説明

分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法

【課題】 潤滑剤等の試料に含有されている分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を、他の成分の影響を受けることなく、迅速かつ簡便に定性分析することができる分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法を提供する。
【解決手段】 試料である潤滑剤に含有される分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法であって、その試料をクロロホルムに溶解し、クロロホルムを移動相としてゲル浸透クロマトグラフィーにて測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法に関し、例えば潤滑剤等に含有される分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物と識別して効果的に定性分析することが可能な分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分散型ポリメタクリル酸エステル化合物は、粘度指数向上剤及びスラッジ分散剤として、例えば潤滑剤、特にリン酸化合物を低減した自動車用エンジンオイルにしばしば使用されている重要な添加剤である(例えば、特許文献1又は2参照。)。
【0003】
この分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の効用として、潤滑剤の添加剤として含有されている場合、その潤滑剤に優れた温度粘度特性又は低温流動性を付与することができる。また、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物は、潤滑剤を使用することにより生成した不溶性スラッジ、すす、又は固体きょう雑物を油中へ分散させる分散作用や、有機酸、硫酸、窒素酸化物などの酸性物質を中和させる中和作用等を有する。
【0004】
潤滑剤等に含まれる分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法としては、従来、赤外分光分析法、核磁気共鳴分光法、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等が知られている。
【0005】
しかしながら、一般的に、潤滑剤等に使用されている分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の含有量は非常に少なく、また共存する基油や各種添加剤等の成分の妨害を受けてしまい、高い精度で効果的に定性分析をすることができないという欠点がある。また、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を定性分析するには、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物と識別することが重要となり、従来この識別には、前処理による濃縮操作を行うことが必要となり、分析に時間と手間を要し、効率的な定性分析ができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−279233号公報
【特許文献2】特開2004−359708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、潤滑剤等の試料に含有されている分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を、他の成分の影響を受けることなく、迅速かつ簡便に定性分析することができる分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が高い極性を有する化合物であることを利用し、クロロホルムを移動相としてゲル浸透クロマトグラフィーに供することによって、ごく少量の試料で、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を他の成分等の影響を受けることなく、効果的にかつ効率的に定性分析できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、試料である潤滑剤に含有される分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法であって、上記試料をクロロホルムに溶解し、該クロロホルムを移動相としてゲル浸透クロマトグラフィーにて測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、潤滑剤等の試料に含有されている分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を、他の成分の影響を受けることなく、迅速かつ簡便に定性分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を含有した試料のクロロホルム移動相によるゲル浸透クロマトグラフィー測定結果(クロマトグラム)である。
【図2】非散型ポリメタクリル酸エステル化合物を含有した試料のクロロホルム移動相によるゲル浸透クロマトグラフィー測定結果(クロマトグラム)である。
【図3】分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を含有した試料のトルエン移動相によるゲル浸透クロマトグラフィー測定結果(クロマトグラム)である。
【図4】非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を含有した試料のトルエン移動相によるゲル浸透クロマトグラフィー測定結果(クロマトグラム)である。
【図5】分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を含有した試料のTHF移動相によるゲル浸透クロマトグラフィー測定結果(クロマトグラム)である。
【図6】非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を含有した試料のTHF移動相によるゲル浸透クロマトグラフィー測定結果(クロマトグラム)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明においては、潤滑剤を試料として潤滑剤の添加剤として含有された分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を分析する例について具体的に説明する。ただし、本発明は、潤滑剤以外の試料についても好ましく適用できる。
【0013】
潤滑剤に添加剤として含有される分散型ポリメタクリル酸エステル化合物は、その潤滑剤に優れた温度粘度特性や低温流動性を付与し、また生成した不溶性スラッジ、すす、固体きょう雑物を油中へ分散させる分散作用や、有機酸、硫酸、窒素酸化物などの酸性物質を中和させる中和作用等を有する。しかしながら、潤滑剤中における分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の含有量はごく少量であり、しかも潤滑剤中には基油やその他の添加剤成分が含まれていることから、それらの影響を排除して効果的に分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の定性分析を行うことが望まれる。
【0014】
本実施の形態に係る分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法(以下、「分析方法」という。)は、試料である潤滑剤に含有される分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法であって、潤滑剤中の分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物と識別して、ごく少量の試料量で効果的にかつ効率的に、定性分析することを可能にするものである。
【0015】
具体的には、本実施の形態に係る分析方法は、試料である潤滑剤をクロロホルムに溶解し、クロロホルムを移動相としてゲル浸透クロマトグラフィーにて測定する。
【0016】
この分析方法を適用することができる試料の潤滑剤としては、特に限定されるものではなく、鉱油系潤滑剤、半合成油系潤滑剤、合成油系潤滑剤等を挙げることができる。また、半固形状のグリースに対しても適用することができる。
【0017】
ここで、測定対象となる分散型ポリメタクリル酸エステル化合物について説明する。分散型ポリメタクリル酸エステル化合物は、一般的に、メタクリル酸と脂肪族アルコールとのエステル混合物に窒素含有基等の極性モノマーを付加し、共重合させることによって得ることができる共重合体である。具体的には、例えば、下記一般式(1)に示す化合物と、下記一般式(2)又は(3)に示す化合物とを共重合させて得られる。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
上記一般式(1)中、Rは炭化水素基であり、通常炭素数1〜18の鎖状炭化水素基、例えばアルキル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等及びこれらの分岐状アルキル基を挙げることができる。
【0021】
また、上記一般式(2)又は(3)中、R1及びR2は、水素原子又はアルキル基、特に低級アルキル基、例えばメチル基である。また、上記一般式(3)中、R3は、炭素数2〜18のアルキレン基であり、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等を挙げることができる。
【0022】
また、上記一般式(2)又は(3)中、X及びXは極性基を示す。極性基としては、窒素原子、酸素原子を含む各種のものが挙げられる。具体的には、ジアルキルアミノ基、アニリノ基、モルホリノ基、ピロリン基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基等を例示でき、ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等を挙げることができる。
【0023】
より具体的に、上記一般式(2)で表される窒素含有化合物の例としては、例えばジアルキルアミノアルキルメタアクリレート、特に、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ジメチルアミノメチルメタアクリレート、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン等のアミン、N−メチルピロリドン等のアミド、イミダゾール、モルホリノアルキルメタアクリレート等を挙げることができる。
【0024】
上述のように、分析対象である分散型ポリメタクリル酸エステル化合物は、極性モノマーを付加重合させて得られる高い極性を有する化合物であり、この点において非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物と大きく相違する。そのため、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物は、その高い極性を有する構造からなることにより、クロロホルムで溶解した場合には、1分子単位まで溶解されずに複数分子の集合体となる。これに対して、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の場合には、クロロホルムによって1分子単位まで溶解される。
【0025】
試料である潤滑剤に含有される分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の定性分析にあたっては、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物との識別を精確に行うことが重要となる。上述のように、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物は、高極性物質であり、クロロホルムに溶解させることによって、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の場合と異なり、物理的サイズの大きい複数分子の集合体が残存することになる。
【0026】
そこで、本実施の形態に係る分析方法では、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を含有する潤滑剤をクロロホルムに溶解し、クロロホルムを移動相としてゲル浸透クロマトグラフィーにて測定する。すると、得られるクロマトグラムでは、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が1分子単位まで溶解されずに複数分子の集合体となっている成分によって、本来の分子量よりも大きく見積もられたピークが出現することとなる。すなわち、保持時間の短いピークが出現する。したがって、そのピークの保持時間を調べることによって、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物と明確かつ容易に識別でき、精確に潤滑剤中にその有無を確認することができる。
【0027】
分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を含有した潤滑剤のクロロホルムによる希釈調製は、清浄なガラス製容器に、潤滑剤試料1重量部に対してクロロホルムを10〜1000重量部添加して行うことが好ましく、より好ましくは50〜500重量部添加して行う。クロロホルムの添加量を、潤滑剤試料1重量部に対して10重量部より少なくした場合、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の濃度が高くなり、使用する分離カラムの送液時の圧力が上昇してしまい、また分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分子鎖が切断され、高い精度で定性分析できなくなるおそれがある。一方で、潤滑剤試料1重量部に対して1000重量部より多くした場合、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の濃度が低くなり、検出することが困難となるおそれがある。
【0028】
なお、クロロホルムを添加する希釈操作に際しては、試料を軽く攪拌し、均一に混合させたものを、そのままクロロホルム移動相によるゲル浸透クロマトグラフィーに供する。
【0029】
クロロホルム移動相によるゲル浸透クロマトグラフィーの装置としては、特に限定されないが、試料注入部、送液ポンプ、分離部(分離カラム)、検出部(検出器)等からなるものを用いることができる。
【0030】
試料注入部としては、特に限定されないが、例えばマイクロシリンジ等を用いて試料を注入する。注入法としては、具体的には、マイクロシリンジ等に試料を採り、バルブを介して注入するシリンジ法や連続的に試料を注入できるオートインジェクション法等により注入することができる。
【0031】
試料注入部を介して注入する試料の注入量としては、特に限定されず、少量の注入量で測定することができる。具体的には、例えば1〜200μl程度の注入量で測定することができる。本実施の形態に係る分析方法では、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の高極性の性質を利用し、クロロホルムによって溶解しきれずに残存する複数分子の集合体に由来するピークを検出することによって分析しているので、1〜200μl程度のごく少量の注入量で、精確に定性分析を行うことができる。
【0032】
また、本実施の形態に係る分析方法では、上述のように、分離カラムとしてゲル浸透カラムを使用してゲル浸透クロマトグラフィーにて分析する。試料である潤滑剤中には、基油や分散型ポリメタクリル酸エステル化合物以外の各種添加剤成分等が含有されていることから、固定相にゲル浸透カラムを使用することによって、それら成分を的確に分離することができる。したがって、この点においても少量の試料量で測定することができ、しかも他の成分の影響を受けることなく、効果的に分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の定性分析を行うことができる。ゲル浸透カラムとしては、クロロホルムを移動相として使用可能なものであれば特に限定されないが、例えば、昭光通商株式会社製ゲル浸透用カラムであるKシリーズ、KFシリーズ等を用いることができる。
【0033】
なお、ゲル浸透クロマトグラフィーにおいては、予め試料に含まれる潤滑剤中の基油成分を予め除去して測定してもよいが、分離カラムにより溶離される時間(保持時間)が異なり、また上述のようにゲル浸透カラムによって分析操作と同時に潤滑剤の基油成分等を分離することができるので、除去操作を行うことなくそのままゲル浸透クロマトグラフィーの試料として用いてもよい。
【0034】
ゲル浸透クロマトグラフィーに使用する送液ポンプとしては、一定の流速で試料を送液できるものであれば特に限定されないが、例えば1ml/min前後で流すことができるものが望ましい。送液速度が1ml/minよりも速すぎる場合、分子量が数万〜数百万といった高分子量成分である分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を分析測定するにあたっては、分離カラムの圧力が上昇するとともに高分子鎖が切断されてしまい、分析誤差を生じるおそれがある。一方で、送液速度が1ml/minよりも遅すぎる場合、分析時間が長くなり、分析効率が悪くなってしまう。
【0035】
ゲル浸透クロマトグラフィーに使用する検出器としては、特に限定されないが、感度よく分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を検出することができる示差屈折率検出器を用いることが望ましい。
【0036】
以上のように、本実施の形態に係る分析方法は、試料である潤滑剤に含有される分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法であって、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が高極性物質でありクロロホルムへの溶解性が良好でないことを利用し、試料をクロロホルムに溶解させて、クロロホルムを移動相としてゲル浸透クロマトグラフィーにて測定することを特徴とするものである。
【0037】
この分析方法によれば、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の保持時間が短くなることにより、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物との識別を明確かつ容易に行うことができ、潤滑剤中におけるその有無を効果的に分析することができる。
【0038】
また、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の高い極性を有する構造に基づき、1分子単位に溶解しきれなかった大きな分子のピークを検出するようにしており、また潤滑剤中に含有される他の成分を分離して測定することができるゲル浸透クロマトグラフィーにて分析しているので、ごく少量の試料量で、効果的に分析することができる。しかも、これまでのゲル浸透クロマトグラフィー装置を改良等する必要なく適用することができる。
【0039】
さらに、試料である潤滑剤をクロロホルムにて希釈溶解し、そのクロロホルムを移動相として測定するのみであるため、従来のように前処理として濃縮操作等の手間や時間を要する操作を行うことなく、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物と識別して、迅速かつ簡便に分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の定性分析を行うことができる。
【実施例】
【0040】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が配合された試料A、及び非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が配合された試料Bを用意し、容器(ガラス製スクリュー管瓶)に別々に0.1gずつ採取した。次に、試料を採取した各容器にクロロホルムを添加して各試料を溶解させた。具体的には、各試料にクロロホルムを添加して合計20gとし、試料A、試料Bのそれぞれの濃度を0.5wt%として均一に溶解させた。
【0042】
その後、クロロホルムで溶解した各試料を100μlずつ採取し、これを示差屈折率検出器を備え付けたクロロホルム移動相によるゲル浸透クロマトグラフィーにそれぞれ供した。
【0043】
なお、試料A及び試料B中に配合されている分散型又は非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物は、本分析で用いた分離カラムで十分測定可能な分子量のものである。また、本分析で使用している分離カラムは、それぞれ複数本連結させて用いた。その理由としては、潤滑剤中の基油等の低分子量成分と分散型又は非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物等の高分子量成分とを良好に分離するためである。使用したゲル浸透クロマトグラフシステムは、以下の装置を用いた。
装置:日本分光株式会社製 液体クロマトグラフシステム
送液ポンプ:PU-2080Plus
デガッサー:DG-2080-53
示差屈折率検出器:RI-2031Plus
カラムオーブン:CO-2065Plus
インジェクター:レオダイン製 7725i
分離カラム:昭光通商株式会社製 K-G+K-806M+K-801
【0044】
図1に試料Aについてのクロマトグラムを示し、図2に試料Bについてのクロマトグラムを示す。
【0045】
図1に示すクロマトグラムからわかるように、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物由来のピークの保持時間(横軸)が早い(短い)位置から検出され始めている(図1中実線丸囲み部及び図1中A部)。これは、同一分子量であるはずの分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が、クロロホルム移動相では、異なった分子量として検出されていることを意味する結果である。すなわち、クロロホルム移動相の場合、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が1分子単位に溶解しきれておらず複数分子の集合体となっているため、図1中A部に示されるように、分離カラムの測定範囲を超えた巨大分子量の成分として検出されたためと判断できる。
【0046】
一方、図2に示すクロマトグラムにおけるピーク(図2中実線丸囲み部)は、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物由来のピークであり、保持時間は図1に示した分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の場合と大きく異なることがわかる。すなわち、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の場合、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の場合とは異なり、分離カラムの測定範囲を超えた巨大分子量の成分に由来するピークは存在しない。このことは、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物をクロロホルムで溶解させた場合には、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物とは異なり1分子単位まで溶解したため、同一分子量の成分が略単一保持時間のピークとして検出されたと考えられる。
【0047】
このように、図1及び図2に示す結果から、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を含有した潤滑剤をクロロホルムに溶解し、そのクロロホルムを移動相としてゲル浸透クロマトグラフィーにて分析することによって、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物と非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物とを明確かつ容易に識別でき、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の存在を精確に分析できることがわかった。
【0048】
(比較例1)
分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が配合された試料A、及び非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が配合された試料Bを用意し、容器(ガラス製スクリュー管瓶)にて別々に0.1gずつ採取した。次に、試料を採取した各容器にトルエンを添加して各試料を溶解させた。具体的には、試料Aにトルエンを添加して合計10gとし、試料Aの濃度を1.0wt%として均一に溶解させた。また、試料Bにトルエンを添加して合計3.3gとし、試料Bの濃度を3.0wt%として均一に溶解させた。
【0049】
その後、トルエンで溶解した各試料を100μlずつ採取し、これを示差屈折率検出器を備え付けたトルエン移動相によるゲル浸透クロマトグラフにそれぞれ供した。なお、使用したゲル浸透クロマトグラフシステムは、実施例1と同じ装置を用いた。
【0050】
図3に試料Aについてのクロマトグラムを示し、図4に試料Bについてのクロマトグラムを示す。
【0051】
図3に示すクロマトグラムからわかるように、トルエン移動相では、感度が非常に悪く、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物に由来するピークを検出することができなかった。これは、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物とトルエンとの屈折率が近いためと考えられる。また、図4に示すクロマトグラムからわかるように、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を含有した試料においても、ピークは検出できたものの感度が弱く、またトルエン移動相ではピークが下の凸の形状となった。これは、トルエンに対して試料成分の屈折率が低いためと考えられる。
【0052】
このように、トルエンを移動相とした場合では、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物と非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物とを明確に識別することができないだけでなく、感度よく分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を分析することは困難であることがわかった。
【0053】
(比較例2)
分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が配合された試料A、及び非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が配合された試料Bを用意し、容器(ガラス製スクリュー管瓶)にて別々に0.1gずつ採取した。次に、試料を採取した各容器にテトラヒドロフラン(THF)を添加して各試料を溶解させた。具体的には、各試料にTHFを添加して合計10gとし、試料A、試料Bのそれぞれの濃度を1.0wt%として均一に溶解させた。
【0054】
その後、THFで溶解した各試料を100μlずつ採取し、これを示差屈折率検出器を備え付けたTHF移動相によるゲル浸透クロマトグラフにそれぞれ供した。なお、使用したゲル浸透クロマトグラフシステムは、実施例1と同じ装置を用いた。
【0055】
図5に試料Aについてのクロマトグラムを示し、図6に試料Bについてのクロマトグラムを示す。
【0056】
図5に示すクロマトグラムからわかるように、実施例1の図1のクロマトグラムにおけるピークと比べて、保持時間が明らかに長かった。これは、THF中の分散型ポリメタクリル酸エステル化合物が1分子単位にまで溶解したためであり、図1のクロマトグラムに示されたような保持時間が早い段階からのピークは検出されなかった。
【0057】
また、図6に示すクロマトグラムからわかるように、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の場合でも、図5に示す分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の場合と類似した保持時間においてピークが検出され、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の場合と略同様の結果となった。
【0058】
このことから、THFを移動相とした場合では、ピークは検出されるものの、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物と非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物とを明確に識別することができず、潤滑剤中の分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の存在を精確に分析できないことがわかった。
【0059】
以上の実施例及び比較例の結果から、試料をクロロホルムに溶解し、クロロホルムを移動相としてゲル浸透クロマトグラフィーにて測定することによって、分散型ポリメタクリル酸エステル化合物を、非分散型ポリメタクリル酸エステル化合物と明確に識別して、迅速かつ簡便な操作で効果的に定性分析できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含有される分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法であって、
上記試料をクロロホルムに溶解し、該クロロホルムを移動相としてゲル浸透クロマトグラフィーにて測定することを特徴とする分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法。
【請求項2】
上記試料を、該試料1重量部に対して10〜1000重量部のクロロホルムで溶解することを特徴とする請求項1記載の分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法。
【請求項3】
上記試料は潤滑剤であり、該潤滑剤中に含有される分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の定性分析を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の分散型ポリメタクリル酸エステル化合物の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−198178(P2012−198178A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64056(P2011−64056)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(591213173)住鉱潤滑剤株式会社 (42)
【Fターム(参考)】