説明

分析対象物質の検出方法

本発明は、サンプルと、該サンプル中の検出すべき分析対象物質の少なくとも2分子が結合されている高分子とのインキュベーション段階と、前記サンプルと、検出すべき前記分析対象物質のための捕獲分子が結合されている固体担体とのその後のインキュベーション段階と、高分子を染色するために蛍光色素を加える段階と、蛍光色素の励起により、サンプル中に存在する分析対象物質を検出する段階とを含む、分析対象物質の検出方法および検出装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、該サンプル中の検出すべき分析対象物質(analyte)の少なくとも2分子が結合されている高分子とのインキュベーション段階と、前記サンプルと、検出すべき前記分析対象物質のための捕獲分子が結合されている固体担体とのその後のインキュベーション段階と、前記高分子を染色するために蛍光色素を添加する段階と、前記蛍光色素の励起により、前記サンプル中に存在する分析対象物質を検出する段階とを含む、分析対象物質の検出方法および検出装置に関する。
【0002】
低分子量分析対象物質を検出するための多数の方法が既に確立されている。これらの方法は、特別研究室で、たとえば、いわゆるハイスループット・スクリーニング(HTS)または超ハイスループット・スクリーニング(VHTS)という状況で、製薬工業のための有効成分の探索に使用され、またイン・シチュ試験システム、たとえば、迅速薬物試験、環境試験または食物試験テストにも使用される。このような状況において、標的分子とも呼ばれ、概してDNAまたはタンパク質である、数百(HTS)ないし数千(VHTS)の「捕獲分子」は、いわゆるマイクロアレイ状のスライド上に固定され、固定化された分子のタイプによって、現在、主としてDNAアレイとタンパク質タンパク質アレイの区別が行われている。固定化された生体分子の相互作用は、調査マトリックス(たとえば、所与の組織型の溶解物)の事前にマークされた内容を用いて調査することができる。
【0003】
HTSまたはVHTSの場合には、検出方法は、多くの場合、蛍光マーキングに基づく。これらの方法は、たとえば、マイクロタイタープレートまたはスライド形式のバイオチップで実施される、FIA(蛍光イムノアッセイ)を使用することにより、化学分析、生化学分析および生物分析で知られていた。これに関連して使用される蛍光色素は、概して非常に寿命が短く、定義された波長による強力な励起を必要とし、概して近隣波長を発するため、励起と発光の間に光学フィルターを置かなければならず、また光学評価ユニット(蛍光読み取り装置等)により、放射光が記録されなければならない。使用される分析対象物質の最小量およびそれらの空間密度を考慮すると、該マイクロアレイの評価は、高精度光学機器、たとえば、蛍光顕微鏡およびコンピュータ支援画像評価ソフトウェアを必要とする。
【0004】
現在利用できる蛍光マーキングシステムは、コスト高くかつ細心の注意を要する検出技術であるため、イン・シチュ試験システム、たとえば、迅速薬物試験および環境試験には現在使用されていない。イン・シチュで実施して評価することができる試験システムは、訓練を積んでいない者が過酷な環境条件で使用するときの丈夫さ、および人間の眼による直視評価の可能性を特徴とする。現在、このような試験システムに使用できるマーキング方法は、金粒子、有色ポリスチレンまたはラテックスビーズ、リポソームまたは酵素への、生体分子の結合である。マークされた反応物質との反応後、可能な限り最大のコントラストを提供するために、これらのマーキング方法は全て、反応パートナーが固定される、白色または可能な限り明るい担体材料を必要とする。したがって、迅速分析に現在利用できるマーキングは、透き通ったおよび/または透明な担体材料上のアレイを認識することができない。これらの視覚的に評価されるマーキング方法のさらなる欠点は、暗所および/または人工光での評価の難しさである。これらは、多くの用途、たとえば、深夜の運転者の薬物試験または、たとえば動物畜舎の環境条件での、食品産業の危険物質試験の評価の、必須条件である。
【0005】
したがって、本発明は、イン・シチュおよび好ましくない条件で簡単に実施することができる、化学物質の高感度かつ迅速な検出方法を提供するという目的に基づく。
【0006】
この目的は、特許請求の範囲に明確に規定されている内容によって達成される。
【0007】
下記の図面は、本発明を説明する。
【0008】
本明細書の中で、用語「分析対象物質」は、本方法を使用して調査すべき物質を指す。
【0009】
本明細書で使用されるとき、用語「捕獲分子」または「標的分子」は、遊離の分析対象物質または結合した分析対象物質を結合することができる、本方法に従って、固体担体のコーティングに塗布される分子を指す。
【0010】
本発明の目的を達成するために、蛍光色素を使用して、分析対象物質、好ましくは低分子量分析対象物質の検出を可能にする、方法および装置を以下に記載する。
【0011】
本発明は、
a)サンプルと、該サンプル中の検出すべき分析対象物質の少なくとも2分子が各高分子に結合されている高分子(マクロモレキュル)とのインキュベーション段階と、
b)前記サンプルと、検出すべき前記分析対象物質のための捕獲分子が結合されている固体担体とのその後のインキュベーション段階と、
c)前記高分子を染色するために蛍光色素(フルオレッセンスダイ)を添加する段階と、
d)前記蛍光色素の励起による、前記サンプル中に存在する分析対象物質の検出段階と、
を含む分析対象物質の検出方法に関する。
【0012】
本発明の方法を用いると、検出すべき、サンプル中に存在する分析対象物質は、高分子に結合している分析対象物質と同一の分子と、捕獲分子への結合に関して競合する。検出すべき分析対象物質がサンプル中に存在すれば、高分子に結合している分析対象物質は、捕獲分子への結合を妨げられる。したがって、蛍光色素の励起は、陽性のシグナルを生じさせることができない。それに反して、検出すべき分析対象物質がサンプル中に存在しなければ、高分子に結合されている分析対象物質は、捕獲分子に結合し、蛍光色素の励起が陽性シグナルにつながる。
【0013】
段階c)の後に、さらなる段階c′)固体担体からの未結合蛍光色素の除去段階が、必要に応じて挿入されてもよい。
【0014】
さらに、段階c)および段階c′)を省略できるように、段階a)における高分子は、蛍光色素でマークされていてもよい。この場合、段階a)の後に、さらなる段階a′)未結合高分子の除去段階が、必要に応じて挿入されてもよい。
【0015】
高分子は、同じであっても異なっても(同一であっても非同一であっても)よい。さらに、同一または非同一の分析対象物質を、高分子に結合することができる。したがって、本発明は、同一高分子が使用されて、同一または非同一の分析対象物質がそれに結合されているか、または非同一高分子が使用されて、同一または非同一の分析対象物質がそれに結合されている、方法にも関する。非同一分析対象物質の数は限定されない。事実、分析対象物質の数は、高分子のサイズおよび分析対象物質が付加される結合位置によって異なる。
【0016】
本発明による方法で検出される分析対象物質は、タンパク質、たとえば抗体、ホルモン類、たとえばソマトトロピン等の成長ホルモン類、特に、およそ5000ダルトン未満の分子量を有するポリペプチド類、抗生物質、たとえばβ−ラクタム類、セファロスポリン類、スルホンアミド類、テトラサイクリンおよび他の麻薬、特に違法麻薬、たとえばテトラヒドロカナビノール、コカイン、モルヒネ、アンフェタミン類、メタンフェタミン類等々、ビタミン類、特にビタミン群A〜U、たとえばビタミンB12、ビオチンおよび他のタンパク同化ステロイド類、たとえばテストステロン、非ステロイド系アンドロゲン類、たとえばゼラノール等々、殺虫剤、たとえばアトラジン、PCB等々、ドーピング剤、たとえばアンフェタミン等の麻薬、エフェドリン等のアミン基の覚醒薬、1,4−ベンゾジアゼピン等々の向精神薬、または潜在的生物兵器、たとえば炭疽菌、ボツリヌス毒素等々であってもよい。好ましくは、分析される分析対象物質は、特におよそ5000ダルトン未満の分子量、特におよそ1000ダルトン未満の分子量を有する低分子量分析対象物質である。
【0017】
本発明の方法の場合、検出すべき分析対象物質は高分子に結合される。アッセイの感度を高めるために、少なくとも2つの分析対象物質が、各高分子に結合されるが、高分子当たりの分析対象物質の数に上限はない。一方、分析対象物質の数は、高分子のサイズおよび分析対象物質が付加される結合位置によって異なる。したがって、核酸、たとえばオリゴヌクレオチドへの結合の場合には、結合の程度は、結合に適した塩基配列に関連して変化できる。ポリペプチド類が高分子として使用される場合、結合に適したアミノ酸が一次配列に存在する頻度もまた、結合の程度に影響する。結合が行われ得る、常に同一のヌクレオチドまたは同一のアミノ酸の配列の場合には、高分子と分析対象物質とのモル関係が、結合の程度を決定する。このような状況において、モル関係は、1:2とおよそ1:10の間で変化してもよい。>1:10のモル関係もまた適切であり、タンパク質への結合では、三次構造によって左右される。
【0018】
本発明の方法に適する高分子は、合成材料、たとえば、メラミン樹脂、ポリアミノ酸類、たとえばポリリシンまたはポリグルタメート、ペプチド類、ポリペプチド類、タンパク質、たとえば抗体、ペプチド核酸または核酸、たとえばDNAまたはRNAであってもよい。核酸は、一本鎖(ss)または二本鎖(ds)として使用することができる。DNAを使用する場合、DNAの長さおよび二次構造は、検出感度に決定的な影響を有する可能性が有る。二本鎖および高分子量DNAは、概して、短い、一本鎖DNAより染色しやすいが、分析対象物質は、一本鎖DNA中のアデニン、グアニンおよびシトシンの、露出した一級アミノ基によって、より簡単に結合することができる。したがって、本発明の方法のための高分子として、一本鎖DNAが好ましい。オリゴヌクレオチドが特に好ましく、およそ40〜80塩基の範囲内の長さを有するオリゴヌクレオチドが、コストの理由で好ましい。およそ40塩基未満の長さを有するオリゴヌクレオチドも適するが、最適なシグナル増幅をもたらさない。およそ80塩基を超える長さを有するオリゴヌクレオチドも適するが、コストの理由で好ましくない。二本鎖DNAのシグナル強度を得るために、分析対象物質に結合されるオリゴヌクレオチドを、必要に応じて相補的オリゴヌクレオチドとハイブリダイズしてもよい。一本鎖オリゴヌクレオチドの自己ハイブリダイゼーションを避けるために、非相補的塩基の配列が好ましい。
【0019】
分析対象物質は、好ましくは、一級アミノ基により、特に核酸塩基のアミノ基により、高分子に結合される。ペプチド類またはタンパク質への結合は、スルフヒドリル基およびカルボキシ基によってもよく、またグリコシル化タンパク質の場合には、糖残基により形成されてもよい。これに関連して、結合は、グルタルジアルデヒド、スクシンイミドエステル、スルホ・スクシンイミド類、アリールアジド類、フェニルアジド類、アミノ基をスルフヒドリル基に予め変換した後のマレイミド類、ヒドラジド類、アミノ基をスルフヒドリル基に変換した後のピリジルチオ化合物、イミドエステル類、カルボジイミド類、アミノ基をスルフヒドリル基に変換した後のビニル・スルホン反応基含有化合物、塩基中のアミノ基の代わりにリボヌクレオチド中のシス・ジオール類に結合するためのホウ酸を含有する化合物、一級アミノ基のカルボキシル基への変換およびその後の結合、ヒドロキシフェニルアジド類、イソシアネート類、アジドメチルクマリン類、ニトロフェニルアジド類、ブロモアセチル化合物、ペルフルオロアジド化合物、ヨードアセチル化合物、ソラレン類、ヨウ化酢酸化合物、ビオチン含有化合物、ヒドロキシメチルホスフィン類、アルデヒドおよびヒドラジド活性化デキストラン類により、特に形成される。これに関連して、結合される分子間に、異なる長さのスペーサーまたはポリリンカーを導入することができ、このことが、結合された分子の有機溶剤への溶解性に影響を及ぼす可能性がある。
【0020】
分析対象物質の結合の程度は、核酸配列の選択によって変化できる。およそ300ダルトンの分子量を有する分析対象物質の場合、分子中の5番目の塩基ごとに、1つの結合オプションが適当であることが分かっている。しかし、より多いまたはより少ない結合が存在してもよい。オリゴヌクレオチドの長さおよびコンジュゲーションの程度は、検出システムの感度に影響を及ぼし、いずれの場合にも、実験的に決定することができる。
【0021】
さらに、本発明は、サンプルに加えられる高分子が、異なる分析対象物質に結合されている方法に関する。これに関連して、同一高分子が非同一分析対象物質に結合されていてもよく、非同一高分子が、それぞれ非同一分析対象物質に結合されていてもよい。この方法は、たとえば、多重試験(アレイ)における幾つかの分析対象物質の検出に使用することができる。好ましくは、多重試験は、非同一分析対象物質が結合されている同一高分子からなる。これに関連して、分析対象物質は、所望の検出感度と関連付けながら、高分子への結合に使用しなければならない。オリゴヌクレオチドが高分子として使用される場合、好ましくは、オリゴヌクレオチドは、合成前に非同一分析対象物質が結合されているヌクレオチドを、オリゴヌクレオチドの合成に使用することにより、非同一分析対象物質を用いて製造できる。
【0022】
検出に必要な蛍光色素は、溶液中で高分子とともにインキュベートされるサンプルに加えてもよく、または高分子に既に結合されていてもよい。蛍光色素は、分子生物学から既知であり、適切な方法で(たとえば、ゲル電気泳動またはCsCl勾配での分画によって)狭く限定された範囲に焦点が絞られれば、適切な波長で励起した後、裸眼でさえ、数ピコグラムの範囲内で、高感度様式でDNAを検出することができる。
【0023】
DNAの染色に現在利用できる染料は、フェナントレン群のメンバーであって、UV範囲で励起後、赤色の範囲で発光する臭化エチジウムか、またはモレキュラー・プローブズ社により製造される、シアニン群のメンバーであり、最大485nmのUVで励起され、530nmで発光するSYBR色素(SybrGreenまたはSybrGold)である。これらの染料は両者とも、一本鎖DNAまたはRNAのマーキングに好適であり、臭化エチジウムは、発癌性があるため、また使用されるUV励起が無防備の眼に危険であるため、イン・シチュ試験法にあまり適さない。インターカレート色素、たとえばフェナントレン類(たとえばヨウ化プロピジウム、ヨウ化ヘキシジウム、ジヒドロエチジウム、エチジウムホモダイマー、エチジウムモノアジド)およびアクリジン類(たとえばアクリジンオレンジ)ならびにDNAの浅溝内で結合するインドール類およびイミダゾール類(たとえば、ヘキスト社により製造されるビスベンズイミド色素)および他の色素、たとえば7−アミノアクチノマイシンD、アクチノマイシンDおよびヒドロキシスチルバミジンが、二本鎖DNAまたはRNAのマーキングに適する。
【0024】
本発明の方法の好ましい一実施形態によれば、インターカレート色素が使用されるとき、より多い蛍光色素を結合する、二本鎖DNAが、オリゴヌクレオチドと相補的DNA配列とのハイブリダイゼーションによって製造され、それによって本発明の方法の感度を高める。
【0025】
リンカー結合フルオロフォア、たとえばモレキュラー・プローブズ社により製造される、たとえば現在利用できる全蛍光色素のn−ヒドロキシスクシンイミドエステルは、ポリアミノ酸の染色に適する。これらの色素は、たとえば青色蛍光色素カスケード・ブルー、マリーナ・ブルーおよびアレクサ・フルーア(Alexa Fluor)350から、緑色蛍光色素アレクサ・フルーア488、アレクサ・フルーア532、アレクサ・フルーア546、アレクサ・フルーア568、赤色蛍光色素アレクサ・フルーア594、テキサス・レッドおよびテキサス・レッドX、および暗赤色蛍光色素アレクサ・フルーア633、アレクサ・フルーア647、アレクサ・フルーア660、アレクサ・フルーア680およびレーザープロIR790色素およびフィコビリン類までの、フルオロフォアの多様性を示す。
【0026】
上記色素のリストは、排他的ではなく、例として本明細書に記載されているに過ぎない。本方法に従って使用される高分子を染色する他の色素も使用できることは、当業者に明白である。
【0027】
本発明の方法に使用される固体担体は、光透過性の固体担体、または光不透過性担体のであってもよい。光透過性の固体担体は、たとえば、ガラスおよび/またはポリマー合成材料、たとえばポリスチレン等々で作られたスライドである。光不透過性担体は、たとえば、ニトロセルロース、ナイロン等々の膜で被覆された合成材料ストリップである。好ましい一実施形態では、固体担体はまた、抗体結合性材料で満たされている透明なカラムであってもよく、または、化学的修飾、たとえばアミノ化等々、または物理的修飾、たとえばオイパーギット(Eupergit)の融合等々の結果として、抗体を結合するのに適当な棒形合成材料担体であってもよい。
【0028】
固体担体上に結合される捕獲分子は、検出すべき分析対象物質に特異的に結合することができる、あらゆる種類の分子であってもよい。好ましい捕獲分子は、抗体、受容体、モレキュラーインプリントポリマー(分子鋳型)およびそれらのカウンターパート、たとえば抗原、リガンド、機能的モノマーおよび/または架橋モノマー(プリント分子)である。
【0029】
捕獲分子は、市販の、特別に予め被覆したスライド、たとえばエポキシスライドまたはアルデヒドスライド(イェナにあるクォンティフォイル・マイクロ・トールズGmbH(Quantifoil Micro Tools GmbH,Jena))、ユーレイ(Euray)(デンマークのヴェドベックにあるExiqqon(Exiqqon,Vedbaek,Denmark))等々上に結合されていてもよく、その手順は、製造会社の説明書に従って実施される。予め被覆されたスライド、たとえばオキシラン含有分散(ダルムシュタットにあるレームファーマの製剤2879(Preparation 2879,Rohm Pharma,Darmstadt))で被覆されたスライドも好適である。この目的のために、オキシラン含有分散をスライドに塗り、室温で数時間乾燥させてもよい。容易に眼に見えるシグナルを得るためには、作製したスライド上に、およそ0.01〜およそ10μlの容量で、特異的抗体をスポットする。容量は、スライドのコーティング、スポットされる抗体の数および所望のシグナルの大きさによって変化する。好ましくは、容量は、スポット当たり約0.1〜約0.5μlであり、抗体溶液は、1より大きい抗体価を有する。スポットされる抗体は、好ましくは、37℃で数時間乾燥させ、この後、免疫検出に関する一般規格、たとえば「アプリケーションガイド・ポールゲルマン・ラボラトリー:ポールゲルマン・ラボラトリー膜に関するトランスファー及び固定化手順」(Application Guide Pall Gelman Laboratory:Transfer and Immobilisation Procedures for Pall Gelman Laboratory Membranes)に準拠して、スライドコーティングのスポットされていない表面を、生理緩衝液、たとえばPBS中のカゼインまたは他の適当なタンパク質たとえばBSA(それぞれ1〜10%)、または動物の血清(ブタ、メンドリ等々、PBS中10%)でブロックすることができる。未結合タンパク質を洗い落とすと、スライドはその時活性化されており、抗体特異的分析対象物質の検出に使用することができる。1つの具体的な実施形態では、10〜100ngの凍結乾燥した、分析対象物質結合オリゴヌクレオチドを、試験管に入れる。このオリゴヌクレオチドをサンプル、たとえば遊離の分析対象物質を含有するサンプル1mlとともに溶解し、活性化したスライドを、テスト液体中で指定された時間、抗体のアフィニティに依存して、5〜35℃の環境温度で0.5〜120分、インキュベートする。
【0030】
インキュベーション期間中に、遊離の分析対象物質と、高分子に結合された分析対象物質との間で、抗体の結合位置に関する競合が起こり、高分子結合分析対象物質の量によって、遊離分析対象物質に関するテスト感度を調整することができる。蛍光色素の選択によって、高分子、たとえばオリゴヌクレオチドは、既に予め染色されていてもよく、あるいはスライドのインキュベーションおよびすすぎ後の規定された期間、たとえば規定された濃度の色素が入った別個の試験管内で、染色を必要とすることもある。バックグラウンドを減少させるために、染色後、余分の色素を除去することができる。これは、たとえばゴムリップでこすることにより機械的に、または規定された量のすすぎ液を用いて達成することができる。すすぎ液の組成は、結合された捕獲分子の安定性によって異なり、捕獲分子および使用される他方の反応パートナーに適切な緩衝液特性を有する水溶液が好ましい。高分子結合分析対象物質の検出は、この後、下方からスライドを通して蛍光色素を励起することによって行われる。1つの好ましい実施形態では、高分子として使用されるオリゴヌクレオチドを、SYBR−Gold(モレキュラー・プローブズ社)で染色し、青色光トランスイルミネータ(450nm)で励起し、オレンジフィルター(500〜510nm)を通して蛍光放射線をヒトの眼に見えるようにする。
【0031】
イン・シチュ向け検出システムの場合には、電池式青色光トランスイルミネータが好ましく使用される。これは、シェードを上に備えたオレンジフィルターに取り付けられる。その寸法に関して、トランスイルミネータのスクリーン面積は、テストに使用されるスライドの面積に一致する。スライドが、スクリーン表面とフィルターとの間に押し出され、スプリングクリップまたは類似した保持装置で固定することができるように、フィルターは、スクリーン表面の上に取り付けられる。眼で蛍光放射線の全強度を読み取るために、オペレーターの眼部位に合い、また環境からの日光または光の干渉を排除する、顔の形に合わせた光不透過性マスクの発光側に、フィルターは接続される。
【0032】
本方法は、たとえば危険物質、たとえば抗生物質、殺虫剤、ホルモン類等々の検出のための、食料品および家畜飼料のテストに使用することができる。このような用途は、今まで実験室的方法にもっぱら依存してきたが、時間がかかるため、調査結果が入手できる前に食料品または家畜飼料が既に消費されてしまっている。さらに、たとえば、スーパーマーケット内の人工光では、または照明が不十分な動物畜舎でテストを実施するときは、迅速免疫学的検査に既に使用されているマーキングは、イン・シチュ評価にあまり適していない。この問題は、本発明により解決される。
【0033】
本発明の方法がかなりの利点をもたらす、さらなる代表的な使用は、診断の分野で見つけられる。本方法は、動物飼育条件での獣医学診断において、および救急車内で24時間体制で迅速テストを実施しなければならない緊急のヒト診断において、かなりの利点を提供する。
【0034】
さらに、本発明の方法は、薬物の影響を受けている運転者を記録するための交通検査の状況で、特に好適である。薬物消費の問題は、多くの場合、深夜のディスコ訪問と関連している。したがって、テストは、主として好ましくない照明条件で実施される。したがって、違法薬物およびバルビチュレートに関する迅速テストの評価が、かなり容易にされる。
【0035】
以下の実施例は、本発明を説明するものであり、その範囲を制限すると考えてはならない。
【0036】
(1)オリゴヌクレオチドの製造
一級アミノ基が存在しないので分析対象物質をチミンに結合することができないため、目的とする結合を達成するために、チミジンおよびグアノシンからなる配列を合成した。したがって、結合は、グアニンの一級アミノ基により行われた。シトシンは、該結合に同程度に適したであろう。無塩の標準レベルの純度の、配列(TTTTG)16を有するオリゴヌクレオチドは、キアジェン・オペロン(Qiagen Operon)に注文し、凍結乾燥状で供給された。PBS(リン酸緩衝食塩水、137mM NaCl、2.7mM KC1、8mM Na2HPO4・2H2O;1.5mM KH2PO4)中10mg/mlの原液を、凍結乾燥製品から調製し、アリコートで、−20℃で保存した。
【0037】
(2)分析対象物質の結合
(a)アンピシリンのオリゴヌクレオチドへの結合、
活性化のために、絶えず攪拌しながら、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル(H2O中)25mg/mlに、1.5mgのアンピシリン(100mM c中、5mg/ml)を、最終濃度5mg/mlまで滴加し、次いで、室温で30分間攪拌した。最終濃度35mMまで1Mジチオスレイトールを加えた後、1時間インキュベートすることにより、余分のマレイミド基を不活化した。結合のために、オリゴヌクレオチド(PBS中2mg/ml)3.9mgを混合物に加え、混合し、室温で3時間インキュベートした。4倍の緩衝液を交換して、4℃で一晩実施された、PBSに対するその後の透析で、未結合のアンピシリンおよびm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステルを反応混合物から除去した。
【0038】
(b)アンピシリンおよびアレクサ・フルーア488のポリリシンへの結合
再度、活性化のために、攪拌しながら、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル(H2O中、25mg/ml)2mgに、アンピシリン(H2O中100mMのリン酸水素ナトリウム中、5mg/ml、pH7.2)2mgを滴加し、次いで、室温で30分間攪拌した。1Mジチオスレイトール(最終濃度35mM)と1時間インキュベートすることにより、余分のマレイミド基を不活化した。同時に、ポリリシン(3〜15kDa)1mgを0.1M炭酸水素ナトリウム(2mg/ml)に溶解し、アレクサ・フルーア488 4.4μlを、2回蒸留水で100μlに希釈し、攪拌しながら、10〜20μlのアリコートに加え、次いで室温の暗所で1時間攪拌した。3K遠心濃縮器(ポール(Pall))で、室温で20分間遠心分離し、500μl PBSで一度洗浄することにより、遊離の色素を分離した。濃縮物をPBS 500μlに溶解した。この後、活性化アンピシリンを加え、室温の暗所で3時間攪拌した。4倍の緩衝液を交換して、4℃で一晩実施された、PBSに対する透析で、未結合のアンピシリンおよびm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスルホスクシンイミドエステルを除去した。
【0039】
(3)スライドの被覆
スライド、たとえばメンゼル(Menzel)社により製造された「スーパーフロスト(SuperFrost)」を、ガラス棒またはプラスチック棒で均一になでつけることにより、オキシラン含有分散(ダルムシュタットにあるレームファーマの製剤2879(preparation 2879,Rohm Pharma,Darmstadt))5μlで被覆し、次いで、室温で少なくとも2時間乾燥させた。ピペットの先端がスライドに接触しないように、0.1〜1.0μlの容量を使用して、希釈された(10°、10-1、10-2、10-3)抗体を、ピペットを用いて手動で塗布した。PBSは、希釈剤および塗布溶液として、非常に好適であった。抗体を、37℃で2〜3時間、または室温で一晩、スライドに固定させた。この後、ミルク緩衝液(10mM Tris−HC1、pH7.4、150mM NaCl、ハンマシューテン(Hammarsten)後の0.3%カゼイン、0.05%トゥウィン(Tween)20、0.005%NaN3(任意))または50mMエタノールアミンおよび0.1%SDSを含む100mM Tris−HC1、pH9、あるいはブタ血清(PBSで、1:10希釈)中で、被覆されたスライドを、室温で30分間ブロックした。
【0040】
(4)テストの実施
(a)アンピシリンと結合したオリゴヌクレオチド
スライドを、20mlのPBS中の0.5%ウシ血清アルブミン、0.05%トゥウィン(Tween)20と、異なる濃度のアンピシリンおよび異なる濃度のアンピシリン結合オリゴヌクレオチドが入った平皿に置いて、室温で20分間インキュベートし、次いで、H2O中、11.5mM NaCl、0.23mM KC1、0.66mM Na2HPO4×2H2O、0.13mM KH2PO4、0.04%Tween20で簡単に3回洗浄した。この後、スライドを、TAE−緩衝液(40mM tris−HCl、pH7.5、20mM酢酸ナトリウム、1mM EDTA)で1:30,000希釈した、SYBRGold(モレキュラー・プローブズ社)で1分間染色した。染色直後に、スライドを以前の通りに再度洗浄し、直ちに青色光トランスイルミネータに入れて評価した。陰性の結果、すなわち、分析対象物質の欠如は、蛍光シグナルによって示される。シグナルの強度は、分析対象物質の濃度が上昇するにつれて低下する。アンピシリンコンジュケートは、100ng/mlのアンピシリン濃度で完全に置き換えられた。
【0041】
(b)アンピシリンおよびフルオロフォアと結合したポリリシン
(a)で明示された通りに、被覆スライドを、様々な濃度のアンピシリンおよびアンピシリン−アレクサ・フルーア488結合ポリリシンと、遮光条件で20分間インキュベートし、(a)で明示された通りにすすいだ。次いで、スライドをさらに処理することなく、青色光トランスイルミネータ上に置いて、評価した。分析対象物質の欠如が、蛍光シグナルによって示された。1mg/mlアンピシリンまで、遊離アンピシリンの濃度を上昇させることにより、アンピシリンコンジュケートに取って代わり、さらなるシグナルは確認できなかった。
【0042】
(5)比較実験の結果
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】横断面および上から見たテストスライドを示す図である。実際のテストスライド(1)は、コーティング(2)が施され、その中に捕獲分子(3)が結合されている。
【図2】テスト手順後に、テストスライドを評価することができる装置を示す図である。テストスライド(1)は、ガイド(4a)に沿って、装置のハウジング(4)に押し込まれる。本装置では、光源(6)とフィルター板(5)はテスト担体の下に配置されるが、フィルター板(5)は、検出に使用される蛍光色素の最大励起の範囲内の光(7)のみを透過させる。励起のための光(7)をブロックし、蛍光色素により放射された光(9)を透過させる第2のフィルター板(8)は、テストスライドの上に配置されている。テストスライド上で蛍光放射が起こる位置は、使用される色素によって、視覚的に、または適切な光学機器を使用して、ハウジングのアパーチャー(4b)を通して確認することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)サンプルと、該サンプル中の検出すべき分析対象物質の少なくとも2分子が結合されている高分子とのインキュベーション段階と、
b)前記サンプルと、検出すべき前記分析対象物質のための捕獲分子が結合されている固体担体とのその後のインキュベーション段階と、
c)前記高分子を染色するために蛍光色素を添加する段階と、
d)前記蛍光色素の励起による、前記サンプル中に存在する前記分析対象物質の検出段階と
を含む分析対象物質の検出方法。
【請求項2】
段階c)の後に、さらなる段階c′)前記固体担体から未結合の蛍光色素の除去段階、を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)サンプルと、該サンプル中の検出すべき分析対象物質の少なくとも2分子が結合されている、蛍光色素マークした高分子とのインキュベーション段階と、
b)前記サンプルと、検出すべき前記分析対象物質のための捕獲分子が結合されている固体担体とのその後のインキュベーション段階と、
c)前記蛍光色素の励起による、前記サンプル中に存在する前記分析対象物質の検出段階と、
を含む、分析対象物質の検出方法。
【請求項4】
段階a)の後に、さらなる段階a′)未結合高分子の除去段階、を含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記高分子が、核酸、ペプチド核酸またはポリアミノ酸である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記高分子が、40〜80ヌクレオチドの範囲内の長さの一本鎖オリゴヌクレオチドである請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記高分子が、同一であるか、または非同一である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記分析対象物質が、5000ダルトン未満の分子量を有する請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記蛍光色素が、フェナントレン類、アクリジン類、SYBR色素またはフルオロフォア類からなる一群から選択される請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記固体担体が、光透過性であり、前記検出方法が、透過光線方法を用いて実施される請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法を実施するための装置であって、
光源(6)が、装置内に挿入された固体担体(1)の一方の側に取り付けられ、
フィルター((5)と(8))が、前記光源(6)と前記固体担体(1)との間、および前記固体担体(1)の他方の側に、それぞれ配置され、
前記固体担体を通過する光が、アパーチャーを通って人の眼または光学機器に進むように、前記装置が設計されていることを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−501455(P2006−501455A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540525(P2004−540525)
【出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【国際出願番号】PCT/DE2003/003253
【国際公開番号】WO2004/031771
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(505116390)チビテスト・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディトゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】