説明

分解ガスセンサ

【課題】測定対象の電圧の発生のための専用の電源を不要にする。
【解決手段】絶縁ガス1が封入されている接地容器2内に収容された導体3と電極4とで形成され、絶縁ガス1を誘電体とする第1のコンデンサ5と、電極4とグランド6との間に設けられ、2枚の電極7,8間に分解ガスを吸着する吸着剤15を誘電体として介在させた第2のコンデンサ9と、第1のコンデンサ5と第2のコンデンサ9との間に設けられた電圧測定部10とを備えている。電圧測定部10の電圧Vdは導体3の電圧の分圧として測定されるものであり、電圧Vdを発生させるために専用の電源を必要としない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解ガスセンサに関する。更に詳述すると、本発明は、ガス絶縁電力機器に設けられ、接地容器内に封入されている絶縁ガスの分解ガスを検出する分解ガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁電力機器の接地容器内に充填された絶縁ガスの分解ガスを検出するセンサとして、例えば特開昭60−14152号公報に開示された分解生成物検知装置101がある。この分解生成物検知装置101を図4及び図5に示す。分解生成物検知装置101は分解ガスを吸着除去する吸着剤102を利用して分解ガスを検出するものであり、一対の電極103,103間に吸着剤102を充填すると共に、各電極103,103を誘電特性測定部104に接続し、誘電特性の変化から分解ガスの発生を検出するものである。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−14152号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の分解生成物検知装置101では、誘電特性を測定するためには各電極103,103間に電圧を印加しなければならず、そのための電源が必要になる。
【0005】
本発明は、測定対象となる電圧を発生させるために専用の電源を必要としない分解ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の分解ガスセンサは、絶縁ガスが封入されている接地容器内に収容された導体と電極とで形成され、絶縁ガスを誘電体とする第1のコンデンサと、電極とグランドとの間に設けられ、2枚の電極間に分解ガスを吸着する吸着剤を誘電体として介在させた第2のコンデンサと、第1のコンデンサと第2のコンデンサとの間に設けられた電圧測定部とを備えるものである。
【0007】
接地容器内での絶縁破壊の発生等により絶縁ガスが分解されて分解ガスが発生すると、第2のコンデンサの誘電体である吸着剤が分解ガスを吸着し保持するので、この誘電体の誘電率が変化し、第2のコンデンサの静電容量が変化する。一方、分解ガスの発生量は接地容器内の絶縁ガスの封入量に比べてごく少量であり、また、発生した分解ガスは吸着剤に吸着されて除去されるので、分解ガスが発生しても第1のコンデンサの誘電体(絶縁ガス又は絶縁ガス+分解ガス)の誘電率は変化しない又は変化したとしても極僅かである。そのため、第1のコンデンサの静電容量は変化しない又は変化しないとみなすことができる。
【0008】
電圧測定部の電圧Vdは導体に印加されている電圧の分圧として測定されるものであり、導体の電圧をV、第1のコンデンサの静電容量をC1、第2のコンデンサの静電容量をC2とすると、数式1によって求められる。
【0009】
〈数1〉
Vd=(C1/(C1+C2))V
【0010】
したがって、分解ガスの発生によって、第2のコンデンサの静電容量C2が変化し、第1のコンデンサの静電容量C1が一定であると、電圧測定部の電圧Vdが変化するので、電圧Vdの変化に基づいて分解ガスの発生を検出することができる。
【0011】
また、請求項2記載の分解ガスセンサは、第2のコンデンサが、接地容器の外に設けられた部屋に収容されており、部屋に接地容器内の分解ガスを導く流路を備えるものである。したがって、接地容器内で発生した分解ガスは、流路を通って第2のコンデンサが収容されている部屋に導かれ、第2のコンデンサの誘電体である吸着剤によって吸着され除去される。これにより、第2のコンデンサの静電容量が変化し、電圧測定部の電圧Vdが変化する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の分解ガスセンサでは、分解ガスの発生により電圧測定部の電圧Vdが変化するので、電圧Vdの変化に基づいて分解ガスの発生を検出することができる。第1及び第2のコンデンサは導体とグランドとの間に直列に設けられており、電圧測定部は2つのコンデンサの間に設けられている。即ち、電圧Vdは導体の電圧の分圧として測定されるものであり、電圧Vdを発生させるために専用の電源を必要としない。このため、測定対象の電圧Vdを発生させるための専用の電源を不要にすることができる。
【0013】
また、請求項2記載の分解ガスセンサでは、第2のコンデンサを接地容器の外に設けることができるので、内部の清浄性と気密性が高度に要求される接地容器を開けずに吸着剤の交換等を行うことができ、接地容器の清浄性及び気密性の維持と第2のコンデンサのメンテナンスの容易性をともに高レベルで両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1に、本発明の分解ガスセンサの実施形態の一例を示す。分解ガスセンサは、絶縁ガス1が封入されている接地容器2内に収容された導体3と電極4とで形成され、絶縁ガス1を誘電体とする第1のコンデンサ5と、電極4とグランド6との間に設けられ、2枚の電極7,8間に分解ガスを吸着する吸着剤15を誘電体として介在させた第2のコンデンサ9と、第1のコンデンサ5と第2のコンデンサ9との間に設けられた電圧測定部10とを備えるものである。なお、図1において配線図的に表した仮想的な第1のコンデンサ5を2点鎖線で示している。
【0016】
分解ガスセンサは、ガス絶縁電力機器11に設置され、接地容器2内に封入された絶縁ガス1の分解ガスを検出するものである。ガス絶縁電力機器11は、例えばガス絶縁開閉装置(GIS:Gas-Insulated Switchgear)、ガス絶縁送電線路(GIL:Gas-Insulated Line)等のガス絶縁電力機器である。ただし、これらに限るものではない。本実施形態では、GISを例に説明する。
【0017】
接地容器2は例えばGISの接地タンクであり、その内部には絶縁ガス1が封入されている。絶縁ガス1としては、例えばSFガス、Nガス、COガス等の使用が可能である。ただし、これらに限るものではなく、その他の絶縁ガス1の使用も可能である。絶縁ガス1が例えばSFガスである場合、分解ガスとして例えばHF,SF,SOF,SO等が発生する。分解ガスを吸着し保持する吸着剤15としては、コンデンサの誘電体として使用可能な絶縁材料で形成され、且つ分解ガスの吸着によって誘電率が変化するもの、例えば合成ゼオライト(例えば、商品名ゼオラム;東ソー株式会社製)等の使用が可能である。ただし、吸着剤15はこれに限るものではなく、分解ガスを吸着し保持することができ、且つコンデンサの誘電体として使用可能で分解ガスの吸着によって誘電率が変化するものであれば特に制限されない。導体3は例えばGISの中心導体であり、例えば66〜500kV級の高電圧が印加されている。ただし、導体3に印加されている電圧の大きさはこれに限るものではない。
【0018】
第1のコンデンサ5と第2のコンデンサ9は、導体3とグランド6との間に直列に設けられている。導体3に近い側の第1のコンデンサ5は、導体3と導体3から距離をあけて設けられた電極4とで形成されている。電極4は例えば平板電極であり、接地容器2に形成された凹部2aに設けられ、接地容器2と面一になっている。電極4を接地容器2と面一にすることで、この部分が絶縁破壊の起点になるのを防止している。電極4は接地容器2に対して絶縁されている。なお、電極4は平板電極に限るものではなく、導体3とで絶縁ガス1(又は絶縁ガス1と分解ガス)を誘電体とする第1のコンデンサ5を形成することができるものであれば特に制限されない。
【0019】
グランド6に近い側の第2のコンデンサ9は、接地容器2の外に設けられた部屋12に収容されている。第2のコンデンサ9を収容する部屋12の概念を図2に示す。部屋12に接地容器2内の分解ガスを導く流路13が設けられている。本実施形態では、流路13として往路13aと復路13bとを別々に形成し、絶縁ガス1を接地容器2→往路13a→部屋12→復路13b→接地容器2へと循環させている。往路13a及び復路13bは接地容器2に設けられているハンドホールフランジ(開口フランジ)蓋14に接続されている。往路13a,復路13bには開閉弁19,19が設けられており、部屋12を開ける場合には開閉弁19,19を閉じて接地容器2内の気密性と清浄性を維持することができる。
【0020】
第2のコンデンサ9は、2枚の電極7,8間に分解ガスを吸着する吸着剤15を挟み込んで形成されている。即ち、吸着剤15を誘電体としている。電極7,8としては、例えば平板電極の使用が可能であるがこれに限るものではなく、間に吸着剤15を挟み込んで又は充填して第2のコンデンサ9を形成することができるものであれば特に限定されない。2枚の電極7,8のうち、一方の電極7は第1のコンデンサ5の電極4に接続され、他方の電極8はグランド6に接続されている。一方の電極7と第1のコンデンサ5の電極4とを接続する導線16は接地容器2に対して絶縁されている。導線16の途中には電圧測定部10が設けられている。
【0021】
部屋12内には、第2のコンデンサ9の他に、絶縁ガス1の分解ガスを吸着除去する吸着剤17と、絶縁ガス1を循環させるポンプ18が収容されている。ポンプ18によって接地容器2内→往路13a→部屋12内→復路13b→接地容器2内へと循環する絶縁ガス1の流れが形成される。第2のコンデンサ9は吸着剤17よりも上流側に設けられており、吸着剤17に吸着除去される前に分解ガスを吸着し、より早期の分解ガスの検出を可能にしている。
【0022】
次に、分解ガスセンサによる分解ガスの検出について説明する。
【0023】
接地容器2内の絶縁ガス1は、ポンプ18によって接地容器2内→往路13a→部屋12内→復路13b→接地容器2内へと循環されるので、接地容器2内で発生した分解ガスも絶縁ガス1と一緒に接地容器2内→往路13a→部屋12へと循環する。部屋12内に流入した分解ガスは、第2のコンデンサ9の誘電体である吸着剤15や第2のコンデンサ9とは別に設けられた吸着剤17によって吸着され除去される。そして、分解ガスが除去された絶縁ガス1がポンプ18によって部屋12→復路13b→接地容器2へと循環される。これにより、接地タンク内の分解ガスが除去される。
【0024】
発生する分解ガスの量は絶縁ガス1の量に比べると圧倒的に少なく、また、発生した分解ガスは上述の通り吸着剤15,17によって吸着除去される。そのため、第1のコンデンサ5の誘電体(絶縁ガス1、又は絶縁ガスと分解ガス)の誘電率は変化しない又は変化したとしても極僅かであり、第1のコンデンサ5の静電容量C1は変化しない又は変化しないとみなすことができる。
【0025】
一方、分解ガスの吸着によって第2のコンデンサ9の誘電体(吸着剤15)の誘電率が変化し、第2のコンデンサ9の静電容量C2が変化する。したがって、数式2によって求められる電圧測定部10での電圧Vdが変化する。
【0026】
〈数2〉
Vd=(C1/(C1+C2))V
ここで、V:導体3の電圧、C1:第1のコンデンサ5の静電容量、C2:第2のコンデンサ9の静電容量である。
【0027】
この電圧Vdの変化に基づいて分解ガスの発生を検出することができる。このとき、第2のコンデンサ9の誘電体(吸着剤15)には分解ガスが蓄積されるので、第2のコンデンサ9の静電容量C2の変化が大きくなる。このため、より確実に分解ガスの発生を検出することができる。
【0028】
分解ガスの検出により、接地容器2内での絶縁破壊の発生や、絶縁ガス1の絶縁性能の低下、吸着剤15,17の吸着性能の低下等を知ることができる。
【0029】
電圧Vdの測定は、例えばオシロスコープ、電圧計、テスタ等の測定機器を使用して測定される。例えば、電圧測定部10に測定用端子を設けておき、必要に応じて測定用端子に測定機器を接続することで、グランド6との間の電圧Vdを測定することができる。あるいは、電圧測定部10に設けた測定用端子に測定機器を常時接続しておき、電圧Vdを連続的に測定することができる。または、電圧測定部10に設けた測定用端子に測定機器を常時接続しておき、測定した電圧Vdを有線又は無線のネットワーク、インターネット等の通信回線を介して離れた位置に設けた制御装置に供給するようにしても良い。
【0030】
電圧Vdは導体3に印加されている電圧の分圧として測定されるので、電圧Vdの発生に専用の電源を必要としない。即ち、専用の電源を設けなくても測定対象の出力信号を発生させることができる。
【0031】
また、本実施形態では、第2のコンデンサ9を接地容器2の外の部屋12に設けているので、内部の清浄性と気密性が高度に要求される接地容器2を開けずに吸着剤15の交換等を行うことができ、接地容器2の清浄性及び気密性の維持と第2のコンデンサ9のメンテナンスの容易性をともに高レベルで両立させることができる。
【0032】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0033】
例えば、上述の説明では、ポンプ18を設けて絶縁ガス1の流れを強制的に発生させていたが、ポンプ18を省略して自然の流れを利用するようにしても良い。この場合には、ポンプ18を駆動するための電源も不要にすることができる。
【0034】
また、上述の説明では、分解ガスを接地容器2から部屋12に導く流路13を往路13aと復路13bに分割していたが、例えばポンプ18を省略した場合等には、往路13aと復路13bに分割しなくても良く、1本の流路13によって分解ガス及び絶縁ガス1を行き来させても良い。
【0035】
また、上述の説明では、第2のコンデンサ9の吸着剤(誘電体)15とは別に吸着剤17を設けていたが、吸着剤15によって分解ガスの吸着除去を十分に行える場合には、吸着剤17を省略しても良い。
【0036】
さらに、上述の説明では、第2のコンデンサ9を接地容器2の外に設けていたが、例えば図3に示すように、部屋12を省略し、第2のコンデンサ9を接地容器2内に設けても良い。なお、図3の例では、分解ガスは自然拡散により第2のコンデンサ9の吸着剤(誘電体)15に到達し、吸着除去される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の分解ガスセンサの実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図2】同分解ガスセンサの第2のコンデンサが収容される部屋の様子を示す概略構成図である。
【図3】本発明の分解ガスセンサの他の実施形態を示す概略構成図である。
【図4】従来の分解生成物検知装置を示す概略構成図である。
【図5】同分解生成物検知装置の要部の断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 絶縁ガス
2 接地容器
3 導体
4 第1のコンデンサの電極
5 第1のコンデンサ
6 グランド
7,8 第2のコンデンサの2枚の電極
9 第2のコンデンサ
10 電圧測定部
12 部屋
13 流路
15 第2のコンデンサの吸着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが封入されている接地容器内に収容された導体と電極とで形成され、前記絶縁ガスを誘電体とする第1のコンデンサと、前記電極とグランドとの間に設けられ、2枚の電極間に前記分解ガスを吸着する吸着剤を誘電体として介在させた第2のコンデンサと、前記第1のコンデンサと前記第2のコンデンサとの間に設けられた電圧測定部とを備えることを特徴とする分解ガスセンサ。
【請求項2】
前記第2のコンデンサは、前記接地容器の外に設けられた部屋に収容されており、前記部屋に前記接地容器内の前記分解ガスを導く流路を備えることを特徴とする請求項1記載の分解ガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−2271(P2010−2271A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160623(P2008−160623)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】