説明

分析指示管理システム

【課題】各種の分析装置の全体管理を行うことを目的として研究施設に設けられるLIMSなどの情報管理システムから出力される分析指示データに含まれるデータを活用できるシステムを提供する。
【解決手段】情報管理システムから出力される分析指示データをXML形式に変換する指示データ変換部と、XML形式の分析指示データを格納する分析指示格納部と、を備えるシステムとする。従来は固定フォーマットなどで出力されていた分析指示データをXML形式に変換することにより、該分析指示データに含まれるデータを高い自由度で以て利用することが可能となる。また、本情報管理システムを導入することにより、分析における手入力ステップを減らすことができるから、各分析に一意に付与される管理番号の入力間違いといった人為的ミスの発生も低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラボラトリ情報管理システム(Laboratory Information Management System:LIMS)といった、分析装置、計測装置、測定装置による分析試験を総合的に管理する情報管理システムに対して設けられるシステムに関するものである。より詳細には、そのような情報管理システムから出力される、分析に関する指示データを扱うためのシステムに関するものである。
【0002】
本明細書では、種々の分析、計測、測定等を一括して「分析」と称する。また、このような各種分析を行うための装置を一括して「分析装置」と称する。
【背景技術】
【0003】
複数の分析装置を用いて各種の分析や計測を行う研究施設では、通常、分析を高効率で進めることが要求される。そこで、最近では分析装置を単体で使用するのではなく、LAN(Local Area Network)などのネットワークによって、分析装置と制御用装置やデータ管理装置等(通常、これらの実態はコンピュータである)とを互いに接続するネットワーク型の分析形態が一般化している。これにより分析装置の遠隔操作が可能になり、また、取得された分析データを管理したり利用したりすることも容易に行うことができる。
【0004】
研究施設では、一回で完結する単一的な分析が行われるだけでなく、ユーザによって立案された分析計画に基づき、多数の分析が順次実行されることがある。同一種類(例えば液体クロマトグラフ)の分析装置が複数台利用可能な環境においては、複数の分析装置を稼働させて分析が行われる。こうなると、研究施設全体(または特定の部署内や部屋内など)で行う分析を総括的に管理することが、高効率な分析を実行するうえで重要になってくる。このため、近年では研究施設にはラボラトリ情報管理システム(LIMS)などの情報管理システムが導入されるのが一般的になりつつある。LIMSはデータベースを中核とする管理システムであって、研究施設において実施する分析の手順(ワークフロー)やスケジュールを管理したり、分析データの解析や分析を行ったりする機能を備えている。情報管理システムの実体は所定のプログラムを実行するコンピュータ(サーバやワークステーションを含む)である。
また近年、とりわけ食品、医薬品、医療用具等に関連する研究施設ではGLP(Good Laboratory Practice)やGMP(Good Manufacturing Practice)で定められた製造管理及び品質管理の基準(ガイドライン)に対応したり、21 CFR PART11(電子記録・電子署名に関する規制条例)で定められている電子文書の基準に対応したりすることが求められているが、研究施設全体がこういった基準を遵守するための管理機能を情報管理システムが備えていることも多い。
【0005】
製品化されたLIMSソフトウエアの例には、LabWare社のLabWare LIMS(非特許文献1参照)や、STARLIMS社のSTARLIMS(非特許文献2参照)がある。
【0006】
【非特許文献1】LabWare社,"Labware Product",[online],[平成19年1月9日検索],インターネット<URL:http://www.labware.com/LWWeb.nsf/lp/en04>
【非特許文献2】STARLIMS社,"LIMS by STARLIMS",[online],[平成19年1月9日検索],インターネット<URL:http://www.starlims.com/>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
情報管理システムによって分析を管理する場合、ユーザが情報管理システムを操作することによって分析の計画を入力する。この入力に基づき、情報管理システムは分析指示書を作成する。分析指示書には或る分析に関して、分析の種類及び分析条件が記載されており、各分析指示書には数桁の数字や記号から成る一意の管理番号が付与される。
分析装置のオペレータ(通常、このオペレータと情報管理システムを操作するユーザは異なる人物である)は、情報管理システムによって作成された分析指示書をプリントアウトしたり所定のモニタに表示させたりすることによって分析指示書に含まれる内容を確認して、指示された分析を実行する。分析が終了すると、オペレータは分析結果である分析データを管理番号と関連付けて、情報管理システム等に送信する。
【0008】
しかし、従来より行われている上記の分析形態では、分析指示書が単に出力されるのみであり、分析指示書に含まれている情報をデータとして活用することができなかった。そのため、分析データを送信する際に誤った管理番号を入力してしまうといった人為的な過失が生じるおそれがあり、オペレータにとっては負担となっていた。また、分析指示書が多数出力された場合にはオペレータ間で割り振りを行わねばならず、手間となっていた。
【0009】
本発明はこのような問題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、情報管理システムから出力される分析指示書に含まれる情報を活用可能とすることにより、分析の効率や分析管理の効率を向上させることができるシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のようにして成された本発明に係る分析指示管理システムは、
分析の手順やスケジュールを管理する情報管理システムに対して設けられるものであり、
該情報管理システムより出力された分析指示データをXML形式に変換する指示データ変換部と、
XML形式の分析指示データを格納する分析指示格納部と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
(語句の説明)
「ラボラトリ」:分析装置を有する研究施設、研究機関、分析機関、分析部門、研究室など。
「情報管理システム」:各種分析を行うラボラトリにおいて分析の手順やスケジュールを管理するために設けられるシステム。このような情報管理システムには、ラボラトリ情報管理システム(LIMS)として知られるシステムのほか、ラボラトリデータ管理システム(LDMS)なども含まれる。本発明における情報管理システムは、少なくとも分析指示データを出力する機能を備えるものとする。情報管理システムの実体は通常、所定の情報管理プログラム(例えばLIMSソフトウエア)が実行されているコンピュータである。
「分析指示データ」:情報管理システムから出力されるデータ。一つの分析指示データは通常一つの分析に対応しており、一意の管理番号とともに、分析の内容に関する各種の情報が含まれる。一つの分析指示データに複数の分析が含まれることもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る分析指示管理システムによれば、指示データ変換部が分析指示データをXML形式に変換することにより、従来は単に参照用でしかなかった分析指示データに含まれるデータを種々の形態で以て利用することが可能となる。
また、分析装置のオペレータは、分析指示格納部に格納されるXML形式に変換された分析指示データを参照することにより、現在どのような分析指示が情報管理システムから出力されているかをXML文書が有するソートや絞込の機能を活かして、適切に取り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る分析指示管理システムの構成例及び動作例について、図を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態の分析指示管理システムを含む分析システムの概略構成図である。
図1に示すように、本発明の分析システムには、LANなどのデータ通信ネットワークNWを介して2台のガスクロマトグラフ(GC1、GC2)及び2台の液体クロマトグラフ(LC1、LC2)と、制御端末(PC−1、PC−2)とが接続されている。また、情報管理システム5及び分析指示管理システム1は互いに通信可能に接続されているとともに、いずれもデータ通信ネットワークNWに接続されてもいる。
当然、図1の構成は一例に過ぎず、分析装置の制御を司るシステム制御サーバなどが更にデータ通信ネットワークNWに接続されてもよい。また、本実施形態における構成では分析装置であるGC1、GC2、LC1、LC2が全てデータ通信ネットワークNWに接続されているが、本発明においては、分析装置がデータ通信ネットワークNWに接続されている必要はない。
【0014】
本発明に係る分析指示管理システム1は、指示データ変換部2及び分析指示格納部3を備えている。分析指示管理システム1はCPUやメモリ、記憶媒体等を含んで成る一般的なコンピュータによって構成される。指示データ変換部2は基本的にはCPUが所定の分析指示プログラムを実行することによってソフトウエア的に実現される構成である。
また、図1に示す本実施形態では、分析指示管理システム1と情報管理システム5とは互いに独立しているが、情報管理システム5と分析指示管理システム1とが一体であっても構わない。すなわち、情報管理システム5の内部に分析指示管理システム1が組み込まれていても構わない。
【0015】
指示データ変換部2は、情報管理システム5から出力される分析指示データを受信すると、分析指示データに含まれるデータを抽出し、各データがXML文書における要素となるように各データに適宜所定のタグを付与することで、分析指示データをXML形式に変換する。この時点では、完全なXML文書が作成される必要はなく、少なくともタグの付与が行われれば良い。
情報管理システム5から出力される分析指示データは、CSV(カンマ区切り)形式、タブ区切り形式、スペース区切り形式といった固定フォーマットで成る。このフォーマットは、情報管理システム5のベンダーや機種又は情報管理システム用ソフトウエアの種類によって異なることが多い。指示データ変換部2が分析指示データを構成する各データに適切なタグを付与できるように、指示データ変換部2には予め、情報管理システム5から出力される分析指示データのフォーマットを入力しておくとよい。または、所定の記憶領域に分析指示データのフォーマットを定義したフォーマット定義ファイルを予め保存しておき、指示データ変換部2がそのフォーマット定義ファイルを参照することによって、分析指示データをXML形式に変換する構成としてもよい。
【0016】
次に指示データ変換部2は、XML形式に変換した分析指示データを、分析指示格納部3に格納する。分析指示格納部3には、複数の分析指示データが格納されてゆく。好適には、指示データ変換部2は分析指示データを情報管理システム5から出力された順序で格納してゆく。
分析指示格納部3には各分析指示データが個別に格納されていても構わないが、通常は分析指示格納部3には全体として一つのXML文書である「格納ファイル」が設けられており、この格納ファイル内に複数の分析指示データが含まれる構成とする。この構成の場合、指示データ変換部2は、新たな分析指示データを分析指示格納部3に格納する際に、格納ファイルの内容を書き換える。
指示データ変換部2は、分析指示データをまずXML形式に変換し、次いで、格納ファイルにその分析指示データを格納してもよいし、分析指示データを情報管理システム5から受信した後、その分析指示データに含まれるデータをXML文書である格納ファイルに要素として格納してもよい。
図1に示す例では、理解の容易のために格納ファイルを表の形式で示しているが、実際には格納ファイルはXML形式で記述されているXML文書である。なお、本発明では、XML文書の構造は特に問わない。
【0017】
一方、分析装置を操作するオペレータは、データ通信ネットワークNWに接続されている制御用端末PC−1又はPC−2を操作し、分析指示データを閲覧するための閲覧プログラムを実行することによって、分析指示格納部3に保存されている格納ファイルにアクセスする。格納ファイルはXML文書であるから、閲覧プログラムによって適宜に、所望のデータのみの絞込み表示を行ったり、複数ある分析指示データの並べ替えを行ったりすることができる。例えば、オペレータが操作している制御用端末PC−1がガスクロマトグラフGC−1及びGC−2のみが設置された部屋に備えられている場合には、格納ファイルに含まれている、ガスクロマトグラフに関する分析指示データのみをモニタに表示させればよい。これにより、オペレータは自分と関係のある分析指示データのみを見ることができるから、分析の効率を高めることができる。
【0018】
オペレータは、制御用端末PC(PC−1又はPC−2)のモニタ上に表示されている分析指示データを閲覧したり、また、必要に応じて分析指示データに含まれる分析条件の詳細を表示させて閲覧して、その指示に基づき分析装置によって分析を行う。
分析が終了した後、オペレータは制御用端末PCを操作することにより、分析データを分析指示データの管理番号と対応付けて、情報管理システム5に対して送信する。
【0019】
閲覧プログラムは分析装置を制御して分析を行う分析制御プログラムと一体化されていても良いし、分析制御プログラムと閲覧プログラムとは異なるものであっても良いが、いずれにせよオペレータは制御用端末PC上で分析指示データを閲覧し、分析結果のデータを情報管理システム5に送信する。従って、この一連の操作においてオペレータが管理番号を手入力する必要はなく、コピーアンドペーストや所定の操作(例えば予め用意されている管理番号転送ボタンを押す)を行うことにより、管理番号を分析結果のデータを情報管理システム5に送信するためのプログラムに渡すことができる。
【0020】
制御用端末PCにおいて実行される閲覧プログラムは、格納ファイルに含まれる分析指示データを単に閲覧するだけでなく、分析開始又は分析終了といったフラグを付したり、所定のデータ要素を入力及び変更可能な構成とすることが望ましい。例えば、分析指示データに未分析、分析中、分析終了といった分析の状況を意味するデータ要素を入力したり書き換えたりすることにより、他のオペレータに分析の状況を知らせることができる。
閲覧プログラムが分析制御プログラムと連携している場合には、閲覧プログラムにより、分析状況に応じた分析の状況を意味するデータ要素などが書き換えられるようにしてもよい。
【0021】
分析指示管理システム1は、終了した分析に関する分析指示データを、分析終了のフラグが付された時点や分析終了のフラグが付されてから一定期間が経過した後に、格納ファイルから削除することが望ましい。
【0022】
また、制御用端末PCを常時操作することができないオペレータなどが、閲覧プログラムが組み込まれてない外部のコンピュータや携帯端末などから、格納ファイルの分析指示データを閲覧したいことがある。このような要求に応えるためには、図2に示すように、分析指示管理システム1が更に、分析指示格納部に格納されている分析指示データ(又は格納ファイル)の記述形式を、所定のスタイルシートに沿って変換して出力する記述形式変換部4を備えるように構成する。
スタイルシートとしてXSLT(XML Stylesheet Language Transformations)スタイルシートを用い、記述形式変換部4としてXSLTプロセッサを用いることにより、XML形式の分析指示データをHTML(HyperText Markup Language)文書やCHTML(Compact HTML)文書といったより汎用性の高い形式の文書を作成することができる。分析指示管理システム1はこのHTML文書やCHTML文書を外部のコンピュータや携帯端末からの要求に応じて送信したり公開したりすればよい。
【0023】
以上説明したように、本発明に係る分析指示管理システムによれば、情報管理システムから出力される分析指示データを、目的に応じて表示形態を柔軟に変更したり、加工したりすることができる。
なお、上記の説明は例に過ぎず、本発明の精神内で自由に変更や改良を行っても構わないことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る分析指示管理システムを含む分析システムの概略構成図。
【図2】記述形式変換部を備えた分析指示管理システムの動作を示す概念図。
【符号の説明】
【0025】
1…分析指示管理システム
2…指示データ変換部
3…分析指示格納部
4…記述形式変換部
5…情報管理システム
GC1、GC2…ガスクロマトグラフ
LC1、LC2…液体クロマトグラフ
NW…データ通信ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析の手順やスケジュールを管理する情報管理システムに対して設けられるものであり、
該情報管理システムより出力された分析指示データをXML形式に変換する指示データ変換部と、
XML形式の分析指示データを格納する分析指示格納部と、
を備えることを特徴とする分析指示管理システム。
【請求項2】
前記分析指示管理システムが、前記分析指示格納部に格納されている分析指示データの記述形式を、所定のスタイルシートに沿って変換して出力する記述形式変換部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の分析指示管理システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分析指示管理システムが組み込まれたことを特徴とする情報管理システム。
【請求項4】
分析の手順やスケジュールを管理する情報管理システムに対して接続されたコンピュータを、又は該情報管理システムに一体的に組み込まれたコンピュータを、
該情報管理システムより出力された分析指示データをXML形式に変換する指示データ変換部として機能させることを特徴とする分析指示管理プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate