説明

分離捕集方法及び装置

対象物質を捕集可能な担体に前記対象物質を含む液体を供給して前記対象物質を液体から分離して担体に保持させた後、この担体から前記対象物質を捕集する分離捕集方法において、スプレー缶の噴射圧によって前記液体を前記担体に向かって流動させるものであり、好ましくは、対象物質を担体に保持させた後に対象物質以外を洗浄除去する操作を更に備えた分離捕集方法。分離捕集の対象物質を、この対象物質を保持する性質を有する担体へ効率的に接触させて、分離、洗浄、
捕集を安価に行うことができ、装置の小型化が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は例えば懸濁液体や溶液等の液体中に含まれる物質を分離捕集する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
バイオテクノロジーの技術的な進歩に伴い、農業や食品衛生、臨床検査、環境化学分析等、多様な分野において種々の物質が懸濁又は溶解した液体中から対象物質を選択的に分離捕集する技術が開発されている。
分析、検査および研究を行う際には、特に糖、蛋白質、核酸等の生体物質や、金属イオン、有機物等の化学物質を捕集することが必要である場合が多い。例えば、デオキシリボ核酸(DNA)の精製において最も典型的な捕集の手法は、グアニジンチオシアン酸塩およびヨウ化ナトリウム等の高濃度のカオトロピック塩を使用する方法である(例えば、日本国平成7年特許公告第13077号公報参照)。また、DNAを選択的に陰イオン交換体に結合させる方法(例えば、日本国特許公報第2680462号参照)も有効な捕集方法の1つである。
しかしながら、液体中に含まれる捕集対象とする物質に対する液体からの分離選択性に関する原理は様々であっても、対象物質を含む液体を担体へ接触させて分離し、次いで担体を洗浄し、以て洗浄媒体と共に対象物質を捕集する方法については、遠心分離器等を用いた遠心力を利用する方法、又は減圧ポンプ等を用いた吸引力を利用する方法が一般的に用いられているが、それらを実際に行うには概ね大型、高価な機器が必要であり、またこれらの機器を使用する為には電気設備等を必要とする。
更に、シリンジとピストンとを用いて対象物質を含む液体を担体へ導出させる系では、導出量はシリンジの容量と一致するため、大容量の液体を導出する場合には大きなシリンジを必要とし、押し込み操作に多大な力を必要とする。また、担体へ導出させた後に洗浄操作等を繰り返し行う際には、その都度、担体からシリンジを外し、押し込まれたシリンジからピストンを引き抜く操作を行わなくてはならないため、非効率的である。
【発明の開示】
そこで本発明の課題とするところは、液体中に含まれる分離捕集の対象物質を、この液体から分離する性質を有する担体へ効率的に接触させ、分離、洗浄、捕集を行う安価な分離捕集方法及び安価で小型化が可能な分離捕集装置を得ることである。
本発明に係る物質の分離捕集方法は、対象物質を捕集可能な担体に前記対象物質を含む液体を供給して前記対象物質を液体から分離して担体に保持させ、次いでこの担体から前記対象物質を捕集するに際し、前記液体を前記担体に向かって流動させるために前記液体をスプレー缶の噴射圧を用いることを特徴とするものである。
即ち、本発明では、安価に入手可能なスプレー缶の噴射圧を利用して液体を担体へ向かって流動させる。
本発明を適用する対象物質及びこの対象物質を含む液体としては、担体と接触したときにこの担体に保持され得る対象物質及びこの対象物質を溶解、懸濁等いかなる形態であれ含有している液体であればよい。例えば、対象物質としては、糖、蛋白質、核酸等の生体物質や、金属イオン、有機物等の化学物質が挙げられる。また、液体としては、これら対象物質の1種又は2種以上を含有する溶液、懸濁液を挙げることができる。
本発明で言う対象物質を捕集可能な担体とは、対象物質を含む液体と接触した場合にこの対象物質を良好に吸着、結合又は保持して分離するものであればよく、物理的な篩い効果で対象物質を選り分けるものを含む。好ましくは対象物質と結合する化学的な性質を有するもの、特に対象物質に対して選択的に結合する化学的な性質を有するものも好適である。
また、担体の形状については、対象物質を含む液体が流動して担体に接触した場合にこの対象物質を逃さずに捕集する形状であればよく、例えば、膜状、管状、多数の透過孔を備えたスポンジ状、多孔性の粒子の集合体等の所謂「濾過材」として用いられるものが挙げられ、特に膜状又はスポンジ状のものが好ましい。また、担体の素材としては紙やセラミック製等、種々のものが利用できるが、特にガラスファイバー製又は樹脂ファイバー製のものが好ましい。
本発明で用いるスプレー缶とは、空気、酸素、二酸化炭素またはフロンをはじめとする常温常圧下で気体となる物質及びその混合物を耐圧缶内に加圧充填し、噴射口と缶内部とを連通する経路と、その経路を開閉する開閉手段とを備えたものを指す。管内部に加圧充填する物質としては、対象物質に悪影響を与えないものであれば良く、例えば、酸素、二酸化炭素、窒素または代替フロンが好ましく、現在では、精密機械のメンテナンス時等に機器の接点に付着した埃等を吹き飛ばす際に使用されるものが安価に市販されている。
スプレー缶から生じる噴射圧を対象物質含有液体の流動に利用することにより、前述の遠心力を利用する方法又は吸引力を利用する方法における問題点が解決され、その結果、対象物質を捕集する為の装置は場所を選ばずに使用することが可能となる。噴射圧は市販のスプレー缶に許容されている程度の圧力で充分であり、概ね0.8MPa以下である。
スプレー缶の噴射圧の具体的な使用法としては、噴射圧によって加圧することにより、対象物質を含む液体を対象物質捕集用の担体に向かって流動されるものであればよい。
例えば、担体を管状にして、この管状の担体内に液体を循環させて流すことにより不要な液体又は液体中に含まれる対象外物質を排除しつつ液体内部の対象物質を濃縮して分離捕集させる場合に、液体中にスプレー缶内の気体を噴射させて管状担体中を流れる流れを生じさせるものも想定されるが、スプレー缶の噴射圧を効率よく利用するためには耐圧容器内にスプレー缶の気体を導入し、スプレー缶の噴射圧で耐圧容器内の液体を流路に押し出して担体に向けて導出させる方式が好ましい。
この場合、液体から対象物質を分離する担体は、対象物質に対して選択的に結合する化学的な性質を有する担体を用いて管経路を形成させてスプレー缶の噴射圧で押出された液体を管経路内を通過させながら対象物質を選択的に化学結合させてもよいが、単に物理的に濾過する濾過材や対象物質を選択的に化学結合する濾過材を担体としてスプレー缶の噴射圧で押出された液体を通過させても良い。濾過材に液体を通過させる方式の方が限られた容量の気体が封入されたスプレー缶を用いる本発明では好ましい。
具体的には、本発明では、以下の分離捕集方法を提供する。即ち、対象物質を捕集可能な担体に前記対象物質を含む液体を供給して前記対象物質を液体から分離して担体に保持させた後、この担体から前記対象物質を捕集する際に、対象物質を含む液体を耐圧容器に導入し、対象物質を捕集可能な担体からなる濾過材に連結した後、スプレー缶のガス噴射口に接続してスプレー缶の噴射圧により液体を濾過材に押出して前記対象物質を濾過材に捕集させると同時に、対象物質が除かれた液体を対象物質が捕集した濾過材から排出させる。その後、対象物質を溶出させるための溶出液を耐圧容器内に導入し、対象物質を捕集した前記濾過材に連結した後、溶出液を濾過材に導入して前記濾過材に保持された対象物質を遊離する。
より具体的には、本発明では、以下の3工程からなる物質の分離捕集方法を提供する。
1)スプレー缶と、シリンジ等何らかの耐圧容器と、対象物質を捕集可能な担体からなる濾過材とを、脱着可能に連結する。先ず、耐圧容器と濾過材とを連結し、耐圧容器内に対象物質を含む液体を添加する。これをスプレー缶のガス噴射口に接続してスプレー缶の噴射圧により液体を濾過材に押出すことにより、対象物質を濾過材に捕集させると同時に、対象物質が除かれた液体を対象物質が捕集した濾過材から排出する。尚、対象物質を含む液体を濾過材へ押し出す操作は、液体中の対象物質の殆ど全てを濾過材へ保持させるべく、一度だけでなく必要に応じて数回繰り返し行ってもよい。また、対象物質を含む液体には、必要に応じて対象物質を担体(濾過材)への結合を促すための試薬組成を含んでも良い。
2)必要に応じ、対象物質が保持された担体(濾過材)を洗浄する目的で、洗浄液を耐圧容器内に導入し、1)に記載の方法と同様に洗浄液を担体(濾過材)に押出すことにより、担体(濾過材)に残存している、対象物質以外の夾雑物を洗浄除去しても良い。尚、担体(濾過材)と対象物質の結合が強固であり、夾雑物が担体(濾過材)を通過できない大きさである場合には、1)に記載の方法とは逆の流れとなるように洗浄液を流動させてもよい。
3)対象物質を溶出させるための溶出液を耐圧容器内に導入し、溶出液を担体(濾過材)に導入することにより、担体から遊離した対象物質を含む液体を捕集する。尚、対象物質が担体(濾過材)から溶出・通過できない大きさである場合には、1)に記載の方法とは逆の流れとなるように溶出液を流してもよい。
即ち、具体的な本発明の好適な一態様を挙げるならば、前記対象物質を担体に保持させた後に対象物質以外を洗浄除去する操作を更に備えたことを特徴とするものである。
更に、本発明の好適な別の態様によれば、前記対象物質を吸着により保持させた担体から対象物質を溶出させるための溶出液を与えてることにより、前記担体から対象物質を遊離させる操作を更に備えたことを特徴とするものである。
本発明の物質の分離捕集装置としては、前述の物質の分離捕集方法に用いる装置であって、内部に常温常圧下で気体となる物質を加圧充填した缶容器と、噴射口と、該噴射口と缶内部とを連通する経路と、該経路を開閉する開閉手段とを備えたスプレー缶と、このスプレー缶の噴射口に連結可能な吹き込み口及び外部に通じる排出口とを備え内部に液体を貯留可能な耐圧容器と、前記排出口に着脱可能に連結されて該排出口からの液体を通過させることのできる容器内に保持されて前記対象物質を捕集可能な担体とを備えたものである。これにより、吸着、洗浄、分離捕集を行う安価で小型な装置とすることができる。
本発明の上述以外の目的と特徴及び利点は、添付図面を参照して以下の限定を意図しない実施例の説明から明かとなる。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の一実施形態のDNA捕集装置の構成と一部の断面を含む説明図である。
図2はアガロースゲル電気泳動の結果を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の物質捕集方法を実施するにあたり、対象物質および対象物質を捕らえる何らかの原理は重要ではない。従って、対象物質は、限定されない。前述の原理の実施が、持ち運び可能で、使い捨てのスプレー缶の噴射圧によって実現可能である所に本発明の要点がある。
本実験は、捕集対象を核酸として、方法および装置を説明する。図1は本発明の一実施形態のDNA捕集装置の構成と一部の断面を含む説明図である。出発試料液体は、λDNA10μgをカオトロピック塩であるグアニジン塩酸塩を含む結合バッファー0.5mlに添加した液体を使用した。
図1に示す通り、DNAを選択的に結合しうる担体としてガラス繊維濾紙11を樹脂製の容器12に内封したシリンジフィルターGF/B(Whatman社製)13を用いた。このシリンジフィルター13の導入口14と耐圧容器として1ml容シリンジ(テルモ社製)15の排出口16とを接続し、1ml容シリンジ15に液体を添加した。その後、スプレー缶(商品名:OAダストクリーナー、リックス社製)17のヘッド部分18の噴射口19にシリンジ15の後端の吹き込み口20を連結する事により、対象物質を捕集するための装置を組み立てた。連結確認後、スプレー缶17のガス噴射ボタン10を押して内部の気体を噴射し、シリンジ15内の液体をシリンジフィルター13から排出した。
次に、シリンジフィルター13を接続した1ml容シリンジ15をスプレー缶17から外し、洗浄バッファー1mlをシリンジ15に入れて、再びスプレー缶17と連結後、残留している液体及び洗浄バッファーをシリンジフィルター13から充分に除去した。最後にシリンジ15をスプレー缶17から外し、シリンジ15に溶出バッファー100μlを入れて再びスプレー缶17と連結した。3分間室温静置後、スプレー缶17のガス噴射ボタン19を押して内部の気体を噴射し、シリンジ15内の溶出バッファーをシリンジフィルター13から排出し、排出液体を捕集した。
バッファーは、以下の組成のものを使用した:
1)結合バッファー:8Mグアニジン塩酸塩、
2)洗浄バッファー:70%エタノール、30%TE{10mM Tris−HCl(pH8.0)、1mMエチレンジアミン4酢酸ナトリウム(EDTA)}溶液、
3)溶出バッファー:TE{10mM Tris−HCl(pH8.0)、1mMエチレンジアミン4酢酸ナトリウム(EDTA)}溶液
捕集したDNAを、アガロースゲル電気泳動を用いて評価した。図2はアガロースゲル電気泳動の結果を示す模式図である。図において、レーン21,24は分子量マーカー、レーン22は結合バッファーに添加したλDNA(添加前)、レーン23は捕集したλDNAである。図2に示す通り、捕集対象であるDNAが良好に捕集されていることを確認した。
本発明の物質捕集方法を用いることにより、従来の方法と比較して、極めて安価な装置のみで、対象物質を達成できた。また、本発明は、対象物質を捕集する行程において、場所を装置設置場所付近に限定しないことから、実験設備がない場所でも対象物質を捕集可能にした。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物質を捕集可能な担体に前記対象物質を含む液体を供給して前記対象物質を液体から分離して担体に保持させた後、この担体から前記対象物質を捕集する分離捕集方法において、
缶内部に常温常圧下で気体となる物質を加圧充填したスプレー缶から噴射圧によって前記液体を前記担体に向かって流動させることを特徴とする物質の分離捕集方法。
【請求項2】
前記対象物質を担体に保持させた後に対象物質以外を洗浄除去する操作を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の物質の分離捕集方法。
【請求項3】
前記対象物質を吸着により保持させた担体から対象物質を溶出させるための溶出液を与える操作を更に備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の物質の分離捕集方法。
【請求項4】
前記請求項1〜3の何れかに記載の物質の分離捕集方法に用いる装置であって、
内部に常温常圧下で気体となる物質を加圧充填した缶容器と、噴射口と、該噴射口と缶内部とを連通する経路と、該経路を開閉する開閉手段とを備えたスプレー缶と、
該スプレー缶の噴射口に連結可能な吹き込み口と外部に通じる排出口とを備え、内部に液体を貯留可能な耐圧容器と、
前記排出口に着脱可能に連結されて該排出口からの液体を通過させることのできる容器内で前記対象物質を捕集可能な担体とを備えたことを特徴とする物質の分離捕集装置。

【国際公開番号】WO2005/051524
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【発行日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−510918(P2005−510918)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015264
【国際出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【出願人】(501145295)独立行政法人食品総合研究所 (27)
【出願人】(000135162)株式会社ニッポンジーン (7)
【Fターム(参考)】