説明

分析物の比を決定する校正表面方法

【課題】分析物の比を、変換法を用いて分析物の反応から直接決定する。
【解決手段】個別の分析物の反応を、選択した測定法を用いて取得し、これらの個別の反応を、変換法において独立変数として用いる。変換法の従属変数は、所望の分析物比となる。結果的に得られる変換法は、測定された反応の関数として分析物の所望の比を直接計算するために用いられる。個別に測定された分析物の反応を濃度値に変換する校正曲線の使用のような中間変換は、所望の比を取得するために必要でない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年8月21日に出願された米国非仮特許出願第12/196,132号(代理人整理番号02558B−082500US)の継続出願であり、その利益を主張し、その内容は、参照によりそのままここに組み込まれる。
【0002】
1.発明の分野
【0003】
本発明は、一般的に、サンプル中の分析物の比を測定する方法に関する。その方法は、一般的に、結果を比で表現する分析物の任意の対に適用することができる。さらに、複数の比を、分析物の複数の対の比で表現することができる。
【背景技術】
【0004】
2.従来技術の説明
【0005】
サンプル中の2以上の分析物の比を算出することは、様々な状況において有用な比較である。比は、サンプル中の分析物の組成又は濃度の変動を補償するために頻繁に用いられる。例えば、尿に存在する分析物を測定するとき、所定のサンプルの分析物の濃度が著しく変動する可能性がある。これらの濃度変動を、サンプル中に存在する異なる分析物間の比を作り出すことによって正規化することができる。例えば、比を、尿の分析物の濃度と尿のクレアチニンの濃度との間で作り出すことができる。サンプル中の二つの分析物の間でこのような関係を作り出すことによって、濃度の変動を考慮した更に有意義な測定を行うことができる。総タンパク質又はアルブミンのような特定のタンパク質の濃度に対する組織中の所望の分析物の濃度を正規化することもできる。比は、測定中の相関誤差、例えば、希釈誤差を補償することもできる。
【0006】
分析物の濃度比を計算する最も一般的な従来の方法の簡単な説明を、図1に示す。
【0007】
ステップ101において、検体を患者から取り出す。検体の例は、血液、尿又は他の体液を含む。検体は、分析物の比を測定し及び算出するサンプルの基(basis)を形成する。検体は、患者から直接来る必要はない。検体は、他のソースから利用することができる。
【0008】
ステップ102において、検体を予処理サンプルに変換する。予処理サンプルを、テストサンプルと称することもできる。このステップは、任意の分析物の測定が行われる前に検体に対して行われることから成る。例えば、所定の例において、検体を標本化し、特定量によって希釈することができる。他の例において、抗凝血剤を検体に加えることができる。このステップは、全体が変質しない検体(entire unaltered specimen)を予処理サンプルとして用いるときには任意である。
【0009】
ステップ103及び104においてサンプルが測定される。これら二つのステップにおいて、サンプルの関心の量は、反応で表現される。ステップ103は、表示用の予処理サンプルの準備ができている機器によって行われる全ての処理から成る。サンプルの処理は、様々なステップを含むことができる。一例として複数の分析物のサンドイッチ免疫測定法(multi-analyte sandwich immunoassay)を用いることによって、サンプルは、固相に付着する抗体又は結合試薬(binding reagents)と反応し、固相は、非結合物質(unbound material)を除去するよう洗浄され、1以上の標識抗体又は結合試薬に反応し、次の反応の表示のために非結合標識抗体を除去するよう洗浄される。他の例は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、免疫測定法、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、紫外/可視/赤外分光法、ラマン分光法、表面増感ラマン分光法、質量分析、ガスクロマトグラフィー等を含む。サンプルに対して処理ステップを行う必要がない場合があってもよい。
【0010】
ステップ104において、比に用いられるサンプル中の各分析物の反応を決定するために、選択した表示(reading)法を用いる。ステップ104を、分析物(反応)表示と称する。適切な表示法は、蛍光、吸光度、反射率、イオン電流、電気化学ポテンシャル、光学密度、色、表面プラズモン共鳴等を含む。選択した処理法及び表示法は、測定されるサンプル及び分析物の性質に依存する。選択した測定法を用いて測定される分析物の反応を、選択した方法に適切な任意の単位とすることができる。これらの単位を、蛍光単位(fluorescence units)、光学密度、色、イオン電流、化学発光単位(chemiluminescence units)、電気信号等とすることができる。分析物を、多重化形式(multiplexed format)で測定することもでき、この場合、複数の分析物が1回(single pass)で測定され、又は複数の分析物を複数の個別の分析において測定することができる。
【0011】
その後、分析物の反応は、対応する濃度に変換される。このステップをステップ105及び106に示す。典型的には、この変換は、較正曲線のような手段(device)を用いることによって行われる。
【0012】
分析物の濃度の比を計算する前に各分析物の反応を個別に濃度値に変換する必要がある。分析物の濃度値は、所定の分析物の測定された反応だけでなくサンプル中の他の分析物の反応にも依存しうる。その理由は、分析物間の交差反応のような相互作用があるからである。選択した測定法を用いて測定されたサンプル中の分析物の反応と同一サンプル中の分析物の濃度との間の関係は、典型的には非線形的である。このような非線形的な関係のために、分析物の反応の比は、分析物の濃度の比とは全く異なる。したがって、分析物の濃度の比を計算すべき場合に比を計算する前に各分析物の濃度を個別に算出する必要がある。
【0013】
較正曲線は、典型的には、分析物の反応を濃度値に変換するために用いられる。分析物の較正曲線は、曲線のモデルを選択し、任意の測定を行う前に分析物の濃度が既知であるサンプルのセットから分析物の反応を測定してモデル係数の値を決定することによって作り出すことができる。これらの既知のサンプルから得られた分析物の反応を、濃度が未知であるサンプル中の分析物の濃度を推定するために用いられる較正曲線を作り出すためにグラフ化することができる。濃度値に変換すべき各分析物の反応に対して個別の較正曲線を作り出す必要がある。実際には、決定された係数値を有するモデルの式を、グラフ化することなく濃度を直接決定するために用いることができる。較正曲線に対する参照が一般的に用いられる。その理由は、較正曲線に対する参照が較正式に対する参照よりも説明に役立つからである。
【0014】
ステップ107において、所望の分析物の比を決定するために、較正曲線を用いて計算された個別の濃度を用いる。これを、除算のような簡単な数学演算によって行うことができる。分析物の比は、典型的には単位がない(unitless)。
【0015】
測定した比を、異なる測定法を用いて測定した比に整合させるために、ステップ107で取得した比を調整することが時々必要となる。このステップをステップ108に示す。比が特定の測定法を用いて決定されるように比を表すことが多くの場合に一般的であり、このような特定の測定法はステップ103及び104で用いられる方法と同一でないことがあるので、このような追加の変換が行われる。これらの異なる測定法によって取得した分析物の比の間に顕著な違いが存在することがあり、値を、二つの形式間で変換することができる。ステップ108は、特定の分析物の比を最終的にどのように表すかに応じた任意のステップである。標準化された比の測定の追加の情報を、2007年5月に刊行された「IDV技術」の「HbA1cを説明するために提案された変更」("Proposed changes for reporting HbA1c", IVD Technology (May 2007))及び2008年に刊行された「臨床化学」の54:6号の1098〜1099頁の「ヘモグロビンA1c測定の標準化の実現」("Implementation of Standardization of Hemoglobin A1c Measurement", Clinical Chemistry, 54:6, 1098-1099 (2008))で見つけることができ、両方の参考文献は、参照によりそのままここに組み込まれる。
【0016】
分析物の比を決定するこのような既知の方法は、多数の問題を有する。サンプル中の分析物間の相互作用により、既知の方法に誤りが生じうる。第1の分析物の反応は、第2の分析物の反応に影響を及ぼし、第2の分析物の反応を変化させることがある。例えば、免疫測定法のような一部の測定法において、第1の分析物の反応を測定するために用いられる第1の抗体は、サンプル中の第2の分析物と相互作用することもある。このような交差反応は、第2の分析物の異なる値の各々に対して第1の分析物の異なる較正曲線を必要とする。単一の平均的な較正曲線が第1の分析物に対して作り出されるが、これは、当該分析物に対して得られる反応に不正確さ(inaccuracy)が生じうる。さらに、第2の抗体がサンプル中の第1の分析物に反応することもある。このことは、問題を悪化させる。
【0017】
既知の方法の他の問題は、各分析物に対して較正曲線を作り出し及び維持する必要があることである。これは、各曲線に対する適切な較正モデル及びキャリブレータの選択を伴う。
【0018】
既知の方法の他の問題は、反応レベルで関連付けられる雑音を除去する機会が比較的少ないことである。このような除去は、濃度の比の決定中にのみ行われる。
【0019】
分析物の比を決定する提案方法は、方法の一部としてもはや個別の分析物の濃度を直接用いなくすることによって、分析物の比を決定する従来の方法を改善する。使用を更に簡便にするのに加えて、提案方法は、更に正確な分析物の比を生成する。その理由は、提案方法が本質的にはサンプル中の分析物間の相互作用からの表示に導入される相互作用を処理するからである。提案方法は、単一の校正モデルしか必要とせず、反応レベルで関連付けられる雑音を更に良好に除去することによって、追加の利点を提供することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
新しい提案方法は、分析物の比を取得するために測定方法からの反応を直接用いることによって従来技術を改善する。個別に測定された分析物の反応を濃度値に変換するための校正曲線の使用のような中間変換は、所望の比を取得するために必要とされない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
分析物の比を、校正曲線の対を用いることによって反応から決定される濃度の比を取り出すのではなく単一の校正表面(calibration surface)を用いて反応から直接決定する。校正曲線と同様に、表面に内在する校正式を、表面をグラフ化することなく用いることができる。ここで使用するように、表現「校正表面」は、表現「反応表面」(response surface)と同義である。校正表面は、所望の分析物の比を、従属y軸として有し、反応の適切な組合せを、独立x軸及びx軸として有する。x軸及びx軸に対して用いられる反応の組合せが、データに適合する簡単なモデルを提供するために最初に選択される。しかしながら、それは、二つの分析物の反応の相関誤差によって生じた最終的な分析物の比の誤差を減少することもできる。良好な適合(good fit)により不適合誤差(lack-of-fit error)を減少し、校正表面を維持するのに必要なキャリブレータの数を減少させることができる。良好な適合により校正間の時間間隔を増大することもできる。異なるタイプの校正を異なる間隔で行うことができる。例えば、特定ロット(specific lot)の試薬に対してロット特定校正(lot specific calibration)を試薬製造者によって行うことができ、それに対し、実験校正(laboratory calibration)を、患者の標本化及び管理を行う実験室によって比較的短い間隔で行うことができる。
【0022】
新たな方法は、多くの点で従来技術を改善する。新たな方法は、分析物の反応を分析物の濃度に変換する中間変換をもはや必要としない。校正曲線のような手段は、必ずしも分析物の比を算出するのに特別に適合されておらず、その結果、中間ステップとしてのそのような手段の使用は、従来既知の方法における不正確さの多くにおいて重大な要因となる。
【0023】
中間変換を除外することによって、分析物の測定に導入されるあらゆる雑音も良好に処理する。分析物の反応を、分析物の反応に共通の雑音を減少するように組み合わせることができる。反応の組合せを、変換法の回帰モデルの独立変数として役立てるために用いることができる。
【0024】
さらに、測定された分析物の反応を潜在的に妨げうるサンプル中の分析物間のあらゆる相互作用は、この方法において更に良好に説明される。このような不正確さの潜在的な原因は、回帰モデルを作り出すために用いられる既知のサンプルにも存在し、したがって、不正確さは、このモデルにおいて本質的に説明される。特定の分析物にそれぞれ適合した校正曲線の対は、これらの妨害を処理することができず、したがって、このような不正確さの原因を処理することができない。
【0025】
提案方法の他の利点は、(係数において)線形的な回帰モデルを後に説明するように一部の実施の形態で用いる場合に回帰モデルが最小二乗平均誤差を最小にする更に一般的な方法ではなく連立方程式の最小二乗平均解(least-mean-square solutions)を許容することである。これは、更に一般的な方法に関連した大域的最小点ではなく極小を見つけることの問題を回避することによって更に迅速かつロバストな計算を許容する。
【0026】
最後に、新たな方法は、従来の方法よりも簡便である。回帰モデルを作り出した後、反応に対する濃度の校正曲線のような手段を通じて中間値に変換することは必要とされていない。その理由は、新たな方法が測定プロセスを通じて取得した反応を直接用いるからである。一度回帰モデルが作り出されると処理に伴うステップ数が更に少なくなるので、所望の比を見つけるために新たな方法を実行する人にとって更に都合がよくなる。
【0027】
一実施の形態は、サンプル中の分析物の一つ以上の比を決定する方法を対象にする。方法は、先ず、二つ以上の個別の分析物の反応を取得するために、選択した測定プロセスを用いてサンプル中の二つ以上の分析物の反応を測定する。次に、一つ以上の変換法を選択する。これらの変換法は、分析物の比を、選択した測定プロセスを用いて取得した個別の分析物の反応の一次関数として規定する。最後に、サンプル中の分析物の一つ以上の比を、選択した一つ以上の変換法及び選択した測定プロセスを用いて取得した個別の分析物の反応を用いることによって算出する。
【0028】
他の実施の形態は、二つ以上の濃度比を測定する装置を対象とする。装置は、サンプル中の分析物の反応を測定することができる測定モジュールと、測定モジュールからの測定された分析物の反応を格納するメモリと、分析物の分析物比を測定モジュールから取得した分析物の個別の反応の一次関数として規定する変換法を実行する命令を有するコンピュータ読取可能コードを含むコンピュータ読取可能媒体と、変換法を用いて分析物の濃度比を計算するためにコンピュータ読取可能媒体のコンピュータ読取可能コードを実行するプロセッサと、を備える。
【0029】
他の実施の形態は、分析物の分析物値の比を測定プロセスから取得した分析物の個別の反応の一次関数として規定する変換法を計算する方法を対象とする。方法は、変換法を演算するために用いられる統計的に十分な数の適切なキャリブレータを選択し、キャリブレータは、分析物の既知の比を有し、キャリブレータの分析物の反応を測定するために用いられる測定プロセスを選択し、測定プロセスを用いてキャリブレータの分析物の反応を測定し、変換法を演算するために用いられる回帰モデルを選択し、変換法を作り出すために回帰モデルを使用し、回帰モデルは、分析物の反応を独立変数として使用し、既知の分析物比を従属変数として使用する。
【0030】
他の実施の形態は、選択した測定プロセスを用いてテストサンプル中の分析物の反応を測定するコードと、選択した測定プロセスから取得した分析物の個別の反応の一次関数として分析物の比を規定する変換法を選択するコードと、選択した変換法及びテストサンプルからの測定した分析物の反応を用いてテストサンプルの分析物の比を計算するコードと、を備えるコンピュータ読取可能媒体を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、サンプル中の二つの一般的な分析物の比を計算する既知の方法を示すフローチャートである。
【図2】図2は、サンプル中の二つの一般的な分析物の比を計算する提案方法を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本発明を実施するために用いることができるコンピュータシステムのブロック図である。
【図4】図4は、HPLC測定法によって%A1cを計算する提案方法を示すフローチャートである。
【図4a】図4aは、複数の分析物の免疫測定法によって%A1cを計算する提案方法を示すフローチャートである。
【図5】図5は、HPLC測定法によって生成されたクロマトグラムである。
【図6a】図6aは、HPLCによって取得した反応に対する校正表面法の適用の変動1の校正表面(Calibration Surface)の表示を与えるコンタープロットである。
【図6b】図6bは、図6aの校正表面のパラメータ表示である。
【図6c】図6cは、決定された%A1c値と既知の値との間の差を既知の値に対してプロットした、図6aに対応する差のプロットである。
【図7a】図7aは、HPLCによって取得した反応に対する校正表面法の適用の変動2の校正表面の表示を与えるコンタープロットである。
【図7b】図7bは、図7aの校正表面のパラメータ表示である。パラメータ値から独立した結果、単一のラインとなる。
【図7c】図7cは、決定された%A1c値と既知の値との間の差を既知の値に対してプロットした、図7aに対応する差のプロットである。
【図8a】図8aは、HPLCによって取得した反応に対する校正表面法の適用の変動3の校正表面の表示を与えるコンタープロットである。
【図8b】図8bは、図8aの校正表面のパラメータ表示である。
【図8c】図8cは、決定された%A1c値と既知の値との間の差を既知の値に対してプロットした、図8aに対応する差のプロットである。
【図9a】図9aは、HPLCによって取得した反応に対する校正表面法の適用の変動4の校正表面の表示を与えるコンタープロットである。
【図9b】図9bは、図9aの校正表面のパラメータ表示である。
【図9c】図9cは、決定された%A1c値と既知の値との間の差を既知の値に対してプロットした、図9aに対応する差のプロットである。
【図10a】図10aは、複数の分析物の免疫測定法によって取得した反応に対する校正表面法の適用の変動5の校正表面の表示を与えるコンタープロットである。
【図10b】図10bは、図10aの校正表面のパラメータ表示である。
【図10c】図10cは、決定された%A1c値と既知の値との間の差を既知の値に対してプロットした、図10aに対応する差のプロットである。
【図11a】図11aは、複数の分析物の免疫測定法によって取得した反応に対する校正表面法の適用の変動6の校正表面の表示を与えるコンタープロットである。
【図11b】図11bは、図11aの校正表面のパラメータ表示である。
【図11c】図11cは、決定された%A1c値と既知の値との間の差を既知の値に対してプロットした、図11aに対応する差のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
多様な分析物を対象とした多様な実施の形態で実現することができる分析物の比を計算する改善方法を、種々の実施の形態に従ってここに開示する。特に、異なる実施の形態に対するあり得る分析物は、タンパク質、ペプチド、炭水化物、小分子、核酸、又は計算し及び比として表現することができるその他の物質を含むことができる。
【0033】
2.提案方法の一般的な説明
【0034】
図2は、一実施の形態による二つの分析物の濃度比の計算を伴う一般的なステップを示す。この説明から明らかなように、プロセス中に異なる変換法を作り出し及び用いることによって、他のタイプの分析物比を生成するためにこの提案方法の他の実施の形態を容易に変更することができる。
【0035】
ステップ201〜204は、図1に示したステップ101〜104とほぼ同一である。ステップ201において、患者標本を取得する。ステップ202において、この患者標本を予処理又はテストサンプルに変換する。ステップ203及び204は、共に測定プロセスを備える。サンプルは、ステップ203において表示のために処理され、サンプル中の各分析物に対する反応を生成するステップ204において表示される。既知の方法に関連して説明したように、上記ステップの一部を、標本の性質及び分析物の反応を測定するために用いられる測定法に応じて任意にすることができる。
【0036】
図2のステップ203及び204において、サンプル中の分析物の反応を測定するために、選択した測定法を用いる。このステップで測定法を選択するための考察は、ステップ103及び104における考察と同様である。ステップ204における分析物の反応の表示を、サンプル中の結合又は非結合抗体に関連した蛍光タグから発する蛍光の定量化のような種々の技術によって行うことができる。選択した測定法から結果的に得られる反応は、図2の分析物反応1及び分析物反応2としてリストされる。
【0037】
ステップ205において、分析物の比を計算する既知の方法と提案方法との差が明らかになる。図2に示す実施の形態において、このステップは、測定した分析物の反応を所望の分析物の比に直接変換する変換法を用いる。図2で概説したプロセスを開始する前に変換法が作り出される。変換法を、後に更に説明するように一連のステップから構成することができる。複数の分析物の比を取得するために、複数の変換法を、測定された分析物の反応において用いることができる。分析物の反応を所望の分析物の比に変換するための変換を用いた後、プロセスが完了する。
【0038】
図2の実施の形態の変換法を、分析物の反応を分析物の比に変換する任意の数学的関係とすることができる。提案方法の一実施の形態において、変換法は2ステップからなる。第1のステップは、二つ以上の回帰変数(regression variables)を取得するために分析物の反応を組み合わせ又は変換する。第2のステップは、所望の分析物の比を取得するために回帰モデルの回帰変数を用いる。回帰モデルを、多重線形回帰モデルとすることができる。回帰モデルは、更に複雑な回帰モデルを用いることもできる。
【0039】
第1のステップは、二つ以上の回帰変数を取得するために、表示された分析物の反応を機能的に組み合わせる。例えば、一実施の形態において、第1の回帰変数を、二つの分析物の反応の比に設定し、第2の回帰変数を、それ自体独立した(standing on its own)分析物の反応の一つに設定することができる。他の多くのあり得る変換が可能であり、他の変換の例を、この開示で後に更に詳細に与える。
【0040】
変換法の本実施の形態の第2のステップは、所望の比を二つの回帰変数の関数として見つけるために回帰モデルを用いる。回帰の独立変数を、所望の分析物の比とする。この分析物の比を、濃度比又は濃度比に数学的に関連した比とすることができるが、そうである必要はない。変換及び回帰モデルを作り出す必要があり、これらの係数の値は、未知のサンプルの分析物の比を決定するのに用いられる前に決定される。
【0041】
この変換は、所望の分析物の比を決定するために回帰モデルとともに用いられる。この変換は、図1のステップ108を組み組むことができ、したがって、図1の示すような濃度の比を計算する必要を回避する。変換の目的の一つは、データに十分適合する必要のある回帰項の数を減少することである。一部の実施の形態において、定数項、線形項及び必要な場合の線形項の積しか必要としない。一実施の形態において、変換係数と回帰係数の組合せは、係数値の決定を分離する時間間隔によって規定される複数のレベルにグループ分けされる。例えば、3レベルのグループ化は、以下の3レベルからなることができる:1)間隔がユーザ校正スケジュールによって決定され、2)間隔が試薬製造者による新たな試薬ロットのリリースによって規定され、3)間隔が方法又はモデルの変更によって決定される。
【0042】
HbA1cの実施の形態に対する変換及び回帰モデルを一緒に作り出す一方法の一実施の形態の概要を、以下説明する。
【0043】
1.HbA1c値の臨床範囲及び方法によって適合される全Hb濃度の範囲をカバーするサンプルセットを生成。サンプルセットを、範囲をカバーする等しく間隔を開けた値のグリッドとする。そのようなグリッドを、低い値及び高い値で開始するとともに希釈のセットを実行することによって取得することができる。変換及び回帰モデルが複雑でない場合には5×5グリッドが適切であり、それに対し、変数及び回帰モデルが複雑である場合には9×9グリッドが適切である。所望の濃度範囲をカバーするサンプルが利用できない場合、このステップで概説したような一連の希釈を用いる必要がない。
【0044】
2.3組の(in triplicate)サンプルを処理(run)する。反応の全ては、ここでは自動校正と称されるプロセスにおけるキャリブレータ及び未知なもの(unknowns)の両方として用いられる。
【0045】
3.不適合許容基準(Lack-of-Fit acceptance criteria)を満足し、変換係数を最適化し、かつ、回帰モデル係数値を決定すると予測することができる最少の数の項を含む変換及び回帰モデルを用いた開始。
【0046】
4.不適合許容基準を満足するまで変換又は回帰モデルに項を系統的に追加する。
【0047】
このHbA1cの実施の形態の更なる詳細は、この開示において後に含まれる。
【0048】
図3は、本発明に一実施の形態を実施するために用いることができるコンピュータシステム300のブロック図である。コンピュータシステム300は、複数の入力モジュールを有する。分析物測定モジュール301は、テストサンプル中の分析物の反応を測定するために用いられる。このモジュールは、分析の反応を測定するために選択された測定法に応じて本発明の異なる実施の形態間で変更される。標準的なキーボード302及びマウス303も示す。コンピュータシステム300は、コンピュータ内に種々の典型的なコンピュータ部品を有する。これらの部品は、システムバス304、一つ以上のディスクドライバ305、RAM306及びプロセッサ307を有する。実施の形態の正確な性質に応じて他の部品が存在してもよい。図3は、システムのユーザに情報を表示することができるモニタ308も示す。
【0049】
本発明の実施の形態において、ステップ202の場合ように作成された予処理サンプルが分析物測定モジュール301に配置され、この場合、サンプルが更に処理され、サンプル中の分析物の反応が測定される。その後、この情報は、システムバス304に沿ってコンピュータシステムに転送され、プロセッサ307を用いることによって、適切な変換法が分析物反応データに適用される。変換法を実現するためにプロセッサ307が実行する命令は、RAM306やディスクドライブ305のようなコンピュータ読取可能媒体に格納される。変換法をこの同一媒体に格納することもできる。結果的に得られる比をモニタ308に表示することができる。本発明の他の実施の形態は、他の通信手段を用いて分析物の比を出力することができる。例えば、コンピュータシステムは、測定された比を、プリンタを用いて印刷し、又は、測定された比をネットワーク上の他のコンピュータに送信することができる。
【0050】
ヘモグロビンの実施の形態
【0051】
提案方法の一実施の形態として、HbA1cの測定に着目する。HbA1cは、糖尿病患者において最も一般的に測定される一つの特定タイプのグリコシル化ヘモグロビンである。人間の赤血球は、ブドウ糖が自由に通過するのを許容し、グリコシル化ヘモグロビンHbA1cは、ブドウ糖を添付することによってヘモグロビン分子のβ鎖N末端バリンを形成したヘモグロビン成分を参照する。非糖尿病患者において、90%を超えるトータルヘモグロビンはグリコシル化していない。HbA1cそれ自体は、典型的には約4〜7%のトータルヘモグロビンを構成する。糖尿病患者において、HbA1cの濃度の割合は、血糖値を良好に制御できない患者中のトータルヘモグロビンの20%を超える。
【0052】
グリコシル化ヘモグロビンは、血液中の環境ブドウ糖濃度(ambient glucose concentration)に正比例する割合で形成される。ブドウ糖とヘモグロビンとの間の反応は、最終的には不可逆かつ低速である。その結果、人間の赤血球の120日の生存期間中にトータルヘモグロビンのごく一部しか糖化されない。この結果、血液中のグリコシル化ヘモグロビンの濃度は、長期間血糖値をモニタするために用いることができる血糖値の重み付けされた移動平均を提供する。2〜3ヶ月の期間をカバーするこの移動平均は、糖尿病患者の血糖管理を評価することができる。トータルヘモグロビンに対するHbA1cの比は、糖尿病を患った患者の健康状態を測定する共通方法となる。
【0053】
HbA1cレベルを、多数の方法で表現することができ、そのように行うために許容される方法の一つは、トータルヘモグロビンの割合(%HbA1c)として全米グリコヘモグロビン標準化プログラム(NGSP)単位でHbA1cを表現することである。他の許容される方法は、mmol HbA1c/mol トータルHbの国際臨床化学連合(IFCC)単位でHbA1cを表現することである。これらの単位における10倍の差の因子に加えて、二つの規格で用いられる異なる基準方法による違いもある。HbS,HbC,HbE,HbA2及びHbFのような他のヘモグロビン変異タンパク質(hemoglobin variant protein)を、トータルヘモグロビンの割合として表現することもできる。
【0054】
HbA1cを測定するHPLC法
【0055】
提案方法の一実施の形態は、HbA1cを測定するHPLC法を用いる。
【0056】
図4は、一実施の形態によりHbA1cを測定するHPLC法によるトータルヘモグロビンに対するHbA1cの比の計算を伴うステップを示す。
【0057】
ステップ401〜404は、図1に示すステップ101〜104及び図2のステップ201〜204とほぼ同一である。ステップ401において、患者検体を取得する。ステップ402において、この患者検体は予処理サンプルに変換され、この予処理サンプルを、時系列のピークとしてクロマトグラフィーカラムから溶出した成分に分けるために、HPLCが用いられる。ステップ404において、成分は吸光度検出器のフローセルを順次通過し、吸光度検出器は、溶出の濃度を、クロマトグラムとして視覚化することができる吸光度値に変換する。クロマトグラムのピークは、予処理サンプルの個別の成分に対応する。その後、ピークのエリアを決定する。ヘモグロビンのグリコシル化成分(glycosylated component)HbGrに対する反応は、単一ピークのエリアとして決定され、それに対し、全成分HbTrに対する反応は、選択したピークのエリアの和である。
【0058】
表1は、準備した5×5×3サンプルセットからの反応データの表である。最初の二つの列は、mAU−秒におけるHbGrの反応及びHbTrの反応を含み、三番目の列は、5×5×3サンプルグリッドの配置に従ってサンプルを識別するために三つの数字の組合せを用いる。IDの一番目の数字は、%A1cレベルに対応し、IDの二番目の数字は、HbTc(トータルヘモグロビン濃度)レベルに対応し、IDの三番目の数字は、反復数である。レベル11は、%A1c=5.365%お呼びHbTc=0.42gm/Lに対応する。レベル55は、%Alc=17.420%及びHbTc=2.1gm/Lに対応する。残りのレベルは、レベル11とレベル55との間の値で等間隔に配置されている。このサンプルセットに対して、希釈は、処理ステップではなく予処理ステップ中に行われる。
【表1】

【0059】
図5は、この分離を示すクロマトグラムである。それは、ID=24.3として表1の三番目の列にラベルを付したサンプルに対応する。列1のHbGr値は、mAU−秒の単位で表現される、504を付したピークのエリアに対応する。そのピークは、第2のピークであり、単一のピークの頂点によって識別される二つの重なり合ったピークのうちの大きいほうである。対となる小さい方のピークは、非常に小さいので識別することができない。列2のHbTr値は、mAU−秒の単位で表現される、501,502,504及び505を付したピークのエリアの和に対応する。これらは、ヘモグロビンの全てのA(大人)成分である。ピーク503は、F(胎児)成分として識別され、従って和に含まれない。
【0060】
四つの異なる実施の形態を表す四つの変形例を、以下説明する。各変形例は、モデル及び変換によって規定される。各変形例は、モデル及び変換において表1のHPLCデータを用いることによって構成される。モデルの式は、形態
【数1】

を有する。この場合、x及びxは、分析物の反応に関連して規定される変換された変数である。この式は、多項回帰を表し、この場合、変数は、整数の乗数(integer powers)となる分析物の反応の積である。
【0061】
(zで表される)HbGr及び(zで表される)HbTrは、変換
【数2】

を用いて変換される。
【0062】
これらの式は、校正表面を規定する。これらの式に対する係数は、サンプルを用いて決定され、この場合、yの値は既知である。反応z及びzは、測定によって決定される。一度係数が決定されると、未知のサンプルに対するyの値を決定するために、測定された反応を用いることができる。ヘモグロビン法におけるHbA1cの測定に対して、yは、%A1cと通常称される%HbA1cに対応する。
【0063】
これらの変形例を説明するために用いられる計算は、MATLAB
【数3】

で開発されたスクリプトを用いて行われる。他のアプリケーションをこのモデリングに用いることもできる。したがって、これらの変形例で用いられる特定のモデル及び変換は、行列を表すMATLABフォーマットに基づいた表記で表現される。モデルに対して、含まれる用語は、モデルに対する式の添字に対応する整数の対によって指定される。対の要素はコンマによって分離される。異なる対はセミコロンによって分離される。ペアのセットを識別するために角括弧が用いられる。変換に対して、標準的なMATLAB行列の表記は、行列Aによって指定された第1の変換及び行列Bによって指定された第2の変換が用いられる。
【0064】
例えば、A=[5,5,1;1,−5,3]は、a11=5,a12=5,a13=1,a21=1,a22=−5及びa23=3に対応する。モデル項は、モデルの所定の項に対するx又はxの乗数に対応する。例えば、モデル=[0,0;1,0;0,1;1,1;1,2;1,3]は、モデル:y=β00+β10+β01+β11+β12+β13に対応する。Bの項は、同様に生じる。
【0065】
モデル係数の値を決定するに際し、変換されたデータは、丸め誤差を防止するためにスケール化(scaled)される。スケール化された係数値は、これらがモデル中に出現するのと同一のオーダーで存在する。スケール化は、HbGrデータをスケールAで除算するとともにHbTrデータをスケールBで除算することによって行われる。スケール化された値は、係数値とともに存在する。
【0066】
全ての変形例において、自動校正と称されるプロセスが用いられる。データ行列中の75サンプルの全ては、キャリブレータとして用いられ、未知のものとして用いられる。このように決定された誤差は、実行誤差(run error)内にある。「分散成分分析」(Analysis of the Components of Variance)と称される標準的な技術を用いることによって、実行誤差内の誤差は、分散として表現され、成分に分割される。関心のある二つの成分は、(純粋誤差(pure error)とも称される)反復誤差(replicate error)及び不適合(LOF)誤差(lack-of-fit error)である。反復誤差は、データの品質のインジケータであり、不適合誤差は、データ及びモデルを変換データにするのに用いられる変換及びモデルの品質のインジケータである。不適合誤差の二つの成分がある。高レベル成分は、モデルが%A1cの異なる値に良好に適合する方法に関連し、低レベル成分は、モデルが%A1cの個別の値に対してトータルヘモグロビン濃度HbTcの異なる値に良好に適合する方法に関連する。
【0067】
変形例1:変数の変換を伴わないxの線形性
【0068】
スケールA=300及びスケールB=2500に対して、
A=[1,0,0;0,0,0] B=[1,0,0;0,0,0]
モデル=[0,0;1,0;0,1;1,1;1,2;1,3]
係数=[1.6899;84.6864;−0.4049;−154.6571;110.0661;−27.0000]
【0069】
図6aは、結果的に得られる校正表面のコンタープロットである。コンタープロットの曲線(contours)は、曲線ラベル(contour label)で示した%A1cの定数値を表す。“+”の記号は、x及びxのデータ値である。
【0070】
図6bは、結果的に得られる校正表面のパラメトリックプロットである。パラメトリックプロットの異なるラインは、コンタープロットにおいて等間隔に配置した水平線に対応するxの定数値に対応する。プロットを有する説明文(legend)は、これらxの値を示す。上から下まで、説明文の値は、ラインと同一のオーダーである。
【0071】
図6cは、決定された値と既知の値との間の差を既知の値に対してプロットした差のプロットである。既知の値は、データセットを準備するために用いられる希釈の順序から決定される。絶対値が正確でない間、相対値の不正確さは、希釈の不正確さによってのみ決定される。2本の水平方向の破線は、平均からの1.96の標準偏差である。表2でバイアスと称するこの平均は、0と僅かに異なる。
【0072】
変形例2:変数の変換を伴うxの線形性及びxの非依存性
【0073】
スケールA=1及びスケールB=1に対して、
A=[1,0,5;1.2,−42,0] B=[1.2,−42,0;0,0,0]
モデル=[0,0;1,0]
係数=[1.574;553.816]
【0074】
図7aは、コンタープロットであり、図7bは、結果的に得られる校正表面のパラメトリックプロットである。反応がx1において線形であり、x2に依存しないので、このパラメトリックプロットは、単一の直線を減少させる。図7cは、図6cで説明したような差のプロットである。
【0075】
変形例3:変数の変換を伴うx1の線形性及びx2の線形性
【0076】
スケールA=1及びスケールB=2500に対して、
A=[1,0,0;1,0,0] B=[1,0,2500;0,0,0]
モデル=[0,0;1,0;0,1:1,1]
係数=[1.2382;116.3012;0.1061;−19.7321]
【0077】
図8aは、コンタープロットであり、図8bは、結果的に得られる校正表面のパラメトリックプロットである。モデルはxにおいて線形的であるので、xの異なる値に対応する図8bのラインは直線である。上から下まで、図8bの説明文の値は、ラインと同一のオーダーである。xが線形的である結果、同一の値のxに対してライン間のスペースが等しくなる。交差項x,xにより、ラインは、xが減少するに従って収束することができる。図8cは、図6cで説明したような差のプロットである。
【0078】
変形例3において、A及びBの値の結果、x=HbGr/HbTr及びx=HbTr−2500となる。第1の変換は、反応の比としてxを規定し、第2の変換は、HbTrの値の予測される範囲の中央にx=0を置く。この後者の変換は、単なる便宜のためである。
【0079】
変形例3は、モデル係数を異なる時間間隔で決定される係数に分割できる方法を示す。行列A及びBで表される変換係数を、方法の進展中に設定することができ、その後に変化させる必要はない。四つのモデルパラメータを、試薬製造者により異なるロットの試薬に対して校正することができる。最初の二つの係数を、二つのキャリブレータのみを用いて短期間で製造所によって校正することができる。キャリブレータは、好適には、2500のミッドレンジ値付近でHbTr反応を有する。しかしながら、当該値からの任意の差を、x=0に対応するHbTr=2500に対応した値にキャリブレータのラベル値を適合させるために現在の係数値を用いることによって適合させることができる。
【0080】
以下の式はこの技術を示す。
モデルの第1の式を、
【数4】

と書き直すことができ、この場合、Kは、校正(係数の決定)に対する%A1cの既知の値であり、(1)に既知の係数が適用されたときの%A1cの決定された値である。また、
【数5】

である。校正中、既知の値は、(1)から取得される式により、x=0に対して既知の値が有する値に調整される。
【数6】

この場合、
【数7】

及び
【数8】

は、非プライム値(unprimed value)が決定されたときからのシステムの変化のためにx及びxとは異なる新たに変換された反応である。二つ(以上の)Kの既知の値を用いることによって、(3)がKに対して解かれる。これらのKの値は、新たなβ00及びβ10が決定される連立方程式を作るために(2)に代入される。これらの新しい値を区別するためにプライム記号を用いることによって、(2)を
【数9】

と書くことができる。(2)及び(4)の右辺を等しくすることによって、x
【数10】

との間に線形的な関係を与える。
【数11】

式(5)は、プライムパラメータ(primed parameter)が決定されたときの現在の条件及び非プライムパラメータ(unprimed parameter)が決定されたときの元の条件の下で同一サンプルが測定された場合のx
【数12】

との間の実際の関係に対する線形的な推定である。%A1cを決定するための更新された式は、
【数13】

となり、この場合、xは、(5)により
【数14】

から決定される。x
【数15】

との間の関係が良好でないことが知られている場合、これらの二つを、(6)での使用の際に同等にすることができる。
【数16】

の元の電流値と現在の電流値との間に線形的な関係が存在するように変化するとともにxの元の電流値と現在の電流値との間に変化がない条件に対して、(5),(6)及び(7)は変化を正確に反映する。実際には、線形的な関係が持続し、xを含む(6)の項は、小さい補正率を表す。したがって、%A1cの変化は、xの大きさが小さいときには特にxの小さい変化を感知しない。当業者に対して、この説明に対する種々の改善を行うことができる。例えば、繰返しを行うことができる。一度新たなプライム係数が決定されると、新たなプライム係数は、非プライム係数に対して(3)に代入され、結果を改善するために残りのステップを繰り返す。
【0081】
変形例4:変数の変換を伴うxの線形性及び2次のxの依存性
【0082】
スケールA=1及びスケールB=2500に対して、
A=[1,0,0;1,0,0] B=[1,0,2500;0,0,0]
モデル=[0,0;1,0;0,1;1,1;1,2]
係数=[1.2400;114.6677;0.2489;−21.4608;7.6198]
【0083】
図9aは、コンタープロットであり、図9bは、結果的に得られる校正表面のパラメトリックプロットである。x項の追加により、図9bの直線の間隔を、x値の異なる対に対して異なるものとすることができる。上から下まで、図9bの説明文の値は、ラインと同一のオーダーである。図9cは、図6cで説明したような差のプロットである。図8と、モデルを更に複雑にした図9cとの比較から明らかなように、モデルの追加の項により不適合(LOF)誤差が減少する。xを含まない項が二つしか存在しないので、短期間の校正を行うために二つのキャリブレータしか必要としない。しかしながら、更に複雑にしたことによって、モデルの長期間の安定性が落ちるおそれがある。変形例3に対して与えられる形態に従う実例を、この変形例として与えることもできる。
【0084】
分散成分の分析
【0085】
表2は、前節で示した四つの変形例に対する分散成分の編集である。表中、LOFは不適合度の略記であり、反復は、反復反応の差から決定される分散成分である。それは、純粋誤差(Pure Error)とも称される。
【表2】

【0086】
変形例1は、他の三つの変形例より大きい反復誤差を有する。変形例3及び4は、両方の反応に共通の誤差の大部分を取り除く変形例1に対する反応の比を用いる。この共通の誤差は、反復に対して用いられるサンプルサイズの差に起因する。%A1cの異なる値に対する不適合分散は負であり、したがって、無視しうるものとして報告される。トータルヘモグロビン濃度HbTcの異なる値に対する不適合誤差は、最も重要な要因である。変形例1は、複雑であるだけでなく、この誤差に対して最も大きな値を有する。変形例3は、著しく小さい誤差を有し、変形例3が単純であるために、変形例3は、更に複雑な変形例4及び2よりも好ましい。
【0087】
全ての変形例のバイアスは、10−12未満であり、したがって、重要でないものとして報告される。この小さい値は、キャリブレータ及び患者標本と同一のサンプルが用いられる自動校正に固有のものである。この小さい値のために、全体的に補正された分散に対する全体的に補正されていない分散の比は、全部で75サンプルが存在するので単純に関連の自由度の比の逆である74/75となる。
【0088】
これら四つの変形例を説明のために示した。このHPLCデータセット及び/又は異なるHPLCデータセットに対しては、他の変形例が更に適切になりうる。
【0089】
HbA1cの測定のための複数の分析物の免疫測定法
【0090】
提案方法の他の実施の形態は、HbA1cの測定のための複数の分析物の免疫測定法を用いる。
【0091】
図4aは、HbA1cを測定する複数の分析物の免疫測定法によるトータルヘモグロビンに対するHbA1cの比の計算を伴うステップを示す。
【0092】
ステップ404〜409は、図1に示すステップ101〜104及び図2のステップ201〜204とほぼ同一である。ステップ406において、患者検体を取得する。ステップ407において、この患者検体を、予処理又はテストサンプルに変換し、ステップ408において、標識ビーズの集団を生成するために複数の分析物の免疫測定法が用いられ、この場合、トータルヘモグロビン(HbT)ビーズとして標識付けされたビーズに対するグリコシル化ヘモグロビン(HbG)ビーズとして標識付けされたビーズの割合は、グリコシル化ヘモグロビン(HbGc)及びトータルヘモグロビン(HbTc)の濃度に関連する。これらのビーズは、HbG及びHbTに対する抗体と、HbGビーズ又はHbTビーズとして識別することができる対応する蛍光タグとを有する。これらのビーズは、定量化することができる他の個別の蛍光タグも有する。識別及び定量化のためのこれらのビーズの表示はステップ409である。この表示は、識別及び表示のために異なる色の蛍光を発するようビーズを励起する二つのレーザにビーズを通すことによって行われる。HbGビーズ及びHbTビーズとして識別されるビーズからの量子化された蛍光の量は、“HbGr=HbG抗体を有するビーズからの蛍光”及び“HbTr=HbT抗体を有するビーズからの蛍光”として示される。
【0093】
データセットを生成するために9×9×3サンプルが用いられた。最高レベルの%A1cが顕著な飽和量(amount of saturation)を示したので、それを使用しなかった。サンプルセットを8×9×3サンプルセットまで減少した。残りの最高レベルの%A1cにおける残りの飽和に加えて、このサンプルセットは、HPLCデータセットと比べて反復誤差が約2倍になった。免疫測定法に固有の非線形性に加えて、データは、対の一方に対する抗体と対の他方の濃度との間に交差反応を示す。校正表面法の用途の二つの変形例を、このデータセットに対して提供する。これらの変形例を、変形例5及び変形例6と称する。HPLCデータを提供するために用いられる同一の定義及びフォーマットを用いる。多量の未加工データのために、それを表として提供しない。しかしながら、変動成分の分析のテーブルを提供する。
【0094】
変形例5:6個の項及びx1=HbGr/HbTrを有するモデル
【0095】
スケールA=1及びスケールB=10000に対して、
A=[1,0,0;1,0,0] B=[1,0,0;0,0,0]
モデル=[0,0;1,0;2,0;0,2;2,1;1,2]
係数=[4.1202;9.5793;−1.8632;−0.5667;1.1353;−0.6738]
【0096】
図10aは、コンタープロットであり、図10bは、結果的に得られる校正表面のパラメトリックプロットである。上から下まで、図10bの説明文の値は、0.5未満のxの値に対する曲線と同一のオーダーである。図10cは、決定された値と既知の値の間の差を希釈によって決定した既知の値に対してプロットした差のプロットである。水平方向の二つの破線は、平均からの1.96の標準偏差である。
【0097】
変形例6:変換によってモデルはx及びxにおいて線形になる
【0098】
スケールA=0.003及びスケールB=10000に対して、
A=[0.75,0.36;1.5,0,−500] B=[0.93,0,0;0,0,0]
モデル=[0,0;1,0;0,1;1,1]
係数=[5.4077;0.8364;−5.4188;52.9571]
【0099】
図11aは、コンタープロットであり、図11bは、結果的に得られる校正表面のパラメトリックプロットである。上から下まで、図11bの説明文の値は、0.0003未満のxの値のラインと同一オーダーであり、0.003を超えるxの値のラインと逆のオーダーである。図11bにおいてラインの全てが交差するx1の値は、図11aの垂直コンター(vertical contour)に対応する。図11cは、決定された値と既知の値との間の差を既知の値に対してプロットした差のプロットである。
【0100】
分散成分の分析
【0101】
表3は、前節で示した二つの変形例に対する分散成分の編集である。用語の使い方は表2と同一である。
【表3】

【0102】
バイアスが無視できるので、全体的に補正された分散に対する全体的に補正されていない分散の比は、全部で72サンプルを3回反復するので単純に関連の自由度の比の逆である215/216となる。
【0103】
これら二つの変形例は、同程度の分散成分を与える。これらは、モデルの複雑さと変換の複雑さとの間で行うことができる多数のトレードオフの二つを表す。変形例6は、四つのモデル係数に加えて五つの変換係数を有しながら両方の変数の線形性を実現する。
【0104】
モデル係数と変換係数との間の最適なバランスは、校正表面が用いられる特定の用途に依存する。これらの変形例を示すために用いられる一般的な変換モデルの他の形態が有益となり得る。これらの変形例で用いられる場合よりも複雑な組合せで変数が用いられるモデルも有利となることができ、他の任意の変換を行う必要を減らすことができる。
【0105】
「一つ」又は「その」("a", "an" or "the")の記述は、特に反対であることを意図しない場合には「一つ以上」を意味する。
【0106】
この教示をこれらの典型的な実施の形態に関連して説明したが、当業者は、過度の実験を行うことなくこれらの実施の形態の幾多の変更及び変形が可能であることを容易に理解する。そのような変更及び変形の全ては、この教示の範囲内にある。上記の例は、開示した教示を更によく説明するために提供したものであり、ここに提供した教示の範囲を制限することを意図したものではない。
【0107】
特許、特許出願、論文、教科書等を含むここで引用した全ての文献及びまだそうでない程度でここに参照した文献は、参照によりそのままここに組み込まれる。規定された用語、用語の使用、記載された技術等を含むがこれに限定されない組み込まれた文献又は同様な資料の一つ以上が本願と異なり又は矛盾する場合、本願を優先する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の分析物の一つ以上の比を決定する方法であって、
二つ以上の個別の分析物の反応を取得するために選択した測定プロセスを用いてサンプル中の二つ以上の分析物の反応を測定し、
前記選択した測定プロセスを用いて取得した前記個別の分析物の反応の一次関数として分析物の比を規定する一つ以上の変換法を選択し、
選択した前記一つ以上の変換法と、前記選択した測定プロセスを用いて取得した前記個別の分析物の反応とを用いることによって、前記サンプル中の分析物の一つ以上の比を算出することを特徴とする方法。
【請求項2】
算出された分析物の比の一つは、前記サンプル中の二つの分析物の濃度の比に関連する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
関係は、ある分析物の濃度を他の分析物の濃度で除算したものである請求項3に記載の方法。
【請求項4】
前記変換法は、前記変換法の一部として回帰を用いた前記分析物の比に対する前記個別の分析物の反応に関連する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記回帰は、変数が整数の乗数となる分析物の反応の積である多項回帰である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記変換法で用いられる前記個別の分析物の反応は、前記変換法の一部として変換が行われる請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記変換によって、回帰モデルで用いられる回帰項の数を減少させる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記変換によって、長い実験校正間隔(longer laboratory calibration interval)を容易にする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記変換によって、実験校正(laboratory calibration)に必要な校正数を減少させる請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記変換は、前記個別の分析物の反応の二つを算術的に組み合わせる請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記変換は、
【数1】

として規定され、この場合、z及びzは、測定された分析物の反応であり、x及びxは、変換された反応であり、a11,a12,a13,a21,a22及びa23は、校正することができる係数である請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記変換は、規則的なユーザ校正スケジュールで決定されない一つ以上の係数を用いる請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記変換は、ユーザロットスケジュールで決定される一つ以上の係数を用いる請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記選択した測定プロセスはHPLCである請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記選択した測定プロセスは免疫測定法である請求項6に記載の方法。
【請求項16】
前記選択した測定法は、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、分光法、クロマトグラフィー、表面プラズモン共鳴のうちの一つである請求項6に記載の方法。
【請求項17】
前記分析物の一つ以上は、タンパク質、炭水化物又は核酸である請求項6に記載の方法。
【請求項18】
前記分析物は、糖タンパク質である請求項6に記載の方法。
【請求項19】
前記分析物の一つは、ヘモグロビンA1cである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
分析物の比として表現される二つの分析物が存在し、前記二つの分析物は、ヘモグロビンのグリコシル化形態及びトータルヘモグロビンである請求項6に記載の方法。
【請求項21】
二つ以上の分析物の濃度比を測定する装置であって、
サンプル中の分析物の反応を測定することができる測定モジュールと、
前記測定モジュールからの測定された分析物の反応を格納するメモリと、
前記測定モジュールから取得した分析物の個別の反応の一次関数として分析物の分析物比を規定する変換方法を実行する命令を有するコンピュータ読取可能コードを含むコンピュータ読取可能媒体と、
前記変換法を用いて前記分析物の濃度比を計算するために前記コンピュータ読取可能媒体の前記コンピュータ読取可能コードを実行するプロセッサと、
を備える装置。
【請求項22】
前記測定モジュールは、前記分析物の反応を測定するために多重(multiplex)免疫測定法を用いる請求項21に記載の装置。
【請求項23】
測定プロセスから取得した分析物の個別の反応の一次関数として分析物の分析物値の比を規定する変換法を算出する方法であって、
前記変換法を算出するために用いられる統計的に十分な数の適切なキャリブレータを選択し、前記キャリブレータは、前記分析物の既知の比を有し、
前記キャリブレータの分析物の反応を測定するために用いられる測定プロセスを選択し、
前記測定プロセスを用いて前記キャリブレータの分析物の反応を測定し、
前記変換法を算出するために用いられる回帰モデルを選択し、
前記変換法を作り出すために回帰モデルを使用し、前記回帰モデルは、独立変数としての前記分析物の反応及び従属変数としての前記分析物の既知の比を使用することを特徴とする方法。
【請求項24】
二つの分析物の反応を、所望の分析物比の純分散(pure variance)及び不適合分散(lack-of-fit variance)を最もよく減少させるように前記回帰モデルの二つの独立変数に変換する請求項23に記載の方法。
【請求項25】
選択した測定プロセスを用いてサンプル中の分析物の反応を測定するコードと、
前記選択した測定プロセスから取得した分析物の個別の反応の一次関数として分析物の比を規定する変換法を選択するコードと、
前記選択した変換法及び前記サンプルからの測定分析物反応を用いて前記サンプルの分析物の比を算出するコードと、
を備えることを特徴とするコンピュータ読取可能媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図4a】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【公表番号】特表2012−500401(P2012−500401A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523882(P2011−523882)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/053746
【国際公開番号】WO2010/021914
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(591099809)バイオ−ラッド ラボラトリーズ,インコーポレイティド (79)
【Fターム(参考)】