説明

分解炉バーナのための過剰空気制御

【課題】 熱分解炉からの燃焼ガスのより信頼できる代表的な分析が必要であるという前述した課題の少なくとも一部を解決する。
【解決手段】 熱分解器のバーナ(過剰空気)の空気/燃料比を制御するための3つのステップを含む方法。第1のステップは、近赤外光の波長変調されたビームを、波長可変ダイオードレーザから、バーナからの燃焼ガスを通じて、近赤外光検出器へと方向付けて、検出信号を生成することである。第2のステップは、酸素、一酸化炭素、窒素酸化物から成る群より選択される検体における波長特性での分光吸収に関して検出信号を分析し、燃焼ガス中の検体の濃度を決定することである。第3のステップは、第2のステップの検体の濃度に応じてバーナ(過剰空気)の空気/燃料比を調整することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解炉バーナにおける過剰空気を制御するための方法の分野に含まれる。石油ナフサなどの炭化水素材料を熱分解することによるオレフィンの生成は、化学プロセス工業における最も重要なプロセスのうちの1つである。例えば、ABBコーポレーションは、伝えられるところによれば、1年当たり100万トンを超えるエチレンおよびプロピレンを生成する能力を有する分解プラントをテキサス州のポートアーサーに建設した。分解プロセスは「分解器」内で行なわれる。分解器は、通常、管路およびバーナを収容する筐体を備えている。燃料を燃やすことによって生成される熱は、管路内を流れる炭化水素材料を加熱し、それにより、炭化水素材料が熱分解されて、特にエチレンおよびプロピレンが生成される。
【背景技術】
【0002】
通常、分解器は輻射部と対流部とから成る。輻射部内にはバーナが位置されており、それにより、主にバーナに隣接する壁から放出される輻射熱によって、輻射部内に位置される管路が加熱される。その後、輻射部からの燃焼ガスが対流部へと方向付けられ、この対流部において、対流部内に配置される管路を加熱するために燃焼ガスからの熱が回収される。分解器内には、通常、バーナの空気/燃料比の制御を容易にするために、輻射部と対流部との間に酸化ジルコニウム酸素センサなどの酸素センサが配置されている。分解器の全体の効率は、主に、火室内に存在する過剰空気の量および分解器からの排気ガスの温度の関数である。炉内の空気の量を制御することは、効率の観点から有益となり得る。分解器からの一酸化炭素および煙の排出は、バーナで使用される空気の量が減少されて空気−燃料の化学量論比を下回るときに増大する傾向がある。一方、あまりにも過剰な空気は、分解器の全体の効率を低下させる可能性があるとともに、窒素酸化物の過剰な放出をもたらす可能性がある。したがって、効率の最適なバランスおよび放出の制御のためには、分解炉で使用される過剰空気の量の正確な制御が必要である。
【0003】
従来の分解器の酸素センサは「ポイント測定装置」である。すなわち、この酸素センサは、センサが配置されている位置で酸素を測定する。そのような測定は、分解器内の全体の酸素濃度を代表するものではない。分解器内の酸素のより代表的な決定を行なうシステムが開発された場合、それは分解炉の制御の分野における進歩となろう。また、従来の酸化ジルコニウムセンサがO2測定(例えば、炭化水素ガスおよびCOガス)の精度に影響を及ぼすことで知られる障害に晒されることは良く知られている。これらの障害に更に影響されないシステムが開発された場合には、分解炉の制御の分野における進歩となろう。
【0004】
HansonらによるSectionII.4.3, Sensors for Advanced Combustion Systems, Global Climate & Energy Project, Stanford University, 2004は、石炭燃料ユーティリティボイラ、廃棄物焼却炉およびジェットエンジンからの燃焼ガス中の酸素、一酸化炭素、窒素酸化物を決定するための吸光光度法および波長可変近赤外線ダイオードレーザの開発について概説している。Thompsonらの米国特許出願公報US2004/0191712A1は、そのようなシステムを製鋼産業における燃焼用途に対して適用した。燃焼ガス中の例えば酸素、一酸化炭素、窒素酸化物を決定するための吸光光度法および波長可変近赤外線ダイオードレーザが熱分解器に対して適用された場合には、当分野における進歩となろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱分解炉からの燃焼ガスのより信頼できる代表的な分析が必要であるという前述した課題の少なくとも一部を解決する。本発明は、熱分解炉からの燃焼ガス中の例えば酸素、一酸化炭素、窒素酸化物を決定するための吸光光度法および波長可変近赤外線ダイオードレーザの用途である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
より具体的には、本発明は、熱分解器のバーナの空気/燃料比を制御するための方法であって、(a)近赤外光の波長変調されたビームを、波長可変ダイオードレーザから、バーナからの燃焼ガスを通じて、近赤外光検出器へと方向付けて、検出信号を生成するステップと、(b)酸素、一酸化炭素、窒素酸化物から成る群より選択される検体における波長特性での分光吸収に関して検出信号を分析し、燃焼ガス中の検体の濃度を決定するステップと、(c)ステップ(b)の検体の濃度に応じてバーナ(すなわち、炉内の過剰空気)の空気/燃料比を調整するステップと、を含む方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、空気吸入口12と排気口13とを有する筐体11を含むオレフィンを生成するための典型的な熱分解炉10の概略側面図を示している。空気吸入口ファン14は、バーナ15を通じて強制通風を供給する。排気ファン16は、導入された通風を炉10から供給する。炉10の内部は、3つの主要な部分、すなわち、火室部17と、耐火壁部18と、対流部19とから成る。バーナ15からの燃焼ガスは、最初に、炉10の火室部17内へと向けられた後、耐火壁部18を通じて方向付けられ、その後、対流部19を通じて排気口13から排出される。供給材料ストリーム20は、当該供給材料を予熱するために管路21を通じて導かれる。予熱された供給材料に対してはストリーム22が導入され、予熱された供給材料は、その後、対流部19内に位置する管路23によって更に加熱された後、火室部17内に位置される管路24によって更に加熱され、それにより、生成物25が生成される。
【0008】
ここで、図2を参照すると、火室部17、耐火壁部18、および、対流部19の外壁を示す図1の炉10の概略背面図が示されている。炉10の耐火壁部18には波長可変ダイオードレーザシステム26が装着されており、これにより、波長可変ダイオードレーザシステム26の可変波長ダイオードレーザからの光を、耐火壁部18を通じて流れる燃焼ガスを介して、光検出システム27に対して示すことができるようになっている。
【0009】
ここで、図3を参照すると、図2に示されたダイオードレーザシステム26および光検出システム27の更に詳しい図が示されている。図3に示されるシステムは、波長可変ダイオードレーザを含むレーザモジュール37を有する。制御ユニット31は、信号処理(以下で更に詳しく説明する)のためにプログラムされた中央処理ユニット、および、波長可変ダイオードレーザのための温度・電流制御機器、並びに、ユーザインタフェースおよびディスプレイを含む。制御ユニットは、図示のように別個のユニット内に収容されても良く、または、システムの他の構成要素のうちの1つに含められても良い。例えば、制御ユニットが送信器内に収容されても良い。アライメントプレート29および調整ロッド30はレーザビーム41のアライメントを行なうことができる。レーザビームは、1または複数の窓(例えば、石英ガラス窓、サファイア窓)を通過して炉内へ入る。デュアルサファイア窓28などの窓が4インチパイプフランジ40に装着されている。窓28同士の間の空間は、1分当たり25リットルの窒素を用いて1平方インチ当たり10ポンドのゲージ圧で浄化される。フランジ40は、炉の壁を貫通して取り付けられる。
【0010】
更に図3を参照すると、レーザビーム41は、1または複数の窓33(これらの窓は、デュアルサファイアであっても良く、あるいは、石英ガラスなどの他の適した材料であっても良い)を通過して、近赤外光検出器38へと送られる。窓33は4インチパイプフランジ39に装着されていても良い。窓33同士の間の空間は、1分当たり25リットルの窒素を用いて1平方インチ当たり10ポンドのゲージ圧で浄化される。フランジ39は、炉の壁を貫通して取り付けられる。アライメントプレート34および調整ロッド35は、検出光学素子とレーザビーム41とのアライメントを行なうことができる。検出エレクトロニクス36は、ケーブル37を通じて制御ユニット31と電気的通信状態にある。また、制御ユニット31は、炉10を制御するためのプロセス制御システム32とも(電気ケーブル38を通じて)電気的通信状態にある。レーザビーム41の光路長は約60フィートである。図3に示されるシステムは、テキサス州のヒューストンにあるAnalytical Specialitiesから市販されている。
【0011】
図3に示されるシステムは、レーザ光が燃焼ガスを通過して進むときに吸収される(失われる)レーザ光量を測定することにより動作する。酸素、一酸化炭素および窒素酸化物はそれぞれ、固有の微細構造を示すスペクトル吸収を有する。スペクトルの個々の特徴は、波長可変ダイオードレーザ37の高い分解能で見られる。波長可変ダイオードレーザ37は、制御ユニット31からのその入力電流を制御することにより変調される(走査され或いは1つの波長から他の波長へと調整される)。
【0012】
ここで、図4を参照すると、波長可変ダイオードレーザからの近赤外光の変調ビームを酸素が吸収する領域におけるスペクトルが示されている。図4に示される吸光度は、燃焼ガス中の酸素の濃度に比例している。2333ナノメートル付近の一酸化炭素吸光度ラインは、100万分の1下側の一酸化炭素濃度を決定するために使用される。1570付近の一酸化炭素吸光度ラインは、更に高い一酸化炭素濃度を決定するために使用される。2740ナノメートル付近の窒素酸化物吸光度ラインは、100万分の1下側〜中間の窒素酸化物濃度を決定するために使用される。1800付近の窒素酸化物吸光度ラインは、更に高い窒素酸化物濃度を決定するために使用される。
【0013】
再び図1を参照すると、バーナ(炉内の過剰空気)15の空気/燃料比(図3のプロセスコントローラ32によって制御される)は、先に概説した酸素、一酸化炭素、窒素酸化物の波長可変ダイオードレーザ分光分析に応じて燃焼ガス中の酸素濃度、一酸化炭素濃度、窒素酸化物濃度を最適化するように制御できる。
【0014】
結論
以上、本発明をその好ましい実施形態にしたがって説明してきたが、本発明はこの開示の思想および範囲内で変更することができる。したがって、本出願は、ここに開示された一般的な原理を使用する本発明の任意の変形、使用または適合を網羅するべく意図されている。また、本出願は、この発明に関連し且つ以下の請求項の制限の範囲内に入る、当分野で公知の或いは通例の慣行に入るような本発明からのそのような逸脱を網羅するべく意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】オレフィンを生成するための典型的な熱分解炉10の概略側面図である。
【図2】図1の炉10の概略背面図である。
【図3】本発明で用いる好ましい波長可変ダイオードレーザ分光装置の詳細図である。
【図4】波長可変ダイオードレーザによって生成される近赤外光の酸素吸光度における波長領域特性の微細構造吸光度を示す、本発明のシステムを使用して収集されたスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンを生成するための熱分解器のバーナの空気/燃料比を制御するための方法であって、
(a)近赤外光の波長変調されたビームを、波長可変ダイオードレーザから、バーナからの燃焼ガスを通じて、近赤外光検出器へと方向付けて、検出信号を生成するステップと、
(b)酸素、一酸化炭素、窒素酸化物から成る群より選択される検体における波長特性での分光吸収に関して検出信号を分析し、燃焼ガス中の検体の濃度を決定するステップと、
(c)ステップ(b)の検体の濃度に応じてバーナ(過剰空気)の空気/燃料比を調整するステップとを含む、方法。
【請求項2】
波長可変ダイオードレーザからの近赤外光の波長が、約500〜約15000波数の範囲内にある、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−540804(P2008−540804A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512350(P2008−512350)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/017977
【国際公開番号】WO2006/124422
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】