw/Mn=2.1、固形分24.9%のポリエステル変性ポリアリルアミン分散剤が得られた。
【0062】
実施例1〜4、比較実施例1〜2の分散剤を用いて顔料粒子の分散を行った。表1のように、顔料粒子としては、カーボンブラック(Cabot社製、REGAL250R)を用い、製造例1〜3または比較製造例4〜5にて合成した樹脂分散剤、一般的なラジカル重合で合成した酸性アクリル樹脂(ブチルメタクリレート-アクリル酸共重合体 Mw=35000 酸価130、固形分40%)、酸性基を有する顔料誘導体、およびシクロヘキサノンを配合し、2mmφジルコニアビーズ100部を加えペイントコンディショナーで3時間分散した。
【0063】
得られた顔料分散組成物をPETフィルム上にバーコーターで塗工し、100℃で10分乾燥させた。光沢の測定はデジタル変角光沢計により60°グロスを測定した。測定結果は表1に記す。
【0064】
得られた顔料分散組成物について、E型粘度計を用いてその粘度を測定した。さらに、40℃1週間放置後の粘度を測定して、顔料分散体の安定性を確認した。測定結果を表1に記す。
【0065】
【表1】

【0066】
以上より、実施例1〜4において作製した顔料分散体組成物は、低粘度であり、かつ、経時安定性に優れていた。また、塗工物の光沢も高く、本発明のアクリル変性ウレタン樹脂分散剤が顔料粒子の分散性に優れていることがわかった。比較例1や2の場合、溶媒親和部が単一組成のポリエステル樹脂であり、分散性の調整を行うことができなかったため、十分な分散性を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
当該アクリル変性ウレタン樹脂分散剤は、印刷インキや着色コーティング剤の使用適正の向上を図る顔料分散樹脂、樹脂型分散剤およびそれを含有する顔料分散体組成物に使用できるほか、親水性基と非親水性基を有することから、界面活性剤、相間移動物質、表面改質剤、顔料以外の物質の分散剤などに利用が期待できる。
【0068】
本発明のアクリル変性ウレタン樹脂分散剤は、インキ、コーティング剤、樹脂成型品など、バインダーに有機顔料に分散させて用いる用途に、幅広く使用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基1個あたりの数平均分子量が100〜1000であり、1分子中に平均で2〜10個のイソシアネート基を含有する多官能ポリイソシアネート化合物と
末端に水酸基を含有するアクリル樹脂とを反応させてなる、アクリル変性ウレタン樹脂分散剤。
【請求項2】
イソシアネート基1個あたりの数平均分子量が100〜1000であり、1分子中に平均で2〜10個のイソシアネート基を含有する多官能ポリイソシアネート化合物と
末端に水酸基を含有するアクリル樹脂と
同一分子内に活性水素および3級アミノ基もしくは窒素含有ヘテロ環構造を有する化合物とを反応させてなる、アクリル変性ウレタン樹脂分散剤。
【請求項3】
末端に水酸基を含有するアクリル樹脂が、分子内に水酸基とチオール基とを有する化合物を連鎖移動剤として使用してアクリル単量体を重合してなることを特徴とする請求項1または2記載のアクリル変性ウレタン樹脂分散剤。
【請求項4】
末端に水酸基を含有するアクリル樹脂が、リビングラジカル重合により重合してなることを特徴とする請求項1または2記載のアクリル変性ウレタン樹脂分散剤。
【請求項5】
末端に水酸基を含有するアクリル樹脂が、カルボキシル基含有単量体とそれ以外のアクリル単量体とを共重合してなることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のアクリル変性ウレタン樹脂分散剤。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載のアクリル変性ウレタン樹脂分散剤および顔料を含む顔料分散体組成物。

【公開番号】特開2007−131753(P2007−131753A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326942(P2005−326942)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】