説明

分離肺換気装置における可撓性チューブおよびこの可撓性チューブの挿入・引抜き方法

【課題】可撓性チューブを挿入する際に、特にカリーナの部分の損傷を防止し、所望とする気管支に容易に可撓性チューブの先端部を盲目的に挿入することができ、気管支用ファイバースコープなどの高価な器具を用いた先端部の最終確認を行わずに位置をセット可能な分離肺換気装置における可撓性チューブと可撓性チューブの姿勢設定方法を提供する。
【解決手段】分離肺換気装置の可撓性チューブにおいて、第1の可撓性チューブ9および第2の可撓性チューブ10に弾性部材、形状記憶合金、磁性体などの先端部を湾曲させる部材が具備され、その付勢力或いは磁性体の斥力により各可撓性チューブが自然状態において所定角度離反するように設定されているとともに、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とを離反させずに一体化する姿勢保持手段が具備され、この姿勢保持手段を操作することにより、各可撓性チューブを離反させたり、一体化させたりする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸部外科手術などに使用される分離肺換気装置における可撓性チューブおよびこの可撓性チューブの挿入・引抜き方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胸部外科手術などでは、例えば、特許文献1に開示されているように、患者の気管から気管支にかけて細い可撓性チューブを挿入して先端部を適正な位置に配置し、損傷した肺を分離し閉塞させ、かつ他の肺に空気を供給するため、可撓性チューブを挿入する必要が生じている。
【0003】
この種の分離肺換気装置では、チューブ本体を患者の気管内に挿入したときに、挿入された部分の折れ曲がりを防止したり、折れ曲がりにより内孔が閉塞したりするのを防止するため、例えば、スタイレットと称される補助案内具が用いられる場合がある。
【0004】
そして、この補助案内具の内在された可撓性チューブは声門部を通過した後に、その補助案内具が介助者により抜き去られ、その後、可撓性チューブはスタイレット無しで挿入気管支方向に向かって進ませなければなければならない。
【0005】
一方、患者の年齢、男女差などにより気管支の形成方向、大きさなどには若干の個人差がある。よって、可撓性チューブの曲がっている先端部を患者の気管支に合わせて所定の方向に進ませるには、従事者の技量に頼ることになる。この基本的な動作としては、選択された可撓性チューブの形成方向に合わせて、基端側を捻るなどの動作による。
【0006】
このように径の細い気管支内に挿入される分離肺換気装置における可撓性チューブは、挿入の際に気管や気管支などに衝突して、これらの器官を損なってしまうことを注意深く避けなければならない。特に、カリーナと称される2つの気管支の分岐部を通過するときには、十分な注意が必要でこのカリーナに直接可撓性チューブの先端部が当たってしまうのは好ましくない。また、正しく挿入されたか否かを気管支用ファイバースコープなどの器具を用いて確認することが必要であるとともに、カリーナから所定の方向に可撓性チューブの先端部が挿入されない場合には、挿入動作を再度やり直さなければならない。
【特許文献1】特表2002−505925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑み、可撓性チューブを挿入する際に、特にカリーナの部分の損傷を防止し、しかも医療関係者の技量にかかわらず所望とする気管支に容易に可撓性チューブの先端部を挿入することができ、さらには、気管支用ファイバースコープなどの高価な器具を用いた先端部の最終確認を行わずに盲目的に位置をセットすることも可能な分離肺換気装置における可撓性チューブおよびこの可撓性チューブの挿入・引戻し方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る分離肺換気装置における可撓性チューブは、
隔壁により第1の内孔と第2の内孔とが隔絶状態に仕切られた可撓性チューブ本体の先端部に、前記第1の内孔を独立して形成した第1の可撓性チューブと、前記第2の内孔を独立して形成した第2の可撓性チューブとが分岐して形成されているとともに、前記可撓
性チューブ本体内の先端部外周に第1のカフが、前記第1の可撓性チューブあるいは前記第2の可撓性チューブのいずれか一方に第2のカフがそれぞれ設置された分離肺換気装置における可撓性チューブにおいて、
前記第1の可撓性チューブおよび前記第2の可撓性チューブに弾性部材、形状記憶合金或いは磁性体が具備され、これら弾性部材の付勢力或いは磁性体の斥力により前記第1の可撓性チューブと第2の可撓性チューブとが自然状態において所定角度離反するように設定されているとともに、
前記第1の可撓性チューブと前記第2の可撓性チューブとを離反させずに一体化する姿勢保持手段が具備され、この姿勢保持手段を操作することにより、前記第1の可撓性チューブと前記第2の可撓性チューブとを離反させたり、一体化させたりすることを特徴としている。
【0009】
係る構成による分離肺換気装置における可撓性チューブによれば、二股状に分割されている第1の可撓性チューブおよび第2の可撓性チューブに予め弾性部材、形状記憶合金或いは磁性体が具備されているので、姿勢保持手段を解除すればこれら第1の可撓性チューブと第2の可撓性チューブとが所定角度湾曲する。よって、その後、基端側の可撓性チューブ本体を進行方向にまっすぐに押し込めば、カリーナを避けて第1の可撓性チューブおよび第2の可撓性チューブを所望とする気管支方向に挿入することができる。
【0010】
ここで、本発明では、前記弾性部材、形状記憶合金或いは磁性体は、前記第1の可撓性チューブ内および前記第2の可撓性チューブ内にそれぞれ埋設されていることが好ましい。
【0011】
このような構成であれば、弾性部材、形状記憶合金或いは磁性体により各器官を損傷してしまうことがない。
また、前記姿勢保持手段は、それ自身自立可能で屈曲自在であり、かつ先端部にフック部分が設けられた線状案内部材であることが好ましい。
【0012】
このような構成であれば、確実な操作を行うことができるとともに、姿勢保持手段をスタイレットなどの補助案内具で兼用することもできる。
さらに、前記姿勢保持手段は、前記第1の可撓性チューブと前記第2の可撓性チューブとの分岐部に設けられた第3のカフからなる補助姿勢保持手段を有しており、この第3のカフに空気を導入することにより前記第1の可撓性チューブと前記第2の可撓性チューブとの離反が促されるとともに、空気を排出することにより、前記第1の可撓性チューブと前記第2の可撓性チューブとの一体化が促されることが好ましい。
【0013】
このような構成であれば、第3のカフへ空気を導入したり、排出したりすることにより、第1の可撓性チューブと第2の可撓性チューブの姿勢を制御することができる。
さらに、本発明では、前記線状案内部材の前記フック部分よりさらに先端側に、空気の導入あるいは空気の排出を行うことにより膨張したり萎縮したりするバルーン部材が具備されていることが好ましい。
【0014】
このような構成であれば、器官支内を邪魔したり傷付けたりすることができる。
本発明に係る可撓性チューブの挿入・引抜き方法は、気管から気管支内に案内される分離肺換気装置における可撓性チューブの挿入・引抜き方法であって、
可撓性チューブ本体から二股状に分岐された第1の可撓性チューブと第2の可撓性チューブとの先端部に予め弾性部材、形状記憶合金或いは磁性体を付設しておくことにより、これらの弾性部材の付勢力或いは磁性体の斥力により当該先端部を自然状態において所定角度湾曲するように設定するとともに、この湾曲した先端部を元の位置に留める姿勢保持手段を付設し、
前記姿勢保持手段が機能した状態から前記可撓性チューブ本体を気管内に挿入し、遠隔操作で前記姿勢保持手段の機能を解除して前記可撓性チューブ本体の先端部を第1の可撓性チューブと第2の可撓性チューブとに所定角度湾曲させた位置に偏位させ、この状態で前記第1の可撓性チューブおよび第2の可撓性チューブの先端部を気管支内に挿入して所定位置にセットする一方、前記可撓性チューブの気管からの脱管時には、前記姿勢保持手段を機能させて前記可撓性チューブ本体の先端部を一体化させた状態で気管から引き抜くことを特徴としている。
【0015】
このような方法により可撓性チューブを挿入したり、引抜いたりすれば、可撓性チューブの挿入あるいは引戻しを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る分離肺換気装置における可撓性チューブおよびこの可撓性チューブの挿入・引戻し方法によれば、医療従事者が所望とする気管支の方向に可撓性チューブを案内しなくても、姿勢保持手段を解除した後に、可撓性チューブを前方に向かって進ませれば、所望とする方向に湾曲した可撓性チューブの先端部を確実に案内することができる。
【0017】
これにより、気管支用ファイバースコープなどの器具を用いて確認することなく、可撓性チューブの先端を所定位置にセットすることができる。
さらに、脱管時には、可撓性チューブの先端部を一体化させて引き抜くことができるので、生体組織を傷めてしまうこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に示した本発明に係る実施例について説明する。
先ず、本発明を適用する前の分離肺換気装置における可撓性チューブについて説明する。
【0019】
図1(A)は本発明の一実施例に係る分離肺換気装置における、特に左気管支用の可撓性チューブ2の斜視図、図1(B)は図1(A)に示した可撓性チューブ2内に棒状の補助案内具5(スタイレット)が挿入された状態でのB−B線方向の断面図である。
【0020】
この可撓性チューブ2は、可撓性チューブ本体2aの軸方向に内孔3,4が2つ並設された、いわゆるダブルルーメン型の可撓性チューブであり、一方の内孔3が形成された第1の可撓性チューブ9と、他方の内孔4が形成された第2の可撓性チューブ10とは、途中までは隔壁8を介して一体化されているが、先端側では図1(A)に示したように、二股状に分割して形成されている。二股状に分割される手前の可撓性チューブ本体2aの外周には、第1のカフ7が設置され、さらに第1の可撓性チューブ9の先端側には、第2のカフ11が設置されている。
【0021】
この第1のカフ7は、弁機構を備えた第1のパイロットバルーン31から可撓性チューブ本体2aの内壁に沿って形成された図示しない管経路を介して空気が導入されることにより、外方に向かって所定の大きさに膨張される。また、同じ管経路を介して第1のパイロットバルーン31から空気が排出されることにより、第1のカフ7は元の萎んだ状態に戻される。
【0022】
一方、第2のカフ11は、弁機構を備えた第2のパイロットバルーン32から、可撓性チューブ本体2aおよび第1の可撓性チューブ9の内壁に沿って形成された図示しない管経路を介して空気が導入されることにより、外方に向かって所定の大きさに膨張される。また、同じ管経路を介して空気が排出されることにより、第2のカフ11は元の萎んだ状態に戻される。
【0023】
可撓性チューブ本体2aの頭部には、Y字アダプタ33が接続され、このY字アダプタ33を介して先端側の内孔3,4に対するガス供給が行われる。なお、このような可撓性チューブ2を備えた分離肺換気装置の使い勝手は公知であり、また発明の要旨ではないので、詳細な説明を省略する。
【0024】
本実施例における可撓性チューブ本体2aは、シリコーンゴムなどからなり、適宜な柔軟性と自立保持性を有しているが、咽頭から気管支にかけてこのチューブ本体2aを正確な方向に確実に挿入させるために、本実施例では、それ自身自立可能で屈曲自在な棒状の補助案内具(スタイレット)5が使用され、この補助案内具5が第1の可撓性チューブ9の内方に挿入された状態で装着される。なお、この補助案内具5は、器官の形状に合わせて挿入前に適宜な方向に屈曲して用いられる。
【0025】
以下に、本発明の要旨である可撓性チューブ2の先端部の構造について、図2を参照しながら説明する。
本発明では、上記のように形成された可撓性チューブ本体2aに、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10の先端部をそれぞれ湾曲させる部材12,13と、その湾曲を規制する姿勢保持手段15とが具備されている。
【0026】
これらの先端部を湾曲させる部材12,13は、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とに独立して具備されるもので、例えば、板状バネ、線状バネ、合成樹脂、合成ゴム、ピアノ線などからなる弾性部材、形状記憶合金或いは磁性体などから構成することができる。なお、これらの湾曲させる部材12,13は外部に露出しないように、可撓性チューブを形成するシリコーンゴムなどに埋設されることが好ましい。
【0027】
例えば、弾性部材からなる湾曲させる部材12,13により、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とは、自然状態では互いに離反して所定角度湾曲した位置に配置される。すなわち、図2(A)に示したように、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とは、互いに離反する方向に配置可能に設定されている。
【0028】
一方、姿勢保持手段15は、上記のように自然状態で互いに離反しようとする第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とを図2(B)に示したように、互いに離反しないように規制する機能を有している。
【0029】
すなわち、姿勢保持手段15は、これらの第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10との先端部を湾曲させる部材12,13の付勢力に抗して離反させずに1つに合体した状態に姿勢を保持するもので、本実施例では、それ自身自立可能で屈曲自在であり、かつ先端部にフック部分17が設けられた線状案内部材16から構成されている。
【0030】
このような姿勢保持手段15を具備することにより、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とを離反させずに一体的に保持することができる。
すなわち、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10との互いに対面する位置の内側面には、それぞれ孔18、19が形成され、これらの孔18,19に、姿勢保持手段5のフック部分17が着脱自在に係止されることにより、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とが、図2(B)に示したように、互いに密着した状態に維持される。そして、フック部分17を解除したときに、図2(A)に示したように、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とが所定角度離反した状態に配置される。
【0031】
また、本実施例では、図2(B)に示したように、姿勢保持手段15を構成する線状案内部材16の先端部に、空気の出し入れにより膨張したり萎縮したりするカフのようなバ
ルーン部材20を設置しても良い。
【0032】
このようにバルーン部材20が先端部に設置されていれば、可撓性チューブの挿入時にフック17が不用意に外れることがない。しかも、バルーン部材20を膨らませた状態で、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10内の空気を抜けば、可撓性チューブ本体2aの径を細くすることができる。よって、可撓性チューブの挿入が容易となるだけでなく、カリーナなどの器官に衝突することをバルーン部材20で防止できる。
【0033】
このバルーン部材20を膨張あるいは萎縮させるには、例えば、線状案内部材16を中空状に形成し、ここから空気の導入あるいは排出を行えば良い。
さらに、本実施例では、図2(A)に示したように、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10との分岐した部分の内側面に、第3のカフ14が設置されている。この第3のカフ14は、外部から操作することができ、カフ14が膨らんだ状態ではクッション材としても機能する。また、この第3のカフ14に、図示しない管路を介して外部から空気を導入すれば、例えば、先端部を湾曲させる部材12,13の付勢力或いは磁性体の斥力に加えて、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とを、所定角度離反するように促すことができる。また、第3のカフ14から空気を排出すれば、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とを、先端部を湾曲させる部材12,13の付勢力或いは磁性体の斥力に抗して一体化させる方向に近づかせることができる。すなわち、この第3のカフ14は、姿勢保持手段15の機能を支援する補助姿勢保持手段としての機能を発揮することができる。
【0034】
また、本発明では、線状案内部材16と第3のカフ14との両方を具備させても良い。また、本発明では、第3のカフ14を線状案内部材16に代えて姿勢保持手段15として機能させることもできる。
【0035】
以下に、作用について説明する。
先ず、可撓性チューブ本体2aは、図2(B)に示したように、最初は、線状案内部材16による姿勢保持手段15が機能した状態で使用される。また、先端部のバルーン部材20は膨張した状態にある。姿勢保持手段15が機能した状態で使用されることにより、第1、第2の可撓性チューブ9,10は両側に開くことなく1つの束として纏められる。また、図1に示した補助案内具(スタイレット)5を用いる場合は、他方の内孔4内に予め挿入された状態で使用される。
【0036】
この図3の状態、すなわち第1の可撓性チューブ9内に線状案内部材16が挿入され、第2の可撓性チューブ10内に補助案内具5が挿入された状態から、可撓性チューブ本体2aを気管22内に挿入し、上流側の声門を通過させる。可撓性チューブ本体2aの先端部に配置されたバルーン部材20が声門を通過したら、補助案内具5を引き抜くとともに、線状案内部材16を操作して、先端側のフック部分17を孔18,19から引き抜いて係合を解除する。その後、姿勢保持手段15の線状案内部材16を引抜く。
【0037】
なお、バルーン部材20を膨らませている場合には、姿勢保持手段15を引き抜く前に萎縮させる。姿勢保持手段15の線状案内部材16を引き抜くことにより、第1の可撓性チューブ9と、第2の可撓性チューブ10とは互いに離反され、図2(A)に示したように、両側に所定角度離反する。この所定角度開いた姿勢は、図4に示したように、左側の気管支23と右側の気管支24とに向かう角度と合致するため、図4の状態からそのまま押し込むことにより、第1の可撓性チューブ9は、左気管支23へ、第2の可撓性チューブ10は、右気管支24へ案内される。仮にカリーナ25に衝突することがあるとしても、第3のカフ14が介在されていることにより、カリーナ25に傷がつくことが防止される。
【0038】
また、これとは反対に可撓性チューブ本体2aを気管22から引く抜く場合には、第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とを一体化させ、これにより器官の損傷を防止する必要がある。その場合には、再度、姿勢保持手段15の線状案内部材15を第1の可撓性チューブ9内に挿入して、先端部のフック部分17を、孔18、19に係止させれば、一体化させることができるが、この作業は、目視できないことから、作業効率を改善するには、孔18,19の大きさを大きく設定するなどして、確実にフック部材17で係止させる必要がある。よって、この作業に代えて、第3のカフ14から空気を排出すれば、互いに離反していた第1の可撓性チューブ9と第2の可撓性チューブ10とを一体化させることができる。よって、第3のカフ14から空気を抜けば、先端部の広がり具合が小さくなるので、この状態で可撓性チューブ本体2aを引き上げたとしても各器官を損傷させることはない。
【0039】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されない。例えば、本発明は、ダブルルーメン型の可撓性チューブに限定されず、シングルルーメン型の可撓性チューブにも、若干の変更を加えることにより適用可能である。
【0040】
また、右気管支用の可撓性チューブにも適用可能である。
さらに、姿勢保持手段15は、上記実施例の構成に何ら限定されず、種々の改変が可能である。また、線状案内部材16の先端部に設けたバルーン部材20は必須ではない。
【0041】
さらに、左気管支用可撓性チューブの場合、第1の可撓性チューブ9の長さは、第2の可撓性チューブ10の長さより長いことが一般的であるが、分岐後における2つの可撓性チューブ本体9,10の長さの長短などは限定されるものではない。
【0042】
また、図1に示した補助案内具(スタイレット)5を姿勢保持手段15として兼用させても良い。その場合には、屈曲自在な補助案内具5の先端部にフック部分17を設け、このフック部17を孔17、18に係止させれば良い。このような構成を採用すれば、線状案内部材16を省略することができるので、部品点数が少なくなる。また、補助案内具5の先端部に、バルーン部材20を設置することは任意である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1(A)は本発明の一実施例による可撓性チューブから補助案内具を引き抜いた状態で示した斜視図、図1(B)は図1(A)のB−B線方向の断面図である。
【図2】図2(A)は図1に示した可撓性チューブの先端部に具備された弾性部材の付勢力が機能した状態での断面図、図2(B)はその付勢力に抗するように姿勢保持手段が機能した状態での断面図である。
【図3】図3は図1に示した可撓性チューブが気管支内に挿入されたときの概略断面図である。
【図4】図4は図1に示した可撓性チューブにおける姿勢保持手段が解除された状態での概略断面図である。
【符号の説明】
【0044】
2 可撓性チューブ
2a 可撓性チューブ本体
3 一方の内孔
4 他方の内孔
5 補助案内具(スタイレット)
7 第1のカフ
8 隔壁
9 第1の可撓性チューブ
10 第2の可撓性チューブ
11 第2のカフ
12,13 湾曲させる部材
14 第3のカフ
15 姿勢保持手段
16 線状案内部材
17 フック部分
18,19 孔
20 バルーン部材
23 左気管支
24 右気管支
25 カリーナ
33 Y字アダプタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁により第1の内孔と第2の内孔とが隔絶状態に仕切られた可撓性チューブ本体の先端部に、前記第1の内孔を独立して形成した第1の可撓性チューブと、前記第2の内孔を独立して形成した第2の可撓性チューブとが分岐して形成されているとともに、前記可撓性チューブ本体内の先端部外周に第1のカフが、前記第1の可撓性チューブあるいは前記第2の可撓性チューブのいずれか一方に第2のカフがそれぞれ設置された分離肺換気装置における可撓性チューブにおいて、
前記第1の可撓性チューブおよび前記第2の可撓性チューブに弾性部材、形状記憶合金或いは磁性体が具備され、これら弾性部材の付勢力或いは磁性体の斥力により前記第1の可撓性チューブと第2の可撓性チューブとが自然状態において所定角度離反するように設定されているとともに、
前記第1の可撓性チューブと前記第2の可撓性チューブとを離反させずに一体化する姿勢保持手段が具備され、この姿勢保持手段を操作することにより、前記第1の可撓性チューブと前記第2の可撓性チューブとを離反させたり、一体化させたりすることを特徴とする分離肺換気装置における可撓性チューブ。
【請求項2】
前記弾性部材、形状記憶合金或いは磁性体は、前記第1の可撓性チューブ内および前記第2の可撓性チューブ内にそれぞれ埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の分離肺換気装置における可撓性チューブ。
【請求項3】
前記姿勢保持手段は、それ自身自立可能で屈曲自在であり、かつ先端部にフック部分が設けられた線状案内部材であることを特徴とする請求項1に記載の分離肺換装置における可撓性チューブ。
【請求項4】
前記姿勢保持手段は、前記第1の可撓性チューブと前記第2の可撓性チューブとの分岐部に設けられた第3のカフからなる補助姿勢保持手段を有しており、この第3のカフに空気を導入することにより前記第1の可撓性チューブと前記第2の可撓性チューブとの離反が促されるとともに、空気を排出することにより、前記第1の可撓性チューブと前記第2の可撓性チューブとの一体化が促されることを特徴とする請求項3に記載の分離肺換気装置における可撓性チューブ。
【請求項5】
前記線状案内部材の前記フック部分よりさらに先端側に、空気の導入あるいは空気の排出を行うことにより膨張したり萎縮したりするバルーン部材が具備されていることを特徴とする請求項3に記載の分離肺換気装置における可撓性チューブ。
【請求項6】
気管から気管支内に案内される分離肺換気装置における可撓性チューブの挿入・引抜き方法であって、
可撓性チューブ本体から二股状に分岐された第1の可撓性チューブと第2の可撓性チューブとの先端部に予め弾性部材、形状記憶合金或いは磁性体を付設しておくことにより、これら弾性部材の付勢力或いは磁性体の斥力により当該先端部を自然状態において所定角度湾曲するように設定するとともに、この湾曲した先端部を元の位置に留める姿勢保持手段を付設し、
前記姿勢保持手段が機能した状態から前記可撓性チューブ本体を気管内に挿入し、遠隔操作で前記姿勢保持手段の機能を解除して前記可撓性チューブ本体の先端部を第1の可撓性チューブと第2の可撓性チューブとに所定角度湾曲させた位置に偏位させ、この状態で前記第1の可撓性チューブおよび第2の可撓性チューブの先端部を気管支内に挿入して所定位置にセットする一方、前記可撓性チューブの気管からの脱管時には、前記姿勢保持手段を機能させて前記可撓性チューブ本体の先端部を一体化させた状態で気管から引き抜くことを特徴とする分離肺換気装置における可撓性チューブの挿入・引抜き方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−17297(P2010−17297A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179140(P2008−179140)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000205007)大研医器株式会社 (28)
【Fターム(参考)】